内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 75 作戦会議

 

 

―アルカンレティア・高級ホテルの食堂―

 

夕刻になり、私達全員はホテルに戻ってきていた。まず印象を受けたのはウィズさんとめぐみん。アルカンレティアの温泉巡りをひたすらに続けたそうでその肌は艶々としていて特にウィズさんはご満悦の様子だった。めぐみんは若干のぼせた様子でぐったりしていたけど。

 

「ウィズが温泉巡りをしたいと言い出したので付き添いましたが…まさか12件も回るとは思いもしませんでしたよ…えぇ…」

 

「ご、ごめんなさい、めぐみんさん!偶然温泉で知人を見かけたので話し込んで長湯してしまいましたし…」

 

「その頃の私は意識が朦朧としていましたからどんな方なのか覚えていませんでしたけどね、まぁ気にしないでください、それと私が疲れている理由は長湯ではありません、12件も回ったことです、温泉に浸かっている間はまだいいんですよ、ゆったりできますからね…ですが温泉を出てからの次の温泉への移動がめちゃくちゃしんどかったです、正直着いていくのがやっとでした、それが12件ですよ?分かりますかこの辛さが」

 

全員の同情の視線がちゅーちゅーと飲み物を飲むめぐみんに刺さる。ウィズさんがそこまでアグレッシブなのは正直意外だ。私もお風呂は好きな部類だけど流石に12件を連続で回るほどの行動力はない。それでいてウィズさんは気持ち良さそうに艶だっているし人間とは思えない。…あ、リッチーでした。

 

「…俺は正直1日も早くこの街を出たい…」

 

「ちょっとカズマ!?凄くいい街じゃないの!なんてことを言うのよ!!」

 

「…じゃあ言わせてもらうわ…ふっざけんなよこの駄女神が!お前の信者は一体どんな教えを受けたらあんなめちゃくちゃな勧誘ができるんだよ!?暴漢に襲われてアクシズ教に入れば助かりますのでだの、見知らぬ宅配便が来てサインをせがまれて書こうとしたらそれが入信書だったり、挙句の果てには小さな女の子が転んで泣いてたから助けたらやけに懐かれて名前を教えてくれって言われて文字で書いてほしいって差し出された紙が入信書だったり!!ダクネスはダクネスで勧誘される度にエリス教徒だと言って唾吐かれて喜んでるし!」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?少なくとも最後のは私は悪くないわよね!?ちょっと強引なところもあるかもしれないけど、みんなとってもいい子なのー!」

 

「まぁ落ち着けカズマ、少なくとも私としてはこの街はとても素晴らしい街だと思うぞ、なんなら定住したいくらいだ」

 

「お前は黙ってろこのドM!!」

 

……とまぁ他の面々も色々あったようだ。カズマ君は鬼気迫る勢いでアクア様に怒鳴りつけている。ダクネスはエリス教徒と自ら名乗りこの街で石を投げられ唾を吐かれとされて喜んでるのとカズマ君に今ドMと呼ばれて更に嬉しそうだし。私とゆんゆんは苦笑気味にその様子を伺うしかできなかった。

ミツルギさんは情報を集めに行ったはいいのだけど1人でいるところを猛烈な勧誘に逢いまくりめぐみんの横の席で同じようにぐったりしている。再会した時には身体中の至る所に入信書が貼り付けられていて救出するのも一苦労だった。

結局今日1日でこの街に満足している勝ち組はアクア様とダクネスとウィズさんだけのようだ。

 

「…た、確かに温泉は素晴らしかったですけど、私は定住するのは流石に…私の正体もあるのでプリーストの方が多くいるこの場所にはあまりいられないですね…」

 

「大丈夫です、誰もそんな事は言ってませんし望んでいません」

 

「あ、はい…」

 

ウィズさんは私の言葉にしゅんと凹んでしまった。少し申し訳なくも感じるけど心配する余裕すら私にはあまりない。

 

