お待たせしました。暫くは1週間前後の間膜が続きそうです…
このすばのスマホアプリがハーフアニバーサリーだそうで。最低限ちょくちょく遊んでます。…このファンのキャラって小説では見たことないですが読者様的には出てくる事に抵抗はあるのかな…。アイドル3人組とか、女盗賊さんとか出したい気持ちはあったりする。
―アルカンレティア・高級ホテル―
あれからセシリーさんはアクシズ教団の動きを逐一こちらに報告してくれる流れになった。完全にスパイなのだけど事情が事情だしそれ以前に本人は1度スパイとかやってみたかったのよね!とむしろノリノリだった。流石はアクシズ教徒である。本来こんな感じだよね、うんうん。なにかずれてる気がするけど気にしないことにする。
ウィズさんはホテルに帰るなり部屋に篭ってしまい手に入れた温泉の毒の調査に乗り出していた。同じ部屋にいためぐみんは邪魔しては悪いからと私とゆんゆんの部屋に寝泊まりすることに。
部屋としては2人部屋ではあるもののそもそも2人で使うには広すぎる広さなので1人2人増えても全く問題はなかったりする、ホテルの人に頼んでベッドを運んでもらったりはしたけど。流石にウィズさんが部屋で毒の調査をしているとは言えなかったが。
他の4人の報告を聞くも、残念ながらめぼしい情報は入らなかったようだ。だけどこちらには毒の入手、さらに怪しい人物との遭遇と事態は大きく動いていた。
私はそんな中、ゆんゆんやめぐみんと部屋で雑談をしていたのだけどどうも気になることがあり話に集中できていなかった。
気になることとは当然ウィズさんのことである。彼女は一体何故、どのような経緯をもってリッチーとなり、魔王軍の幹部となってしまったのだろう。
それは考えたら考えるほどに頭に深く疑問として残り、気持ち的にももやもやしてしまい、やりきれない。
とはいえ流石に内容が内容だ。踏み込みすぎている気もするし気軽に聞けるような話でもないかもしれない。…だからといって今回は聞かないまま済ませるつもりもなかった。気が付けば私は2人に断りを入れて部屋を出て、今や1人で毒の分析をしているウィズさんの部屋の前に来ている。とりあえず名目としては差し入れとして軽食と飲み物を用意してみた。入り込んで直接問う度胸は私には無い。
コンコン…
「空いてます、どうぞー」
ノックをすれば即時に返事が帰ってくる。そのまま扉を開け、奥の部屋へと向かえば部屋の真ん中の大きな机の上には見たことのない様々な魔道具らしきものが乱雑に置かれていて、ウィズさんの座る目の前には毒々しい色をした液体の入ったフラスコ、それにはアルコールランプのようなもので火をかけられている。どうやら温泉のお湯を蒸発させてその中から毒の成分を抽出しようとしているようだ。あくまで素人目から見た状態ではあるが。
「お邪魔しますウィズさん、良かったらこれ…合間に食べてもらおうと…」
「これはアリスさん、わざわざありがとうございます、…毒の分析ですがこの調子だと朝になる前にはなんとか解析できると思います」
私が手に持つバスケットを見せれば笑顔で言うウィズさんだけどようは徹夜確定ということになる。何も力になれないから仕方ないとはいえ申し訳ない気持ちが強い。既に私やゆんゆんは何か手伝えることはないか聞いてみたのだけど専門的な物が多く、分析する毒自体も危険なものなので、とあっさり断られてしまったしここでまた同じことを言うのも妙な話だ。
「それで、どうしたんですか?」
「えっ…?」
私はウィズさんの部屋にあるティーポットを使って紅茶を淹れていると、ふいにウィズさんからかけられた言葉に思わず萎縮してその手を止めてしまう。だけどその言い方はとても穏やかで、優しげだった。
「ふふっ、顔に書いてますよ、何か聞きたいことがあるんじゃないですか?」
ウィズさんは作業の手を止めるなりその場から離れ、私のいるテーブルに近づくなり私が持ってきたバスケットに入ったサンドイッチを手に取り、1口食べ始めた。
「美味しいです、アリスさんが作ったんですか?」
「…私は料理が苦手ですので…それはホテルの食堂で頼んで作ってもらいました。ですが紅茶を淹れることなら得意ですよ」
カップに注いだ紅茶、仕上げにミルクを入れてミルクティーの完成である。実は料理はできないもののせめてお茶くらいは淹れたいとゆんゆんに頼んで教えてもらったのだ。カズマ君の屋敷でもよく紅茶は淹れていて、貴族のダクネスさえも美味しいと言ってくれたので味は問題ないと思われる。
