笹の葉の少女は幸せを願う   作:日々草

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笹の葉の少女は眠れないし、休めない

「とにかく!話をしたいので、落ち着いて話をしましょう!煉獄さんも善逸も伊之助も大人しくしてください!」

「だが.......!」

「大人しくしてください!!さっきから何度もこのやり取りをして先が進みませんので!このやり取りをしてから結構時間が経っていますよ!」

「煉獄さん!とりあえず、今は話を聞きましょう。」

「...うむ....。」

 

 

禰豆子が炭治郎のところに行ってから、私は煉獄さん達と話をしようと思ったが、煉獄さんが二人のところに行こうとするので、それを止めていてまだ何も話せないでいた。私が必死に煉獄さんの腕を掴んだ状態で二人のところに行かないように説得していたけど、煉獄さんはなかなか聞き入れず、善逸にもせめて話を聞いてからの方がいいと言われ、納得はいっていない様子だが、渋々話を聞いてくれるそうだ。

 

 

「.....はあ...。やっと話ができる。じゃあ、今の状況とこうなってしまった経緯を説明しますね。」

 

 

私は善逸達に説明し始めた。善逸達が血鬼術にかかっていたこと....前世で鬼の血鬼術のことは知っていたが、血鬼術にかからなかったことで鬼が何をしてくるか分からなかったので、私達も血鬼術にかかっていたこと.....しかし、予想外なこと(私がすぐに目覚めてしまったことは私にも分からないし、話さないことにして言葉を濁した)が色々と起きてしまい、計画を変更させてまだ列車との融合が不完全な状態の鬼と戦ったのだが、鬼は列車との融合が不完全の状態で乗客全員を攻撃すると言ったこと.....乗客を守るためには私達だけでは無理なので、禰豆子の血鬼術で善逸達を起こしたことなど、状況をなるべく早く理解してもらうためにできる限り手短に話した。

 

 

「.....うむ。状況は理解した。」

 

 

煉獄さんは私の話を聞いてそう言った。

 

良かった....。煉獄さんは状況把握力が高いことは原作で知っていたけど、私の説明をいち早く理解するのは流石ですね.....。おかげ様で早く動けそうだ。

 

 

「それでは...。」

「この列車の乗客は皆助けるが、その前に竈門少年に一言謝罪したい!」

 

 

........はい?....煉獄さんは何を言っているのですか?......いや、煉獄さんならそうなるか....。煉獄さんだもんね.....。というか、煉獄さんが謝罪したいということは...やっぱり前世のあの時のことだよね....。ということは煉獄さんもあの時、あそこにいたんだね...。あの話を聞いた時、その場にいた人物の名前とかそういうのは詳しく聞かされていなかったから、誰がその場にいたのかは分からないんだよね......。炭治郎の知っている前世が原作と違うのは確かだから、煉獄さんのように本来死んでいた人が生きていることはありそう.....いや、確実にあるね。しのぶさんもそれらしき動作があったわ....。那田蜘蛛山で会った時は色々ありすぎて動揺していたから気づかなかったけど.....よくよく思い出してみたらそうだったよ....。今のところ分かる、前世の件でいた鬼殺隊の人達の中で確実にそこにいたのは善逸と伊之助、カナヲ、しのぶさん、煉獄さん、あと冨岡さんもかな。

 

 

「煉獄さん...。すみませんが、それはまだやめていただきたいです。炭治郎も禰豆子もまだ感情の整理がつかないので。......善逸と伊之助は禰豆子の様子を見て分かっているよね、どういうことなのか。」

「.....うん...。....禰豆子ちゃんは俺達のことを許せないんだよね。きっと炭治郎も......。」

「うん.....。」

 

 

私は煉獄さんの頼みを断り、納得していない様子の煉獄さんを見て、どう言えば煉獄さんが納得してくれるのかと考えていると、暗い表情をしている善逸と伊之助に気づき、聞くのが申し訳ないと思いながらも話しかけた。善逸は下を向いたままそう言い、私は本当に申し訳ない気持ちになりながらも頷いた。

 

 

善逸も伊之助も禰豆子に威嚇されて、痛いほど現実を実感したんだと思う。炭治郎と禰豆子にしたことから考えて許してもらえるとは思っていなかっただろうが、実際に見てみると、結構ショックが大きかったらしい。

