内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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久しぶりに筆が進みました。

誤字報告ありがとうございます。何度も読み返しているのですがどうしても見落としがちで…、これからもよろしくお願いします。





episode 86 親友

 

―アクセルの街・アクシズ教会―

 

私とゆんゆんはセシリーさん先導の元、アクセルの街の外れにあるアクシズ教会にお邪魔した。

…思えばここに入るのは人生で2回目になる。1度目は言うまでもなく私が転生して初めてアクセルの街に訪れた日、セシリーさんに出会い、拉致された形でここに来ることになった。

それ以降はたまに街中でセシリーさんに出会う事はあったものの、教会の中まで入る事はなかった、というのが以前は自身のアクシズ教徒疑惑があったので此処に来る訳にはいかなかったのだ。

改めて見れば小規模な礼拝堂にはいくつかの椅子、そして正面の壁には小さなアクア様らしき石像が奉られている。これは前回私が来た時には無かった気がする。

他にも僅かながらだが以前と変化があった。それはあちらこちら壁などの修復された跡。それは気持ちばかりではあるが以前よりも小綺麗さを感じさせる。

 

「…とりあえず…お茶を淹れてくるから…適当に座って待ってて…」

 

…とまぁ無意識に室内を見たものの、それに対しての感想は特にない。というよりそんなことを考える余裕がないというのが正しい。正直なところ、あれから30分は経つのに未だに頬が痛い気さえする。

私が適当な席に座ると、ゆんゆんは気が重そうな面持ちのまま、私から2つほど離れた位置にある椅子に腰掛けた。

そして気が重いのはこちらも同じだった。どうしてこんなことになっているのだろう…と考えて、勿論理由は分かっている。

 

私はまた、私だけでなんとかしようとしていた。誰にも相談せずに、ダクネスから先日忠告されたばかりなのにも関わらず。…とはいえこの問題は命に関わるような事ではない、お金で解決できることだ。だから勝手に決めてしまった部分もある。…だからこそ、ゆんゆんが私を平手打ちするほど怒った理由が、私には理解出来なかった。

 

「「……」」

 

重苦しい空気は変わらない。正直すぐにでもここから出てしまいたい、だけどそれだけはできない。

ゆんゆんの真意を直接聞かない限り…親友として逃げる事だけはする訳にはいかないのだから。

 

「……アリス…」

 

「………はい」

 

そんな重い静寂に耐えられなかったのか、ゆんゆんの私を呼ぶ声が礼拝堂内に小さく響いた。私は少し間を開けて返事をした。ゆんゆんが何を言ってくるのか、それが気になり、同時に怖くもあった。

 

「…えっと…咄嗟のことで…その…叩いちゃってごめん…」

 

「……いえ」

 

「「……」」

 

そして2人してまたも沈黙。ここに第三者がいれば話が進まないことにもどかしさすら感じるだろうが基本的に私もゆんゆんも本来は内向的な性格である、よってこれは仕方ないことである。ましてや私も今回ばかりはゆんゆんの言葉を待つことしかできないのだから尚更だ。

 

「さっきも言ったけど…アリスは独りで抱えすぎよ…、どうして何も相談してくれないの?」

 

「……」

 

どうして、と聞かれたら余計な心配をかけたくないから。ゆんゆんが大切なお友達だからこそ…余計にそう思える。

 

……そう、思ってた。

 

でも、違う。…違くないけど、やっぱり違う。

 

 

「…分からないのです」

 

「…え?」

 

私の答えに、ゆんゆんは思わず首を傾げた。だけど今の私には…その答えが何よりもしっくりきた。

 

「…分からないのですよ!生まれて今まで、相談とかするようなことをした覚えがないのです…!そんな人がいなかったから…!だから…どうしたらいいのかわからないのですよ!!」

 

それはまずそんな事をする相手が居なかった。そりゃ物心ついたばかりの頃ならもしかしたら両親とかに何かしら相談していたことがあったのかもしれない。…けどそんな記憶にないことは除外。少なくとも…私には自分の悩みを打ち明けられる人がいなかったのだから。友人関係は上辺だけに等しかった、両親は共働きで中々ゆっくり話したりできる時間がなかった。だからこそ私は…できる限り悩みを持たないようにのほほんと生きていた。

 

私はきっと私が思っていたよりも孤独(独り)だった。だから自己完結してしまうのが当たり前になってしまっていた。

だからこそ私は知らなかった。相談(誰かを頼る)ということを。

 

「分かるよ、アリスの気持ち。凄く分かるよ…私も同じだったから」

 

「……」

 

「でもね、アリス。お友達って、そういう相談とか、頼ったり頼られたりとか、そういうのを気軽にできちゃうのがお友達だって、私は思ってるの、だからね…」

 

ゆんゆんは立ち上がるなり、ゆっくりと私の目前まで歩み寄ってきた。私はそれに反応せずに俯いたまま動けなかった。

 

