内気な少女がこのすば世界に行ったようです   作:心紅 凛莉

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episode 98 ゆんママは過保護すぎます。

 

 

 

―アクセルの街・カズマ君の屋敷―

 

再び目が覚めた後に私はダクネスやめぐみんと会うなり起きたことを喜ばれた。めぐみんはすぐにゆんゆんを呼んでくると走り出す始末。とはいえ寝癖もひどい今の状態のままなのも嫌だったのでお風呂に入って身体を洗ってリフレッシュすることにした。

お風呂から出るとお腹が悲鳴をあげる。…そりゃ3日間も何も食べてないのだから空腹具合は凄まじいものだ。何か食べたいと思うと着替え終わるなりキッチンへと向かおうとしたところで、私は両手で口を覆って涙目になったゆんゆんと出くわした。多分めぐみんに呼ばれたのだろう。

 

よく考えると心配させていて当然だ、何せ3日も寝ていたのだから。仮にゆんゆんがそんな状態だったら私は心配で何もできない自信がある。ゆんゆんは私の姿を見るなり駆け寄って抱きしめてくれた。

 

「アリス……!!良かった…本当に良かった……、私…私…アリスがもう目を覚まさないんじゃないかって…凄く怖くて……ぐすっ…」

 

「…心配かけてごめんなさい、ゆんゆん…その、もう大丈夫ですから…」

 

私はゆんゆんを何回心配させて泣かせたらいいのか。なんとなく罪悪感を感じてしまう。

今となっては自身の心の弱さが招いた今回の事柄は気恥しさしかない。自分だけで勝手に悩んで、自分が知らない内に勝手に苦しんで、挙句の果てには自問自答。何故こんなに心配してくれる親友がいるというのに私は独りになろうとするのか。

この分だとミツルギさんやアイリスにも心配をかけてしまっているだろう、できるだけはやめに報告しておかないと。

 

 

そんな事を考えていると、再び私のお腹は悲鳴をあげた。これには抱きしめてくれてたゆんゆんも軽く驚いて私を解放し、私と目を見合わせて笑った。

 

「…ふふっ、すぐに何か胃に優しいものを作るから、アリスは座って待ってて」

 

「あう……すみません…」

 

これは恥ずかしい。私は顔を真っ赤にしながらもゆんゆんの言葉に甘える事にしたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

この3日間のことを私は何も知らなかった。だから私は料理を作っているゆんゆんに何かあったのかを聞いてみる事にした。

 

まず一番に出てきた話題はミツルギさんやアイリスのこと。やはりかなり心配させているようだった。

アルダープの手紙が来た日に受けたクエストはミツルギさんとゆんゆんの2人で終わらせておいたらしい。はやく終わらせないとクエスト不達成となり違約金が発生することになるし何よりそのクエストによって困ってる人がいるのだ、やらない訳には行かなかった。

 

私の容態はアークプリーストとしてアクア様が診断し、過労により倒れたということになっているらしい。あながち間違ってはいないけど、精神的な過労には違いない。

 

アルダープからのお見合いの日程などの連絡は不明。冒険者ギルドを通すと言っていたのでまた王都の冒険者ギルドに届けられているのだろう、それなら私が直接王都の冒険者ギルドに出向かない限りはわからないままだろう。これも早めに確認しないと。

 

「…もう…、病み上がりなのにまた難しい顔をして…、言っとくけどしばらく無理はさせないわよ?アリスの身体が何より大事なんだからね!」

 

料理ができたのか、消化の良さそうに具材が細かく切られたスープが出てきた。心配してくれるのは素直に嬉しいのだけどやるべきことはやらないといけない、まだ悪魔との決着はついていないのだから。

 

「…わ、わかってますよ…、ありがとうございます、戴きますね」

 

スープは優しい味がして、私としては美味しくいただくことができた。ゆんゆんの目があるし、すぐに行動は起こせないだろう。

 

…そう考えるも私は思案する。ようは私が1人で出歩かなければいいのではないだろうか。

 

「ゆんゆん、ミツルギさんはどこにいるのです?」

 

「多分今はアクセルの宿だと思うけど…、会いに行きたいの?」

 

「…はい、というよりミツルギさんがわざわざアクセルにいると言う事は…私が原因ですよね…、でしたらすぐにでも会って無事なことを知らせたいですし…それにアイリスにも…」

 

「ミツルギさんなら今から私が呼びに行ってあげる、アイリスちゃんは明日アリスの調子に問題がないのなら私達と一緒に王都に行く。それでいいよね?」

 

「……はい」

 

ぐうの音も出ない、完全に論破されてしまった。どうやら私が今日外出することは許可できないらしい。

何故いつもおどおどしてるのにこういう時のゆんゆんは頼もしいというか逞しいというか、逆らえない雰囲気を醸し出す。できたら普段からそうあってくれたら私もあそこまで苦労はしていないのだけどそれはそれでゆんゆんらしくない気もする。

 

結局私もゆんゆんも、友達の為ならどこまでもやれてしまう、似た者同士ってことなのだろう。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

