柱合会議の時から、しばらく経った。カナヲとは機能回復訓練で薬湯をかけられたり、鬼ごっこしたり、相談に乗ったりと色々あった。最近では頑張った甲斐もあり、カナヲと良い感じの勝負になってきた。まだ勝てたことはないんだけどね...。
まあ、それは他にも私の周りが色々と騒がしくなってもきたのも原因だろうけど....鍛練と私の怪我が治ったから、強くなれたのは間違いない。もうすっかり元気になって、健康な状態なのだけど、私はまだ蝶屋敷に滞在していた。私は鬼殺隊に入っているわけではないから、任務をするという選択肢はないし、一応捕まっている人なので、むやみに外に出すこともできない。でも鍛練ができるし、蝶屋敷の手伝いもできる(しかし、おつかいはできない)ので、暇ではない。それに、善逸達と普通に交流はできているし、割と快適な生活を送れているので、特に不満はない。
それと、あまり外に出ることはできないが、義勇さんに会いに行くことだけは特例で許されている。義勇さんが不安定になっているのは御館様も柱も知っているため、見張り付きで水屋敷に行くことは許されている。
まあ、蝶屋敷に留められる理由は分かるので、私は特に文句はない。だけど、流石に外で体を動かさないと健康に悪いし、これからのことを考えて鍛練はしておきたいから、何処までなら外に出ていいのかは聞いて、その範囲内でできる鍛練をしていた。たまに伊之助やカナヲ、柱達と鍛練することになるが、学ぶことが多くていいと思っている。義勇さん同様に何で柱と普通に交流があるのかって?....そんなの決まっているでしょ。本当に一応私は監視対象であるから、見張っておかないといけないんだよね。前世の記憶のことを話しても、私が怪しいのは変わらないからね。
ただ、流石に柱が頻繁に来るのは予想外だったけど...。なんか来る度に苦笑いを浮かべて出迎え始めてきた。
.......もう柱が普通に来ても、動じなくなってきたんだよね....。....ああ、慣れって怖い.....。
まあ、そんなこんなで色々あったが、割と充実な日々を過ごしていた。...だが、現在.....。
「彩花ちゃん!こっちに温泉があるよ!」
「おい、生野彩花。甘露寺が呼んでいるんだ。もたもたするな」
「ははは......。分かっていますよ....」
現在、私は恋柱の甘露寺さんと蛇柱の伊黒さんと一緒に刀鍛冶の里に来ていた。私を呼ぶ甘露寺さんとさっさと甘露寺さんのところに行くように言い私を睨む伊黒さん。私はそれに苦笑いしながら二人の後ろを追いかけた。
何故蝶屋敷にいた私が刀鍛冶の里にいるのか......事は数日前に遡る....。
数日前、私は突然しのぶさんに呼び出された。私がどうしてかと聞くと、しのぶさんが個人的な話ですよと言い、蝶屋敷の和室に連れて行かれ、そこで話を聞いた。
「...御館様からのお願いですか?」
「そうです」
どうやら御館様から私に何か伝えることがあり、しのぶさんが代わりにその伝言を伝えてくれるらしい。だけど、御館様が私に何の用があるのか皆目見当もつかない。
「どうして私に、ですか.....?」
「彩花さんはこの後の戦いについて知っていますよね?」
「まあ、大体の流れは......」
しのぶさんの質問に、私は答えた。この質問って、御館様からの伝言なのか、しのぶさん個人の質問なのかどっちなのかな?.....でも、答えておかないとね。
もうかなり時間が経っているけど、原作の流れは大体覚えている。細かいところは所々抜けているけど、問題はないと思っている。それに、そういう抜けているところは炭治郎達や他の人達に聞けば分かるからね。鬼の特徴と大方の流れを覚えていれば対策は練れるし。
「彩花さんの話と私達の報告から、炭治郎君達が前回の十二鬼月などの強い鬼との戦いの場所に行くことは分かっています。那田蜘蛛山、無限列車、吉原遊郭という順で現れていますので、その次は.......」
「....刀鍛冶の里...です」
「その通りです」
話の流れから刀鍛冶の里のことを話すのではないかと思っていたので、刀鍛冶の里のことが話題に出てもあまり動じなかった。もうそろそろだと思って、私もどう行動する方がいいかと悩んでいたからね......。
「御館様は刀鍛冶の里にも炭治郎君達が現れると考えています」
「うっ....!」
しのぶさんから聞いた御館様の予想に、私は図星をつかれて反応してしまった。炭治郎達と今後の方針について何度も話し合っていたので、私は炭治郎達が次に刀鍛冶の里に行くことを事前に知っていたのだ。炭治郎達は鬼が、特に十二鬼月が出てくるところには向かうことを確定している。禰豆子を人間に戻すためにも、鬼舞辻無惨に近い血を持つ鬼の血を調べる必要があるから、十二鬼月に接触してその血を採取しないといけない。
それにしても...大当たり。大正解です.....。流石は御館様。
「刀鍛冶の里に炭治郎君達が行くにしても、私達もそれを知っていてほっとくことはできません。ですが、隊士が多いと炭治郎君と禰豆子さんの負担になりますし、なるべく人数は少なくしておこうと思っています」
「....賢明なご判断、感謝します」
鬼殺隊側の動きを聞き、私は御館様の判断に感謝した。
鬼が出るのが分かっていて動かないのは炭治郎達のことを考えるとラッキーとは思うけど、鬼殺隊ととしてどうかと言うと動けと思う。......矛盾した考えと思うけど、鬼殺隊は鬼を斬るのが仕事なのだから行くのは当然だものね。むしろ行かない方がサボりみたいなものになるでしょ。....それに、私達が動くからと言っても鬼殺隊は動かなくて大丈夫だという話にはならないのは分かっている。そこら辺は炭治郎達も理解している。
ただその派遣された人数が多いと、炭治郎達の負担になるんだよね。しばらく会っていないけど、まだ炭治郎の精神的には良くないことは分かっているし、禰豆子はその隊士達にキレて上弦の鬼との戦いどころではなくなりそうだもんね。あと...獪岳も......。
