内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 72 アクシズ教の最高責任者

―アルカンレティア・最下部の湖―

 

助けると意気込んだゆんゆんだったけどそれには難航した。まずどこから噴水下の湖まで降りたらいいのかわからないからだ。私達が噴水を眺めていた場所から湖までは15~20mくらいあるのでまさか飛び降りる訳にも行かない。

 

というより私としては一刻も早く逃げ出したかった。理由は頭の中で鳴り響く警報。私の勘が告げていた、あの男の人はセシリーさん以上にやばいと。君子危うきに近寄らずとはよく言ったものだがそんなレベルでもない。何故かわからないけど関わりたくないのだ。

 

「アリス!こっちから下に行けそう!」

 

「…あ、はい…」

 

それでもゆんゆんは助ける気満々だ。助けたことでめちゃくちゃ後悔する未来しか見えないのだけど正義感に縛られたゆんゆんの行動力はすごい。私なんてとても敵わない。

回るように長いカーブの大きな下り階段を降りて見れば見えるのは湖の畔。ただ深そうだし安易に飛び込む訳には行かない。

 

「少し危ないですが…湖の上をフリーズで凍らせてみますか…」

 

「私は初級魔法とってないから…アリスお願い…!」

 

私はティンダー、クリエイトウォーター、フリーズの初級魔法だけは取得している。なんだかんだでクエストで重宝するからだ。ウインドブレスとクリエイトアースは使い道がわからないのでとっていない、カズマ君はその2つを合わせて目潰しにしたりして器用な使い方をしていたけど。

 

「…フリーズ!」

 

湖の上から足場を作るように1部だけをフリーズで凍らせる。そっと凍った箇所に足を乗せればとりあえず大丈夫そうなのでフリーズを繰り返して男の人の傍にたどり着くことに成功した。

 

「おぉぉ……、ありがとう、本当にありがとう…今日はなんと運がいい日だ…まさか美少女2人に介抱されるとは…アクア様、ありがとうございます…」

 

近くに寄ってみれば男の人の詳細がわかる。偉そうな青い法衣に身を包んだ灰色のような薄い茶色のような色の長くはない髪、鼻下と顎に添えられた同じ色の長すぎない立派な髭。言ってる内容はともかく穏やかで優しそうな印象は受ける。

足場のフリーズがいつまで持つかわからないのでゆんゆんが男の人の縄を短剣で切る。縄が解けるなり自分で動けることを確認した私達は湖の上から足早に移動を開始した。

 

 

 

……

 

 

「ありがとうございます、おかげで溺れずにすみました、いくら死ねばアクア様の元へ行けるとはいえ、私もまだまだこの世に悔いはありますからな」

 

「…い、いえ…、そ、それで貴方はどうしてあんなことに…?」

 

法衣の男性は見た目50歳前後だろうか、肌の艶が綺麗な感じがするがそれくらいかなと思われる。それにしても死ねばアクア様の元へ…は今死んでも絶対行けないのだけど、とも言えない。まさか現世にいるだなんて思う訳もないから仕方ないのだが。

ゆんゆんの質問に法衣の男性は恥ずかしそうに頭を掻いている。

 

「いやぁ、お恥ずかしい。実は聖堂にある女性教徒の更衣室を覗いていたのがバレてしまいましてな」

 

「なるほど。そうだったんですか…………ぇ?」

 

 

 

案 の 定 こ れ だ よ 。

 

 

これがまるでお菓子をつまみ食いしちゃいましたみたいに言うのだから一瞬何を言っているのか理解できなかったまであったりする。

ゆんゆんは早くも目に光を失っていてそっと私に目配せする、いやそんな目で見ないでください怖いです。

 

「おまけにその時私がかぶっていたパンティがその女性教徒のものでね、いやぁ酷い目にあった」

 

「…アリス、さっきの縄拾ってくるから待ってて…」

 

「おや?あんな縄など必要でしたか?」

 

「はい、貴方をまた縛って湖に投げないといけませんから」

 

「はっはっは、お嬢さんは冗談が好きなのかな」

 

「本気ですけど」

 

「えぇ!?」

 

いや、えぇ!?って何故普通に驚いているのか。口調と見た目は穏やかな司祭なのに話す内容がただの変態なんですけど。これは見た事のないタイプの変態さんだ。見た事のある変態さんはダクネスだけでお腹いっぱいなのでこれ以上は御遠慮願いたい。

 

