ガールズ&パンツァー みほのお見合い大作戦   作:ジャーマンポテト

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第8章 知波単の西と乃木大将

「はい!日本原駐屯地に、到着しました!」

 

 岡山県担当のバスガイドが、マイクを持って叫ぶ。

 

「では、足元に気を付けて降りて下さ~い」

 

 岡山担当のバスガイドの注意事項に従い、大洗女子学園戦車道受講生及び卒業生たちプラスその他は、バスから降りる。

 

 目的地は日本原演習場であるが、同演習場を管理しているのは日本原駐屯地であるため、まず、駐屯地に出向き、陸上自衛隊が管理しているバスに乗車して、演習場に出向く手筈である。

 

「ようこそ日本原駐屯地へ」

 

 大洗女子学園戦車道受講生及び卒業生たちプラスその他が、バスから降りて整列すると、迷彩服を着た年配の自衛官が、簡単に挨拶をした。

 

「手厚い歓迎ありがとうございます。司令」

 

 亜美が挙手の敬礼をして、年配の自衛官に挨拶する。

 

「おお!あの方の階級は、1等陸佐ですよ!駐屯地司令自らが、出迎えの挨拶をするなんて!感激ですぅ~!!」

 

 優花里が、涙を流しながら絶叫する。

 

「戦車は、無いのね」

 

 沙織が、キョロキョロしながら、つぶやく。

 

「こんなところに戦車がある訳が無いだろう」

 

 麻子が、呆れる。

 

「ですが、自衛隊の施設にいるのですから、戦車を拝見したいです」

 

 華が、残念そうにつぶやく。

 

「それは無理かな」

 

 みほが苦笑しながら、答える。

 

「みぽりん。どうして?」

 

「自衛隊の施設ですから、自衛隊が使っている戦車が、あるのでは?」

 

「そうだよ。確か・・・10式戦車だっけ、前に蝶野教官が乗って来た戦車が、ズラリと並んでいるんでしょう?」

 

「沙織。私たちが見た10式戦車は、かなりレアだったんだぞ。それは、秋山さんに聞くのが早いか」

 

 麻子が、優花里に顔を向ける。

 

「お任せ下さい!」

 

 優花里の中の何かに、火がついた。

 

「蝶野教官が乗る10式戦車は、北海道を除くと、富士教導団と九州に配備されているだけでして、それ以外の本州や四国には、10式戦車どころか戦車すら配備されていません」

 

「そうなの。自衛隊なのに?」

 

 沙織が驚く。

 

「代わりにですが・・・装輪戦車とも表現すべき、16式機動戦闘車が配備された、第13偵察戦闘大隊があります」

 

「ヒトロク式キドウセントウ・・・」

 

 沙織が優花里の言った事を復唱するが、復唱出来ない。

 

「秋山さん。あれか?」

 

 麻子が気付き、指を指す。

 

「そうです!あれが16式機動戦闘車です!」

 

 優花里が、はしゃぐ。

 

 麻子が指を指す方向に、8輪の戦車が2輌走行している。

 

「あれ戦車じゃん!」

 

「戦車とも呼べますが・・・高火力を有する快速戦車ですね」

 

 華が、つぶやく。

 

「基本的には、戦車よりも機動戦闘車が、陸上自衛隊の主力です」

 

「でも、ゆかりん。前に言った時は、自衛隊は戦車が主力だったじゃ無いの?」

 

 沙織が聞く。

 

「そうなのですが、防衛省の新規防衛計画や戦車の運用コスト等が高騰し、戦車を削減する方向に行くようになったんです」

 

「学園艦でも統廃校されていますが、自衛隊でも同じ話があるのですね・・・」

 

 華が、つぶやく。

 

「それに日本国土じゃあ、戦車の運用は難しんだよね」

 

 みほが、口を挟む。

 

「確かにな。日本は北海道を除くと、山や川が多いからな。戦車対戦車というのは極めて難しいだろう・・・」

 

 麻子が、うなずく。

 

「ですから、旧陸軍の戦車は、そう言った地形で戦えるように設計されていましたから、どうしても、旧ソ連やドイツのような戦車が運用されなかったのです」

 

 優花里が、うんうんと頷きながら、説明する。

 

