―王都ベルゼルグ・王城―
私達はクレアさんの部下らしきメイドさんの案内の元、応接室へと歩いていた。今ならメイドさんしかいない、そしてこのメイドさんは私達とアイリスの関係を知っている人。ようやく堅苦しい場所から抜け出せたこともあって、私はだらりと項垂れていた。
「……めちゃくちゃ緊張しましたよ…」
「お疲れ様、だが見事な報告だったよ。やはりアリスに任せて正解だったな」
「うんうん、アリス凄くカッコよかったよ!」
ミツルギさんとゆんゆんの賞賛はありがたいのだけどこればかりは慣れないし恥ずかしい。私の嘆きを聞いたメイドさんは目立たない程度にクスクスと笑っていた。
そもそも私はあんな喋り方をするタイプの人間ではないのですよ、今回のだってダクネスがアイリスに丁寧な対応しているのを見たことがあったからそれを模倣してみただけに過ぎないのだから。
元より何故私が代表して謁見の間で発言していたか?答えは簡単だ。私がパーティリーダーだから。
私としては最初はミツルギさんにお願いしようとしていたのにやんわりいい笑顔で断られてしまった。爽やかに「リーダーはアリスだろう?僕が出る幕はどこにもないさ」だそうな。こんな事まですることになるのならリーダーなんてなるんじゃなかったとも思えた瞬間である。
ちなみに毎回こういった事をやる訳でもない。今日は偶然ながら騎士達が揃っていて、アイリスが国務で謁見の間にいたところに私達はそのまま通された形になっていた。ただ城に来る場合こういう事になる可能性は予めクレアさんから聞いていたので即座に対応できただけの話だ。
そして…
「応接室に着きました。すぐに紅茶を用意致しますので皆様は寛いでお待ちください」
さっきまでの謁見が騎士達に見せる演劇だとしたら、今のこの応接室は舞台裏の楽屋のようなものだろう。先程クレアさんは応接室で詳しく話を聞くと言った、これは応接室でクレアさんだけでなくアイリスも共に話すことになる。つまり応接室で気兼ねなくお話しましょうということなのだ。
長方形の机に紅茶のティーカップが6つ置かれていた。私達はひとつの長い豪華なソファに腰掛けるなり、紅茶を触ることなく友人を待つことにしていた。
「アリスさん!ゆんゆんさん!ミツルギ様も!」
待つこと数分、可愛らしい声が聞こえると共にアイリスはスカートを持ちながらこちらに早足で駆けつけた。案の定クレアさんが後ろで咳払いしているしその横でレインさんは苦笑いしていた。
「こんにちは、アイリス。国務お疲れ様ですよ」
「アリスさんこそ、もしかして貴族の方だったのですか?凄く受け答えがお上手でしたけど…」
「ダクネスの真似事に過ぎませんよ、ですが問題ないようでしたら良かったです」
「ふふっ、あの対応なら大抵の場所で通用するだろう。あれなら騎士達に不満もあるまい」
語らないがクレアさんの横でレインさんは笑顔でうんうんと頷いていた。だから褒め殺しは苦手なのでやめていただきたい。私が顔を赤くして俯くとアイリスは楽しそうに笑っていた。
なお騎士達に不満というのは何度も言うように騎士には貴族あがりが多い。簡単に言えば傲慢な輩も多々いるという事だ。冒険者風情があのように王女に謁見するだけでも気に入らないという者までいる始末らしい。流石に魔王軍の幹部を討伐したとなれば文句をつける者もいないらしく、先程のように動揺からざわめきが起こるだけにとどまってはいたが。
「それにこれで魔王軍の幹部は3人目になるのか…君達のおかげで私達も大きな希望を持てそうだ。王都で活躍する魔剣の勇者と蒼の賢者、紅魔族の才女がパーティを組んだという話だけでも国民は大きく期待しているだろう」
「そ、そんな、才女だなんて…」
クレアさんの評価に一番にゆんゆんが反応して恥ずかしそうに顔を赤くしていた。ゆんゆんがようやく
「私、3日後がとても楽しみです♪サトウカズマ様…一体どんな方なのでしょうか…」
アイリスはその愛らしい瞳を輝かせている。おそらくその様子から察するに私の横に座るミツルギさん以上の…まるで英雄譚に登場するような人物を想像している可能性が高い。……これはあまり宜しくない。
「…では、せっかくですし佐藤和真さんのパーティについて簡潔ながら説明しておきましょうか」
「本当ですか?私、是非聞きたいです♪」
