内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 7 ダストとリーン

 

 

正直に言えば登録を終えて即冒険者ギルドから出ていったのは今日の私の予定にはなかった。

 

予定としては冒険者になったらそのままパーティメンバーを探してクエストを受けてしまおうという魂胆だったのだから。

 

いきなり計画が狂ったけどすぐに修正する。ある程度見て回ったとは言っても私はこのアクセルの街についてまだまだ知らない事が多すぎた。と、いうより思った以上にこの街は広かった。だからよく使うことになりそうな施設だけでも知っておいたほうがいいと思い私は冒険者ギルド周辺を歩き回り、宿を見つけ、オシャレな喫茶店をみつけ、銭湯をみつけ、公園の屋台で軽食を買ってお昼ご飯として食べながら冒険者カードをあれこれいじったりして、そして冒険者ギルドをでて4時間。時刻は既に午後をまわって私は改めて冒険者ギルドに戻ってきた。

 

「いらっしゃいませ!冒険者ギルドへようこそ!お食事でしたら空いてる席にどうぞ!ギルド受付でしたらあちらに窓口がありまーす」

 

私の入室とともに駆け寄ってきたウェイトレスの女の子は先程とは別の人だった。客層も大分変化しているようで今のところは私に気付いて妙な視線を送ってくる人はいないようだ。

 

私は改めてギルドの内部を見渡してみる。

 

建物の中央には鎧をきて剣を携えた大きな像。それが仕切りのようになるように左手には私が先程見かけた4つの窓口、さらにその奥には大きな掲示板のようなものが見えそれは壁一面に広がっている。掲示板には、簡潔に止められた紙が何枚も見受けられる。おそらくあれが依頼一覧なんだろう。

 

一方右手には酒場スペースが広がり、中途半端な時間だからか、先程より客は少なく空き席のほうが目立って見える。

 

とりあえず私は掲示板へとその足を進めてみた。どんな依頼があるのか興味があったのだ。1人でやれそうなら、やってみてもいいかもしれない、なんて考えながら。

 

 

 

 

 

 

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掲示板の前に来てみると、そこには2人の男女がいた。カップルなのだろうか?

片方は金髪の短髪で動きやすそうなラフな格好をしながらも、腰につけているのはギリギリ片手で扱えそうな剣。

もう1人の女の子は茶髪のポニーテールで華奢な美少女。気になったのはお尻に見える大きなしましま模様の尻尾。彼女は人間ではないのだろうか?また、背中に小さめの杖を携えているのを見る限り、魔法職のようだった。

 

「で、どれにするのよ?」

 

「仕方ないだろ?俺達2人だけでやるとなると限定されすぎるんだからよ。」

 

「なんでもいいけど、約束、忘れてないでしょうね…?」

 

「わ、わかってるって。リーンはもう少しパーティメンバーを信頼しようぜ?」

 

「はっ、どの口が言うか。信頼されたきゃ、もう少し日頃の行いを正しなさいよ。」

 

「はいはい、わかったわかった。…それにしても、やっぱり2人じゃきついな。今日のところは諦めないか?やるにしても2人でやれそうなクエストがないんじゃ、仕方ないだろ?」

 

「そう言ってはぐらかすつもりでしょ!そうはいかないんだから!」

 

 

…何やら口論してるようだ。話に聞き耳を立ててみた限りでは2人だけだとクエストがきついからもう1人ほしいって感じっぽい。…これはもしかしたらチャンスじゃないだろうか。

 

以前の私ならまず出来なかった。知らない人に声をかけるなんて。だけど今の私は違う。普通に声をかけるくらいなら、昨日のあの勧誘に比べたら数億倍はマシである。私はゆっくりと近づくと、2人の間に割り込みそうな位置まではいりこむ。でも男の人はちょっとチンピラぽくてこわいのでリーンと呼ばれてた女の子に目を向けて話しかけた。

 

「ん?…あ、貴女は確か…」

 

こちらに気が付くなり、リーンと呼ばれてた女の子は1歩後退した。…あれ?私避けられてる?

