坂田銀八は居座りたい   作:TouA(とーあ)

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お久しぶりです。
リハビリがてら書いてみました。
お楽しみください。



坂田銀八は椅子わりたい

 坐の視点。

 それは、日本家屋における“坐る”ことから出発する日本「住」文化の根幹である。

 

 畳を中心とした日本家屋は、畳のモジュールや天井の高さ、(はり)長押(なげし)の位置や寸法、あるいは障子や襖の開け閉めの作法から「手掛かり」の位置まで、日本家屋の空間は“坐の視点”を基準に全てが秩序だてられているといえる。

 

 一つ、例を挙げるとすれば────椅子。

 椅子は日本家屋、及び和室において唯一歴史的に()()()()()()()()()家具の一つである。

 理由は幾つか考えられる。

 狭い日本家屋ではやたらと場所を取ること。

 一つの部屋で食事・勉強・茶を点てては、寝室として用いるという日本家屋の合理的な特性からして、部屋の用途が制限されてしまい、具合が悪いこと。

 これは現代人の住宅事情と照らし合わせても十分納得がいく。家をこしらえるとき、現代人の常識ならば、まず箱をつくり、内装を施し、家具を選んで椅子を決める、というのが順当であるが、こと日本家屋になると「坐る」ことから全てが出発するので“まったくの逆”ということになる。

 

 他にも、庭園がある日本家屋で縁側に坐る行為。

 これは家にいながらにして自然を体感できる装置にもなっている。風雅な日本の芸術家にとっての「造化の妙」という至高の価値観は、家屋の意匠にも外界の自然と親しく交わり、自然を上手に取り入れるための努力が様々な形で払われてきた証左といえよう。

 

 無論、これらは古来から「坐ることのススメ」を提唱していた“禅”の思想が強く反映されている。

 宗教的な修行・養生法であるだけに留まらず、庭を眺め、人と対話し、自分を取り巻く世界と正しく向き合うための基本姿勢を担ってきた。つまるところ中世以降に禅が武士に広まった理由はこの姿勢が大きなところなのだろう。

 

 結果としてそれが床と柱と天井とによって構成される室内空間のモジュールを定める基礎となり、日本人の生活空間を詩的に構成する土台にもなっていたといえる。

 

 生徒会室内、その隠し部屋───学生運動の拠点として使われていたというその一室、10畳と少しの畳張りの部屋で、日本「住」文化の例に漏れず、新たな寝床と生活空間を手に入れた坂田銀八も、坐の視点から間取りを考えていた。

 

「ん〜、これどうすっかなぁ……」

 

 

 

 ✗ ✗ ✗ ✗ ✗ ✗ ✗ ✗ ✗ ✗

 

 

 

「それで、何か申し開きはありますか? 坂田先生」

 

 放課後、生徒会室。

 柔和な笑顔と優しい声音、しかしどこからか怒気を感じさせる雰囲気を纏う四宮かぐやが、目の前で脹脛(ふくらはぎ)に尻をのせて座る教師に問いただした。

 

「これが“坐の視点”……」

「……ふふっ」

「待って待ってちょっと待ってェェ!! 悪かった! 悪かったから! 銀さんの話を聞いて!」

 

 教師、坂田銀八は何かを取り出そうとしたかぐやを必死に制止する。

 それを呆れた目で見るのは白銀御行、そして苦笑いを浮かべるのは藤原千花である。

 

「では説明して貰いましょうか。なぜ生徒会室に突然【冷蔵庫】が設置されているのか」

 

 冷蔵庫。

 戦後の日本では三種の神器として喧伝された電化製品である。

 その中でも現代社会で生活するにあたり必要不可欠の代物である。年がら年中稼働していることもあり、無数にある電化製品において各企業の工夫や技術が、扉の開き方や大きさ、容量を含め機能性に収斂され、大きな差異を生んでいる最たる例と言えよう。

 口を開こうとしたとき、藤原が銀八の口前にかざして制止した。

 

「かぐやさん、私達のためですよ」

「私達の為……?」

 

 至って真面目にそう口にする。

 だが、かぐやは懐疑的な視線を藤原と銀八に向けたままだ。

 

「これからの季節、ただでさえクーラーもないこの部屋で来客があった場合、冷たい飲み物の提供が必要です。他にも冷蔵が必要な差し入れがあるかもしれません」

「ふむ、そういうことか」

 

 藤原の考えを察した白銀が言葉を続ける。

 

「お客人の一人、もてなすことができないで何が【秀智院学園生徒会】だ……そういうことか」

「さすが会長、いぐざくとりぃ!」

「……なるほど」

 

 尤もらしい理由で、少し思案するかぐや。

 客にお出しするお茶菓子も冷蔵必須なものもあることから、二人の言いたいことは理解できる。

 

(しかし、性格のねじれが毛根に染み出してしまった様な男がそのような意図を持って冷蔵庫を設置するでしょうか……?)

