内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 64 悪魔対策

 

 

 

「アリスとミッツさん、ちょっといいか?」

 

場所は変わらずカズマ君の屋敷。夕食も食べ終わりミツルギさんもあまり長居するのも悪いと帰るような話をしていて、ゆんゆんが王都まで送りますと言ったのだけどテレポート2回による往復は地味に魔力を消費してしまうのでアクセルで宿をとると決めていたのだがそんな中カズマ君が声をかけてきた。

というよりめぐみんのみっつるぎさんといいカズマ君のこの呼び方といいもはや固定になっているのだけどこれは素なのだろうかギャグなのだろうか、本人達は至って真顔で呼んでいるので判断に困るしミツルギさんも完全に諦めてるし。

 

「どうかしました?」

 

とりあえず呼ばれるままにソファに座るカズマ君の元へ近付くとミツルギさんもそれに続く。カズマ君の顔はなんとなく困ったような感じで呼ばれた理由は見当もつかない。

 

「今はいいけどアルカンレティアに着いたらお前らのアクア様呼びは禁止な」

 

「えっ?」

 

「……察しはついたが一応理由を聞こうか?」

 

私は予想外の事柄に不思議に思ったけどミツルギさんは理解しているようで落ち着いている。というより突然何故こんなことを言うのだろう…、と少し考えて私も理解することができた。

アルカンレティアはアクシズ教の総本山、つまり右も左もアクシズ教徒だらけ。そんな中でアクア様と敬愛を込めて呼んだらどうなるだろうか。

 

「その顔はアリスも理解したな?勿論アクアにも無闇に名乗るなと忠告はしておくけどアクアの存在がアルカンレティアでどう捉えられようとロクなことにならないのは間違いない」

 

仮にアクア様がアルカンレティアでその女神としての存在を露見したらどうなるだろうか?アクシズ教徒にとって自身の信じる女神様が降臨されていると大騒ぎになるのは間違いない。

そしてアクア様が女神であると信じられなかった場合もまずい。

何故ならアクシズ教徒にとって狂信している女神様の名を騙る不届き者と思われる可能性すらある。

つまり、どちらに転んでものんびり骨休めをしたいこちらにとってロクなことにならないのは間違いない。…それなら別の場所に行けばいいのにとも思ったけど。

 

「…別にアルカンレティアじゃなくてもいいのですよ…?」

 

「それ以上言うな…俺だって気持ちは同じなんだよ…だけどアクアのやつがどうしてもって聞かないんだよ」

 

げんなりして告げるカズマ君の顔は疲弊しきってきてそれには私もミツルギさんも何も言えずになんとなく同情の念を送っておいた。

 

「なぁミッツさん、前にアクアを連れていきたいとか行ってたよな?な?」

 

「……確かにそんなことを言った気もするがよく考えたら女神様は遠くから讃えてこそのものだと思うからな、僕としては遠慮しておくよ…」

 

口ではこんなことを言ってるミツルギさんの顔はかなり引きつっていてカズマ君から完全に目を逸らしていた。先程のお酒の件と今回の話と合わせてアクア様の深いところを察してしまったのだろう。そんなミツルギさんの様子を見るなりカズマ君はけっ、と毒を吐くようにやさぐれていた。

 

 

 

……

 

 

 

 

そんなこんなで時は流れて。

 

アルカンレティアへの温泉旅行の全行程が決まった。なんとウィズさんの参加も決まったらしく、これでアルカンレティアへの旅行の人数は8人となった。アルカンレティアへの道のりはアクセルから馬車を使って2日近くかかる距離ではあるものの、一方で王都からテレポートサービスで飛ぶという手段もあったりする。

正直私としては馬車での移動は勘弁願いたいのが本音だったりする、主に食事が原因で。ゆんゆんもまた同じのようで移動時間を考えたらクエストひとつは受けてしまえるではないかとミツルギさんも同意。

 

ただカズマ君達にしては初めてアクセルからの旅になるわけでテレポートでひとっ飛びは味気ないものらしい。その気持ちはわからなくもないし私もアクセルにずっといたまま当日を迎えていたら同じ感想だったかもしれない。

 