 

 

「分かっていたよ、俺達も....。俺達が炭治郎と禰豆子ちゃんにしたことを考えれば...けど.....。」

「だからこそ、俺は竈門少年に謝りたい!」

「謝りたいのは分かりますが、今は止めてください!」

 

 

善逸と伊之助が落ち込むなか、煉獄さんが再び炭治郎と禰豆子のところに向かおうとして、私は必死に止める。

 

 

もう!伊之助だって大人しくしているのに、どうして煉獄さんは何度も炭治郎達のところに行こうとするの!今、鬼が乗客の人達を襲おうとしていることを話したよね!自分の責務を全うしてくださいよ!こうなったら...もう正直に.....。

 

 

「あのですね!この際、はっきりと申し上げますね!謝りたいというお気持ちは分かりますが、炭治郎は対人恐怖症と心的外傷という精神の病気にかかっています。人との交流で強い不安や緊張を感じてしまったり、手足や声が震えたり、息苦しさを感じたりなどの生活に支障が出る等のさまざまな症状が表れる状態の炭治郎に、その原因となった貴方達が真正面で会ったら、確実に炭治郎が倒れてしまいます!以前、鬼殺隊の人と会った時に息ができなくなって、抑制剤を飲むまで落ち着かなかったことがあります。ですので、今は炭治郎に会わすことはできません!謝りたいからと言っても、肝心の炭治郎に倒れられたら意味がないでしょう!貴方達もそれは望んでいないでしょう。」

 

 

私は善逸と伊之助に悪いなと思いながら正直にはっきりと言った。

 

この話を聞いたら善逸と伊之助がまた自身のことを責めるのは分かっていたが、煉獄さんが炭治郎達に会って謝りたいと私達と離れてすぐに炭治郎達のところに真っ直ぐに行きそうなので、ここは止めないと。今の炭治郎に煉獄さんは刺激が強すぎる。炭治郎に倒れられることは煉獄さんも善逸達も誰もそんなことを望んでいないよね。私だって炭治郎も煉獄さん達も両方が苦しむところを見たくない。

 

 

私の言葉に善逸と伊之助がまたつらそうな顔をした。煉獄さんも言い返す言葉もないのか無言だった。

 

やっぱり善逸と伊之助は自身のことを責めているよね....ずっと......。鼓屋敷であった時にもしかしたらと思ってはいたけど、ずっと後悔しているよね.....。善逸も...伊之助も....ずっと前世のことを引きずっている.....。....それはカナヲやしのぶさんに冨岡さんも...煉獄さんも同じ。.....だからこそ皆、炭治郎と禰豆子に謝りたいと思っている。謝罪の言葉では許されないようなことをしたと分かっていても....。それでも、煉獄さんは謝るために行動しているし、善逸も伊之助も主だって行動していないが、二人のことを気にしているし、心の中では今すぐにでも二人のところに行って頭を下げたいはずだ。しかし、善逸と伊之助は...特に伊之助に関しては煉獄さんのように行動に出そうだが、それらしき素振りを見せない。それはきっと....私の話や禰豆子の様子......それらから感じる音や気配で分かってしまうのだろう。となると、善逸や伊之助は煉獄さんよりもつらいのかもしれない。今のところは私が引き止めていたこともあって、炭治郎には直接会ったことはなかったけど、さっきの禰豆子の様子や私が話したことが嘘ではないということがはっきりと分かってしまっているから、煉獄さんのように行動できない.....。........そのショックは私の想像よりも大きいのかもしれない。でも、今は後悔したり自分を責めていたりしている暇はないんだよね...。そろそろ鬼の方も動いてきそうだよね....というか、嫌な予感が......。

 

 

私がそんなことを考えていた時、列車が少し揺れた。私が嫌な予感がして周りを見渡すと、列車の壁や床から触手のようなものが出ていた。

 

やっぱり!もう時間が!ゆっくり話している場合じゃなかった!

