内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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さぁアルカンレティアへ……まだ行きません()




episode 65 謎の喫茶店

 

 

 

―アクセルの街―

 

丸眼鏡を買ったもののすぐに行動を起こすつもりもない。慌てなくてもこの服がある限りは今のところ問題なく過ごせている、ならばとことん準備を重ねて安全性を重視した上で挑むべきだし何よりも旅行は明後日に迫っている。だから今は色んな悩みを忘れて、温泉旅行で心身共に癒したい。

まだどうなるかはわからないけど自分にとっての解決の糸口ができたことはそれだけでも私の心を落ち着かせてくれた。ウィズさんには感謝しよう、少し痛い出費だったけど。

 

 

そんな事を考えながら昼間のアクセルの街をゆっくりと歩く。

 

やっぱりこの街は落ち着く。活気もありどこか和やかで、王都ほど大きくはないけど決して小さくはない街。この世界に転生して初めて来た場所だからこそ愛着があるのかもしれない。

街の外から吹く風は草原と牧場の藺草の香りを運び、自然と共存する人工物の数々は見た目も彩りも絵画のように見えてしまう。なんでこんなに綺麗な街なのに領主はあんなのなのかと思うけど別にこの街の素晴らしさは領主のおかげではない、そこに住む街の人々皆の生きている証なのだ。

 

気が付けば見慣れない建物が見えた。どうやらぼんやりと歩いているうちに普段行かない場所に来てしまったようだ。一瞬だけまさかと警戒するけど今はいつもの服を着ているし私は普段からのんびり屋でもあるのでそれはないかと考えを改める。

改めてその建物を見ればそこまで大きくはないけど見た感じ喫茶店だろうか、ピンク色があちこちに見えてなんだか可愛らしさをアピールしている感じがした。

 

そういえばお昼ご飯を食べてなかったことに気が付くとともに首にぶら下げていた銀の懐中時計を開く。時間は12時半、いい具合にランチタイムといったところか。このまま屋敷に戻っても多分アクア様しかいないし新地開拓の勢いでこのピンクの喫茶店にはいってみようかな?と私は足を運んでみた。

 

「いらっしゃいませー……ひぃ!?」

 

入口前には白い髪の小さな女の子が箒を持って掃除していた。随分可愛らしい子だけど私としては初めて見かける顔だ。ただ私の顔を見るなり驚いて怯えているように見えるのだけど一体なんなのだろうか。

 

「あ、あの…どうしました?」

 

「い、いえ、なんでもないです!すみませんすみません!」

 

何故か女の子は半泣きしながら謝りはじめてしまう始末。うん、わからない。私が何か怖がらせるようなことをしてしまったのだろうか。ここまで一方的に謝られるとむしろ罪悪感しかでてこない。

 

「何故そんなに謝っているのです?なんでもないようには見えないのですが…」

 

「ほ、本当になんでもありません!どうかお構いなく…」

 

私はできる限り少女を落ち着かせるように優しく言ったつもりなのだけどそれでも落ち着く様子はないようだ。これには私も困惑するものの、お構いなくと言われてしつこく話しかけるのも悪いかなと思い、私はお店の中へと足を運ぶ。すると頭を下げていた少女はなにやら慌てだしているけど私は足を止めなかった。

 

「いらっしゃいませー…っ!?」

 

中に入るなり私は呆然としてしまった。理由は内装とウェイトレスさんの姿にある。店内はピンク1色であしらわれており、アクセントに赤と黒が入った印象。そしてウェイトレスさんの姿がやばい。まるで水着のような露出の高さ、それでいて背中に蝙蝠のような羽、そしてピンク色の長い髪で非常に色っぽい。

 

「…えっと…ここは、喫茶店なのですよね?」

 

「えっ…あ、はい!ようこそいらっしゃいました!おひとり様ですか?」

 

