内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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間が空いてすみません、不調以前に色々ありまして投稿がかなり遅れました。




episode 74 発覚する異変

 

 

 

―アルカンレティア・アクシズ教本部―

 

聖殿の奥に進んだ私とゆんゆんは簡素な扉の前に通された。私は奥にいる人の正体が気になってはやる気持ちを抑えられず、おそるおそるその木造りの扉のドアノブに手をかけた。

 

「アリスちゃん、懺悔室は1人しか入れないから、私とゆんゆんさんは此処で待ってるわね」

 

言われてみればと私は静かに納得した。プリーストを通して神様へと懺悔をするのを他人に聞かれる訳にも行かない。…そして冷静になって考えたら私は何を懺悔したらいいのだろうか、と。

私としてはこの奥にいるプリーストの人の正体がなんとなく気になった程度で何かを懺悔しようとは思っていなかった。ドアノブに手をかけたまま私はその動きを止める。

 

……例の悪魔の件なら既にアクア様に話しているので改まって話す必要はないしそもそもそれは懺悔ではない。

懺悔…懺悔…と私の頭の中に木霊するけど特に思い浮かばない。ただ懺悔したいと言っておきながらここまで来て入らないのもおかしな話であり私は内心後悔していた、これなら素直に知り合いかもしれないので会ってみたいと言えば良かったではないか。

 

「あ、アリス?大丈夫?」

 

気付けばゆんゆんは心配そうな視線で私のことを見ていた。…思えば最近の私はゆんゆんに心配ばかりかけているような気がする。今の場合は特に心配されるような事柄はないのだけどここ最近の私の状態からゆんゆんが勘違いしてしまうのも無理はない。…まったく情けない。

 

「大丈夫ですよ、ゆんゆん」

 

そんなことを思いながらも私はゆんゆんに自然な笑顔で応えてみせた。ほっと安堵した様子のゆんゆんを確認するなり私は扉を開けた。未だに何を懺悔するかは決まってはいないのだけどこのまま扉の前でじっとしている訳にもいかない。

 

 

 

部屋に入ればそこは扉に似合った簡素な場所だった。思い出すのはカズマ君が捕まって面会に来た時の場所。せまく無機質な部屋には木製の椅子があり、その前には小さな窓口のような場所が見えるが一見したところ奥を覗くのは難しそうだ。

 

「ようこそいらっしゃいました、迷える子羊よ。さぁ汝の罪を懺悔なさい、素直に打ち明ければ、神は貴女をその慈愛の元に赦すでしょう」

 

ゆっくりと椅子に座れば聡明な女性の声が耳に心地よく響いた。…だがこの声だけは聞き覚えのあるものだ、この女神様はこんなところで何をしているのだろう。

 

「はい、実は私、アクシズ教徒ではありませんがアクア様を信仰しております、ですが私はアクシズ教徒になるつもりはありません、私はどうしたら良いでしょうか?」

 

今の今まで全く頭に無かった懺悔内容が自然と頭からではなく口から出てきた。とりあえず適当に出たもので本気で悩んでいる訳でもないしアクア様のことだから多少強引な形でもアクシズ教へ入ることを促すに違いない。

 

…そう思っていたのだけど…暫し間が空いてから再び声が流れてきた。

 

「つまり貴女は女神アクアを崇拝している、だけどアクシズ教の在り方に疑問を持っているのですね…、でしたら無理に入信する必要はありません、アクシズ教教義にもあります、汝、無理をすることなかれ、思った事、考えた事に正直に生きなさい。1度きりの人生なのだから、後悔のない選択をしなさい。さすれば女神アクアはどのような形であれ、それが不純なものでない限り、その信仰の在り方もまたよしとするでしょう」

 

思わぬ発言に私は目を瞬かせた。誰ですかこの人!?が正直な感想である。あまりの予想外な言葉に私は何も言葉を発せずにいた。もしかしたら声が似ているだけで本当は別人ではないのかまで思う始末。

とはいえ言われたことを素直に受け止めれば、気持ちは幾分か楽になった気がした。

 

「え、えっと…は、はい、ありがとうございます…」

 