 

「ん…?どうしたんだリーン?知り合いか?って、めちゃくちゃかわい子ちゃんじゃねぇかおい、紹介しろよ!なぁなぁ」

 

「いや、知り合いっていうか、その…なんて言うか…」

 

「なんだよその対応はよ、流石にちょっとこの子がかわいそうじゃないか?」

 

「いや、そうなんだけど…ってダスト、待って!」

 

「やぁお嬢ちゃん、ごめんな、ツレが変な態度とって。どうしたんだ?」

 

女の子のほうが露骨に私を避けてるのが気になって仕方ないのだけど…私は男の人に向かい直して決意するように言った。私はアークプリーストです、もしよければ一緒にクエストに同行したいのですが。と。

 

「おっ?マジか?まさかアークプリーストなんて上級職がこんな駆け出しの街にいるなんてな。そっちさえ良いなら俺は構わないぜ?リーンもいいだろ?」

 

「…たくもう…可愛い子見つけたらすぐこれなんだから…」

 

「おいおい、ちょっと待てよ。その辺は否定はしないけどこの子が来てくれれば心強いのは間違いねぇだろ?」

 

「…はぁ、もう。ダスト、ちょっとこっちきて。」

 

「はぁ?なんだよ一体…わりぃ、ちょっと待っててくれるか?」

 

女の子が男の人の手をとり、そして引っ張って行ってしまった。一体なんなんだろう?こちらから死角になってそうな柱の後ろに行き、わずかに見える様子からすると、女の子が耳打ちしてヒソヒソ話しているように見える。何か嫌な予感がした。

 

 

時間にして2.3分くらいだろうか。顔を暗くした男の人がゆっくりとこちらにやってくる。…これはダメな流れだ。いや、断られるなら断られるでそれは構わない。問題はあのリーンという子が何故私を見て避けようとしているか、である。それを知る為にはなんとしてもこのふたりとパーティを組んで話を聞きたいところ。だからもはや手段は選ばない。これでダメなら2倍恥ずかしい目に合いそうだけどその時はその時。

 

「え、えっと、悪い。用事を思い出したから今回はなかったことに…」

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈パーティを組んで…くれないのですか…?

 

 

「組みます!是非とも組みましょう!」

 

「ちょ、ちょっとダスト!?」

 

セシリーお姉ちゃんが涙と鼻血を出しながら太鼓判を押す涙目上目遣いは効果抜群だ。これをやる度に大事な何かを失っている気がするけどもはや手遅れな気がしないでもない。私はそのまま女の子に向かって涙目の笑顔のまま、ありがとうございますっ、と返すと、女の子は居心地が悪そうに顔を真っ赤にして目線を逸らし

 

「あ、うん……よろしく…。」

 

と小声で返すのだった。

 

(あんな顔で言われたら断れるわけないじゃない…!)

 

 

 

 

 

 

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さて、私達3人はギルドで自己紹介を終えた後にクエストをうけて、今は3人でちょうどアクセルの街をでたところだ。依頼内容はゴブリンの討伐。アクセルから少し離れた郊外に、ゴブリンが群れを作って住み着いているらしい。上位種のホブゴブリンがいる可能性もあるのだとか。人を襲うこともあるので退治するなり追い払うなりしてほしい、というものだった。

 

とりあえずパーティを組めて自己紹介を終えたんだけど…気まずい。

 

なぜならせっかくパーティを組めたのにまったく会話がない。むしろ2人とも私から目線を避けているように見えてこれが普通に傷付く。だけど気の所為の可能性もあるし自意識過剰なんて思われても嫌だしなんて思う私の豆腐メンタルでは何も言えないし何も聞けない。どうしたらいいかな?と思いながら歩いてたらダストが声をあげた。

