笹の葉の少女は幸せを願う   作:日々草

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笹の葉の少女はやれることをやる

「...炭治郎。大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫だ。」

 

 

私は猗窩座の登場の衝撃で遥か上の強さによる威圧で体が震えそうになりながらもなんとか体を動かせるようになり、すぐに炭治郎に声をかけて背中を摩った。それと同時に、炭治郎に精神安定剤(緊急事態なので、水がなくても飲めるタイプのもの)を渡した。炭治郎はそれを飲み込み、すぐに立ち上がった。炭治郎は大丈夫だと言っているが、声が少し震えている。けど、呼吸がだんだんと一定のリズムに落ち着き出している。猗窩座の登場で煉獄さん達の気がこっちに逸れたのと精神安定剤が効き始めているのだろう。このまま戦っても大丈夫そうだ。

 

 

「あんまり無理はしないでね。」

「分かっているよ。そう言う彩花こそ大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。私は軽く着地に失敗しただけだから。」

 

 

私が炭治郎の心配をしていると、炭治郎は大丈夫だと答えた後、私の心配をした。私も猗窩座が現れた衝撃のせいか痛みが治まって体を動かせるようになったので、全然大丈夫ですよ。時間が結構経っていて自然に回復したのか、あるいは命の危機を感じたか(もしかしたら病は気からということなのかもしれないが......。)、それ以外に何があったのかは分からない。少し背中辺りが痛いけど、普通に体を動かして起き上がることができた。

 

 

「お前、鬼にならないか?なかなかの闘気だ。」

 

 

猗窩座はそう言って炭治郎を誘った。

 

 

「いや、俺は鬼にならない。」

「そうか....。お前も素晴らしい闘気だな。鬼狩りの柱か?お前は鬼にならないか?」

 

 

炭治郎はきっぱりと断った。炭治郎に断られた猗窩座は次に煉獄さんに声をかけ、勧誘し始めた。

 

本来ならこんなことを言うべきではないが.....今は猗窩座さんに本当に感謝しますよ。炭治郎も私も....煉獄さん達も助かりました。

 

私は煉獄さんにも勧誘を断られている猗窩座の様子を見て、そんな場違いなことを思いながら背負い箱を背負った。

 

 

「炭治郎は戦って。私は炭治郎の手助けしながら乗客の人達がここから離れられるようにする。禰豆子も乗客の人達を誘導するのを手伝って。」

「分かった。」

「うん。」

 

 

私は煉獄さんと猗窩座が話しているのを見計らって、炭治郎と禰豆子に声をかけた。乗客の人達がここから見えるところにいるのを寝っ転がっていた時に確認していたので、そこからすぐに離れさせることを私は優先することにした。ただ、炭治郎が乗客の人達を誘導できるかどうか...。炭治郎は鬼殺隊の人達が主なトラウマの対象で、一般の人達は少し話ができるくらいなら大丈夫なのだが、大勢と話をすることになると駄目だ。特に囲まれる状況になると、その瞬間に過呼吸が起こり始める。でも、炭治郎が猗窩座と戦うことになるとその戦いに入ってきそうな人達がいるけど、乗客の人達の誘導よりもその方がまだマシかな.....。とりあえず炭治郎は猗窩座と戦い、私と禰豆子は乗客の人達を猗窩座から離れるように誘導することにした。

 

本当なら煉獄さん達の話も聞いて話し合いたいところだけど、今はそれどころじゃないんだよね。

 

 

今の私が上弦の参である猗窩座に勝てるわけ.....いや、そもそも戦いになるかどうかすら分からない。私があの戦いに入っても足手まといなだけだ。炭治郎には精神的につらいだろうが、今は少し耐えてもらおう。原作の無限城編で炭治郎が猗窩座に勝っていたことを知っているのもあるから、猗窩座と戦って死ぬことはないと思っている。煉獄さん達と連携できれば生存率も上がると思うが.....今の炭治郎達に連携を求めることは無理だと思う。けど、一人で戦うよりはマシだからね。

 

私はそう思いながら乗客の人達を誘導している状態のまま炭治郎達に視線を向けた。

 

 

「ヒノカミ神楽 円舞」

「破壊殺 脚式 冠先割」

「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」

 

 

炭治郎が刀を振り、猗窩座が脚で相殺したところを煉獄さんが猗窩座の右手を斬る。一見、炭治郎達が猗窩座を追い詰めているように見えるが、それは全く違う。

 

 

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」

「獣の呼吸 弍ノ牙 切り裂き」

「!?....ヒノカミ神楽 幻日紅」

「...炎の呼吸 弍ノ型 昇り炎天」

 

