ガールズ&パンツァー みほのお見合い大作戦   作:ジャーマンポテト

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第17章 佑真の実力

「今日から訓練を始めるけど、最初に言っとくよ」

 

 佑真が、整列したみほたちの顔を見回しながら、告げた。

 

「尚弥さんが勝つのは当然の結果だけど、君たちが無様な負け方をしたら、尚弥さんの面子が丸つぶれだし、男子戦車道にも傷がつく。だから、僕が教官として君たちを指導するけど、僕の役目は指導だけでは無い。君たちの力量が、どこまであるか見極める必要がある。君たちの力量が、尚弥さんに及ばないと判断したら、尚弥さんの面子を守るために、僕から試合を、お断りするから・・・いいね?」

 

 佑真が告げると、カチューシャが、腕を組んだ。

 

「ふん、だ!ミホーシャは、高校戦車道全国大会優勝しているだけじゃなく、大学選抜チームとの試合にも勝っているし、無限軌道杯にも優勝しているのよ!力量が劣る訳が無いじゃない!!」

 

 カチューシャは、自信満々に叫ぶ。

 

「どの試合も、おままごと試合だね」

 

「おままごと、ですって!?」

 

 おままごとと言われて、カチューシャが反応した。

 

「おままごとでしょう。まさか、男子戦車道の試合を、一度も見た事が無いの?無いなら、仕方ないけど、男子戦車道の試合を経験したら、自分たちが、これまでしてきた試合が、いかにおままごとか、理解するよ」

 

「・・・言わせておけば!!!」

 

「待ってください。カチューシャ」

 

 ノンナが、カチューシャの肩に手を置く。

 

「佑真さんの言う通りです」

 

「ノンナ?」

 

「昨日、男子戦車道の資料を拝見しましたが、私たちの試合とは比べ物になりません。私たちの試合では、ひどくても怪我程度ですが、男子戦車道では死者が出てもおかしくない程の試合を行います。男子戦車道の戦車は、私たちの戦車と比べて、安全対策がされていません。安全基準よりも戦車の性能を優先しています」

 

「そんなに危険なの?」

 

「いや、ノンナが言っているのは事実だが、まったく安全対策が、されていない訳では無い」

 

 まほが、補足説明をする。

 

「マホーシャ?」

 

「私たちの使用する戦車は、性能よりも安全性を重視しているが、男子戦車道が使う戦車は、安全性よりも性能を優先している。それは、男子戦車道の試合は、軍事研究がメインだからだ。そのため、安全性を重視してしまうと、貴重なデータが収集出来ない。だから、性能が優先されているのだ」

 

 まほの説明に、沙織が青くなった。

 

「佑真君。そんな危険な試合をしているの?自衛隊は何を考えているの?こんな、かわいい子を危険な目に遭わせるなんて、考えられない!!」

 

「君に心配される筋合いは無いよ。それに黒森峰の元隊長の言葉を、そのまま受け取りすぎ、僕たちのしている男子戦車道は、危険もあるけれど、それだけの見返りはあるよ」

 

 佑真が、冷たく言い放つ。

 

「そうだよね。男子戦車道の受講生たちは、社会人を除く学生たちには、給与が支払われているし、危険手当も出ているよね」

 

「はい、そうです。それだけでは無く、負傷又は死亡した場合の保障手当も、しっかりしています」

 

 みほの言葉に、優花里がうなずく。

 

「まあ・・・それに、試合での死亡率は、私たちの戦車道と比べると高いけど、滅多に死ぬ事は無いしね」

 

 みほの言葉に、沙織以外の優花里、華、麻子の3人が頷く。

 

 実際、一昨年のみほが在籍していた当時の、高校戦車道全国大会での黒森峰とプラウダの決勝戦で起こったアクシデントが、例として挙げられる。

 

 脱輪をして、川に落ちた黒森峰の戦車内に閉じ込められた受講生を救うために、みほは自分が指揮を執っていたフラッグ車を放置して川に飛び込んだ、その行動の是非は置いても、あの状況で、みほが救出に向かわなければ、黒森峰に死亡者が出ていたかもしれない。

 

 安全を重視しているとは言っても、安心とは言えないのは女子でも変わらない。

 

「そういう事。貴女、女性週刊誌を読みまくっているにしては、知識が絶望的に浅いね。少しは勉強してきなよ。恋愛おバカさん」

 

「あ~佑真君に、冷たくされるの快感~・・・」

 

「戻って来い。沙織!」

 

 パン!