「良かった…、本当に一時はどうなることかと…、とにかく、元気そうでなによりだよ。それと僕もゆんゆんの意見に賛成だな、近々悪魔との戦いがある可能性が高いのだから、それまでは温存しておく必要もある」

 

ミツルギさんは屋敷に入るなりすぐにリビングのソファに座る私のところまで駆け付けてくれた。よほど心配していたようだ、私の前に現れた時には走ってきたのか息を切らしていた。

 

「…自分の体調管理も満足にできないのは冒険者失格ですよね…心配かけてすみません…、ですがもう大丈夫です」

 

「そんなに自分を責める必要はないよ、とにかく今日はしっかり休んで、明日アイリス様に会いに行こう」

 

「…はい、アルダープからの連絡が来てるかもしれませんから冒険者ギルドにも寄らないといけませんし」

 

私がそう告げるとミツルギさんとゆんゆんは2人揃って溜息がてらにお互いの顔を見合わせていた。どこか困っているようにも見えるけどどうしたのだろう。

 

「…確かに…、それはアリスが直接出向かなければ受け取れないから仕方ないが…」

 

「アリスはもっと、頼れるところは私達を頼ってくれていいんだからね?リーダーだからって、私達はアリスに何もかも押し付けるつもりはないんだから」

 

そんな二人の視線は、とても私を心配してくれていることが伝わってきていた。だけど私としてはそこまで何もかも独りで頑張ってきたつもりはあまりないのだけど。

もしかしたら今回私が倒れたことで無理をしていたと判断されたのだろうか。…とは言っても今回のケースを説明するのはかなり難しい。何故なら私としてもよく分かってないのだから。

 

アクア様は魂と身体が同調だのなんだの言ってた、それは梨花が言ったように私がアリスとしてあることを受け入れてなかったということだろう、多分。

 

なんとなく分かったような、そうでもないような。そんな曖昧な事をどうやって説明したらいいのか。多分こんなことになるのは私のような特殊なケースだけだろうし。

 

色々悩むように考えた私は、結局2人に苦笑気味に頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――翌日。

 

―王都ベルゼルグ―

 

体調は良好。天気も快晴。まるで私の心を現しているような澄み切った青空が王都に彩りと活気を呼ぶ。

最近はめっきり魔王軍の襲撃がなくなってしまった。というより私とゆんゆんが初参戦してから魔王軍が攻めてきた話をまったく聞かなくなった。

 

この理由には様々な噂が飛び交っている。一つは現在もなお侵攻に出ているこの国の王様率いる部隊が善戦することにより、魔王軍を完全に抑えているのではないかという説。

…他には、蒼の賢者…つまり私の超広範囲スキルによりあっという間に壊滅状態になった為にうかつに手を出せないでいるのではないか、というもの。

 

きっと王様の勢力が頑張ってくれているからだ、そうに違いない、うん。

 

それはさておき、今は約束通り単独ではなくゆんゆんとミツルギさんと共に王都へと来ていた。というよりゆんゆんがいないと王都には来れないのだけど、テレポート使えないし。

 

それはいいのだけど…、問題はその状態にあった。

 

「あの…ゆんゆん…流石にこれは恥ずかしいのですが…」

 

「あ、あはは……」

 

「駄目よ、今日はアリスが無理しないようにしっかりと見張ってるんだからね?」

 

今の状態に私は恥ずかしくて俯き、ミツルギさんは苦笑気味にその様子を見ていて、ゆんゆんは謎の決意に燃えている。

 

どんな状態かと言うと常にゆんゆんと手を繋いでいる状態である。アイリスとならまだ分かるのだけど私はゆんゆんより1つとは言え年上である。だけど私の身長はめぐみんと同じくらいなのだ。ゆんゆんと並んで歩いていたら私達を知らない人達は誰が見てもゆんゆんを年上だと思うだろう、それが地味に恥ずかしいのである。

 

ゆんゆんが完全に過保護モードに入ってしまってる。…とはいえそれだけ心配をかけてしまったことも事実だし我慢するしかないだろう。

 

もっともこのゆんゆんから逃れられる方法があるのなら誰か教えて欲しい、少なくとも私には思いつかない。

 

「今日はアイリスちゃんに報告して、冒険者ギルドに寄ったらすぐに帰るからね?わかった?」

 

「えっ…あの…クエストは受けないのですか…?」

 

私がおそるおそる聞けば、ゆんゆんは過剰に反応する。勢いのままに。

 

「何言ってんのよ!!病み上がりなんだからクエストはお休み!」

 

「……は、はい」

 

私としては完全回復しているのだけどゆんゆんは昨日からずっとこの調子だった。最近レベル上げも停滞しているし私としては心機一転したことで頑張りたいところなのだけど。

 

「だが緊急性のある依頼があれば話は別だ、確かに病み上がりのアリスが心配ではあるがそうも言ってはいられないからな、そこは理解してくれよ、ゆんゆん」

 