 

......ほら。炭治郎は善逸達の攻撃が猗窩座に向けられているにも関わらず、善逸達が近づくとすぐに離れ、煉獄さん達もそんな炭治郎に遠慮しながら戦っているような感じだ。そのせいで炭治郎も煉獄さん達も戦いに集中できていない。今のところは二度目の記憶のおかげか互角に戦えているが、それがどこまで続くか分からない。鬼とは違って、人間には体力に限界があるから。

 

 

「破壊殺 乱式 鬼芯八重芯」

「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」

 

 

それに、そんなギスギスとした状況で乗客の人達を守るのは難しいというか.....無理だと思う。だって、猗窩座の攻撃を煉獄さんが防いでくれているけど...あっ、こっちに一発来ましたよ。普段の煉獄さんならこんなミスはしないと思うが、やっぱり炭治郎のことを気にしてしまうみたい。気にしないように動こうとしているけど....これは無意識ね。炭治郎も煉獄さん達も猗窩座と戦っているこの状況でも互いを警戒して意識してしまっている。それが原因でだんだんと.......。さっきの言葉は訂正しておこう。互角じゃなくて、こっちが不利だ。ちなみに、こっちに飛んできた一発は私が防いでおきました。乗客の人達に当たってしまいそうだったので。...ただ、流石は上弦の参の攻撃。防いだ時にこっちが吹き飛ばされそうになった。

 

 

「これで、全員。避難、した。」

「分かった。乗客の人達を全員避難させることができたし、藤の花のお守りは持たせておいたし....そろそろあっちに加勢しよう。」

「うん。」

 

 

私が炭治郎達の様子を見ている間に乗客の人達の避難が終わったらしく、禰豆子が報告してきた。私はそれを聞いて頷いた後、炭治郎達に加勢しようと言い、禰豆子と一緒に炭治郎達が戦っている方に向かった。ちなみに、乗客の人達に藤の花のお守りを渡したのは他の鬼が襲って来ないようにするためだ。ここはもう原作と話が全く違うので、念には念を入れておいた方がいいだろうからね。

 

そういえば、どうして禰豆子を乗客の人達の避難の手伝いをさせたのかって?だって、猗窩座が来るまで煉獄さん達に威嚇していたんだよ。まあ、流石に戦いに私情は持ち込まないとは思うけど、煉獄さん達を巻き込んだ攻撃とかしそうなんだもん。だから、放置する方が色々と不安だったので、乗客の人達の避難の方を任せたんだよね。

 

 

「破壊殺 脚式 流閃群光」

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「えい。」

 

 

私は猗窩座の攻撃をすぐに刀で防ぎ、禰豆子は猗窩座に向かって脚を振り上げるも避けられてしまった。

 

 

「彩花!禰豆子!」

「乗客の人達全員、安全なところに避難させたよ。ここからは私も禰豆子も手助けするから、みんなでこの状況をなんとかしよう!」

「......ああ。」

 

 

私と禰豆子が来たのを見て、炭治郎が驚いた声を上げ、私は乗客の人達を全員避難させたことを報告した。炭治郎はそれに頷きながらも少しほっとしたような表情をした。上弦の参である猗窩座との戦いで気を張っているのもあると思うが、煉獄さん達のことも気にしてしまっているのも原因だね。私と禰豆子が来て、少し肩の力が抜けたからね。

 

...うーん。やっぱり今、仲直りは無理かな。炭治郎もそうだけど、禰豆子も煉獄さん達ごと猗窩座を蹴り飛ばそうとしているし....今は猗窩座をなんとかすることだけに集中しよう。......でも....。

 

 

「炎の呼吸 参ノ型 気炎万象」

「破壊殺 空式」

 

 

煉獄さんと猗窩座の戦いが激しくて入るのが難しいんだよね。原作はこれをかなりゆっくりにしたものだったんだね。今の私にはあの動きについて行けるか微妙だから、飛んできた攻撃を受け止めるか弾くかするしかできない。ただ、刀で受け止めたり弾いたりしているので、刀からカタカタという音が聞こえて、刀が折れそうだと心配になる。刀もその後.....刀を折った私自身の末路も......。....私も原作の炭治郎のように鋼鐡塚さんに追いかけられることになるのかな......。いや、これについて考えるのは止めよう。

 

 

「ヒノカミ神楽 烈日紅鏡」

「雷の呼吸 漆ノ型 火雷神」

「獣の呼吸 伍ノ牙 狂い裂き」

「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎」

「破壊殺 滅式」

 

 

