TS悪堕ち魔法少女俺、不労の世界を願う   作:蒼樹物書

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第十一話『悪に堕とす魔法少女』

 ――最初の、魔法少女。

 

 この世界で初めて生まれた魔法少女。それが、私だった。

 

 平凡で、何の取り柄もない。ちょっと運がいいだけ。

 そんな私は正義の妖精ハロワーと出会い、悪の組織ヒキニートーと戦うことになった。

 最初は『特別』がない私に、突然現れた命運に喜び。その力で親友のひのちゃんを救えたことで、そして一緒に戦えることに喜んだ。

 戦いを続け……えりかちゃんもプリナーズに加わって。三人いっしょに、わるい奴らと戦って。勝ち続けて。

 

 あの人は、そんな充実した日々にいきなり現れた。

 

 順調だった日常に割り込んだ、あの人。

 ひのちゃんの身体を奪い。いつしか、心まで奪った。

 

 あの人は、わるい人だ。

 ”そうだ”

 

 ハーケン軍団との決戦が終わって。

 それでも、ひのちゃんはあの人と隠れて逢っていた。どうして?

 私達は、働く未来を夢見る正義の魔法少女。プリナーズの仲間なのに。

 

 どうして、わるい人に惹かれているの?

 

 解らなくちゃ。何故か、知ろうとしないと。ママは、その努力を諦めちゃいけないと言った。

 だから私は――。

 

 ”あいつが、奪ったんだ”

 

 そして。

 私はその場を、見てしまった。

 全滅したはずのプリナーハーケン。世界を勤労に染め上げて、支配しようとする敵と相対する三人。

 ひのちゃんと、えりかちゃんと……あの人。そこには、私がいるはずなのに。いなきゃいけないはずなのに。

 激情が、身を焦がす。

 

 ”盗ったんだよ。許せないよね?”

 

 プリナーズ。

 私と、ひのちゃんと、えりかちゃんの場所。

 少しの幸運しか取り柄のない私の居場所。

 それが、奪われた。

 

 火が、付いた。灯してしまった。

 

 ”あは”

 

 ――そうだ。悪を許しちゃいけない。

 その嗤い声と共に。

 私は最後の一つを奪われた。

 

 

 プリナーフェイト。

 彼女は、最初の魔法少女だ。異世界からの来訪者……ムショック様と同じく、侵略者と言っていい。

 そんな存在が、初めて見染めた現地の尖兵。

 

 運命の、魔法少女。

 

 「あは。あはははははッ!」

 「嗤うな、クソ犬」

 

 暗い空の下。

 土埃がゆっくりと舞い落ちていく中で、狂笑する『白』い影。

 頭頂には、人ならざる形。柴犬のように立った耳が在る。

 その後背には、丸まった尻尾。

 文字通り、尻尾を出したというわけか。

 

 「何時から、気づいていたんだい?」

 

 ハロワーが、心愛の顔と声で問う。

 こいつはムショック様に消し去られる前に、バックアップを残していた。

 最初の魔法少女。運命の魔法少女の、その奥底に。

 だが、ようやく引きずり出せた。

 

 限界ぎりぎり、そのちょっと先を超えた場所でなんとか立ち上がる俺は。

 奴に答える。

 

 「最初からだ」

 

 桃空 心愛の在り方。

 今、氷乃と。円力華を呑み込んで。

 二人の記憶と心を共有した俺には、二人を通して彼女が理解る。

 

 氷乃は、心愛の奥底に潜むハロワーの存在に論理的に気付いていた。

 円力華は、理屈抜きに心愛の淀みに感づいていた。

 二人分を合わせて、結論した。

 

 

 

 蒼河 氷乃は孤独だった。天才で、それが故に両親にすら距離を置かれた少女。

 そんな彼女に差し伸ばされた、平凡な彼女の手の温かさ。

 

 黄山 円力華は弱かった。特別な容姿を生まれ持ち、遠巻きにされた少女。

 そんな彼女に差し伸ばされた、普通の彼女の力強い手。

 

 二人を、救った。そんな彼女。

 人々を救いたいと言う。

 

 ――魔法少女に最も相応しい、彼女の在り方。

 

