笹の葉の少女は幸せを願う   作:日々草

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笹の葉の少女は看病をする

額の冷たい感覚で俺は目を覚ました。

 

 

「.....こ、ここは...?」

 

 

目が覚めると、見知らぬ天井が見えた。

 

 

どこなんだ、ここは?

 

俺は....あいつから逃げるために走って...視界が揺れて急に真っ暗に........そうだ!禰豆子は!?

 

 

「禰豆子!」

「ひゃあ!?」

 

 

俺が勢いよく起き上がると、後ろを向いてたらしい女の子が驚いて振り返った。

 

誰だ?

 

 

「あっ!良かったー!意識が戻ったのね!」

 

 

笹の葉の羽織を着た女の子から安堵したような匂いがした。

 

この子は誰だ?いや、それより!

 

「禰豆子は!妹は!」

「....大丈夫。今、釜戸の方に.....ほら!」

 

 

その子に聞くと、女の子は俺の後ろを見て笑った。俺が振り向いたと同時に誰かが抱きついた。禰豆子だった。禰豆子からも安堵したような匂いがした。

 

 

「禰豆子、心配かけてごめんな。」

 

 

禰豆子に心配かけてしまったようだ。長男なのに情けない。......?

 

 

「禰豆子。その口の布、どうしたんだ?」

 

 

禰豆子の口元を布で覆っていた。俺が倒れる前はこんなものをつけていなかった。

 

 

「あー。それは私がつけたの。本人の了承をもらってね。鬼にとって藤の花は毒だからね。近くに藤の花があるから、少しでもマシになるようにって思ってつけたの。」

「そ、そうなのか.....!?」

 

 

俺の話を聞いて女の子が代わりに答えてくれた。だが、俺は納得するよりも彼女の言ったことに驚き、警戒した。

 

 

「君は....禰豆子が鬼だって知っているのか!?」

「うん。知ってたけど.......私はそんなこと気にしてないから、普通に接しているよ。」

「俺達をどうするつもりだ!」

「どうするも何も看病してるだけだよ。普通に接しているって言ったのに.......。」

 

 

俺の質問に彼女は普通に答えた。彼女の答えは嘘ではなかった。だが、信用できない。

 

 

「か、看病?」

「うん。だって、倒れている人がいたら助けるに決まっているじゃない。」

「.......そばに妹が.....鬼の妹がいたんだぞ!」

「いや。居ても心配なのは変わらないし......。私には鬼だろうと、あの子が誰かを心配してる人にしか見えなかったよ。」

 

 

彼女の答えに嘘の匂いはしなかった。紛れもない本心のようだ。それに、彼女から優しい匂いがしていた。

 

 

「はいはい!目が覚めたからと言って治ったわけじゃないんだから。ちょっと、寝かせてくれないかな?」

 

 

彼女は手を叩いて話を終わらせ、禰豆子の方を見た。禰豆子は彼女の視線に気づき、分かってるというように彼女を見返した後、俺を強制的に布団に寝かせた。禰豆子は寝ているようにと言うように俺の胸をニ、三度軽く叩き、俺の額に手を当てた。

 

 

「熱はまだある?さっきより熱は下がってる?」

 

 

彼女の質問に禰豆子は頷いた。禰豆子に質問して、禰豆子の様子を見た後、今度は彼女が俺の方に少し近づき、俺の方を観察するように見ていた。

 

 

「体の調子はどう?頭が痛かったりとか吐き気がしたりとかしない?」

「あ、ああ......。大丈夫だ....。」

 

 

彼女は俺を一通り観察した後、俺に質問した。俺は正直に答えた。

 

 

「........疲れが溜まったことによる発熱ね....やっぱり......。服....着物に砂とかが結構ついていたから、余程遠くから来たのでしょ。熱が下がるまで寝てないと駄目よ。」

 

 

少し考えてから彼女は言った。医者なのか......この子は?

 

 

「君は医者なのか?」

「ううん。薬屋さんよ。けど、色々な症状の患者さんと会っているから、そういうことは大体知ってるよ。」

 

 

医者ではないが、病気とかの症状に詳しいようだ。

 

 

「....いつ頃治るのか?」

「...うーん........相当疲れが溜まっていたらしく、高熱だったからね......。何日か寝ている方がいいと思うよ。今動くとまた熱が上がるから、しっかり安静にしてね。ここは山の中で私しかいないから、ゆっくり休めると思うよ。」

 

 

まだ時間がかかるか.......。幸い、ここは山の中のようだ。鬼殺隊が来ることもないだろう......。だが、長くここにいるわけには行かない.....。彼女には悪いが、急いでここを出ないと.......。

 

 