二度目の炭治郎達は煉獄さんと猗窩座の動きについて行けるようで、型を出して戦っている。.....なんだか悔しいな...。炭治郎や獪岳にあんなに鍛えてもらったのに、私はまだ炭治郎達と同じ土俵に立てていない。原作の炭治郎もこんな気持ちだったのかな.......。

 

 

「お兄ちゃん!」

「!?」

 

 

突然目の前が砂埃で何も見えなくなり、それと同時に炭治郎や善逸、伊之助が吹き飛ばされてきた。禰豆子はいち早くそれに反応して炭治郎を受け止めた。突然のことで動けなかった私も急いで炭治郎と禰豆子のところに駆け寄った。途中で善逸と伊之助が地面に勢いよく顔から落下して、ぎゃあっ!?とかうおっ!?とかそういう音が聞こえてきたが、心の中で謝って無視した。ごめんね、善逸。伊之助。

 

 

「炭治郎!大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫だ。それよりも......。」

 

 

私は炭治郎に声をかけた。炭治郎は私に返事をしながらも前から視線を逸らさなかった。この砂埃の中、まだ猗窩座はあの中にいるだろうし、油断しては駄目だ。それに、煉獄さんも出てきてない。まだ中にいるはずだ。

 

私達が警戒しているなか、砂埃が晴れていった。そこから見えたのは二人の姿。一人は先程から受けていただろう攻撃の再生をしてピンピンしている猗窩座。もう一人は.....。

 

 

「れ、煉獄さん....!」

 

 

左目が潰れて血を流していながらも立っている煉獄さんの姿だった。私はその姿を見て、原作の場面と重なり焦った。

 

どうしよう。このままだと...煉獄さん、原作のように......。

 

 

私の頭の中でこの先に起こるだろう原作の場面が流れてきた。そして、煉獄さんが原作で見たものと同じ構えをした。

 

そんなの.....駄目!

 

 

「彩花!」

 

 

私は煉獄さんのあの構えを見て、思わず駆け出してしまった。

 

実力の差なんて分かっているのに...。.....でも.........それでも!煉獄さんがこのまま猗窩座に内臓を貫かれるところを黙って見過ごすことなんてできない!炭治郎の聞いた前世のことがあろうと.....原作で知っている煉獄さんではなかろうと....死ぬと分かっててほっとくことなんてできない!たとえ、この人が私の知らない煉獄さんだろうと、私はこの煉獄さんを原作で見たあの場面と同じことになんてさせない!させたくない!

 

 

私がそう思ったと同時に原作で見たあの場面が頭の中に流れてきた。私はそれに驚きながら体に力が湧き上がってくるのを感じた。まるで体が熱を持ち始めたようだった。

 

 

(....!これは.....もしかしたら........!)

 

 

私は頭の中に煉獄さんが先程からずっと使っていた炎の呼吸を思い浮かべた。すると、それに反応するかのように体が勝手に動き始め、頭の中には炎の呼吸の肆ノ型の盛炎のうねりと水の呼吸の陸ノ型のねじれ渦と花の呼吸の肆ノ型の紅花衣が流れてきた。私の刀は真っ赤に染まり、刀に描かれている葉の模様は形を変えて枝のようになり、枝の間から梅の花の模様が出てきて炎を纏った。

 

今は狐面をしているから分からないけど、きっと刀の色からして私の左目は赤色になっているだろう。それに、痣も一緒に出ている。まだ二回しか起きていなかったが、私には分かる。これから使う型は華ノ舞いの三つ目の型だ。

 

 

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

私の体は持っていた刀を回転させ、身体を唸りながら渦を描いた。すると、そこから炎の渦が発生し、猗窩座を呑み込んだ。

 

 

「なっ!?」

「こ、これは!」

 

 

突然発生した炎の渦に猗窩座は驚き、煉獄さんも驚きながらその炎の渦と私を見比べていた。

 

きっと......煉獄さんは私の刀とこの型に驚いているのだろう。何せ私はあまり鬼殺隊の前で刀を抜いたことがないし、煉獄さんの目の前では華ノ舞いの水仙流舞(水の呼吸に似たようなもの)しか使っていなかったからね。刀も青色だったところしか見ていなかったのだから、いきなり赤色に変わったら驚きますよね。....さてと、これは面倒なことになりそう。後で色々と聞かれますよね.....。水仙流舞に関しては狐面から考えて鱗滝さんに教わったと納得できるけど、炎の呼吸に似たこの型は誰から教わったのかとなるよね......。...でも、聞かれても私にも分からないし、その型も水の呼吸や炎の呼吸などの型が頭の中に流れてきて、体が勝手に動き出してから型が分かるとしか言えないんだけど、納得してくれないよね....。本当なんだけど......信じられないよね...。煉獄さんが聞きたそうにしているが、これは答えられません。いや、今は口を動かすことさえできません。どういうことかというと、今の私はまだ体の自由が何故か効かないのです。いつもなら型を出し終わったらすぐに体の自由が戻ってくるはずなんだけど、今は動かそうとしてもピクリとも動かず刀を構えたままの状態だった。おそらくまだ型の続きがあるのだろう.....。先が見えないが、体の自由が効かないので流れに身を任せよう。

