「フハハハハッ、残念ながらそう簡単に終わる訳にもいかぬ!何、安心するがいい、その鎧娘の命に別状はない」
その声は仮面が発しているというよりフロア内一帯に放送しているかのよう響き渡ると同時に、砂の山の上にあったバニルの仮面の右目部分が不気味に赤く光る。一方アリスはダクネスの身を案じるあまりすぐさまダクネスの傍へと駆けつけようと走る。
すると気絶していたと思われるダクネスはゆっくりと立ち上がった、どうやら無事のようだとアリスは安堵する。アリス達から見て背中を見せているダクネスの顔は見えない。
「ダクネス!無事で良かっ」「アリス止まれ!!ダクネスから敵感知スキルが反応してる!!」
「…っ!?」
カズマの叫びにアリスはもう少しでダクネスの元へたどり着くという位置で止まりそのまま立ち尽くすダクネスの背中を凝視する。
やがてこちらを振り向くダクネスの顔にはいつの間にかバニルの白と黒の仮面が装着されていた。
「繰り返すが鎧娘の命に別状はない、だがこの身体は借り受けさせてもらった。吾輩としてはそのまま憑依しても良かったのだがどうもこの鎧娘の意識を残したままだと良くない未来が見えたのでな」
つまり身体を失ったバニルは代替として意識のないダクネスの身体に憑依して使っているということになる、これは下手に攻撃できない。少なくともゆんゆんやカズマは。
「つまり仮面が本体ってことかよ!くそっ…どうする…?」
ダクネスが乗っ取られたことでこちらには実質前衛がいない、普通に戦おうにも詠唱が必要になる魔法スキルはバニルが見れば即座に阻止するだろう。
カズマは考える。この状況を打破する方法を。…少しだけ間が空いた。それは数秒ながら思考も相まってカズマには若干長くも感じたがカズマはそのまま思ったことを述べた。
「作戦タイム!!」
場の空気が一気に冷めた気がした。少なくともアリスとゆんゆんにとっては。対するバニル仮面のダクネスは不思議そうに首を傾げる。
「ふむ?どういう意味だ?」
「そのまんまだよ!ちょっと相談する時間をくれ!」
カズマの言い方は半ばヤケクソだ。確かに現状アリスにもゆんゆんにも打開策はないのでそれが通りさえすればいいが普通に考えたらまず通る訳がない。バニルはさも当然のように告げた。
「ふむ、確かに仲間の1人をこちらが借り受けているので少しばかりフェアではないな、許可しよう」
許可が降りた。
…何故か許可が降りた。もはやアリスとゆんゆんはただ呆然としていた。もちろんダクネスが奪われピンチなのに変わりはないのだがそれでも既に場の空気は破壊されていた。しかし…
「いくらでも時間を使うがいい。…だが、こうして吾輩が鎧娘に憑依している間、鎧娘の生命力はどんどん失われている、今のところは余裕はあるが、できる限り早めに終わらせるのを薦めるぞ」
そんなバニルの重い言葉に再び場に緊張が高まっていた。この許可がバニルの余裕によるものだと知れば、そうなるのも無理はなかった。
……
バニルはそう告げると少しばかりカズマ達から距離をとった。作戦とやらを聞かないようにする為の配慮だろうか、見通されたら意味もない気もするがそれでもカズマはアリス、ゆんゆんと顔を合わせるなり小声で相談を始めた。
「とりあえずこの中でまともに攻撃できるのはアリスだけだ、アリスならあの仮面だけを狙うことも可能だろ?」
カズマは確信めいたように聞くがアリスの表情は冴えないまま俯いて申し訳なさそうに首を横に振る。それにはカズマも半ば焦る。いきなり破綻されてはどうしようもないがとりあえずカズマは話そうとしているアリスの理由を聞くことにした。
「…私の魔法は敵視した者と敵意がある者にのみ効果がありますので…今の状態ではバニルの意思を通したダクネス自体にも敵意があるのです、なので私の魔法でも今のままではダクネスに当たると思います」
理由を聞いてカズマは思い出した。確かにダクネスそのものから敵感知スキルが反応したことを。
更にバニルの仮面はアリスのバーストやストームでもダメージがあまり感じられなかったので仮面を破壊することを狙うとなるとそれ以上の火力が必要になるだろう。
「…ならダクネスさんの意識さえ戻れば…?」
「ゆんゆんの言う通りですね、それならおそらくいけると思います」
「そうか…それとめぐみんから前に聞いた事があるんだけどアリスにはめぐみんの爆裂魔法に匹敵する魔法があるんだよな?今使えるか?」
「…使えば魔力切れにはなるでしょうけど使えると思います…」
それは失敗したら詰みということにもなる。ゆんゆんは何も言えずにいたがカズマはずっと考えを巡らせる。その顔は真剣そのものでとても頼りになるパーティリーダーとしての顔だ。気付けば2人してカズマに惹かれるように見とれていた。
