内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 62 勢いでの言動は後悔を生む

 

 

 

―王都―

 

ミツルギさんと別れ、とりあえずそのまま帰って家でゴロゴロしようかなと思ったけどせっかく王都まで来たのでおやつでも買ってから帰ろうと、私とゆんゆんは2人で街を歩いていました。

 

「ね、ねぇアリス…?」

 

ふとゆんゆんが落ち着かない様子で私を呼ぶ。振り向けばその表情はどこかぎこちない。さっきまでは正式に温泉旅行が決まって凄く嬉しそうにしていただけにこの様子には疑問しか浮かばない。

 

「どうしたのです?なにやら挙動不審ですが」

 

「きょ、挙動不審って…!…いやその…よく考えたらお友達と旅行というのも初めてなのに男の人まで一緒というのが…その…嫌じゃないんだけど…なんだか緊張するというか…」

 

「……」

 

その発言に私は盛大に面食らうことになる。冷静に考えたらゆんゆんの言う通りだ。私はパーティメンバーという名目で男の人…それもあの御剣響夜先輩を旅行に誘ったのだ。旅行ということは泊まりや食事を共にすることはもちろんのこと期間中常に一緒にいることとなる。クエストで異性と寝食を共にすることは過去あったけどそんな色気のないものではない。我ながら随分と大胆なことをしでかしてしまっていたようだ。…とはいえ流石に部屋は別にするし、まさか温泉に一緒にはいるわけではない。…そう、これは私の前世でなし得なかった修学旅行のようなものだ、うん。

 

「お、おおお落ち着いてくださいゆゆゆんゆん、べべ、別にカズマ君達もいい、いるのですから」

 

「アリスこそ落ち着いてよ…やっぱりあまり考えてなかったのね…自然に男の人を誘えて凄いなぁとは思ってたけど」

 

「いや無理ですよ!?止めてくださいよ!?」

 

「止めれるわけないじゃない!?そ、それにその…カズマさん達がいることもまずいような…」

 

心の中で自分に言い聞かせて落ち着いたつもりがまったく落ち着いてなかった。というかこういうノリは普段はゆんゆんの担当なんですけどと声を大にして言いたい。しかしカズマ君達がいるのもまずいとはどういう事だろう。

 

「…まずい、ですか?」

 

「…だってミツルギさんとめぐみん達のパーティって…」

 

「……」

 

そうだった。ふと思い返すと私とゆんゆんがミツルギさんと固定パーティを組んだ話をカズマ君のパーティの面々に教えたところ揃って微妙な顔をされていた。

カズマ君達とミツルギさんはアクセルでの揉め事以来出逢っていないらしいので突然旅行を一緒にするとなってもお互いに気まずいことは間違いない。

とはいえ私達3人で温泉旅行に行くとなるとそれはそれで今更ながら気まずいし誘ってくれたカズマ君にも悪い気がする。

 

「…別々に行くことも可能ですができたら皆で行きたいですよね…」

 

「う、うん…、で、でも、考えようによってはチャンスにはならないかな?」

 

「…チャンスですか?」

 

「えっと…これを機にミツルギさんやカズマさんが仲直りできたらいいとも思うし…」

 

そ れ だ 。

 

何故思い付かなかったのだろうか。ゆんゆんの言う通りこの旅行で一緒することはミツルギさんが打ち解けるチャンスにもなる。ミツルギさんはアクア様を敬愛してるし間違った方向へと行かなければミツルギさん次第で仲直りは難しくないのではないだろうか。そうと決まればミツルギさんにカズマ君達と一緒することを伝えなくては。舵取りは私がなんとかするしかないだろう。

 

「…とりあえず今日はおやつ買って帰りますか…」

 

「前に買ったケーキが好評だったからあれでいいかなぁ?」

 

「そうですね、カズマ君は勿論、ダクネスもあまり食べれなかったですし」

 

なんかもう精神的に疲れてしまった。明日はまたクエストを受ける為にこの王都に来るつもりなのでその時にミツルギさんに相談してみようと、そんなことを考えながらケーキ屋さんの中に入っていった。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

翌日。

 

改めて本日はクエストとなる。屋敷で怠惰の権化のように過ごした私は気持ちを切り替えてゆんゆんと共に王都へと来ていた。

とは言え今日は改めてミツルギさんに旅行へのカズマ君達の同行を説明をしなくてはならない。なおミツルギさんが来るという事は未だにカズマ君達には言えてなかったりする。

 

いつものように冒険者ギルドへと足を運べば、私達はすぐにミツルギさんを見つける事ができた。流石に今回は起きているようで、ゆっくり休めたのか顔色は良さそうだ。軽く手を振るなりこちらへと近付いてくる、もっともその表情は気まずそうではあるけど。

 