際どい格好をしたウェイトレスのお姉さんは明らかに挙動不審ながらも営業スマイルを崩さないまま接客を続けている。うーん、日本で言うところのコスプレ喫茶なのだろうかと私は何となく居心地の悪さを感じた。ただのコスプレならいいのだけどちょっと露出がひどい。日本でやったらまず警察が介入しそうなレベルだ。ただここは日本ではないのでその辺は割り切るしかないだろうか。

 

「…あ、はい、私だけです」

 

言いながらも後悔する。1人で喫茶店というのもなんとなく寂しいものだ。これなら1度屋敷に帰ってアクア様を誘えば良かったかなとも考えながらも案内された席についた、……けど。

 

「お客さんは男の人ばかりなのですね…」

 

見渡す限り客の数はそこまで多くはないのだけど視認した限りでは男の人しか見当たらなかった。このコスプレといいもしかしたら男の人をターゲットにした喫茶店なのかもしれない。ますます居心地が悪くなるばかりだ。

 

テーブルに添えられていたメニューを見れば最低限の喫茶店としての品目しかない。サンドイッチ、オムライスなどの洋食からコーヒー、紅茶、オレンジジュースなどの飲み物。

 

「サンドイッチとオレンジジュースでお願いします」

 

「か、畏まりました、少々お待ちください」

 

ウェイトレスさんは確認をとるなり早足で行ってしまった。一体何をそんなに怯えているのだろうか。それにこの窮屈な感覚はなんなのだろう。まるでダンジョンの中に入ったような感覚には流石に落ち着かない。

 

…そこでアクア様の言ったことを思い出す。もしかしたらこの感覚は今現在例の悪魔という存在が私の周囲にいることを示しているのか、それに私の服にかかっている加護が反応しているのか、そう思ってしまえば呑気にはしていられない。私はその場で杖を構えて立ち上がった。

 

「…っ!?」

 

するとこちらから見えるウェイトレス全員が私を警戒する。怯えるようにしていたり敵意を見せたり様々だがこの反応は予想外だった。私としては以前襲撃してきたことを想定して身構えたのだが、このウェイトレス達は私を恐れている。これは下手したら全員人間ではない可能性すら見えてきた。何故こんなアクセルの街中で堂々と喫茶店をしている人達が?ただこうして立ち上がって杖を構えたものの、攻撃すべきなのかも判断が難しい。そもそもこのウェイトレスの人達を警戒していて立ち上がった訳では無いのでこの状況には戸惑いも大きかった。

 

「…聞きたいのですが…貴女達は人間ではありませんよね…?」

 

「……」

 

1番近くにいたウェイトレスに声をかけたものの、相手は何も言わず動かない、いやむしろこちらを怖がっていて動けないが正しいのかもしれない。

流石に攻撃をしかけてくるのなら容赦するつもりはないけどこうも怖がられるとやりにくい。例え人外の存在であってもこの街にはウィズさんの例があるのでこちらとしては危害を加えるつもりがないのなら手を出す気は無い。

 

 

「…貴女達が人に害なす者ではないのならこの杖は収めます、ですから質問に答えてくれませんか?」

 

それでも私は例の襲撃での悪魔を想定していたので、その顔は強ばっていると思われる。落ち着こうとすれば自身の胸の鼓動が聞こえそうになる、結果言い方が鋭いものになってしまったかもしれない。ウェイトレスさんはその場にへたりと崩れるように座り込んでしまった。

 

「アリス!待て!!」

 

そんな中ふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くとそこには金髪の赤い服を着たかつてのパーティメンバー、ダストがいた。よく見れば後ろにキースも見える。

 

「ダスト、キース!?」

 

「とりあえず落ち着け!ほら、お姉さんはやく!」

 

「は、はい!す、すみません、ご注文のサンドイッチとオレンジジュースです…」

 

急ぐように料理を持ってきたウェイトレスさんがテーブルに向かい、同時に崩れるように座り込んだウェイトレスさんは他の人達が肩を貸して起こし、店の奥へと運んでいた。気付けば悪者のような私の有様に罪悪感が浮かぶ。