何故私が獪岳もと言ったのかというと.....これは私の推測なのですが、獪岳はあまり団体戦に慣れていないのですよね。獪岳の話や私の勝手なイメージからしてなのですけど....獪岳は一匹狼みたいな雰囲気を感じるのです。それに、原作の獪岳は基本である壱ノ型が使えないということで周りとの距離があったようだ。だから、あまり周りと連携することがなさそうなんだよね。
ちなみに、私も多分難しいですね。四、五人くらいなら連携を取れますが、それ以上の人数での戦いの経験はゼロなのですよ。つまり経験不足です。
.....まあそういうわけで、私や炭治郎達が大勢と一緒に戦うのは無理なのです。相手は上弦の鬼二体だから、人数は多い方がいいのですが、肝心の連携がバラバラでは足の引っ張り合いになるだけだものね。
「ただ、それでも炭治郎君と禰豆子さんのことを考えますと、吉原遊郭のようなトラブルが起こるかもしれませんので、彩花さんにも参加してもらうことになりました」
「へっ!?私もですか!?」
「はい。こちらも勝手にいなくなられるのは困りますので」
しのぶさんから出た次の言葉に、私は驚いてしまった。確かに刀鍛冶の里の襲撃がそろそろだなとか、早く炭治郎達と合流したいなあとか思っていたけど、まさかのあちらから行ってもらいますと言われるとは思わなかった。
つまり、行きたい場所に連れて行くから逃げないでねと言っているようなものだよね。色々バレているみたいだけど、行ってもいいのなら行きたい。ううん、行こう。
「........分かりました。確かに炭治郎と禰豆子の身に何かあるのは私も嫌ですし、刀鍛冶の里の戦いのことも気がかりでしたし、参加させていただきます」
「勿論、承諾されると思っていました。それでは、彩花さんは迎えが到着次第、出発していただきます」
「...迎えはやっぱりいますよね.....。....分かりました。......それと、戦いに出るなら...日輪刀や吹き矢などを返していただけるとありがたいのですが........」
私は許可を貰えているようなものだと考え、頷くことにいた。私が頷くことは予想済みだったらしく、その後の行動は早かった。私は迎えという言葉に苦笑いしたが、それよりも私の持ち物を返してほしくて頼んだ。戦いの時に日輪刀は当然だが、もう一つの武器ともいえる鬼の動きを鈍くするための毒を注入する吹き矢とその毒を作るのに必要な道具は欲しい。
「はい、流石に一人では刀鍛冶の里に行くことはできませんから、付き添いの人と一緒に行ってください。それと、日輪刀と吹き矢、道具の入った箱は隠の人達が先に刀鍛冶の里に運んでくれるそうです」
「それなら、大丈夫そうですね。ありがとうございます」
できれば監視されたくないとは思ったが、誰かと一緒に行くのはどうやら決定事項らしい。当然だけど....。...まあ、私の持ち物は全て戻ってくるみたいだし、それだけでもいい方か。それ以上の贅沢はしないでおこう。そう思っていたのだけど.......
「はじめまして。彩花ちゃんだよね。私は甘露寺蜜璃よ。よろしくね」
「.....俺は伊黒小芭内だ」
しのぶさんと話してすぐに、目の前に甘露寺さんと伊黒さんの二人が現れた。
恋柱、甘露寺蜜璃は桜餅の食べすぎで桜色と緑色の長髪を三つ編みにした女性で、常人の八倍の密度の筋肉を備えているという特異体質を持っていて、容姿にそぐわぬ怪力を持っている。
蛇柱、伊黒小芭内は左目が青緑と右目が黄色のオッドアイを持っている。いつも鏑丸という雄の白蛇を連れており、右目がほとんど見えていない伊黒の補助の役目を果たしている。
甘露寺さんはにこにこと笑っているが、逆に伊黒さんは不機嫌そうな顔で私を睨んでいる。私はそれに戸惑った。甘露寺さんはまだ良い。炭治郎に刀鍛冶の里の襲撃の話は既に聞いている。刀鍛冶の里では前回も原作も甘露寺さんが上弦の肆と戦ったから、前回での経験を活かして今回の戦いで勝つためにだろう。
....問題は伊黒さんの方なのだよね。伊黒さんは前回も原作も刀鍛冶の里にはいなかった。...まあ、伊黒さんの心境を考えると納得がいくのだけどね......。前回では勝てたとはいえ、甘露寺さんが上弦の肆と戦うことを知っていても、それを見て見ぬフリなんてできないもんね。自分の好きな人が戦っているのに、自分は何もしないのは嫌だろうし。それを御館様は知っていて、このメンバーに入れたのだろう。それに万が一のことを考えて、柱を一人追加する方が被害を最小限にできる....。
「.....は、はじめまして。生野彩花と申します。よろしくお願いします」
私は甘露寺さんと伊黒さんを見て、すぐにそのことを察したが、戸惑った。予想外のことが起きたことで内心凄く驚いたが、それでも挨拶はした。
全員が逆行していることから原作崩壊が起きても可笑しくないのは分かっている。ただ....これだけは言っていいかな...。どうしてこうも簡単にポンポンッとそれが起きるの!?
刀鍛冶の里に着き、持ち物も返ってきたので、久しぶりにのんびりと薬の調合をしようと思っていたのだけど.........
「彩花ちゃん!今日は山の幸の混ぜごはんだって!」
「そうなのですね。私も楽しみです。...ただ、そんなに急がなくてもご飯は逃げませんので、もう少しゆっくりしましょう。せっかく温泉に入りましたのに、またすぐに汗をかいてしまいますよ」
甘露寺さんによく誘われて、薬の調合の時間を短くすることになってしまいました。
.....いえ、甘露寺さんが悪いわけではないのです。私も甘露寺さんとの時間は楽しいですし、嫌ではないのです。個人的に想像以上に薬の調合時間を削ったなぁと少し残念に思っただけです。とにかく、甘露寺さんとの時間はこちらも癒されていますので、全く問題ありません。だが........
