うちの子の物語   作:工藤将太

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初投稿です( ˘ω˘ )


喪失からのはじまり

 

 

『対象の後天移植に成功、これより起動を開始する』

 

 

生命を通す長い管の数々、それは私を兵器に変える

もしくは新たな生命か。

脈を打ち、そして生きたまま私は変えられる

酷いキリキリとした頭痛のなか私は感情もなく目を開けた

 

 

『各規定値を突破、成功です―――』

 

 

手足は動かず、だがそれでも解放された余韻に浸る

開けた光景は暗闇に私を切り刻んだ刃物が並んでいた

 

 

『―――様、それは実験項目にはなく―――』

 

 

手足に管が通った

疑似的な赤色が通り手足と呼べるに相応しくない機械がひりひりと焼ける

徐々に苦痛を感じ始めた私は対象を補足した

 

 

???

『良いんだよ…それに兵器(こいつ)はもう起きてる。

 それに―――』

 

 

どこかで見た茶色の短い髪の男は嘲笑う

その笑みは命を軽んじる醜い顔だ

瞳孔は開き口はこの世のモノとは思えない曲がり方で私を見つめる

 

 

???

『お前も殺りたりねぇよなァ?』

 

 

その刹那、私の命(コア)が機械の歯車が噛み合わない音を上げる

コアは砕かれそれでも修復せまいと光り輝いていく

それに私はたまらず手足が猛烈に暴れ男を吹き飛ばした

 

 

『鎮静剤を―――拘束具―――』

 

 

私を掴む手はまるで小動物が掴むように幼く、そして脆い

 

 

『―――!!―――?!!』

 

 

音は聞こえずそれでいて私の音にならないナニカがずっと木霊している

 

 

『―――中止せよ―――!?―――#?$%&』

 

 

 

 

 

 

??

『―――おい?聞こえ…』

 

 

「……」

 

 

??

『―――お前…―――か?』

 

 

「……」

 

 

??

『おーい…ったく…面倒だな……』

 

 

「―――」

 

 

??

『意識はあるが怪我が酷いな……なに安心しろ』

 

 

「―――」

 

 

??

『気まぐれだがそれも何かの縁だろう

 なぁどこかのキャス子さんよ』

 

 

 

 

―――鈍痛

目覚めて私は自身と自身を囲うこの部屋の解析を進める

解析…エラー…解析続行…エラー…解析中止…

解析は幾度となく失敗する

 

 

では今の状況を見たままで確認しよう

窓がある、だがその窓の向こうは無数の青と白い点で

構成された広大な何かで埋め尽くされている

 

 

もう一方は何かしらの黒い鏡のようなもの…何やら怪しい

そして私は固くも柔らかくもない

白い板のようなものに眠っていたようだ

 

 

衣類は胸と秘部が隠れる程度の軽装ではなく

しっかりと下着も収まっている長い桃色の髪は

汚れておらず透き通っていることが見て分かる

ペタペタと自身の体に触れていると

白い壁と思っていた部分が横に開いた

 

 

??

「よう、お目覚めかい?キャス子ちゃん」

 

 

茶髪の男は何かのコップを片手に現れ飲みながら呟く

 

 

少女

「……だれ?それにキャスト……?

 私の種族じゃない……」

 

 

茶髪の男

「だったらその首筋は何だよ、そこに鏡があるから確認しな」

 

 

私は鏡に自身の首筋を見る

そこにはくっきりと筋が通っていた

 

 

茶髪の男

「キャストは機械種族、ヒューマンと混同しないためにも

 機械的名残として首筋一周溝みたいなのが彫ってある。

 ……諸説あり、だが」

 

 

私はそれを確認して無意識にノーモーションで

男に近づき首を掴む予定だった

だが近づこうとしたが体が言うことを聞かなかった

 

 

茶髪の男

「殺意を出すな。それにさっき治療したばかりだ、

 体に力は入らないと思うぞ」

 

 

少女

「……あなたは誰」

 

 

茶髪の男

「そちらから名乗ってもらいたいが、

 その様子とあの場所にいたんじゃ

 何があったのか目に見える。

 良いぜ、僕の名前はカイ」

 

 

カイと名乗った男は茶髪に若い声に似合った若顔のまま、

だが立ち振る舞いは決して若くもなく老いもせず

肝が据わったような変わった様子だった

無論、それに相対する桃髪の少女は固まる

 

 

少女

「あの場所……?」

 

 

カイ

「お前が倒れていた場所は非人道的な実験をやるような

 訳アリの研究所でね。調査目的で僕自らが赴いたんだが

 …まさかのその施設が全壊していた。

 それどころか全職員が輪切りというかカット野菜みたい

 に惨殺されてると来たもんだ

 …で、その傍にお前が倒れていた。言ってる意味お分かり?」

 

 

少女

「……分からない」

 

 

淡々と私は呟く

私がやったとこの男は言いたいのだろうか

だがそんな記憶はないし、そもそも私がキャストだって?