素直にお礼を言ってみる、若干ぎこちないものになったけどこれは仕方ない、似合わないことを言うアクア様が悪い。

 

……とりあえず聞くだけ聞いた、お礼も言ったのでもういいだろうと私はこの懺悔部屋を出ようとゆっくり立ち上がる。

 

「待ちなさい、女神アクアを信仰する貴女に相談があるのです」

 

突然のそれに私は上手く反応できなかった。あのアクア様が私に相談など言われた事がなかったし普段そのようなそぶりを見せることも無い。私が驚くのは当然の流れだ。

ただ珍しいことではあるものの、だからといって聞かない理由にはならない。アクア様は今の私にとって恩人であり信仰対象であり同居人であり仲間である。むしろ私なんかを頼ってくれるのは嬉しさまである。

 

「…どうしましたか?」

 

聞くからには立ち上がったままでも居られないので私はそのままゆっくりと腰掛けた。

 

「実はこうやって懺悔を何人か聞いていて、何やら不審な悩みを告発する人がいたのよ、それが気になっちゃって」

 

「…不審な悩み…です?」

 

今の声、喋り方はまさしくいつものアクア様だった。それを聞いて何故か私はホッとしたように胸を撫で下ろすも肝心の内容が内容なので落ち着く事はなかった。

 

「それがね、1部の温泉に毒が混入されているって話なんだけど…」

 

「…えっ…!?」

 

聞けば穏やかではない内容に私は驚きを隠しきれない。動きはないものの、その言葉に力がはいってしまった。結果懺悔室を反響するようになり、その声はおそらく外で待っているゆんゆんとセシリーさんにも聞こえただろう。…だからこそ、そのタイミングで勢いのまま扉は開かれた。

 

「ちょっとプリーストさん!?その話は…!!」

 

背後から慌てるように飛び出してきたセシリーさんに視線をうつすと、その後ろにはゆんゆんの姿もあったが何を言えばいいのかわからないのかおろおろしている。

 

「いいえ、事が大きくなる前に確実に解決するべきだと私は思います。貴女はこの事件について詳しく存じているようですね、良ければ話してもらえますか?」

 

「…うっ…そ、それは…」

 

しまったといった様子で口篭るセシリーさんを後目に私はこの件について考察していた。…思えば普段アクセルにいるセシリーさん。何故今はここアルカンレティアにいるのか、先日の会話の中で聞いた時にはアクシズ教徒がアクシズ教の総本山にいるのは自然なことだと軽くあしらわれてしまっていたがその事件のせいだとしたら。そしてセシリーさんの様子から推測するとこの事件はまだ大きく広がってはいない、だからこそ公にはせず、内々で解決しようとしている。その気持ちも事情もわかる。毒が温泉に混入されているなどと公になればアルカンレティアの評判はガタ落ちになる、だからこそ現状この問題はアクシズ教徒の中でも1部しか知られていない可能性すら見える。

 

「…セシリーさん、アクアさんの言う通りだと思います、知っていることがあれば話してもらえますか?差し出がましいかもしれませんが私もアクシズ教に恩はありますので、できる限り協力はしたいと思いますし」

 

この気持ちに嘘偽りはない。その在り方には嫌悪感すら感じるものの、私がこの世界に来た初日、アクシズ教のプリーストであるセシリーさんにお世話になったことは確かなのだ。だからといってアクシズ教に入信するわけではない、それはそれ、これはこれである。

 

「…私の判断だけでは話しにくいから…その気持ちがあるのならゼスタ様に聞いてみてもらえるかしら?」

 

「なるほど、わかりました。行きましょうかアクアさん、ゆんゆん…」

 

そこまで言って気になることもできた。この人がアクア様なら、一緒に居たミツルギさんは何処に行ったのだろうか?彼の事だからアクア様を守ると意気込んで傍を離れるなんてことはないはずなのだけど。

 

「アクアさん、ミツルギさんはどこに?」

 