 

 

「とにかく!今はショックを受けたり自分を責めたりするのは後にしてください!私情を優先している場合じゃありません!今は眠っている乗客の人達を守る方を優先してください!」

「うむ。それは分かっている.......。」

「もう!分かっているなら、すぐに行動してくださいよ!貴方達、鬼殺隊なんでしょう!それなら今、まずは何をするべきなのか分かっているはずです!今、この列車の乗客全員が鬼に襲われています!私情で行動するよりも自分の責務の方を先に全うしてください!」

「うむ.....。」

 

 

私はもう時間がないと焦り、煉獄さん達にそう大声で言った。いや、そこまで大声で言う気はなかった。突然大声で言ったことか、または私の言葉に驚いたのかは知らないが、煉獄さんは先程よりも目を開けたまま固まり、善逸と伊之助は無言で互いや周りを見たり、動かない煉獄さんを心配して見ていたりしていた。

 

 

「....あの......。...煉獄さん?」

「うむ!承知した!」

「ひゃあっ!?」

 

 

私も少し心配になって煉獄さんに一歩近づくと、煉獄さんが急に首だけ私の方を向いて大声を出し、私は突然のことに驚いてしまった。

 

 

「水野少女!」

「少し近くなりましたが違います。生野です。」

「確かに!君の言う通り、今はそれどころではなさそうだ!鬼殺隊隊の柱たるもの、乗客全員の安全を優先する!俺は後ろの五つの車両を守る!黄色い少年と猪頭少年は一両ずつ、水野少女は竈門少年達と一緒に残りの一両を守りつつ鬼の頸を斬ってくれ!本当ならあの鬼と戦った経験のある竈門少年と猪頭少年を行かせたいのだが....君の話によると、今の竈門少年は猪頭少年と会うことはできないようだな!なら、代わりに竈門少年と連携がとれそうな君に動いてもらおうと思っている!」

「......分かりました。但し、勝手に別の行動をするのだけは止めてくださいね。うっかり炭治郎と禰豆子と鉢合わせしたら、二人とも鬼どころじゃなくなりますから。」

「....承知した!」

 

 

煉獄さんが私のことを呼ぶが、私は名前が違うのですぐに訂正する。しかし、煉獄さんは聞こえていなかったのかどうかは知らないがそのまま話を続ける。まあ、その話の内容は今後の動きだった。私達の方もその動きは都合が良いので問題はない。私はもう名前を間違えていることは無視し、伝えたいことを話した。煉獄さんは少し悩んでいたが、承諾してくれた。こんな状況だからこそ、それは控えてくださいね。

 

 

「では...私は行きますので、煉獄さん達は先程話し合った通りに動いてください。」

「ああ!」

 

 

私は煉獄さん達に一言かけた後、炭治郎達のいる車両に向かった。前から三列目の車両に着くと、ちょうど禰豆子が乗客を守っていて、その前の車両でも炭治郎が刀を振って乗客を守っていた。

 

 

「炭治郎!禰豆子!ごめんね!説得するのに思ったよりも遅くなっちゃって!」

 

 

私も周辺に出ていた鬼の触手を粗方斬った後、炭治郎と禰豆子に声をかけた。

 

 

「彩花!無事か!何ともないのか!」

「大丈夫?怪我は、ない?」

「う、うん。大丈夫だよ。初めから話をつけるだけって言ってたでしょ。何も起きないよ。」

 

 

私を見て、炭治郎と禰豆子が近づいて肩を揺さぶったり、大丈夫なのか、怪我はしていないかと声をかけたりなど、心配してくれた。

 

 

ただ話をするだけなのだから、そこまで心配しなくても大丈夫だと思うけど....。.....でも、ここまで警戒されているとなると、炭治郎と禰豆子を鬼殺隊の人達を会わせるのはまだ早いね。禰豆子の威嚇行動から察していたが...やっぱり......もう少し落ち着くまで待ってもらわないと.....。

 

 

「それよりも、しっかり話はつけておいたから大丈夫だよ。乗客は一番前の車両以外は煉獄さん達が守ってくれるらしいから、私達は一番前の車両を守りながら鬼の頸を斬ろう。あっちも今は乗客を守る方が優先だと分かっているから、決められたことは守ってくれると思う。」

「........本当に信じても大丈夫なのか?」

「.......どっちにしろ...今は早く鬼の頸を斬って、この状況をなんとかした方がいいと思う。だから、今は信じるか信じないかよりも鬼の頸を斬ってこの危機を乗り越えることだけを意識しよう。」

「.....そうだな。」

 

 