チラリと見ればごく普通のありふれたサンドイッチとオレンジジュースがテーブルに置かれていた。とりあえず知り合いの存在で少しは落ち着けたけど私の服に意識を持っていけば未だに何も変わってはいない。おそらくこれは変わらずこのウェイトレス達のせいなのだろうと確信はした。だけど話を聞いてからでも遅くはない。

 

「…説明して、くれるのですね?」

 

「あ、あぁ」

 

聞くなりダストは安堵したようなそぶりを見せるものの落ち着きがない、それはキースも同じのようだ。とりあえず話してくれるのなら問題はないかと私はそのまま席に座る。ただ出された物を口に入れる気にはなれなかった。

 

 

 

……

 

 

 

 

視点変更―サキュバス先輩―

 

 

私達サキュバスはこのアクセルの街の隅に表向きでは喫茶店を経営している。だけど裏は違う、男性の客から気持ち程度の金銭と生気をもらうことで客が望むどのような夢をも見せるというものだ。

無論生気と言っても微量の物で客の生活に支障はない。平和的なこのシステムは男性冒険者に好評で、私達も安全に生気を得ることができる。

何故このようなまどろっこしいやり方をしているか、それは私達サキュバスは種族的には悪魔とはいえ下級悪魔、流石に駆け出し冒険者程度になら勝てるがレベル20を越えた中堅冒険者あたりになると手も足も出ない。つまり弱いのだ。悪魔として、魔物として人間を襲い生気を奪っていたら私達は瞬く間に冒険者に絶滅させられてしまうだろう。

だからこそこのような方法をとってはいるものの、そもそもサキュバスという存在そのものが人間の女性にしてみれば完全に害悪たる存在である。それもそうだろう、自分の意識している異性が寝取られでもしたらたまったものではないということだ、だからこそ私達はこうしてひっそりと男性冒険者のみを客として扱い、今日まで安全にこの街で存在できていた。

 

しかし、今日…恐るべき存在が来店した。

 

普段から稀に女性のお客様が来店することはある。だからそれに対しての対策はきちんと組んでいる。あくまで普通の喫茶店としてもてなせばいいし二度と来ないように料理の質は落としてある。美味しいからまた来るなんてことのないように。

 

だから今回の客は私達にとって度肝を抜かされた。

 

今やアクセルどころか王都でも活躍する蒼の賢者と呼ばれる高レベルのアークプリースト、アリスという可愛らしい女の子だ。

その存在は私達の中でも有名だ、何故なら本来の客である男性冒険者から夢に出してくれと頼まれたことは数えきれないほどにある。

 

女性の上に高レベルの冒険者、さらに私達の1番の天敵である上級職のアークプリースト、私達が恐れて警戒する材料は完全に揃っていた。

 

なんとかここはただの喫茶店と銘打って帰ってもらわなければならない、そしてできれば二度と来ないでほしい。気付けば私達は自然と警戒するようにしていた。だけど…流石に高レベルのアークプリーストは誤魔化しきれないようだ。

 

「…聞きたいのですが…貴女達は人間ではありませんよね…?」

 

この言葉が聞こえてきて私達全員は恐怖に震えた。何を早まったのかいちかばちか襲いかかろうとする大バカな子がいたので私は慌てて抑えた。仲間に死にに行くような真似をさせる訳には行かないから。

どうするか戸惑っていると客の中から声をあげて静止させようとする男性がいた。最近この店に入り浸るようになったダストとキースという青年だ、確か彼らは彼女とパーティを組んでいた仲だったらしい。こうなったら彼に託すしかないと、私達一同は彼らに期待の視線を送っていた。

 

 

 

 

 

 

視点変更―アリス―

 

 

「――っと言う訳だ、だからできたら何事もなかったようにここから去ってくれたら助かる、なんならここの支払いは俺達がしてやってもいい」

 

私はダストとキースからこの店の事情を1から説明されていた。

 

