お昼休み使って書いてたらなんとか書けたので即投稿。次回は明後日かな…
時刻は夕暮れ。予め指定されていた目的地に着いたので馬車から降りて周囲を見渡す。
街道から見えるのは見渡す限り広大な平原と森、岩場。夕暮れ時ながらその平原は一面を見渡せて、オレンジが照らす平原の草々は風に揺れる。
…と幻想的な光景に目を瞬かせていたけど、すぐに現実に戻る。
「…いませんね、ティラノ・レックス」
「全長5m以上あるらしいからこの平原にいたらすぐにわかるはず…ということはおそらく…あの森の中か…」
「さ、流石にもうすぐ暗くなるのに森の中は…」
ちなみに馬車と御者さんは既にゆんゆんのテレポートにより王都に帰還させている。少し探していないのであればこちらとしても一旦王都に帰ってから明日の朝にでも来るしかない。
「あの岩山を登ってみたらもう少し見晴らしがいいかもですね」
「だ、大丈夫かな…?結構高いけど…」
岩場は平原と森の間を遮るように存在していて、凸凹していて登れなくはなさそうだ、1番高い岩山に登れば森も一望できそうではあるけどはてさて私に登れるかな。
「待ってくれ、ここは僕が行くよ」
いざ登らんと岩場に走ろうとしていた私に制止がかかる。おそらく危険だからミツルギさんが引き受けようとしているのだろうけど私としては先程馬車で対等な関係でいたいと話したばかりだ。
「ミツルギさん、馬車で言いましたよね?」
「あぁそうだね、だけどこういう事は仲間以前に男として譲るわけにはいかないな、女の子が率先して危険なことをしようとしているのを男として黙って見ている訳にはいかないだろう?」
そんな事を言うミツルギさんの顔は真剣そのものだった。ゆんゆんを見ればキョトンとして首を傾げている。ようは私と同じでよくわからないのだろう。
「う、うーん…そういうものなのです?」
「そうだね…、ようは男はカッコつけたがりって事さ、僕の顔を立てると思って任せてくれないかい?」
それを聞いて私は悩むように考えているとミツルギさんはそのまま岩場に向かって行ってしまった。言われてみればダストやキース、テイラーさんにもそんな一面はあったような気もする、ミツルギさんほど堂々とはしていなかったけど。
「…男の子ってめんどくさいですね…」
「う、うん…そう言われたら…その、少し不安になってきたと言うか…その…」
私がそんな事を呟けばゆんゆんは顔を赤くしてもじもじしていた。何か照れさせるようなことを言ったつもりはないのだけどどうしたのだろう?
「不安…ですか?」
「う、うん、よく考えてみたら私って、男の人とパーティ組んだことあまりないから…」
「…あー」
言われてみれば私が知っている限りではゆんゆんが男の人とパーティを組んだのは最近バニルと戦った時のカズマ君くらいしか記憶にはない。
私としてはテイラーさんのパーティにいたのでそんなことはないのだけどゆんゆんの場合はテイラーさん達を紹介したにも関わらずパーティを組むことはなかった。もっともこれはゆんゆんよりも男共の対応が原因なのだけど。
まずダストは出会うなりゆんゆんをナンパし始めた。私が13歳の子に何してるのですか!と言ったら物凄い驚いてガッカリしながら引き下がったけどまぁその気持ちはわからなくもない。
キースやテイラーさんもそこまでではなかったけどゆんゆんに対する視線が胸にいってたのは私もリーンもすぐ理解できたのでおしおきしておきましたけど。
まぁそんなわけで結局ゆんゆんがパーティを組めたのは私とリーンしかいなかったという。
とはいえ胸に目が行っちゃうのはゆんゆんの服装にも問題がある気がする。
「昔から気にはなっていたのですがゆんゆんはどうしてそんな胸元を強調した服装なのです?」