「私にも、アリスにも、今までそういった人がいなかった。だけど…今の私には目の前にそういう事を気軽にして欲しいって思える大切なお友達が、私の目の前にいるの、私は…アリスと…そんな関係でありたい」

 

「…ゆんゆん…」

 

「…だからねアリス。前に聞いた事、もう一度聞くね…?……アリス、私と…お友達になってくれませんか…?」

 

もう一度。それは初めてゆんゆんと出逢って、一緒にクエストをした帰りに言われた事。確かにあの時の私は、お友達という言葉を深く考えてはいなかったし考えるまでもないと思っていた。ただ一緒に遊んだり、こっちの世界だとクエストしたり、その程度の関係。

だけどゆんゆんにとってのお友達は、最初から今ゆんゆんが言ったような意味でのお友達。お互いに分かり合えて、人によってはちょっと重いかもしれないけど、だけど…

 

私が、もしかしたら、ずっとずっと…求めていた存在。

 

そう思ったら…自然と目頭が熱くなってきた。自然と涙が頬を伝った。

 

だから私は…。

 

「…嫌です」

 

「…えっ…」

 

「…親友じゃないと、嫌です」

 

「……あっ……、うん!」

 

自然に私はゆんゆんに抱きついていた。お友達でもいいのだけど、それよりも上でありそうな言葉じゃないと私は満足できなかった。

 

「…じゃあ、約束してねアリス。これからは、どんなことでもいいから…私に相談してね?」

 

「…ありがとうございます、ゆんゆん…」

 

気付いたら頬の痛みは全く無くなっていた。こんな風に心安らげたのは生まれて初めてかもしれないと思うと、なんだか気持ちが大分楽になっていた。

 

「…そろそろ話をしたいのだけどいいかしら?というよりお姉ちゃんも混ざっていいかしら?」

 

「「うひゃぁ!?」」

 

突然のセシリーさんの声に私達は2人して変な声を上げてしまった。というよりこのパターンはアルカンレティアでもあった気がする。

 

「…まぁ仲直りできたみたいだから良かったけど…、とりあえずお茶でも飲みながら聞いてちょうだい」

 

「あ、はい…」

 

「……」

 

私達がそれぞれ席につくなり、セシリーさんは簡易的な机にお茶を置くなり、近くにある椅子に腰掛けた。

 

「まずさっきの寄付のことだけど…一応ゼスタ様に話は通しておくわ。だけど多分…いらないと思うわよ?」

 

「…え?」

 

意外な答えが帰ってきた。あの街で一番栄えていた場所があそこまで派手に破壊されたのだ。修繕するにしてもかなりの額が必要と思われる。

 

「そもそも修繕するつもりがないのよね、ゼスタ様の提案であの場所を女神アクア様とその仲間達が魔王軍の幹部と激闘を繰り広げた聖地としてアルカンレティアの新たな観光スポットにする計画が動き出してるのよ」

 

「…えぇ…」

 

こちらとしては修繕することしか考えていなかったので流石にその発想には度肝を抜かされた。確かにそれが上手く行けば大した修繕費もかからないし破壊されたお店などのお引越しだけで済んでしまう。なんというか逞しすぎる。

 

「それ以前に貴方達はアルカンレティアを救ってくれた恩人よ?そんな人達からお金なんて取れる訳ないじゃない、こちら側が支払いたいくらいよ。それに何故アリスちゃんがあそこまで責任を感じているのかも私には全く理解できないわ。だって街を破壊したのはアリスちゃんじゃなくてあの悪魔とハンスなんだから。悪魔の狙いがアリスちゃんだったとして、なんでそれがアリスちゃんの責任になるのかしら?」

 

「…そ、それは…私があの場に居なかったら…そもそも悪魔が暴れることもなかったかもしれませんし…」

 

「……はぁ…」

 

セシリーさんは疲れた顔で溜息をついてしまった。ゆんゆんすら苦笑いしていてなんだか思い詰めていたことが馬鹿らしく感じてきた。

 

「そんなの結果論でしょう?アリスちゃんがいなかったら暴れなかった保証なんてどこにもないでしょうに。そんな考え方してたら立派なアクシズ教徒になれないわよ?」

 

「いやなりませんけど」

 

おかしい。何故私がいずれアクシズ教徒になる前提の話になっているのか。全く油断も隙もありはしない。…とはいえセシリーさんの言う事も確かにと頷けるものだ。たらればの話まで考えていたらキリがないしそもそも私が命令して街を破壊した訳でもない。少し考えたら…もといあまり考えなくても私が弁償するのはおかしな話である。

…多分悪魔の件で私の心に余裕はあまりなかったのかもしれない。兎に角ここ最近は色々と考える事が多すぎた。ゆっくり休みたいと旅行に行ったのに結局休めてなかったし心労がパない。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

―アクセルの街・カズマ君の屋敷のアリスの部屋―

 

 

「どうしたの?突然…話したいことなんて…」

 

「…簡単ですよ、ゆんゆんには私の全てを知っておいてもらおうと思いまして」

 