 

 

 

 

「漫才はその辺にして、訓練を開始しようか」

 

 佑真が、気を取り直して告げる。

 

「あ、はい」

 

 みほが頷く。

 

「訓練と言っても初日だから、まず君たちの力量を判断するから」

 

 佑真が、みほたちを見回しながら告げる。

 

「君たちの力量を判断しないと、君たちにあった訓練メニューを用意できないから、君たちに出来ない訓練メニューを押し付けてもまったく意味ないし、君たちのためにならないから、僕にも面子があるし、僕を教官に推薦した天満流家元の面子にもかかわるからね。まあ、訓練は僕も真剣にやるし、君たちの心技体をアップさせるから、きちんと付いてきてね」

 

「「「はい!」」」

 

 みほたちが、返事をした。

 

「それで・・・どんな、訓練をするの?」

 

 カチューシャが、挑発するかのように聞く。

 

「私たちの練度は、かなりものだから、生半可の訓練じゃ意味無いわよ!」

 

「自分で言うぐらいの力量は、あるんだね。だけど、その自信がどこまで続くか、見ものだね」

 

 カチューシャの挑発にも乗らず、淡々とした口調で応じる佑真に、カチューシャは怒りに顔を真っ赤にする。

 

「何ですって!?年下のくせにぃ!?」

 

 ドッカ~ン!!という感じで、カチューシャが遂に爆発した。

 

「カチューシャ。それでは、カチューシャの方が子供に見えますよ」

 

「まあ、お子さま身長だから、傍から見ると、カチューシャと佑真君は、兄と妹みたいに見えるわよ」

 

 ケイの言葉に、カチューシャの顔が、さらに真っ赤になる。

 

「こんな妹だったら、僕の方から願い下げだね。うるさいだけの妹がいたら、家がうるさくて、まったく集中出来ない」

 

「何ですってぇ~!!?私はうるさくない!普通よ!!普通!!ねえ、ノンナ!!」

 

「はい。カチューシャは、とても静かで、おしとやかな女子大学生です」

 

(((どこが!?)))

 

 ノンナの言葉に、大洗連合チームの面々が、心中で叫ぶのであった。

 

「見なさい!佑真!私は、とてもいい女子大学生なの!!」

 

(((自分で、言うんだ・・・)))

 

 大洗連合チームが、心中で、つぶやくのであった。

 

「皆さん、カチューシャと私の言う事に、間違いでもありますか?」

 

 ノンナが、ニコッとした。

 

「「「いえ、まったく間違いありません」」」

 

「そうですぅ。カチューシャ隊長!ノンナ副隊長!カチューシャ隊長以上の女子大学生はいません!」

 

 ニーナが、汗を流しながら叫ぶ。

 

「何故でしょう。ニーナさんの言葉を聞いていますと、違う意味に聞こえますね。うるさくて、乱暴・・・と、心で叫んでいるように・・・」

 

 クラーラが、黒いオーラを出しながら告げる。

 

「そんな事は、無いですぅ!!」

 

 ニーナがアリーナに顔を向けて、助けを求める。

 

 プイっと、アリーナが顔を背ける。

 

「そんなぁぁぁぁ!!!」

 

「ニーナァァァァ!!!貴女、そんな事を思っていたの!!?」

 

「ニーナさん。詳しく話を、聞きましょうか」

 

「カチューシャ、ノンナ。そんなに後輩を、いじめない」

 

 ケイがダイエットコーラを飲みながら、カチューシャの頭に手を置く。

 

「そのセリフ、自分の胸に手を当てて、言ってくださいよ・・・」

 

 アリサが、ボソっと、つぶやく。

 

「何か言った、アリサ?」

 

「いえ、何も言っていません!何も言っていません!」

 

「アリサが自分の胸に手を当てて言ってくださいよ。だって」

 

 風船ガムを膨らませながら、ナオミが、シレッとつぶやく。

 

「へぇ~アリサ。そんな事を、思っていたんだ~・・・」

 

 ケイが、不気味な笑みを浮かべながら、ダイエットコーラを飲む。

 

 気のせいか、その飲み方は、かなり乱暴だった。

 

「後で、反省会しましょう」

 

「ヒィィィィ!」

 

 アリサが、怯える。

 

 

 

 

「アハハハハ・・・」

 

 みほが乾いた笑い声を上げる。

 

「それで、佑真殿。どのような訓練を、行うんですか?」

 

 優花里がワクワクした表情で、佑真に聞く。

 

「君たちの力量を計るために僕の戦車だけで、大洗連合チームの全車両と戦う事にするよ」

 

 佑真の言葉に、みほたちが驚いた顔をする。

 

「え!?佑真君だけで、私たちの全車両を、相手にするの!?」

 

 沙織が、目を丸くする。

 

「随分と舐められたものじゃない。ここに参加している子たちは、全員レギュラー・メンバーよ!」

 