「あんなの戦車じゃな~い!!」

 

 沙織が、叫ぶ。

 

「だって、この戦車の雑誌に74式戦車が、日本国陸上自衛隊の主力戦車だって書いてあったもん!74式戦車を、見たかった~!!」

 

「沙織。お前の場合、74式戦車では無く、74式戦車と一緒に写っていたイケメンが・・・だろう?」

 

 麻子の指摘に、沙織がギクッとした。

 

「それに74式戦車でしたら、香川での観光の時に善通寺駐屯地の乃木記念館を見学した時に展示されていた物を、見たではありませんか?」

 

 華が、指摘する。

 

「あの時は、ゆかりんと歴女チームが、第11師団長・・・の、の、何とかって言う偉い人の話で、盛り上げっていて、落ち着いて見れなかったんだもん!」

 

「乃木希典だよ」

 

 みほが、指摘した。

 

「そう、その人。何をした人だっけ?」

 

「ちょっと、武部殿!!私の話を聞いていなかったんですか!?」

 

 優花里が、叫ぶ。

 

「ごめんね、ゆかりん。あまりにも74式戦車が見たかったら、それを邪魔されて、話を聞き流してた・・・」

 

 沙織が、手を合わせる。

 

「あははは・・・」

 

 みほが、苦笑する。

 

「うふふふ」

 

 華も、苦笑する。

 

「・・・・・・」

 

 麻子が、眠そうな顔をする。

 

「むむっ?その様子では・・・みなさん、私の話を聞き流していましたね!」

 

 優花里が、3人に迫る。

 

「ごめんね、ゆかりさん。乃木希典さんの事は、説明されなくても知っていたから・・・」

 

「私はお腹が空いて、それどころではありませんでした」

 

「私は、寝る前に読む小説の中に、乃木希典について書いて物語があったから、ある程度には知っていた」

 

 みほ、華、麻子がそれぞれ答える。

 

「それで、その人は何をした人なの?ゆかりん、今度は真剣に聞くから、教えて」

 

 沙織の言葉に、優花里が微妙な顔をする。

 

「それは、いいですけど。武部殿、何か勘違いしていませんか?」

 

「だって、歴史に残る名将でしょう。きっと、すごいイケメンだったのよ!」

 

「沙織!お前は、歴史上の登場人物を、自分好みの花色に染めるな!!」

 

「それに乃木希典さんは、すごい人では無いですよ」

 

「どちらかと言うと、可哀そうな人かな・・・」

 

 華の言葉に、みほが捕捉をする。

 

「どちらかと言うと、運の無い人だ」

 

「「「それだ!」」」

 

 みほ、華、優花里が麻子の捕捉に同調する。

 

「「「それは私たちのセリフ!(おりょうのみ、それは私たちのセリフぜよ!)」」」

 

 側で聞いていたカバさんチームが、速攻で突っ込む。

 

「結局、どんな人なの?」

 

 沙織が、首を傾げる。

 

「説明します。乃木希典陸軍大将は、現在の山口県である長州藩の生まれです。第2次長州征討に従軍し、武功を挙げます。陸軍少佐の時に西南戦争に従軍し、不覚にも聯隊旗を奪われます。その後、日露戦争に第三軍の司令官として従軍しますが、3度の要塞攻略がことごとく失敗し、1万5000名の将兵を、戦死させるのです」

 

 優花里は、かなり簡単に説明した。

 

「何それ!不運とか言う問題じゃないじゃん!」

 

「まあ、聯隊旗を奪われたのは不覚だったが、日露戦争の旅順攻略で1万5000人の将兵を戦死させたのは、仕方の無い事だ」

 

「どうしてよ?」

 

 麻子の言葉に、沙織が噛みつく。

 

「当時の要塞攻略の常識は、強固な要塞に歩兵を突撃させて、いっきに瓦解させるのが基本だった。ロシアは、当時、まだ評価試験段階中だった機関銃を大量に配備し、防衛戦を実施しただけだ。単に運が悪かった。それだけだ」

 

「それに、多分だけど、他の誰が司令官でも、同じ結果だったと思う・・・」

 

 みほが、捕捉する。

 

 

 

 

「乃木希典陸軍大将ですか!!?」

 