 そんな桃空 心愛に注ぎ込まれた『悪意』に俺達三人は。

 

 「……へぇ?」

 

 何も、特別な物を持たない。

 平凡で、普通で。けれどもただ人々の幸福を願う。願うことの出来る。桃空 心愛は。

 だからこそ特別だ。

 ……魔法少女になるべくしてなった魔法少女。それが、プリナーフェイト。

 

 「だから。俺の敵はフェイト……心愛じゃない」

 

 純粋だからこそ、彼女はハロワーに誘導された。

 友を奪い、自身達の未来を奪う敵。

 そんな敵に容赦せず戦い続けることができるように。そう、誘導されてきた。

 人々を、善も悪もなく救いたいという彼女に熾烈な戦いをさせてきた。

 

 「お前がッ!」

 

 少女の純粋な想いを偏向し、過激化させて。攻撃的に、許すことを許さず戦いに強制させる。

 

 働くことは正義でも悪でもない。

 勤労を願うことは間違っていない。怠惰を願うことは間違っていない。

 

 願いを、強制する奴こそが。

 俺が倒すべき敵だ。

 

 悪の組織ヒキニートーは怠惰を願う心を増幅し、人々からエネルギーを吸い上げる。だが、この力は怠惰を願う心がなくては力とならない。

 勤労を願うプリナーズ、彼女達を今まで堕とせなかった理由はそれだ。

 今、俺と戦いたくないと……そう、不労を願った氷乃と円力華が堕とせた理由はそれだ。

 

 「悪に堕ちた俺の」

 

 願った二人。願う人々。

 そんな全て。

 

 「願う人々全ての。世界の、敵だ」

 

 勤労に世界を染め上げようとする、異世界からの侵略者。

 

 「……」

 

 プリナーフェイトの身体を支配し、俺の前に立つハロワーの表情が消える。

 ようやく、正義だの悪だの。そういった建前が崩せたらしい。

 

 「君たちのような下等生物が、願うだなんて烏滸がましいんだよ」

 

 かつて無垢な少女達を、世界侵略から守るという幻想で戦わせたこいつは。

 効率を尊ぶからこそ、イレギュラーに取り乱される。

 

 「未熟で、未発達で、非ィ効率的でッ! せっかく僕が、導いてあげようとしたのに!!」

 

 白い円が、闇を侵略するように浮かび上がる。一つ、二つ、三つ……数えるのも馬鹿らしい程に、無数の円がハロワーの背後に展開される。

 

 「ただ君たちは従っていれば良いんだよ!」

 

 自称、俺達よりも上位で。

 効率良く働けるハロワーが告げる。

 

 「出来損ない共め。君たちに、僕の世界に居場所はない」

 

 無数の、白銀の円。そこから暴風のように魔法弾が連射される。

 天を埋め尽くすような銃口、全てが俺一人に収束され滅殺の意思の下に放たれる。

 

 『――全方向、弾道予測』

 『ばーか。何一人で、戦おうとしてるのよ。あんたの敵は、私の敵なんだから!』

 

 

 

 「誰が下等生物だ。天ッ才なんだよ、こいつは/俺は」

 

 

 

 蒼の光が、俺を加速させる。

 放たれた無数の魔法弾を、全て躱し捌いて。最速で、彼女の元に走らせる。

 

 「くそ、ジーニアスの力か!?」

 

 ハロワーの声に焦りが混じる。

 最速の魔法少女。プリナージーニアス、氷乃の力。

 

 「だったら――!!」

 

 砲撃戦を捌かれたハロワーが、近接の構えをする。

 天武のフェイト、その技巧に俺の力は及ばない。

 ――俺の、力ならな。

 

 『邪魔なんて、させないんだからぁぁぁあああ!!』

 『心愛ちゃんを取り戻す。難しいことなんて知らない。けれど、私と黒乃ちゃんはその為に力を合わせる』

 

 

 

 「烏滸がましい? 円力華の/俺の力はお前よりも強ぇえんだよ!!」

 

 

 

 黄の光が、俺を助力する。

 超絶の技巧を圧倒的な力で押し潰す。いくら力を逃そうとしようが、捌き切れない力。

 