「おい、何を作っているんだ。怪しい真似はするなよ。特に、ここには甘露寺がいるんだ。妙なことをしたら......分かっているな」
「は、はい。分かっています」
やっぱりこっちなのです。私が薬などを作っていると、伊黒さんに鋭い視線を向けられてやりにくい。というより、毎回作るのに問い詰められるから、一つ一つを作る時間が長くなるうえに精神的に結構なダメージを受ける。特に毒を作った時は...。
「貴様、何故毒なんか作っている」
「す、すみません。遊郭の時の戦いで毒類もかなり使ってしまったので、次の戦いのために補給しておきたいのです」
「そんなことを言っ「彩花ちゃん。何をしているの?」....!?甘露寺!」
「え、えっと、次の戦いに向けて、毒の調合をしています」
「凄いわ!しのぶちゃんもよく調合とかをしていて、難しいことができていて凄いなあと思っていたけど、彩花ちゃんもできるのね!ホントに凄いわ!ねえ、伊黒さん!」
「.....そうだな」
こういう感じで伊黒さんに問い詰められ、私はそれに戸惑いながらも理由を説明しているのだが、伊黒さんは私の言っていることを全く信用してくれないので、何度もこのやり取りをしないといけない。というか、多分話を聞いてくれていない。毒を調合しているから、警戒されるのは分かるけどね...。......少しは私の話を聞いてほしい....。
ただそれも何回か答えていれば、甘露寺さんが来て乗り越えることができる。伊黒さんは甘露寺さんの話には賛成してくれるからね。伊黒さんと甘露寺がこうも頻繁に私のところにいるのは、私は一応監視対象ではあるので、見張り役の甘露寺さんと伊黒さんは私を見張らないといけないからだ。
だから、数分ぐらい待てば甘露寺さんが来てくれるので、伊黒さんはその時だけ私にネチネチ言わないで、甘露寺さんの話を聞いている。その時に私が何を作っているのかを話し、甘露寺さんが私の話に賛成や共感などをすれば、伊黒さんも頷いて私のやっていることに口を挟まなくなるという流れが続いている。おかげで薬や毒の調合がやりやすくなる。
ですので、甘露寺さんの存在にとても助かっている。甘露寺さんがいなければ伊黒さんに疑われて、一々色んなことを言われ、薬の調合すらできなくなりそうだった。本当に甘露寺さんには感謝しかありません。
まあ色々なことが起きていたけど(主に伊黒さんとのトラブルだが)、薬や毒の調合はそれなりに進んでいたし、上弦の肆と伍の戦いも迫っているから、鍛練も欠かさずにやった。ただ、相手が甘露寺さんと伊黒さんなので厳しく(これも主に伊黒さんが原因)、どんなことをしたのか、何が起きたのかは察してください....。
「.....よし、と。それで.......」
「彩花ちゃん!温泉に入りに行きましょう」
「分かりました。すぐに準備します」
私がいつも通り今日のことを紙に書き記していると、甘露寺さんが私に声をかけてきた。私はそれに返事をしながらすぐに文章を書き上げた後、一枚の紙を取り出した。そして、温泉に入るための準備をし、その紙を折って小さくしたら、温泉のために持っていくタオルの中に挟んで部屋を出た。廊下をしばらく歩いていると、甘露寺さんの姿が見えた。
「ここの温泉って、とっても気持ち良いよね!」
「そうですね。私も温泉は前世から好きな方でしたよ」
「特に汗をかいた後の温泉も気分が良くて!」
「確かに鍛練がきつくて、私なんて毎回汗をいっぱいかきますからね」
私と甘露寺さんは温泉のある場所まで歩いていた。歩いている間、私達は何気ない雑談をしていた。大抵の内容は今日の出来事(今は温泉の話をしているが、主に食べ物関連の話が多い)を話している。
「あっ!大変!忘れ物をしちゃったわ!」
「今回はタオルとかですか?それなら、確か......」
「ううん。大丈夫!取りに戻るから、彩花ちゃんは先に入ってて!」
「あっ、分かりました」
私達が温泉に入ろうとしていると、甘露寺さんが突然声を上げた。私は何か忘れ物をしたのかなと思って話しかけるが、甘露寺さんは部屋に戻ってしまった。甘露寺さんはたまに何か忘れ物をすることがあり、戻っていくことがあった。甘露寺さんが私の言葉を途中で遮って行ってしまい、私はそれに少し呆気に取られたが、早く温泉に入るために準備することにした。
それに、さっさと早く終わらせた方が良さそうだからね。
私はタオルを持って温泉の周りを歩き回った。隊士や隠の姿だけでなく、誰もはいなさそうだ。
「....今日は私が先だから、今のうちにお願いできる?」
私が周りに隊士や隠などの人間の気配があるかを確かめた後、周りにだけ聞こえるくらいの声でそう言った。
「ニャーおー」
すると、何処からともなく猫の鳴き声が聞こえた。私はその鳴き声が聞こえる方に近寄り、その場所で屈むと、何もないところから茶々丸が現れた。
流石は兪史郎さんの術だ。毎回こんなところまで来ているのだから、身を隠せる兪史郎の術やどんなところでも行ける茶々丸の存在が凄いのがよく分かる。鬼殺隊も兪史郎さんの術を見破ることはできないみたいだし、監視されている今はこの方法でしか連絡を取り合うことができない。そもそも連絡手段は元からこれだけしかないんだけどね。
「茶々丸、お願いね」
「ニャー」
私がタオルに挟んでいた紙を出し、茶々丸の後ろにある茶色い箱みたいなものの中に入れた。それと同時に、茶色い箱に入っていた紙を取り出し、それを広げて読んでみた。
『拝啓
生野彩花様
彩花、何もされてないよな?俺達の方は大丈夫だ。今のところ、鬼殺隊とは誰も会っていない。この前はすれ違ったと書いていたが、相手は気づいていない様子だったし、それ以来隊士も誰も見ていない。何も起きていない。
