内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 9 イレギュラー

怖い。

 

それが3人の共通感覚だった。

 

その血走る赤い瞳は、既に私達を捕らえている。

 

それは、逃げるという選択肢を潰したことになるのだから。

 

3人ともにそれはわかっていた。獣の走る速度に人間が敵うはずがない。だから、戦うしかない。勝てるかどうかはわからない。それでも、足掻くしかない。

 

仮に今から3人、まったく別の方向に走って逃げたら運がよければ1人くらいは助かるかもしれない。もっとも、その選択をする者は私達の中には1人もいなかった。私はともかく、ダストとリーンは長い付き合いだと言う。

自身の身代わりに仲間が死ぬなんてことは自身が死ぬことよりもずっと辛いはずなのだから。

 

初心者殺し。この時の私は知らなかったが、この世界では有名なモンスターらしい。名前からして物騒なそれは文字通り冒険に慣れてきた初心者が出会うとまず命を落とす。その獰猛性からも危険視されており、目撃がある度にギルドでは最速で討伐依頼ができあがる。

 

…そのようなモンスターに冒険者なりたての初日に遭遇する私の運は一体どうなってるのだろうか。むしろ私が悪いのだろうか。誰か教えて欲しい。

 

なんて、内心嘆きながらも、私は既に今自身が使える各種支援スキルを使い終わっていた。

 

ブレイブアップ、マジックアップ、プロテクト、ブレッシング。

 

出し惜しみをする余裕はまったくない、あとは回復と転生特典スキルでどこまでやれるか…である。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

ダストが牽制するように前にでてその大きな牙に向かって剣を横凪に振るう。最初から牙を狙うのは攻撃というよりは防御の為に近い。予め1番の武器であるだろう牙を封じるが為…だけど相手の方が1枚上手のようだ。

 

「ぐっ…!?」

 

牙ほどの大きさではないが鋭利な爪を突き立ててきた。焦燥の色が見えるものの、それはダストの服をかするだけで終わる。ダストがいちはやく反応してバックステップしたのだ。

 

ダストが少し距離をとったそのタイミングを、私とリーンは見逃さない。

 

「ファイアーボール!」

 

《アロー》

 

火の玉と魔力の矢の同時攻撃に獣はたじろぐ。その一瞬をダストは狙ったかのように追撃の手を緩めない。

 

「おりゃぁぁぁ!!」

 

両手で握った剣を渾身の力で振り落とす。その斬撃は獣の前足に綺麗に決まり、そこからは少しながら流血を見せる。

 

「ちっ、かてぇ…!」

 

だがダストとしては物足りなかったようだ。前足1つ斬り飛ばす勢いで剣を振るったのにも関わらずできたのは軽い切り傷なのだからそれも仕方ない。再び後退して距離をとろうとしたダストだが予想外なことが起こる。

 

「う、うそだろ!?うわぁ!?」

 

獣はその大きな身体をそのまま利用してのしかかってきたのだ。反応しきれてもこれだけの巨体が迫ってくるとわかっていても簡単には避けられない、ましてやそれがバックステップした後なら尚更だ。

 

「マリンシュート!」

 

リーンの魔法により水の砲撃が獣に迫るがそれはあっさりと避けられてしまう。だけどダストから離れてくれた。なら私は。

 

《ハイネスヒール》

 

中級回復魔法でダストを癒す。わりぃ!と軽く声をあげながらダストは剣を構え直し、獣に向かい走る。飛び上がりその脳天に向けて剣を振り落とすと、大した手応えを得られないまま獣の頭を蹴りあげてその反動で距離をとり

 

「ブレードオブウインド!!」

 

ダストが離れて注意を引いたタイミングでリーンの風魔法が獣に襲いかかる。長く一緒にパーティを組んでいるだけあってそのコンビネーションは流石の一言である。結果的に獣の動きが止まる。

 

「ちょっとしぶとすぎ…流石に魔力がやばいんだけど…」

 

肩で息をするリーンを、獣の視線が刺したことにいちはやくダストが気付く。動きを止めたのはおそらくダメージのせいではない。思考していたのだ。今の今までダストにターゲットをとっても後衛からの攻撃と支援が鬱陶しく感じたのだろう。そして獣は疲労を隠しきれないリーンに獲物をしぼった。その瞬間獣は駆ける、疾走する。

 

「っ!?リーン!!逃げろ!!」

 

獣はダストを完全に無視したのだ。ダストが斬りかかって前脚に再び傷がはいるのも完全に無視して、私とリーンの方に走る。だけど私には想定内だった。

 

 

《ウォール》

 

転生特典のスキルその2である。自身を中心に直径約10mの魔法陣を展開し、その魔法陣を覆うように不可視の透明の壁が出現する。獣にも当然見えていないその壁に、獣は激突して弾き飛ばされる。

 

「な、何が起こった!?」

 

ダストの感想は獣にも同じようで、狼狽えてる様相が見て取れる。そして魔法陣が出現してる間は、当然私達には触れられない。獣が混乱している今が絶好のチャンスだった。

 

《ランサー》

 

特別大サービスの転生特典スキルその3。元のゲームでは上級攻撃魔法スキルの1つである。アローと同じように空中に展開された魔法陣から槍が射出されるのだが、大きさはアローの10倍近くになり、ダメージもアローとは比較にならない。半透明の巨大な槍はそのまま獣を地面へと撃ち付けるように獣の身体を貫通する。だがそれでも獣はまだ倒れない。