私は本題に入ろうと炭治郎と禰豆子にそう話すが、炭治郎が煉獄さん達を疑ってしまい、本当に鬼の頸を斬りに行っていいか悩んでいるので、私はそれに本当に全く信用されてないなと思いながら苦笑いを浮かべたままそう言い、炭治郎も禰豆子も乗客の安全のためなら仕方ないと渋々納得してくれた。こういうのを見ると、私は複雑なんだよね...。

 

 

「あんまり時間をかけず、尚且つ早く終わるように二手に分かれよう。鬼の頸を斬るのは前回その鬼の頸を斬ったことがある炭治郎と何故か血鬼術が効かない私、乗客の人達を守るのは禰豆子。この二つに分かれようと思うけど.....いいかな?」

「うん。大丈夫。早く終わらせて、ここから離れたい。」

「彩花と禰豆子がいいなら。それに、俺もこの列車から早く離れたい。」

「あー。うん。そう....だよね...。」

 

 

私はこの後の行動について話し、炭治郎と禰豆子に異論がないか聞くと、禰豆子も炭治郎も早く終わらせたいからと了承してくれた。

 

 

炭治郎も禰豆子もそんなに煉獄さん達と離れたいのか.....。....煉獄さん達、今は絶対に会わない方が良いと思いますよ......。

 

 

「それなら、これで決定ね。炭治郎、先を急ごう。禰豆子、乗客の人達をお願いね。」

「分かった。禰豆子、頼んだぞ!」

「任せて!」

 

 

私達は話した通りに二手に分かれて、一番前にある列車を操縦している場所に向かった。魘夢の血鬼術が効かなかった私が前に出て操縦室の扉を開く。

 

 

「き、君達...。一体、なんだ....!」

 

 

列車を動かしているであろう機械の前に立つ運転手さんが震えながら突然入ってきた私達にそう言った。

 

 

......あっ。この人、確か原作では.....魘夢の命令で乗客の人達を眠らす手伝いをして....この場所で伊之助を刺そうとして、それを庇って炭治郎が刺されたんだ。.....この運転手さん、すぐに眠らせて別の場所に逃した方が良さそうだな...。後々攻撃してくる相手もそのまま放置していたら原作のようになりそうだし、すぐに眠らせてそのままにするのも気になって戦いの方に集中できないから、魘夢の攻撃が届かないところに避難させないと....。

 

 

「...すみません。」

「ゔっ!?」

 

 

私は謝りながら懐から吹き矢を取り出し、睡眠薬の入った注射型の矢を中に詰め、運転手さんの首元にそれを吹いて当てた。運転手さんは薬の効果ですぐに眠り、床に倒れた。私は運転手さんが眠ったのを確認して、さっさと隣の車両まで運び(私は大人を持ち上げられる力はないが、炭治郎に手伝ってもらうと炭治郎が過呼吸を起こしそうになるので駄目だし、禰豆子は乗客を守っていて手伝えないので、引きずって運んだ)、座席に座らせた。これで、この運転手さんは原作のように人を刺すことは無くなったね。

 

 

「禰豆子。この運転手さんもお願いね。」

「うん。分かった。」

 

 

私は運転手さんを運び終えた後、禰豆子に一言かけ、禰豆子が頷いたのを確認し、炭治郎のところに戻った。炭治郎は狐面をつけて刀を構えていた。前世の経験から判断したのだろう。原作では伊之助が猪の被り物をいたおかげで、伊之助は魘夢の強制昏倒睡眠・眼にかからないで済んだのだ。それはどういうことかというと、魘夢の強制昏倒睡眠・眼という血鬼術は鬼の眼と対象者の眼が合った時、眠りに落とすというもので、伊之助は猪の被り物をしていたことで視線が読みにくく、伊之助と眼と合わすことができなかったのだ。それで血鬼術にもかからなかった。それなら、狐面でも伊之助の猪の被り物と同じような効果が見られるだろう。とにかく、これで炭治郎が夢の中で何度も自分自身の首を斬って死ぬことはなくなるだろう。それは良かった。何故か効かなかったけど、私も狐面をつけよう。ここなら狐面が飛ばされる心配はないし、次は効いてしまうかもしれないし。

 

 

「炭治郎。運転手さんは隣の車両に移したから、これで心配しないで心置きなく戦えるよ。」

「...そうだな。ありがとう。」

 

