ガールズ&パンツァー みほのお見合い大作戦 作:ジャーマンポテト
その夜。
大洗戦車道チームを始めとする、各高校戦車道チームは夕食後、宿泊所となった旅館の大広間に集合していた。
そこでは、戦車道連盟の会長と、元文科省役人、そして、もう1人の男性の姿があった。
「俺は、文科省から派遣されて来た、東條邦夫(とうじょう くにお)だ」
年齢的には、20代後半と思われる男性は、とても鋭い野性的な眼光をもった痩身の・・・沙織基準的に言えば、ソコソコのイケメンだ。
「文科省って・・・」
過去の諸事情から、杏が嫌そうな声を漏らす。
「言っておくが、過去の件に関しては、どうこう言う気は無い。俺個人の意見で言えば、去年の大洗の廃校の強行は、文科省の恥ずべき暴挙と思っているし、本来なら、当事者が公的な場で謝罪する案件だとさえ思っている」
「ちょ・・・ちょっと!それは・・・」
「何だ?防衛省に左遷になった、元文科省の役人風情が、俺に意見すると?貴様は、本来ならクビだった。それを、お情けで防衛省が拾ってくれたと言うのを、忘れるな!」
「ですから!!左遷では無く、出向です!!」
「ああん?」
「・・・・・・」
反論しようとする元文科省役人だが、東條にギロリと睨まれて、押し黙るしか無かった。
「まあまあ・・・その話は、今はする事では・・・」
戦車道連盟の理事長が、汗を拭きながら2人を取りなす。
「そうですね。失礼しました」
東條の、理事長に対しての態度は、元文科省役人に対しての態度と180度違う。
「取り敢えず、この話は今回の事には関係ない。文科省が戦車道連盟に対して、何だかの妨害やら嫌がらせをする事は無い。そんな事をやらかそうとする輩がいたら、俺が潰す!これは、高校戦車道チームと、男子戦車道社会人チームのガチンコ勝負だ!お前たちが、試合に注力出来るように、俺たちが全力でサポートする。これは、約束する!」
「「「・・・・・・」」」
「・・・何と言いますか・・・」
東條の、迫力に引き気味になる、戦車道チームの面々。
優花里が、小さくつぶやく。
「各務さんとは、別路線の熱血漢・・・?」
少なくとも、何処か小者感全開だった、元文科省役人に比べれば、マシなのか・・・?
「まず試合形式は、男子戦車道の試合ルールである拠点制圧戦だ。細かいルールに付いては、天満流の東雲薫子、紫子両師範による座学講習を受けてもらう。後は・・・」
東條は、積み上げられている大量のDVDを、指し示す。
「こいつは、過去の男子戦車道の、公式非公式試合の資料だ。本来は、防衛省の資料室でのみ閲覧出来る資料だ。今回、特別に貸し出し許可を取った。各自有効利用してくれ。因みに、諸外国の男子戦車道の試合の資料もある」
「おおう!これは・・・」
優花里が、目を輝かせている。
「日本だけでは無く、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、フィンランド等々・・・それだけじゃ無く、中国や韓国まで・・・わおっ!!これは!!対外試合を一切行わない、かの北の国まで!!?すごい!!すごいです!!!!!」
「わかった、わかった・・・まあ、そこまで喜んでくれるのは、許可を取るために奔走した甲斐はあるが・・・少し落ち着け」
テンションが爆上がりの優花里に、さすがの東條も、少し引き気味である。
貴重な、DVD資料を前にして、各戦車道チームの面々も、優花里程では無いが、テンションが上がっている。
そこで、ある事に気が付いた、1人。
「まっ・・・待ってよ!この資料が重要なのは、わかるけれど・・・これを、全部見ようと思ったら、寝る間を惜しんで、何日も貫徹しなきゃならなくなるよ!睡眠不足は、お肌の大敵なのよ!!」
確かに、沙織の言い分には一理ある・・・が。
「ケツの青いガキが、何を色気付いている!?戦車道を、舐めているのか!?」
東條の怒号が飛ぶ。
「だって、だって。座学だけじゃなく、練度向上のための実技訓練まで、同時進行で行うんですよね!そんなの、時間がどれだけあっても、無理に決まっています!」
それでも抗議する沙織に、東條はハァ~と、ため息を付く。