だが、いつ会うかも分からないから、今は珠世達さんのところにいる。しかし、そろそろ準備をしなければならないと皆動き始めている。刀鍛冶の里の襲撃にはまだ少し早いが、俺達は予定の時期よりも少し早めに出発しようと思う。理由は前に俺や彩花の知っている時よりも時期が早いことがあっただろう。またその可能性があるから、俺達は早めにそっちに向かう。刀鍛冶の里には鎹鴉と茶々丸に案内してもらうから大丈夫だ。
それと、薬のことも大丈夫だからな。最近は薬を全く飲まなくても平気になったし、そもそも薬を飲むような状況にもなっていない。だから、俺の方は大丈夫だ。禰豆子も元気だ。彩花のことを心配しているが、刀鍛冶の里の襲撃に向けて張り切っているぞ。獪岳は......時々兪史郎さんと言い合いになることはあるが、その時は珠世さんが間に入るし、少し時間が経てば仲直りしている。
珠世さんのところで生活はできているが、これからのことを考えてみると、悩むところはある。.....とにかく、今は俺達も準備ができ次第にそっちに向かう。たぶん、まだ上弦の鬼の襲撃までの時間はたっぷり残っていると思うが、気をつけてくれ。
敬具
竈門炭治郎』
私は手紙を読み、ため息を吐いてしまった。最初の言葉から私の心配をしている時点で、鬼殺隊の信頼は全くないと言っているからね。まあ多分、信用も何もこれ以上その信頼が下がることはないだろうというくらいなのは分かっていたけど、実際にこの目で見ると、呆れとかを通り越して笑えてしまう。
ここまで信用がないとは...。なんだか可哀想な気がするな....。......でも、やってしまったことが問題なんだよね.....。
何故手紙を読んでから返事を書かず、こういう風なやり取りをしているのかというと、普通の手紙のやり取りをするのが危険だからということだ。私が監視されているから、普通に会うことができない状況である。勿論連絡を取り合うこともできない筈で、茶々丸がいるからこそできることなのだ。
警戒を怠らないようにしないと...。そろそろ甘露寺さんも戻ってくるだろうし。
「彩花ちゃん!お待たせ!」
「いえ、大丈夫です。それよりも、温泉の湯加減はちょうど良さそうですよ。早く入りましょう」
私が手紙を閉じて持っていたタオルに挟んだちょうどその時、甘露寺さんが戻ってきた。私は危機一髪だったなと思いながら甘露寺さんに話しかけた。
「はあ〜。極楽です〜」
「そうよねー!気持ちいいよね!」
私が温泉に入ってくつろぐと、甘露寺さんは私の言葉に同意していた。連絡も取ることができたし、一先ず今回は安心だ。今はのんびり温泉に浸かっていてもバチは当たらないだろう。
しかし、毎回ヒヤヒヤするな.....。炭治郎達と連絡を取り合い、それを鬼殺隊にバレないようにしていたが、本当に毎回手紙を書いてそれを送り、炭治郎達からの手紙も受け取って読まないといけないのだから、僅かな時間でそれらをしないといけない。
まあ、その中でも手紙を書くことに関してはよく紙に薬の調合をメモしているから、それで誤魔化しているので大丈夫だろう。手紙を読むのもなんとかできる。問題は手紙を送る方法なんだよね。私の周りには伊黒さんや甘露寺さんがいるから、出し抜くのは容易ではない。
そのため、この温泉を入る時が一番手紙を送るタイミングとしてはもってこいの場所だ。ここなら男性は確実に入ってこないから、伊黒さんや他の見張りは絶対にここに入って来ないし、覗かれたとしても悪いのはあっちですし。残った監視は甘露寺さんだけど、なんとか誤魔化せるのではないかと思っている。
それに、これ以上監視を減らせられる場所はここしかないとも思っている。だから、この温泉に入る前後の時間に行っている。今回の分はもう渡して、読むこともできたから、今日はゆっくり温泉に浸かろう。
こういう時ばかりは良いよね......。もう少し温泉でリラックスしていても....。...朝から鋼鐡塚さんとか色々と大変だったからね.....。
「....鋼鐡塚さん?どうしてここにいるのですか?」
私がいつものように朝から薬を作ろうと準備していると、いつの間にか鋼鐡塚さんが私の泊まっている部屋に来ていた。
いや、何でここにいるの?鋼鐡塚さんは確か.....あっ!そうか。この時期って、原作では炭治郎が刀を何度も折ったり無くしたりしたから、それで鋼鐡塚さんは怒って炭治郎の刀を作らず、失踪してしまった。そこで、炭治郎が鋼鐡塚さんに刀を作ってもらいに来たのが原作の流れだものね。
でも、今回の炭治郎は日輪刀を折っていないから作る必要はないし、鋼鐡塚さんも刀を折っても『お前にやる刀はない』という手紙を書かないと思うしね。
「別に構わねえだろう。それより、みたらし団子はないのか」
鋼鐡塚さんは私の質問に答えずに、みたらし団子がないか聞いてきた。
急に現れて、みたらし団子って......。
「連絡がなかったので、作っていませんよ。ですが、少し待ってくださればいくつか用意できると思います」
「そうか。...それなら刀だ。刀を出せ」
「あっ、はい」
鋼鐡塚さんの言葉に、私はみたらし団子がそんなに欲しいのと思いながらみたらし団子を作る準備をし始めた。その時、鋼鐡塚さんが私に日輪刀を出すように言ったので、私は素直に自分の日輪刀を鋼鐡塚さんの前に置いた。
きっと刃こぼれしていないかの確認みたいなのだろう。ちなみに、みたらし団子は私も作れる。炭治郎に作り方を教わっているので、炭治郎と比べればまだまだだと思うが、それでも美味しい物を作れると思う。
「おい」
「今度は何ですか?」
