ガールズ&パンツァー みほのお見合い大作戦   作:ジャーマンポテト

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第11章 100回言っても嘘は嘘

 男子戦車道社会人選抜チームと、陸上自衛隊中部方面隊戦車道選抜チームによる試合開始3時間前に、みほたちは観客席についた。

 

「ここかな?」

 

 受付で渡された座席表を確認しながら、みほが、つぶやいた。

 

「ここだね」

 

 沙織が、座席表と座席番号を確認しながら、つぶやく。

 

「男子戦車道の試合って、ちょっと暗い感じがするね」

 

 沙織が、観客席の雰囲気を見ながら、感想を漏らす。

 

「仕方ありません。観客と、言いましても、男子戦車道を観戦する方たちは、自衛隊や防衛省の関係者、それに戦車道と男子戦車道の関係者たちが、占めています」

 

「沙織。お前のイメージ通りにはいかない。男子戦車道はスポーツではあるが、あくまでも実戦的模擬演習というのが建前だ。イケメンばかりが集まる合コン会場のように華やかな感じは無い!」

 

 華と麻子の指摘に、沙織は、不満そうな顔をする。

 

「西住殿。男子戦車道の観戦経験は、どのくらいあるのですか?」

 

 優花里の質問に、みほは即答した。

 

「経験と言う程のものじゃないけど、黒森峰時代までだったら、男子戦車道の試合は、ほとんど観戦しているかな」

 

「そうですか、さすがは西住流と黒森峰ですね。私は、家のテレビで中継映像を見るぐらいでしたから、一度も生の試合を観戦した事はありません」

 

 優花里は、やはりというか、試合を楽しみにしているようだ。

 

「そうだ。みぽりん!尚弥さんって、どんな試合をするの?」

 

 沙織の突然の質問に、みほは困った表情をした。

 

「どんな試合って、言われても・・・」

 

 みほとしては、尚弥の試合を、それほど興味深く見ていた訳では無い。

 

 どちらかと言うとすべての試合で行われる細かな戦術を注意深く見ていたため、個々の戦術を意識してこなかった。

 

 そのため、沙織の質問には、答える事が出来なかった。

 

「優花里さん。説明できる?」

 

「お任せください!」

 

 優花里が、胸を叩いた。

 

「尚弥さんは、基本的に各中隊長等に直接的な指示を出す事はありません。作戦会議の段階で、基本の行動計画を決めるだけで、後は、各中隊長に任せています。尚弥さんは、あくまでも大隊長として、後方で全体を見渡し、各中隊の行動を微調整するだけです。尚弥さんが直接指揮を行うのは、隊が危機的状況に陥り、各先任指揮官だけでは、対応を越える事態に陥った時だけです。戦法は、西住殿と西住殿のお姉さんを合わせたような戦法をとります」

 

「ままごと遊びをする隊長2人と、一緒にしないでくれる?」

 

 優花里の説明に、前席で腰掛けていた少年が、急に突っ込んできた。

 

「誰ですか!?」

 

「誰!?」

 

 優花里と沙織が、同時に叫ぶ。

 

「さっきから、聞きたくない下らない説明を聞いていたけど、尚弥さんは、そんな凡人レベルの戦法を使わないよ」

 

 少年が振り返り、みほたちに、毒舌を吐く。

 

「あぁぁぁ!!貴方は!?」

 

 その少年の顔を見た沙織が、叫ぶ。

 

「何かな?うるさいんだけど」

 

 少年は、耳を塞ぎながら抗議する。

 

「男子戦車道大学選抜チームの副隊長、鳴滝佑真(なるたき ゆうま)殿!!」

 

「それ!私が言いたかった!!!」

 

 優花里に先を越されてしまい、沙織が頬を膨らませる。

 

「こんなところで、男子戦車道月刊誌で、特集されている人物と、出くわすとは・・・」

 

「奇跡ですね」

 

 麻子と華が落ち着いた口調で、頷き合う。

 

「すごいです!本物です!佑真殿!サインを、お願いします!」

 

 優花里が、はしゃぐ。

 

 優花里は愛用のリュックサックから、サインペンと用紙を取り出した。

 

「サイン?そんなものに必要があるの?サインって言うのは、有名人にもらうものじゃ無いの?」

 