「・・・おい!そこの、眼鏡のおさげ髪。こいつに、わかるように嚙砕いて易しく説明してやれ」
「わかりました」
東條に指名された知波単の福田が、挙手の敬礼をして、立ち上がる。
「僭越ながら、私が説明申し上げます。東條殿は、すべての資料を1つも漏らさず閲覧するようにと、申し上げてはおりません。各校の特性で言えば、我が知波単は、陸上自衛隊各方面隊男子戦車道チーム、社会人男子戦車道チームの運用方法、サンダースであれば、アメリカの、聖グロリアーナであれば、イギリスの・・・という風に、各国の男子戦車道の運用方法を学び、参考にするようにという事でしょう。個々でも、隊長、車長、砲手、操縦士といった役割に応じて、それぞれ参考にする資料も、異なります。一律で受ける座学や実技訓練だけでは、経験や練度が社会人男子戦車道チームに劣る我々に、勝ちの目はありません。その差を少しでも埋めるために、これらの資料に目を通し、個々の能力を高める必要があると、考えます・・・こんな、感じでよろしいでしょうか?」
「よく出来た!」
堂々と、自分の意見を述べた後で、福田は少しモジモジと、恥ずかしそうに問いかけた。
それに対して東條は、先ほどとは別人のような優しい微笑を浮かべて、親指を立てて、Goodのサインを送る。
「・・・・・・」
沙織は、微妙な表情を浮かべていたが、無言だった。
「・・・戦車道の月刊誌を、隅々まで読んでいれば、説明されなくても、わかった話なのだが・・・」
麻子がボソッと、つぶやく。
「ここからが、大事な話だ」
東條が、再び語り始める。
「試合日時は、5月4日。今日からだと、一月と少し後だ。全員、合同訓練合宿に参加してもらう。各学校には、文科省を通じて連絡を入れている。合宿期間は、4月1日から30日まで。みっちりと訓練に勤しんでくれ。天満流家元が、合宿所の手配や訓練のための施設等、諸々の雑事を引き受けてくれるそうだ。なお、戦車道連盟のご厚意で、戦車道中学選抜チームが、実技訓練に全面的に協力してくれる」
「中学生が相手なんて、私たちには役不足よ。せめて、高校男子戦車道チームか、大学男子戦車道チームでなくちゃ」
カチューシャが、意見を述べる。
「そうね。大学生選抜チームにも勝利した私たちだもの、社会人男子戦車道チームくらいでないと・・・」
アリサも、カチューシャに同調する。
「中学生なんて、お紅茶が冷めないうちに、撃破出来ますわ」
紅茶を、ゴクゴクと飲みながら、ローズピップも同調する。
「ローズヒップ。お行儀が悪いですよ」
アッサムが、顔を顰めて注意する。
「まあ・・・先ずは、四の五の言わずに、やってみろ。お前たちの思う通りなら、男子戦車道チームに、俺が掛け合ってやる」
何か思うところがあるのか、東條は、3人の主張を否定も肯定もしなかった。
「・・・あの・・・」
ポコの、ぬいぐるみを抱いた愛里寿が、控えめに口を開いた。
「中学選抜チームの現隊長って、もしかして・・・?」
「島田さんも、知っているだろう。八柳美信さんだ」
「・・・・・・」
東條の言葉を聞いて、愛里寿は押し黙った。
「どうしたの、愛里寿ちゃん?八柳美信さん・・・て、薫子さんや、紫子さんと一緒にいたコだよね?」
愛里寿の様子を見て、沙織が問いかけた。
「八柳美信さんは、私が大学に飛び級した時に、私と同じように大学への飛び級を打診された人なの・・・」
「・・・それって・・・」
「そう・・・結局美信さんは、それらの推薦を断って、普通に中学に進学したのだけれども・・・もしも、美信さんが飛び級していたら、大学選抜チームに抜擢されていたと、思う・・・」
「・・・・・・」
「だから・・・もし、そうなっていたら、昨年のみほさんたちとの試合の時は、美信さんも大学選抜の一員だったかも・・・もしかすると、隊長は私では無く、彼女だったかも・・・」
島田流の一人娘であり、後継者でもある愛里寿と同等の扱い・・・それに愛里寿に・・・そこまで言わせる程とは・・・
愛里寿の天才的指揮能力の才能と、同等、若しくはそれを越えるかもしれないという可能性が、あるという事なのだろうか?