 

私も刀を抜きながら炭治郎の隣に立ち、炭治郎は前に集中していてこっちを見なかったが、お礼を言ってくれた。

 

いや。こっちも安心したよ。炭治郎にまた苦しい思いをさせなくて。ただでさえ、今の炭治郎は前世の記憶で対人恐怖症と心的外傷で精神的に色々とヤバいのに、さらに精神的苦痛を増やしたら......。....それはなんとしてでも避けないと!せっかく少しずつ回復してきたのだから。

 

 

「それで、確かこの辺りなんだよね?」

「ああ。この下が鬼の頸だ。ただ、列車と同化しているから頸は大きいし硬い。それに、鬼の肉の部分が大きくなって広がっていくから厄介だ。だから、一人が肉を斬り、もう一人が骨を斬らないといけない。」

「それなら、私が肉の部分を斬るから、炭治郎は骨を斬って。狐面をしているからといって、もしかしたら血鬼術にかかってしまうかもしれないからね。私は何故かあの血鬼術は効かないみたいだし、目を合わしても大丈夫だから、私が先陣を切るよ。」

「分かった。それじゃあ、頼むよ。」

 

 

私は目の前のことに集中することにし、原作の知識があるとはいえ、一応炭治郎に確認すると、炭治郎は頷きながら説明してくれた。炭治郎の説明を聞いて原作と同じだなと思いながら、私は自分が肉の部分を斬って炭治郎に骨の部分を斬らせることにした。狐面をしていても炭治郎が絶対に血鬼術にかからないとは言えないからね。私は何度も血鬼術を使われても効かなかったので。炭治郎も納得してくれたので、私と炭治郎は同時に前に出た。

 

 

「水の呼吸 捌ノ型 滝壺」

 

 

まず初めに私が車両の床の部分を斬り、そこから鬼の肉体が見えた。鬼は頸の部分が顕になったことに焦り、肉体がどんどん大きくなって広がり、触手のような形になって襲いかかってきた。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

それを見て、私はすぐにその触手の部分を斬り、そのまま盛り上がってきた肉体の部分も斬った。斬る直前に肉体の部分から複数の眼が現れ、私はそれを見てしまったが、やはり血鬼術にはかからなかった。私はそれにやっぱり効かないんだね、.....けど、なんで?と疑問に思いながらも今は目の前のことに集中することにして、上に盛り上がって私達に襲いかかってくる触手を斬り続ける。しかし、途中から血鬼術を使うのを止めて触手を増やし始めた。私に血鬼術が効かないので、こっちを優先したようだ。触手の数がますます多くなり、私と炭治郎に襲いかかってきた。私はそれをなんとか斬ったり防いだりしているが、次から次に再生していくので、なかなか前に進めない。

 

 

「炭治郎!一点に集中して進むから、私の後ろについて来て!」

「分かった!」

 

 

私はこのままだとキリがないと思い、炭治郎の前に出て触手を斬りながら進んだ。

 

 

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

私は触手の根元に辿り着き、日車で触手を根元から斬った。何故日車を使ったのかって?日車で斬られたものは痛みがない。それなら、今、この触手が根元から斬られてもすぐには気づかない。その隙に....。

 

 

「水の呼吸 捌ノ型 滝壺」

 

 

私は再び水の呼吸に切り替えて鬼の肉体の部分を斬った。すると、斬った場所から骨が見えた。どうやら先程の一撃で骨を守っていた肉の部分を全部斬ることができたようだ。

 

 

「炭治郎!」

 

 

私は骨が見えたのを確認してすぐに後ろを振り向き、炭治郎に声をかけた。炭治郎は私の言葉に頷くと、刀を大きく振り上げた。その時、横からまた触手が生え、炭治郎に襲いかかろうとしている。

 

 

「悪いけど、炭治郎の邪魔をしないでね。」

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「ヒノカミ神楽 碧羅の天」

 

 

私は炭治郎に襲いかかろうとする触手をすぐに斬り、炭治郎は原作で見たものと同じ型で鬼の骨を斬った。それと同時に、乗っていた車両が半分に分かれた。

 

 

「お、終わったの?」

「あ、ああ。終わった...が.......。」

「ギャ、ギャアアアアアアアアアアっ!!?」

 

 