 後ろから声がしたので、みほたちが振り返る。

 

「お久しぶりです。西住隊長殿!」

 

「お久しぶりであります!」

 

 知波単学園戦車道の隊長である西絹代と、参謀役の福田が一礼する。

 

「西さん!」

 

「福ちゃん!」

 

 みほと、典子の声が重なる。

 

「磯部典子殿。副隊長就任おめでとうございます!」

 

 福田が、祝福する。

 

「ありがとう。福ちゃん!」

 

 典子は、少し照れるのであった。

 

「西住隊長殿。乃木希典陸軍大将の話をしていたようですが・・・」

 

「そうなの。乃木希典って言う人は、不運とか言う問題じゃ無いって話をしていたの」

 

 沙織の言葉に、西が反応する。

 

「武部殿。それは、いけません!」

 

「え!?」

 

 西の言葉に、沙織が驚く。

 

「乃木希典陸軍大将は、突貫の神様です!」

 

 西が熱く語り出す。

 

「強固な近代要塞に対して、西洋の記者から昔ながらの突撃戦法では勝算が無いと言われる中、乃木大将は、要塞の強固な部分に突貫いたしました。しかし、結果は残念ながら、敗退です。しかし、乃木大将は、旅順要塞の詳細な地図を作成し、どこが一番弱いか、それを確認しました。そして、かの有名な二百三高地の攻略を決定するのです。諦めず、何度も何度も突貫し、見事!二百三高地を攻略したのです。さらに、旅順要塞そのものを攻略する事に成功するのです!」

 

 西の熱い説明に、沙織が、やや引き気味に聞く。

 

「でも、少し考えたら、もっとうまく行く方法があったかも・・・」

 

「それは、ないかな」

 

「ないな」

 

「ないです」

 

「ないですね」

 

 みほ、麻子、優花里、華という順で、沙織の言葉を否定した。

 

「どうしてよ?」

 

 沙織が聞くと、西が答えた。

 

「それは、時間が無かったのです!」

 

「時間?」

 

「はい。大日本帝国海軍は、バルチック艦隊が現れる事を恐れて、陸軍に強く要望するのです。そのため、乃木大将指揮の第三軍は、まともな偵察をする事が出来ず、攻略を強要されるのです」

 

「何それ!?そんなの上層部が、悪いんじゃん!」

 

 沙織の言葉に、西が頷く。

 

「そうなのです」

 

「偵察がいかに重要か、当時の陸軍の人たちは、わからなかったの・・・」

 

 沙織も、みほの戦術を近くで見ているだけではなく、通信手という事もあり、他のチームとの戦況を把握する事がいかに重要か知っている。

 

 当然、偵察の重要性も承知している。

 

「ところで西住隊長殿」

 

「何でしょう?」

 

 西が、神妙な表情で、みほに視線を向ける。

 

「無理やりに結婚させられる。というのは、本当ですか?」

 

「はい?」

 

「おい、沙織!」

 

「私、悪くないもん!と言うか、もう知波単までに、話が流れているの!?」

 

 沙織が、叫ぶ。

 

「聖グロリーナ経由で大洗の新聞が私たちの手元に届きました。この情報は本当ですか?」

 

「え~と、一部は本当で、一部が間違いだね・・・」

 

 みほが、西の勢いに引きながら答える。

 

「間違いですか!?どのような部分が、間違いなのでしょうか?」

 

「それは・・・」

 

 みほが、西に詳しく説明する。

 

「なるほど!ほとんどは武部殿が流した、デマという事ですか!」

 

「みぽりん!どういう説明をしたの!?名誉棄損よ!」

 

「え、普通に説明したけど・・・」

 

 沙織が、すごい剣幕でみほに迫る。

 

「沙織。すべてお前が悪い!」

 

 麻子が、沙織の首根っこを掴む。

 

 

 

 

 ぎゃあぎゃあ叫ぶ沙織を、麻子に任せたみほは、西がここにいる理由を聞いた。

 

「西さん。どうして、ここに?」

 

「それはですね!明日に開かれる天満流選抜チームと陸上自衛隊中部方面隊選抜チームの試合を見学させていただけるという事で、日本原駐屯地に訪れたのであります!」

 

 西が、挙手の敬礼をする。

 