「おはよう、…その、昨日は見苦しい姿を見せてしまったね、それと1週間もの間連続でクエストに付き合わせてしまって本当にすまないと思ってる」

 

「おはようございます、私は大丈夫ですからお気になさらないでください」

 

「お、おはようございます、私も大丈夫です。それに私達も何も言いませんでしたし…」

 

そんな挨拶を交わしていたら私はあちこちから視線を感じた。決して悪意やらは感じないのだけどふと耳に意識を集中するとこんな声が聞こえてくる。

 

 

「あれは魔剣の勇者と蒼の賢者か?パーティを組んだって噂は本当だったんだな」

 

「勇者さんはあーいう子が好みなのね…美少女でお似合いではあるけど少し歳の差を感じるわ」

 

「くそっ…やっぱ男は顔なのかよ!」

 

「魔剣の勇者って確か前は違う子達を連れてなかったか?女の子を取っかえ引っ変えかよ」

 

 

ちょっと意識するだけでこの有様である。どうせ噂するならゆんゆんもいれてあげてください…じゃなくて聞こえないように言って欲しいまである。

自分で言うのも恥ずかしいのだけど蒼の賢者の異名は今や王都の冒険者のほとんどが知っている、魔剣の勇者は言うまでもない。

そんな知名度の高い2人がパーティを組んだとなれば下手したら新聞に載るほどの事態らしい、というより実際載っていたようだ。気付いてしまえば当然ながら居心地が悪い、私は目で訴えるようにミツルギさんに目配せしてみた。

 

「…うん、とりあえず場所を変えようか」

 

ため息混じりの言葉には即座に頷く。もはや冒険者ギルドからの喫茶店行きがテンプレになりつつあるのにはこちらとしても同じような気持ちになる。とはいえ現状王都以上に経験になりうる場所はないので妙な噂に対しては無視を決め込むしかない。

 

 

……

 

 

この1週間でミツルギさんはレベル46に、私はレベル45に、そして変異種ティラノの経験値が美味しかったのかゆんゆんのレベルは44に。レベル的にも職業的にもバランスがとれた良きパーティとなっている。流石に40を越えてしまえばレベルは中々上がらないのだけどそれでも討伐クエストを受けるのに何も不自由のない素晴らしいパーティになったと思う。

 

ソードマスターのミツルギさんはクルセイダーほどの防御力はないものの、まさに攻撃は最大の防御を体現したスタイル。パーティの壁となりモンスターの攻撃を魔剣グラムで華麗に捌く。はっきり言えばこの人1人で終わってしまうクエストも珍しくはない。

 

私はアークプリーストでありながら転生特典による攻撃魔法を使える。それは味方や地形に影響はないのでミツルギさんがモンスターに突っ込んだ状態であっても気にせず援護攻撃できる強みを持つ。もちろんアークプリーストとしての支援魔法や回復魔法もあるのでいざという時の生命線にもなりうる。

 

アークウィザードのゆんゆんは爆裂魔法以外の様々な上級魔法を取得していて複数のモンスターがいる際には私以上に活躍する。私にも広範囲攻撃魔法はあるが消費魔力が高いので無闇に連発はできないし何よりも私より攻撃魔法が多種多様、更にテレポートという便利スキルがありパーティには欠かせない存在だ。

 

欲を言えばもう1人、個人的に狙っている人材がいる。

 

近距離及び遠距離火力、回復及び支援と揃っているのにこれ以上は贅沢だと思われるかもしれないがこれはバニルのダンジョンに赴いた際に嫌という程実感した、私とはまた違った視点の支援職、盗賊職だ。

敵感知スキルにより常に警戒して安全性の確保はパーティにとってかなり大きいし盗賊は攻撃以外にもバインドや状態異常攻撃による援護が可能、よって私が今1番欲しいと思っているのは王都でも活動している盗賊のクリスである。

 

問題は彼女は基本的に神出鬼没なのでなかなか出会えない、私とゆんゆんが王都に来て初めてクエストを受けた時に一緒したくらいでそれ以降は全く会えていないのだ。

勧誘しようにもそんな状態なので半ば諦めているのだが出会えた際には熱烈に勧誘する所存でいる。本当に普段彼女は何をしているのだろう。

 

話は大分逸れたものの、私達3人はいつもの喫茶店にて、今日のクエストの打ち合わせをしていた。

 

「ギルドに確認はしてみたけど結局この1週間、今日に至るまで変異種のモンスターは確認されていないらしい、勿論幹部のシルビアの姿もね」

 

「…となると無理に張り詰めても仕方ないですし、しばらくは通常クエストをこなして行くしかないですね…」

 

無論私を狙っているらしき影も現状全く音沙汰はない。この2つの暗躍には頭を抱えるばかりだ、常に気を張っていないといけないし肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていく、やはりこんな状態なので気分転換に温泉旅行は良い案とも思った。誘ってくれたカズマ君には感謝しかない。