「えっ…ど、どうしてって…その、紅魔族としては割と普通のファッションなんだけど…」
ふむ、と私はふと考えるように思い巡らせる…とはいえ紅魔族の比較対象がゆんゆん以外だとめぐみんしかいないのも困りものだ。
「めぐみんはそこまで露出高くないような…」
「…あの子は…強調する胸が…その…」
「ほう、私の胸に対して言いたい事があると言うのなら聞こうじゃないか!」
「っ!?!?め、めぐみん!?」
ゆんゆんは慌てて周辺を見渡す。しかしながらめぐみんはどこにもいない、いる訳が無い。
「あの、今のは私なんですが…そんなに似てました?」
「えぇ!?」
即興でめぐみんの声真似をしてみたのだけどそこまで似ていたのだろうか?自分としてはよくわからないので首を傾げておいた。
「似ていたなんてレベルじゃなかったんだけど!?」
「そんなことよりミツルギさんは登りきったようですね、こちらに向けて手を振ってます」
「そ、そんなことって…今はいつものアリスの声なのに急にめぐみんと話してる感覚になってきた…」
見れば私が言ったようにミツルギさんは岩山のてっぺんに登りきり、こちらが向くなり周辺を見渡している。ただどうやらターゲットは見当たらないようだ。その場で首を横に振っていた……その時だ。
「……ねぇアリス…あの岩山…」
「…なんか動いてるような気がしますね…」
ゴゴゴゴッと揺れ動くミツルギさんの足場、これにはミツルギさんも驚きふらついている。岩山からはゴロゴロと小石が落ち、そしてそれが起き上がるようにすればその動きで足場を失ったミツルギさんはそのまま落ちてしまう。
「ミツルギさん!?」
「くっ…!」
ミツルギさんは落下体勢にも関わらずそのまま魔剣グラムを抜くとそのまま足場だった岩山に思いのまま横から剣を突き刺した、それにより刺したグラムを両手で掴み宙ぶらりんの状態になった。その動きはハリウッド映画でも見ているかのようだ。
『ぐおおぉぉぉぉ!?』
何処からともなく絶叫が響く、それは正にミツルギさんの足場であった岩山から聞こえてきた。
「まさかこれがティラノ・レックス…?」
「誰ですか5mくらいとか言ってたのは、これそんなものじゃないでしょう!?」
起き上がった灰色の恐竜は5mどころか10mはありそうだ。その大きさは元やっていたゲームのレアモンスター、アルコイリスを彷彿とさせる。
…アルコイリス…?
ふと思い出した。元ゲームでのアルコイリスというモンスターは実装された時はそのレベルに見合わぬ強さと凶暴性で話題にすらなった。強靭な守備と突進したり暴れまくるので攻撃するのも一苦労。そんなモンスターの対処法は様々であり、その中のひとつには今私が使えるスキルによるものがあった。
今の状態はミツルギさんが巨大な岩山だったものがその場で暴れ、振り回されている状態だ、このままでは振り落とされてしまう。
だけどゆんゆんはもちろん、私もまともに攻撃をする訳にはいかない、下手に攻撃すれば余計に暴れてしまいそうだ。
だけどかつてゲーム内でやったようにやればミツルギさんの安全を確保できるかもしれない。意を決したように私はコロナタイトの魔晶石を杖にはめ込み、詠唱を開始した。
「ミツルギさん、攻撃しますので衝撃に備えてください!」
「…っ!?……わ、わかった、君を信じよう!」
信じると言ったミツルギさんと同じなのか、ゆんゆんは不安そうではあるものの私に何も言うことはなく、信頼と希望をその目線で私へと投げかけていた。次第に魔晶石がスパークを起こす、私を駆け巡る魔法陣は光属性特有の優しくも強い光を放つ。
「神聖なる全てを貫きし槍よ、かの者に天の裁きを…!《バニシング・レイ》!!」
それは光属性が追加された
「ぐっ…」
