TS悪堕ち魔法少女俺、不労の世界を願う   作:蒼樹物書

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第四話『再来』

 「それじゃ、今度のテストはここまでの範囲だから」

 「ぶえー……やっと、終わったぁ……」

 「ありがと、ひのちゃん」

 

 中間テストが目前に迫った放課後。

 終わりを告げる私の、蒼河 氷乃の言葉に二人が応える。

 

 私達は、円力華の家で直前の勉強会をしていた。

 

 「あー……何とか最下位は免れそうだよぉ。ありがとう、氷乃ちゃん」

 「……うん、頑張ろうね」

 

 これだけ教えて、どうして最下位回避という目標なのか。

 円力華は、ちょっと勉強が不得意だから。寝転んで、私の膝に頭を預ける彼女を努めて突っ込みせず撫でる。

 

 「やっぱりひのちゃん、教えるの上手だねー」

 

 その様子をじっと見つめている心愛。

 

 「あ、あはは。わ、私は天ッ才だからね!!」

 

 振り切るように応える。

 なんだかその眼が恐ろしかったから。甘えたがりの円力華は可愛いが、一番は心愛だからね? そういうのじゃないからね?

 

 「お、お茶が入ったよぉ」

 「すみません、ありがとうございます」

 

 助かった。

 タイミングを計ったように、円力華のお父様がお茶と茶菓子の載った盆を手に入ってきてくれた。

 

 「パパっ、ありがとう!」

 

 お父様大好きな円力華が飛びつき、一時休戦。

 ケーキと紅茶、私達の分を出してくれると彼はさっさと部屋を後にしてくれる。

 年頃の女の子の集まる場、気を使ってくれているらしい。

 

 部屋が、和やかな雰囲気を取り戻す。

 友達で集まった勉強会、それを邪魔せず助ける姿勢に頭が下がる。もうちょっとで、心愛が修羅場モードに入っていただろう。

 

 「はぁ……平和ねぇ」

 「へいわだねぇ」

 「うん、平和が一番だよ」

 

 ――紅茶を口にして、思わず呟く。

 

 世界は、平和を取り戻した。

 私達正義の魔法少女、プリナーズが戦う悪の組織ヒキニートー。

 連中は世界侵略の最後の仕上げとして、国際会議の場を襲撃した。

 それを阻止すべく、三幹部との死闘を越えて勢いのまま本拠地へ突入。主に、心愛……プリナーフェイトが何時も以上に勢いに満ちていたが。

 

 悪の組織は壊滅し。

 私達プリナーズは変身する必要もなくなって、日常を謳歌していた。

 

 「ほんと、平和」

 

 黒乃、プリナーブラック……あいつとも本拠地を壊滅してから、逢っていない。

 追い詰めこそすれこそ、悪の巨魁ムショックと共に脱出はしたようだ。

 かなり追い詰めたから今は戦う術すらないのだろう。

 怠惰によってエネルギーを得るという理知外の性質上、いつか相対することになるだろうが。

 

 「ずっと、平和が続けばいいのに」

 

 私は、その時が来るのを望んでいない。

 

 「……ずっと」

 

 私は、その時が来るのを待っている。

 

 あれだけ、どこでも顔を合わせていた黒乃。

 なのに今は消えてしまったかのように、逢えない。

 

 ――逢ってしまえば、戦うことになる。

 

 矛盾した願い。

 逢いたいのに、逢いたくない。

 

 あのばか。

 こんなの理外だ。理屈の外だ。

 未知を許さずそれを踏み荒らすことに喜びを覚える、天ッ才の私が許容できるはずがないのに。

 本当に許せないわ。

 

 「…………ひのちゃん?」

 「お、美味しそうなケーキね!!」

 

 気づけばまた、あのばかのことを考えて物思いに耽ってしまった。最近、少し間が空くと堂々巡りのように考えてしまう。

 そんな私を刺す、心愛の視線。

 誤魔化す為、美味しそうなケーキの載った皿に手を伸ばす。

 

 天ッ才の私は知っている。

 心愛に睨まれながらも、今ここに在る平和は崩れ去るのだということを。

 

 平和は、日常はいつか崩れる。

 

 私は崩壊を予測し、予感し。

 その『再来』を願わずも待っていた。

 

 

 「……」

 

 ぶえー。

 思わず、と吐き出したはずの声も音にすらならなかった。

 

 俺は疲れていた。

 

 猫カフェ『どんとわーく』の店長が、異常なやる気を出して五日が経ち。

 とにかく現金が必要な俺も、毎日出勤し続けて疲労はピークに達していた。

 

 ……今日は、白奈ちゃんも非番だったしなぁ。

 

 白奈ちゃん、デキる新人の後輩も今日はお休み。他のバイトさんもいたが、連続して増える新メニューやセット。過剰な広告によって増え続ける、お客さんを捌き切るには不足していた。

