内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 59 勇者の苦悩

「噂で聞いたよ、魔王軍幹部のバニルを倒したそうじゃないか、僕もうかうかしていられないな」

 

「ミツルギさんがいたら心強かったんですけどね」

 

街道沿いに馬車が走る中、ただ景色を見ている訳にも行かず自然と雑談に興じていた。

それにしても確かに倒してこうやって冒険者カードに刻まれているのはいいけど当の本人は元気にウィズさんのお店で働いているのだけどそれはいいのだろうかと疑問に思うだろう。当然ながらウィズさんの店が普段客入りが少ないとはいえ全く人目につかない訳では無いのでバニルの存在は既にアクセルの1部の冒険者により確認されている。というよりもあれからバニルは当たり前のように早朝の街のゴミ掃除やらに精を出し既に近隣住民の主婦と仲良くおしゃべりしているという。聞いた時は意味が分からなかった。

冒険者ギルドとしてもバニルがアクセルの街にいることは周知なのだが、そこはウィズさんが上手く話して説得したらしい。

冒険者ギルドから見たウィズさん個人は元冒険者で腕利きのアークウィザードとしてしか見ていないので改心した悪魔をウィズさんが監視するという名目でいるので大事にはならなかったそうな。実際に監視されているのはウィズさんのほうなのだが、お店の経営的な意味で。

 

「僕ももっとレベルをあげたいのだけど…最近パーティを組むのが難しくなってね…1人でやろうにも限界はあるし…」

 

思い悩むミツルギさんのレベルは前回と変わらず45。追いつけそうである私としては嬉しいけどミツルギさんとしてはそうもいかない。

と、いうよりも意外なのだがミツルギさんは魔剣の勇者として王都で名前が売れている反面、1部の冒険者からは割と嫌われていたりする。

理由としては僻みもあるのだろうけど私としてはその行動力にもあるのかもしれないと思っている。

 

そんなことを考えていたら馬車から少し離れた平原に一匹の翼竜、ワイバーンと対峙する冒険者らしき人達の姿が見えた。おそらくクエストをこなしているのだろう。ただどうやら苦戦しているようだ。

 

パーティ編成は見る限り3人、若い男性の剣士とパッと見性別のわからない中性的なウィザードらしき人と女性のアーチャーと思われる、流石に見た目だけでは細かい職業まではわからない。

 

「あの人達…大丈夫かな…?」

 

「厳しそうだね、ちょっと僕が行って助けてくる」

 

「いやダメに決まってるじゃないですか、何を言っているのですか」

 

「…っ!?アリスこそ何を言ってるんだ?あのままではやられてしまうかもしれないんだよ!?」

 

はい、ミツルギさんの無駄に強すぎる正義感スイッチが入りました。勿論本当に危ないのならクエストどころではない、命の危機なのだから助けるのが人として正しいだろう。とりあえず説明がめんどくさいので私が行くしかなさそうだ。

 

「御者さん、馬車止めてください、私が行きます」

 

「あ、あぁ、気をつけて!」

 

御者さんはすぐに馬車を止め、ミツルギさんが何やら言っているけど私は無視して馬車から飛び出し、その冒険者達の元へと向かう。パーティの人達はワイバーンに夢中で私に気が付かないようだ、このまま後ろから支援してしまおう。

 

「ハイネス・ヒール!」

 

前衛をしていた剣士の人は突然の回復魔法に驚くが私の姿を一瞥するなり安堵したようにワイバーンに向き直した。

 

「誰だか知らないけど回復感謝するよ!みんな、もう少しだ!」

 

「あぁ!」 「うん!」

 

剣士さんの掛け声で士気が上がったようだ。声からしてウィザードの人は男の子のようだったけど特に関係ない。私は一通り支援魔法を使い、やられそうなワイバーンを見るなりもう大丈夫だろうと馬車へと走る。

 

「あの子って蒼の賢者!?あ、ありがとうございました!」

 

「本当に助かりました!蒼の賢者さん!」

 

「いえいえ、頑張ってくださいね♪」

 

これはMMORPGでよくある辻支援というやつである。ほぼ善意のみなので恨まれるようなことはまずなく、このように感謝されることが多い。ゲーム大好き少女だった私としては正にゲームに入り込んだようなこの世界のルールの順応は早かったと思う。おかげで蒼の賢者のイメージは王都でもかなり向上傾向にある、別にそんなことが目的でやっているわけではないのだけど。

 

「お疲れ様、でも僕が行っても良かったんじゃないかい?」

 