私は列車の様子を見ながら炭治郎に聞いてみると、炭治郎は頷いて何かを教えようとしたが、魘夢の悲鳴で掻き消された。

 

 

まあ、大体の話は私も原作で知ってはいるけど、やっぱりこれは........。

 

私は耳を塞ぎながら後ろの車両を見た。鬼の肉の部分が膨れ上がり、列車を呑み込んでいく。そして、列車がその重みに耐えられず、横に傾いていく。私は咄嗟に近くのものにしがみついた。炭治郎も手すりのようなものを掴み、衝撃に備えた。列車はだんだん横になり、重力が横にかかっていき、横転して地面を真横になった状態で滑っていく。私と炭治郎は横転した衝撃で掴んでいたものから手を離してしまったらしく、私と炭治郎の体は宙に浮いた。

 

 

....いや、これはまずい!結構高く上がっちゃったから、着地するのが難しい!というより、衝撃でバランスが崩れちゃって.....ああ!ぶつかる!!

 

 

「うぐっ!?痛っ!?」

 

 

私は上手く着地できそうもなかったので咄嗟に受け身を取ったが、地面に思いっきり打ってメチャクチャ痛かったうえに、勢いが結構あったのかそのまま数十メートルくらい転がった。そのせいで体の節々を打って少し痛い。漸く私の体が止まり、辺りが静かになったことに気づき、横になったまま列車に視線を向けた。見えたのは、私が原作で見た光景と同じものだった。列車は派手に横転しているが、乗客は全員無事そうだ。鬼の肉体のぶよぶよとしたものが良い感じにクッションになったのと煉獄さんのおかげだろう。原作でも煉獄さんが技をいっぱい使っていたと書いてあったからね。煉獄さんを起こしておいて良かった。

 

 

「...あっ。あの運転手さんも無事みたい。良かった。原作では列車に足が挟まっていたけど、怪我はなさそうね。」

 

 

私は車両から出てくる人達を見ていると、その中から運転手さんの姿を見つけた。運転手さんは怪我をしている様子がなかったので、私はそれに安堵した。

 

 

原作では炭治郎の腹を刺して、列車が横転した後は列車に足が挟まった。でも、こっちは私が早く眠らせて隣の車両に運んだから、炭治郎を刺していないし、運転手さんは列車に足が挟まってない。まあ、運転手さんが殺人未遂と大怪我をしなくてよかったよ。あの後、武器になりそうなものもこっそり抜いて隠しておいたし。

 

 

「彩花!大丈夫か?怪我をしているのか?」

「痛い痛い?」

 

 

私が乗客達の様子を見ている間に、炭治郎と禰豆子が私の近くまで来ていた。きっと、いつまでも倒れている私のことを心配してくれたのだろう。というか、炭治郎は全然大丈夫そう。無事に着地できたのか、このくらいの痛みが全然平気なのかは分からないけど、ただ一つ分かることは私はまだまだ鍛える必要があるということだね。禰豆子は私があの時置いていった背負い箱を持ってきてくれていた。

 

 

「大丈夫だよ。ただ、着地の時にバランスを崩して咄嗟に受け身をとったのだけど、地面に体を思いっきり打ったみたいで体が少し痛いだけ。大した怪我はしてないから、あと少し休んだら大丈夫。あと、背負い箱を持ってきてくれてありがとうね。禰豆子。」

 

 

私は炭治郎と禰豆子にそう言った。実を言うと、途中から背負い箱を禰豆子に預けていたことを忘れていたよ。禰豆子、預けたままでごめんね。持ってきてくれて本当に助かりました。体の方は思いっきり打ったけど、骨は折れていない。せいぜい打撲ができたかどうかくらいだろう。だから、少し休めば動けそうだと思ったので、もう少しだけ休みたかったんだけど......そう思ったのはどうやら失敗だったみたいね....。

 

 

「炭治郎!」

「健八郎!」

「「「!?」」」

 

 

二つの聞き覚えのある声が聞こえ、炭治郎の体が震え始め、禰豆子の額から青筋が立ち、勢いよく後ろを振り向いた。地面に寝っ転がっている今の私には炭治郎と禰豆子で隠れて見えない。だが、あの聞き覚えのある二つの声と炭治郎と禰豆子の様子でその二つの声が誰なのかすぐに分かった。

 

 