 佑真の言葉に、優花里はテンションが上がったまま、叫ぶ。

 

「有名人ですよ!佑真殿は!天満家元の養子として迎え入れられ、天満家元から直接指導の下、わずか2年で全国に名前を知らしめた有名人です!小学校卒業後は、中学校に行かず、大学に飛び級し、大学1年目で、男子戦車道大学選抜チームの副隊長に任命された!愛里寿殿よりも、すごい経歴です!」

 

「優花里さん。少し落ち着いて!」

 

「本人の前で、本人の事を話すのは、まずいだろう」

 

 みほと麻子に指摘され、優花里は、しゅんとした。

 

「くぅ~」

 

 だが、テンションが上がっているのは、優花里だけでは無かった。

 

「佑真くん!本物だ!月刊誌の写真よりもイケメンで、かわいい!」

 

「おい、沙織。お前は、別の意味で落ち着け!!」

 

 麻子が指摘するが、沙織の耳には届いていない。

 

「沙織さんのハートが、射抜かれてしまいましたね。後が楽しみです」

 

 華が、少し楽しそうに、つぶやく。

 

「五十鈴さん。もしかして、沙織が撃破されるのを、期待しているのか?」

 

 麻子が、ジト目で華を見る。

 

「さあ・・・どうでしょう。ふふふ・・・」

 

 華は、何か昏い笑みを、浮かべている。

 

「華さん」

 

 みほが、華を嗜める。

 

「佑真くん!年上の女の子に興味ない?私は、料理も出来るし、他にも色々と出来る事があるよ!」

 

(((直球かよ!!?)))

 

「興味ないね。色々出来る?だから、何?女子力アピール、ウザいんだけど・・・そんな、女子に限って、実は性格ブスだって何かの雑誌に書いていたけど・・・ホントにいるんだ」

 

「ガビーン!!」

 

 口調は落ち着いているが、強烈な佑真の言葉に、沙織はショックを受けたように叫ぶ。

 

「瞬殺だな・・・」

 

「優花里さん。何秒ですか?」

 

「0.5秒です。新記録です」

 

「皆・・・」

 

 麻子、華、優花里の反応を、みほが窘める。

 

「こらこら、鳴滝。女性には、穏やかに接した方がいいぞ!」

 

 傍らから、別の男性の声がした。

 

「貴方は!?」

 

「あぁぁぁ~!!!!」

 

 優花里と沙織が、新たに現れた男性に声を上げる。

 

「・・・うるさいんだけど」

 

 佑真が、耳を塞ぎながら、顔を顰める。

 

「男子戦車道大学選抜チーム隊長の各務恭一郎(かがみ きょういちろう)殿!」

 

「本物だ!」

 

 優花里と沙織が、はしゃぐ。

 

「なぁに、この人たち・・・もしかして、幼稚園児?」

 

「はははは・・・」

 

 佑真の言葉に、みほは、乾いた笑みを浮かべる。

 

「俺の事を知っているのか?それも、そうだな」

 

 恭一郎が、大きな袋からホットドックを1つ取り出して、かじる。

 

「うまい!」

 

 とてつもなく元気な声で、そう叫ぶのであった。

 

「恭一郎殿。サインをお願いします!」

 

「おう!俺でよければ、構わないぞ」

 

 恭一郎は、優花里からサインペンと用紙を受け取り、サインをする。

 

「これで、いいだろう」

 

「ありがとうございます!大切にします!」

 

 優花里が、頭を下げる。

 

「私にも、サイン下さい!」

 

 沙織も、サインペンと用紙を取り出す。

 

 恭一郎は、気さくにサインペンと用紙を受け取り、サインをする。

 

「どうぞ、お嬢さん」

 

「ありがとうございます!恭一郎さん!」

 

 沙織も、嬉しそうにサインを受け取る。

 

「・・・結局、誰でもいいんだ・・・」

 

 佑真が興味ないような口調で、つぶやく。

 

「そんな事は無いぞ、鳴滝。我々は、月刊男子戦車道の月刊誌に、常に取材されている。男子戦車道に注目してくれる人がいるのは、非常に喜ばしい事だ」

 

「注目してくれる視点が、全然違う人たちに、愛想良くしても意味がないよ」

 

 素っ気ない口調で、佑真はつぶやく。

 

「それで、鳴滝。いつもなら、取材に来る記者たちにも不愛想を貫くのに、どうして、彼女たちとは、普通に話をしているのかね?」

 

「別に・・・」

 

(((これが、普通って!!?)))