 

 

「破壊殺 砕式 万葉閃柳」

 

 

猗窩座が私の作った炎の渦を血鬼術で消し去った瞬間、私の体は勝手に前に飛び出し、炎の衣のような軌跡の斬撃で猗窩座の右腕を斬り、髪の部分を少し掠った。猗窩座は羅針で私の闘気を感じたらしく私に拳を向けたが、私の体は猗窩座の右腕を斬った勢いのまま刀を振り、その斬撃がまるで炎の衣のように私を包んで守り、後ろに下がった。私は無傷で猗窩座から距離を取ることができた。その時、私の体が急に重くなった。これはつまり体の自由が戻ってきたのだ。しかし、私はこのタイミングで体の自由が戻ってきたことに焦った。

 

 

このタイミングで!?体の自由が戻ってきたことは嬉しいが、できれば猗窩座がここから去ってくれるまで保っていてほしかった....。...どうしてかって?それは体の自由が戻ってきた後は体がいつもより重く感じるのだ。少し時間が経てば元に戻るんだけどね.....。....だから.....できれば、この戦いが終わったタイミングの方が良かった。今までは戦いが終わった後のことだったから特に問題はなかったけど...今は上弦の参という凄く強い鬼である猗窩座が目の前にいる(しかも、先程斬った右腕がもうすぐ再生しそうな)状況で体が上手く動かせないのはまずい!非常にヤバい!

 

 

「おい!狐面の女!」

「.....私のことですか?一体、何ですか?」

 

 

私が心の中で焦っていると、猗窩座(まだ再生している途中)から声をかけられた。私はそれに困惑しながらも気持ちを落ち着かせ、冷静に対応しようと返事をした。

 

 

「お前、闘気がよく変わるな。先程の一撃を俺に当てる前はそこまで強い闘気を感じなかった。しかし、あの一撃の時だけは凄まじい闘気だったが、今は再び元の闘気に戻っている。何者だ?」

「それは、私にも分かりませんよ。むしろ、あれに関しては私が聞きたいくらい。」

「そうか...。......それなら.....。」

 

 

いや、私と戦う気なの!?私の言ったことは嘘ではないのですよ!!待ってって!今の私はさっきの反動で体が重いのですけど....!

 

猗窩座の質問に私は正直に答えた。分からないと答えた私に猗窩座は拳を握った。私は相手が敵でも聞き入れてくれるかなと思ったが、やはり聞き入れてくれないようだ。...だけど、それよりも気になることが.....。体の自由が効かない時の私って....やっぱり普段の私より強いのですね!華ノ舞いのこともあって良く動きを観察していたが、普段の私なんかより凄い速くて力強く、そして流れるような動きをしている。だから、体の自由が効かない時が凄く強いのだとは理解していたけど、闘気の変化にも関係してしまうほどだったとは......。

 

 

「破壊殺........。」

「体がまだ重いけど....やるしかない.......。」

 

 

腕を再生し終えた猗窩座が私に向かって拳を握って構え、私も覚悟を決めて刀を構え、猗窩座の攻撃に備えた。その時、

 

 

「!?......朝日か!」

「えっ?....あっ。」

「彩花!」

 

 

猗窩座の左腕が燃え始め、猗窩座も私もそこで初めて朝日が昇ってきたことに気がついた。猗窩座はすぐに森の方に逃げ出し、私も反射的に猗窩座を追おうと必死に体を動かそうとした時、後ろから炭治郎が呼び止めた。

 

 

「深追いは駄目だ!追いかけても反動で体を動かしずらい彩花は追いつけられない。」

「.....分かった。」

 

 

炭治郎の言葉に私はこのまま逃がすことを少し悔みながらも炭治郎達のところに戻ることにした。

 

まあ、今の私では猗窩座と互角に戦えるとは思えないんですけどね...。

 

 

「そろそろここから離れないと.....。...でも、どうするの?このままだと他の鬼殺隊の人達が来ちゃうよ。それに、日が昇ってきたから、兪史郎さんの術も使えないよ。」