やがてカズマが1人納得するように小さく頷く。それはカズマの考えがまとまった合図だった。
「よし…まずダクネスは俺がどうにかして意識を取り戻させる」
「…可能なのですか?」
「そこはいきなりの賭けになるけどな。で、俺とゆんゆんはバニルの足止めだ、ゆんゆんは足止めに使えそうなスキルはあるか?」
「あ、足止めだと…麻痺にするパラライズに、足元を泥沼にするボトムレス・スワンプがあります」
「麻痺はダクネスに効かない可能性があるからやるなら泥沼のほうだな、それでその間アリスはその魔法の詠唱をしてくれ、時間はどれくらい必要だ?」
「…30秒あれば確実と思います」
30秒はアリスなりにかなり余裕を持たせた数値にあたる。まずアリスもまだ1度しか使ったことがないスキルなのでどれくらいかかるかなどは覚えていなかった。
「わかった。ゆんゆんはテレポート2回分の魔力は残しておいてくれ、失敗は考えたくないがもし失敗したらゆんゆんは単独でテレポートしてアクア達を連れてきてくれ」
「わ、わかりました!」
作戦は大方伝わった。ならばすぐにでも実行に移すべきである…が、アリスは俯いたままだった。
自分が失敗してもアクアがなんとかしてくれる可能性がある、それは保険としては上出来だ。女神であるアクアならなんらかのアクシデントを起こす可能性はあるが頼りにはなるだろう。もっともそのアクシデントが怖いからこそカズマは最終手段にしているのだろうが。…だがアリスとしてはなんとしても自分でやりたかった。友達を守る為に、強くなる為に王都まで行き、レベルもあがった。
今こそ友達であるダクネスを助ける為に力を使うべき…なのに後一歩の自信が持てないでいた。
カズマはそんなアリスの様子を見て、デストロイヤー戦前の緊張するめぐみんを想起していた。気付けばアリスは小刻みに震えている。ならばカズマはアリスにどのように声をかけたらいいか、それは自然にカズマの口から出ていた。
「大丈夫だって、アリスならやれる、友達を助けるんだろ?」
カズマに背中をポンと叩かれたアリスは目をパチクリさせた。友達を助ける…アリスにとって友達という意味の重さ、大切さを再確認させる。それは何よりも勇気を与えていた。
失敗を恐れても仕方ない、ならば足止めを買ってでてくれた2人の為にも、そしてダクネスの為にもやれることをやろうと思えた。そう思えばアリスは自然と頭を上げていた。
「…やりましょう」
今こそ王都で頑張ってきた成果を見せる時、この力を友達を助ける為に使う時。そんな想いから覚悟を決めたアリスが見ればカズマもゆんゆんもまた、覚悟を決めた表情で頷いていた。
……
「おや?作戦タイムとやらはもういいのかね?吾輩としてはいつ来ても構わんが」
陣形は正面にカズマ、手にはちゅんちゅん丸を持っている、後ろにはアリスとゆんゆん。アリスはダクネスが意識を取り戻すと同時に即時詠唱にはいるように、ゆんゆんは詠唱するアリスを守るように。
そしてカズマは、1歩前にでた。
「おいダクネス!!何時まで寝てる気だ!さっさと起きろ!!」
カズマの呼び声が終わるとともにしんと静まる、どうやら反応はなさそうだ。それを聞いているバニルは失笑する。
「ふっ、何をするかと思えば…この状態でもきびしいと言うのに鎧娘は吾輩が憑依する直前に意識を失っているのだぞ?起きるわけがなかろう?」
「ダクネス!!さっさと起きないと人には言えないようなあーんなことやこーんなことをしちゃうぞ!!いいのか!!」
「フハハハハッ!無駄だ無駄だ!鎧娘の意識を戻すことなど「あ、あんな事やこんな事だと!?」…な、なにぃ!?!?」
バニルの台詞の中に確かに聞こえたダクネスの声。これにはバニルも見通していない限りは驚くしかない、実際本日出会って1番の絶叫だった。
「カズマ!?一体私に何をするつも「ええい、うっとおしいわぁ!!」
一方アリスはそのあんまりな内容に詠唱が若干ながら遅れていた。確かにわかる、ダクネスを呼び起こすならそれ以上の台詞はないだろうとわかる。だけど自然とそんな言葉が出てしまうのはもしかしたらカズマは実際そんな感じなのかと思ってしまったら自然と軽蔑の視線を送ってしまう。
それでも即座に切り替えて膨大な魔力の消費を抑える為にインパクトをその場で唱えたアリスの詠唱は始まり、 軽い衝撃波とともに動作に移る。手に持っている杖をそっと魔力で浮かせれば、直立した杖はその場で横回転を始める。そしてアリス自身もまた、ふわっと宙に浮いた。
浮いたことには流石にカズマも驚きを隠せないがそれもまた即座に切り替える。同時に異様な様子にバニルも流石に気が付いた。