「アクア様、そろそろ例の話を…」

 

相変わらずカズマ君と取っ組み合いをしているアクア様に私が声をかけると、アクア様はカズマ君を解放するなり咳払いをするように場の空気を無理矢理変えようとしていた。

 

「そうよ今はそんな話をしている場合じゃないの!アルカンレティアの、一大事よ!!」

 

「は?なんだそれ?」

 

「いいから最後まで聞きなさい!どうもこの街の温泉に毒を混入している不届き者がいるみたいなのよ!私達はその犯人を捕まえたい訳!」

 

「で、でも…いいのかな…?あのゼスタさんって人は…手出し無用でって釘を刺してきてたけど……」

 

「何を言ってるのよゆんゆん、これはもはやこの街の人だけに任せてはおける問題ではないわ!アクシズ教の総本山であるこのアルカンレティアの温泉に毒を入れるなんて…きっとアクシズ教を恐れた魔王軍の仕業に違いないんだから!」

 

机を勢いのまま両手で叩いてアクア様は立ち上がる。だがめぐみんとミツルギは最初からぐったりしているものの、ウィズさん以外の他のメンツも若干ながらぐったりしているようにも見える。流石に話が飛躍しすぎている気もするのでそうなるのも無理はない。

 

「ま、魔王軍ですか…?いやまさかそんなことは…」

 

どこか狼狽えるような反応を見せたのはウィズさんだ。というかすっかり忘れていたけどウィズさんは元魔王軍の幹部。厳密には現状現役の魔王軍の幹部なのだけど敵対する意思がないようなので私達の間ではそのような扱いとなっている。

 

「あ、あの、ウィズさん…?気になったんですけど…その……さっき話にでたウィズさんの知人という方は…」

 

「えぇ、魔王軍の幹部です」

 

「「「はぁ!?!?」」」

 

いやいやちょっと待って当然のようにとんでもない事を言ったよこのリッチーさん。なんで街中に堂々と魔王軍の幹部がいてしまっているのか。そんな存在がいるのならアクア様の出した推測が一気に現実味を帯びてきてしまっている。

 

「……やめろ……頼むから勘弁してくれ…俺はこの街に湯治に来たんだぞ……」

 

カズマ君は現実逃避するように頭を抱えて小声で何やら言ってるけどそれどころでもない。私達全員の視線はウィズさんに集中していた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!ウォルバクさんは毒なんて使う人ではありませんよ!何よりあの人は温泉とか大好きな方なのでそういったことはしないと思います、お話した時も今日はオフって言ってましたし…」

 

「なんだその普段の仕事に疲れたOLみたいなのは…本当魔王軍の幹部って変なのばっかりだな…」

 

「いや突っ込むところはそこじゃないですから。ウィズさんから見てそれは確信が持てることなのですね?」

 

「…はい、間違いないと思います。ウォルバクさんは私やバニルさんに次いで人間との敵対意識は低い方だと思いますし何より温泉に毒を混ぜるなんてやる理由がないと思います」

 

淡々と告げるウィズさんは真剣な目をしていた。それを見れば私達は何も言えない。アクア様だけは納得いかないように何やら唸っていたが。そんな中、疑問を口にしたのはゆんゆんだった。

 

「でも…犯人じゃないとしても…このタイミングでその魔王軍の幹部の人がこの街にいるのは偶然なのかな…?」

 

「そ、それは…」

 

「そうですね、全くの無関係であるとは断言しにくいです、できたらウィズさんを通して話を聞いてみたいくらいありますが」

 

「それが…ウォルバクさんはあの時入ってた温泉を出たらこの街を出ると言ってたんですが…」

 

ウィズさんの言葉に私達は再び沈黙してしまう。そこで私はこの際だからと思ったことをウィズさんに聞いてみることにした。

 

「…もしこの毒の件がアクア様の言うように魔王軍の仕業だった場合…ウィズさんはどちらの味方をするのですか?」

 