「あら?意外ですね、見た目料理とか得意そうに見えますけど…それじゃ、いただきます……うん、凄く美味しいです」
ウィズさんが紅茶を口に含むとほんわかとした笑顔が返ってきて、私も思わず笑顔になる。
…ウィズさんは私がそれだけの為にここに来た訳では無いことに気が付いているようだ。この際だから聞いてしまおう、ウィズさんが拒否すればそれまでの話で終わればいいのだから。聞くだけならタダなのである。
「…では単刀直入にお聞きしますね、……ウィズさんは元は王都で活躍する名の知れたアークウィザードだとお聞きしてます。それがどうしてリッチーとなり、魔王軍の幹部になったのですか?」
「そ、それは…」
やはり踏み込みすぎた質問だったのだろう。ウィズさんの優しげな表情は明らかに変わり、困惑しているし困らせている。視線を逸らす辺りからして気まずさをも印象づけられる、空気が重くなっていく感覚すらしてしまう。
「…すみません、やはり踏み込みすぎた質問でしたね、今のは忘れてください」
この空気に先に音を上げたのは情けないのだが私だった。とはいえ元々しつこく聞くつもりもない、誰にだって言いたくないことくらいあるだろう。私にだってたくさんある。
「いえ、大丈夫です…この話はまだ誰にもしたことはないのですが…アリスさんでしたら、お話しましょう」
「えっ…」
意外な答えが返ってきた。信頼してくれているということなのだろうか、だとすれば私としては嬉しい限りなのだけど…。
「い、いいんですか?」
「はい、どうか聞いて貰えますか?」
私の返事は少し慌てたものになっていた。多分私はウィズさんにあまり良い印象を持たれてはいないのではないか、と何処かで思っていたのだから。
魔王軍の幹部と分かった時のウィズさんを見る目はきびしくなっていたかもしれない、その時の私の質問責めはウィズさんにかなり堪えたかもしれない、ここに来てからも魔王軍の関与がある可能性があることを知った時のウィズさんへの質問はきつめの聞き方だったかもしれない。
考えてみればある意味負い目がありすぎた、とはいえそれが間違ったものだとは思ってはいない。魔王軍の幹部などになる方が悪いのだ。
……そう、思っていた。
「知っての通り私は元々冒険者であり、アークウィザードとして王都を中心に仲間達とパーティを組んで日夜魔王軍と戦ってきました。そんなある日、私達は魔王軍の幹部と戦うことになりました…、貴方達も戦った、あのデュラハンのベルディアです。ですが私達はあと一歩と追い詰めたことで逃げられてしまい、代わりにパーティ全員に呪いを受けることになりました」
デュラハンのベルディアの呪い、それは『死の宣告』。私の場合は女神アクア様という規格外の存在がいたので無事に済んだものの、本来ベルディアの呪いを解ける力を持つ者はこの世界には存在しない。今の私がセイクリッド・ブレイクスペルを使ったところでおそらく解けることはないだろう。当然ウィズさんのパーティもそれに苦しむことになったのだろう。
「ベルディアが逃げた場所は魔王城…結界で守られ、人間が入ることはできない場所…期限は1ヶ月。呪いを解除するのなら方法は1ヶ月以内に魔王軍の幹部を全て倒し結界を解除してベルディアを倒す…しかし肝心の幹部の1人でもあるベルディアは魔王城の中…もはや私達は死ぬのを待つだけでした。…実際それでパーティは崩壊状態でしたね、ある人は酒に溺れて、ある人は廃人同然になり…ある人は神に祈ることを続けるだけ…」
容易く語られるそれは当人達にしてみれば絶望的な状況でしかなかったのだろう。考えるだけで身体が震えてくる。
「ですが私は諦めきれなかった。私は必死になって魔王城に入る方法を探しました……そして見つけました。魔王城は人間が入ることのできない…なら…人間ではなくなれば…」
「……それでリッチーに…?」
私が言葉を紡げばウィズさんは少し間を空けて力無く頷く。おそらく当時はかなり悩んだ結果の行動…苦渋の決断だったに違いない。
「当時の私は運が良かったのか、悪かったのか…そんな時にバニルさんと出逢いました。そして戦いはしたものの、私1人では手も足も出ず…私はやぶれ…そして懇願しました、どうか私をリッチーにしてほしいと」