 カチューシャが、余裕と言った感じで、腕を組む。

 

「それ以前に、たった1輌で50輌の戦車を相手にするなんて、無理っす!」

 

 ペパロニも、無茶なと言った感じで、意見を言う。

 

「どう思いますか、姐さん?」

 

「男子戦車道大学選抜チームの副隊長で、天満流家元の養子なら、1輌でも結果は、わからない・・・」

 

 ペパロニに振られたアンチョビが、冷静に分析する。

 

「そうなの?どう考えても1対50じゃ、話にならないと思うけど・・・」

 

 沙織が、つぶやく。

 

「それに、私たちを苦しめたカール自走臼砲や、ヤークトティーガーまでいるんですよ。どう考えても、勝負は見えているじゃないですか?」

 

 桂利奈が、首を傾げながら、答える。

 

「先輩!彼は私たちを舐めています!一瞬で、けりをつけましょう!!」

 

 あゆみが、ガッツポーズする。

 

 うさぎさんチームの他メンバーも2人と同じ意見なのか、何度も頷いている。

 

「・・・簡単には、いかない・・・」

 

 紗季が、ポツリとつぶやく。

 

「紗季の言う通りだよ。私たちの実力は全国に知れ渡っているし、その知名度は子供まで知っていると思う。佑真さんが、あんな強気な発言をするという事は、私たち全員を相手にしても勝てるという自信があると見るべきよ」

 

 梓が、冷静な分析をして、つぶやく。

 

「西住隊長は、どう思われますか?」

 

 梓は、みほに聞く。

 

「佑真君の実力は、昨日のDVDで男子戦車道大学選抜チームの試合を見せてもらったけど、言うだけの事はあると思う。佑真君は、尚弥お兄ちゃんを間近で見ているだけでは無く、天満流家元から直接指導されているから、私たち全員が束になってかかったとしても勝てる可能性は、低いかもしれない・・・」

 

 みほは、冷静に分析する。

 

「西住殿。記録によれば、天満家元が現役引退の試合をした時、西住流家元と島田流家元が隊長、副隊長となった混成チームを完敗させた事があるんですよね?」

 

 優花里の言葉に、みほは頷く。

 

「正確には違うけど、ほぼほぼ、当たっているかな・・・」

 

「どの辺が違うの?」

 

「詳しく聞きたいですわ」

 

 ケイとダージリンが、聞く。

 

「詳しい事でしたら、お姉ちゃんが知っているかな。お姉ちゃん?」

 

「ああ」

 

 みほに振られて、まほが前に出た。

 

「お母様と島田流家元の混成チームは20輌で、ティーガーやパーシングで編成された重戦車を主力としたチームだった。それに対して天満流家元は、九七式中戦車改の1輌のみだった。たった1輌の九七式中戦車改で、20輌のティーガーとパーシングを撃破した。お母様と島田流家元の完敗だった」

 

「はい!その話でしたら、私も聞いた事があります!天満流家元は、知波単学園の卒業生で知波単の突撃の精神も、その時に植え付けられたものです。いや、天満流家元が現役だった頃は、知波単学園は全国大会を連覇する程強かったのですが・・・どこで、どうなったのか・・・どんどん弱くなりました!」

 

 西が、挙手の敬礼をしながら、説明をする。

 

「・・・あ~・・・」

 

 何となく、察した。

 

 みほは、引き攣った笑みを浮かべる。

 

 ティーガーと、パーシングを九七式中戦車改で撃破するというのは、戦車のスペック上のデータだけで判断すれば、1対1でも重荷である。

 

 だが、無限軌道杯で大洗と対戦した時のように、地形や状況を利用し、それらを戦術に組み込めば不可能では無い。

 

 知波単の突撃戦法は、卓越した指揮と周到に練られた戦術によって運用されれば、途轍もない脅威になりえる。

 

 派手な吶喊戦法だけが、目立ってしまったため、それのみに囚われ、一時的に知波単は低迷する事になったが、参謀として未知数の能力を有する福田と、指揮官として目覚しい成長をした西の存在が、時間はかかったが、天満流家元が育てた最強の知波単を蘇らせたのだ。

 

 ・・・いま一つ本人たちは、それを自覚していないようだが・・・

 

 

 

 

「ひまわり中隊。行動準備完了!」

 

「あさがお中隊。行動準備完了!」

 

「たんぽぽ中隊。行動準備完了!」

 

「あじさい中隊。行動準備完了!」

 

 4個中隊長から、行動準備完了という報告を受けた副大隊長の梓は、M3[リー]の車長ハッチから上半身を出した状態で、インカムに告げた。

 

