内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 55 決戦

階段を降りるなり周囲を見渡そうとするもその必要はないと一同は気が付く。何故なら広いワンフロアの薄暗い洞窟の中、何よりも目立つように長身でタキシード姿、顔には白と黒の仮面をつけた男がそこに1人立ち尽くしていたのだから。

 

「フハハハハッ、昨日は大変美味な悪感情、誠にご馳走様であった!吾輩こそがもしかしたら魔王より強いかもしれないとお馴染みの魔王軍幹部にして七大悪魔の一席、地獄の公爵バニルである!」

 

早口で自己紹介を終えたバニルは満足そうにそう言い放つと悠々自適にこちらを見下ろしている。

 

「…貴方は何故このような…?」

 

「ふむ、抱き枕がないと満足に眠れない少女よ、それはポンコツ店主から聞いておろう?理解しろとは言わぬが吾輩には長く生き過ぎた故なる飛びっきりの破滅願望があり、汝らならそれを実現できると考えて実行に移した次第だ」

 

アリスはその場で顔を赤くする。例の胸の件云々よりはまだマシではあるがそれでも恥ずかしいことに変わりはない。他の3人は穏やかな表情で慰めの視線を送りそれが更に羞恥を呼ぶのは言うまでもない。

 

「フハハハハッ、これまた美味な悪感情、ご馳走様である♪」

 

「つまりあんたは、ウィズと違って俺達に倒されない限りは魔王軍幹部として立ち塞がるってことか?」

 

「その通りだ、こっそり宝箱からスティールしてまで取り出したエロ本を爆裂魔法で消し炭にされた哀れな男よ。汝らの悲願でもある魔王討伐は吾輩を倒さぬ限り、絵空事でしかないということになる」

 

「は、はぁ?エロ本??何それ??全然知らないなぁ??」

 

バニルの発言で必死にごまかすカズマだが女性陣の冷たい視線がカズマに突き刺さる。完全に自業自得ではあるもののカズマは心底後悔していた、やはり開けるべきではなかったと。

 

「御託は結構だ、つまり貴様は魔王軍の幹部として私達の前に敵として立っている、それが分かればそれで充分だ」

 

「あ、あの、貴方はウィズさんのお友達なんですよね?だ、だったら、戦わなくても、もっと穏便に…」

 

剣を構えるダクネスと、狼狽えた様子で説得を試みるゆんゆんだがバニルの態度は変わらない、あくまで小馬鹿にしているような、あるいはまるで舞台のステージに立って悪役を演じているような…そんな様子にも見受けられる。

 

「フハハハハッ、くどいぞ!常にそこの男にどんな酷い事をされるのか期待している鎧娘よ!それとたまに怖い夢を見るなり同居する友人に一緒に寝て欲しいと頼む娘よ、吾輩はポンコツ店主とは違う、そこは曲げられん!」

 

「き、期待などしていない!?」

 

「そ、それだけは言わないで!?」

 

情報が一気にはいり混乱するものの一同の思考は軽くパニックになっていた。なお後者に関してアリスはただ苦笑するしかない。ゆんゆんとしてはめぐみんにでも知られたらたまったものではないと慌てる始末。仮に今ここにめぐみんがいたら大爆笑して煽っていたに違いない。

 

「ええい、貴様と話していると頭がおかしくなりそうだ!!行くぞ!!」

 

そんなパニックの最中、ダクネスは意を決したようにバニルへと剣を振り上げ飛びかかる。だが当然ながらバニルは最低限の動きで易々と避けてしまう、最低限というかほとんど動いていない。

 

「フハハハハッ、どうした?あの人形のように華麗に捌いてみるがいい!もっともあの人形は自ら汝に突撃していたからこそ汝のへったくそな剣技でも当たったのだがなぁ!!」

 

「うるさい黙れぇぇ!!」

 