私は日輪刀を置いてすぐにみたらし団子を作り始めていると、また鋼鐡塚さんが私を呼んだ。
今度は何だろう。
「赤い刃を出せ」
「えっ?」
「前回は見れなかったんだ。さっさと見せろ」
「ええー....」
鋼鐡塚さんの言葉に私は一瞬固まったが、すぐに日輪刀を貰った時のことを思い出し、納得した。鋼鐡塚さんは早く赤い刃を見たいのかイライラしている様子なので、私は日輪刀を手に持ち、華ノ舞いの紅梅うねり渦を使った。そして、それによって赤色に変わった日輪刀を鋼鐡塚さんの前に出すと、鋼鐡塚さんは私の刀に顔を近づけ、そのまま頬擦りしそうなくらいの勢いで喜んでいた。私はその様子を見て、少し顔が引き攣ったが、鋼鐡塚さんはそれに気づいていない様子だった。
まあ鋼鐡塚さんが喜んでいるしいいや。
しばらくすると鋼鐡塚さんは落ち着いた様子で、刃こぼれや何か異常がないかを調べるために私の日輪刀を見始めた。私はそれを見て、そろそろみたらし団子を作りに行ってもいいかなと考えて戻った。
「.....刀の手入れはしっかりやっているようだな」
「はい、折れては困りますからね」
私の日輪刀を一通り見た後、鋼鐡塚さんはそう言った。私は鋼鐡塚さんの言葉を聞いて、安堵した。
原作の炭治郎や最終選別の時の錆兎、最終決戦の時の冨岡さん達の戦いを見れば、日輪刀が折れていないどうかでどう戦いに影響するか分かっているからね。
それに、原作では鱗滝さんが刀を折ったらお前の骨を折ると言ったり、刀を折った後の鋼鐡塚さんが襲撃したり、とんでもない手紙を送りつけてきたりなどを知れば、日輪刀が折れないようにと手入れをきちんとするなど色々注意するのは当然である。
....どうやらその甲斐もあって、日輪刀は大丈夫なようだ。良かったけど、今後の戦いは激しくなるのは確実だ。そこで日輪刀が折れるという事態が起きるかもしれない。改めて気をつけておかないとね。
「.......あいつの刀はどうだ」
「炭治郎の刀のことですね。今のところ折れていないので、大丈夫だと思いますけど....」
「そうか.......。もうすぐあいつらはここに来るなら、あの刀をさっさと研ぎ上げてやろうと思ったんだが......」
「あの刀って.....」
鋼鐡塚さんの声に炭治郎の刀のことだなと思った私は遊郭での戦いの時のことを思い出して答えた。それを聞いて、鋼鐡塚さんは何か頭を悩ましている様子で、私は疑問に思っていた。しかし、鋼鐡塚さんの言葉ですぐに察した。
おそらく鋼鐡塚さんが言っているのは、原作では縁壱零式から出てきた古びた刀で、その日輪刀は戦国時代に呼吸と痣の始祖で日の呼吸の使い手であり、最強の剣士である継国縁壱が使っていたものだった。縁壱零式を壊したことでそれを発見した炭治郎はその日輪刀を使おうとしたが、あまりに錆びついていて使えないために困ってしまった。そこで鋼鐡塚さんがその日輪刀のを研ぎ上げることで、使えるようになったからね。
あの日輪刀がもし必要なら、これからの戦いのことを考えて先に研ぎ上げた方が良さそうだし。きっと鋼鐡塚さんも同じことを考えたから、炭治郎の刀のことを聞いたんだね。
「だが、あいつは刀を折っていないようだし、あの刀を取るためにアイツのからくり人形を壊さなくっちゃならなかったから、面倒な事が増えなくて助かった」
「そうですね.......」
鋼鐡塚さんの話に、私は素直に頷いた。
確かに縁壱さんがかつて使い、炭治郎も最終決戦で使った刀とはいえ、そのためには縁壱零式を壊して手に入れる必要がある。
おそらく炭治郎の刀の状態を聞いて、刀が必要ならあの日輪刀を研ぎ上げるつもりだった。だがその必要はなさそうなので、縁壱零式を壊してあの日輪刀を取り出すのは無しということにした。
......て、そうだった。鋼鐡塚さんに会ったら聞こうと思っていたことがあるんだった。
「そういえば、刀鍛冶の中で前回の記憶を持っているのは鋼鐡塚さんだけなのですか?」
「さぁな、知らねぇな」
「.......そうですか......」
私は鋼鐡塚さんに聞きたかったことを聞いた。私の質問に鋼鐡塚さんは興味なさそうに答えた。私はそれに苦笑いしながら困っていた。
鋼鐡塚さん、刀以外に興味なさすぎでしょ。せめてこの逆行という現象には興味を持っていてほしかったな。鋼鐡塚さんの答えで後藤さんの予想は正しかったかどうか確信に迫れるのだけど、鋼鐡塚さんに知らないと答えられたのは予定外だった。
ところで、何故鋼鐡塚さんにそんな質問をするのか疑問に思う人はいるでしょうし、後藤さんの名前が出たのも気になる人がいるでしょう。.....それは....刀鍛冶の里のことで御館様に呼び出される前のこと.......。
『うーん...。何かないかな....』
『おい、どうした?そんな難しそうな顔をして』
『あっ!後藤さん!こんにちは』
あれは刀鍛冶の里に行く前、私はある事について悩んでいた時だ。その時、私は柱合会議の縁から見舞いに来てくれる後藤さんと話をしていた。
あの時の私は華ノ舞いやら炭治郎達と鬼殺隊の関係やらその相談やらと多くのことに悩んでいた。華ノ舞いは結局情報はなかったし、炭治郎達と鬼殺隊の関係問題はもう私が手を出しまくったし、相談も聞いて私が思ったことや考えたことを言った。私は鬼殺隊のところに来て、色々なことをしてその目的も果たすことができた。
しかし、私にはそれら以外にも目的があった。だが、それについての情報があっても納得がいかず、逆に疑問が湧いてきた。それで、悩んでしまっているのだ。
『一体何を悩んでんだ?』
『この現象について考えていて、少し行き詰まってしまっただけです』