「ああ。.....本当なら列車が横転した時に戻る予定だったが、まさかここに猗窩座が来るとは思わなかった。すまない。前世では来なかったはずなんだが....。」

 

 

私は気を取り直して炭治郎にこれからどうやって逃げるかと聞くと、炭治郎は前世では来なかった猗窩座のことを疑問に思いながら悩んでいた。

 

.....ごめん、炭治郎。私、知ってた....。

 

 

私は炭治郎の話を聞いて心の中で謝った。

 

まあ、猗窩座がいきなり来たことはしょうがないよ。原作でも読者としてその話を読んでいた当時の私も予想できなかったのだから。それに、私は原作で知っていたのに、炭治郎の前世の話を聞いて警戒していなかったからね.....。私が炭治郎の前世の話の中で猗窩座がいなくても、原作ではいたのだからと考えていれば.......。

 

 

「兪史郎さんの術は日陰なら使えるはずだ。とりあえず日陰に入ろう。」

「う、うん。」

 

 

炭治郎の言葉で私達は日陰に入ることにした。その時、負傷した煉獄さんの姿が目に入った。煉獄さんは原作のように左目から血を流しているが、私が戦いに介入したことで内臓に腕が刺さっていない。だから、死ぬことはない。左目を怪我させてしまったのは悔やむが、ちゃんと目の前で生きている。......ただ...原作の煉獄さんの姿が重なって、このままで大丈夫なのか、突然死んでしまうということは無いよねと不安になってくる。.....だから.........。

 

 

「炭治郎、先に行ってて。私、まだやり残したことがあるので。後ですぐに追いつくから。」

「彩花!?」

「ごめん。こっちの仕事があるの。」

 

 

私は炭治郎と禰豆子に声をかけて別の方に向かって走り出した。炭治郎の声が聞こえて追いかけてきそうだったので、私は背負い箱を指差しながらそう言うと、炭治郎は納得していない様子だったが、渋々引いてくれたようだった。炭治郎と禰豆子は日陰に着くと、兪史郎さんの札を使って姿を消した。姿を消しただけだから善逸と伊之助なら音と気配で分かってしまうけど、大丈夫だろう。

 

 

「...では、さっさと手当てをしましょう。」

 

 

私はそう言って背負い箱を下ろし、箱の中から薬や布などを取り出した。

 

 

「....何故?」

「......旅を始めるまで薬屋さんをしていたので、怪我した人や体調が悪い人をほっとくことができないのですよ。.....少し染みるかもしれませんが、よろしいですか?」

「うむ!構わん!」

 

 

私は煉獄さんの質問に答えながらも液体の薬を出し、その薬の中に白い小さな布をピンセットで挟んで浸し、布に染み込んだのを確認して取り出した。それを持ったまま煉獄さんに話しかけると、煉獄さんは頷いて開いていた右目を閉じた。私はそれを確認した後、おそるおそる液体の薬が染み込んだ布をゆっくりと血塗れの左目に近づけた。そして、その布で薬を塗っているうちにあることに気づき、手を止めた。

 

 

「...煉獄さん。少し左目を開けてくれませんか?」

「うむ?だが、左目は上弦の参に....「いえ、左目の眼球そのものは潰れていません。確かに血は出ていますが......おそらく直撃は避けられ、掠ったに近いような感じでしょうか。」...なんと!」

「とりあえず左目を少しでも良いから開けてみてください。ただ、視力の方は分かりませんが....。」

 

 

私が煉獄さんに左目を開けてくれるように頼むと、煉獄さんは不思議そうな顔をしたので、今の目の状態を説明した。すると、煉獄さんは驚いたような顔をした。

 

.....まあ、私も血を拭き取って近くで診るまで気がつかなかったけどね...。布から伝わる感触から眼球そのものが潰れていないのは分かった。おそらく原作とは違って炭治郎と善逸と伊之助もいたから、攻撃が掠ったような奇跡の状態で済んだのだろう。だけど、猗窩座の蹴りは掠っただけでも凄い威力だった。その威力だからこそ、目が潰れたと思ったのだろう。でも、それくらいの衝撃ということは掠った状態だとしても.....煉獄さんの左目は.........。

 

 

「うむ....。...何も見えないのだが.......。」

「やはり急性縁内障ですか。あまりに強い衝撃を受けて、眼球の中で内出血が起きてしまったのでしょう。それと同時に、視力低下や対光反射の消失、瞳孔不同などの症状が出て視力を.....「いや、微かだが見える!ボヤけているが見えないことはない!」...ということは、視力が低下しただけということね.....。その程度で済んだのは奇跡だと思いますよ。」

 

