冒険者ギルド
様々な建物がある中、一際大きく存在するその場所に近づくにつれて、出入りする若い冒険者と思われし風貌の人々が見えてくる。セシリーお姉ちゃんに場所を教えてもらったにも関わらず、少し迷ったりして街行く人に場所を教えてもらったりしつつ、なんとかその施設に到着した。実際それは立派な建物だった。入口だけを見ると市役所のような印象を受け、まだ外にいるにも関わらず中からの多くの人の声が賑やかさを演出している。
中に入ればその賑やかさも納得。この冒険者ギルドは酒場も営んでいるようで、まだ午前中にも関わらず多くの人が何かを飲んだり食べたり、あるいは机に地図を広げてパーティメンバーと打ち合わせをしたりしている様子が見て取れる。酒場エリアに目を奪われていると、1人のウェイトレスの女の子がこちらに気付き、駆け寄ってきた。
「おはようございますー、冒険者ギルドにようこそ!お食事でしたら空いてる席にどうぞー、ギルド受付でしたらあちらになりますので並んでお待ちくださいー」
メイド喫茶にいたら見かけそうな衣装の女の子が営業スマイルでそう告げると、酒場エリアとは逆方向の市役所のような窓口を指さした。
朝食はセシリーお姉ちゃんから行く前にプレーンオムレツをご馳走になったのでとくにお腹は空いていない。ただ少し気になることがあった。
私がこの冒険者ギルドに足を踏み入れた瞬間、ギルド内の一部の人からの視線、そして目立たない程度のざわめきがあったことが。
とはいえ考えても仕方ないので私はウェイトレスのお姉さんに冒険者登録をしに来ました、とだけ告げて指さされた方向に歩を進めた。
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「ようこそっ、冒険者ギルドへ!本日はどのようなご要件でしょうか?」
受付の女の人の露出度の高い奇抜なファッションに私の思考は停止しかける。えっ、何これなんの当てつけですか?
私は受付の人の露出された胸元をわずかに見ながらこの世界で初めての感情を心の中に宿していた。
えぇ、女神様のおかげでチート使って美少女になれましたよ、それはいいんですよ、問題はわざわざ胸を小さくする必要があったのかあの女神様にもしまた会えるなら私は是非とも問いただしたい。わざわざ胸を小さくする必要があったの?大事なことなので2回言いましたよはい。せっかくC近くあった私の胸は今やBあるか怪しいレベルなんですよコノヤローそんな私にそんな大きなのを2つも見せ付けて自慢のつもりですか?えぇ、買いますよその喧嘩、私を怒らせる人なんて久しぶりに見ましたよ。
「あ、あの…どうしました?」
こちらが無言を貫いて凝視していたせいで受付のお姉さんは営業スマイルのまま困ったような顔をしていた。正気に戻った私は慌てるそぶりで目的を告げた。
えっ…何今の…?
これが今の感情に対する正直な感想である。決してそんなコンプレックスは抱いていない。多分、きっと、おそらく。
「はい、冒険者登録ですね、では手数料に1000エリスかかります。」
言われるままに私はトレイに10000エリスをおくと、流れるように9000エリスのお返しです、と数枚の硬貨を受け取った。どうやら日本と違い紙幣は1万エリスかららしい。
「ではまず冒険者について説明しますね。冒険者とは┈┈┈┈┈┈」
聞けば聞くほどその説明はゲームの中にはいったかと錯覚するものだった。職業を決めてモンスターを倒してレベルをあげて、スキルポイントをふりわけてスキルを覚えて、と。ゲームのチュートリアルをリアルで受けるとこうなるのだろうか。そういえば私の本来のスキルって一体どうなってるのだろう。説明によるとこの登録でもらえる冒険者カードには倒したモンスター履歴から自身のステータス、スキルまで見るのが可能なのだとか。どんな構造かなんて考えるだけ無駄なんだろう。魔法なんてものがある世界で原理なんてわかるわけもなくこれはそういうもの、と割り切るしかないのだから。
説明を聞き終えた私は受付のルナさんに言われるままに用紙に必要事項を記入していた。必要事項とはいえ名前、性別、年齢、種族くらいだ。住所欄や出身の欄があったらどうしようかと思ったけどその心配は杞憂だったみたい。
今更の話だけどこの世界の文字は見たことないものばかりなのに読むことも書くこともできるから不思議だ。転生の影響なのだろうけどこれは深く考えても仕方ない。そんなことを考えながら記入が終わる。