「ほう、それは興味深い。私達は討伐したという実績しか聞いていないからな…」
レインさんも楽しみなのかうずうずしながら私の言葉を待っている。というか意識しないと存在を忘れそうになるからもっと喋っていただきたい、そんなんだから影が薄いのですよ、…とは流石に貴族であり王宮お抱えのアークウィザードである方に言えるはずもないが思ってしまうのは仕方ない。
「ダクネスのことは皆さんご存知でしょうから割愛させてもらいますが…ではまずゆんゆんと同じ紅魔族のアークウィザード、めぐみんから…」
「めぐみんは私の学生時代の同期なんです。…少し悔しいのですが彼女は常に里でも一番の成績でした。私はいつも二番でしたから…」
ゆんゆんが私に続くように言うがその情報はあまりいいものではない、真実ではあるかもしれないが無駄に持ち上げるだけになってしまう。
「ゆんゆんさんの実力は見させていただいたことがありますが…ゆんゆんさんよりも上なのですか!?」
ようやくレインさんが口を開いた。流石に同じアークウィザードとして反応せずにはいられなかったのだろう。驚きながらも期待の眼差しを寄せている。
「彼女の爆裂魔法は強力ですよ、実際アルカンレティアでハンスにトドメをさしたのは彼女ですから」
「ば、爆裂魔法!?ゆんゆんさんと同期ってことは。まだ14歳ですよね!?その若さで爆裂魔法まで扱えるというのですか!?」
めちゃくちゃ興奮しているレインさんの横でクレアさんが咳払いする。すると何かに気付いたようにレインさんはそっと俯いてしまった。
あと訂正するなら爆裂魔法まで扱える、ではなく、爆裂魔法しか扱えない、なのだが言うだけ野暮だろう。まぁ言うまでもないが常識的に考えて他の魔法全てを無視して爆裂魔法のみを取得しているなんて考えは一般的に考えられるものではない。
とりあえず話にボロが出る前に次の紹介へと移ろう。
「続きましてアークプリーストであるアクアさん。ぐ、偶然にもあの女神アクアのお名前と一緒で、彼女自身も熱心なアクシズ教徒ですね」
それを聞いたクレアさんとレインさんの表情は明らかに引き攣っていた。アイリスだけは可愛らしく首を傾げていたけどアクシズ教についてはまだあまり聞いた事がないのだろうか?と思うもあまりにハチャメチャな宗教なので教育上宜しくないとあえて教えていないと思われる。
あと当然ながら本物の女神様だなんて言えないのでそこは嘘をついてしまうが仕方ない。
「…えっと、確かにアクシズ教徒ではありますが比較的大人しい方ですよ、それにアークプリーストのスキルは全て取得しています」
「…全て!?そんな人間が本当にいるのか!?」
あくまでも比較的、だ。アクシズ教徒であるゼスタさんやセシリーさんに混ざれば少しは大人しく見えるだろう、うん。ただクレアさんに驚かれて初めて私も気が付く。よく考えてみたら私が知ってる人で職業の全てのスキルを取得している人はアクア様とウィズさんくらいだ。…うん、どちらも人間ではないか人間をやめていらっしゃる。ウィズさんも爆裂魔法などはリッチーになってから取得したと聞いた事があるしこれは失言だったかもしれない。
「信じられないかもしれませんが事実ですよ、ですから彼女は昔から神童と呼ばれていたそうです」
「は、はい、アークプリーストでも中々使える者がいないリザレクションまでも使えてしまえますから、私の憧れのアークプリーストさんです」
どう誤魔化すか内心焦っていたところにミツルギさんがフォローしてくれた。神童どころか神そのものなのだけどこの程度の嘘は仕方ない、というよりこうして話してみるとカズマ君のパーティは改めて癖が強すぎると思える。
「王都やアルカンレティアでも使える者がめったにいないリザレクションまで…それほどの者なら是非王都にその身を置いてもらいたいが…」
褒めすぎて話がエラいことになってる気がする。繰り返すが嘘は言っていない、あくまで短所を話していないだけで。なのに嘘をついてるような罪悪感が私を静かに襲っていた。
「あ、あの!先程割愛すると仰りましたができたらララティーナのことも聞きたいです!確かに知ってはいますが戦闘となると私達もあまり目にした事がありませんから…」