リッチーを選んだ理由としてはウィズさんの持つアークウィザードとしての魔力からその選択がベストだったのだろう。ウィズさんとしては人間でなくなり魔王城を出入りできるようになれるのなら何でも良かったのだから。
「バニルさんは条件付きでそれを承諾しました。いわば契約ですね。私をリッチーとする代わりに、バニルさんがいずれダンジョンを作ったりすることの手助けをして欲しいと…もっともバニルさんは自力でダンジョンを作っちゃいましたけどね」
苦笑混じりに言うウィズさんだけどその表情は複雑そうだ。ダンジョンを作る名目で資金面も当てにされていたのだろうけどあの商才の無さはバニルも見通せなかったのだろうか。いつもポンコツと嘆くバニルの気持ちが少しだけ分かった気がした。
「それでリッチーになった私は即座に魔王城へと乗り込み、単身でベルディアさんを半殺しにして呪いを解除してもらいました、あの時は自分の力にびっくりしましたね。リッチーになることで魔力がかなりあがってましたから…」
いわばその力は副産物に過ぎなかったらしい。だがそれはウィズさんにとってプラス要因だ、そのままの強さでベルディアに挑んでも敵うはずがなかっただろう。しかしその力によりベルディアを倒し、呪いを解除してもらい仲間を救う事ができた。
「そしてそんな私の力を見て、魔王様は私を幹部にスカウトしました。私は色々考えましたけど…人間を捨てリッチーとなり、役目を果たしたのでその先のことは全く考えていませんでしたから…それを様々な条件をつけて承諾しました、こうして今に至るという訳です」
……結論から言えば悲しすぎる。これが悲劇でなくなんなのか。ウィズさんは自身を犠牲にして仲間を救ったのだ。もし私がウィズさんの立場でいて、そうなっていたらどうしただろう。今の私にはかけがえのない仲間がいる、守りたいという気持ちは痛いほど理解できてしまえる。もしかしたらウィズさんと同じ道を歩むことになったかもしれない。そう思えば私の涙腺は呆気なく崩壊した。
「アリスさん…」
「本当にごめんなさい、ウィズさん。私は魔王軍の幹部と聞いてからのウィズさんを…どこか心の奥底で軽蔑していたのかもしれません…それで…ウィズさんとこの件について話す時は…ぐすっ…きびしい口調になっていたかもしれません…ひっく…本当に…」
ごめんなさい、そう繰り返そうとしたところで私の身体は優しく包まれた。ぎゅっと抱きしめられそのままウィズさんは私の頭を撫でてくれた。
「良いんですよ、むしろ今わかって貰えたことが私は嬉しいです、それにアリスさんだけでしたから。あのように真摯に向き合って話を聞いてくれた方は、だからこそ、私はアリスさんになら話してもいいと思えたのですよ」
その言葉に私はぎゅっと抱き返すことで返事とした。心洗われるような時間を過ごす事ができている気さえもする。とにかくこれでウィズさんの見る目は良い意味で変わりそうである。
「あ、あの…アリスさん…そろそろ離してくれると…」
暫く時間が経ち、ウィズさんの慌てたような声が聞こえてくる。それもそうだ、ウィズさんは毒の分析というお仕事もあるのだから何時までもこうしてはいられない。
私はそう思ってゆっくりと離れたのだけど…ウィズさんの焦る理由は別のところにあったようだ。
「なんだかアリスさんの服から…凄い心地よい力が作用しまして…このままだと消えそうに…」
私の服はアクア様の本気の加護が働いている。今や私自身にもだ。そんな状態で長時間密着していたらリッチーであるウィズさんはどうなるか。
もちろん身体が半透明になってしまっていた。
「ウィズさーん!?!?」
どうする事もできないので距離をとるしかない。ウィズさんは時間をとれば回復するそうなので私は申し訳なさげに部屋を後にすることにした、これ以上邪魔する訳にもいかないし。
……
早朝になり、目にクマが出来てしまっているウィズさんから報告があった。毒の解析が終わったらしい。なんだか私が話を聞いたこととちょっとしたハプニングで余計に時間がかかった気もして罪悪感が半端ないのだがこれにはセシリーさんも呼ばれて、合計9名での報告会を兼ねた朝食を摂ることになった。
今更な話ではあるが、この食堂の状態は私達にはかなり都合が良かった。他に客がおらず、更に高級ホテルの食堂なので広い。食堂のスタッフはいるもののかなりの距離があるのでまず聞かれることはない。密談をするのにこれほど適した環境もそうそうない、だからこそこの場では何も遠慮もなく話ができるのである。