ともあれカズマ君達とウィズさんが出発して翌日に私達3人は王都からテレポートサービスによる移動でアルカンレティアに向かうことになった。

 

 

 

 

……

 

 

 

話は変わってカズマ君達が旅行に行く前日。ふと屋敷でアクア様と2人きりになれた。カズマ君は1人どこかへ行き、ダクネスは実家に一時的に帰っていてめぐみんとゆんゆんは旅行の為の買い物に行っている。ちなみにこの日の私達のクエストはお休みだ。アクア様はるんるん気分で旅行の支度をしていて、本当にアルカンレティアへ行くのが楽しみに見える。確かにこれは下手に行先の変更を促すのは難しそうだ。

 

「そういえばアリス、前々から思ってたんだけど貴女悪魔に狙われたりしてない?」

 

「…悪魔ですか?」

 

ふと悪魔と言われて思い当たるのはウィズさんの店にいるバニルくらいしか思い浮かばない。というより悪魔なんて早々頻繁に出会いたくない。…そんな呑気なことを考えていて、私に戦慄が走った。

 

今アクア様は狙われてると言った。悪魔はさておき狙われてるという点では心当たりはある。ありまくる。

 

「…狙われてるというのはどういう事ですか…?」

 

「そのままの意味よ、貴女の服や前にあげた魔晶石は私の力が込められているのよ?つまりこの女神アクア直々の加護が働いているわけ」

 

「……初耳なんですけど…、詳しく聞かせてもらいたいのですが」

 

「あら、言わなかったかしら?…まぁいいわ、その加護は身に付けている貴女だけじゃなくて周りの人にまで効果があるわけ、まぁあまり離れすぎたりしたら難しいかもしれないけどね」

 

何気なく言われた事柄は私にとって非常に重要なことだった。そこまで聞いて私はあの襲撃を思い出す。あの襲撃の発端は遠く離れていたアイリスに着いていく形であのような人気の無い場所にまで誘導された。だけどそれ以降そのようなことはない。

…だがもしも、犯人がしないのではなくてできないだけなのだとしたら。あの襲撃以降私は基本的にゆんゆんと離れることはほとんどなかった、ミツルギさんに対してもだ。そもそも襲撃される可能性があるのだから安易に味方から離れるような真似はしない。だからこそ私の服によるアクア様の加護で守られていた。なので犯人は襲いたくても襲えなかった。…そう考えると辻褄は合う。

 

「それでね、結構前からその服、微量だけど悪魔の匂いがするのよね、その度に私が浄化してたんだけど」

 

「…アクア様、今度美味しそうなお酒買ってきますね」

 

そういうなり私は居間から足早に出ていく、最後に見たアクア様の顔は訳が分からずポカーンとした少し間抜けなものだった。

 

 

自室に戻り、ベッドに寝転ぶとそのまま物思いに深ける。自分の中であの襲撃のことを整理していた。

 

まずアクア様の言う事に間違いがないのならあの時アイリスを誘導したのは悪魔の力によるもので間違いないだろう。そしてあの日の後も何度か私や私の周囲の人を操ろうとしていたが私の服によるアクア様の加護でそれは無効になっていた。

 

つまりこの服を違う服に変えてから王都に行けばまた襲撃がある可能性は高い。

 

……だけどそうなるとどうしたらいいのか。襲撃が来る可能性が高いと分かっているこの状態でゆんゆんに協力を頼むのは…正直に言うと怖い。

確かにあらゆる対策はした、だけど次はどんな手を使ってくるかわからない。あの襲撃での場面が頭の中にフィードバックする、ゆんゆんが攻撃を受け止め弾き飛ばされ無常に剣を振るわれたあの時の光景が。あの時はアイリスが助けに入ってくれて事なきを得たものの、次も大丈夫という保証はない。

 

もしもゆんゆんに何かあれば私は……――

 

そこまで思い詰めて、ふと思い直す。…正直ここまで思い詰めていたのに頭を切り替えられた自分に驚いた。

切っ掛けは王都行きの馬車で私がゆんゆんに言った言葉。…相手の気持ちになって考えること。

仮にこの状況が、私のこの状況がゆんゆんのもので、ゆんゆんがそれを私に隠して1人でなんとかしようとしたら私はどう思うだろうか。

 