揺れ動くミツルギさんだけど振動はすぐに収まる。一瞬呆気に取られるものの動かないならチャンスだ、そう考えたのかミツルギさんは足で蹴るようにグラムを引き抜くとそのまま落下し、地面まで残り2mくらいで再びその巨大な体躯へとグラムを突き刺す。それでも巨体が動くことはなく、そのままミツルギさんは地面へと飛び降りた。
ランサーの追加付与効果として停止という状態異常がある。使った私も忘れていたけど。以前ゲーム内ではその効果を利用して巨大なモンスター、アルコイリスの動きを一時的に止めていたのだ。ただ停止時間はそこまで長くはない、やがてその巨体は動き始める、それでもミツルギさんはそのまま体制を整えるように私達の元へ盾となるように走り、そして改めて向き直る。
「助かったよ、ありがとう」
「まだまだここからですよ、行きますよ?ゆんゆん」
「う、うん!」
体長10mは余裕であるだろう巨体、まさに見た目そのものはティラノサウルスのようだが鱗の色は灰色、そして先程のミツルギさんが刺した箇所はぶくぶくと泡立っている。
「あれって…回復してる…?」
「私の攻撃もあまり効いてはいないみたいですね…」
「…なら、回復が追いつかないほど攻撃すればいい…!援護は頼んだよ!」
「「はい!」」
ミツルギさんが両手にグラムを構えて駆ける、私とゆんゆんはすぐ様魔法の詠唱にかかる。恐竜はその場で身震いを起こしたように揺れ動き、ドスンドスンと地響きを鳴らし私達へと向かって来る。
ミツルギさんは跳躍するとともに向かい来るその恐竜の爪をグラムで一閃、華麗に切り裂いたと同時にそのまま恐竜の腹部へと斬撃を加えた。
やっぱりこの人は強い、私が見た近接の職業の人の中でも間違いなくトップにはいるだろう。頼りになる前衛の存在に自然と詠唱に力が入る、以前のミノタウロスのような醜態はもう晒せない、汚名を返上したい、本人はそんな事を思ってはいないだろうけど私にはそんな想いが強く存在していた。水の魔晶石に付け替えた私の杖は淡い青色に輝く。
「顕現せよ絶氷の刃よ、狂い踊りて凍てつかせ!《フリーズ・サイクロン》!」
「闇色の雷撃よ、我が敵を撃ち貫け!カースド・ライトニング!!」
恐竜の足元に魔法陣が出現し、そこへ極大の氷の竜巻が出現すると、無数の氷牙は恐竜を斬り裂く、ミツルギさんがそれに合わせるように距離を取ればゆんゆんの放った黒き雷光はその竜巻にまとわりつくように駆け回る。
私はミツルギさんとゆんゆんのちょうど間に位置する場所に立ち、追加で詠唱を始めた。
「まだ回復してます、攻撃を緩めないでください!《クイックアップフィールド》!」
私がそう唱えれば、私を中心に地面にはオレンジ色の霧状の粒子が出現する。攻撃速度と詠唱速度を大幅にあげる効果のあるそれは、まさに今の状況にぴったりの支援魔法だ。
「これは…!」
「カースド・クリスタルプリズン!!…インフェルノ!!…カースド・ライトニング!!…ライト・オブ・セイバー!!」
ミツルギさんの目にも止まらぬ斬撃は本人すら驚き、続いてゆんゆんの鬼のような上級魔法乱舞が炸裂する。
ある箇所は燃えて、ある箇所は凍りつき、ある箇所は静電気に連動するようにスパークを起こす。もはや虫の息となった恐竜は、ゆんゆんの怒涛の連続魔法によってその場に倒れ伏した。倒れた時には今までで1番の地響きが鳴り、それは数秒にも続いた。
呆気に取られたミツルギさんだったが、次第に状況を把握したようにこちらに振り向き、駆け寄った。
流石にゆんゆんは魔力ギリギリまで使ったせいか肩で息をしながらその場に座り込んだ。
私はクイックアップフィールドの展開を終えるなり、その場でふうと一息ついて、ゆっくりとだけど穏やかに告げた。
「お疲れ様でした…♪」
本当に強く頼りになる仲間に逢えた、そんな喜びから、自然と笑顔になっていた。