内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

54 / 183
episode 54 バニルの真意

 

バニルのダンジョンを途中攻略まで果たした翌日、一行は屋敷に戻り疲れを癒してからウィズの店に来ていた。もしかしたらウィズがあのダンジョンについて何かを知っているのではないか?未だに先が見えないバニルのダンジョンは少しでも情報が欲しい。そんな想いから店の扉を開けば、いつものようにチリンチリンとカウベルがこちらの入店を店主に知らせてくれた。

 

「…いらっしゃいませー…」

 

いつものように店主のウィズが出迎えてくれたものの、その様子にはまるで元気がない。というよりも薄い。肩辺りは透けてしまっている。皆が唖然とする中1番にゆんゆんが叫んだ。

 

「ウィズさーん!?」

 

 

 

 

 

ウィズの治療は難航した。まず慌てたアリスがウィズの種族をうっかり忘れてヒールをしたことで状況は悪化。即座に体力が1番ありあまっているダクネスからドレインタッチをしてもらうことでなんとか事なきを得ていた。

 

「ごめんなさいウィズさん…ウィズさんがリッチーだということを完全に失念してました…」

 

「いえいえ!!元はと言えば私がリッチーなんかになってしまったのが悪いのでっ…どうか頭をあげてください…!」

 

「…それで?今回は何であんな風に成仏しかかってたんだ?」

 

アリスが涙目でウィズに謝罪し続けるが話が進まないのもありカズマが割って入るように尋ねるとウィズは気まずそうに俯いた。

 

「えっと…実は以前アリスさんからコロナタイトの調査と加工を依頼されたのでやっていたんですがその…とんでもない事がわかりまして」

 

「コロナタイトっ!?!?なんでアリスがそんなもん持ってんだ!?」

 

これにはカズマだけでなくダクネスやアクアも驚く。めぐみんは説明済みでゆんゆんもまたコロナタイトをアリスが入手した日に話していたので驚きはない。ゆんゆん以外のパーティメンバーにはろくな思い出がない代物なので引きつった反応を示されるのも無理もない。

 

「裁判の一件で言いませんでした?私はコロナタイトが送られたアルダープさんの屋敷の近くに偶然いたのですよ、それを救助した際に報酬代わりに持っていけと渡されましたので遠慮なく頂きました」

 

「えっと…皆さん誤解されてますがデストロイヤーのコロナタイトは暴走してあーなっていただけで本来はそう簡単に暴走するようなものではないので大丈夫ですよ?…それでそのコロナタイトなんですが、どうやら太陽の属性を秘めていることがわかりまして…」

 

「太陽の属性ってなんですか!?聞いた事ありませんよ!?」

 

めぐみんが筆頭に食いかかる。アリスも聞いた事はないが同時にウィズが何故あんな状態になっているか察することが容易にできてしまった。太陽、つまり日光と同属性なのだからそれを加工などしようとしたらその属性の影響が加工者にも行くのは間違いない。リッチー、つまりアンデッドであるウィズからしたら神聖魔法や光属性と並んだ天敵だ。それに気付くなりアリスは罪悪感でいっぱいになってしまった。

 

「あの…重ね重ね本当にごめんなさい、ウィズさん…」

 

「わ、私でしたらこの通り大丈夫ですから!本当に気にしないでください!それに加工なら既に終わりましたので、持って行って頂いて大丈夫ですよ!」

 

ウィズの慌てた様子からはむしろ早く持って行って欲しいとまで聞こえてしまうのにはアリスも申し訳なさそうに俯く。カウンターを指さされたので見てみれば、それはキラキラと美しく綺麗に加工がなされた白黄色の魔晶石だった。原型から半分ほどの大きさになったそれを杖にはめ込むとそれは妙に馴染んだ感触を思わせる。

 

「それでお代なのですが…、加工の際に希少な道具を使ったりしましたのでその…1200万エリスほどかかるのですが…」

 

「「「1200万!?」」」

 

この金額にはダクネスとアリス以外の全員が驚いた。とは言えアリスにとって確かに痛い出費ではあるものの、アリスにはベルディア討伐の報酬がまだ残っている。先日指輪の件でようやく手を出したくらいでまだ4000万エリスは残っていることになる。

 

「流石にそこまでは今持ってきていませんので後日でよろしいですか?」

 

「は、はい!勿論何時でも大丈夫ですよ!」

 

それを聞いたウィズの反応はとても嬉しそうだ。久しぶりにまともな物が食べられると言う声がその表情から嫌でも伝わってきてしまうのにはアリスも苦笑気味でしかいられなかった。

金額でも驚くがアリスが何の変哲もなく払えてしまえるのも違和感があったのか、めぐみんが震えるように尋ねた。

 

「ふ、普通に払えちゃうのですね…?正直驚きました…」

 

「王都でのクエストってそんなに稼げるの!?」

 

アクアが疑問の声をあげるが流石に王都でもあっさり1200万という大金を稼ぐのは難しい。アリスはそれこそ首を傾げた。何故そこまで驚くのだろうかと。

 

「…えっとベルディア討伐の報酬ですけど…ゆんゆん以外の方は貰ってるはずですよね…?」

 

「…えっ…?あ、あー、そうね!そういえばそんなのもあったわね!」

 

アクアは慌ててそう言うものの、ゆんゆん以外の他のメンツはげんなりしていた。特にカズマは。まさか様々な賠償で即座に消えたなどアリスが知る訳もなく情けなさすぎて話そうとも思えない。結局アリスとゆんゆんはカズマとアクアのげんなりし、めぐみんは何故か気まずそうにしている様相を不思議そうに見ているしかできなかった。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