 

 「……」

 

 もう既に二十一時、店の片づけを終える。普段なら、ムショック様と夕飯を終えてだらだらしている時間だ。

 

 『どんとわーく』の営業時間は、十七時まで。

 それは伸びて続けていた。

 現金が必要な俺は、それに従い働き続けていたが。

 

 「店長ー」

 「はたらかなきゃ」

 

 片づけを終え、事務所でパソコンを前に働き続ける店長に声をかける。

 やはり、異常だ。

 金にがめつい彼女だったが、今ほど勤労意欲が激しい人ではなかったはずだ。

 

 「店長、そろそろ」

 「はたらかなきゃ」

 

 お休みにしませんか、と言おうとした俺の声が遮られる。

 定休日を無くし、営業時間の延長。店長の彼女は、家に帰った様子がない。店に泊まり最低限の睡眠だけで、働き続けている。

 

 「……お疲れ様でした」

 「はたらかなきゃ」

 

 尋常でない様子の店長を背に、職場を後にする。

 疑念は確信になっていた。

 

 俺には、やることがある。

 

 すっかり夜の帳を下ろした街。

 未だ灯りを残す店から出た俺は、その『気配』に告げる。

 

 背後に浮かぶ、影。

 

 「いるんだな」

 

 そこに、奴はいた。

 確信から発した言葉。俺は、店長のあの姿を……異常に働き続けようとする人の姿を、知っている。

 

 「――」

 

 シャッターを下ろした商店街、人気のないそこに在る人ならざる存在。

 

 「……まだ、残ってやがったか」

 

 安寧の暗闇。

 皆が休むべき夜闇の中。

 影の中から……黒を犯すように一際、輝く白が浮かぶ。

 

 「プリナーハーケン……ッ!!」

 

 そこにいたのは、白の魔法少女。

 勤労を最上の是とする異世界からの来訪者、ハロワー。

 

 奴の創り上げた、最強の魔法少女。

 

 白の衣装に身を包み、白の仮面をつけた御使い。

 のっぺらぼうの、目口が存在しない無辜の怪物。

 

 プリナーズを『試し書き』……試作型として使い、完成させた世界侵略兵器。

 量産型――つまりは最適化された正規の、最善最強の魔法少女。

 以前、俺が倒したはずだが。

 幾千の数が作られたこの人形には、生き残りがいたらしい。

 

 「――」

 「だんまりかよ」

 

 世界を勤労の正義に堕とす為の装置、そんな存在に感情はなく。ただ最適解の行動に徹する。だからこそ、恐ろしいはずだが。

 

 「お前が、店長をあんなにしたんだろうが!!」

 

 糾弾する。白の人形は、黙したまま。

 

 気づき始めてはいた。

 プリナーハーケンは、人々に勤労を強制させる能力を持つ。

 その能力によってハロワーは、世界を勤労の白に染め上げようとした。

 

 店長が、過剰に勤労意欲に励み始め。疲れ、それでも働き続ける姿。

 そんな姿は、連中の再来を感じさせたから。

 

 

 「――俺は働きたく、なかった」

 

 前世で過労死に終わり。

 働かなくても良い世界を、実現する未来を夢見て。

 

 俺は、不労を願い戦い続けた。

 

 しかしそれでも世界は、正義に勝利する悪を認めず。

 俺の夢は潰え、それでも僅かに掴んだ夢の欠片にしがみついてきた。

 魔法少女の力も無くし、ただの人として。

 

 「それでも、ちょっとずつ」

 

 俺の独白を白の怪物は、黙して聞いている。

 いいだろう、聞かせてやる。

 

 「この日常が」

 

 この怪物に対して。

 ただの中卒無資格、十六歳の女の子な俺が抗する手段はない。

 新しい日常。俺とムショック様の、二人の平穏。

 

 「幸せだと――!!」

 

 勝てるわけがない。

 俺達の平穏を崩そうとする怪物に、ただの人間が勝つ道理はない。

 それでも。

 

 駆ける。拳を握る。振りかぶる。

 白い怪物。

 何の力もない、ただの人間であるこの身が振り下ろす拳なんて。

 

 

 

 「――思えたんだッッッ!!!!」

 

 

 

 効くはずがない。なのに。

 振り抜いた拳。

 それが、怪物をぶん殴って吹き飛ばす。

 

 

 

 ……殴った右の拳が、黒い手袋に包まれている。

 それを追うように『衣装』が俺の身に展開してゆく。

 

 黒のスリーブ、それに続くように胴を包む黒のスーツ。

 胸元から下がっていくように、ふんわりと広がる黒のスカート。

 フリルとリボンが飾られたその先に、黒のブーツが展開されていく。

 頭と腰には俺の身体、猫型魔法生物に所以するかのように猫耳と鉤尻尾。

 

 全て、悪の黒に染め上げられている。

 

 「――ッ」

 

