―アルカンレティア・ホテル食堂―
流石に待たせすぎたと慌てて食堂へと走ったけどこのホテル広すぎて散々迷ってたどり着くまで無駄に時間がかかってしまった。部屋にテレポート登録してたゆんゆんを見て大袈裟だなと思っていたけどそんなこともなかった。
そして食堂に着いたら着いたでアクア様が私のそばに来るなり私の手を引っ張って皆から離されてしまった。どうしたのだろうか。
今は食堂を出て、通路を少し歩き人気のないソファなど置いてる簡易的な休憩室のような場所だ。そこまで歩くとアクア様はこちらに振り向いた、その表情は険しい。
「アリス、何があったの?悪魔の気をめちゃくちゃ纏ってるんだけど?ちょっと女神としてほっとけないレベルなんですけど?」
言われた瞬間私は目を逸らした。と言うより気付くのが早すぎる。私としても念の為にセイクリッド・ブレイクスペルや浄化の魔法を使っておいたのだけど効果はなかったようだ。
何よりこの件に関しては旅行が終わってから話すつもりだったのでアクア様が即気が付いたことは私にとって最悪ともいえる。
「…すみませんアクア様、皆を心配させたくなくて…」
「……わかったわ、皆には言わないから、とりあえず私には話しなさい?」
気が滅入っていたせいか、少し涙ぐんでしまった。そんな様子に同情したのか、アクア様は溜息まじりに言うとそのまま傍にあったソファに腰掛ける。私もそれに続いた。
「……夢を見たんです…」
「夢?」
そこから私はアクア様に夢の詳細を事細かく伝えた。できるだけ理解してもらえるように。アクア様は難しい顔をしていたけど次第に納得したように表情が晴れると、私に掌を向けて力を込めた。
「私の加護を避けて意識だけをアリスに送ったんでしょうね、そんなことできるのはウィズんとこの仮面レベルの悪魔よ?それともあの馬鹿悪魔の仕業なのかしらね?」
「いえ、それはないと思います、彼がその存在のヒントをくれた部分もありますし」
もしかしたらバニルを庇うような発言が気に入らなかったのかもしれない。その時のアクア様の表情は少し不機嫌に見えた。
「……ふーん。とりあえず私の加護を強化しておいたからこれなら意識のいの字もはいらないはずよ、浄化もしておいたしもう大丈夫だから安心しなさい」
そう言うとアクア様はソファから立ち上がるなり、私にその手を差し伸べた。
「ほら、はやく行くわよ?皆ご飯待ってるんだからね!」
少しだけ、間が空いた。差し出された手を取ろうとするも、手が、身体が動かなかった。
「ちょっと!?どうして泣くのよ!?」
それでもゆっくりとその手を取ると同時に私の涙腺は緩んでいた。一瞬何故涙が出たのかわからなかったけどすぐに理解した。
私は今のこの仲間達の存在が凄く嬉しいのだろう。『あの時』には全く存在することの無かった味方が、仲間が、友達が、親友がいることが。
この時…あの夢の恐怖が、かつての前世での孤独と重なって怖かったのだと自覚した。
それが取り払われると、嗚呼こんなにも清々しい。
頼りになると感じた瞬間は幾度となくあった。でも今日感じたものは何よりも大きかった。
もし前世で…こんな人達と出会えていれば……――
そう一瞬考えて、首を横に振ることで落ち着けた。
だってあの前世があって死んだからこそ、今この人達と巡り会えているのだから。
それはなんとも皮肉な巡り合わせだな、と、私は内心この境遇を複雑な想いで笑っていた。
……
食堂に戻ると広いフロアにも関わらず居るのはカズマ君達だけのようだ、どうも今日泊まりに来た客は私達だけらしい。近づくにつれて皆の心配そうな視線が私に刺さる。流石に待たせすぎてしまったと思うと自然と俯くようにその視線から目を逸らした。
「すみません、大変お待たせしました」
時刻は既に20時半、1時間も経つのに皆私を待つ為に、食事には未だに手をつけられていないのにはちょっとした罪悪感が芽生えた。
「あぁ、問題ない。かなり疲れていたようだな、今日は食事が終わったらまたゆっくり休むといい」
