内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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かなり遅くなりました。不定期なのは変わりませんがちょくちょく書いて行きたいとは思ってます。


episode 83 水の女神アクア

 

 

 

それはあまりにもあっさりと、呆気ない幕切れだった。例えアクシズ教団がどれだけいても、女神アクアがいるとしても、魔剣の勇者がいたとしても、過去に他の魔王軍幹部や機動要塞デストロイヤーを撃破した佐藤和真パーティがいたとしても、この戦いは簡単には終わる事はないだろう。まず長期戦を覚悟してこの場にいた誰もが君臨していた。

 

それがどうだろう、アリスが唱えたたった一つの魔法によりマクスウェルの操るデッドリーポイズンスライムはものの見事に巨大な氷像のオブジェへと変貌を遂げていた。

 

「……えっ、お…終わったのか……?」

 

その結末が呼んだ静寂の中、ふいにカズマから漏れたこの呟きだけが周囲の人々の耳に届いた。そしてこの結果に驚愕しているのはこの結果の原因であるアリス自身も同じだった。

 

「ふふん、どうよカズマ?少しは私を崇める気になったかしら?これがアクシズ教団の信仰を得た私の本気の力よ!」

 

「…はぁ?やったのはアリスだろ?なんでアクアが自慢げなんだよ」

 

「……いえ、アクア様のお力なのは確かだと思いますよ」

 

得意気に語るアクアにカズマはいつものように蔑んだような目を向けるも、アリスはどこか思い詰めたように両手に持つ杖を抱きしめてそう告げる。その杖に装着された蒼い魔晶石はあれほどの力を発揮した後にも関わらず、力強く青い光を瞬かせている。

 

アリスからしてみれば気持ち的に力んでた部分もあったかもしれない、それでもこの結果は明らかな想定外の威力である。消費した魔力は普段バーストを放った時と変わりはなく、女神アクアの力が篭った魔晶石の力によるものと推測するのが1番納得のいくものであったのだから。そしてその女神アクアの力はこの場に限りその狂気の信仰心で1000倍返し状態である。

 

一方巨大なオブジェと変貌をとげたデッドリーポイズンスライムは全く動く様子もなく、これには目前にいたダクネスとミツルギも絶句するしかできなかった。

 

「…本当に、終わったのか…?」

 

ミツルギは目前のデッドリーポイズンスライムを見上げていた。それは見事に凍りついていてとても生きているとは思えない。呆気に取られながらも思わずゴクリと生唾を飲んでいた。

 

アリスの魔法の威力はミツルギもよく知っている、まだ1ヶ月も経ってはいないが共にパーティを組んできたのだから、だがこの威力は想定外でもあった。

ダクネスもアリスの魔法は今まで見てきた、そしてその威力を見てその身を震わせていた。ただオブジェと化したデッドリーポイズンスライムを見上げながら、ダクネスはその場に立ち尽くしていたのだ。

 

(…一体何がどうなってこんな凄まじい威力に?ダクネスさんも驚き固まってしまっているし…)

 

そんな疑問を吹き飛ばすように、次第に周囲から爆音のような歓声がどっと湧き上がる。

 

「流石は天使様…!きっと女神アクア様の力をご行使されたに違いない!」

 

「あの可愛い子が噂の天使様なのね!!よく見たら神々しささえ感じるわっ」

 

「お願いします天使様!私を踏んでくださいっ!!」

 

「貴方達!!アリスちゃんは誰にも渡さないわよ!!!」

 

言わずもがな最後のはセシリーである。これで本当に終わったのだろうか。相手は魔王軍の幹部…更にそれを操るほどの力を持った悪魔が相手だったのにも関わらず。

 

確かにアリスの魔法は今までにないような力を発揮していた。それは力の大元がアリスではなく、その手に持つ杖にはめ込まれた水の魔晶石…アクアの力そのものがこもったものが、このアルカンレティアという他にない女神アクアへの信仰心が集まる場所だからこそのものである。

 

アリスは勿論そんなことは知らない。知らなかったがこの場所、今なお青く輝く水の魔晶石、そして実際の魔法の威力と考えたらアクシズ教団の女神アクアへの信仰心が今の力を生み出したと考えるまでそう時間はかからなかった。

 

そしてアリスはふと思い出すように懐から冒険者カードを取り出し…その中にある討伐記録を確認することにした。

 

 

「……っ!?」

 