「…天空引き裂き極光よ、我招きし無音の衝烈となり降り注げ…」
「む?何をするかわからんが黙ってやらせると思うな蒼の賢者よ!」
詠唱を確認してからのバニルの動きははやい、その詠唱を止めようとアリスの元へ走り出す。
……
その頃、キールダンジョン入口では
「…めぐみん、あれは何かしら…?」
アクアが空を見上げれば、ちょむすけと戯れていためぐみんもまた、空を仰ぐ。
「…こ、これはまさかアリスの!?」
キールダンジョンの上空の空からは雲が割れ、大きな光が降臨しようとしていた。めぐみんは慌てるようにちょむすけを肩に載せるとそのまま立ち上がり、キールのダンジョンへと走る。
「ちょっとめぐみん!どうしたの!?」
「何をしているのですアクア!早く行きますよ!」
「え、えぇ!?も、もう!なんなのよ!?」
松明に火をつけるとめぐみんはそのままダンジョンへと入っていく、アクアは訳の分からないままそれに続くことになった。
…
「ボトムレス・スワンプ!!」
「バインド!!」
バニル(ダクネス)の足元の床は突如大きな沼になり、ダクネスの両足を飲み込んでいく、そしてカズマのバインドによる無数のロープがバニル(ダクネス)を縛り付けた。その間にもアリスはめぐみん考案の詠唱を続け、アリスの周囲には無数の魔法陣が構築されて行く。杖に宿るコロナタイトの魔晶石はその白黄の輝きをより強めていき、次第にスパークを引き起こす。
「…我が望むは眼前の黒を白へと
「ぐっ…ぐぐっ…ふんっ!!」
バニルは縛り付けているバインドによる縄を力任せに引きちぎり、そして沼から跳躍した。あと少し、あと少しで詠唱が終わるのに間に合わない。1秒1秒が物凄く長く感じている。それだけバニルの速度は速い。
「ボトムレス・スワンプ!!」
再度ゆんゆんがバニルの足止めにと泥沼を精製するがそれは見切られていた、あっさりと跳躍することでバニルはそれを回避したのだ。するとカズマはアリスを守るようにバニルの前に立ち塞がった。
「そこを除け!小僧よ!!」
バニルは片手にダクネスの剣を持ち、大きく振り被ろうとしていた。いつものダクネスなら当たる心配は皆無だが今はバニルだ、例え避けたとしても当たってしまうだろう。
「ウォール!!」
「な、なにぃ!?」
カズマのウォールが発動すると、バニルはカズマのすぐ手前で不可視の壁にぶつかり逆方向に弾き飛ばされた。それはカズマの賭けだった。バニル自体は魔王軍の幹部、ボスと呼べる存在だろう。だから通常ならばウォールは効かない。しかし今のバニルの耐性はダクネスの耐性をそのまま使っている状態だ。だからこそダクネスにも通用するウォールは今のバニルにも通用するとカズマは睨んだ、結果はご覧の通りである。
「ぐっ…まだ「これ以上は動かせはせん!!」…ぬううっ!?」
天井が輝き始めると焦りを覚えるバニルだが立ち上がると同時にその場に金縛りのように硬直した。ダクネスの意思が前に出ている、これで不安要素はなくなった、後は全身全霊を込めてその光を落とすだけ。
「現界せよ聖なる輝きよ、白より白く塗りつぶせ…かの者に大いなる福音を…!《フィナウ》!!」
アリスは掛け声とともに杖を両手で握りしめて頭上へと掲げて勢いのまま振り落とす。そうすれば極大の魔法陣がバニルを中心に形成され、ダンジョンの天井を突き破るかのようにすり抜け、全てを白に変えし極光がバニルへと降り注ぐ。
「こ、これは…!?…フ、フハハハハッ!!見事、実に見事だ!!蒼の賢者とその仲間達よ…!!」
全てを覚悟したバニルの笑い声が木霊する。やがて眩しいばかりの極光は消え行き、同時にその声は息を潜め…全てが終わったその場にはダクネスが倒れていた。ダクネスの顔からは綺麗に仮面がなくなっており、それを見てアリスもまたその場に魔力切れを起こし倒れ伏した。
周囲は静かだった。カズマもゆんゆんも無言でいた。アリスにとってそれは不安を呼ぶが、2人はフィナウの威力に改めて絶句しているだけだった。
ダクネスの安否も気になるがバニルはどうなったか、今のところ何も音沙汰はない。…アリスはそっと冒険者カードを取り出し…そして討伐履歴をチェックした。その結果…
「……カズマ君、ゆんゆん…終わったみたいです…」
倒れたその場で眺めた冒険者カードには確かにバニルの文字が刻まれていた。
それを確認できたカズマはハッと気がついたようにダクネスの元へ、ゆんゆんは倒れたアリスの元へと駆けて行った。
追記。
どうも最近時間が中々取れなくなりスランプ気味もあって、文章がうまく書けません。申し訳ないですが次回投稿も遅れると思います。