内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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シリアス戦闘にならないのがこのすばクオリティ


episode 81 アクシズ教徒の底力

 

―アルカンレティア・中心部―

 

悪魔滅ぶべし!

 

魔王しばくべし!!

 

その掛け声は怒号のように周囲に響き渡る。ふと落ち着けたゆんゆんが周囲を見渡せば、ゼスタの背後にはセシリーは勿論のこと、10や20では収まらない数のアクシズ教徒らしき人々が見受けられる。これにはゆんゆんもウィズも盛大に面食らうことになる。確かに中にはプリーストのような様相の者もいる、しかし見る限りでは集まったアクシズ教徒の8割ほどは冒険者でもないこの街の住人にすぎないのだ、相手は魔王軍の幹部、死にに来たようなものである。

 

「ゼスタさん!どうして……っいった…!?」

 

どうして街の人を連れて来たのか、そう聞こうとしたところでゆんゆんは足首に激痛を感じて起き上がろうとしたもののすぐにしゃがみこんでしまった。それにすかさずゆんゆんの傍に来て半座りの状態で足に手をかざすセシリーの心配そうな表情がゆんゆんの目に入った。

 

「その…ごめんなさいね。貴女達のこと、全部ゼスタ様に話しちゃったのよ」

 

「全く…セシリーさんには困ったものです、スパイだなんてそんな面白そうなことをしていたとは。実に羨ましい!」

 

「…えぇ!?怒る箇所そこなの!?」

 

思わず敬語も忘れてゆんゆんは突っ込んだ。妙に真面目にこの件に取り組んでいたように見えていたのでゆんゆんは忘れていた。この人達がアクシズ教徒であったことを。

 

「動かないで、これでもプリーストだから、私でも治療くらいはできるのよ…ヒール」

 

セシリーはゆんゆんを宥めるように諭すと同時にかざした手からは淡いエメラルドグリーンの光がゆんゆんの足を癒していく。次第に痛みが引くことをゆんゆんは感じ取ると光は消えていく。

 

「とりあえずこれで歩けるとは思うけど…、貴女は下がっておきなさい?」

 

「そ、そんな!?待ってくださいセシリーさん!相手は魔王軍の幹部なんですよ!いくらなんでも無茶ですよ!」

 

「あら?ゆんゆんさんがそれを言うの?紅魔族のゆんゆんさんが?」

 

「……ど、どういう意味ですか?」

 

ふふっと笑みをこぼすセシリーはそのまま立ち上がるとじっとデッドリーポイズンスライムを睨みつける。その瞳にいつものお気楽な感情はない。自分達の街を破壊されたことによる憤怒の感情はセシリーだけでなく、周囲に集まっているアクシズ教徒のどの目にも現れていた。そんな目を見てゆんゆんは何も言えずにごくりと唾を飲み込んだ。

 

「紅魔族はアークウィザードの集まりだとしたら、私達アクシズ教徒は優秀なプリーストの一団でもあるわ、ましてや相手が悪魔なら、余計に私達の出番よ」

 

「あ、悪魔って…確かに毒々しい見た目で魔王軍の幹部ですが…あれはスライムですよ?」

 

街に被害をもたらす魔物という点ではどちらも変わらないのだがセシリーはあの姿を見て悪魔とはっきりと言った。それがゆんゆんにとっては不可解でしかなかったが、同時にゆんゆんは思い出した。対峙した時のウィズの言っていたことを。…流石にそのことを口に出す訳には行かないが。

 

ウィズが言うにはこのデッドリーポイズンスライムのハンス、ウィズの知る声や口調ではないという。ならば信じ難いことではあるが、ハンスの身体が別のナニカに乗っ取られているという可能性。そしてセシリーが言う悪魔。プリーストなだけあって悪魔云々には敏感なのかもしれない、ウィズがリッチーだということには今のところは気が付いてないようだが。

 

つまりハンスは悪魔に取り憑かれているということになり、そうだとすれば色々と納得もできる。今までひっそりと行動していたのがここに来ての大暴れなのだから、これは流石に同一人物の行動とは考えにくい。

 