 

「それはそれとしてミツルギさん、温泉旅行の件で決まったことがありますので説明したいのですが宜しいですか?」

 

「…あ、うん」

 

その話を切り出すなりミツルギさんは気まずそうにしていた。もしかしたら後々考えて私と似たような心境に至ったのかもしれない…、けどここで私が同じようになった方がより気まずくなる。なので私は自分の感情を押し殺すようになんとも思ってませんよオーラを強引に引き出す、そんなオーラはないけど気分の問題だ。

 

「ミツルギさん、あれですよ、ようは修学旅行のようなものです」

 

「…な、なるほど、確かにそう考えたら幾分か気が楽になるね…」

 

「??しゅうがくりょこう??」

 

どうやらこちらにはそんな風習はないのだろうか、ゆんゆんは訳が分からないよとでも言いたげに首を傾げている。

 

「あー…僕のいた国での風習だよ、学生の時にね、学校の皆と学ぶ為の旅行をするんだよ、そうだな…例えばこの王都の事を知りたいのなら実際に王都に来た方が話だけよりも分かりやすいだろう?」

 

「ミツルギさんのいた国ではそんなことがあるんですね…」

 

ゆんゆんは納得したように頷くが実際この世界で修学旅行は難しいだろうなとも考えた。何故なら私達のいた日本と違いモンスターがあちらこちらに跋扈する世界なのだから。学生となると満足に戦えないだろうし学ぶ為の旅行が命懸けにも程がある。

 

「あれ?ということはアリスのいた国も??そういえばアリスのいた国の話ってあまり聞いた事がないような…」

 

「そ、それよりも詳細が決まったのなら聞きたいな!教えてくれないか?」

 

「そ、そうですね、ゆんゆん、私の国の話はまたそのうちするから、えっと、まず行き先ですが…」

 

慌てるようにミツルギさんが話題を切り替えてくれた。私としてもこれには冷や汗物だったしありがたい。断片的に日本の説明をするくらいなら構わないかもしれないがそれにも予め考えを巡らせておきたいし突然聞かれても余計な内容まで話してしまいそうだ。

とりあえずはぐらかしたけどこれについても考えなきゃいけないのかと内心頭を抱えた。

 

「行き先は水の都アルカンレティアです、これはアクア様の希望だそうで」

 

「あ、アクア様!?まさかアクア様も一緒にくるのか!?」

 

これは流石に予想外だったのか、ミツルギさんは思わず立ち上がり、テーブルにその身を乗り出していた。ただこの状態だとアクア様単独での参加となってしまうのでそれについても説明しなければ。

 

「アクア様と言いますか…アクア様含めたカズマ君のパーティ全員が参加する形になってます」

 

「…っ!?」

 

それを聞いてミツルギさんは落ち着くように席に座ると、なにやら思案しているようだ。やはりカズマ君達と一緒に行くのは気まずいだろうか。不安に思いながらミツルギさんの言葉を待つ。

 

「…そういう事か…まずは礼を言わないとね、切っ掛けを作ってくれることを感謝するよ、ありがとう」

 

「切っ掛け、ですか?」

 

「あぁ、佐藤和真のパーティと親しいのなら僕の話も聞いているだろう?僕とあのパーティはアクセルで揉めて以来それっきりだったからね、次に会う事があれば謝りたいとずっと思っていたんだ」

 

どうやらこちらの心配は杞憂だったようだ。流石にちゃんと謝罪すればカズマ君達も悪いようには思わないだろう。こちらとしても一安心である。

 

「それにしてもアルカンレティアか…アクア様が選ぶのもわかるけど…うん…」

 

「…何か問題があるのですか?」

 

私は地名だけは聞いたものの、そのアルカンレティアという場所については全く知らなかった。ただ行き先を聞いたダクネスとゆんゆん、めぐみんは微妙な顔をしていたし、私自身も何処かで聞いたことはある気がするのだけどどうも思い出せない。こうして目的地を告げてミツルギさんですら微妙な顔をしている。

 

「…水の都アルカンレティア、僕も行ったことはないが確かに水が綺麗で温泉が有名な場所らしい。…それと同時に有名なのは…」

 

「…アルカンレティアは、あのアクシズ教の総本山なの…」

 

言い淀むようにゆんゆんが続けた。私はそれを聞いて一瞬何を言っているのか分からなかった。

 

アクシズ教団…思い返せば苦い思い出しかない。私はそんな場所に行って無事に気を休めることが出来るのだろうか?どうにも嫌な予感しかしなかった。

 

「あ、アリス!?アリスー!?」

 

どこか他に温泉地はないかな…?私は現実逃避するようにそんなことばかり考えて放心状態になっていた。

 

 

 

 

 

 

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