私とゆんゆんはセシリーさんと別れ教会を後にして屋敷に帰宅していた。そして今言った通り、私は私の境遇を全てゆんゆんに話すつもりでいた。何故話す必要があるのかと聞かれたら…ゆんゆんは、私と何もかもを話し合えるような存在でありたいと言ってくれた、そして私もその気持ちは同じだった。そんな相手に私は隠し事をしたくない。流石にカズマ君やミツルギさんのことが絡んでしまう部分は伏せるつもりだけど、それでも私は私の全てをゆんゆんに知ってもらいたかった。

 

「まず、私はこの世界の人間ではありません」

 

「………え?」

 

やはりと言うべきかゆんゆんは呆気にとられてしまっていた。だけど話し出したら私の口は止まらない。

 

 

私の本名は有栖川 梨花ということ――

 

私は元いた世界で自殺して、転生することで今ここにいること――

 

そして今の身体は…容姿は…魔法は…全て転生した際に女神様から賜ったこと――

 

私はこの世界に来て初めて、自分と同じ日本からの転生者以外に話す事にしたのだ。

 

 

「…えっと……つまり…アリスは古の勇者様と全く同じって事…?」

 

「………うん?」

 

何故かゆんゆんの瞳は紅くもキラキラと輝いている。あれ?なんか思ってた反応と違うんだけど。

 

「確かに話が壮大すぎてビックリしたけど…こんな形でアリスが嘘を言うなんて思えないし…」

 

「…信じて…もらえるのです?」

 

異世界からの転生。それは私の世界から見たら創作話やらでしかありえない非現実的なものだ。そしてそれはこの剣と魔法のファンタジーの世界でも同じ事だった。日本より宗教が活発ではあるが海外を視野に入れたらその信仰心は理解できるレベルではある。最近女神が本当にいるとなってもそう簡単に受け入れられないことから女神やら転生やらはこの世界でも非現実的なことなのは間違いない。

 

「……信じる、…でもアリスの魔法はやっぱりこの世界の魔法じゃなかったんだね。通りで紅魔の里の文献でも王都の図書館でも全く何も見当たらなかったはずよ」

 

「…あー…調べた事があったのですね…」

 

「以前アクセルで活動してた時に私が1度帰省したでしょ?それが目的だったのよ。あんな凄い魔法なら、どこかに文献があるんじゃないかと思って…あ、ごめんね?アリスに何も聞かないで調べたりして…でも私も魔法使いではあるし、アリスは一族に伝わる一子相伝の魔法だから教えられないって言ってたから…それでもどうしても気になっちゃって…」

 

「…いえ、私こそ嘘ついちゃってごめんなさい…」

 

自殺云々はゆんゆんの耳に入らなかったのか、あるいは聞いた上であえて触れないようにしてくれているのか、それからも魔法についてばかり言及してきて時間は過ぎていった。その魔法に関する話の時は、変わらずゆんゆんの瞳はキラキラと輝いていた。

 

「…あ、あのー…ゆんゆん?もっと聞きたい事はないのです?それに…本当に信じてもらえるのですか…?」

 

話の最中だったけど私はその腰を折るように言った。正直この話を転生者以外にするのは初めてなので、それによる怖さもあった。ゆんゆんの受け取り方次第では、今の関係が崩れてしまう可能性すらあったのだけど…それでも、私はゆんゆんに私の全部を知って欲しかった。

 

「…うん、だってアリスの過去に何があったとしても、私にとってアリスは今のアリスが全てだから…」

 

そう告げたゆんゆんの表情は、どこか安らいでいて、慈愛に満ちていた気がした。

 

「それとも……梨花って呼んだ方がいい?」

 

「……できたらそれは…」

 

思わぬ発言に私の顔は真っ赤になっていた。何せ梨花なんて呼び捨てで呼ばれた事は過去を見れば両親くらいしかいない。それになんだかネトゲしている中で本名で呼ばれているような感覚が私を襲っていた。

 

「でもいいなぁ…アリスにしろ梨花にしろ…アリスの名前はどちらも凄く女の子らしくて可愛くて…、私なんて…」

 

「…そういえば前に言ってましたね、ゆんゆんの名前を馬鹿にされなかったことが嬉しかったとかなんとか。ゆんゆん可愛いじゃないですか。紅魔族特有のネーミングらしいですが他にはどんな方がいるのです?」

 

「えっ?えっと…私が学生時代の、お、お友達…には…その…あるえとか、ふにふらさんとか、どどんこさんとか…」

 

「……あるえって方は兎も角、ふにふにさんとどどんぱさん…?」

 

「…それ、もし本人達に会うことがあったら言わないであげてね…?」

 

お友達と断言できていないのがゆんゆんらしいのだけどそこは割愛しておこう。それにしても紅魔の里…、一族全員がアークウィザードの特性を持っていて親友であるゆんゆんが過ごしてきた里。何時か行ければいいなぁ、なんて、今の私は能天気にそんな事を考えていた。それが割とすぐに実現することを知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

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