そんな想いの中、アイリスから助け舟が。確かにダクネスも基本はアクセルに身を置いているので戦闘場面を見たことはあまりないのだろう。あえて言うなら襲撃の際に一緒になったくらいだがあの時は悠長に見ている余裕は流石になかっただろうし。…いやむしろ見ない方がいいのだけど。ある意味アクシズ教徒よりもタチが悪いし。
「ダクネスは優秀なクルセイダーですよ。あの機動要塞デストロイヤーがアクセルに攻めてきた時、誰もが逃げる中彼女だけは真っ向から盾として立ちはだかったと聞いています」
私の説明に御三方は感銘を受けたように頷いている。それに続くようにミツルギさんが話を受け継いだ。
「実際アルカンレティアで僕は彼女と共闘しましたが…とても強い意志を持つクルセイダーでした。巨大なデッドリーポイズンスライムを前にしても、彼女は全く怯む事もなく、僕達だけでなく街の人達をも守る盾として働き、エリス教徒でありながらアクシズ教の人達をも救う対象にして…正に騎士の鏡とも言える存在でしょう」
もしここに嘘を見抜く魔道具があってもベルが鳴る心配はまずないだろう。ミツルギさんは本気でそう思って言っているのだろうから。カズマ君が聞いたらお前の目は節穴か!?くらい言うに違いない。おそらく私やゆんゆんが同じ事を言えばまず間違いなくベルは鳴るだろうが。
やはり王家の懐刀とまで言われるダスティネス家、それはアイリス達にとっても身内と言える存在だ。そんな身近な人間がプラス評価なのは好ましいことなのだろう、アイリスもクレアさんもとても上機嫌に見受けられる。
さて、問題はここからだ。ここまでは彼女達の長所のみを上手く上げてまるで英雄譚に登場しそうな人達にしてしまったがカズマ君は難しい。
これと言って特別なスキルはない。冒険者特有の様々なスキルを使える点があるが英雄譚のように話すにはかなり物足りない。何よりきびしいのが上位職どころか最弱職の冒険者、これを聞いてアイリス達がどう評価するかである。
…とはいえこれは遅かれ早かれわかってしまうことだ。できる限り長所を出して話すしかない。
「そしてそのパーティのリーダーである佐藤和真さん…私はカズマ君と呼んでますが、カズマ君はそのパーティの指揮者的存在です。的確な指示を出して皆を導いて…聞くところによれば昔は部隊を率いて指示を出していたらしいです、その経験は実際にバニル討伐の際にも発揮され…彼が居なければおそらくバニル討伐は成しえなかったことでしょう」
これはどう考えても嘘だろう。そんな想いがミツルギさんの僅かながらの表情の変化で察せられた。その嘘の部分は部隊を率いて~の部分だろうがこれも嘘ではない。ただネトゲ内の話というだけで。
「勿論指示だけではありません。要所要所で自らも動き、最善の方法でパーティの勝利を導く、彼は知略家だと思っています。そして何よりも彼が凄いと思えるところは…」
私の話に御三方はごくりと喉を鳴らす。ここまで話の中では錚々たるパーティメンバーを紹介してきてそのリーダーの話だ、期待に胸を膨らませるのもわかる。さて、どうなるか。
「……彼が、最弱職である『冒険者』ということです」
「……」
『冒険者』…この言葉を私が告げた時、明らかに空気が凍りついたのを私は感じ取った。
「…あ、あははっ、またまたご冗談を、賢者様はユーモアもあるのですね」
凍りついた場を和ませるようにレインさんが言うが、凍った空気は簡単には元には戻らない。この反応は予想以上とも取れる。職業である冒険者のイメージは確かにあまり宜しくない。今言った通りの最弱職。駆け出し冒険者の街であるアクセルでさえも冒険者になるくらいなら違う職業を勧められることは常識である。
「…私……納得できません!!」
大声を上げるアイリスの姿に、私達は静かに驚いていた。萎縮してしまったとも言う。こんなにも怒りに震えるアイリスは見た事がなかった。それは夢を壊された子供の反応だ、ここまで英雄譚に登場するかのように他の3人を紹介してきただけにその落胆は大きいと思われる。
……だけど考えようによっては今アイリスが知ったことはこちらにとってプラスなことだ。
この怒り具合を後日の会食の場で起こしてしまっていたらとんでもない事になるのは間違いない、今と違い会食となれば騎士達は勿論のこと、王都に住む有数の貴族らも招待されるだろう。そんな中でアイリスを怒らせてしまうのは非常に不味いのだ。