「ミツルギさん?…………あぁ、あの魔剣の人ね、彼なら街を回っている間に今回の件を噂で聞いて、僕が調査してきます!とかなんとか意気込んで何処かに走っていったわよ?私もその事が気になってここに来てみたんだけど…成り行きでこうやって懺悔を聞くことに」

 

ツッコミどころが満載な返事に私はため息をつく。まずいい加減に名前くらい覚えてもいいのではないだろうか。どんな成り行きでこうなったのかも気になるけど聞いたところで話が脱線するだけだろう。そしてミツルギさんもミツルギさんだ。おそらく正義感から動き出したのだろうけど守ると言っていたアクア様を放ったらかしにして調査に当たる辺りは相変わらずの思い込みの激しさである、本来の目的を完全に忘れている。

 

「噂とはいえ…街でも既にこの話は流れているんですね…あ、あの、セシリーさん、なら余計に早く解決する必要があると思いますけど…」

 

ゆんゆんのおそるおそるな意見に私もまた頷く。事が温泉という場所で起きたのなら、当然この本部以外にもその事態を把握している人がいないはずがない。思い悩むセシリーさんだけどそれでも答えは変わらないようだ。あくまでゼスタさんの指示を仰ぐしかなさそうである。アクシズ教にこのような縦社会的な要素があるのも意外ではあるがあの人も肩書きは最高責任者というものなのでそれも仕方ないのだろう。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

「…知ってしまいましたか…いやはやお恥ずかしい」

 

戻って開口一番にアクア様がゼスタさんに問い詰めたところ、この回答だった。セクハラをして縛られて湖に投げられる方がよほど恥ずかしいような気もするのだがそれを言ったらキリがなさそうだ。

 

「お気持ちは大変ありがたいのですが…これはこの街の問題でもありまして…旅の方のお手を煩わせる訳にも…」

 

「私達が手を貸すことで必ず解決するとまでは言えません、ですが確率はあがるのではないでしょうか?何より毒などとなると悠長に構えている余裕もありません、今のところ死者は出ていないようですが、温泉には老若男女様々な方が入浴します、中にはお身体が弱い方もいるでしょう、被害が出てからでは遅いのですよ?」

 

「……」

 

私の発言に押し黙るゼスタさん。何も間違ったことを言ってない、私達としては解決してあげたい気持ちしかない。ただ問題はゼスタさんの様子にある、何故ここまで頑なに拒むのだろうか、それがわからない。

 

「皆様のお気持ちは大変嬉しく思います、ですがこの件については大事にしたくないこともまた事実でありまして、できれば口外することなきようお願いします」

 

「ちょ、ちょっとなんで…!?」

 

「…お願いします、女神アクア様と同じ名前のアークプリースト様、できる限り早急に解決致しますので…」

 

「……」

 

ゼスタさんは半ば強引な調子でアクア様に頭を下げた。その様子には今まで見たようなセクハラなどを感じさせるものではなく、至って真面目な様子であり、これには私達よりもセシリーさんが驚いていた。

 

…とりあえずこれ以上何かを言っても埒が明かない。何よりこのゼスタさんの態度はまるでアクア様を本物と認識して言っているようにも見えてしまい万が一のそれは私達にとって非常によろしくない。

 

「…アクアさん、ここは大人しく帰りましょう」

 

「ちょっとアリスまで何を言って…」

 

「アクアさん、気持ちはわかりますけど今は…」

 

私に続いてゆんゆんの必死の説得もあり、アクア様は納得の行かない様子のまま頬を膨らませているがとりあえずはこれ以上何かを言うつもりはないようだ。私達は足早にこの総本部を後にすることにした。

 

…まずゼスタさんのあの畏まった様子は不気味だ、下手したらアクア様が本物だと勘づいている可能性がある。…その証拠に本部を出るアクア様をゼスタさんは無言でありながら何処か感慨深く見つめていた。

それにあのままだとアクア様が勢いで自身の名乗りをあげて強制的に捜査に協力するなどの強硬手段にでる可能性すらある、そうなれば旅行や事件の調査どころの話ではなくなってしまう。

 

私達はこの件に対してどうすべきか、ホテルに戻り他のメンバーの意見を聞くことにするのであった。

 

 

 

 

 

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