TS悪堕ち魔法少女俺、不労の世界を願う   作:蒼樹物書

23 / 26
第九話『怠惰を願い働こう』

 「辞めさせていただきます」

 「待ってぇぇぇえええ!?」

 

 最強の魔法少女……俺の倒すべき敵。

 プリナーハーケンをついに打倒した俺は、猫カフェ『どんとわーく』の事務所で店長に三行半を突きつけた。

 それはもう満面の笑顔で。

 

 「お願いぃ、犬崎さんも連絡取れなくなって人手が足りないのよぉ!?」

 「ええい知るか店長!」

 

 俺の腰にしがみつき、泣きを入れる店長。ロリっ子のような低身長童顔だから堂に入っているが、彼女は三十路なので容赦なく引っぺがす。

 最近休みがちだった犬崎さん……白奈ちゃんは、連絡途絶していた。頼れる後輩で、心配がないわけではないが。

 

 アルバイトなんてそんなものだ。非正規雇用である以上、使う側も使われる側もそういったリスクは共有する。

 そして。そこには俺も含まれる。

 

 「クロちゃんがいなくなったら、誰が稼ぐのようぅ!?」

 「もう働きたくないんですー。ぐうたらして生きていきたいんですー」

 「この屑ぅ!?」

 

 店長の言うことは尤もだが、俺は悪の怠惰を願う魔法少女。

 そう、魔法少女だ。

 

 最大の敵、ハーケンを倒した今。

 怠惰の力を再び収集することが出来る。つまり真っ当に働いて金銭を得て、生計を立てる必要はない。

 ムショック様は怠惰というエネルギーさえあれば、ありとあらゆる物質を生み出す超常の存在。

 これまではハーケン迎撃の為に、そのエネルギーを使ってしまっていたが。

 倒してしまった今、それを全て捧げることが出来る。

 つまり働かなくても、生活に必要な全てを得ることが出来る。働かなくてもいいんだ!

 

 ――今度こそ、世界を怠惰に染め上げるのだ。

 

 「というわけなので、さようなら店長!」

 「……うん」

 

 労働からの解放に、うっきうきで店を後にしようとする俺に。

 店長は、自身のエプロンをぎゅっと握り締めて。

 

 「……でも、寂しいから偶には遊びに来てね?」

 

 小柄な彼女が、上目遣いに。

 

 本当にクソな職場だった。学歴もロクになく、猫として働くなんて無茶で搾取されるように働かされた。

 けれど。

 

 「黒乃ちゃんには、本当に助けられたから」

 

 むずり。

 

 「君が来てくれてから、お客さんもすっごく笑顔が多くなってねぇ。もっと、猫を好きになってくれたのが」

 

 嬉しかったんだぁ。

 涙を堪え、笑顔を浮かべる店長。

 俺は怠惰を願う俺は怠惰を願う俺は怠惰を願うッ!

 

 「……その、困ったことがあったら、手伝いますんで」

 「シャァッオラ言質頂きましたぁッ!!」

 

 おい何時の間に録音してやがった。掲げられるレコーダー、

 ガッツポーズで、俺をいつでも呼び出せる言葉を引き出したことに喜ぶ店長。

 

 はぁ……。

 ま、これくらいはいいか。

 実際、世話にはなった。どこの馬の骨とも知れぬ、猫の姿になれるなんて俺を雇ってくれた。その給金で何とか生き長らえたんだから。

 

 「それで明日のシフトなんだけど」

 「今までお世話になりました!!」

 

 早速シフト表を持ち出した店長から全力撤退。

 逃げ足に定評のある俺である。

 

 

 

 「――本当に、ご苦労だった」

 「ありがたきお言葉です。ムショック様」

 

 逃げ帰った四畳半。

 ボロアパートの一室、そこで俺は敬愛するムショック様に頭を垂れる。

 ……俺達の悲願、怠惰の世界を成し遂げることより。

 ハーケンを迎撃することを認めてくれた我が主。

 

 『我が組織は、構成員の自主性を何よりも重んじる。やりたいようにするが良い』

 

 悪の組織、ヒキニートーは怠惰の世界を願う。だがその首魁は、どこまでも放任的で優しかった。

 