その結論はより恐怖を引き立てる。取り憑いた相手が相手だ。まさか魔王軍の幹部の身体を乗っ取ってしまえるほどの悪魔がいるとは。そう思えばある意味普通に魔王軍の幹部と戦うよりもよほど厄介な事態である可能性すら出てくる。

 

「ヒューヒュー…人がいっぱい…ヒュー…だけど…気に入らない…ヒュー…」

 

「おや?何が気に入らないというのですか?貴方の御相手をさせて頂く為だけにこうやって集まったというのに」

 

魔王軍の幹部、その巨大なデッドリーポイズンスライムを前にしてもゼスタは余裕をもって話している。恐れなどはまるで見受けられない、まるでいつも通りな様子のゼスタを見てゆんゆんは静かに驚いていた。

 

「何をしているんですかゼスタさん!はやく皆さんを連れて避難してください!貴方や一部のプリーストさんはまだしも.、見る限り一般の方もいらっしゃいますよね!?」

 

ゆんゆんの言い分はまともな神経を持った人間であれば当然の思考である。何度も言うように冒険者でもない一般人がこの場にいることは自殺行為以外の何物でもないのだから。いくらアクシズ教徒とはいえその辺の常識は当てはまるはずである。

 

そう、まともな神経と思考を持った人間ならの話である。

 

「何か勘違いしてらっしゃるようですな」

 

「アクシズ教徒は…!!死ぬ事など恐れない!!」

 

「…っ!?」

 

怒号のように雪崩込む叫びにゆんゆんは唖然としてしまった。今目の前には魔王軍の幹部が街で大暴れしている最中だというのにそんな恐れは微塵も見えない。確かに暴れた当初にいた人達は巨大なモンスターに街を破壊され恐怖に震え、悲鳴をあげて逃げていたのだが今ここに募ったアクシズ教徒は違う。

 

「アクシズ教義にもあります、アクシズ教徒は死ねばアクア様が出迎えてくれて、この世界とは違う世界、ニホンというところに転生させてくださるそうです。その世界の文化はとても素晴らしいもので…」

 

「私のような幼女好きでも!!」

 

「僕のような女の子に興味ない男も!!」

 

「そう、特殊故蔑まされてきた私達が当たり前のように暮らせる場所、それがニホンだと伝承にあります!!ですから我々は死など怖くはないのです!!」

 

「「「うおおおおおおっ!!!」」」

 

再び怒号のような声があちこちからあがる。今ここに実際の日本出身であるカズマ、ミツルギ、アリスがいれば否定したい事山の如しだろう。

それでも、それを信じるアクシズ教徒達は希望に満ち溢れていた。その目には、その心には、その有様には絶望など全く見受けられない。

 

 

 

「……ヒュー…ヒュー…、その感情…僕は…嫌いだよ、吐き気がしてくる…ヒュー…」

 

希望。絶望とは真逆ともとれるその感情は、マクスウェルから見れば不快だったのかもしれない。表情はわからないが声からは苦悶しているようにも聞こえる。

 

「おや、お気に召さなかったようでそれは申し訳ない、…ですがアクシズ教徒として悪魔を悦ばせる訳にもいきませんので…」

 

ゼスタはふと片手をあげて合図する、すると同時に街の住人からは次々とポーション瓶が投擲されて行く。それはあちらこちらから雨のように降り注ぎ、マクスウェルにぶつかって瓶の中身がスライムに侵食されていく。

 

「……っ!!??何だいこれ…?いたい…いたいよ…!」

 

声だけ聞けばよわよわしい子供のような声に聞くだけなら罪悪感が生まれそうになるのだがアクシズ教徒は容赦なく次々とポーション瓶を投げつける。

 

「いかがですかな?この水の都アルカンレティアの名産品、アクア様の加護を得た特別製の聖水は」

 

ポーション瓶の中身はアルカンレティアで一般的に普及している聖水、水の都を謳うだけあってかなりの量があるようだ、降り注ぐポーション瓶の雨はまだ収まりそうにない。ゆんゆんはふと危機感を感じてウィズに目を向ければ、ウィズははやいうちにポーション瓶の巻き添えにならないように後方に避難していた。仮に聖水をかぶって浄化されかかったりでもしたら、正体がバレるのと聖水自体での浄化の危機と2つの面で大ピンチになってしまうだけあって無事な様子でいるウィズを確認するなりゆんゆんは軽く安堵した。