きっと私はゆんゆんに本気で泣きながら怒ると思う、私はそんなに頼りにならないのですか、と絶対に言う自信がある。

 

それを今、私はしようとしていた、これではゆんゆんに怒られても泣かれても殴られても文句は言えない、流石にゆんゆんが殴るのは想像つかないけど。

 

ではどうしたら正解になるだろう。私は考えを巡らせる。

 

…これは既に私1人でなんとかなる問題ではない、少なくとも悪魔が絡んでしまっている以上それは間違いないかもしれない。

だからと言ってやっぱり無闇に他の人を頼るのも申し訳なさがある、例え相手の立場で考えたとしてもそんな簡単に割り切れる事でもなかった。

 

悪魔の力と聞いて真っ先に対処法を求められるのはバニルだろう。しかしバニルからは既にこれ以上の情報の開示には対価が必要だと言われている。あの時は悪魔と契約なんて怖すぎるし嫌な予感しかしないので断ったけどそもそも対価というのがなんなのか…それが分からないしこれは聞くしかない。

 

そうと決まれば善は急げ。私はベッドから飛び起きるなり寝ていて乱れた髪を整えるとそのまま部屋を出て屋敷を後にした。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

―ウィズ魔法店―

 

相変わらず閑古鳥が鳴いているようで店はおろかその周辺にも人っ子1人見当たらない。というより周辺にお店が全くない場所なのでこのお店を知らない冒険者も割といたりする。私も当時この街に住み始めてからこの店を見つけるまでに1ヶ月かかっていたりする、それも見つけたのは偶然見知らぬ街の散策という名目でなのだから。

 

「いらっしゃいませー」

 

扉を開けるとカウベルが鳴り響き、いつものようにウィズさんの優しげな声が聞こえてくる。

 

「こんにちはウィズさん」

 

「アリスさんでしたか、先日はありがとうございました、お陰様で旅行に行けるほどの余裕もできました♪」

 

先日と言うのは例のコロナタイトの加工代金である1200万エリスのことである。こちらとしてはあの後のバニル討伐での2億エリスは結局4人で分けることになったので5000万エリス貰えているし全く痛手にもなっていない。ウィズさんに渡すつもりだったけどバニルが生きているのに渡すのも変な話だろう。

 

「…ところでバニルさんはいます?」

 

「バニルさんですか?バニルさんならカズマさんと商談があると言って出かけましたが…お会いになりませんでした?」

 

「……商談…ですか?」

 

カズマ君は屋敷にはいない。ちょっと外を散歩してくると言って出ていったきりだったがなんとなく納得はした。商談の内容はさっぱりわからないけどまさかバニルがあの屋敷に来れるはずがない、来てしまったら女神と悪魔の戦争が始まってしまう。そうなると屋敷も無事ではすまないどころの話でもなくなる可能性があるので別の場所でやっているのだろう。

 

…それにしても出鼻をくじかれた感が否めない。中々思い通りにいかないものだと内心苦笑してしまう。とりあえず世間話でもしてついでにストックが少なかったマナポーションでも買って帰ろうかなと店内を見回してみる。そこでふと思い至る。

 

「ところでウィズさん、対悪魔用の魔道具とかあったりしますか?どんな形の物でも構いませんので」

 

「アリスさんが魔道具を求めるのは珍しいですね…それも対悪魔用…何かあったんですか?」

 

ウィズさんの心配そうな視線と声に私はしまったと内心後悔した。よく考えたらこんな注文してしまえば不審に思われるのは当然だ、どうも私にはあまり余裕がないらしい。…とりあえず嘘ではない程度に話すしかないか。

 

「アクア様に言われたんですよ、私が悪魔に狙われてるって…それで怖くなって何か対処法があればとバニルさんを尋ねたのですがいないのなら魔道具でなんとかならないかな、と思いまして」

 

「そうでしたか…それは怖いですよね…そういう事でしたら少し待ってくださいね、探してみます」

 