 

煉獄さんの何も見えないという声に私はやっぱりと思った。猗窩座の攻撃は掠っても威力は凄くて出血の量も多いから、もしかしたら運が良ければ視力低下になる可能性があるが、確実に何も見えない状態になるのは分かっていた。私が目の症状について説明していると、どうやらボヤけてはいるが、微妙に何か見えることが分かったらしい煉獄さんの声に私は少し驚きながら運が良かったのねと思った。ひょっとしたら、呼吸が何か良い影響を及ぼしたかもね。本当ならもっと酷い出血だったはずなんだけど、呼吸で止血していたので内出血も最低限に抑えることができたのかもしれないね。....それにしても、煉獄さんはこんな状態でもよく顔色が変わらずに大きな声で喋れますね...。

 

 

「そうなのか.....。ところで、視力を元に戻す方法はないのか!」

「そうですね....。私は医者ではないので詳しいことはよく分かりません。ですが、おそらく手術とかが必要になるかもしれません。一応私は薬屋さんなので目薬くらいなら処方できますが、それでよろしいですか?効くかどうかは分かりませんが......。」

 

 

煉獄さんの質問に私は悩みながら答えた。煉獄さんの左目が今、どうなっているのかは私もはっきり分かっていない。前世で興味があって調べたりテレビで見たりしたその話の内容をぼんやりと思い出しているだけなのであって、私には専門的なことはあまりよく分からない。ですので、しのぶさんやちゃんとした医者である人に診てもらって、手術が必要なら受けた方がいいよね。

 

 

「それを頼めるか!」

「分かりました。すぐに用意しますね。..........。」

 

 

煉獄さんの言葉に私は返事をしながら箱から目薬を見つけようと探した。その間に、煉獄さんに他に痛いところがないかと聞いたり、善逸と伊之助にも怪我をしていないかと聞いたりした。幸い、煉獄さんは左目以外に負傷はなく、善逸も伊之助も目立った怪我はなかった。

 

 

「はい。これが目薬です。一日にニ、三回はこれを一滴左目に垂らしてください。もう一度言いますよ。一日にニ、三回ですよ。」

「うむ!承知した!」

 

 

私は目薬を渡して薬についてた説明した。回数が間違えないように念押ししておいた。煉獄さんの元気な返事を聞きながら私は薬や道具等を片づけて背負い箱の中に仕舞い始めた。

 

 

「......生野少女。」

 

 

煉獄さんが突然私の名前を、しかも間違わずに言ったので、私は驚いて手を止めて煉獄さんの方を見た。

 

 

「生野少女は何故俺達のことを気にする?君は竈門少年から話を聞いているのだろう。俺達のやったことを知っていて何故....。」

「.....そうですね。確かに貴方達のやったことはどんな事情であれ許されることとは言えません。ですが、そんな人だからといって、たとえその人が怪我をしていても、それをほっとく理由にならないと私は思いますよ。」

 

 

煉獄さんの話に私は残りの片付けを済ますために手を動かし、真っ直ぐ煉獄さんを見つめて答えた。そんなことを話しているうちに、片付けも終わって箱を閉じた。

 

 

「それに、私は血を見るのがあまり好きではないので、どんな人でも血を流さないでほしいのです。血を流している人がいるなら、見て見ぬふりをしないでそれ以上の血を流させないようにしたい。私はそう思っています。......それでは。」

 

 

私は立ち上がってそう言った後、箱を背負ってからカプセルを投げた。カプセルから煙が出てきた瞬間、私はすぐに回れ右のような感じに向きを変え、手拭いで口と鼻を塞いで森に向かって走り出した。煉獄さんや善逸達の声が聞こえたが、私は無視して走り続ける。

 

 

気づいている人もいると思いますが、私が投げたあのカプセルは鬼殺隊対策専用の気体の薬だ。呼吸を扱う鬼殺隊には相性が良いだろうし、前の試作品が那田蜘蛛山で善逸達やしのぶさんにも通じたので、時間稼ぎができることは分かっていた。あの薬がどれくらいの効果があったのかは分からないが....。そこで、今回はその薬を改良した試作品したものを作った。前よりも薬の効力を上げてすぐに体中に回るようにし、他にも逃げやすくなるように煙の濃さや広がる範囲などもパワーアップしておいた。煙は前よりもしっかりと濃くなっているし、範囲も列車から森までの場所に広がっている。おかげで、私は日陰まで着くことができた。しかし、私は油断しないようにすぐに札をつけ、善逸達から離れようとそのまま走る。善逸と伊之助の耳と勘には私の薬の煙と兪史郎さんの札だけではすぐにバレてしまうだろう。だから、急いで善逸達の耳や感じる気配でも分からないくらい遠くに逃げないと。次回への反省点としてあの薬も善逸達に効果があるかどうかが分かれば良いのだが......今回はどうだったのか全く聞こえなかったので、善逸達の反応が分からない。いや、走る方に集中し過ぎて私が聞いていなかったのかな。.......まあ、今は逃げ切ることだけを考えよう....。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炎柱様、ご無事ですか?」