「…ゆんゆん、とりあえず行きましょう、用事は済みました」

 

「う、うん…」

 

「あ、あぁ、お待ちください!」

 

司祭の男性は私に近づくとそのまま片膝をつきその頭を下げた。突然の行動に私はただ目をパチクリさせていた。

 

「挨拶が遅れました、私の名前はゼスタと申します、助けていただいたお礼がしたいのでどうか私にご同道いただけないでしょうか?」

 

「そ、…その、そこまで丁寧に応対してくださらなくても…」

 

「それがですね…、貴女を見ているとこうしなくてはいけない気がしまして…なんと言いますか…貴女様からは何やら神聖な気配を多分に感じます、これはまさか…」

 

ゼスタと名乗ったこの人は丁寧な姿勢を変えることはしない。そして神聖な気配とやらにも心当たりはありまくる。つい昨日アクア様が私自身に悪魔避けの為の本気の浄化と加護を与えてくれたのだから。信仰対象の加護なのだからこの人がなんらかの形で感じ取れてもおかしくはないのかもしれない。

とはいえ、関わりたくないのが1番の本音である。さりげなく貴女が貴女様に変わってるしアクア様の加護に気付いているのならこの状況は非常によろしくない。

 

「お願いします、どうか私を踏んでください…あぁ!?お待ちください!」

 

「ゆんゆん、行きますよ!」

 

私はゆんゆんの手を取り全力で逃走を開始した。これ以上この人に関わるのはまずい。非常にまずい。そんな予感しか私にはしなかった。

 

 

 

 

……

 

 

―アルカンレティア・???―

 

「はぁ…ごめんなさいゆんゆん、走らせちゃいまして…」

 

「ううん…私こそごめん…」

 

勢いと嫌悪感に委ねて走った結果、私とゆんゆんは見た事のない場所にたどり着いた。とりあえずゼスタさんは追っては来てないようで一安心である。

 

それにしても此処は何処だろうと辺りを見回してみる。まず目に付いた建物は大きな神殿のようだ。白と水色が彩ったこの場所はアルカンレティアでも高所に位置し、遠目に見えるアクア様の像はこの神殿へと向いている。

…もしかしたらまだ安心はできないかもしれない。この神殿はどう見てもアクシズ教徒の本部とかそんな感じに見えなくもない。

 

「ゆんゆん、テレポートで一旦ホテルへ戻りましょう」

 

「う、うん、そうだね…」

 

「あら?アリスちゃんにゆんゆんさん、どうしてここに?」

 

テレポートを使うまでもなく聞き覚えのある声に軽く怯えるように振り向くと、そこには神殿から出てきたらしいセシリーさんがいた。不思議そうにこちらを見ているが次第に笑みを浮かべだした。

 

「もしかしてお姉ちゃんに逢いたくなったから来ちゃったのかしら?ねぇねぇアリスちゃん♪来ちゃった♡って言って!それが駄目ならこの紙にサインして♪」

 

「どちらも嫌です!此処には迷い込んできただけですから!?」

 

この紙とは言うまでもなくアクシズ教の入信書である。確かにアクア様を慕ってもいるけどそれとこれとは話が別だ。信仰の方向性が違うのである。

 

「相変わらずいけずねぇ…ならゆんゆんさんはどうですか?……ちなみにアクシズ教では同性愛や身分差の恋なども推進していますよ♪

 

「えぇ!?…………け、けけけ結構です!!」

 

後の方はセシリーさんがゆんゆんに耳打ちするように言ったので何を言われたのか聞き取れなかったけどゆんゆんにとって揺らぐ内容だったのだろうか、それを言われてゆんゆんの顔は真っ赤になってしまっている。返事をするまでに無駄に間があったのも気になる。

 

「…ゆんゆん?」

 

「えっ!?なんでもない!なんでもないから!!」

 

「まだ何も聞いてないのですが…」

 

思わず首を傾げてしまう。そこまで取り乱す内容なのかと興味もあるがゆんゆんを見ればひどく恥ずかしそうなので触れないほうがよさそうだ。

 

「うふふっ、アリスちゃんはもう少し歳をとったら教えてあげるわ♪」

 

「……私ゆんゆんより歳上なのですけど」

 

「えっ」

 

時が止まったような感覚がその場を支配した。私が幼く見られている訳ではない、ゆんゆんが見た目より大人びていすぎるのだ。だから私にダメージはない。多分、きっと。

 

「…私が14で、アリスが15ですね…」

 