 

「2人ともさがってろ!何かいるぞ!」

 

ダストはそのまま抜刀し、構える。リーンもまた背中に携えた小さめの杖を手に持ち、私も背中の十字架の杖を片手で握りしめた。

 

岩場からでてきたのはゴブリンだった。まだ指定のポイントには着いてないにも関わらずその数は多い。見た限りでは7.8匹はいそうだ。そしてまだ目的地に到着していないという油断もあって、完全に不意をつかれた形になる。とはいえこの2人もアクセルではそこそこ名の知れた冒険者である。

 

「おりゃ!」

 

「ファイアーボール!」

 

ダストがゴブリンの1匹に駆け足で接近。両手で握られた剣で力任せにゴブリンを叩き切ると同時に、リーンのファイアーボールが他のゴブリンに命中する。順調にゴブリンを倒していく。

 

私にとって初めての戦闘…なのもあり当然ながら戦闘慣れしている2人に気後れしてしまう。遅い動きとはなったものの、私は2人に補助魔法をかけると告げる。

 

「あ…いや補助は大丈夫だ」

 

「う、うんうん、この程度の敵なら大したことないし」

 

ゴブリンを倒しながら2人はこちらを見ないまま何故か気まずそうにそう言った。確かに余裕そうではあるのだけど何を遠慮しているのだろう。一応ホブゴブリンって上位種がいるらしいからその為の魔力の温存ってことなのだろうか?でも魔力の温存ならリーンも当てはまるではないか。と考えるもいらないと言われて使うのも変な話なので私も戦闘に加わる事にする。

 

緊張する。アークプリーストになって最初から少しだけあったスキルポイントを使い、使えそうな回復、補助魔法を覚えて試しに使ってみたりはしているけど攻撃スキル…私の転生特典のスキルはこの世界に来てまだ1度も使ったことはない。と言うより街中で攻撃スキルを試す訳にもいかないので使えなかったとも言う。ぶっつけ本番になる。

 

補助魔法を使うようにイメージを浮かべながら杖をかかげる。

 

《アロー》

 

術式を構築する。杖の先の宙に直径50cmほどの魔法陣が縦に水が流れるように描かれる。それは細かい装飾のようにも見え、その魔法陣の中心から半透明の魔法の矢が炸裂する。

 

2人から離れた位置にいたゴブリンに命中すると、ゴブリンは音もなく倒れる。2人は私の魔法に目を見開いて驚いていた。無事倒せたらしく、軽く安堵するもゴブリンはまだいた。だけど私の描いた魔方陣はまだ残っている。

そのまま2発目、3発目と射出される魔法の矢は、私たちに敵意を向けるゴブリンに襲いかかる。3発目を放った魔法陣は、役割を終えたと言わんばかりに宙から消えた。

 

周囲を確認する。どうやらダストの相手をしているゴブリンが最後のようで、リーンも肩の力を抜くようにふうと息をしてそれを見守ってる。とりあえずは一安心だろうかと考えてるとダストが最後のゴブリンを切り払い、終わったことを確認するとこちらに向かってくる、そして気が付く。

 

「ダスト、大丈夫!?」

 

「ん?あぁ、これくらい大したことねーよ。」

 

軽傷ながらダストの腕に切り傷があった。今の戦闘でできたのだろう。大したことなかろうと怪我は怪我。こんな時こそアークプリーストの出番である。私は相手に確認するまでもなく、杖を向けるとそのままヒールを唱えた。

 

淡いエメラルドグリーンの光は、ダストの腕の傷をみるみる塞いでいく。そして何故かダストの目が死んだ。

 

 




《アロー》 初期攻撃魔法スキル。宙に描いた魔方陣から魔法の矢が敵意を向ける者に自動的に放たれる。射出できる数はスキルレベルに依存する。ちなみに元のゲームでは6発撃てていたことから地味に弱体化している。
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