それを見たアリスは戦慄した。そして確認を終えるなりアリスはその場で慌てるように叫んだ。

 

「皆さん!!まだ終わってはいません!!」

 

「!?」

 

アリスが確認した冒険者カードの討伐記録、そこにはハンスの名前もマクスウェルの名前もなかったのだ。同時に攻撃したウィズやゆんゆんもまた冒険者カードを確認するがそれを行った2人ともに驚き、身構える。その行動からは言うまでもなく、どちらの冒険者カードからも討伐の確認が取れなかったということが伝えられるには充分のものだ。

 

アリスの叫びで周囲は騒然として再び緊張が高まる。…よく見てみれば氷のオブジェとなったデッドリーポイズンスライムは、静かに、だが確実に1部がひび割れてきていたのだ。

 

「めぐみん!!」

 

カズマは瞬時にめぐみんの名を呼んだ。そして彼女はカズマに呼ばれる直前には、既に詠唱に入っていた。今の状態なら凍っていることで爆裂魔法による飛散は抑えられるだろうとのカズマの目論見を、めぐみんもまたほぼ同時に察したのだから。

 

「…最高最強にして最大の魔法、爆裂魔法の使い手、我が名はめぐみん。我に許されし一撃は同胞の愛にも似た盲目を奏で、塑性を脆性へと葬り去る。強き鼓動を享受する!」

 

めぐみんの詠唱により、七色の光が舞い踊るようにめぐみんの持つマナタイトの杖に収束していく。それを見たアリスはその援護に徹することに決めた。

 

「ミツルギさん、ダクネス!離れてください!!私ももう一度…!」

 

アリスもまた、杖を構えて詠唱にはいる。爆裂魔法を確実に命中させる為に、今割れそうになっている氷を補強するように、めぐみんより遅れた詠唱ではあったが、アリスのバーストの詠唱時間はめぐみんのそれよりも早かった。

 

「貴方がそこを動くことは許しません…!再び凍てつけ!!《エターナルブリザード》!!」

 

アリスの杖にはめ込まれた水の魔晶石が持ち主の呼応に応えるように激しく青く輝いた。魔法が再びデッドリーポイズンスライムを凍りつかせる、それはひび割れてきていた箇所を埋め込むように、そして更に強固に固めるように。激しいばかりの猛吹雪にデッドリーポイズンスライムは再び動きを止めていた。

 

その時だった。

 

『貴様ら……巫山戯るな…!マクスウェルとかいう悪魔も…そして貴様らも…この俺の計画を完全に台無しにしやがって……!!!!』

 

それは今まで聞こえていた声とは違う。だがアリスとウィズには聞き覚えのある声ではあった。それは先日、温泉で毒混入騒ぎがあった際に出逢った男の声。魔王軍幹部であるデッドリーポイズンスライム、ハンスの声なのだから。

この声が聞こえたことで状況を確認することは容易なことだった。

やはりこの暴れっぷりによる破壊は本来ハンスの考えにはなかったことなのだろう、マクスウェルに意のままに操られていた結果にすぎない。

 

だがそんな事情はこちらからして見ればどうでもよかった。操られていた?街を破壊したことは本意ではない?

だからどうしたと言うのだ、毒を温泉に混入して街に被害を出していた魔王軍幹部なのは…ここに居る誰にとっても討伐対象であることに変わりはないのだ。

 

「ふう…言いたい事はそれだけですか?」

 

『……何?』

 

声の主はめぐみん。詠唱に寄る魔力の渦は杖を中心に舞踊り、いつでも撃てることをアピールしていた。

流石にあれはヤバい。氷漬けになったハンスの本能が告げる、なんとしてもあれの直撃は避けなければ、と。だが動けない、アリスの魔法はまだ終わっておらず、ウィズやゆんゆんの氷魔法も駄目押しになっていた。

 

「例え操られていたとして、本意ではなかったとして、貴方が魔王軍の幹部である以上、討伐対象であることに変わりはありません…!ですから…!」

 

『…くそっ……やめろ!!やめろぉぉぉ!!!』

 

ハンスの絶叫が街全体に響き渡る。他の面々はもはやただその状況を見守ることしかできていなかった。

 

「悪魔に踊らされし哀れな獣よ…、我の放つ紅き黒炎と…友の蒼き白氷と同調し、血潮となりて償いたまえ!穿て!エクスプロージョン!」

 