「うーん♪流石アルカンレティアで1番のホテルね、どれもこれも凄く美味しいわぁ♪」
セシリーさんは報告も忘れて高級ホテルの朝食に夢中である。これには一同この人何しに来たんだと視線を向けていた。ウィズさんだけは苦笑していたけど。きっと初日の夕食の時の自分とかぶって見えているのかもしれない、そっとしておこう。
「おいおい、飯食うのは別にいいんだけど目的を忘れないでくれよ?」
「もちろん…もぐもぐ…わかってる…ごくんっ……わよ!もぐもぐ…」
勢いのままの食事はどうも収まる様子はないようだ、カズマ君が声をかけたもののセシリーさんの手と口は止まらない。
「まぁ朝ご飯を頂いた後でも話はできますからね、先に済ませてしまいましょう」
めぐみんがそう言うなりもぐもぐと朝食を堪能する。ようはセシリーさんに釣られて食べたくなったのだろうけど言ってることはわからなくもない。ダクネスとミツルギさんがため息混じりにそれに倣えば他のメンバーも食事を先に摂ることとなった。思うように話が進まないのはもはやいつものことだと諦めたようにも見えるし私もそう思う。
……
「それでは皆さんに温泉の毒の成分について分かったことを伝えたいと思います」
食事も皆ある程度手を止めたと判断したのか、ウィズさんが皆を回し見るようにしてそう告げれば、一同の視線はウィズさんに集中した。いよいよ本題である。
「成分を抽出して調べた結果…毒はデッドリーポイズンスライムのものである可能性が非常に高いことがわかりました」
「デッドリー…ポイズンスライム…?」
ダクネス、ゆんゆん、めぐみん、セシリーさんがごくりと息を飲む、それを聞いても表情を変えないアクア様とミツルギさん。そして1人疑問符を浮かべるカズマ君。私としても特に表情を変えることはなかったと思う。
「なんだスライムか、スライムってあの雑魚のスライムだろ?」
「…カズマ、本当にお前は変な所で常識がないな…」
カズマ君があっけらかんと告げればすぐにダクネスから冷静なつっこみがはいる。カズマ君の考え方は私も、多分ミツルギさんも理解はできるだろう。スライムと言えば日本の某人気RPGでは1番の雑魚モンスターとして登場するのでそこから連想したのかもしれない。だけど私としては一概に雑魚と決めつけるのは早計であるとも思える。
スライムというモンスターはRPGのモンスターとしては割とメジャーなジャンルではあるものの、その強さはゲームにより様々だ。カズマ君が思うように雑魚の場合もあれば、リアルなゲームになれば物理が効きにくかったり、魔法が効きにくかったり、鉄の剣などで斬れば剣が錆びてしまったりと厄介な一面を持つ場合も多い。
「いいかカズマ、スライムはその液状の身体により物理攻撃はほとんど効果がない、魔法に関しても効きが悪い、さらに大きな個体になるとそのまま人間を丸呑みにして酸により跡形もなく溶かしてしまったりもする恐ろしいモンスターだぞ」
「えっ?…そ、そんなに…?」
どうやらこの世界のスライムの概念は私が思う以上に厄介なものらしい。楽勝ムードだったカズマ君の顔はみるみる恐怖に染っていた。
「さらにデッドリーポイズンスライムといえばその厄介なスライムの中でも1番凶悪ですよ」
「はい、実際凶悪ですしアクアさんの言った通りになりましたからね」
「アクアさんの言った通り…?」
アクア様が何か言っただろうかと私達は思案を巡らせる。はて、何か言っただろうかと思うが1番に表情に出したのはカズマ君だった。露骨に嫌そうな顔をしている。
「おい…まさかアクアが言ったことって…あの魔王軍の仕業とかなんとかいうあれか…?」
「ま、魔王軍!?」
カズマ君のぼやきに近い問いかけに真っ先に反応したのはセシリーさんだ、流石に魔王軍まで絡む事態だとは想定外だったのだろう。その大きな声はおそらく離れた位置にいるホテルのスタッフにも聞こえていそうだ、とくに動きはないものの、ピクリと動いたような気がした。
「魔王軍の幹部の1人にいるんですよ、デッドリーポイズンスライムのハンスさんって方が。しかもアリスさんはその方に既にお会いしています」
「…っ!」
これには流石に私も驚いた。思わず目をパチクリさせてしまう。