 

正直やばい。リーンと同じく私も残り魔力が少ないのか、疲労を隠しきれなくなっていた。貫通したと言っても、魔法の槍は貫通と同時に役目を終えて消えている。獣はよろめいているものの、まだ動けないわけではなさそうだ。既にウォールの魔法陣は消えている。ここまでなの…?と私は死を覚悟した。その時だ。

 

「なーめーんーなぁぁ!!!」

 

叫びの主はダストだった。よろめいて起き上がろうとしている獣の頭目掛けて飛び上がり、剣で頭を串刺しにした。それは今までのダストの攻撃とは少し違和感を覚えるもの。構えからその場面に至るまで…まるで槍でも扱うように。先程は弾かれたが上手い具合に骨や肉繊維の網をかいくぐったようだ。

 

獣の頭から盛大な流血がおこる。ダストは返り血をもろに浴びながらも、その剣をまだだまだだと差し込んでいく。

 

響く獣の断末魔。だけどダストはまだ油断していない、その目は剣先だけを見据えていた。そして流血が止まると同時に、獣は崩れ落ち、ダストはそこから落ちるように投げ出された。

 

 

「うげっ!?」

 

せっかくかっこよく決めたと言うのに、締まらない最後である。綺麗に尻もちをついたダストは痛そうにお尻をさすっていた。私はそれをみて、その場に座り込んで笑った。

 

「…ふふっ…ホントにかっこつかないわよね。うげっはないでしょ、あははっ!」

 

「う、うるへー…ふん…は、はははっ…」

 

私と同じように座り込んだ状態ながら、リーンは笑った。お尻をさすりながらその場で倒れ込むダストは、私達の笑い声につられるように笑いだした。

 

疲労困憊ながらも、私たちは生きてる。絶望を覚悟したにも関わらず、私達は勝てたんだ。その喜びが、3人の笑い声となってその場でこだましていた。

 

 

 

 

 

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《マナリチャージフィールド》

 

転生特典スキルその4である。自身を中心に円が描かれ、青白い光が私とリーンを包み込む。ほぼ全ての魔力を使い切った私は、それを使うとともにリーンのそばに倒れ込んだ。

 

「アリス!?大丈夫!?」

 

このスキルは魔力の回復を促進する魔法だから大丈夫なのだ。一時的に倒れ込んだものの、すぐに回復できるだろう。…元のゲームならの話だけど。

 

そう思うと冷や汗がでてきた。スキル一覧にあったからつい元のゲーム感覚で使ってみたけどこの魔法が調整されている可能性は充分あるのだから。

 

 

「そ、そうなんだ…なにこれ…?なんか…森林浴してるみたいで、すごい気持ちいい…」

 

「いやその前にさっきのすげぇ魔法といい、アリスって何者なんだよ?明らかにあんなスキル、アークプリーストにはねぇだろ?」

 

「…そーよねー、てかアークプリーストにあんな攻撃スキルあったら、ウィザードの私の立場ないしー…」

 

片や大の字で寝たままのダストと、かたやその場でリラックスするように横たわっているリーンが聞いてきた。

 

 

うん、そうくるよね。正直誤魔化しとか一切考えないまま使ったから、当然何も考えてないわけで。私は横になったまま、無言でいることにした。というか疲れすぎて考える気力もない。魔力切れの辛さを初めて体験した私が例えるならこれは全力疾走で限界を越えて走り続けてゴールしたマラソンランナーのようなそんな気分だった。

 

「……まぁ、いいか。アリスがどんなスキルを使ったって…俺達はそのおかげで助かった。それでいいだろ?リーン。」

 

「…むー。腑に落ちないけど…まぁ今はそれでいっか…」

 

無言が正解だったらしい。なんかダストがそれっぽくまとめてくれたのを聞いて、私は安堵の溜息をついた。というよりリーンの場合私とほぼ同じ状態だから考えるのもめんどくさいのだろう。その気持ちは身をもってわかる。

 

私達はこのまま1時間ほど休憩していたが、運良く魔物に襲われることはなかった。おそらくさっきの赤い初心者殺しがいたことで、他の魔物は逃げていたのだろう。

 

こうして私の初めてのクエストは、トラブルに見舞われた辛勝という形で幕を閉じた。




《ウォール》初級支援魔法スキル。魔物を弾く魔法の壁を精製するのだが、バリアーというわけではないので遠距離からの攻撃は普通に通る。接近を許さないというだけのもので弾いた時のダメージは微量。

《ランサー》上級攻撃魔法スキル。空高くから巨大な槍をメテオのように落とす魔法。属性をプラスすることで真価を発揮するが、属性がなくてもそこそこ強い。派手な見た目通り、消費魔力も多め。

《マナリチャージフィールド》消費魔力は微量だが、範囲内の自分含む味方の魔力の回復を促進する。ちなみに元のゲームでは2.3分あれば魔力が全快するのだがこのすば世界ではご覧の通り1時間かかることから大幅弱体化されている。なお、デメリットもあり、このスキルを使用している間は魔法攻撃力が半分になる。

戦闘シーン書くの難しいですなぁ…
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