「大隊長。全中隊行動準備完了しました!」

 

「了解。全車一列横隊で、微速前進!」

 

 みほが、指示を出す。

 

 大洗連合チームの編成は、以下の通りである。

 

 ひまわり中隊は、西住まほを中隊長として、ティーガーⅠ、ティーガーⅡ、パンター、ヤークトティーガー、T-34/85、IS-2、KV-2、ポルシェティーガーの重戦車を主体とした10輌編成である。

 

 あさがお中隊は、ケイを中隊長として、シャーマン、ファイアフライ、九七式中戦車、九五式軽戦車の中戦車と軽戦車を主体とした10輌編成である。

 

 たんぽぽ中隊は、ダージリンを中隊長として、チャーチル、クルセイダー、マチルダⅡ、P40、セモヴェンテ、カルロ・ヴェローチェ、Ⅲ号突撃砲、ヘッツァー、マークⅣの重戦車、巡航戦車、歩兵戦車、自走砲等を主体とした編成である。

 

 あじさい中隊は、島田愛里寿を中隊長として、センチュリオン、パーシング、T-28、BT-42、ルノーFT-17、ソミュア35、ARL-44、ルノーB1の巡航戦車、重戦車等を主体とした10輌である。

 

 さらに西住みほ直轄部隊である89式中戦車、Ⅲ号戦車 三式中戦車、九七式中戦車、九五式軽戦車、カール自走臼砲で編成された特別部隊であるみほの直轄部隊であるが、指揮は磯部典子がとる。

 

 大隊長に西住みほと副大隊長に澤梓が就いている。

 

 梓は次席指揮官であるが、みほの乗るⅣ号戦車を護衛する役目も担っている。

 

「大隊長車より、各中隊長へ、相手は男子戦車道の大学選抜チームの副隊長を任されるだけの強者です。たったの1輌だといっても決して油断しないように」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 勝敗は、余りにも呆気なく着いた。

 

 大洗連合チームは前進を開始するが、無線連絡が暗号化されていないため、佑真の通信手に傍受され、簡単に位置や陣形が把握された。

 

 佑真は波型に陣形をとった大洗連合チームの側面から奇襲攻撃を行い、彼の戦車である五式中戦車の最高速度と最高機動力を持って、大洗連合チームを翻弄した。

 

 通信傍受の対策として、沙織は昨年の戦車道全国大会のサンダース戦で使用した、スマホのメールで連絡を取る作戦に切り替えたが、それは佑真には最初から読まれていた。

 

 妨害電波により、完全に通信を遮断され、みほの指示が各中隊へ、まったく届かなかった。

 

 そのため、大洗連合チームは混乱し、佑真の乗る五式中戦車に、次々と各個撃破された。

 

 通信妨害によって、各中隊間の連携がまったく取れない状態で混乱が生じたところで、意図的に通信妨害を解除し、味方部隊からの砲撃要請を受けたカール自走臼砲は、攻撃座標を調整し、砲門を擡げる。

 

 轟音と共に発射された砲弾が着弾したのは、佑真の巧みな誘導によって誘い出された、あさがお中隊のすぐ側だった。

 

 至近で生じた爆風によって、あさがお中隊は一瞬で壊滅的打撃を受ける。

 

 最後に残った戦車は、まほのティーガーⅠ、愛里寿のセンチュリオン、みほのⅣ号戦車のみだった。

 

 防御力が高いヤークトティーガーやT-28に関しては、正面装甲を貫かれた。

 

 貫かれた理由として、佑真の五式中戦車の砲手が、何度も同じ個所に徹甲弾を直撃させ、最後に装甲板が負け、貫かれたのだ。

 

 みほ、まほ、愛里寿の3人は連携を取って最後まで抵抗したが、抵抗もむなしく佑真の卓越した指揮によって撃破されてしまった。

 

「試合終了!」

 

 審判長の亜美の声が響く。

 

「大洗連合チーム残存車輛無し、よって拠点防衛は不可能と判断し、鳴滝佑真君の勝利!」

 

 

 

 

「さすがです。副隊長、我々だけで50輌の戦車を相手し、無傷で全車を撃破したのは、新記録です!」

 

 五式中戦車の乗員たちが、車長である佑真を称賛する。

 

「大した事じゃ無いよ。それに、記録を塗り替えるのが、今回の試合の目的じゃ無いからね。問題は、どうやって、あの人たちを1ヵ月で僕たちレベルまで、鍛え上げるかだからね・・・僕にとっては、そっちのほうが重要だからね」

 

「無理ですね」

 

「無理」

 

「無理」

 

 乗員たちは、口々に断言する。




 次回の投稿は1月末を予定しています。

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