「バニルさんのダンジョンですか?…すみません、初耳です」

 

コロナタイトの件で忘れかけていたがようやく本来の目的であるバニルのダンジョンについて聞いてはみたものの、残念ながらウィズすら知らないようだ。

 

「それにしても…本当は私がダンジョンを提供する契約だったはずなんですが…その話は個人的に少し複雑ですね…」

 

「と、言うと?」

 

「元々私とバニルさんの契約でそうなっていたんです、ただ最近ここに来た時に近くに良さそうなダンジョンを見つけたから見てくるとだけ告げて、それ以来会ってないんです…」

 

「あ、あの…そもそもその悪魔さんは何故ダンジョンが欲しかったのでしょう…?」

 

ゆんゆんの疑問はアクア以外の全員が思ったことでもある。バニルという悪魔は魔王軍の幹部ではあるものの、人間に対して肉体的な危害を加える者ではないことはわかっていた。なのにこのような挑戦状などと回りくどいことをした理由が見当もつかない。

 

「バニルさんはその…昔から破滅願望がありまして、同時に魔王軍の幹部も辞めたがってましたから…」

 

「で、でもそれだと…」

 

破滅願望などに共感は全く出来ないが魔王軍の幹部を辞めたがってもいる。だけど魔王軍の幹部を辞めるとなるとそれこそベルディアのように討伐でもされない限りはバニルの破滅願望と相まってウィズのようにいざとなれば結界の管理を放棄するのようには行かないのだろう。…そう思うとアリスやゆんゆん、カズマ達にしても気が重く感じた。如何に悪魔で魔王軍の幹部であろうが、ウィズにとっては友人であると言う。それを倒さなければならないことは、友人の定義が重いアリスとゆんゆんには特に辛いものなのは言うまでもない。もっとも倒せるかどうかはまだわからないのだが。それでも敵対しなければいけない事実は辛いものだった。

 

 

「それがバニルさんの望んでいることですから…」

 

それは儚い笑顔だった。どこか遠い目をしているようなウィズの様子に一同はこれ以上何も言えず、気持ちを切り替えることに決めた、アクア以外は。

元よりアクアは相手が悪魔なので遠慮するつもりは初めから全くない、ないのだが彼女は不満そうにしていた。何故ならお留守番だから。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

バニルが望んでいることだから。その言葉は真実なのだろう。だからこそウィズはアリスの依頼を完遂させたことになるのかもしれない。結果論ではあるがコロナタイトは太陽の属性を持つという、ならば悪魔に対しても効果がある可能性は高いし実際に効果がある属性へと変貌を遂げていたことをアリス達は確認した。

 

「…これは光属性ですね…」

 

「えぇ…」

 

太陽の属性と聞いてどのようになるかアリスが試したところ、それは光属性に変換されていた。ますます悪魔への特攻に繋がるものだし魔王軍となればそのような魔物に出会う事も珍しくはないだろう。ありふれた属性になったことでめぐみんは残念そうにしていたがアリスとしては光属性の魔晶石など聞いた事もないし新たな戦力としては申し分のないものだった。

 

「残念ですね、どうせなら空にある太陽が降ってくる魔法とか使えたら気分爽快になりそうなんですけど」

 

「そんなんできたら世界滅びるからな?言ってる事が完全に魔王だからな!?いや多分魔王でもそこまで考えないからな!?」

 

「冗談に決まっているでしょう、何をそんなに興奮しているのですかカズマは」

 

「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ!!」

 

アリスが知るだけでも以前廃城に爆裂魔法を撃ちたいと言い出し、その後結局やらかしてベルディアを怒らせている実績を持つめぐみんだからこそである。アリスとしては自身のやられた仇討ちのようなノリでやっていたとは思いたいものの、思うところはカズマと完全に同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

属性の確認もできたところでカズマ、ダクネス、アリス、ゆんゆんは再びテレポートによりバニルのダンジョンの下り階段前まで来ていた。例によりアクアとめぐみんはお留守番である。

 

「今日こそは頼むぞダクネス、昨日みたいになってたら…永遠にララティーナと呼ぶからな」

 

「分かっている…昨日の私はどうかしていた…、アリス、ゆんゆん、済まなかったな…いやそれもこれもバニルのせいだ、そうに違いない!」

 

間違ってはいないかもしれないが結局ダクネス次第なところもあるのでアリス達は何も言えずに苦笑していた。実際普段だと昨日のように攻撃を喰らう前に殲滅してしまうことはダクネスとしても初めてだったのだろう。アリスとゆんゆんの優秀さが伺えてカズマとしては全く文句はないがダクネスとして不満だったのは仕方ないのかもしれない。

 

「もうさっさと終わらせて帰るぞ…こんなダンジョン二度と来るか…」

 

その気持ちは全員が同じだった。動機としては微妙なものであることは間違いなくそれでやる気が出るかと聞かれたらそれもまた微妙でしかない。そんな微妙な気持ちの状態で、一同は階段を降りていった。

 

 

 









太陽が降ってくる云々でカズマがツッコミいれた時のめぐみんの反応は迷いました。そもそもこのすば世界の宇宙の定義とかどうなってるのだろう。「何を言っているんですかカズマは、あんな小さいのが落ちてきたくらいで世界が滅びる訳ないじゃないですか」とか入れても良かったのですが話がまた無駄に脱線しそうで…w
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。