TS悪堕ち魔法少女俺、不労の世界を願う   作:蒼樹物書

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第七話『魔法少女×魔法少女』

 「いらっしゃぁい、心愛ちゃん~」

 「にゃぅー」

 「こんにちわ! 店長さんっ、クロちゃんっ」

 

 猫カフェ『どんとわーく』にやってきた心愛を店長と共に出迎える。

 夏真っ盛り。夏季休暇中の彼女はいつもこうして、店が少し暇なタイミングでやってくる。

 おかげで彼女のお気に入りのキャスト……人気キャストとして働いているはずの俺は、運がいいのか悪いのか心愛の相手をすることが多い。

 

 「クロちゃーん」

 「なーう」

 

 ソファーに案内され、ドリンクを注文し終えた彼女の隣に腰掛ける。

 ――考えないようにしてたけど、これ猫じゃなきゃ完全にホストだな。

 中学生相手にホスト務めか……堕ちる所まで堕ちた気がする。

 

 「わしゃわしゃわしゃー!」

 「な、なぅぅうぅぅう!?」

 

 らめぇ!?

 技巧派魔法少女の十指で全身を撫で回される。的確にイイ所を緩急付けて刺激される。

 おそるべしプリナーフェイト……触手めいた指の攻撃になんて絶対負けない!

 

 「ここが良いんだよね? ほらほらほらぁ……」

 

 ひぎぃ……!!!!

 尻尾の付け根を、指先でとんとん優しく叩かれる。やめろそこはへそ下に強く響く雌猫の急所、くっ、殺!!

 いやだ俺は雌猫じゃない、あっ、あっ、あっ堕ちちゃうぅ……!!

 

 「お待たせしましたぁ、カフェオレですぅー」

 「あっ、ありがとうございます!」

 

 て、店長ナイス……完全に雌猫堕ちする前に、店長がドリンクを運んできたことで心愛の手が止んだ。

 危ない所だった。悪に堕ちた上に快楽堕ちする所だった。

 

 「ぷはっ……ちょっと苦いけど、美味しぃっ」

 「にゃぅ」

 

 余韻で力の抜けた身体を、心愛の膝上に預けて応えるように鳴く。

 

 ――どういった心境の変化か。

 彼女は常連と言える程、ここを訪れている。

 どうやらお気に入りになったらしいクロちゃんこと俺……黒猫姿で、接客を続け。

 

 「……ねぇ、クロちゃん。最近、お友達がね」

 

 答えのないお悩み相談を受けるまでの仲になっていた。

 

 「何か、隠してるような気がするの」

 「……」

 

 脇を掴まれ抱き上げられて。

 目の前に心愛の顔。

 お友達の隠し事。間違いなく、氷乃と円力華のことだ。猫相手ならば、魔法少女のことも隠す必要はない。その猫は、隠し事の張本人な俺だけどな!

 

 「……もう、戦わなくたっていいはずなのに」

 

 桃空 心愛、プリナーフェイトは仲間と共に……大体一人でだが、悪の組織ヒキニートーを打倒した。

 正義の魔法少女プリナーズは、もう戦わなくてもいいはずだ。

 心愛も、氷乃も、円力華も。ただの中学生の女の子が、傷つけ傷つけられる戦いに挑む必要なんてない。

 

 「なう」

 

 その通りだ。人の言葉で、肯定したいのを堪えて小さく鳴く。

 

 突如現れたハロワーの置き土産、プリナーハーケン。

 あのクソ犬の意思を継ぐように。

 世界を勤労に染め上げようとする怪物と戦うのは、怠惰を願う俺の仕事だ。例え、彼女達の助力がなくては叶わないとしても。

 

 「私は……お友達を、人を助けたかったの」

 

 心愛が、ぽつぽつと自身に確認するように話し始める。

 

 

 

 医師の父と、介護士の母の間に産まれた。

 

 ……人を助ける仕事。

 働く目的は、主に二つだ。

 

 金銭を得ること。生きる為に、お金を得る為に働く。

 人を助けること。誰かを助けることで、自身の価値を感じる為に働く。

 どちらが正しい訳でもないし、それ以外の理由も多い。色々な理由が絡み合っていることがほとんどだろう。

 

 氷乃は自身の才能を、人類の発展の為に役立てたいと願っている。

 円力華は父親への憧れで、働く未来を願っている。

 

 「私は、誰かを助けたい」

 

 ――桃空 心愛。プリナーフェイトは頂く名の如く、運命の魔法少女だった。

 

 人助け。

 これ以上ないくらい、魔法少女らしい理由だ。だからこそ、彼女は最初の魔法少女となり。

 強くなった。

 

 「なのに、ひのちゃんも。えりかちゃんも」

 