 

 アンコウチーム全員の心に、衝撃が走る。

 

 口をアングリと開けて、呆然とするみほたちを後目に、佑真は、面倒臭そうなため息を付く。

 

「尚弥さんが、どんな戦法を得意としているのか、もじゃもじゃ頭が説明していて、尚弥さんが凡人レベルの戦法を好むと説明していたから、イライラとしていたんだ」

 

「・・・もじゃもじゃ頭って・・・」

 

 容赦の無い、佑真の口撃は、優花里にも及んでいた。

 

「なるほど」

 

 そこで、ようやく恭一郎は、みほたちが誰なのかに気が付いたようだ。

 

「おや?君たちは・・・もしかして・・・?」

 

「はい、大洗女子学園戦車道チームの、西住みほです」

 

「武部沙織でぇ~す」

 

「秋山優花里で、あります!」

 

「五十鈴華です」

 

「冷泉麻子」

 

「お~!君が大洗女子学園を、廃校から救った功労者か!是非、握手をさせてくれ!!」

 

 恭一郎は、みほの手を取り、ブンブンと振る。

 

「あ、あの・・・」

 

 みほは、誤解が発生しているため、それを訂正しようとする。

 

「私、功労者では、ありません。私は、ただ、戦車と戦車道受講生たちを率いただけ、です。功労者たちは、かい・・・前会長と、前生徒会のメンバーたちです」

 

「うむ!自分の功績を誇らず、チームメイトを立てる。実に好感の持てる態度だ。そう思わないか、鳴滝!」

 

「・・・・・・」

 

 佑真は、みほの顔を、まじまじと見る。

 

「あの・・・何か?」

 

 みほが、首を傾げる。

 

「貴女だよね。尚弥さんとお見合いをする人って?」

 

「は、はい、そうですけど・・・」

 

「自分の学園艦だけでは無く、他校の学園艦にまで、尚弥さんに無理やり結婚をせまられていると言うデマ情報を流して、被害者ぶっている、女子高校生だよね」

 

「そ、それは・・・」

 

 みほが、沙織を見る。

 

「「「・・・・・・」」」

 

 優花里、華、麻子の3人が、ジトーとした目で、沙織を見る。

 

 沙織は、小さくなっていた。

 

「あのさ、何か、事情があるようだけど・・・詳しい事は知らないけれど、尚弥さんの義弟としては、黙っていられないんだけど。尚弥さんは正当な手順を踏んで、お見合いを受けたのに、そのような嘘を拡散するなんて、酷い事をしたと思わないの?」

 

「ごめんなさい」

 

 沙織が、頭を下げた。

 

「何、貴女には関係無いんだけど?突然、謝られても困るんだけど・・・それに、僕たちが話している所に割り込むなんて、礼儀がなっていないんじゃないの」

 

「その事については、みぽりんが悪い訳じゃないの。私がデマ情報を、勢いに乗せて流してしまったの」

 

「ふ~ん」

 

 佑真は、鼻を鳴らした。

 

 沙織を見る視線が、冷たい。

 

「まあ、そう怒るな。誰にも間違いというものはある。それに尚弥さん本人だって、笑って許したじゃないか!はっはっはっはっ!」

 

 恭一郎は、豪快に笑う。

 

 袋から2個目のホットドックを取り出し、かじる。

 

「おぉ~さすがに、月刊誌で書いていたように、食欲旺盛ですね!」

 

 優花里の言葉に、恭一郎は豪快に笑う。

 

「はっはっはっ、人間は食べる事が仕事だ!食べなければ、強い身体にもなれんし、頭も回らない。食事は、人生にとって最大の憩いの時間だ!」

 

「1つお聞きしたいのですが?恭一郎殿」

 

「何かな?」

 

「どのくらいの量を、1日で食べるんですか?」

 

「このホットドックは、朝のおやつだ!この後、昼食を食べる。その後、午後のおやつだ。このぐらいは食べるな。それから・・・」

 