 

 

カイ

「まー…記憶にないならいいや。

 …だがお前のことデータベースで調べても該当がない。

 お前アークスか?」

 

 

少女

「あーくす?なにそれ」

 

 

カイ

「…記憶がなくアークスでもない

 そして研究所に倒れていた……ふむ。

 そうだな、話を進めるのに少し嘘をついた。悪い。」

 

 

少女

「嘘つきは信用できない」

 

 

私はカイにそう呟く

だが気にせずにカイは淡々と呟いた

 

 

カイ

「まぁまぁ、話は最後まで聞きなさんな。

 あの研究所でやってたこと、本当は少し知ってはいたんだ。

 とは言え、断片的な情報だけ。

 それはキャスト以外の種族からキャストへ後天的に改造する手術。

 まぁ元々キャストって後天的になるのが正しいんだけどな。   

 これは憶測だが、君はそこでデューマンからキャストへ種族を変えられた。

 だが変えられた時のショックで記憶を忘れてしまい、

 もしかしたら君と同じことをされた実験体がいて施設を破壊した…。

 ま、どちらにせよ、君がアークスという情報がない以上

 頼れるのはここまでの僕の憶測のみだろう」

 

 

憶測がなんだというのだ

この目の前にいる男は何を呟いている

それにだからといって私は何故ここにいなければならない

噴き上がる怒りの感情が殺意に変換され

私のその矛先は自然と目の前にいる人物に集中する

 

 

カイ

「そんな目で見るな、ワトソン君」

 

 

少女

「誰それ、私の名前じゃない」

 

 

カイ

「じゃあ何だって言うんだい?

 それに今のは軽いジョークさ」

 

 

少女

「……分からない」

 

 

カイ

「じゃあ君は今からワトソンだ。

 名前で呼ぶ方が何かと楽だろう?」

 

 

少女は自身がワトソンという仮名になると同時に何

故か胸が締め付けられる想いを感じる

だがこれはただの思い違いだと割り切った

 

 

カイ

「ワトソン、君はアークスを知らないといった。

 一応簡単に説明しよう、アークスはこの宇宙を脅かす存在、

 ダーカーの殲滅や種の保存を目的とした組織名だ。

 それに所属するプレイヤーの名もアークス。

 本来はデータベースにデータがなければアークスにはなれないんだが、

 今回は僕の気まぐれで仮のデータを作って君をアークスにしよう。」

 

 

ワトソン

「なんでそんなこと?」

 

 

カイ

「…深くは言わないが記憶喪失ってのは利用しやすいんだ。

 違う記憶を刷り込ませることができる。

 幼い無垢な少女の君を兵器にすることだって容易い。

 だが僕はそんなことに興味はないし、むしろそうはさせたくない。」

 

 

ワトソン

「そう言って今みたいに刷り込ませることも可能だってこと?」

 

 

カイ

「ああ、可能だ。だがやらない。

 僕がやるのは防衛手段の指導と君のデータ作成、

 そして君のキャストとしての性能チェックかな。

 なに、なってしまったものはしょうがない。

 打ちひしがれるより利用した方が己のためになるさ」

 

 

とカイが壁を叩くとそこからシュッとテーブルが突出すると

そこにコップを置きワトソンの方へと向き直る

 

 

カイ

「何度も言うが運命を決するのは君自身だ。

 僕がやるのはその前、運命を決するための準備。

 どうするかは君次第だ」

 

 

ワトソン

「…腑に落ちないしまだ信用感はない

 でも、自衛手段を取れるのなら良い。

 あと自分が何者なのか探すためなら何だってやる」

 

カイ

「じゃあ交渉成立、あ、しばらくするまではこの部屋を使ってくれ

 君の存在は非公認だからね、

 どこで監視の目があるかたまったものじゃない」

 

 

こうしてカイの協力のもと記憶を失った少女、ワトソンはアークスへとなる

 

 


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