ガールズ&パンツァー みほのお見合い大作戦 作:ジャーマンポテト
「よ、よろしくお願いします」
みほが、バスガイドの2人に頭を下げる。
「「「よろしくお願いします!」」」
大洗女子学園戦車道受講生及び卒業生たちが、頭を下げる。
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
バスガイドの2人が、頭を下げる。
「西住師範の、お嬢様ですよね!」
香川県担当のバスガイドが、みほの手を握る。
「はい」
「実は、私も中学、高校、大学で、西住流戦車道を、修めていたのです!」
香川県担当のバスガイドが、はしゃぐ。
顔立ちや雰囲気から、みほたちより10歳程度年上であろうと思われる女性だ。
「そ、そうなのですか・・・」
「ええ。でも、公式試合に一度も出た事が、ありませんけど・・・」
「補欠ですか?」
「沙織さん!」
沙織の言葉を、みほが嗜める。
「いえ、補欠でもありませんでした。中学、高校、大学と公式試合に参加する選手たちの身の回りのお世話くらいしか、させてもらえませんでした」
みほも、バスガイドから話を聞いて、理解した。
西住流戦車道のレギュラーメンバーであれば、母であるしほが、常に気にかけている。
もちろん、それ以外の門下生や受講生の事も、当然気にかけているが、やはり差は出てしまうのは、仕方が無い。
バスガイドさんの年齢が、27歳くらいだとすれば、ある程度は、みほが認識しているレベルだ。
しかし、補欠でも無ければ、余程の接点が無い限り極めて難しい。
「実は私、西住まほさんが中学生だった頃、家元の指示で、一時期、お世話係をさせて貰っていた時もありました。西住まほさんには、とても良くしてもらいました」
バスガイドの言葉に、みほは、「そうですか・・・」と答えるだけであった。
「お姉様に、よろしく言っておいて下さい」
「わかりました」
みほは、明るく返事をする。
バスガイドは、完全に自分の世界に入っていた。
「質問です!」
沙織が、手を挙げる。
「何でしょう?」
香川県担当のバスガイドが、沙織に顔を向ける。
「あの、戦車道をやっていると、モテますか?」
沙織の質問に、大洗女子学園戦車道受講生及び卒業生たちは、呆れるのであった。
「う~ん。そうですね・・・そこそこ、モテますかね・・・」
「えっ!?」
それに反応したのは、岡山県担当のバスガイドだった。
「私も中学、高校、大学、戦車道だったけど、一度もモテないですけど・・・」
「沙織。そういう事だ」
麻子が沙織の肩に、手を置く。
「何!?どういう事!?」
沙織が、叫ぶ。
「言っていいのか?」
麻子が聞く。
「いえ、いいです・・・」
麻子の真顔に、何かを察した沙織が首を振る。
「まあ、モテる人は、モテる。モテない人は、モテない・・・ですね」
華が、口元に手を置きながら、告げる。
「うぅ・・・いいって、言ったのに~華のイジワル~」
ず~んと、落ち込む沙織であった。
「あらあら、どうされました?沙織さん」
「絶対、わざとですね。五十鈴殿」
優花里が肩を竦めながら、つぶやく。
「それでは、みなさん。そろそろバスに乗車して下さい」
香川県担当のバスガイドが、乗車を促す。
「それではみなさん。香川県の事で、わからない事は、ありますか?あれば質問して下さ~い!」
香川県担当のバスガイドが、全員が座席に座った事を確認して、聞いた。
「では、香川と岡山に、質問がある」
麻子が、手を挙げる。
「「どうぞ」」
「昔話の桃太郎は、どっちが起源だ?」
「「!?」」
麻子の質問に、2人のバスガイドの表情が固まる。
「おぅ!これは、かなり難しい質問を、しましたね」
優花里が、感心する。
「ゆかりん。どういう事?」
沙織が、聞く。
「武部殿は、桃太郎の話はご存じですね?」
「バカにしているの!そんな事、当たり前じゃん!おじいさんとおばあさんが、川で見つけた大きな桃を包丁で切って、中から桃太郎が出て、犬、猿、雉を家来にして、鬼ヶ島に行き、鬼を退治する話じゃん!」
「かなり省いたな」
麻子が、つぶやく。
「一般的には、そこで話が終わりなんだよね」
みほが、苦笑する。
「そうなのです。この話には続きがありますのに・・・」
華も、うなずく。
「そうなの?鬼を退治して、鬼が持っていた宝を持って帰って、おじいさんとおばあさんと3人で仲良く幸せにくらした話じゃないの?まさか、桃太郎に素敵な彼女ができて、末永く幸せに暮らしたの?」
「沙織。桃太郎の話を、お前のお花畑妄想で、改変するな」
麻子が、突っ込む。
「麻子。ひど~い!」
沙織が、怒った。
「それで、続きは何なの?」
沙織が真顔に戻り、優花里に聞く。