「うむ!問題がないと言ったらないわけではないが、元気だ!」

「そうですか.....。まあ、特に目立った外傷も無さそうですし、ご無事で何よりです。他の隊士の二人も一般人もどこも怪我してなさそうで良かったです。」

 

 

彩花達がここから去ってすぐ、煉獄達のところに隠の人達が来たようだ。隠の人は煉獄や善逸達、列車に乗っていた乗客の人達全員が無事なのを確認し、一安心していた。

 

 

「うむ!ところで、俺の鎹鴉はどこにいるか知っているか!」

「炎柱様の鎹鴉ですか?それなら、もうそろそろ......「カアカア!」....あっ!いらっしゃいました。」

 

 

煉獄は隠と話してすぐに自身の鎹鴉に探して隠にも聞いた。隠が周りを見渡しながら答えていると、此方に向かって飛んでくる鎹鴉の姿を見つけ、その方を見上げる。

 

 

「うむ!ご苦労だった!早速だが、胡蝶のところで治療を受けた後、すぐに御館様のところに向かうと伝えてほしい!竈門少年や今回会った上弦の鬼についての情報もあるが、生野少女のことも情報共有する必要がある!黄色い少年も猪頭少年も分かるな!」

「は、はい!あの時、彩花ちゃんの音が少し変わったり、刀の色が急に変わったりしたのは気づきました。」

「俺様もあいつの気配が変わったのを感じたぜ!あいつの気配、強くなったり弱くなったり変な奴だったぞ!」

「確かに......水の呼吸を使い、炎の呼吸も使っていた。だが、あの二つの型は俺も見たことがなかった。刀も青色から赤色に変わり、模様まで変わるという事例はなかったはずだ!驚いたな!日輪刀の色や模様を変化させる呼吸とは!今まで見たことも聞いたこともなかった!」

 

 

煉獄は鎹鴉が腕に止まって労った後、すぐに御館様への伝言を伝えた。鎹鴉は煉獄の頼みを聞き、すぐに御館様のところに向かって飛び立った。煉獄は鎹鴉が飛び去っていくのを見届けながら善逸と伊之助に彩花の呼吸や刀のことを聞いた。善逸も伊之助も彩花の刀の色の変化には何かを思うところがあったらしく、煉獄の話に同意した。煉獄は彩花が使っていた呼吸と刀を頭の中に思い浮かべながら今まで一度もなかったそれらについて考えていた。

 

 

御館様なら何か知っていらっしゃるのだろうか...。これは父上にも聞いてみた方が良いな!過去に生野少女のような事例があったかもしれない!他の柱にも話してみるか!生野少女に関して何か情報を得ている可能性がある!それに.......。

 

 

「生野少女のことを調べていたのは、竈門少年達と行動を共にしている人物が誰なのかを知るために情報を集めていたが、今回のことで詳しく調べることになるだろう!...だが、あの少女は悪人ではないだろう!どんな人間でも助けたい、血を流してほしくないという少女だからな!」

 

 

煉獄は今回の件で彩花のことをより詳しく調べることになるのを察していた。そして、彩花が悪い人間ではないということを強く確信していた。善逸も伊之助も彩花のことを音や気配で悪い人間ではないと気づいていたので、煉獄の話に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炭治郎!禰豆子!.....はあはあ。やっと追いついたよ。」

 

 

私は珠世さんの家の前に建っている炭治郎と禰豆子の姿を見つけ、兪史郎さんの術の中に入った後、札を取って話しかけた。

 

 

「彩花!何かされなかったか?」

「うん。ただ煉獄さん達の治療をしただけだよ。私はいざという時にあの薬があるから安心して。それよりも、炭治郎は大丈夫なの?やっぱりまだ薬が必要みたいだったけど。」

「...あ、ああ.......。まだ話すことも顔を見ることもできない。声を聞くだけで体が勝手に震えて、息をするのが難しくなる。彩花の薬で落ち着かせられなかったら、俺は猗窩座と戦うことができなかった....。」

「.........まだ早かったということね......。私が言っていることは炭治郎にとってつらくて嫌なことは分かる.....。...それに、凄く難しいことだと思うけど、少しずつ克服できるように頑張ろう。これから先にああいった状況が起きるかもしれないからね。」