 拳の一撃、それに吹き飛ばされた白の人形が初めて心を動かす。

 『衣装』……その鎧に身を包んだ俺。

 この顕現に。

 正義の白に対して、復活した悪の黒に驚愕したように。

 

 「……働く皆に安寧を」

 

 俺は、怠惰の悪を願って堕ちた魔法少女。

 

 「プリナーブラック」

 

 再来した、黒の魔法少女だ。

 

 

 

 「ぐ、えッ」

 「――」

 

 不意打ちの一撃から立ち直った、プリナーハーケンが反撃の蹴りを繰り出してくる。

 速い。見えなかった。

 重い。とっさに組んだ腕のガードが軋んでいる。

 

 最強の魔法少女、その速さはジーニアス並みでその一撃の重さはフォース並みだ。

 淀みなく俺の防御の上から連打を繰り出す、その技巧はフェイト並み。

 ……魔法少女の完成形だと言うのに、誇張はないのだろう。

 

 「ちぃ……!」

 

 ガードの上からも響く衝撃。土砂降りのように襲うそれを、防御するしかできない。

 以前、この怪物と対した時は世界中の『はたらきたくない』という願い。そして、そんな人々を怠惰に堕としたことで得た膨大なエネルギー。

 そのおかげで幾千の数が相手でも、圧勝出来た。

 

 「クソッ」

 

 反撃の砲撃はするりと躱される。

 だが現状、手持ちのエネルギーは変身するだけの最低限。状況は夜、この商店街は『どんとわーく』以外静まり返っている。

 ……店長を怠惰に堕とす。気持ち多めに。

 

 「プリナーブラックシールドッ!!」

 「――!」

 

 補充したエネルギーで、防壁を展開。

 黒い半球状の、魔法の盾がハーケンの拳を弾く。

 俺は、プリナーブラックは防御と耐久に秀でた魔法少女だ。フォース並みのパワーがあろうと、そう簡単にこの盾は崩せない。

 

 「――」

 

 それを理解したのか、ハーケンが上空へ飛翔し距離を取る。

 勢いを載せた大技で突破するつもりだろう。

 なんて、分かりやすい。

 

 「こいやオラァ!!」

 

 俺はシールドを張り直して、それを待ち構える。

 どうせ、あの速度には対応出来ない。

 どうせ、最大出力の盾でも防ぎ切れない。

 

 「――」

 

 上空から、白い流星のようにハーケンが蹴りの姿勢で突っ込んでくる。

 

 「――っ!?」

 「やっぱりお前、人形だな」

 

 ……ばりん。

 蹴りが盾に直撃。しかしそこに、硬さはない。

 出力を調整し、あえて破れやすいよう細工していた。想定より簡単に砕けた盾、それによりハーケンは態勢を崩す。

 砕け散った盾の破片を目くらましに、俺はハーケンの脇に身を滑らせ。

 

 「――プリナー・ブラック・ストライク」

 

 無防備な脇腹に、黒のペンから最大砲撃を放つ。

 黒の光、その奔流に呑まれたハーケンが再び吹き飛ばされる。

 

 やはりこの人形は、自動的過ぎる。

 

 最高の性能で、最大効率を行う。

 確かに最強だろうが、不確定要素を軽視し過ぎる。だから、悪知恵を働かせる俺とは相性が悪い。

 ……格上との戦いには慣れてるし、な。

 

 「――」

 

 倒れ伏し、街灯でスポットライトのように照らされるプリナーハーケン。

 ダメージこそ入っているが、それでも耐え切ったようだ。防御性能も高いらしい。

 

 「どうやって生き残ったんだか知らねーが」

 

 その前に立ち、俺は黒のペンを差し下ろす。

 これで、止めだ。

 

 「えへへ」

 「……笑った?」

 

 白の仮面。

 その奥から響く笑い声。

 意識を取られた瞬間、目の前からプリナーハーケンは消え去っていた。

 

 「クソ、逃げられたか……」

 

 周囲にハーケンの反応はない。

 取り逃がした。

 しかし、人形らしからぬ鮮やかな退き際だ。恐怖という感情すらない人形が、退くこと自体異常なのだが。

 

 ――確かに笑った。

 その声にどこか、聞き覚えがあった気がするが。

 

 「……」

 

 とにかく。

 黒の魔法少女は再来を成し、戦う力を取り戻した。

 これで怠惰のエネルギーを集めることが出来る。

 しかし。

 

 「プリナーハーケン……奴を、野放しには出来ない」

 

 俺が戦うべきは奴だ。

 世界を勤労へと強制し、人々の幸福を奪う怪物。ハロワーの置き土産。

 奴は、俺が戦わなければならない敵。

 

 「世界を、怠惰に染め上げる為に」

 

 怠惰の黒へ、世界を染め上げる為に勤労の白を潰す。

 安寧を望む人々を守ってみせる。

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