 

そんなポーション瓶の雨が続く中、ようやく他の面々も姿を現した。

 

「ゆんゆん!大丈夫ですか!?」

 

「っ!…アリス!…うん、私は大丈夫…ゼスタさんが助けてくれて…」

 

しゃがみ込んだままだったゆんゆんにアリスは駆け寄り、一方一緒にいためぐみんはゆんゆんの無事を目で確認するなりポーション瓶を投げつけられている巨大なスライムを凝視していた。そんな様子を見たカズマはジト目でめぐみんに忠告する。

 

「おい、めぐみん。言っとくがこの街中で爆裂魔法は使えないからな?」

 

「……わかってますよ、街が破壊されてしまうだけでなくあのスライムの肉片が街中に散らばってしまいそうですからね」

 

「しかし厄介なことはそれだけじゃないぞ…うかつに触れられないのなら、僕のような接近戦主体だと厳しいものがある」

 

「……うかつに触れられない…か。……まさかあいつ…」

 

「…どうした佐藤和真?」

 

何を思ったのか、突如顔色が悪くなるカズマにミツルギは不思議そうに首を傾げた。それを聞いていたアリスやゆんゆん、めぐみんは察する。触れるだけで死に至る猛毒、そんなものが目の前にある。ならば『私』は耐えることができるだろうかとウキウキしながら接近してしまう性癖の持ち主が身近にいるではないか。そう思えばミツルギ以外の面々もまた微妙な顔をしてしまうのは仕方の無いことだ。

 

「…いや、そんなことよりダクネスとアクアはまだ来てないようだなって思って…」

 

「ですが待っている余裕はありませんよ、今は聖水のおかげで動き自体は抑えられているようですが…媒介がスライムだからかダメージ自体はそこまででもなさそうですし」

 

アリスが告げるように、確かに弱々しい声をあげてはいるが見る限りでは致命傷には程遠い様子だった。あくまで時間稼ぎでしかない、がアリス達一同の見解だ。ならば街と住人の被害を抑えつつ討伐する策を思いつかなければならない。

 

…とはいえ、被害を抑えつつ攻撃できるうってつけの存在はパーティにしっかり存在している。カズマでなくてもそれに思いつくなりメンバーの視線はアリスへと集中する。…めぐみんだけは微妙な顔をしていたが。

 

「めぐみん、その目はやめてください。勝負云々はまた次の機会にすればいいじゃないですか」

 

「なっ!?そ、そっちこそその大人の対応をやめてもらおうか!!これじゃ私が聞き分けのない子供みたいではないですか!?……おいカズマにゆんゆん、言いたい事があるなら聞こうじゃないか」

 

いや聞き分けのない子供だろ?という視線はカズマとゆんゆんからごく自然と出てしまっていた。日頃の行い故に仕方ないことである。

 

「相手はジェル状のスライムだ、なら氷魔法で凍らせたらいいんじゃないか?」

 

「それなら私とウィズさんでやりましたけど…あまり効果がなかったんですよね……でもアリスのあの広域魔法ならもしかすると…」

 

「…《バースト》ですか。分かりました、やってみましょう…」

 

「おいこら、私を無視しないで頂きたいのですが。聞いてるのですか!?」

 

めぐみんの猛抗議を横目に、アリスは青く輝く魔晶石を杖にはめ込んだ。そのアクアから賜った魔晶石は相変わらず青く美しく光輝いている。やはりアクアを讃える信仰の場なだけあって力が貯まりやすいのだろうか。その輝きにはアリスも自身の魔法へと期待を込めた。

 

「……あれは…?」

 

聖水の入ったポーション瓶の雨に気を取られている今がチャンス。そう思いアリスはデッドリーポイズンスライムに向くがそこには先客がいた。

 

…そこにはポーション瓶にぶつかり、どこか嬉しそうにしながらも剣を抜いて間近で対峙する1人のクルセイダーの姿が。

 

「「「ダクネス!?!?」」」

 

 

 

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