「14!?えっ、14!?!?」

 

ここまで狼狽えたセシリーさんは初めて見たかもしれない。私とゆんゆんを物凄い速さで見比べている。どうせ見比べるならめぐみんとゆんゆんで見比べてほしい、あの子なら同郷で同い年だから比較対象としてはバッチリだ。それをめぐみんの目を見て言え?私にそんな残酷なことはできません。

 

「え、えっと……」

 

「ま、まぁいいわ、せっかく来たのだから中に入って?アクシズ教自慢の本殿をお姉ちゃんが案内してあげるわ♪」

 

流石セシリーさん、切り替えがはやい。私とゆんゆんはお互いに顔を見合わせる。ぶっちゃけここから離れてどこか行く予定があった訳ではないのでこちらとしては問題はないのだけど相変わらず嫌な予感しかしない。何せあのアクシズ教の総本部なのだ。

 

「……中に入った途端襲いかかって来るとかありませんよね…?」

 

「その点は大丈夫よ、本部の人達は基本YES美少女NOタッチ精神が浸透しているわ!」

 

つい昨日出会い頭に抱きついてきた人がいる件について。本来セシリーさんはアクセルにいるらしいから自分のことは除外したのだろうか。

 

「ゆんゆんはどうしたいです?」

 

「う、うーん…ちょっと怖いけど私は別に…」

 

言いにくそうに言葉を紡ぐゆんゆんだけどおそらく内心は行きたくないのだけどなんだかんだ昨日お世話になったセシリーさんの誘いを断るのも申し訳なさがあるのだろう。それに関しては気持ちは私も全く同じだった。思わずため息がでる。

 

「…わかりました、では少しだけお邪魔させて頂きます…」

 

「よ、よろしくお願いします…」

 

「うんうん、そう来なくっちゃね♪お姉ちゃんに着いてらっしゃい!」

 

「美少女2人と一緒に観光案内ですか、良きかな良きかな」

 

「「っ!?!?」」

 

最後に聞こえた声に私とゆんゆんは硬直した。この声はつい先程聞いていたあの人の声なのだから、逃げてきたあの人の声なのだから当然だ。

 

「おやおや、逃げたと思ったら来てくれているとは…はっはっは、なるほどお二人はツンデレ属性でしたか、これは私の慧眼でも見切ることはできませんでした」

 

もはやツッコミをする気力すらない。というよりまともに話せば話すだけ無駄な気さえする。そんな中セシリーさんはその存在に気が付くなり一瞬だけ不機嫌そうな顔つきをしたのを私は見逃さなかった。

 

「あらゼスタ様、おしおきはもう終わったのですか?」

 

「ええ、心行くまで湖を堪能させてもらいました、まるでアクア様のお膝元にいるようで心安らぐ一時でしたよ」

 

「全然反省していないので今回の被害者に報告しておきますね♪もっと堪える罰にしておけと」

 

「はっはっは、セシリーさんは冗談がお上手ですね」

 

「勿論本気です♪」

 

「デジャヴ!?」

 

流石のセシリーさんでもセクハラな変態さんは許せないらしい。終始笑顔のままの会話に私とゆんゆんは完全に置いてきぼりになっていた。むしろこの会話に入ろうとも思わないのだけど。

というよりこの状況はチャンスかもしれない、ゼスタさんとセシリーさんは何やら話し込んでるし今のうちに逃げられるのではないだろうか。

 

……もっともそんな考えは甘いものだと気が付くのはすぐなのだけど。

 

「ほほう……なるほど、貴女があの(・・)アリス様でしたか…」

 

ビクッと身体が金縛りにでも合った感覚を私が襲う。まず『あの』とは何を指して言っているのかそれが問題だ、王都で呼ばれる蒼の賢者としてならまだ問題はない。だけど私にはもう1つの可能性を予感していた。思い出すのも嫌すぎる例のアレがあるのだから。

 

「アクセルでの1日のみの伝説…勧誘人数39名という偉業を成し遂げ一部の者からはアクシズ教のリーサルウェポンとまで畏れられたアリス様…」

 

「えっ…ア、アリス…?」

 

そう言うゼスタさんの目はキラキラと輝いていて…ゆんゆんの目は困惑の色をしていた。それもそうだろう、1日布教活動をしたとは言ったが39名も勧誘したとは言ってはいない。

私は今すぐにでも、ここから逃げ出したい気持ちでいっぱいになっていた。

 

 

 

 

 

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