 「ばかなっ!? フォースの、力で……!?」

 

 ――辿り着いた。

 

 力を逸らそうとするハロワーの抵抗をねじ伏せて。

 プリナーフェイト、その眼前に俺は立った。

 

 「働く皆に安寧を」

 

 全ての力を使い切り。

 ジーニアスとフォースの力が霧散する。俺の下から離れていく、二人の力。

 

 『やっちゃいなさいな!』

 『後はお願い、黒乃ちゃん!!』

 

 二人の声を背にしながら。

 彼女の元に辿り着かせてくれた二人の願いと共に。

 ただの、プリナーブラックとして。

 

 「やめ――ッ」

 

 ハロワーに心を縛られたプリナーフェイトを。

 抱き締めた。

 

 「……不労の、安寧に」

 

 働いて人々を助けたいという願いを歪められ。

 願わなかった嫉妬の炎に、無理矢理焦がされた少女。

 

 プリナーフェイト、運命の魔法少女。

 

 天武に恵まれながらも戦いを、望まなかったからこそ。

 ジーニアス、フォースの二人を堕とし、共にある今だからこそ。

 

 俺は、彼女も堕とすことが出来る。

 

 「堕ちろ」

 

 下等生物だの、烏滸がましいだの。俺達を、願う俺達に余計なお世話だ。

 これで最後。

 今度こそ、お前という完全無欠の白を黒で塗り潰す。抱き締めたフェイトの身体が、呑み込まれるように消える。

 

 ――俺とフェイトは『相乗り』を果たした。

 

 「犬が人を飼おうなどと……ってな」

 

 ムショック様のお言葉を借りる。最初の、運命の魔法少女の中にバックアップとして残された。

 侵略者の残り香は塗り潰された。

 

 

 『……ここは、くろのちゃんの……中……?』

 

 心の奥底に潜む、誰かの声で。

 私が私でなくなって。

 

 灯された火。それは瞬く間に燃え盛り、私の最後の一つまで焦がし尽くした。

 

 あの人。

 プリナーズという私の場所を、ひのちゃんを、えりかちゃんを奪ったあの人に嫉妬し憎む。

 誰かを助けたいという願いを忘れ去り、ただ敵を倒す。

 ヒキニートーの本拠地を焼き、敵を追い詰める。許さない、許さない、許さない。

 そんな私になってしまった私を、倒すのではなく抱き締めたあの人。

 

 『くろのちゃん』

 

 今、この中ではあの人の全てが解る。

 いつしかママが言っていた言葉が蘇った。

 

 ――まずは、知ることだと。

 許せなくてもいい。最後に解らなくてもいい。

 

 それでも。

 心を愛することが出来る私を願った、パパとママの想い。

 私は、許せなかった人のことを知ることが出来た。

 

 相乗り、というらしい。

 

 怠惰を願う人々を、不労に導く悪の魔法少女。

 だが、悪であろうと。正義であろうと、助けを求めて伸ばした手を掴む。

 そんな在り方は。

 

 『……そっか。くろのちゃんも、誰かを助けたかったんだ』

 

 くろのちゃんは、前世で限界まで働いて死んだらしい。

 一度死んで。

 それでも、労働自体を憎んでいなかった。

 私達プリナーズの働きたい想いを否定せずに、自分のようになる人々がいなくなることを願った。

 

 『私と、私達と――同じだったんだ』

 

 助けを求める声。求めて伸ばされた手。

 それを前に、善も悪もない。

 

 『くろのちゃんも、魔法少女なんだ』

 

 私の成りたかった私。

 人々の伸ばされた手を掴む、救う為の手を持つ。私も、その手に救われた。

 

 魔法少女。

 プリナーブラック。くろのちゃんは、正しく魔法少女だった。

 

 もっと、彼女のことを知りたい。

 もっともっと、お話したい。

 

 くろのちゃんのことを、知りたい。

 

 何時しかひのちゃんに抱いた、この気持ち。

 その気持ちの名前を知ることはもう少し、先だけれど。

 

 ――最初の魔法少女。運命の魔法少女。

 最後の、正義の私は堕とされたんだ。

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