内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

53 / 183
episode 53 バニルのダンジョン その2

階段を降りて見えたフロアは掘って進めたような穴蔵に等しい。それでも周辺の壁には魔道具の一種なのか仄かな灯りがあり、それはダンジョンのあちらこちらに設置されている。それでも奥を見ようと思えば薄暗い。

改めてフロアを見渡してみれば、丁度中央の位置に目立つように赤と金で彩られた宝箱が1つ存在していた…が。

 

「アクアやめぐみんがいたら間違いなく開けていただろうけど…あんなあからさまなもん誰が開けるか…」

 

「とはいえ敵感知や罠感知は問題ないのですよね?開けるだけならタダと思いますけど」

 

「…えっ、開けるの?いや確かに問題ないけど、本気で開けるの?」

 

カズマがダクネスやゆんゆんに目を向ければ、やはりどちらも中身が気になるようだ。チラチラと宝箱を見たり目を逸らしたりして落ち着かない様子でいた。そうなるとカズマ自身も興味を持ってしまう。

 

だが先程このダンジョンはバニルのダンジョンと認識を改めたばかりだ。例え罠ではないとしても警戒してしまうのは仕方ないもの。それでも…気になってしまっては開けずにはいられない。冒険者だもの、目の前に危険のないとわかっている宝箱があれば開けるのは当然である。

 

「し、仕方ねーなぁー、それじゃあ代表して俺が開けてやるかぁ、いやまったく興味はないけどな?みんな気になるようだしな?」

 

下手くそな口笛を吹きながら宝箱に近付くカズマは傍から見て不審者以外の何者でもないがそれよりも中身が気になる3人はワクワクしながらもその様子を見守る。

 

カズマが宝箱に手を置き力を込めると、その箱はあっさりと持ち上がり、ゆっくりと中が見えてくる。

 

「…こ、これは…!!」

 

「…ん?――っ!?」

 

カズマは中身を見るなり狂喜の声をあげ、ダクネスはそれを見るや否や、宝箱を強引に閉じようと力任せに叩いた。…カズマの手が入った状態で。

 

「ぐおぉぉぉぉぁぁぁいたぁぁぁぁぁ!?!?」

 

カズマは悲痛の叫びをあげるが手が挟まっているので抜くことができずにその場で痙攣を起こしている。

 

「カズマ君!?」

 

「ダクネスさん、どうしてこんな…!?」

 

「いいか!お前達が見てはいけないものだ!!絶対に見るな!!そしてカズマは力を緩めてやるからゆっくりと手だけを出せ、中身は出すな!出したらぶっ殺す!」

 

ダクネスは顔が茹でダコのようになり、若干涙目でいるその様子からくる怒号は尋常ではなく、本人すらもできれば見たいものではなかったのだろう。カズマだけでなくアリスやゆんゆんもまた身震いを起こしていた。

 

 

 

 

 

「ヒール……!だ、大丈夫ですか?」

 

「サンキュ…あー、マジで手首がスッパリなくなったかと思った…」

 

カズマの両手首にアリスがヒールをかけるとゆんゆんも心配そうに見ていた。一方ダクネスは探索用に持ってきたロープで宝箱をぐるぐる巻きに縛り付けていた。顔は未だに茹でダコのように真っ赤になったままだ。

 

「中身を見たお前なら理由がわかるだろう?少なくともこの子達の精神衛生上宜しくない、さぁ、治ったなら先に進むぞ!」

 

どうやら一刻も早くこの箱から離れたいらしい。中に何が入っているのか気にならないことはないがアリスとゆんゆんは顔を見合わせて苦笑を重ねると、嫌な予感しかしないので気にしない方向で行こうと決意した。

 

「へいへい…じゃあダクネス先頭でよろしくな…」

 

カズマがそう言うなりダクネスは足早に動き出し、アリスとゆんゆんもダクネスに続く。最後尾に着こうと移動をするカズマは誰も聞こえないようにそっと呟いた。

 

……スティール、と。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

再び散策に戻ると次は少し広めの通路に出た。灯りはしっかりしておりそこそこ見通すことができるがカズマはこの通路に出るなり険しい顔つきをしてした。

 