激昂するダクネスだがうまくバニルを引き付けている。ただカズマはともかくアリスとゆんゆんは動きにくかった。ウィズの友人という事が尾を引いていることもあるがとくにアリスにとっては裁判の件で知恵を貸してくれた恩人でもある。…だが相手がやる気であり、こうして魔王軍の幹部として君臨している以上は避けられない戦いだと割り切って攻撃に転じる。

 

とはいえダクネスとバニルの距離が近すぎる。なのでゆんゆんが攻撃するのはきびしい。だからこそアリスは動く。見通されてるかもしれない、ならばこの攻撃をこの狭いフロアでダクネスの相手をしながらどうやって躱すのか、そんな想いでアリスは杖にコロナタイトの魔晶石をセットする。

 

杖を掲げて詠唱すると、光り輝く魔法陣がキラキラとアリスの周辺を彩り、薄暗いダンジョンでのそれは流石にバニルも即気が付く。

 

「…む?…これは!?」

 

バニルから焦燥の声が聞こえる。結果を見通したのか?ならばその焦燥はこちらにとってはプラスのはず、そう信じて思いのままに魔法を放つ。

 

「行きますっ…!《パニッシュメント》!!」

 

アリスの光属性が付与されたバースト(パニッシュメント)がバニルだけでなく、今いるフロア全体に光の波動が流れ行く。これにはダクネスのみならずカズマやゆんゆんも巻き込まれるがアリスの魔法は敵対する者、敵視する者にしか当たらない。

 

「ぐぅぅぅぅ!?」

 

バニルは両腕で仮面を守るように覆い隠し、歯を食いしばり必死に耐える。だがそこは魔王軍幹部の大悪魔、この程度では終わらない。

 

「フ、フハハッ!!中々やるではないか!蒼の賢者と呼ばれし少女よ!流石の吾輩も今のは驚いた!」

 

「ライト・オブ・セイバー!!」

 

「むう!?」

 

バニルがダクネスから距離を取ったところでゆんゆんの十八番、上級光魔法による光の剣がバニルに襲いかかる。…が、バニルは初動で腕を掠めるも、残りは全てを回避しきる。すぐさまダクネスが切りかかるが、当たり前のように避ける。

 

「あまり意味はなさそうだけど…狙撃!狙撃!」

 

カズマの弓による援護攻撃も加わるものの、それすらもバニルは避ける。だが先程までの余裕はあまり感じられない。カズマの狙撃とダクネスに気を取られている今こそ追撃のチャンスでもある。だからこそ広範囲魔法にして回避しづらい状況に持ち込む。

 

「《ルクスヴォーテクス》!!」

 

アリスの詠唱とともにバニルの足元から飛び出すのは光属性を得たストーム(ルクスヴォーテクス)。神聖なるエメラルドグリーンに輝く極大の竜巻、それはバニルの全身を包み込み竜巻の内部で繰り返し刻み続ける。

ちなみに詠唱がないのはまだめぐみんに考えてもらってないからである。アリス個人ではとても浮かびそうにないのだ。

 

「ぬおおぉぉ…!!」

 

バニルの悲痛の叫びが聞こえる。…と同時に疑問に思う。何故アリスの攻撃だけがまともに当たるのか。確かに最初のバーストはフロアを全て包み込むほどのものなので避けようがない。だが今のストームに関しては見通してさえいれば避けようはあるはずだ。

更に疑問なのはバニルがこちらに対してまったく攻撃してこない点があげられる。魔王軍の幹部ともあろうものがまさか攻撃手段がないわけではないだろう。まさか破滅願望とやらをそのまま実現したいが為にあえて無抵抗なのか?否、それなら攻撃を回避する必要性はない。

 

「何故だ…?蒼の賢者と呼ばれし少女よ、何故汝の魔法に関してだけは見通すことができぬ…?」

 

答えの一つは意外にも早く明かされた。バニルはアリスの魔法に関しては見通せないようだ。

とはいえアリスとしては見通す条件も何もわかっていない。そこでアリスはふと思い出した。

 