「「「・・・・・・」」」
愛里寿率いる大学選抜チームと、直接対決をした面々は、愛里寿の語る言葉の意味が示すところを想像し、押し黙るのだった。
「俺からは、以上だ。理事長、後はお任せします」
東條は、理事長に振り向き、場を譲る。
「え~・・・ゴホン!」
東條に代わって、前に進み出て来た理事長は、1つ咳払いをした。
「皆も、突然の試合の申し込みに驚いているだろうが、戦車道連盟としては、この申し込みに付いては、喜ばしい事と思っている。皆も知っての通り、文科省は戦車道世界大会の誘致に力を入れている。昨年の不祥事で、それが遠のいたが・・・今回の試合は、その不名誉を挽回するチャンスとして、前向きに検討されているそうだ。まあ、これは言ってみれば大人の事情で、君たちには関係ない事ではあるが・・・世界の壁は高い・・・という事は、君たち自身も理解している事と思う。私にとっても、これは、次代の日本戦車道を担う若者である、君たちにとって、さらなる躍進を遂げる、切掛けになると信じている。一か月という時間は、長いようで短いが、そのためのサポートに、大学戦車道理事である、島田流家元。高校戦車道理事である、西住流家元。中学戦車道理事である、天満流家元も、全面的に協力してくれるそうだ。君たちの奮闘に期待している」
そう言って、理事長は最後を締めくくった。
「ただいま戻りました」
その日の試合を見終えた鳴滝佑真が、今の自宅である天満流家元の本宅へ戻ったのは、深夜に近い時間帯だった。
「おかえり~佑真君~」
玄関先で出迎えてくれたのは、満面の笑みを浮かべた天満流家元だった。
「・・・お土産です」
両手を広げて、スタンバイしている家元に、佑真は紙袋を差し出した。
「黍団子~嬉しいなぁ~」
「・・・・・・」
いつも通りの、間延びした口調の家元に、佑真は無言だった。
「ちょっと、お話があるんだけど~疲れている~?だったら、明日でもいいよぉ~」
「何でしょう?家元」
「佑真く~ん。佑真君は、家族なんだから、お家では家元じゃ無くて、ママって呼んで欲しいなぁ~」
「・・・・・・」
また、無茶振りをする・・・という表情を、佑真は一瞬だけ浮かべたが、ため息を付いて表情を打ち消した。
「僕にとって、家元は家族である以上に、大恩のある師です。ですから、そんな馴れ馴れしい呼び方は、出来ません」
「う~ん・・・反抗期?ママ、悲しい~・・・」
「違います」
平常運転のオトボケ振りを発揮する家元に、こちらも平常運転で淡々と応じる佑真だった。
「ところで、話って何ですか?」
「うん、今日は遅いし~佑真君も疲れているでしょ~明日でいいよ~」
「いえ、大丈夫です」
自分から言いだしておいて、それですかと突っ込みたくなる。
「わかった~お茶を入れて来るから、お部屋で待ってて~・・・」
きっちり20分後、家元は湯呑みと、お茶菓子の乗ったお盆を手に、佑真の自室に現れた。
「君に、お願いしたい事があってね」
佑真の前に座った家元は、先ほどまでの間延びした口調では無く、普通の口調で話し始めた。
「君も知っての通り、尚弥率いる男子戦車道社会人チームと、みほちゃん率いる戦車道高校選抜チームとの試合が行われる」
「話になりませんよ。あの人たちが尚弥さんに、敵う訳が無いじゃないですか」
「そうかな?」
「そうです」
断言する佑真を、首を少し傾げて家元は見詰める。
「私としては、みほちゃんなら尚弥を撃破する事が出来る逸材と考えているのだが・・・君は、そう思わないか?」
「・・・家元が、あの人を高く評価されているのは、わかります。ですが・・・いずれは、その可能性があるとしても、今のところは足元にも及んでいないと思います」
「ふむ。まあ、そうだろう。みほちゃんと尚弥とでは、10歳の年の差があるのだから。10年の違いは、経験やら実績の差を生むのは、当然だからね」
養子の冷静な分析に、家元は満足そうな表情を浮かべた。
「そ・こ・で・・・君に、折り入って頼みたい事がある」
姿勢を正して、家元は本題に入った。
「みほちゃんたちに、一か月で10年分の成長をしろとは言わない。せめて、尚弥の影を踏むくらいには、成長して欲しいところだが。君には、そのためのカンフル剤として、東雲姉妹と共に、彼女たちの指導に当たって欲しい。これは幼少の頃から、ずっと尚弥の背中を見続けた君にしか出来ない事だ。どうかな?」
「お断りします・・・と、言いたいところですが・・・尚弥さんの試合相手が、あまりに無様な醜態を晒せば、尚弥さんにまで、傷が付いてしまいます。僕の条件を飲んで下さるのでしたら、お引き受けします」
「何かな?」
「あの人たちの訓練に、僕は一切容赦しません。それで、泣き言を言って落伍するようなら、そもそも同じ土俵に立つ事すら許せませんので・・・よろしいですか?」
「もちろん!ガンガンやっていいよ~実技訓練の模擬戦を担当する美信ちゃんにも、徹底的に、相手を叩き潰す意気込みで、やっちゃって~て、言っているからね~・・・」
ニコニコと笑いながら、家元は間延びした口調で、コワい事を口走る。
「これは、勝負の世界で生きる、誰にでも言える事なんだけどね~強い背中を追いかけて、高みを目指す者は、自分の背中を追いかけて来る者に気付かなければならない。気付かなければ、背後から追い縋って来る存在に、背中を踏み越えられる事もある~って。私的には、みほちゃんは、それに気付ける数少ない存在と、期待してるんだな~・・・楽しみ、楽しみ」
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
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