「助けてくれてありがとう。.....えーと....君は?」

「私は彩花。生野彩花よ。貴女達の名前は?その子が禰豆子だって貴方から聞いて知ったけど、まだきちんと聞けていなかったから...。」

「.....俺は竈門炭治郎だ。こっちは妹の禰豆子。」

 

 

とりあえず助けてくれた彼女には感謝した。俺は揺さぶりをかけるつもりで言ったが、彼女は俺達のことを疑いもせずに自身の名前を言った。名前を聞かれて偽名を使おうかと思ったが、禰豆子の名前は知られているし、すぐに出ていくつもりだからと本名を名乗ることにした。

 

 

「あっ!タオルが落ちてる。.....うーん..水もすっかり緩くなってるなー。.......ちょっと水を取り換えてくるね。」

 

 

俺の近くにあったタオルを拾い、彩花はそう言って立ち上がった。目が覚めた時に感じた冷たい感触はあのタオルのものなんだろう......。きっと俺が起きた時に落ちたんだ。

 

 

「炭治郎はしっかり寝ててね。禰豆子、ちゃんと炭治郎のことを見ててよ。」

 

 

彩花はそう言うと、桶を持って外に出て行った。

 

 

「禰豆子。行こうか。」

 

 

俺が体を起こし、そばにいる禰豆子に声をかけると、禰豆子は慌てた様子で俺を布団の上に寝かせようとした。

 

 

「俺は大丈夫だ。それより早くここを出よう。」

 

 

俺が優しくそう言うが、禰豆子は納得していない様子だった。俺は布団から出て着物を整え、近くに置いてあった羽織を着た。

 

大丈夫だ。体は動く。

 

 

禰豆子はまだ納得していない様子で俺の羽織の裾を掴むが、俺は禰豆子の手を引いて外に出た。外はまだ少し暗いが、もう少しで夜が明けそうだ。俺は山を降りようとした時、近くから藤の花の匂いがした。そういえば、彩花が近くに藤の花が咲いていると言っていたなと思いながら匂いのする方を見ると、家の近くにとても綺麗な藤の花が咲いていた。

 

 

「綺麗だな...。禰豆子。」

 

 

俺が禰豆子に聞くと、禰豆子は無言で頷いた。禰豆子の方を見て、彩花が貸してくれた手拭いのことを思い出した。

 

手拭いはどうしようか.....家に置きに行ったら彩花と鉢合わせになるかもしれないからな.......。だが、見ず知らずの俺を助けて、鬼の禰豆子を怖がらずに善意で手拭いを貸してくれた彩花に申し訳ない...。

 

そんなことを考えていると、禰豆子が俺の羽織の裾を引っ張った。

 

 

「禰豆子、どうした?」

 

 

俺が禰豆子に聞くと、禰豆子は藤の花の根元を指差した。禰豆子が指差した方から何か影のようなものが見えた。

 

 

「あれが気になるのか?」

 

 

俺が再び聞くと、禰豆子はまた頷いた。俺も少し気になったから、見に行くことにした。藤の花があるから、俺は禰豆子に待っているように言ったが、禰豆子はどうしても気になるからついて行くと言って聞かなかった。俺と禰豆子が藤の花の根元に近づいてみると......

 

 

「墓?」

「お、は、か?」

 

 

そこにあったのは.......何かを埋めたように土が盛り上がり、木の棒を盛り上がった土の上に刺した簡素な墓だった....。それも二つも。

 

 

「あー!なんで起きてるの!」

 

 

声が聞こえてきたから振り返ると、桶を抱えた彩花がいた。どうやら俺達が藤の花と墓を見ている間に戻って来たようだ。

 

 

「もう!まだ熱があるのに起きたら駄目でしょ!せっかく治ってきているんだから...悪化させちゃうよ!」

 

 

彩花から怒ったような匂いがする。心配してくれるんだな.....。

 

 

「禰豆子も!ちゃんと見ていてって言ったのに....。」

「こ、の、お、はか、は?」

「お墓?」

 

 

彩花は禰豆子にも怒っていたが、禰豆子は墓のことが気になって彩花に聞いた。彩花は一瞬怪訝な表情をしたが、藤の花の根元にある墓を見て納得していた。

 

 

「あー。....その墓は私の両親の墓よ。」

 

 

彩花は少し言いにくそうにしながらも言った。

 

両親の...墓..!......まさか!