 三幹部の扱いについても、それぞれのやり方で組織に貢献することを容認していた。だから俺が、ハーケンの打倒を優先することも組織の為になることを理解し許してくれていた。

 ……本当なら、プリナーズとハーケンを対決させその陰でエネルギー収集に努めるべきだろう。

 だが、そう出来なかったのは俺の私情だ。労働を強制する奴を、許せなかった。

 

 前世で奴と同じ存在に殺された俺は、復讐したかったんだ。

 

 「まずは、休め」

 「……はいっ」

 

 ムショック様からすれば、歯がゆいだろう。本拠地は壊滅し、幹部達はその身の内に逃がさなければならない程追い詰められて。

 ようやく悪の魔法少女として、エネルギー収集に動けるはずの俺は追わなくても良い敵を追っていた。

 

 耐え、ようやく終わって。

 けれども、俺を労ってくれる。

 

 「貴様の献身により、いくらか我も力を行使出来る」

 

 ハーケンとの闘いにエネルギーをほとんど使いながらも。

 幾ばくか、残っていた。

 

 「怠惰を願う者達の、その想い」

 

 ほんの、僅かな力だったが。

 

 「我が力で、世界を侵略する」

 

 超常の力。想いの力が、道理を。世界の論理を覆す。

 

 「――顕現せよ。A5黒毛和牛、すき焼きセット」

 

 家賃三万五千円のボロアパート、その一室に置かれた段ボールの机の上に顕現する異常。

 燃料不明の卓上コンロ、その上には明らかに高級そうな黒鉄の鍋。鍋はふつふつと湯気を立てている。

 

 「ムショックさま、ばんざい……!」

 「うむ」

 

 マジかよ。

 鮮やかなピンク色の肉、細やかな脂の白が美しく編み込まれている。一目見ただけで分かる高い肉。

 たっぷり山のように盛られた肉を囲むように、新鮮そうな野菜や高級そうな焼き豆腐が入っている。

 

 ……これまで、質素倹約しつつも手の込んだムショック様との食卓だったが。

 

 それでも香る匂いに陶酔する。

 ああ。こんな美味そうな物が働かなくても、怠惰に浸っているだけで何時でも食える。

 働かなくてもいい。

 客に媚び売って、ストレスを貯める必要なんてない。

 

 もう一度、ムショック様万歳。

 明日から頑張ろう。全ては世界を怠惰に染め上げる為に。

 

 「い、いただきます……!」

 

 なのに。

 俺達が箸を鍋に伸ばした瞬間。

 

 「お邪魔しまーす」

 「お、お邪魔しまーす」

 

 正義の魔法少女二人が、悪の拠点を襲撃した。

 

 

 「黒乃、卵ちょうだい」

 「……おう」

 

 四人、鍋を囲み。

 俺は言われるがままに、卵を氷乃に渡す。

 

 「ムショックちゃーん、ごはんおかわりー!!」

 「う、うむ。たんと食べるが良い」

 

 無邪気に差し出された空の茶碗を、ムショック様が受け取りおかわりを盛っている。天真爛漫な円力華、その暴力に悪の首魁も成す術がない。おいたわしやムショック様……。

 二人で囲むはずだった、悪のA5黒毛和牛すき焼きパーティーは。

 正義の魔法少女達に乱入されていた。

 

 「――なんでお前らがいるんだよぉ!?」

 「ようやく生活拠点を特定出来たわ」

 

 的確に、煮えた肉を円力華に分けながらも攫っていく氷乃が応える。おいそれは俺達の肉だ。

 つまりは。

 ハーケン打倒によって浮かれていた俺は、彼女にストーキングされていたらしい。

 街中の防犯カメラを総動員……主にハッキングによって追跡し、俺の帰る場所を特定。即襲撃した。

 

 「おのれプリナーズ!」

 「美味しー!!」

 「……うん、いっぱい食べろよ円力華……」

 

 汚い、流石正義の魔法少女汚いと思いながらも美味しそうに食べる円力華に毒気を抜かれる。

 はぁ。

 とりあえず、二人に俺達を滅する意思はない。いや、実際俺達のご馳走は猛烈な勢いで浸食されているが。

 