馬車に乗り込み出発したところでミツルギさんがこんなことを聞いてきた。その瞬間に確信した、この人は私よりもこの世界の先輩にも関わらずこの世界のルール…もとい冒険者としての根本を理解してなさすぎる。そしてこれこそが彼が1部の冒険者から嫌われている由縁なのだろう。

 

「あ、あの…ミツルギさんがあのまま向かっていたらどうしてました?」

 

ゆんゆんとしても考えは当然私と同じのようで、言いにくそうではあるが聞いてみていた。ミツルギさんは不思議そうな顔をするものの、さも当然といった表情でいる。

 

「勿論ワイバーンを倒していたさ、その方が確実に安全だろう?」

 

「はぁ…」

 

予想通りの答えにゆんゆんはため息を隠せなかった。私としてもこれについては呆れるばかりである。

 

「ではあの冒険者の人達は何故ワイバーンと戦っていたのでしょう?」

 

「それは…おそらくクエストでは……あ」

 

「ではそのままミツルギさんがあのワイバーンを倒していたらそのクエストはどうなってます?」

 

「……」

 

落ち着いたところでようやく自分のやらかそうとしていたことにミツルギさんも気が付いたようだ。気まずそうな顔をしている。

あの冒険者の人達はクエストでワイバーンを狩りに来ていたのだろう。ならばそれをミツルギさんが救助という名目で横取りしてしまうとどうなるか。当然ながらクエスト達成にはならず、他のワイバーンを探したり最悪クエスト失敗となり違約金を払わなければならなくなる。ミツルギさんのあの躊躇のない動き方からして実際に救助という名の余計なお世話は初めてではないと確信がもてるしこれが1部の冒険者に嫌われている原因だろう。

 

だが勿論クエストどころではなく本当にピンチの場合もあり、そういった人達は感謝しているだろうがその辺のさじ加減は難しいのかもしれない。

 

基本的に冒険者というのは生活の為にやっている人が多い。打倒魔王軍などと考えて冒険者でいる人々はほんのごく1部だ。だからこそあのように悪意のない善意による行動は恨まれても仕方ないのである。一方私の場合は支援のみなのでクエスト失敗などの影響は一切ない。ようはやり方の問題なのだ。

 

ではそんな不幸にも善意の被害にあった人達はどうするか?これも対応が難しい。冒険者ギルドとしてはこういった横槍行為は禁止にはしていない、禁止としてしまえば本当に危ない場合助けることができなくなってしまうからだろう。だから冒険者ギルドに泣きついてもミツルギさんになんらかの処分があることはない。

それに本人は悪意0%の1000%善意でやってるので余計にタチが悪い。助けられた冒険者も苦笑しつつ泣き寝入るしかないのだ。

これが普通の冒険者なら文句のひとつもあるかもしれないが相手は王室にも呼ばれたことのある有名な魔剣の勇者だ、助けられるような弱い冒険者が太刀打ちできるはずもないという現状だった。なのでそうならない為にはそもそも助けられるような難しそうなクエストを受けるなと言われたらその通りでもあるのかもしれない。

 

 

「言われてみると思い当たる節が多いかもしれないね…思い直したら恥ずかしくなってきたよ…」

 

「ミツルギさんって、以前は他の方と固定パーティを組んでいたのですよね?何も言われなかったのです?」

 

カズマ君達から取り巻きのようにいるパーティメンバーの話は聞いたことがあった。あまり気持ちのいい捉え方はしていなかったようだが。

 

「フィオとクレメアのことかな、彼女達は基本的にキョウヤのやることなら正しいから大丈夫と言ってくれてたから気にしてなかったんだけど…」

 

平然と話すミツルギさんの言葉を聞いて私はそっと頭を抱えた。本来足枷となるべき仲間が促進したことで歯止めが効かなくなっていたのだろう。同時にふと前世でのミツルギさんの狂信者を思い出して個人的にはいい気持ちはしないのが本音だったりする。

 

そういえばその2人は今どうしているのだろう?私としては未だに出逢ったことがないので興味があった。無論話に聞く限りでは出逢いたいとは思わないのだけど。妙なイチャモンをつけられる気しかしない。

ただミツルギさんのパーティの内部事情なんて聞く気にもなれないしちょっと踏み込みすぎな気がするので聞けないが正しいのかもしれない。

 

「フィオとクレメアとは…パーティを解散したんだ…」

 

「えっ…?」

 

聞けないと思っていたらまさかのミツルギさんの方から話してくれるようだ。私とゆんゆんは黙って彼の話を聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

フィオとクレメア。

 