「アイリス様、どうか落ち着いてください…!」
クレアさんやレインさんもアイリスのこのような激昂した姿はあまり見た事がないのかもしれない、どことなく戸惑いが見受けられた。
「そうですよアイリス、話は最後まで聞くものです」
クレアさんが宥めて、私が落ち着き払って言うことで席を立っていたアイリスは半ば納得していないような不機嫌な顔のままゆっくりと席に着いた。内心は落ち着き払ってなんてないけど、めちゃくちゃドキドキしてるけど。
「いいですかアイリス、確かに冒険者という職業は最弱として周知されています。レベルが上がってもステータスの上昇値は低く、唯一の長所であるどんなスキルも取得できるという点についても、スキルポイントの消費が2倍必要になる、…誰にでもなろうと思えばなれる職業です」
「……」
「ですが、カズマ君はあえてその冒険者という職業についたとしたら、どう思います?」
「……え?」
勿論仮定の話であるし、実際カズマ君は冒険者しか道がなかったと本人から聞いた事があるから他の職業を選ぶ権利がなかったのが正直な話である。だけどそこは上手くアレンジするしかない。
「誰もが最弱職と蔑む冒険者、そんな冒険者で活躍できたら…それはとても凄い事ではないでしょうか?実際に魔王軍の幹部にデストロイヤーとカズマ君の功績はあまりにも多いです」
「そ、それは、先程話した仲間の方々が活躍したからでは…?」
「確かに火力などの面を考慮したらそうかもしれません。ですがその火力を出すのも簡単には行かないのですよ、そこにいるレインさんも、アークウィザードでしたら爆裂魔法の詠唱がどれだけ隙を生むかくらいは理解していると思いますが」
「た、確かに…あの魔法はかなり集中力と発動までかなりの時間が必要と聞いてますが…」
私の発言にレインさんはゆっくりながら頷いた。アイリスは先程より表情は和らいだものの、まだ納得はしていないようだ。無言で私を睨むように話に聞き入っていた。
「それは私の最大魔法でも同じです、そしてバニルとの戦いでその魔法を発動するまで私を守ってくれたのは、ここにいるゆんゆんとカズマ君でした」
「…とはいえ私のボトムレス・スワンプでは…見通す悪魔のバニル相手には大した足止めにはなっていませんでした」
「カズマ君は冒険者の特性を活かして、様々なスキルを取得してます。一般的な初級魔法から、ダンジョンで役に立つ敵感知スキルや罠探知スキル、暗視スキル。更に私の魔法も一部ではありますが教えたことで使えるようになってます」
「け、賢者殿の魔法まで!?」
レインさんが派手に驚いてくれた。これは効果があったようでアイリスとクレアさんも驚いていた。…というのもこの御三方が知っている私の魔法はバーストだけだ、よりによって私の魔法で一番ド派手なやつである。だからこそ私の魔法と聞いてバーストのような強力なものを連想しているのだろうけど実際にはカズマ君が覚えているのはウォールのみである、しかしそれを言う必要は皆無だし嘘は言っていない。そしてこれによりアイリスの緊張していた表情は大分綻んできていた。
「彼は冒険者という職業が最弱であるということを払拭しつつある冒険者であると私は思っています、それに彼の知略が合わさってパーティの要となっていることは間違いないと思います」
「補足させてもらうと…僕は佐藤和真と一騎討ちで勝負したことがあります、その時の彼はレベル一桁の冒険者、それに比べ僕は当時レベル37のソードマスターでした。…相手は最弱職の冒険者と油断も慢心もありました…それでも僕は…結果的に…彼に敗北したのです」
「「「……っ!?!?」」」
その話がトドメとなったようだ。御三方ともに度肝を抜かされたように驚いていた。暫し静寂が続き…そして俯いていたアイリスが顔をあげれば、その瞳は…とてもキラキラと輝いていた。
「……私、サトウカズマ様にお会いすることが…本当に楽しみになりました…」
…なんだか盛りすぎた気がするけど後はカズマ君の言動次第なところもあるだろう。こればかりは本人によるものなのでどうすることもできない。頑張れカズマ君、私は頑張ったよ!
こうしてどうなるかと思えた謁見及びお話は平和に終わり、後は3日後の本番を待つのみとなっていた。