「おおぅ!!そうですか!!」

 

 優花里が、はしゃぐ。

 

「中部方面隊選抜チームは、旧日本軍の戦車が、主流ですからね」

 

「そうなんです。我が知波単が所有する九七式中戦車新旧だけでは無く、九五式軽戦車、さらに、八九式中戦車まで取り揃えているのです!」

 

「八九も、ですか!?」

 

 典子が、反応する。

 

「はい、中部方面隊選抜チームは、旧日本軍の中戦車や軽戦車を主力にしていますから、八九式中戦車も存在します。因みに北部方面隊選抜チームは、M4シリーズのシャーマン戦車やM26[チャーフィー]が主力で、東北方面隊選抜チームは、ソ連製戦車。東部方面隊選抜チームは、ドイツ戦車。西部方面隊選抜チームは、イタリア戦車が主力です」

 

 優花里が、捕捉する。

 

「私が実家にいた時は、よくお母さんに連れられて、東部方面隊の試合を良く見に行ったかな」

 

 みほが、昔を思い出すように、つぶやいた。

 

「でも、自衛隊だから、私たちみたいに男子戦車道と戦車道に、区分されていないよね」

 

 いつの間にか、落ち着いた沙織が優花里に質問する。

 

「沙織。お前は、自衛隊の月刊誌にも目を通しているのに、そんな事も知らないのか?必ず、書いているぞ!」

 

「だって~イケメンが、すごくカッコイイだもん!」

 

 沙織の言葉に、麻子がやれやれと肩を竦める。

 

「雑誌だけを見ていれば、戦車道のために研究しているのかと思いますけど、沙織さんだと、まったく違うと認識しますね・・・」

 

 華が、ため息まじりにつぶやく。

 

「いいでしょう、華!私は女子高に通っているから、全然出会いがないんだもん!イケメンばかりが写っている雑誌に、溺れてもいいじゃない!」

 

 沙織が、開き直るように言った。

 

「遠くから見ていたが、やっぱり賑やかだな・・・」

 

 若い男の声がした。

 

「あ!」

 

 みほが、声を上げる。

 

「虎次郎お兄ちゃん!」

 

 みほが、手を振る。

 

「久しぶりだな。みほ」

 

 虎次郎が、片手を挙げる。

 

「お兄ちゃんも元気そうだね」

 

「は、初めまして、みぽ・・・みほさんの友達の、武部沙織です!」

 

 沙織が、いかにも自分をアピールするかのように自己紹介する。

 

「初めまして、秋山優花里です」

 

 優花里が、頭を下げる。

 

「五十鈴華です。以降、お見知りおきを」

 

 華が、上品な挨拶をする。

 

「冷泉麻子」

 

 麻子が、頭を下げる。

 

「いつも従妹が、世話になっている」

 

 虎次郎が、頭を下げる。

 

「従妹?」

 

 沙織が、反応する。

 

「うん。虎次郎お兄ちゃんは、私の従兄なの」

 

「聞いてないよ!みぽりん!どうして、教えてくれなかったの!?」

 

 沙織が、みほに迫る。

 

「この間、みほさんの実家でアルバムを見ていた時に、説明してもらったはずだが・・・イケメンに夢中で、まったく聞いていなかったな・・・」

 

 麻子が、ボソッとつぶやく。

 

「あっ!お兄ちゃん、お土産!」

 

 取り敢えず、沙織は放っておくしか無く、場の空気を変えるために、みほは、紙袋に入ったお土産を、虎次郎に手渡す。

 

「ん?また、ムカデ?」

 

「違います!!」

 

 虎次郎の言葉に、みほが叫ぶ。

 

「何々、ムカデ?何それ?」

 

「ムカデですか?それは何でしょう!?」

 

 沙織と西が、反応する。

 

「このパターンは、もしかして・・・」

 

 みほは、大洗女子学園戦車道受講生及び卒業生たちに顔を向ける。

 

 みんな、獲物を見つけた、オオカミの目だった。

 

「・・・・・」

 

 あっ、やっぱり・・・そう心中で、みほはつぶやいた。




 お読みいただきありがとうございました。
 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
 次回の投稿は来年の2021年2月末ぐらいを予定しています。

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