「簡単に説明いたしますと、鬼を退治して、財宝を手に入れた桃太郎は、おじいさんとおばあさんの元に帰り、幸せに暮らしたとなりますが・・・その後、財宝を手に入れたおじいさんやおばあさんだけでは無く、村の人たちまでもが、贅沢三昧な暮らしをします。仕事もせず、ただ、ただ、1日中、宴会を繰り返し、ぐうたらな生活を送ります。それに見かねた桃太郎が、財宝をすべて鬼八島に持って行き、鬼に返すのですが、鬼たちは新しい生活をしていました。日の出と共に目覚めて、朝食を食べ、畑に行き、畑仕事と洗濯物を洗う。そして、日没と共に家に帰り、夕食を食べて、布団に入る・・・です。桃太郎から宝を返された鬼たちは、その宝を桃太郎に返します。自分たちは働く楽しさを得た、その楽しさを失いたくない。と言って、受け取らなかったのです。結局、桃太郎は宝を持ったまま帰り、贅沢三昧な生活をするおじいさん、おばあさん、そして村人たちを見ながら、自分のした事を後悔するのです」
「そんなブラックな話だったの!?」
優花里の説明に沙織が目を丸くする。
「まあ、地域によって伝承は違うが、基本的にはブラックな話だな」
麻子が、捕捉する。
「基本的に日本昔話は、子供に聞かせられない話です」
「そうだよね。桃太郎の裏話は、間引きされた子供・・・当時、貧しい地域で生まれた子供を育てられないときに、間引きという処分で赤ちゃんを川に流す習慣があった時代の話だもんね」
みほが説明をする。
「そうですね。それに家来にする犬、猿、雉にも意味がありますから」
「何の意味があるの?」
華の言葉に、沙織が恐る恐る聞く。
「犬は居ぬ、ここにいない。猿は去る、ここから去る。雉は帰じ、ここに帰って来ない。という意味があります」
華の説明に、沙織が青ざめる。
「そんな可哀そうな話だったの~私、子供の頃、お母さんによく絵本を読んでもらって、すごく楽しかったのに~!もう私が結婚して、子供が授かった時に、絵本の読み聞かせが出来ないよ~!!」
沙織は、暫く頭を抱えていたが、ふと、ある事に気付いた。
「そう言えば、麻子。さっき、基本的には日本昔話は、子供に聞かせられない話って言っていたけど、他にもあるの?」
「あるぞ」
「かちかち山」
「姥捨て山」
「みちびき地蔵」
麻子が答えた後、優花里、みほ、華という順で、日本昔話の題名を答えた。
「聞きたいか?」
「いえ、結構です・・・」
麻子の言葉に、沙織が首を振る。
「それで、麻子。どうして桃太郎の起源なんか聞きたいの?」
「いや、桃太郎は香川県と岡山県の2つにまたがって、それぞれ伝承されているのだ」
「あ、それは知っている。黍団子が岡山県に売られているんだよね。それと香川県には鬼八島がある」
沙織が子供の頃に、おじいちゃんやおばあちゃんに聞いた事がある話を言った。
「それに、香川県には鬼八島だけでは無く、犬、猿、雉の地名があるんだよね。それに、鬼がいないという意味の、鬼無という地名もある」
みほが、つぶやく。
「それで、ガイドさん。どっちが起源なんだ?」
麻子が、バスガイドの2人に聞く。
「そ、それは、ですね・・・」
「それは、その・・・」
香川県担当のバスガイドと、岡山県担当のバスガイドが、言葉に詰まる。
「もちろん、それは!」
「当然ながら!」
2人のバスガイドが、同時に言う。
「香川です!」
「岡山です!」
見事に、2つに分かれた。
「桃太郎は岡山県です。物語のキーになるのは黍団子です。黍団子と言えば岡山!反論は認めません!」
「それは、認めます。でも、考えてみてください。鬼退治という危険極まりない旅に、我が子同然の子供を送り出すのですよ。親としては、普段は口に出来ないような、珍しい食べ物を持たせてあげたいと思うでしょう!それに、桃太郎の鬼退治の時の装束を、思い出してください。大鎧ですよ!地方とはいえ、相当に身分の高い裕福な家でもなければ、あんなものを一式、用意するのは無理です。だったら、香川では珍しい黍団子も、岡山からお取り寄せする事くらい、造作も無いです。それに黍団子がポピュラーな食べ物である岡山県なら、1つや2つの黍団子くらいで、犬、猿、雉が簡単に家来になる訳無いでしょう!現実的に考えても!」
2人のバスガイドは、「グヌㇴㇴㇴ~!!」という感じで、睨みあっている。
「ど・・・どうするの・・・」
「・・・不毛な争いだな・・・」
険悪な雲行きに、沙織は顔を青褪めさせ、その原因を作った麻子は、シレッとつぶやいた。
こういった、ご当地論争は色々とあるが、鬼退治伝説は日本各地に残っている。
実際、もしも鬼退治伝説が残っている地域が、うちこそが桃太郎伝説の発祥の地であると主張すれば、それこそ邪馬台国は、何処か・・・?というレベルの論争にもなりかねない。