『ああ、柱合会議で言っていた逆行のことか』
『そうです』
そう、その通り。今、私が悩んでいるのは炭治郎達の身に起きた逆行のことだ。逆行についても御館様や柱の話を聞けば色々分かると思っていたのだ。そして、確かに情報を得ることができた。しかし、それと同時に気になることもできたのだ。
『逆行のことはお前がよく知っているだろう。それに、柱合会議の時に原因まで言ってたじゃあねぇか』
『確かに言いましたよ。と言っても、私が話したのは原因というよりきっかけについてのようなものですけど...。......まあ、それは一旦置いておくとして....私が考えているのはその範囲です』
『は、範囲?』
『逆行には、一人だけが逆行するパターンと複数人が逆行するパターンがあります。その中で、今回のは確実に複数人が逆行するパターンです。複数人が逆行するパターンとして、何かしらの共通点が必ずあることが多いのです。ですから、その共通点が何かを探しているのですけど.....なかなか思いつかなくて...』
後藤さんの言葉に私は頷きながらも話してみることにした。後藤さんには逆行に関しての知識が何もないから、分かりやすいように説明しているけど、これで伝わるかな....。
実はかなり悩んでいるんだよね。これについて知っておきたいし、今後の動きのためにも役に立つと思うんだよね。私自身が気になっているのもあるのだけど.....。
『ところで、お前は何で逆行について調べているんだ?』
『今回の逆行者の特徴が分かれば、今分かっている人達以外の逆行者が誰なのか把握できますし、その逆行した人が何か情報を持っている可能性もあるからと思って調べてみまして』
『それで、その結果....』
『いくつか考えてみましたけど、決定的なものがなくて行き詰まってしまったのです。逆行した人達と逆行していない人達を分けてみても、その違いを考えると微妙なものが多くて......』
私が後藤さんの質問に答えながら頭を悩ませていた。
本当に逆行者が思った以上にいっぱいいて、逆行者は全員で何人いるのか分からないんだよね。とりあえず御館様と柱全員と炭治郎達五感組プラス禰豆子、あと鱗滝さんに鋼鐡塚さん、後藤さんは記憶持ちなのは確定。錆兎と真菰、カナエさんは微妙かな?
正直に言うと、後藤さんも前回の記憶を持っていたのは予想外だった。
でも、これで記憶持ちが多いのは分かるよね。これだけ多いと、他にもまだいるんじゃないかと思うよね。私もそう考えて、他に記憶を持っていそうな人を探すことにしたの。
『.....難しいことはよく分からないが、俺はあの鬼舞辻無惨との最後決戦が関係してると思うぞ。逆行している人は隠の中にも何人かいたが、そいつらは全員最後の戦いに関係している奴等だった』
『...私も同じことを思いましたよ。でも、最終決戦に関わっている人が逆行しているなら、前回の記憶は全員が持っていることになる。だけど、そういう感じではないのでしょ。だから、最終決戦で関わっている人では....『いや、少し違うぞ』......違う?』
『お前は詳しく知らないから分からねえと思うが、鬼舞辻無惨との最終決戦は鬼殺隊の関係者含めた全員が関わった。だが、お前の言った通りに全員が前回の記憶を持ってるわけじゃなかった。これでと逆行が関係ないと思ったようだが、あの最終決戦に関わった奴等の中でも違いがある』
『最終決戦で戦っていた人達の、違い........!....まさか.........』
『そのまさかだ。俺は隠で色々なところに行くし、隊士達とも関わっていたから、前回の記憶を持っている奴等ともよく会うし、そいつらのことも分かった。....その時に気づいちまったんだ。前回の記憶を持っている奴等は全員、鬼舞辻無惨と戦った、最終決戦のあの場に居合わせた奴等だってな』
後藤さんの言葉に私は否定しようとしたが、後藤さんの次の言葉を聞いて、私は復唱してから思い出した。私がそれに動揺していると、後藤さんがその続きを言った。
私は逆行についての原因をずっと考えていたが、どれもこれには当てはまるけど...あの展開ではこうじゃない、そこはああだったというように、完全に一致するものがなくて困っていた。御館様や柱、炭治郎達以外にもいることで、共通点を探すのに少し諦め気味になっていた。
でも、後藤さんの言ったことなら辻褄が合う。亡くなった御館様や獪岳が前回の記憶を持っていても可笑しくない。私が悩んだ時間は何だったのかと言いたいくらい、あっさり答えが出そうだな.....。
けど、冷静に考えてみれば他の人に聞いた方が早かったよね。前回の記憶を持っている人達はある程度知っていると思うし、実際にその場にいたし。私よりも何倍も知っている筈だ。
張りきり過ぎて、こんな当たり前のことに気づけなくなっていたとは....もっと周りを見ないと。
『......確かに、それが共通点だと辻褄が合いますね.....。ただ、聞きたいことがあるので、少し聞いてもいいですか?あの時、最終決戦には柱全員がいましたか?それと、最終決戦の場にいた人達の中に刀鍛冶の職人がいませんでしたか?』
『...うーん.......。......あっ!そういえば、戦いが終わった後、なんかうるせえ奴が来ていたな。炭治郎と禰豆子のことがあって、忘れかけていたが.....。ひょっとこの面はしていたから刀鍛冶の人間だったと思うが、何やら筋肉質な男だったような....』
『そうですか......』
私は後藤さんの言ったことを基にして考えてみれば、点と点が繋がるような感じがした。ただ、まだ何かピースが足りないように思えた。しかし、これが一番近いようにも感じるために、その仮説で考えることにした。その仮説をさらに確信に繋げるためにある質問をした。