そしてそんな出会いをウィズさんが知っているとなれば該当する人は限られる。おそらく昨日の事件でぶつかった色黒の男性で間違いないだろう。あっさり逃がしてしまったことが今となっては悔やまれる。
「そういえばあの人は…ウィズさんの声が聞こえてきてから慌てて逃げていったような気がしますね…」
「私とは面識がありますからね、当然ですよ」
「面識?どうしてウィズさんが魔王軍の幹部と…?」
思わずハッとしてしまう。ウィズさんも私もだ。ついうっかりセシリーさんがいるのを忘れて踏み込んだ話をしてしまった。
「ウィズは昔魔王軍の幹部と戦った経歴をもつ凄腕のアークウィザードだったんだろ?交戦したことくらいはあるんじゃないか?」
「あー、そういえばそうね」
カズマ君のフォローでなんとかセシリーさんは納得したようだ。やれやれ、これ以上の面倒事は勘弁願いたい。ウィズさんは申し訳なさそうにカズマ君に向けて目線だけで謝罪していた。
「アクアさん、私とウィズさんが顔を知っています、特徴を話しますので似顔絵を描いていただけますか?」
写真もないこの状態だとこの方法が1番だと私には確信が持てた。アクア様の手先の器用さなら似顔絵を描くくらい造作もないだろうしそれを聞いたアクア様は自信満々な顔つきでいた。
「いいわ、とりあえず紙とペンを用意してくれるかしら?」
「それならここに…」
「いやそれ入信書ですから!!」
全く油断も隙もあったものではない。とはいえアクア様は既にアクシズ教徒という設定なので書いたところで全く問題はないのだけど。
アクア様は苦笑混じりに入信書の裏面に、私とウィズさんの情報を元に手早く似顔絵を完成させてしまった。
「本当改めて見るとやばいなお前の才能…」
出来上がった似顔絵は写真と言ってもおかしくない出来栄えだった。アクア様は鼻高々な様子だけどここまで描いてしまっては誰もそれについて何か言う事はなかった。それ程の出来栄えだったのだから。
「セシリーさんはこの似顔絵を魔道カメラで撮ってからアクシズ教団の人達に広めて貰えますか?」
「任せてちょうだい!教団でもこいつの行方を探してみるようにするわ!」
「相手は魔王軍の幹部です、見つけても刺激のしないようにお願いしますね、私達に知らせて貰えたらすぐに駆けつけますので」
作戦としてはまずはこれ以上の温泉への被害を無くす為に似顔絵を町中に広めることにする。今のところ隠れて毒を混入しているようなのでまさか他人の目がある中で犯行に及びはしないだろうとの目論見である。あくまで目論見なので気付かれていると悟られたらどんな行動に出るかわからないのでこちらが気付いていないように見せなければならない。
「私達はペアで別れて街中の捜索にあたりましょう、まだ被害のない温泉などを張ってみたら出会えるかもしれません」
「……お、おう」
「カズマ君?どうしました?」
皆が真剣な様子で首を縦に振る中、カズマ君だけは微妙な様子でいた。結局魔王軍の幹部と関わることになったことで思うところがあるのかもしれないけどできればその気持ちは殺してもらいたい。
「いや…なんか気が付いたらアリスが完全にリーダーっぽいなぁって」
「えっ…あ…」
カズマ君の言葉に私は我に返ったように自らを省みる。…うん、思えば私が完全に仕切ってしまっている。そう思えばなんだか申し訳なく感じてきた、いつもならカズマ君が仕切っていたから違和感があったのかもしれない。
「別に何もおかしなことはないだろう?佐藤和真、そっちのパーティはキミがリーダーかもしれないが僕とゆんゆんにとってのパーティリーダーはアリスだ、何か問題があるかい?」
ミツルギさんがそう言うとゆんゆんも笑顔でうんうんと頷く。その顔はとても嬉しそうに見えて瞳はキラキラと輝いている。カズマ君としてもそんな気は全くないので特に反論することもなく首を横に振った。
「別にねーよ、俺にとっては楽で助かるし?それじゃ、やることは決まったし動くか?」
「もちろんよ!覚悟しなさいよハンスとやら!アクシズ教にたてついたこと、心から後悔させてやるわ!!」
アクア様が立ち上がり握り拳を見せつけるがミツルギさんとしては複雑な面持ちだった。そうもそうだろう…、魔王軍の幹部の名前は1発で覚えているのにミツルギさんは未だにまともに名前を呼ばれたことがないのだから。ミツルギさんには少し優しく接してあげよう。
そんなどうでもいい想いをもって、私達はそれぞれ魔王軍の幹部ハンスの捜索にあたることにしたのだった。