思い起こすのはかつてのベルディアとの1VS1の戦い。あの戦いで確かに不自然な場面が存在した。

それはベルディアが頭を天へと投げて、その頭が赤く不気味に輝き眼のようなものを形成した時、確かにベルディアは狼狽えた。

アリスがインパクトを使って緊急回避したあの時にベルディアは魔眼が効かないと狼狽えていたのだ。今のバニルの様子はそのベルディアの時と似ているようにアリスは感じた。…とはいえその理由はわからない。

 

だが竜巻が完全にバニルの動きを封じている。これはチャンスでしかない。後数秒で終わる竜巻が消え去る前にと、皆は総攻撃を決意した。ダクネスがまた剣を大振りに構えて切りかかる。カズマとゆんゆんも続く。

 

「狙撃っ!狙撃っ!」

 

「カースド・ライトニング!!」

 

黒き雷光が竜巻の中のバニルを襲う、続いてカズマの狙撃の1本の矢はバニルの足に刺さる。これが絶妙だった。

狙撃が足に当たると同時に竜巻は終わる。ダクネスの斬りかかりは間に合わなかった。いやこれがベストタイミングだった。

ダクネスが普通に剣を振るったところで止まっているバニルにすら当たる確率はほぼない。だが今のバニルはカズマの狙撃で足元をふらつかせ、倒れるところだったのだ。倒れ込もうと前のめりになったところにダクネスの剣が直撃…奇しくもバニル人形と同じような形になった。

 

 

「…バ、馬鹿な…吾輩がまさかこのようなところで…!?」

 

 

驚嘆するバニルはそのまま後ろへと倒れ込むとともに、その身体全体が砂のようになりボロボロと崩れ落ちた。バニルがいた場所には砂の山とバニルがつけていた仮面だけが残った。

 

「………倒した…のか?」

 

フロア一帯がしんと静まり返っていた。カズマがおそるおそる砂の山を見ているがまだ生きているならカズマの敵探知スキルが発動するはずなので一同は軽く息を吐く。残った仮面は戦利品になるのだろうか?正直欲しいとは誰も思わないが。

 

「…不可解です。どうしてバニルは攻撃してこなかったのでしょう?」

 

「…言われてみればそうだな…確かにこっちが一方的に仕掛けたけど反撃する余裕くらいあったよな…?」

 

カズマもまた不思議そうに思うもののやはり敵感知スキルに反応はない。それでも呆気ない終わりに、カズマは終わったと本気では思えなくなっていた。本当に終わったのか?と疑心暗鬼になっている理由をカズマは内心必死に探していた。

 

相変わらず今いるフロア一帯はしんと静まり返っている。

 

カズマは不安を拭えずにいた、それはアリスやゆんゆんにも自然と伝染した。ふと砂の山の上に落ちている仮面を見れば、それはあれだけの攻撃後なのに傷ひとつ無く綺麗に残っていた。

 

「…敵感知スキルは問題ないのだろう?悪魔に特攻のある光魔法をあれだけぶつけたのだ、もう大丈夫だろう?」

 

ふいにダクネスは砂の山に近付いた。剣は既に鞘の中。もっとも剣を構えていたとして何も変わらないのだがその時は訪れた。

 

砂の山の上に落ちた仮面から突如光線が飛んできたのだ、これには油断などしてなくても反応は遅れ、案の定それはダクネスに直撃を許す。

 

「ぐわぁぁぁぁ!?」

 

「ダクネス!?」「ダクネスさん!?」

 

ダクネスはその場に倒れる。ふと見ればダクネスは気絶しているようで動きそうにない。あのダクネスが、防御スキルしかふっていないダクネスが油断していたとはいえ一撃で倒されたのだ。ダクネスを心配する気持ちも強いがそれ以上に緊張と戦慄が駆け巡る。

 

それは戦いが終わってはいないことを告げる無慈悲なものだったのだから。

 

 






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