身震いを起こしながら共感してくれるのは親近感を感じていいのだけどこの人リッチーですよねと思い出すと苦笑しかできない。というよりリッチーと聞いた今となっても違和感しかない、どう見ても美人の優しいほわほわお姉さんにしか見えないし。

なんて考えていたらお店の奥からガラガラと物音が鳴り響く。一体奥にどのように魔道具を置いているのか不安でしかない。

 

「お待たせしました、3つほど見つかりましたよ」

 

「本当ですか?…で、どのような物なのです?」

 

見つかったのは3つと言う。ただこのお店はウィズさんのお店。初めて来た際にこのお店の魔道具のガラクタ具合は身をもって知っている。あまり期待はしない方がいいだろう。

 

「1つ目はこちらになります、これは悪魔が近くにいると光を放って知らせてくれるのですよ!」

 

そう言ってウィズさんが見せてくれたのは透明のビー玉のようなものに細いチェーンがつけられているシンプルなキーホルダーのようなものだ。確かにこれなら警戒するのにもいいかもしれない。ただ問題はデメリットだ。

 

「…ちなみにデメリットは…?」

 

「デメリットは…半径1mまで近付かないと反応しません、更に持っているだけで索敵に必要な魔力が消費されます」

 

「…2つ目お願いします」

 

半径1mだけなんて狭すぎるとか持ってるだけで魔力消費とか呪われてるんじゃないかとか色々言いたかったけど言うだけ無駄なので言わない。買わなければいいだけなのだ。ウィズさんは本当にガッカリしているけど逆に何故売れると思うのか本当に理解できない。

 

「良い品なんですけどね…2つ目はこちらですね、悪魔から受けた攻撃を無効化します!」

 

「…無効化…ですか…」

 

ウィズさんが出したのは特に変哲もない黒いマントだった。正直に言えばこれも立派な対悪魔用装備なのだろうけどこれはデメリットを聞くまでもなく無用の品だ。既にアクア様の加護があるのにそれ以上の効果を見込めるとは思えない。私はそのまま首を横に振ることでいらないことを無言でアピールした。

 

「これもダメですか…3つ目はこちらになります、これは見えない悪魔から攻撃やなんらかの魔法などを受けた時に反応して悪魔のいる位置を知らせてくれます、遠くにいる悪魔でもバッチリ捕捉しますよ!」

 

そう言ってウィズさんが取り出したのはまるでの〇太君がしてそうな大きなレンズの丸眼鏡。これはかなり使えるのではないだろうかと期待を膨らませてしまうものの、問題はデメリットだ、私はそっとウィズさんに視線を向けてそのデメリットの詳細を待つとそれを察したウィズさんはゆっくりとその口を開けた。

 

「…デメリットは効果が現れると悪魔の位置以外何も見えなくなりますね、眼鏡を外すと見えますが外した瞬間に効果がなくなります」

 

これは微妙なデメリットだと私は頭を抱えるように考える。確かに私1人ではこの眼鏡があっただけではあまり意味が無いけど仲間がいたらどうだろうか。

位置さえ分かれば仲間を誘導して悪魔の場所を突き止められるし襲撃はなくても悪魔の力が日頃私に向いているらしいのでこれなら襲撃を待つまでもなく悪魔を見つけることができる。

 

「…これはおいくらですか?」

 

「買ってくださるのですか!?こちらは500万エリスになります!」

 

凄く嬉しそうに言うウィズさんだけどこれっきりの効果で500万エリスはいくらなんでもきつい。払えないわけではないけどきつい。流石に即決はできない。

 

「ウィズさん…その…もう少し安くなりませんか…?」

 

「うーん…アリスさんはお得意様ですし…そうですね、わかりました!では400万エリスでどうです?」

 

少し悩んだようにウィズさんがそう言うけどこの眼鏡効果が限定されすぎてて多分50万でも買い手がつくのは難しそうだと思いながらも私は決断する。それでも今の私が欲しいことに変わりはないのだから。

 

「ではそれで買います!」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

元よりバニルの手を借りない限りはこれしか手がなさそうだし痛い出費ではあるけどそこは仕方ない。何よりこの頭を悩ませる事態の進展を祈って、私はこのカッコ悪い丸眼鏡を買うことにしたのだった。

 

 

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