 「あんたの考えは大体分かるから」

 

 もりもり食べる円力華と対照的に、上品に食を進める氷乃。いや、それでも勢いやばいが。遠慮を知れよ無知を許さぬ魔法少女。

 俺と氷乃は、一心同体だった。だからこそ、俺の思考も読めている。

 

 「最大の敵を倒した今、あんた達は活動を再開するつもりでしょう?」

 「……ふん」

 「それが俺の、俺達の願いだからな」

 

 ムショック様と俺は応える。

 悪の俺達が願う世界の為。その為に、次の行動は人々への襲撃。

 怠惰のエネルギーを集めて世界を侵略する。

 だが、正義の魔法少女はそれを許さない。

 

 「今日来たのは、降伏勧告よ」

 

 箸を置き、そう告げた瞬間。

 蒼河 氷乃は座ったまま青の戦士、プリナージーニアスに変身する。

 

 『――寄越しなさい』

 「は!? えっ、ちょ!!」

 

 四畳半、鍋を囲んだまま。

 俺の身体がプリナージーニアスの身体に、吸い込まれる。

 

 「どう?」

 

 四人で囲んでいたはずの場に、残ったのは三人。俺は、ジーニアスと『相乗り』していた。

 だが、ハーケンと相対していた時のように身体が動かせない。

 プリナーブラックジーニアスの時のように、俺と氷乃の同調で動いた時と違う。

 

 「最初、私とあんたは偶然二人で一人になったけれど」

 

 『相乗り』の再現。

 その方法を確立したのは、氷乃だ。

 

 ……この天才め。

 何時の間にか、俺の意思を介せず『相乗り』を発動させ身体の主導権を奪える手法を得ていたらしい。

 まるで、以前ブラックジーニアスとして動いていた俺と在り方が逆転している。因果応報、か。

 

 「これで、もうあんたは私に勝てない」

 

 指先一つ、動かせない。

 

 そうか。これが。

 俺がジーニアスの身体を奪い。

 悪を働いていた頃の、氷乃の感覚か。もどかしい。

 

 天才が導き出した、必勝の道筋。強制的に『相乗り』させ、俺の行動を封じる。これでは俺の選択肢は許されない。

 

 願いを合わせたからこそ、力となったが。

 相対するなら一方的に『相乗り』を実行出来て、主導権を握れる。絶対的な有利。

 何なら永遠に氷乃の中で、声すら発することすら出来ずに終わらせることが出来る。

 

 『……そうだな』

 

 必滅。

 悪は正義の前に、必ず倒れる。そんな絶対を突きつけられて。

 俺は、敗北を認めた。

 

 

 「ぶえー」

 「ぶえー」

 

 はい無理無理不可能、あんなん勝てる訳ないですわ。天才強すぎるだろ。

 正義の魔法少女二人の襲撃、その降伏勧告を突きつけられて。二人が帰り、空になった鍋の脇で。

 ムショック様と共に横になり、低い天井を見上げる。

 いや問答無用で『相乗り』させるとか、そもそも戦わせてくれないのかよ。勝つ以前の問題じゃねーか。

 

 「……ムショック様、すみません……」

 「良いのだ黒乃よ……」

 

 ただ二人、大の字で寝っ転がる。

 何だかんだで、すき焼きは堪能した。久々に良い飯を腹いっぱい食えた。

 

 「勝てなくても良い」

 「ふえ?」

 

 だらけたまま。

 ムショック様の言葉を聞く。

 

 「勝つ負ける、その論理を否定するのが我が力だ」

 

 ――怠惰。

 

 それは他者と競い勝ち取ろうとする、勤労と相反する存在。

 働くことで得る。それが自然の論理。

 他者より秀でてより多くを得る。より多くを生み出す。

 

 その勝敗の論理に反逆する。

 

 「負けても良い。それでも願う世界を実現する。我は敗者こそを、救う」

 「……ムショック様」

 

 俺を殺した、強制される労働の象徴は倒した。復讐は、これで終わった。

 

 なら。

 今度こそ。

 願う世界の――俺に、二度目の生の目的を与えてくれたこの人の為に。

 

 働こう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。