めぐみんの全ての魔力が収束し、そしてハンスの頭上から豪快に落下した。その紅き爆弾はハンスを真芯で捉え、そして鳴り響く爆音。

 

ハンスが何かを叫んでいた気もするがもはや爆音により掻き消され、誰の耳にも届くことは無かった。

爆発により、氷漬けだったハンスは跡形もなく砕け散り、それはダイヤモンドダストとなって街に降り注いでいた。

 

「お、おい、あれはあれでまずくないか!?」

 

散り散りとなっていても、そのひとつひとつはデッドリーポイズンスライム。つまり人間には毒なのだ。あれを浴びることはとても良い事とは思えない。

 

「皆の衆、今こそ我らの出番ですぞ!!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

ゼスタの掛け声でアクシズ教団のプリースト全員が動き出した。空へと向けて杖を向ければ、全員が詠唱を始めて、次々に放つ浄化の魔法。だが流石に範囲が広すぎる。

 

「ふふん、ようやく私の出番ねっ、この程度の範囲なら私に任せておきなさい!!」

 

気が付けばアクアは瓦礫の上にある女神像のてっぺんに登っていた。女神像の上に登るなどアクシズ教徒からしてみれば到底許されることではない。それを見るなり批難の声が聞こえてくるが…、次のアクアの行動によりその声は押し黙ることとなった。

 

「セイクリッド・ハイネス・クリエイトウォーター!!」

 

どこから取り出したのか、花を彩った大きな杖を上空に振るったアクアの掛け声で空からは大粒の雨が降ってきたのだ。それは霧状の粒子となったハンスの欠片ひとつ残さず付着すると、淡い輝きを見せていた。それは誰の目にも明らかだった。雨の一粒一粒が、まるで聖水のようにそれらを浄化しているのだと。

 

「…すごい…!」

 

アクアの力を初めて見たゆんゆんの1番に出た言葉がこれだった。もといそれしか喋ることが出来なかった。その雨を浴びることで若干ながら毒気を感じていた自身の身体が安らいでいく感覚すら覚えたと同時に呆気にとられていた。これが自身の親友が憧れたアクアの力なのか、確かにこの力ならば憧れるのも当然であると素直に思えたのだから。

 

「ひぃ…!?!?」

 

もっとも味方にその影響が強く出ているリッチーがいるのだがなんとか瓦礫を屋根にしてやり過ごしていた。この様子にはカズマも慌てているがふとアクシズ教徒を目を向けると誰もがその場に立ち尽くし、ただその雨を浴びて固まっていた。…その様子を見てカズマは別の悪い予感がしていた。

 

雨に気を取られてウィズのことに気が付いていないのは良かったのだが…問題はこの街に来ることになった時に懸念していた…アクアの正体について。

 

アクアがここまで派手にやってしまって、ただの旅のプリーストで通せる訳がないのだ。カズマはどうするか思考を巡らせていた。…そんな時だ。

 

 

雨も落ち着いて、ゆんゆんはアクアの元へと駆けつけた。その様子は興奮しているようにも見える。

 

「凄いですアクアさん!!浄化の雨を降らせるなんて見たことも聞いた事もないですよ!どうやったらそんなことができるんですか!?」

 

「あら、ゆんゆん?もう大丈夫なの?ふふっ、そういえばまだゆんゆんにはまだちゃんと名乗って居なかったわね、特別にゆんゆんには私の正体を教えてもいいかしらね」

 

「…えっ?お、おい!?」

 

ハンスは倒され、浄化の雨によりアルカンレティアへの危機は去った。もはや事態は解決したと見てもいいだろう。だからこそ、アクアは有頂天になっていた。調子に乗っていたとも言う。

だからこそ、カズマの制止も聞かずにアクアはゆんゆんに向けて大声で言い放ったのだ。

 

「私はアクア…アクシズ教の御神体である、水の女神アクアよ!!」

 

「「「!?!?!?」」」

 

当然ながらその声はこの場にいた全ての人に聞こえた。これはもしそのまま名乗っていたら偽物扱いを受けるなどになりかねないのだが今アクアは浄化の雨を振らせて人々を救うという奇跡を起こしたばかりだ。

 

つまりアクアを女神と信じる理由としては充分すぎるものだった―――

 

 

 

 

 






ちょっと巻いていった感がパないですがアルカンレティア編はここまでになります。
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