繰り返すが形式的…むしろ魔王軍から見たウィズさんは現役魔王軍の幹部である。こちらの味方をした場合、それは裏切り行為と認識されないのだろうか?あるいはやはり表立って手助けするのはウィズさん的によくないのだろうか。

 

「…もちろん、皆さんの味方をしますよ。魔王軍の幹部を引き受けた時の条件として提示してますからね。敵対する冒険者などならともかく、戦う力のない人を襲ったりした場合、私は人間側につきますと。今回の温泉の毒は無差別に人間を攻撃してしまういわばテロ行為です、私はそのようなことを許すつもりはありません」

 

…正直に言うと期待以上の言葉が返ってきた。それでも魔王軍の幹部である以上不干渉などの答えも予想していただけにこれは心強い。

 

「ふん、まぁいいわ」

 

アクア様だけはどこか複雑そうではあるのだけど。やはり神様という立場上悪魔やアンデッドという存在は許してはおけないものなのだろうか。一見まともそうな国教であるエリス教でさえもそれらへの風当たりは冷たいものもあるし。……とはいえ。

 

「あ、あの…まだ魔王軍の仕業と決まった訳ではないので、もしかしたら毒を持った野良モンスターが温泉にはいっちゃったとかあるかもですし…」

 

ゆんゆんの言葉にはむしろその程度のことであって欲しいという期待すら感じられる。確かにその気持ちもわかる。カズマ君ではないけど私達は本来この場所には慰安旅行的なもので来ているのだからたまにはゆっくりしたいものである。それでも旅行先の温泉で毒が混入されているなんて穏やかではないし、できたら解決してあげたい。犯人がモンスターなら力技でなんとかなると思うし。

 

「いずれにせよ今日はもう遅いですから、調査は明日ですね。ただ魔王軍の可能性も無くはないですから、今日のペアでそのまま明日調査するというのはどうでしょうか?ゼスタさんの様子だとアクシズ教の方々はこちらの協力に遠慮がちなので情報を集める事は難しいかもしれませんが…」

 

「毒が入っていた温泉の大方の場所は分かっているわ、懺悔に来た人がアルカンレティアの南側で温泉を営んでいるって言ってたから!」

 

「南エリアですか…その辺の温泉は今日回っていませんね…少なくとも私とめぐみんさんが入った温泉に毒はありませんでしたから」

 

私が提案すれば、補足するようにアクア様とウィズさんが続く。モンスターとの戦いを考慮すれば今日ははやめに休んだほうがいいだろう。食事しながらの話し合いは適度なところで折り合いをつけ、私達はゆっくり休養をとることにした。…むしろ未だ反応が薄いめぐみんやミツルギさんを見る限りそうせざるを得ないのが本音だったりするのだけど。

 

「えっ?マジで捜査する流れ?アクシズ教の偉い人が関わるなって言ったんだろ?」

 

「…気持ちはわかるが諦めろカズマ、それに下手をしたらこのホテルの温泉にも毒が混入される可能性もある、その可能性がある限りはこちらとしてもゆっくりすることなどできないだろう?」

 

「ぐっ…そりゃ確かにそうだけど…」

 

最後の最後になってカズマ君のぼやきにダクネスの諭すような説得。カズマ君は複雑な様子だが納得はしてくれたようだし皆が捜査する中自分だけさぼりにくいというのもあるのかもしれない。

 

 

 

 

……

 

 

 

翌日。

 

私達は昨日と同じペアで捜査をすることにした。私とゆんゆんは朝食が終わるなりホテルを出て実際に毒の被害にあった温泉を見に行くことにした。ウィズさんが毒の種類などを調べることが可能らしいのでまずはその毒を調べようとしたわけである。

 

「それにしても見事にアークウィザード4人のパーティになりましたね」

 

「ふむ、言われてみればそうですね」

 

今いるメンバーは私とゆんゆん、めぐみんとウィズさんの4人。なるほど、確かにアークウィザードが……4人…?