「罠はないけど敵感知スキルにめちゃくちゃ引っかかってる、みんな気を付けろ!」

 

この言葉にアリスとゆんゆんは警戒態勢をとるも、先程の件があるので率先して攻撃しようとは思っていない。2人が横目でダクネスを見ればダクネスはようやく来たかとかなり張り切っている様子だ。2人にめんどくさいとしか感想が出ないのは当然のことであった。

 

「ふっふっふ…待ち侘びたぞ…!さぁ来い魔物よ!!」

 

白銀の剣を両手で構えたダクネスは早くも興奮状態、まるでお預けをずっと食らっていた犬のように。もし彼女に尻尾があればはち切れんばかりに振りに振っていただろうと誰もが思う。

 

「来るぞ!前方に3つ!」

 

カズマの掛け声とともに通路奥からは小さな3つの影が飛び出してきた。一見マスコット人形のように見えたそれはどれも白黒の仮面と可愛らしいサイズのタキシードを纏っている。…それはまさにバニルを可愛くあしらったかのような人形だった。

 

「あの見た目…バニルです!?」

 

アリスの声とともにダクネスに向かい飛びつくバニル人形、ダクネスはそれに向かい剣を大振りに振るうとひとつの人形にぶつかり、それは小爆発を起こした。

 

「…接触したら爆発する人形みたいですね……?カズマ君?ゆんゆん?どうしました?」

 

冷静に分析するアリスの横でカズマとゆんゆんは信じられないものを見るかのように固まっていた。

 

「ハッハッハッ!!皆見ろ!!」

 

ダクネスは一心不乱に剣を振り続ける、すると次から次へと人形が爆発して行く。

 

「…ダクネスの攻撃が…」

 

「…当たってる…!?」

 

次々とバニル人形は出てきて更にダクネスへと突撃するがそれらは全てが剣にぶつかり爆発している。繰り返す、剣にぶつかり爆発しているのだ。

 

「ハッハッハッハー!!私の攻撃が!!どうやっても!!当たる!!ぞぉぉ!!」

 

つまりバニル人形から剣へと向かっているのでダクネスの動きや剣技は全く関係がない。アリスはいち早くそれに気が付いたが攻撃が当たることで喜んでいるダクネスを見るなり言うのも野暮かと何も言わなかった。

 

…そこでアリスに電流が走る。それはアリスが矛盾に気が付いた合図だ。思わずカズマに視線を移す、するとカズマもまた、アリスに視線を寄せていた。彼もまたこの致命的な矛盾に気が付いたのだから。

 

あのダクネスが、攻撃が当たる事によって、喜んでいる。つまり、逆を言うと攻撃が当たらないことは彼女にとってマイナスなのだ。

 

 

「…カズマ君、もしかして同じ事考えていませんか?」

 

「…多分な」

 

やはり、とお互いの視線と言葉で確認し合う。心が通じ合った瞬間、後は当人にこの思いをぶつけるだけ。

 

 

 

 

「「普段から攻撃を当てたいなら両手剣スキルをとれよ!!(とりましょうよ!!)」」

 

 

 

 

カズマとアリスの思いがダンジョンいっぱいに木霊した。ゆんゆんは呆れ返ったように見ているだけである。一方粗方バニル人形の進撃が止んだのか、ダクネスはカズマ達に振り向いた。

 

「それだけはできない」

 

これ程理解出来ないこともない、それに尽きる。あれほど嬉しそうに剣を振るっていたダクネスはその言葉を聞いて誰よりも冷静に平静に無感情でそう言い放った。もはやカズマもこれには突っ込む気力も起きずにげんなりしていた。

 

 

……

 

 

 

次第にカズマの敵感知スキルにも引っかからなくなり探索を続けると、ようやく次の降り階段を発見した。…まだ続くのか?と全員がぐったりした瞬間でもある。全員が肉体的よりも精神的に疲れていたのだから無理もない。時間もかなり経ってしまっている。

 

「…ゆんゆん、此処をテレポート登録できるか?できるなら一旦アクアやめぐみんの所に戻りたいんだけど…」

 

「そ、そうですね…かなり時間が経ってますし、正直疲れましたし…」

 

「リーダーが言うなら異論はありませんよ、一旦戻りますか」

 