彼女達との出会いはアクセルの街、ミツルギさんがまだこの世界に転生したての頃に声をかけられたのがきっかけらしい。

それから固定パーティを組んでやってはきたものの、魔剣グラムの力が大きく、基本的にミツルギさんが率先して討伐してきたことでレベルは瞬く間に2人と離れていき、彼がレベル37になった頃の2人のレベルは20前後だったそうだ。

カズマ君に負けたことで誰にも頼らず自分を見つめ直したいとミツルギさんが言い、1度パーティは解散、ただその当時は時間をおいてまたパーティを組むつもりだったようだ。

 

だけど最近再会した2人とミツルギさんには明らかな意識の違いがあった。

 

ミツルギさんの最終目標はあくまで女神アクア様から賜った魔剣グラムを誇りに魔王討伐という大きな目標を持っている。

対して2人としてはそこまで考えてはいない、せいぜい大好きなミツルギさんと居れたらそれでいい程度のものだ。

ミツルギさんとしては出逢った当初からその目的について話してはいたものの、2人はそこまで考えてはいなかったらしい。

 

だからこそ生まれた亀裂。その違いはレベル差にでていた。

 

再会したフィオとクレメアのレベルはどちらも25前後、ミツルギさんのレベルは45。とてもではないが対等なパーティとは言えない、このまま組んでもミツルギさんの足を引っ張るだけなのは間違いないだろう。

無論元からレベル差は大きくあったので何を今更と思うかもしれないがこれはお互いの意識の問題に直面したからこそ生まれた亀裂でもある、レベル37のミツルギさんが45になるのと20前後の2人が25前後になるのにかかる苦労は雲泥の差なのだから。

いくらミツルギさんが大好きとはいえ2人にも冒険者としてのプライドも少しながらあったようだ、このままパーティを戻したとしてミツルギさんの迷惑になるだけだと確信したのだ。

勿論ミツルギさんは昔からパーティを組んだ仲間である2人との別れをよしとはしなかった。気にしなくていいから着いてきてくれと言ったらしい、2人にとってそれが何よりも残酷なことなのかも知らずに。

 

もはやここまでレベル差があり、そのままパーティになれば周囲の目はどのように見るだろうか?寄生、取り巻きなど、まず対等な仲間として見る人はいないだろう、これが残酷でなくてなんなのか。

 

だからこそ2人はミツルギさんから離れた、ミツルギさんのことが大好きな故に、これ以上負担になりたくはないと。

 

 

……ミツルギさんと同じく、私もチートを受け取っているからこんなことを私が思うのはおかしなことなのかもしれない。だけど仮にもしミツルギさんにグラムがなかったらどうなっただろうとふと考える。

 

まずここまでレベル差が出来ることはなく、もう少し対等な仲間でいられたのではないだろうか。

私の場合はのんびりアクセルでクエストをこなしてきたからそうでもなかったがミツルギさんの場合はトントン拍子でレベルをあげてそのまま即王都で活躍を続けてきた。境遇の差も大きいのはただ不運としか言えない。

 

ただ遅くはなったけどパーティ解散はミツルギさんにとっても良かった事ではないかとも思えた、そのまま2人が取り巻きでもいい、ミツルギさんと居れたらと考えていたらミツルギさんの状態はなお酷くなっていたのかもしれない。

 

 

 

私と隣に座るゆんゆんは顔を見合わせてお互いの気持ちを理解した。そっと2人で頷くと、2人してミツルギさんの方に顔を向けた。

 

「ミツルギさん、もし良かったら私たちと固定パーティを組みませんか?」

 

「えっ!?」

 

突然の申し出であったからか、ミツルギさんは呆気に取られたような表情をしてました。でもその表情はすぐに綻び、少し嬉しそうでもありました。

 

「ほ、本当にいいのかい?」

 

「勿論ですよ、貴方さえ良ければ…条件はありますけどね」

 

「条件?」

 

「はい、条件です。これはゆんゆんと組んだ時にも言ってます…、パーティを組む以上、私達の関係は対等です、仲間である以上助け合いはしますけど、一方的なものはなしです」

 

言わないけどようは前のパーティみたく甘やかしまくりな調子だとこちらが困るのですよ。もっともミツルギさんにそんな気があってもそんな施しは受けるつもりはありませんけど。

ミツルギさんは少し考える素振りを見せて、力強く頷いてくれた。

 

「…わかった、それじゃあこれからよろしく頼むよ」

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

「はいっ、よろしくお願いしますね♪」

 

こうしてミツルギさんがパーティにはいってくれることになりました。私達としても前衛の仲間は欲しかったのでちょうど良かった。

 

やがて馬車は目的地に近付き、太陽が沈みかけていた。本番はこれから…です。

 

 

 

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