「もういいから、こっちまで気持ち悪くなるから」

 

 佑真が、げんなりとした表情で窘める。

 

「そうか」

 

 そう言いながら、恭一郎は美味しそうに、ホットドッグを食べ続ける。

 

 

 

 

「それで、何を聞きたいの?」

 

 佑真が、みほたちに聞く。

 

「え?」

 

 みほが、目を丸くする。

 

「僕も暇じゃないけど、尚弥さんの事なら、放っておく訳にもいかないから、放っておいていたら、もじゃもじゃ頭が、ある事無い事を話だそうだし、僕が説明した方が、いい気がする」

 

「心外ですね。私は武部殿と違って、感情に任せて嘘を付いて、事態を悪化させる事はありません!」

 

「ゆかりん!」

 

 佑真の言葉に、優花里が心外そうな口調で告げると、沙織が噛みついた。

 

「何て事を言うの!ゆかりん!それじゃ、私が大噓つきのトラブルメーカーみたいじゃない!!」

 

「はて?事実を言っただけですが・・・」

 

「ぐぬぬ~・・・」

 

「諦めろ。沙織」

 

 麻子が、沙織の肩に手を置く。

 

「この件に関しては、秋山さんは嘘偽りを言っていない。事実を言っただけだ。沙織は、自分の感情に任せて、西住さんの許可をとる事も無く、新聞部に、事実と異なる内容を流したんだ」

 

 何も言い返す事が出来ず、麻子に、ここまで説明されたら、沙織としては何も主張出来ない。

 

「まあ・・・」

 

 麻子が、優花里に顔を向ける。

 

「秋山さんも、状況によれば感情的になって、ある事無い事を叫び出しそうだがな・・・」

 

「やっぱり」

 

 麻子の説明に、佑真が頷く。

 

「ちょっとぉぉぉ!!冷泉殿。私は、そんな事をしません!」

 

「そうか?もしも、西住さんが望まぬ結婚を、強要されたら、秋山さんは、冷静に物事に立ち向かえるか?」

 

「それは・・・難しいです」

 

 優花里は、しぶしぶと、納得するのであった。

 

「どうでもいいんだけど、早く本題に入らせてくれるかな?いつまでも、仲良しコンビのトークを見せられても、困るんだけど」

 

「は、はい・・・」

 

 みほが、佑真に顔を向ける。

 

「尚弥殿は、どんな戦法を、好むのですか?」

 

 優花里が聞く。

 

「そんなの簡単だよ。尚弥さんは、基本的に、中隊長や各車の車長に、直接的な指示を出す人では無いよ。基本的な作戦等は事前の作戦会議で説明して、後は、各中隊長の判断に任せているよ。あくまでも尚弥さんは大隊長であるから、大隊全体の戦況を把握し、把握した戦況を各中隊長に伝達、中隊長は、その伝達で個々に行動する。各中隊の行動を把握し、各中隊がいかなる状況になろうと、支援等の行えるよう調整する」

 

「尚弥さんと、各中隊長の信頼関係が、強いですね」

 

 みほの言葉に、優花里が反応する。

 

「いえいえ。西住殿も負けていません。西住殿と車長たちの信頼関係も高いです」

 

「でも、私には難しいよ。私は、事前にすべて予想する事は出来ないよ。私は、発生した状況には対応できるけど、事前にすべての状況発生を、予想するのは無理だよ」

 

「当然だよ。尚弥さんのしている事が、凡人にできるはずがないよ。尚弥さんの真似は、誰にも出来ない。尚弥さんだけが使える、尚弥流の戦法だよ」

 

「うむ。尚弥さんの指揮は、誰にも真似をする事は出来ない。俺も隊長だが、すべてが予想の範囲内である事は無理だ。俺も見習いたい」

 

 恭一郎が、頷く。

 

「さらに、想定していない事が発生しても、すぐに対応策が思い浮かぶだけでは無く、敵の戦法を完全にコピーする事が出来る。そのコピーした戦術を自分の戦術と掛け合わせて、使う事が出来る。まさに、天才だ!」

 

 恭一郎は、3個目のホットドッグを、かじりながら言う。




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 次回の投稿は、6月末頃を予定しています。

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