「は・・・ははは・・・」
「これは、止めた方が・・・」
「そうですね。でも・・・何を言っても、収まりが付かないのでは無いのでしょうか・・・」
オロオロしている沙織と、我関せずとばかりに、ジュースを飲んでいる麻子を代わる代わる眺めながら、別次元で不毛な言葉の応酬をしているバスガイドたちを、いかに落ち着かせて、本来の軌道に戻すか・・・
苦笑を浮かべて肩を竦めている、みほ。
何とかしようと打開策を考えている、優花里。
このまま、双方が共倒れになるまで、放っておくしか無いと、諦観している華。
・・・三者三様で、あった。
「ちょっと!!貴女たち!!何を、呑気にじゃれ合っているのよ!!!」
バスの車内に、聞き覚えのある鋭い声が響く。
「「「!!?」」」
全員が振り返ると、バスの後部の通路に腰に両手を当てた姿勢のプラウダ高校の卒業生であるカチューシャが、仁王立ちで傲然と立っていた。
「カチューシャさん!?」
バッチリと、大洗の制服でキメているカチューシャを、全員が目を丸くして呆然とした視線を集中させた。
「決まっているでしょう。ミホーシャを、救出に来たのよ!!」
「えっ!?えっ!?ええっ!!?」
突然の、カチューシャの言葉に、みほは、目を白黒させる。
当のカチューシャは、「えっへん!」とばかりに、両手を腰に当てて胸を反らしている。
「救出・・・とは、どういう事なのでしょうか?」
華が、一同を代表して聞く。
「ミホーシャが、文科省の陰謀で、無理やり政略結婚をさせられるって、情報が入ったからよ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あの・・・その情報は、一体どこから・・・?」
もう、嫌な予感しかしない・・・
「聖グロリアーナからよ・・・私は、西住家元と前隊長に確認をするので待って欲しいと言ったのだけれど・・・」
多分、カチューシャと同じく後部座席の影に隠れていたのだろう。
大洗の制服に身を包んだ逸見エリカが、申し訳なさそうに姿を現した。
・・・多分、カチューシャに無理やり付き合わされた・・・そんな、所だろう。
本当なら、カチューシャとエリカが大洗の制服を着て、バスに乗り込んでいるというのは、すごい問題なのだろうが・・・
ここに至っては、誰もそれを指摘しない。
カチューシャの発言の方が、重大事であったからだ。
「エリカさん。聖グロリアーナからの情報って・・・?」
聖グロリアーナで、情報収集を担当していたアッサムは、ダージリンと同じく、卒業後はイギリスへ留学する予定だと聞いている。
アッサムにしては、あまりにも稚拙で杜撰な情報収集だ。
「聖グロリアーナ現隊長のローズヒップさんから、各校に緊急連絡として通達が来たのよ・・・」
みほの問いに、エリカは困り果てた表情で答える。
その表情から、エリカは必死でカチューシャの説得を試みたのは、想像に難くない。
が・・・
「沙織!!」
「私のせいじゃ、ないもん!!」
これでもう何度目だろうか・・・
またまた同じ説明を繰り返りながら、みほは遠い目になった。
そして・・・
「それじゃあ何?大洗の生徒会広報係が、独断と偏見から捏造した偽情報を、新聞部に流して、新聞部は、何の裏付けも取らずに、そのまま記事にしたというのが真相って、訳?」
みほの説明を聞いたカチューシャは、こめかみに怒りマークを浮かべて、沙織を睨みつける。
「・・・傍迷惑な話ね。誤報かどうかも確認せずに、情報を流してきた聖グロリアーナも、悪いけれど・・・」
腕組みをしながらエリカも、ため息を付いている。
「・・・ごめんなさい」
沙織は、シュンとなって項垂れている。
「カチューシャさん、エリカさん。本当にごめんなさい」
みほは、2人に頭を下げる。
「シベリア送りね!サーシャ(沙織)には、春休み期間中は、ウチの母校の校庭の草むしりを、1人でやってもらう。それで、許してあげるわ。粛清をされないだけ、ありがたいと思うのね!」
「そんなぁ!これから、紫外線も強くなるのに!日の当たる校庭で草むしりを何日もしていたら日焼けしちゃう!」
傲然と、無慈悲な判決を下すカチューシャに、沙織はベソを掻く。
「沙織さん、私も手伝います」
「みぽり~ん・・・」
「西住隊長が、草むしりをされるなら、私たちも!!」
またまた、どこかで聞いたような同じ会話が続く。
「うんうん。ウチの学校の結束力は最高だねぇ。感心、感心」
杏が、干し芋をかじりながら、頷く。
「ですが・・・このままでは、厄介な事になりそうです。至急、事実の情報と謝罪を各校に送ります」
問題が、大洗だけでは済まなくなりそうな事に、華は一抹の不安を覚える。