「そうだな…皆魔力もかなり使ったと思うしこの下にバニルがいるとしたら今の状態ではかなりきびしいかもしれない」

 

3人は口を揃えて言いたかった。今の精神的疲労のほとんどがお前のせいだよ!と。実際カズマは喉元まで出かかっていたが疲労がそれを言わせるのを拒否したようだ。なんともスッキリしない顔をしたまま、全員は予め登録しておいたキールのダンジョン入口にテレポートで飛ぶことになった。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

キールのダンジョン入口

 

外は既に茜色に染まっていた。時間からしたらおそらく夕刻だろう。ろくな食事もとらないまま帰った4人にアクアとめぐみんは気が付くなり声をかけた。

 

「おかえりー、って、もう終わったの?」

 

「いや、思ったより時間とられたから途中で戻ってきた」

 

「時間って…キールのダンジョンですよね?何故そこまで時間がかかるのです?」

 

「ダンジョンの最奥にバニルのダンジョンがあったんだよ…この分だと1度アクセルまでテレポートで飛んでから明日また来た方がいいかもしれないな…なぁゆんゆん?テレポートはまだ使えるか?」

 

カズマの問いにゆんゆんは疲労困憊の様子で首を横に振る、どうも魔力切れ手前のようだ。

 

 

「ではここで1時間ほど休憩してアクセルに戻りましょう。…《マナリチャージフィールド》」

 

アリスはゆんゆんの傍に座ると優しく労うようにその魔法を使った。青白い霧状の光がアリスの周囲に立ち込めるとずっと敵感知や罠感知スキルを使い魔力が少なかったカズマも近くに腰掛けた。

 

「ホント便利だよなこれ、迷ってたけどやっぱり俺も取るべきか」

 

「やっとその気になりましたか、それがあれば爆裂散歩が捲ろうというものです」

 

「いやお前裁判のこと忘れてるだろ?爆裂散歩は今後禁止だ!!」

 

「っ!?!?何を言っているのですかカズマ!?そんなことになったら私は生きて行けません!!」

 

ギャーギャーとカズマとめぐみんが言い争っているのを横目にアリスはその場で座り込んでうとうととしていた。気付けばゆんゆんもまたうとうととしていて2人はお互いの肩を寄せ合いすぅすぅと眠りについていた。そんな様子をアクアは不思議そうに眺めていた。

 

 

「……あの二人本当に普通の友達なのかしら…?」

 

「…あの2人の友達の定義とアクアが思う友達の意味は異なるからな…とりあえず私も休むか」

 

「えっ、何よそれどういう意味!?ちょっとダクネスさーん!?気になるんですけどー!?」

 

夕闇が夜に変わる空を見上げながらダクネスはそっと地べたに座ると微笑ましそうな顔でいた。ふとアリスとゆんゆんに目をやるとダクネスには仲の良い友達というより姉妹のように見えたからだろう。

そんな中、カズマがひょいと立ち上がり俺も休みたいとめぐみんから離れようとした拍子に、何かが地面に落下した。

 

「…カズマ?服から何か落ちましたが?ダンジョンの戦利品ですか?」

 

「…っ!?ダメだめぐみんそれはっ!?」

 

カズマが大慌てで拾いに行くがめぐみんはすぐさま拾うとめぐみんは顔を赤くしていた。

 

「…カズマ…?これはなんですか?」

 

「違うんだめぐみんそれは!!まて!やめろ!!」

 

慌てるカズマの制止も聞かずにめぐみんはプルプルと震えながらそれを力を振り絞って放り投げて、そして杖を握りしめた。その表情には恥辱と嫌悪感しかない。

 

「エクスプロージョン!!」` 

 

「俺のお宝がぁぁぉぁ!?」

 

めぐみんの拘りの詠唱もなく、はるか遠くに投げ飛ばされたそれは大爆発とともに無惨にも欠片もなくなる。めぐみんは悪は去ったと満足そうにその場で倒れ、カズマは大泣きして、アクアは訳がわからず首を傾げて他の皆は爆裂魔法の爆音で目を覚ますのだった。

 

 

 

 

 








「めぐみん、ダクネス、あれって結局何だったのです?」

「言いたくない」「知りません」


真実は闇の中
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。