 

 

匂いで私が来ていることが分かっていた炭治郎はすぐに姿を見せた私に話しかけた。私はそれに大丈夫だと言いながら炭治郎のことを心配した。炭治郎はそれに少し視線を下に向けながらその時のことを正直に伝えた。私は炭治郎の話とその様子を見て炭治郎のことを心配し、同時に心の中で炭治郎に謝罪しながらそう言った。

 

 

.....やっぱり、善逸達と再会するのはまだ早かったみたいね....。これは...もう少し時間が必要だよね。.........でも、そんなことを待っている場合じゃないかも....。今回のことで分かった。猗窩座と対決するのに、炭治郎だけでは駄目だった。禰豆子や私がいても、単なる時間稼ぎにしかならない。いや、私の場合は完全なお荷物なんだけどね。私の方もなんとかしないとだけど、こっちの件も重要だ。次から本格的な戦いが始まる。その時は必ず鬼殺隊がそこにいるし、強い鬼との戦いで鬼殺隊の人達と共闘せざるを得ない状況になるかもしれない。炭治郎の前世でのことを考えると滅茶苦茶難しいことを言っているのは分かっているが、これから先のことを考えるとね...。......大変だけど、炭治郎には頑張ってもらわないと。私もできる限りサポートするが、克服するのは炭治郎自身だからね。このまま戦いを続けるとなると、私はもっと実力を上げないとだし、炭治郎は鬼との戦いの最中に鬼殺隊と遭遇しても平然でいる必要がある。

 

 

「私も頑張ってもっと強くなるから、炭治郎も一緒にコツコツと頑張ろう!前向きに!」

「.....そうだな。鬼と戦っている最中に鬼殺隊と遭遇して戦えなくなるのはまずいからな。俺も前向きに頑張ってみるよ!」

 

 

私の言葉に炭治郎も少しは前向きに考えることができたらしく、クスリと笑ってそう言った。

 

私も炭治郎もやらないといけないことが多いからね。....それと.........。

 

 

「禰豆子も鬼殺隊の人達を勝手に襲わないように頑張ろうね。今回の件でそれは止めた方がいいと分かったでしょう。鬼殺隊のことは許せないとしても、鬼との戦いの最中に鬼殺隊と争うのは得策ではないよ。」

「......うん...。」

 

 

私は禰豆子に小声でそう言うと、禰豆子は渋々頷いてくれた。禰豆子も猗窩座との戦いの件で私の言っていることに納得はしてくれているらしい。

 

 

「それぞれやることは多いけど、頑張って乗り越えないとね。私から見ても炭治郎達から見ても、知っている記憶と今まで起きたことに違いがあるでしょう?これから先も前とは何か変わったところがあるかもしれないからね。」

 

 

 

今回は私が色々とやってしまったが、無限列車の件は私の知っている原作の話の方が近かっただろう。今から炭治郎と禰豆子と記憶の擦り合わせをしないとね。炭治郎達の前世との違いが他にもあるか確認しないといけない。これから先、私の知っている原作のようになるか、または炭治郎達の前世のような原作とは違うことになるのか、それとも私も炭治郎達も知らないものになるのかは分からないけど、私達はどんなことが起きても大丈夫なようにしないと。原作の強制力なんてものは発動しないと思うから、誰が生き残るのか誰が亡くなってしまうのかは確定していない。もしそんなものが発動しているなら、炭治郎達の前世は私の知っている原作と同じ結果になるから、炭治郎が死んでしまうこともないはずだ。煉獄さんは今はまだ生きている。今はもう原作とは滅茶苦茶なほど変わっている。炭治郎の前世とも全く違ったものなのは、炭治郎達の様子からしてすぐに分かる。まあ、そもそも私の存在のことを入れるとどっちとも違う話になっているけどね。原作や炭治郎達の前世とは全く違うものになっているからこそ、私達はどんなことが起きようとも大丈夫なように強くならないとね!

 

 

 

 

これから先、全く知らないことが起きようとも、あり得ないと思うことが起きようともね。

 

 

 

 

 

 




華ノ舞い


炎ノ花 紅梅うねり渦

炎を纏いながら刀の回転を速め、身体を捻りながら渦を描き、渦を発生させる。発生させた渦は炎を纏った鋭い刃となって前方にあるものを切り裂いたり、炎を纏った衣のような軌跡で周囲を包むような斬撃にできる。防御などに向いている。



次回の遊郭編は少し時間がかかると思います。気長にお待ちいただければありがたいです。

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