 

 疑心の目を向けるかぐや。

 バツが悪そうに目を逸らした銀八は口早に話す。

 

「そ、そーいうことだ。それに、白銀みたいな昼ごはんを弁当で済ます生徒がクーラーも無ェ部屋で荷物を置いとくと、中身が傷む可能性だってある。それで生徒会長が体調を崩しちまったら生徒に示しがつかねェだろう?」

「それはまぁ……そうですね」

 

 今日の昼休みにちょっとした頭脳戦があったため“弁当”という言葉に少し弱いかぐや。加えて白銀(会長)のため、と言われるとどうも強く言えない───まぁ昨今の弁当箱は中身を腐らせぬよう様々な工夫がある上に、作り手側は保冷剤などを入れるためそのような心配は殆ど無いが……毎日新鮮な弁当が届けられるかぐやが知る由もなく。

 

「はぁ……坂田先生の厚意には感謝します。ただ冷蔵庫(こ れ)どこで買ったんです? まさか勝手に────」

「使ってねェ使ってねぇ。だから古ィの」

 

 寄付金は使っていないと遮るように言う。

 室内が静かになると、そこまで大きくないにも変わらず冷蔵庫のファンの音が少し聞こえる。

 確かにこれはお古だな……と生徒会のメンバーの意見が一致したところで。

 

「はいはーい! 私は設置に賛成です! 良い事尽くしじゃないですか!」

「俺も反対はしない。それに冷凍室の氷は熱中症の生徒にいち早い処置を行える一面もある。四宮、俺は坂田先生の厚意に甘えてもいいと思うぞ」

「……会長がそう仰るのであれば。あくまで生徒(わたしたち)の為、次からは(あらかじ)め相談してください」

 

 内心バクバクな銀八をよそに、緑茶か麦茶どっちがいいですかね〜、という朗らかな会話から本来の業務に戻り始める生徒会一行。

 

 そんな朗らかな空気が凍りついたのは、かぐやが冷蔵庫の扉を開いた刹那の一瞬であった。

 

「先生、これは何でしょう?」

「何っていちご牛乳だが。知らねェの?」

 

「先生、これは何でしょう?」

「何っていちごパフェだが。知らねェの?」

 

「先生、これは何でしょう?」

「何って枝豆だが。知らねェの?」

 

「先生、これは何でしょう?」

「何ってチリンビールだが。知らねェの?」

 

「…………」

「四宮ァァァストップぅぅ!!」

「かぐやさん! 手に持ったフォークをどうするつもりですかッ!! ちょっ!」

 

 冷蔵庫の中には、どう見ても『生徒のため』とは言い難い物で溢れていた。

 そんな生徒会面々のドタバタを当の本人は鼻をほじりながら鑑賞している、その事実が尚更かぐやの行動を助長させた。

 

「二人とも安心してください。ちょっと9箇所ほど穴が開くだけなんで!」

「安心する要素皆無だが!? 坂田先生も謝ってください!!」

「かぐやさん落ち着いて! ほら、銀ちゃんが今から謝りますから!」

「え、四宮、九頭龍閃打てるの??」

 

 謝罪、ガタッと音を出して立ち上がる。

 そして、かぐやと藤原の特定の部位を目視、比較。

 

「さすが身軽なだけある」

「おいコラどこ見て言いましたかッ!?」

 

 鎮火のち、爆発。

 

「ちょっ四宮、口調も変わってきてるから! 取り敢えず落ち着こう! な!?」

「会長は私を味方してくれないんですか! 酷いッ!」

 

 とんだ飛び火を食らう白銀。

 

「九頭龍閃よりクズ優先! 生徒会室を殺人現場に、四宮を犯罪者にしてたまるか!」

「殺人ぐらい四宮家で揉み消せます!」

「さらっと怖いこと言うなよ! びっくりするわ!」

 