 二人は、心愛に隠れて俺と共にプリナーハーケンの迎撃を続けている。

 彼女達の参戦、それにより戦局は有利になったがそれでも詰め切れていない。

 ……引き際があまりにも鮮やか過ぎた。まるで、以前俺がプリナーズと対峙して撤退魔法で退いていた頃のように。

 

 「頼ってくれないの。なんで、かなぁ……」

 

 ぎゅう、と抱き寄せられる。

 熱い雫が垂れ落ちる。

 

 ――プリナーハーケンに対する迎撃。

 詰め切れずにいても、俺達は心愛にはそれを教えていない。

 理由は、俺だ。

 かつて彼女の最愛である氷乃の身体を奪い、今は共闘している。それは数奇な状況がもたらした今であり、彼女に理解してもらうのは難しい……そういう、俺と氷乃の判断だったが。

 

 俺達は、心愛を見くびっていたのかもしれない。

 友達に隠し事をされても、それでも分かろうとする強さ。

 その強さは、正しく。

 

 間違いなく、正義の魔法少女だった。

 

 「……心愛」

 「えっ?」

 

 クロ、猫の声ではなく『俺』の声で。

 覚悟を決めて言葉にした瞬間。

 

 

 

 ――畜生。

 あいつだ。背筋に這うような感覚。あいつの出現は、すぐに感じられる。

 プリナーハーケン。

 近い。感覚的に、たぶん隣町。

 

 「ふしゃーッ!!」

 「えっ、えっ、何!?」

 

 誤魔化すように毛を逆立たせて、心愛の膝上から飛び出す。

 

 全力で駆けて。

 店の裏口から路地裏へ、猫の姿から人の……阿久乃 黒乃。ジャージ姿の女の子に。

 

 「セット。プリナータイムレコーダー!!」

 

 駆けたまま。

 その手に、黒のカードを掲げる。走る俺の目の前に、黒の機構。叩きつけるようにカードを差し込む。

 路地裏からメインストリートへ。人々の目があるが変身中は認識されない。

 

 「――プリナーブラック」

 

 黒の手袋、黒の上下、黒のブーツ。黒い猫耳と尻尾を身に宿して。

 

 跳ぶ。

 一気に自身の身が空高く舞い上がり、眼下の街がミニチュアのように小さくなる。

 

 「働く皆に安寧を」

 

 そうして落ちた先。

 片膝を地に突き、俯いた顔を上げる。

 その先に。

 

 「えへへ。来て、くれたぁ……」

 

 人々を襲っていた、敵が嗤う。俺の敵と、相対する。

 プリナーハーケン……俺が、戦うべき敵。

 白の衣装に白の仮面。

 成長を続ける、最強の魔法少女。

 

 だが、俺は奴を倒さなければならない。

 心愛達が、子供が。

 助けるべき人々がこんな怪物と戦うなんて。

 

 「終わらせる。今日こそ、終わらせるぞ」

 「嫌ですよぉ。もっと、もっと貴女を――」

 

 黙れよ。

 身をくねらせ、俺との相対を悦ぶようなハーケンに蹴りを叩き込む。

 

 全力全開、俺の出来る最速最高の一撃。

 

 もはや、策も何もない。尽くせる手は尽くしたし、以前のように未熟だった奴相手に弄する策もない。

 感情のままの一撃を。

 ハーケンは片手でそれを捌き。

 

 「苦しめたい。もっと『私達』が堕としたいんッスよぉぉぉおおお!!」

 「ぐッ!?」

 

 受けられた右脚を、絡めとるように締め技へ移される。

 それに続くようにハーケンの背から、無数の白い腕が触手のように伸びて俺の身体に殺到する。

 

 ぎち、ぎちりと全身を締め上げる指が肌に食い込み。

 喉笛を締め上げる。

 

 「ッ、えぁ!?!?」

 「えへっ……えへへ、痛いですよね、苦しいですよねぇ……せんぱぁい……」

 

 白の仮面に包まれた顔が、俺を凝視している。

 俺の苦痛を望む怪物。だが、その声はどこが聞き覚えがある言い草で。

 それに気づく直前。

 

 「働く皆に以下略っ!!」

 「上に同じぃっ!!」

 

 氷撃と雷撃。二人の強襲で止められる。

 

 「ちっ……クソッ、いつもいつもいつもォ!!」

 「ブラックちゃんはやらせないよ!」

 「……今度こそ、終わらせる」

 

 二人の魔法少女、その砲撃によって吹き飛ばされ悪態をつくハーケン。

 それを追うように格闘戦を挑むプリナーフォース、俺を助け起こすプリナージーニアス。

 

 世界の救済を願い、共同戦線を張りながらも。

 

 俺は繰り返されるハーケンの迎撃に、彼女達に助けを求めることはなかった。

 何度、力不足で彼女達に助けられようが。

 ……それでも。

 