私はなんとか両腕を動かし、上半身を少し起き上がらせた。そして、息切れしながらもこっちを見ている善逸と伊之助の姿を見つけた。

 

やっぱり善逸と伊之助だったか.....。まあ、いつかはこの日が来るとは思っていたよ。私がやっていたのはその時を先延ばしにすることだったのは分かっていた。でも、だからこそ炭治郎の心傷が癒えるまでなんとか少しまでその時を延ばそうと思っていた。...だけど、遂に会ってしまった....。まだ炭治郎の心傷も癒えてないというのに...。....ゆっくりしている場合じゃなかった。

 

 

私は炭治郎と禰豆子の様子を見た。炭治郎の体は震えているし、息を荒くなっているし、汗も凄く地面に何滴か垂れている。対人恐怖症と心的外傷の両方が出ているね、これは。禰豆子は鬼の血相で善逸と伊之助の方を睨み、一歩ずつ歩いている。けど、私の体はこんな状況なのに動くことができない。動こうとすると、先程の着地の失敗での痛みが原因で体中が痛い。早く炭治郎を落ち着かせて精神安定剤を飲まさないと.....そして、一刻も早く禰豆子を止めないと!だから、お願いだから動いてよ、私の体!善逸も伊之助も動いていない今のうちに.......。

 

 

「竈門少年!大丈夫か!凄い汗だぞ!」

 

 

私がそんなことを考えていると、煉獄さんがこっちに来た。

 

いや、貴方達のせいだよ!どうして来たの!できれば空気を読んでよ!...って、煉獄さんに言っても無理か.....。だけど、この状況をどうしよう?炭治郎はさらに顔を真っ青にしているし、禰豆子は善逸と伊之助から視線を逸らして煉獄さんの方を睨んでいるし.......そんな状況で普通に近づいてくる煉獄さんはもはや流石としか言いようがない。あー!本当なら今すぐにでも近づいてくる煉獄さんを止めに行きたい!

 

 

「ヴヴッ!!」

「禰豆子!駄目!!」

 

 

炭治郎との距離があと数メートルとなったところで、とうとう禰豆子が我慢できなかったらしく、煉獄さんに飛びかかろうとした。私が大声で禰豆子を止めようとするが、禰豆子の方が早く行動し、上に高く飛び、煉獄さんに向けて攻撃しようと爪を伸ばしたその時、

 

 

 

ドオーン!!!

 

 

 

突然地面に勢いよく何かが落ちたような音が聞こえた。私達はその音が聞こえた方を向き、警戒した。煉獄さんに飛びかかろうとした禰豆子も今はそれを止め、いつでも攻撃できるように構えていた。煙で何も見えないので何者なのかは分からないが、私には分かった。いや、見覚えがあった。横転した列車、その後の展開.....間違いない。

 

 

「上弦の...参?」

 

 

煙が晴れ、何かが....いや、その鬼の姿がはっきりと見えた。紅梅色の短髪に細身な筋肉質な少年や青年くらいの背丈で、顔を含めた全身に蒼色の線状の文様が入っていて、足と手の指先は同じ色で染まっている、右目に上弦、左目に参と刻まれている鬼、猗窩座の姿があった。

 

 

........えっ!?やはり原作通りに来るのですか!?今のところ、私の存在と互いの関係が複雑し過ぎることを除くと原作とはあんまり変わっていない気がするが、それよりも気になることがある。炭治郎達の言う前世では猗窩座は現れていなかったみたいだけど、今回は現れた。もう原作とは全く違うものになっているのに、猗窩座は現れた。....一体何が違うのかな?炭治郎達の前世と今回で.....何が.......。...今考えても仕方ないか.....。それよりもまずはこの状況をなんとかしないと....。

 

......だけど、一つ感謝しないといけないことはあるね.....。猗窩座さん....。できれば来てほしくなかったけれども、タイミング的には最高でした。お陰様で今にも煉獄さんに襲いかかろうとしていた禰豆子を止めてくれたのですから助かりました。

 

 

私は禰豆子の暴走が止まったので、ありがとうございますと敵とはいえ猗窩座に心の中で感謝した。この後、猗窩座が襲ってくる可能性は高いが、助かったのは事実ですからね。心の中でお礼くらいはして良いですよね?

 

 

 

 

 


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