「…そ、それは分かってますけど…」

 

不謹慎だけどその緊急性のあるクエストが今は欲しいくらいある。勿論言葉には出さないけど。

と、思ったもののあまり期待はしていない。はっきり言えば最近の王都周辺はあの合成モンスターの件以来平和な日々が続いている。

最近魔王軍のやる気が感じられないではないか。防衛戦とか是が非でも起こって欲しいくらいある、あれほど効率よく経験値を稼げる方法を私は知らない。目立つのは嫌だけどそれはそれ、これはこれ。

 

 

…結局、アイリスは国務中らしく会うことはできなかったが、代理で逢いに来てくれたレインさんに言伝を頼んでおいた。ギルドでは緊急クエストどころか、めぼしいクエストもなく、アルダープからの手紙を受け取るだけで終わってしまった。それにしてもたった3日で日取りを決めてくるのは流石にやる気満々すぎではないか。

クエストもやれないので手紙を改める為にも、私達はアクセルの街へと帰ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

―アクセルの街・カズマ君の屋敷―

 

ゆんゆんのテレポートで屋敷前に帰還する。リビングに向かえばカズマ君のパーティは全員集合していたのでちょうど良かった。ミツルギさんにも上がって貰って手紙を改めるとしよう。

 

……と、思ったのだけど。

 

「あ、帰りましたね。見てくださいこれを、カズマが作ったティンダーを使える魔道具です」

 

「…ティンダーを使える魔道具…?」

 

ティンダーとは初級火属性魔法。指先から少量の火を出せる程度のもので、攻撃魔法としてよりは着火したりする為の生活用途よりの魔法とも言える。

 

めぐみんはウキウキしながら私にその魔道具と思われるものを差し出す。その形状は私は勿論、ミツルギさんも見覚えのあるものだった。

 

「…これはまさか…ライターか?」

 

「あぁ、ようやく試作品が完成したからな、みんなに見てもらおうと思って」

 

「いやいやよく作れましたね…、正直驚きましたよ」

 

手に取ったそれの石を回し押すと、まさにティンダーのように少量の火が吹き出す。まさにこれは日本で一般的に使われているライターそのものだった。ゆんゆんが興味深く見つめていたので手渡してみると、ゆんゆんはそれを両手でとって私の見様見真似で火をつけてみていた。

 

「…すごい、魔力も使わないで本当にティンダーが使えてる…」

 

「あぁ、中のオイルがなくなるまでは何回でも使えるぞ、これを売り出そうと思ってな」

 

「これは間違いなく売れるだろう…魔法職の冒険者でも、初級魔法は覚えていない者も多い、考え方によっては、スキルポーション1本分の働きをすることになるのだからな…」

 

ダクネスが関心するように初級魔法は直接戦闘に使いにくいので取得しない人が多い、ティンダーやクリエイトウォーターは割と役に立つ場面もあると思うのだけど。

そしてスキルポーションはスキルポイントが1増えるもので非常にお高い。数百万エリスはすると聞いている。正直リザレクションの為に買おうかなと迷っているのはここだけの話。

 

「これ…いくらで売るのです?」

 

「まだ値段は決まっていない、そこは商品を卸すバニル次第かもしれないな」

 

それにしてもすごい才能だ。確かに日本での知識はあってもそれを再現しろとなって作れるものなのだろうか。カズマ君が冒険者登録をした時にルナさんは商人を勧めたらしいけど正に天職ではないか。おそるべしルナさんの慧眼である。

 

…って、そんな話をしたいんじゃなかった。

 

「お取込み中すみませんが…冒険者ギルドにアルダープから手紙が届いてました。おそらくお見合いの日取りと思います」

 

私がそう告げるなり興味津々でライターの火をつけたり消したりしていためぐみんとダクネスの動きが止まった。カズマ君の目も見開いている。

 

「思ったより早かったな…、それで中身は?」

 

「今確認しますね」

 

私は封筒の封を切り、中の手紙を取り出す。そこには予想通り日程と場所が書かれている。最低限の情報だけでそれ以外は書いていなかった。

 

「…日程は今から一週間後、場所はアルダープの屋敷です」

 

これにより全員の表情が険しいものとなる、おそらくその時こそマクスウェルとの最終決戦となりうるのだから。私としても確実に決着をつけたいところである。

 

 

…そこまで思って思い出したことがあった。私はそれを確認する為にカズマ君へと視線を移した。

 

「…カズマ君、クリスから話はありましたか?」

 

「クリス?あぁ、王都から帰ってきてすぐにな。クリスにはダクネスお仕えのメイドとして潜入してもらう予定だ」

 

「クリスもまた、アリスのことを心配していたぞ、近いうちに来ると思うから元気な顔を見せてやるといい」

 

とりあえずクリスは義賊云々の話を隠して上手くこちらの手助けという名目でこちら側についてくれるらしい。これは改めて心強いと思えた。

 

あと一週間…。それで因縁を断ち切れると思うと、私の気持ちは静かに昂っていた――

 

 

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