「ありがとうございます、ではこちらに手をかざしていただけますか?」
受付窓口の横にあるのは水色の水晶。パッと見て昔の地球儀のように見えたそれは水晶の周囲に機械的な装飾がなされていた。そっと左手をのばし触れそうになるまで手を近づけると、水晶は光を帯びて水晶の装飾が動き出す。光はそのまま水晶下におかれた冒険者カードに抽出されると、冒険者カードから文字が浮かび上がってきた。
「えっ…こ、これは…!?」
ルナさんの驚く声にギルド内のあちこちから視線を感じた。何か驚くことでもあったのだろうか。
「えっ、なにこれ?ちょっと待ってください…」
突如狼狽えるようにルナさんはカードを凝視しつつ指で項目をいじる。
「す、すみません。水晶の故障かもしれないです。スキル欄にいくつか既にスキルがあるのですが…その、なんて書いてあるかわからなくて…」
ルナさんはおそるおそる私に冒険者カードを見せてくれた。それをみた私は驚いた…というより安堵した。何故ならその謎の文字は日本語で書かれていて、スキルの内容は私がよく見知ったものばかりだったのだから。
ちなみにスキルが最初からあることは珍しいことではないらしい。種族やらなんやらで特殊なスキルを生まれつき持っているケースもあったり、冒険者になる前に修練を積んでスキルを覚えていたらそれが反映されるようだ。この場合読めない文字が投影されたことが問題なのだろう。
「あ、あの、どうしましょう…?何分、今までこんなことはなかったと思うので、修理に出して作り直すにしても時間がかかりそうなのですが…」
原因が完璧に理解できている私はとくに取り乱すこともなく落ち着いていた。むしろスキルがちゃんとあるとわかっただけで両手をあげて狂喜を表現したいほどだったりする。私はルナさんに、このまま登録を続けて問題があるのか聞いてみた。
「いえ、その点に関しましては大丈夫です。見たところ文字がおかしくなっているだけで冒険者カードそのものは問題なさそうですし……そうですか、ではこのまま登録させて頂きますね。それで貴女がなれる職業なんですが…正直かなり驚いてます。どんな修練を積めばこんなステータスになるんです?」
ごめんなさい、修練なんてこれっぽっちもやってないですなんて内心思ってたら、ルナさんは心底驚いているようにステータスの説明をしてくれた。
筋力は並以下、見た目通りの普通の女の子なみということだ。幸運は平均より少し下くらい。それに似合わない生命力の平均以上の高さ、そして敏捷性。
さらに知力と魔力がかなり高い。…とまぁある意味予想通りのステータスだった。元のゲームでは敏捷をあげたら詠唱速度があがったりするのだけどこの世界では特に関係ないらしい。わかっていればステータス振り直したんだけど。
「この知力と魔力でしたら…上級魔法職はほぼどれでもなることができます!これは凄いなんてものじゃないですよ!紅魔族でもないのにここまで知力と魔力が高い人は初めてかもしれません!」
興奮しているルナさんを横目に思うのはこの人いちいち声が大きい。おかげで私の周囲にはぞろぞろと人だかりができはじめている。めちゃくちゃ目立っててめちゃくちゃ恥ずかしい。…まぁ昨日の勧誘よりははるかにマシだけどそれでも恥ずかしいものはやっぱり恥ずかしい。
さて、職業なんだけど…元のゲームを基盤にして考えたら私が選ぶのはアークウィザードだろう。職業の特性を聞いた感じだとそれが当てはまる。だけどそれでは意味が無い。
先程冒険者カードのスキル欄を見る限りでは攻撃魔法スキルは充分に揃っているように見えた。この場合アークウィザードになってさらに攻撃スキルだけ無駄に増やしてなんの意味があるのだろうか。それなら支援スキルなどが豊富にあるほうがバランスもよくなる。攻撃魔法も支援スキルも使える万能タイプなんて最高じゃないですか。
「アークプリーストですねっ、すぐに登録します!」
そんなわけで私はアークプリーストになることに決めましたとさ。
ルナさんがそう行って駆け足で窓口に戻ると、周囲から歓声があがる。同時にひそひそとわずかにあがる声をかすかではあるが聞き取る。
「おい、あの子って…」「嬢ちゃん、若いのにすげぇじゃねーか!頑張れよー!」
だけどすぐに他の歓声にかき消された。若干の嫌な予感をおぼえるとともに、私は冒険者カードを受け取るなりそそくさと冒険者ギルドから逃げるように出ていくのでした。