どこか安らいだ様子でダクネスが告げると、他の人もそれに続くように言葉を投げかけてくれた。
「僕もさっきまで寝ていたし、寝不足な上に今日の出来事の後では仕方ないだろう、すまないな皆」
「別の意味で疲れているだけのような気もしますけどまぁいいでしょう」
「ちっとも良くないから!!さっき説明したでしょ!?」
雰囲気から察するに誤解は解けているようだがめぐみんのいたずらっぽい笑みには私も苦笑せざるを得ない、しばらくいじられそうなのだから。
それにしてもカズマ君は疲れ果てているのだけど大丈夫なのだろうか?どことなくぐったりしていた。
「あの、カズマ君?もしかして待たせすぎちゃいました?」
「いや…俺達は夕方に此処についたんだけど…やっぱり俺達もテレポートにしとけば良かったなぁ…と」
「…あぁ…なるほど、馬車の移動は退屈ですし食事も味気ないですからね…」
「いやそういうのじゃなくて」
「?」
ぐったりしたままのカズマの嘆くような言い方には流石に首を傾げた。何かあったのだろうかとウィズさんを見ればウィズさんも苦笑している。
「聞きたい?聞きたいか?道中ダクネスがモンスターを呼び寄せてアクアがアンデッドを呼び寄せておまけにようやく着いたらアクシズ教徒の連中に揉みくちゃにされた話なんだけど聞きたいか?」
「…いやそれ既に言ってますよね…その、お疲れ様です…」
そんなカズマ君の愚痴を聞いていたら待ちきれなかったのかめぐみんは既に目の前のご馳走を勢いのままに食べていた。それに続くように他の人達もスプーンを手に食事を始める。
別にお堅いなんらかの集まりでもない、こうやって私が来るまで待っててくれただけでもありがたいし文句はないのだけどめぐみんの食べ方はいつもながら完全に女の子を捨てている。
それを横目に私も料理に手につける。流石に高級ホテルなだけあってその味は王都のレストランにも引けを取らない美味しさだ。空き皿が出来るとすぐさま違う料理が運ばれてくる。特にめぐみんとウィズさんの周りが目まぐるしい。
「美味しい…凄く美味しいです…あぁ、幸せ……」
幸せそうに料理を次々に口に運ぶウィズさんを見て思うのは普段パンの耳がご馳走と言ってる人がこんな豪華な料理を食べて胃がびっくりしないのだろうか。リッチーだからそういうのはないのかもしれない。
「そうだ皆さん、食事が終わったら温泉に行きませんか?アルカンレティアの温泉は初めてなので凄く楽しみにしてたんです」
そういえば此処に来た本来の目的としては1番に温泉だったと気がつけば、私としても楽しみになってきた。アクア様のお陰で落ち着いたとはいえ、心労的にしんどいのでリフレッシュしてしまいたい。
「お供しますよ、私も楽しみにしてましたので♪」
「温泉なら私も行きたいけど…」
「流石にアクアはやめておいた方がいい、いくらなんでも飲みすぎだ」
「むぅぅぅ……」
アクア様は既にお酒を呑んで完全に顔が真っ赤だ。というよりアクア様が温泉に入って大丈夫なのだろうか、確か以前から触っただけのポーションやら紅茶やらを浄化して水に変えてしまったらしいのだけど。
「いやお前が温泉に入るのは駄目だろ、完全に失念してたけど」
「はぁ!?なんでよぉぉ!?」
「佐藤和真、いくらなんでもそれは…」
「あぁ、ミッツさんは知らなかったな、こいつは液体に触れるとどんなものでも浄化して水にしてしまうんだよ」
「確かにそんなことがありましたね、アクアには気の毒ですが部屋にあるお風呂で我慢してもらいましょう、あれもかなり豪華な造りでしたし」
案の定カズマ君がつっこんでくれた。流石にそんなことになったら大騒ぎになることは間違いない、ミツルギさんは絶句してるし一緒に入らなくて済んだからかウィズさんはホッとしている…というよりそんな異常なことまでできることを知られているにも関わらず未だにアクア様を女神だと信じてないダクネスとめぐみんなんだけど私としてはそちらの方が疑問に思ってしまう。薮をつつくような真似をするつもりもないので何も言わないけど。
……