2人曰く、このお店は私の思う通り低級悪魔達が切り盛りしているらしい。だけどここの店員に人間に対する敵意はなく、共存を望んでいる。

私に対して怯えているのは私が有名なアークプリーストだから、確かに悪魔にとってアークプリーストは天敵だろうとそこは納得した。

この悪魔ちゃん達は見た目は美人揃いなので男性冒険者の溜まり場になっているのだとか。

 

ここまで聞いて、私はそっと杖を掲げた。

 

「…おい、アリス?何を…」

 

不審に思ったのかダストが聞いてくるが私にはどうにも腑に落ちない点があった。

見た目が美人の低級悪魔なんてあれしかいないではないか、そんなことくらいは予め魔物について調べている私なら即分かる事だ。その種族はサキュバス、そう思えばダストとキースは嘘は言っていないのだろう。だけどそれだけでは納得ができない。

 

「大丈夫ですよ、悪いようにはしません」

 

私は言葉とともに魔法を詠唱する。杖の先端が丸く白い光に覆われると、ウェイトレスの人達、もといサキュバス達は恐怖に震えている。まぁ知った事ではないのだけど。

 

「セイクリッド・ブレイクスペル!!」

 

私はダストに向けてその白い光を照射した。杖から放たれた光の球はダストに直撃して、程なくして消えた。…手応えは…なかった。

 

「い、今のは…?」

 

ダストは驚き硬直して言葉がでないようだ、代わりにキースが聞いてきた。

 

「セイクリッド・ブレイクスペルですよ、呪いなどの効果を無効化するものです」

 

流石にアクア様ほどの力は未だにないのでベルディアの死の宣告とかの解除は多分無理だけど低級悪魔のスキルくらいなら私でも余裕で無効化できる。

 

サキュバスのスキルには魅了(チャーム)という異性を誘惑して意のままに操るスキルがある。私はこれがダストに使われていないか試したのだ。流石に私では魅了されているのか見た目ではわからないので。

 

ただダストを見る限りでは変わった様子はない、これはつまり魅了を受けていなかったということになる。そう思えばダストの言うことに嘘はないのだろうと、私は自然とオレンジジュースを口に入れ、飲み込むとサンドイッチを手に取り、食べ始めた。

 

…多分私は今微妙な顔をしていると思う。まずい訳では無いけど特に美味しいとも思わない。例えるなら無機質なコンビニのサンドイッチを食べているような感じ。そんな私の顔をキースは落ち着かない様子で見ていた。

 

「…頼むアリス、ここの事はどうかリーンや他の女性冒険者には…」

 

「…さっきも言いましたが害をなさないなら私は何もしませんよ、事情も分かりましたし誰にも喋りません」

 

サキュバスという存在についても前世やってたゲームの知識と合わせてあるので存在そのものが女性にとって悪なのは理解している。だけど私個人としては私含む人間に特に害がないのならどうでもいいが本音だったりする。知り合いの男性陣がここにいようと何とも思わない…まぁミツルギさんが居たらちょっと嫌かもしれないけど、イメージが崩れる的な意味で。

私自身が恋愛事情にうといせいなのかもしれないがこれは昔からなので仕方ないことだ。いくら見た目が変わっても心はそのままなのだから。

出されたサンドイッチも特に美味しいとも思わないし、二度と来ることはないだろう。口元を拭くなり私は立ち上がる。

 

「それでは、奢って頂けるそうなので遠慮なく。ご馳走様でした」

 

なんとなく無心でそう言っていた。もしかしたらやっぱり心底には嫌悪感もあるのかもしれない、こんなドライでいても私も1人の女の子なので。

店を出るまでの間、サキュバス達とダストとキースの気まずそうな視線はずっと私に向いていた。そんな居心地の悪さから私は足早に帰路へとつくのだった。

 

 

 

 






勿論夢云々のことはアリスは知りません。仮に自分が夢のネタにされていると知ったら全力で店を潰すと思います()
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