この仮説で考えると、納得がいかない人が一人いる。それは鋼鐡塚さんだ。刀鍛冶の職人である鋼鐡塚さんが戦場にいるのは可笑しいと思って、私も一度はそう考えて外した気が....。
......でも、それは私が何も知らずに除外しただけで、今ならそれがはっきり分かると思う。実際にその場にいた上に、事後処理やら仕事やらであちこち行き、色々な人と交流している隠の後藤さんなら分かる筈だ。
鋼鐡塚さんがそこにいたのかを知るために後藤さんに質問すると、後藤さんはしばらく考えてからそう言った。
筋肉質の...ひょっとこ面の男.....間違いなく刀鍛冶の里の後の鋼鐡塚さんだ。つまり、鋼鐡塚さんはあの場にいたということだよね....。
『情報ありがとうございます。また何かあったら、聞いてもよろしいでしょうか?』
『おう。別に構わねえよ』
私は後藤さんにお礼を言い、また質問があったら聞いてもいいかと聞いた。後藤さんはすぐに構わないと返してくれた。口元にある布でよく分からなかったが、後藤さんが笑っていたような気がした。
どうして笑ってくれるのだろう?私なんて炭治郎達と一緒にいたとはいえ、不審な人物であることは間違いないのに.....。
「........おい」
「はい?....えっ?」
私が考え込んでいた時、突然鋼鐡塚さんが声をかけてきた。私はまた何か用があるのかと思い鋼鐡塚さんの方を見ると、私に向かって何かが飛んでくるのに気づき、私はそれを受け止め、掴んだ物を見た。それは日輪刀だった。私の使っている物と同じくらいの長さと重さの刀だ。
.......でも、何で...私の日輪刀は折れてもいないのだから、新しい刀は必要ないのに....。
「えっと......」
「それをやる。これから鬼と戦うんだろ。いざという時、それを使え」
私がいきなり渡された刀に困惑していると、鋼鐡塚さんはそれだけ言ってそっぽを向いた。
どうやら上弦との戦いのためにこの刀を渡してくれたらしい。この刀を持ってきてくれたということは、私の日輪刀が折れていても折れていなくてもこの刀を渡すつもりでいたということかな。
.....嬉しいな、気にかけてくれて...。
「はい!ありがとうございます!」
「だから、早くみたらし団子をくれ」
「ははは......。はいはい。分かりました」
私がお礼を言うが、鋼鐡塚さんは私の方を見ずにみたらし団子を求めた。私は鋼鐡塚さんの様子に苦笑いしながら茹でた後に水で冷やした団子に串を刺し、茹でている間にできたみたらし団子のタレをつけた。
完成したみたらし団子は鋼鐡塚さんが美味しくいただきました。ちなみに、その時の鋼鐡塚さんの感想は『まあまあだった』だそうだ。
「....久しぶりだな」
「あっ、玄弥。久しぶりだね」
「玄弥君!久しぶり!」
「........お久しぶりです」
私と甘露寺さんが温泉を出て部屋に戻ろうとした帰りに、玄弥とばったり出会った。
不死川玄弥は善逸やカナヲ同様の炭治郎の同期である。玄弥は呼吸が使えないが、その代わりに銃を使っている。また、鬼喰いという体質である。
鬼喰いとは異常なまでの咬合力と消化器官があり、それによって鬼を食うことが可能になっている。鬼を食うことで再生能力が高くなったり血鬼術を使うことができたりするが、鬼を食えば食うほど鬼化が進み、鬼になってしまう。
今回はまだ鬼喰いをしていないようで、一度呼吸が使えるか確認してから、それからは銃で戦うことになったそうだ。やはり今回も呼吸は使えなかったが、玄弥の鬼殺隊を辞めたくないという意志が強く、多少揉め事はあるも鬼殺隊として戦うことを認められた。
何で私がそんなことを知っているのかって?
私、蝶屋敷にいる間は善逸達との交流が本当に多かったのですよね。確かに柱も頻繁に来ていたけど、善逸達の方が圧倒的に多いの。それで、善逸や伊之助、カナヲと交流があれば、同期の玄弥とも交流があっても可笑しくはないよね。玄弥達と何度も交流していればそういう話題が出てくるのですよ。
私は流石に二度目だと色々関係も変わるよねとそんなことを思いながら玄弥の話を聞いていた。おかげで、今回では玄弥や善逸達がどんな行動をしていたのか知ることができた。
「ずっと揉めていたみたいだけど、いつ来たの?」
「ついさっきだ。漸く兄貴が納得してくれたんだ」
「確かに....あれは大変そうだったよね。よく不死川さんを納得させることができたね」
「ああ。苦労はしたが、悲鳴嶼さん達の協力と御館様の言葉もあって、なんとか兄貴を説得することができた」
「......お疲れ様。その疲れた様子からして、相当苦労したのが分かるよ」
私の質問に答える玄弥はとても疲れた顔をしていた。私はその顔を見て、お疲れ様と言って玄弥を労わることにした。
玄弥の兄、不死川実弥は風柱である。既に分かっている人はいると思うが、柱合会議で私を睨んだり怒鳴ったりしたあの不死川さんです。
不死川さんと玄弥は過去の件で複雑な関係なんだよね。鬼になった母に弟妹達を殺され、不死川さんは生き残った玄弥を守るために母と戦い続け、母は日光を浴びて亡くなった。玄弥は母が死んだことに混乱し、『人殺し』と不死川さんを罵倒してしまう。
それから、不死川さんは玄弥から離れ、鬼を殺しながら放浪し続け、鬼殺隊に入隊した。玄弥も不死川さんに謝るために鬼殺隊に入隊したが、不死川さんは弟に普通の人生を送ってほしいがために、玄弥に向けて『弟なんていない』と冷たく突き放し、鬼殺隊を辞めるように迫る。だが、玄弥も玄弥で兄である不死川さんに『人殺し』と言ってしまったことを謝るために鬼殺隊を辞める気なんてなく、関係を拗らせていくことになるんだよね。