 

「ウィズさん、私はアークプリーストなんですけど」

 

「……えっ?……あ、す、すみません!言われてみればそうでした!」

 

どうやら素で言っていたらしい。ウィズさんは思い出した様子で慌てている。別に忘れていたならそれはそれで構わない。ひたすらヒールをすることで覚えてもらうだけだ。

 

「あの、アリス?私に前やったことをウィズさんにしたら割とシャレにならないからね?しないでよね?」

 

いざやろうとしたらゆんゆんに止められてしまった。私は納得がいかずに頬を膨らませていた。

 

「そんな顔しても駄目なのは駄目だから!」

 

「あ、あの…何をするつもりなのかわかりませんが本当にごめんなさい、ですからどうか許して頂けると…」

 

身の危険を察したのかウィズさんはゆんゆんの後ろに隠れるようにしながら気まずそうにしていた。別に大したことはするつもりはない。ヒールをひたすらかけ続けて私がアークプリーストであることを覚えてもらうだけだ。ウィズさんはリッチーだからヒールをしたらダメージになる?そんなのウィズさんがリッチーなのを忘れてましたごめんなさいねてへぺろで許してもらえるはずだ。

 

「アリスを怒らせたらこの上なく面倒なのはよくわかりましたからそろそろ抑えてください、それに目的地は見えてきましたし」

 

「…でもなんか騒がしくない…?」

 

しばらく歩いていると温泉宿が集中している観光エリアにはいったようで、それなりに人とすれ違うようになっていた。そんな場所の一角にある宿に人だかりができているのだ。これはどうもその温泉宿が人気で行列ができているとかそんな感じではない。

 

「誰か本部のプリーストを呼んでくれ!!急病人がいるんだ!!」

 

宿の中から焦燥した男の人の声が聞こえてくる。どうやら穏やかではない状況のようだし幸いプリーストならここにいる。

 

私は他の仲間に何かを言う事なくその声に応えようと前に出る…その時だった。

 

「ぐっ…」

 

「あうっ…」

 

ドンッ、と勢いよく目の前の色黒の男の人とぶつかってしまった。私は弾かれるようにその場でしりもちをついてしまうが男の人は軽く怯んだ程度で大したことはなさそうだ。

 

「ちっ、どこ見て歩いてやがる!気を付けろ!!」

 

「…ご、ごめんなさい……」

 

正直納得はいかない。ぶつかったのは確かに私の不注意もあるもののあちらも宿側…後ろを向いて走っていたので完全に前方不注意だ。だけどここで反論するのは簡単だが今そこにプリーストを必要としている人がいる。そんな余裕はない。……のだけど。

 

そんな中、私の着ている服を通して、目の前の男性に嫌悪感のような何かを訴えているような感覚がした。ふいにその男の人を見てみる。

パーマをかけたような短髪で色黒の肌、タンクトップを着て金属のチェーンのようなアクセサリーを首につけていて、社交性はなさそうな年齢30前後くらいと推定できる。…見れば見るほど怪しく感じてくる。

 

「あぁ?何見てんだよ?」

 

「アリスさーん、大丈夫ですかー?」

 

「ん?…………っ!?…ちっ!」

 

睨んできたと思えば私の後ろからウィズさんの声が聞こえてきた。色黒の男の人はその声の主に気が付いた途端明らかに驚いていたと思えばすぐさま人混みを強引に掻き分けるようにしながらその場から去っていってしまった。

 

「…あら?今の方……何処かで見たような…?」

 

ウィズさんは男の後ろ姿を僅かに見ながらそんな事を言った。ただあの人も気になるものの、今はすぐそこに助けを待つ人がいる。男を追いたい気持ちも強いがそれどころでもなかった。私は素早く立ち上がると、そのまま宿の方へと駆けた。

 

「どうしましたか!?私はアークプリーストです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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