「まぁ待て落ち着け四宮。生徒会に依頼がある」

 

 依頼、という言葉に一旦落ち着く生徒会の面々。

 生徒会が担う仕事は多岐にわたるが、依頼という形の仕事は殆ど無い。よって、生徒会顧問に銀八がなったことによる大きな変化の一つだといえるこれは、心を落ち着かせるには十分な効力を持っていた。

 

「依頼……ですか?」

「そう、その依頼の報酬にパフェを作って貰った」

「銀ちゃん銀ちゃん、私達の分は?」

「……」

「かぐやさん、どうぞ」

「ちょっ待ッア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」

 

 

 

 

 ── 。

 ───。

 ────。

 ─────。

 

 

 

 

「銀ちゃん、それでどんな依頼なんですか?」

「体から鳴っちゃあいけない音がピューピュー鳴ってるンですけど」

「気のせいです。この学園も建てられて長いですからね、家鳴りでしょう」

「……俺も家鳴りだと思います」

 

 赤く染まった銀八から目を逸らし、依頼の内容を尋ねる三人。

 

「依頼は食堂のバァさんからだ」

「それはまた珍しいですね。今まで食堂からの依頼や要望は無かった筈ですが」

「なんか新作のメニューを考えたんだと。秀智院の目玉っつうか看板になるようなやつ」

「へぇ……して、何のメニューですか?」

 

 

「────プリンだ」

 

 

「「「プリン??」」」

 

 プリン。

 カスタードプディング、カスタードプリンまたは単にプリン、フランは、洋菓子の1つである。

 プリン型に牛乳と砂糖を混ぜた卵液を流し込み、加熱してカスタードを凝固させたもので、原義のプディングはイギリスでの多様な蒸し料理の総称である。

 大人から子供まで、日本人であれば食べたことが無い者はいないと豪語できるありふれたデザートでありながら、その種類は数え切れないほど存在する。挙げれば枚挙に暇がないが、プリンそのものを嫌いな者は少ないといえるデザートでもあるだろう。

 言わば、定番且つ奥が深いのがプリンなるデザートである。

 

「その試食がご依頼ですか?」

「それもまぁ含めて、だ。バァさん曰く、生徒会には“名前”を決めて欲しいンだと」

「ふむ。秀知院の食堂に相応しい看板メニューになるであろう『プリン』の名前を、同じく看板である我々生徒会役員が決めるということか」

「なるほどですね!」

 

 藤原はどこからかフリップとマーカーを持って来て、各々に渡す。

 

「では誰が一番相応しい名前を出すことが出来るか勝負です!」

「なんでノリノリなんだよ……まず、試食からするべきでは? その方がイメージを掴みやすいと思うぞ」

「それもそうですね。用意します!」

「藤原さん、私も手伝います」

 

 見た目は普通のプリンである。5()()あるプリンのうち、4つを配膳する。

 

「ん〜! おいしいッ! とろけちゃいますぅ〜」

「ん……うま。今度、プリンアラモード作ってもらお」

「これは美味しいですね」

「……美味いな。久々にプリン食べたけど、こんなに美味かったか??」

 

 各々、最高の評価である。

 こと、かぐやと藤原においては世界最高レベルのパティシエのプリンを食べたことがあるにも関わらず、思わず唸るほどの美味しさだったことに驚いている。

 

「では皆さん! このプリンに名前を決めていきましょう!!」

 

 あっという間に食べ終えた4人は藤原のノリに乗っかり、フリップに名前を書き出し始める。

 

「では俺からいこう」

 

 白銀からの発表。

 3人は手を止め、注視する。

 

 

「『THE PUDDING』はどうだろう!? シンプル且つ、『これぞプリン!』感が出る商品名だと───」

 

 

「ダサいです会長」

「……あぁそう? まぁこれは冗談なんだけど」

 

 藤原にバッサリ切られ、フリップをスッと下げ、目に見えて凹む白銀。

 意外に良いと思っていた四宮は、似たような回答を書いていたフリップの文字を誰にもバレずに消した。

 

 

「じゃあ次! 私が出しますね! 『価値観を超える! プリン!!』はどうでしょう?」

 

 

「長くね?? どうなってんの??」

「こういうのは名前に印象がある方がいいんですよ! インスタ映えもできますし! 『カチプ』みたいに略称で親しまれやすいです!」

 