 

 

「まさか.......鬼に...「違う。」....!」

 

 

俺は鬼のせいだと思ったが、彩花はすぐに否定した。

 

 

「鬼のせいじゃないよ。私の両親は....五年前、村に流行った伝染病を治すために村に行って、伝染病にかかって亡くなったの...。」

 

 

彩花の両親は....鬼ではなく...病気で亡くなったのか......。

 

 

「か、ぞく、は?」

「いないよ。私には親戚も誰もいなくて、両親が亡くなっても身寄りがなかった。」

 

 

彩花から少し悲しい匂いがした。

 

 

「それから.....彩花は五年間ずっと一人だったのか?」

「うん......。一人で生きていくために薬屋を始めて、この家で五年間ずっと暮らしていた。」

 

 

五年間、一人で.....寂しくなかったのかな.....。俺は家族が全員亡くなったら.......それを考えただけで苦しいのに......。

 

 

 

「寂しくはなかったのか?」

「...寂しかったよ。でも、薬屋で色々な人と交流していたから.....そこまで寂しい思いはしなかったよ。」

「......そうか...。」

 

 

俺の質問に彩花は笑って答えていた。しかし、悲しみの匂いは収まっていなかった。心の奥底ではきっと寂しいんだろう.....。

 

 

「ふじの、はな、きれい、だ、ね。」

「でしょー。私が育てたんだから。」

「彩花が?」

 

 

禰豆子が藤の花のことを言うと、彩花は自慢気な顔をしてそう言った。俺が聞くと、彩花はさっきの自慢気な顔が一転して、藤の花を悲しそうに見つめた。

 

 

「うん。...鬼は藤の花を嫌うって聞いたから、お母さんとお父さんが鬼に食われないように、私がお母さんとお父さんに頼んだの。私はお母さんとお父さんといつまでも幸せに暮らしたかったの。.....だけど、お母さんとお父さんが病気で亡くなるなんて思ってもいなかった。」

 

 

彩花の言葉に俺も禰豆子も黙った。彩花の気持ちは痛いほど分かった。父さんが急に亡くなった時、俺は母さんや妹や弟達がいたから、長男として家族を支えようと思えたが、彩花には両親以外いなかった....。彩花は一人になって.....本当に寂しくて...悲しかったんだ.......。

 

 

「あの時ほど、泣いたことはなかったよ......。でも、まあ.....いつまでもくよくよしている場合じゃなかったから頑張って切り替えて、今はもう立ち直ってるよ。」

 

 

彩花は明るく笑ってるが、俺には少し無理しているように見えた。

 

 

「ふじ、のはな、すき?」

「うん。まあ、好きかなー。花が咲いたら思ったよりも綺麗で、私もお母さんもお父さんも好きだったよ。」

「だから....。」

 

 

禰豆子が俺と彩花を気遣って聞くと、彩花は懐かしむように藤の花と根元にある墓を見つめた。俺も根元にある墓を見つめて、彩花と禰豆子に気づかれないように小声で呟いた。

 

 

「うーん。....それもあるけど......藤の花のそばなら、もし鬼が来ても安心して眠っていられるかなというのもあるの。.....まあ。一番の理由はこの藤の花が綺麗だから、だね。」

 

 

だが、俺の呟いた声が聞こえたらしく、彩花は墓を見つめた後、藤の花に笑いかけた。俺も禰豆子も黙って藤の花を見つめた。

 

 

「....なんか重い空気になっちゃったね...。」

 

 

先に沈黙を破ったのは彩花だった。

 

 

「ごめんね。...って!それよりも炭治郎は熱があるんだから起きてちゃ駄目でしょ!熱、上がってない?」

 

 

彩花は俺の熱のことを思い出し、俺に寝ているように言った。俺も熱があったことを忘れていた。忘れていたくらいだから大丈夫だと思うんだが....そう言いたかったが、彩花が手を伸ばしてきたのを見て、俺は一瞬身構えた。すると、彩花は手を止め、声を上げた。

 

 

「ご、ごめん!禰豆子。炭治郎の熱を測ってくれない?」

 

 

彩花は俺に謝ると、禰豆子に俺の熱を測るように頼んだ。その時、彩花から申し訳なさそうな匂いがした。

 

 

.....そういえば、彩花は俺が起きた時から近づかずに離れていたり、何かあったら禰豆子に頼むようにしていた...。俺の容態を見る時も少しだけ近づくが、それでも距離をとってくれていたのは俺に気を遣って....山の中で俺達以外いないって教えてくれたのも俺を安心させるため......!?彩花は俺が....俺達が人が嫌いだと知っていて......俺達に何かあることも知っていて、助けてくれたんだ.....!

 

 

俺がそう考えている間に、禰豆子が俺の額に手を当て、慌てていた。

 

 

「何!?もしかして、熱が上がってるの!?」

 

 

彩花は禰豆子の様子を見ておかしいと思い、思い当たることを聞くと、禰豆子は頷いた。

 

.....いや、大丈夫だ。今もこうして立っていられるから...。

 

 

「とにかく寝なさい!禰豆子!炭治郎を布団まで運ぶのを手伝って!」

 

 

彩花は俺の考えていることが分かっているらしく、禰豆子に頼むと、禰豆子は俺を抱えて布団に寝かせた。すぐに彩花が持ってきた水でタオルを濡らして絞り、それを禰豆子に渡すと、禰豆子は俺の額にそのタオルを置いた。濡れたタオルがすごく冷たい.......。

 

 

「俺は全然大丈夫だ!」

 

 

俺がそう言うが......