 「俺が」

 

 ジーニアスに支えられ、ようやく起き上がることが出来る程度の俺。

 フォースが戦線を支えて、稼いだ間。

 

 数奇な運命に導かれただけの、子供達。それに助けられる俺。

 

 それでも。

 何て情けない。

 だが、それでも。

 

 「俺は」

 

 

 腕にかかる重さ。

 私達と同じように、軽い少女の体重。黒髪、黒装束の。私達と相対するように、黒に身を包んだ少女。

 

 プリナーブラック。

 このばかは、支える私の腕を否定するように立ち上がろうとする。

 

 ――本当にばかなんだから。

 

 何、大人ぶってるんだか。

 私も、円力華も。

 いつまでも子供じゃない。ただ大人に守られているだけの、子供じゃない。

 

 「魔法少女は、助け合いでしょ」

 「でしょ!」

 

 フォースの答えてくれる声。

 円力華が、プリナーフォースが力尽くでハーケンを押さえ付ける。

 真向からの力勝負。この腕の中にいるばかみたいに、小難しいことは考えない。

 彼女は、そういうことは考えられない。

 

 だから、全力で。脇目も、後ろも視ずに真っすぐ力を振り絞れる。

 

 「押し合い、なら!」

 「この、馬鹿力がぁっ!? 邪魔を、するな……ッ」

 

 力。

 何より単純で、真っすぐな力。

 その名を頂くプリナーフォース。

 

 フォースを上回る力を持つはずのハーケンが、押し込まれる。

 両手同士で組み合って、勝てないはずの最強に対抗する。

 

 そうして拮抗して、稼いだ間。

 僅かな時間。

 

 ……天ッ才の私ですら、勝ち目は見えない。

 成長を続ける、最強の魔法少女。

 すでに学習し切り、全ての能力で私達を超えている。三対一という、数の優位ですら勝ち目に繋がらない。それ程までにハーケンと、私達に性能差は隔絶している。

 勝てない。いくらか、時間を稼ごうが。

 無駄に頭が回る故にその絶望を確信する。

 

 「ジーニアス!」

 

 ばかが、私を呼ぶ。

 

 「――俺に、寄越せ!!」

 

 立ち上がるのもようやくだった、ばか……ブラックが、真っすぐに私を見つめて。

 求めた。

 

 

 一度出来たなら、再現できる。

 この天ッ才……蒼河 氷乃は、そう言った。言葉通り、あの戦いの時、ハロワーとの決戦の時に再現できた。

 俺と氷乃の『相乗り』。

 

 ……以前、俺はこの猫型魔法生物に意識を移され。

 純粋な魔法少女である氷乃と『相乗り』した。

 二人の意識が同居したブラックジーニアス。

 

 それは、最強のハーケン相手であろうと対抗できた。

 

 「邪魔ッ! 『私達』と先輩のぉッ、邪魔をするなって言ってるんでスよぉぉぉおおお!!!!」

 「きゃっ!?」

 

 力で押し込んでいたフォースが、無数の白い腕に引き剥がされる。

 無垢の仮面に顔を包みながらもその声に余裕はない。

 ただ、求めるままに暴走する白の怪物。

 

 『――また、人の身体を好き勝手するつもり?』

 

 三人がかりで、それでも抑えきれない怪物を前に。

 氷乃が問う。

 

 「違う」

 

 刹那の間。

 だが、俺と氷乃は向かい合っていた。

 

 『また身体の主導権を奪って、その力を利用するんでしょう?』

 

 敗北したプリナージーニアスの身体を奪い、俺はブラックジーニアスとして二度目の生を得た。

 そして俺は。悪の、怠惰の世界を願い。

 彼女の身体を。

 力を、利用した。

 

 「違う」

 

 だが。

 否定する。

 

 

 

 「俺の望みは、お前と同じだ」

 「ばーか」

 

 

 「――ッ!?」

 「……ああ」

 

 組み合い、押されていたハーケンがこちらに注意を向ける。

 ぎりぎりの力比べで抑えていたフォースが、微笑む。

 

 この身は、二人で一つ。

 氷乃、ジーニアスは俺に寄越した。俺に、任せてくれた。

 ――『相乗り』。

 以前、猫型魔法生物と魔法少女が一つになったその形。

 

 しかし。

 

 右目は黒で、左目は青。

 黒と青はより深い色でより強く混ざり合うように、この身を包んでいる。

 

 ブラックジーニアス、その形から。

 更に進んだその姿。

 

 「働く皆に、英知と安寧を」

 

 魔法少女と、魔法少女が真の意味で『相乗り』した。

 俺と氷乃。

 

 合わせ/揃い/重なり。

 

 名乗る。

 

 「「――プリナーブラックジーニアス!!」」

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