―ホテル内温泉脱衣場―
さてさて温泉なのですが先に言っておきましょう。
ウィズさんと入ることをこれ程後悔するとは思っていませんでした。
今はアクア様以外の5人の女性陣でいるのですが、あれですか、これが
「凄いなぁ…あんなに大きくて美人さんで…羨ましい…」
「ほう、それは私に対する当てつけですね、その喧嘩買おうじゃないか!!」
「えぇ!?」
めぐみんと完全に意見が一致した瞬間である。それだけ大きくて他が羨ましいとかなら私はどうなるんだ。…とはいえもはや考えるだけ虚しいのでさっさと温泉に入ってしまおうと私はタオルを身体に巻いて引き戸を開けた。
そこは絶景だった。綺麗に加工された白い石は床や湯船に扱われ、星空を見渡せる露天風呂。湯気が立ち込み、温泉は白いにごり湯になっている。正直に言えばこれだけの設備をこの世界で実現出来ていることに驚きだ。そして広い上に今のところ他の客はいないので完全に貸切のようだ、下手に他の客がいたら気を遣うのでこれは運が良かった。
「こんな大きな温泉は初めてみましたね…」
「私も…凄いねこれ…」
「こんな広い温泉を私達だけで貸切ですか♪本当に贅沢ですねー♪」
ウィズさんは嬉しそうに掛け湯を行うと私達もそれに続く。この世界での温泉は初めてなのでマナーというか勝手がわからないのだけどそこは周りに合わせておこう。普通だと温泉に入る前に身体を洗ったり、タオルを外したりするのだけど皆を見ていると掛け湯だけでタオルを巻いたまま入っていた。いいのかなと思いながらもそれに倣った。
「ゆんゆん、少し奥に行ってみましょうか」
「う、うん」
温泉に浸かりつつ湯気で見えにくい奥へと進む。いい感じに岩場があるのであそこに落ち着こうと近付くと、人影が見えた。
「あ、あれ?」
「どうしたの?アリス」
相変わらず湯気で見えにくいのだけど確かに人影が見えた。目を凝らして見ても今見たら誰もいない。…というよりも誰かがいることはおかしい。
「…今誰かいたような…」
「えぇ!?だって脱衣場には私達の服しかなかったよ?」
ゆんゆんの言う通り脱衣場には私達以外の服は見当たらなかったので誰かがいるはずがないのだ。そう考えると恐怖心が生まれる、まさかまた悪魔とかそういった類なのだろうかと身構える。
だけど怖がってはいられない、今は横にゆんゆんもいる。今は無防備ではあるけどこのままの状態でも転生特典の魔法は使える。今は杖もない私程度では仮に夢に出たバニルクラスの悪魔だった場合歯が立たないのは目に見えているけどそれでも友達は守らないと。
そんな虚勢から、私は進んだ。何時でも詠唱できるようにして。私が無言で進むと、ゆんゆんはゴクリと生唾を飲み私の後ろに着いてくる。
そして影が見えた場所につくと同時に温泉から大量の気泡が溢れていた。ビクリとして私は立ち止まった。
「ぷはぁ!?」
そして温泉の気泡から飛び出した顔を見て私の目の光は消えた。
「…なんだカズマさんだったのね……」
「……お、おう」
「…………え?…カズマさんが…なんで…!!」
違う意味で恐怖に震えた。何故カズマ君がここにいるの??だってここ女湯ですよ??
そう思ってしまえば危機感を感じた女の子のすることは1つしかない。
「「キャーーー!?!!」」
私とゆんゆんは端に置かれていた木製の風呂桶を投げ付けた。これでもかと投げ付けた。次第にこの騒ぎでは流石に他の3人も気が付く。
「どうした!?……な、ななななな!?何故カズマが此処に!?」
「待て!お前らまずは俺の話を…ぐはぁ!?」
投げた桶がカズマ君の頭にクリーンヒットする。だけど話をするなどそんな余裕はない、あるはずもない。私とゆんゆんは一心不乱に桶をあるだけ投げつける。
「いいからさっさと後ろを向きなさい!!」
めぐみんが桶を追加して更に加速する。予想外すぎる事態にもはや歯止めは効かない。
結局騒動が収まったのは、カズマ君が何も言わず温泉に浮き上がった状態になってからだった。
スランプ再び…。上手く文が書けません、次回また遅れるかもです…