 

 

「全然大丈夫じゃない!いいから寝なさい!」

「だ!め!」

 

 

彩花にも禰豆子にも止められてしまった.....。いつの間にか二人とも息ぴったりだな.......。

 

 

「...だか、俺はそんなに眠くない。むしろ体を動かしておきたい。」

 

 

俺の話を聞くと、彩花はため息を吐いて外に出た。数十秒後、彩花は戻ってきた。手に小さな葉っぱを持って....。

 

 

「その葉っぱは?」

「あー。草笛を吹こうと思って。」

「草笛?」

 

 

彩花の持っている葉っぱについて聞くと、彩花はその葉っぱを折りながらそう言った。

 

 

「幼い頃、お母さんに教わったの。音は大事よ、音で気持ちを落ち着かすことだってできるんだからって、昔、お母さんが言ってたんだ。お母さんとお父さんが亡くなってからも、この草笛はよく吹いているの。眠れないなら、一曲、聞く?」

「......うん。じゃあ、一曲だけ聞こうかな。」

「喜んで。」

 

 

彩花の話を聞き、一曲だけなら聞いてみようかなと思い、彩花に頼むと、彩花は嬉しそうな匂いをさせながら葉を口につけ、草笛を吹き始めた。彩花が吹いた草笛の曲は聞いたことのない曲だったが、とても優しい音が聞こえる曲だった。禰豆子も彩花の草笛の音に聞き惚れて、落ち着いた匂いをさせ、目を瞑って聞いていた。

 

 

曲が終わったと同時に眠気が出てきた。彩花に草笛の感想を伝えたかったが、襖の隙間から漏れる朝日の光が暖かく、心地良い夢の中へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 

「....うん。子守り歌としてもいいかもね。」

 

炭治郎の眠っている様子を見て、私は前向きに考えてそう言った。炭治郎が起きていたら分かるだろう。彩花から少し寂しそうな匂いがすることを......。

 

感想ぐらい聞きたかったな.....。

 

 

「くさ、ぶえ、よかった。」

「ありがとう。」

「なん、て、いう、うた?」

「......うーん...。秘密かな.......。」

 

 

禰豆子は草笛のことを話し始め、私は笑ってそう返した。

 

 

草笛が良かったと褒められるのは純粋に嬉しい。この時代は娯楽も少なかったから、お母さんから教わった草笛を楽しんでいた。お母さんから教わった曲を何度も吹いていたけど、さすがに何度も吹き過ぎて飽きてきて、前世の時に聞いてた曲を記憶の底から引っ張り出して吹くようになった。だけど、禰豆子にどうして言わないのか、言ってもいいじゃんと思うかもしれませんが、さっき吹いたのはその前世の時に聞いてた曲で、しかも『竈門炭治郎のうた』だからね....。何ていう歌って聞かれても答えられないんだよ!まあ。『竈門炭治郎のうた』って草笛で吹けそうだし、ここは鬼滅の刃の世界だからという理由でいっぱい吹いていたから、良かったと言われたことは本当に嬉しい...。何度も何度も繰り返し吹いて、元吹奏楽部の力をフルに使った甲斐があったよ......。

 

 

「夜も明けちゃったし、交代しながら炭治郎の看病しようか。先に私が看病して、禰豆子は寝ている?」

「うん。」

 

 

私がそう提案すると、禰豆子は頷いて炭治郎の隣で寝た。

 

 

「いや、炭治郎の隣で寝たら熱がうつらない?.....って、そもそも鬼って風邪とかひくの?」

 

 

彩花は禰豆子に熱がうつるから止めた方がいいんじゃないって言おうとしたが、そもそも鬼は風邪とかひくのかということに気づき、一人で色々とツッコミを入れていたが、答える人が誰もいないので、黙って炭治郎と禰豆子の寝顔を見ることにした。

 

 

少しは私のことを信じてくれたかな........。炭治郎と禰豆子が安心して寝ているくらいだから、信じてもらえているよね?鬼滅の刃の主人公とヒロインというのもあるけど、久しぶりに家に誰かがいるのもあって、とても嬉しくて仲良くなりたいと思ってる....。炭治郎と禰豆子ともっと仲良くなりたいな.......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、炭治郎が高熱を出し、禰豆子と休まず看病することになるのはまた別の話になる。

 

 

 

 

 

 

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