 なるほど、と三者三様に考える。

 親しみ易さと独創性、そのような観点からも考えるべきだと納得する。

 

 

「ふっふっふ……もう一つあるんですよ────『誓い愛のプリン』はどうでしょう!?」

 

 

「「!?!?」」

「誓いィ?」

「そうです! 男女で一緒に食べると結ばれる! みたいなジンクスを私達でつくるんです! 特別感も出ますし、何より素敵じゃないですか!」

 

「却下だ藤原書記」

「却下よ藤原さん」

 

「と゛う゛し゛で゛ェ!!」

 

(まぁ別に、今一緒に食べたからって四宮と結ばれる訳じゃないし? いいんだけど? 先生も召し上がってますし? うん)

(そういう視点があるのは盲点だったわ。こんなジンクスをもとに藤原さんと会長が結ばれるのは乙女的にNO。やるなら徹底的に、会長だけに召し上がってもらうようにしないと)

 

「銀ちゃんはいいと思いますよね!?」

「んぁ? まぁいいんじゃね? だがなんで“誓い”?」

 

 そこはまぁいいじゃないですかと目が泳ぐ藤原。

 二人の天才が何かに引っ掛かり、藤原の名前案を潰さんと裏の意図を探る───そして。

 

「「自分の名前を入れてるな(ますね)」」

「う゛ぇ゛ッ!」

 

 か“千花”んを超えるプリン。

 “千花”い愛のプリン。

 厚顔無恥な一面を持つ藤原を知っているからこその気付きであった。

 

「え、まさか自分の名前入れたの? 商品名に? いたたたたた痛い痛いよ藤原さァん! 白銀持って来て! 絆創膏持って来て! 人1人包み込めるくらいのォ!!」

「……う゛わ゛ぁぁぁぁぁん!! ラブ探偵として名前を残したかったんですぅぅぅぅ!!!」

 

 泣きじゃくりながら勢い良く生徒会室を飛び出す藤原。

 暴いたのは自分らであるから、擁護などできる筈もなく、二人は見て見ぬふりをした。己がプライドを優先したのである。

 ひと呼吸おいて、再開。

 

「では次……坂田先生」

「こういうのはな、独自性は勿論だがシンプルなのがいいんだよ。プリンの形もありふれた物ながら綺麗なもんだったしな」

 

 二人は注目する。

 甘い物(デザート)に関しては、藤原を除けば最も詳しいであろう銀八の意見は純粋に気になるものであったからだ。

 

 

「SMARTなPUDDING────略して『SMAP』」

 

 

「アウトぉぉぉぉおおおお!! どこが独自性だ! もろパクリじゃねェか!!」

「What do you say? 独自性の塊だろうが。なぁ四宮メンバー」

「め、メンバー??」

「メンバー言うな! やっぱりさっきのフォーク根に持ってんじゃねぇか!!」

「ギャーギャーギャーギャー喧しいんだよ。発情期ですかコノヤロー」

「あんたがギャーギャー言わせてんだよ! ハァハァハァ……んん゛ッ、とにかく秀知院学園に相応しい名前でお願いします。国内最高峰の学園の看板メニューになるかもしれないんですから」

 

 へいへい、と口を尖らせ書き直しを始める銀八。

 改めて、なぜこの人が生徒会の顧問になったのか疑問を持ち始める白銀。

 改めて、なぜ白銀が興奮しつつ否定したのか疑問を持つかぐや。

 三者三様、バラバラである。

 

「国内最高峰の学園の看板メニューになる、だな」

「その通りです。その意識を持って名前を考えて頂きたい。何か既存の物にるのではなくて、独自性と独創性、親しみ易さ、これらを複合して……」

「オーケーオーケー、任せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『KING OF PUDDING』─────略して『キンプリ』」

 

 

「がっつりノッかってんじゃねェか!! アウトだっつってんでしょうが!!」

 

 

 結果として、四宮かぐやの案である「生徒に投票で決めてもらう」になり、集計結果として『誓い愛のプリン』に決まった。

 秀知院学園というか『羞恥院学園』になりそうだと、生徒会長と風紀委員は思ったという。

 

 

 




はよ会計を出したい…。

1話であるにも関わらず、たくさんの評価をありがとうございます。
励みになってます。
特に感想、返信こそできていませんが本当に本当に嬉しいです。

これからもどうぞよろしくお願いします。
ではまた次回!
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