私の個人的な感想からすると、不死川さんの気持ちは分かるし、玄弥の謝りたいという気持ちも分かるんだよね.....。ただ、それならさっさと腹を割って話せばと思うけど、玄弥がいつ命を落とすか分からない鬼殺隊に兄がいることを知りながら、謝ったからと言って辞めるかといえば辞めない気がする。
それに、確かその時の不死川さんは未だに玄弥が母のことを殺した自分を恨んでいると思っていたから、話し合うことはできなかったんだし.......。
今はその誤解は解けて、原作よりも良好な関係になっている。ただし毎回会話の終わりに、不死川さんは玄弥に鬼殺隊を辞めるようにと言い、玄弥が辞めないと反発し、不死川さんがそれに舌打ちしながら帰っていくというのが恒例である。不死川さんはやはり弟の玄弥には普通の幸せを得てほしいようだ。
そんな不死川さんが前回の記憶から鬼が、それも上弦の肆・伍が襲撃してくる刀鍛冶の里に玄弥が行くと知れば.....どうなるか察している人もいますよね...。
結果、不死川さんが代わりに自分が行くから玄弥に行くのを止めるように言い、玄弥も絶対に行くと言った。そして、不死川さんも玄弥も互いに譲らなくて、最終的に殴り合いの喧嘩になった。
....本当に凄かったのですよ。不死川さんの怒声や玄弥の悲鳴、殴って倒れたり何かが壊れたりする音が聞こえ、善逸が顔を真っ青にして叫んでいた。私は縋りついてくる善逸を宥めるのに精一杯で詳しくことは知らないが、悲鳴嶼さんが仲裁に入ってくれたおかげでその場は治ったそうだ。その後も色々揉めていたらしく、本来私達と一緒に刀鍛冶の里に行く予定だったのだが、行けなくなってしまったのだ。.....でも、どうやら説得はなんとかできたようだ。
あの状態の不死川さんを止めるのにどれほどの苦労があったのかは察せられますし、同時にどうやって不死川さんを納得させたのか気になるな。....まあ、一応解決できたから良いかな......。
...だけど、原作でも今回の件でも玄弥の目を潰そうとしたのはやり過ぎだと思っている。いくら玄弥が鬼喰いをしたことを聞いても、あれは流石に......。今回の大喧嘩も悲鳴嶼さんが直前で止めなければ.....。....本当に悲鳴嶼さんが玄弥の保護者的な立ち位置になってくれて良かった...。......それに、原作でも....。
私が甘露寺さんと玄弥のことを見ていた。玄弥は真っ赤になりながら甘露寺さんと話している。ちなみに、私の場合はそんなことよりも炭治郎達の知りたかったらしく、普通に話しかけてきた。
「それと、時透さんも俺と同じタイミングでここに来ました。今は伊黒さんと話しています」
「あら、時透君も来ているの!それなら、早く戻らなくっちゃ!」
「そうですね」
玄弥と甘露寺さんの会話を聞き、私は遂に揃ったかと思った。
原作での刀鍛冶の里に起きた襲撃では炭治郎と禰豆子、玄弥、甘露寺さん、時透さんの五人が上弦の肆と伍と戦った。今、ここに玄弥と甘露寺さん、時透さんの三人がいて、炭治郎と禰豆子も刀鍛冶の里に向かっている。原作通りに事は進んでいる。.....ただ、ここに私と伊黒さんがいて、さらには獪岳を来ることになっているので、原作と完全一致ではないけどね。......だから、原作よりもオーバーキルのような状況にはなりそうだ。
私達は時透さんも来ているということもあり、伊黒さんと時透さんのいる部屋に向かうことにした。部屋に入ると、既に伊黒さんと時透さんが畳の上で正座していた。
「時透君!いらっしゃい!」
「...こんにちは。任務がちょっと遠かったから、少し遅くなった」
「いいのよ!まだ時間はあるんだから」
「甘露寺の言う通りだ。それより、これで全員が揃ったから、これからのことを話し合う。お前達もさっさと座れ」
「は、はい!」
「分かりました.....」
時透さんの姿を確認し、甘露寺さんが挨拶をしてきた。時透さんは挨拶を返し、遅れてきたことを謝った。甘露寺さんは気にしていない様子でそう言い、伊黒さんはそれを肯定し、私達に座るように指示した。玄弥はすぐに返事をして座り、私も返事をしながらここに自分がいても大丈夫なのかと一度考えたが、とりあえず玄弥の隣に座ることにした。
話の内容は刀鍛冶の里の警備やその巡回、配置についてだった。刀鍛冶の里では上弦の肆の半天狗と上弦の伍の玉壺が現れる。何処でどの鬼が襲いにくるのかは事前に知っているため、対策を練ることができた。
また刀鍛冶の里への被害を最小限にするため、前回よりも早く襲撃が起きた時の動きや刀鍛冶の職人の避難誘導などの話をした。私がどう動けばいいのかという話もあったので、私も会議に参加して良かったようだ。
「....ねえ、君は会議で冨岡さんの頬を叩いた人だよね?」
「.....はい。確かにやりましたけど、その覚え方は止めてほしいです。私は生野彩花と申します。....それで、何でしょうか?」
会議が終わり、甘露寺さんや玄弥が部屋を出て、私も続いて退出しようとした時、私は何故だか時透さんに声をかけられた。覚えられ方には不満ですが......それをやったのは事実なんですよね....。
それにしても、時透さんにもこう言われるということはそれほど衝撃的だったのだろう。....自分のやったことだけど、やっぱり恥ずかしい...。
「君さ、炭治郎達と一緒だったんだよね?」
「そうですけど....。あの、それで何を......」
「炭治郎達は元気だった?」
「えっ?」
時透さんの質問に私は少し戸惑いながらも答えた。柱合会議の話をしていたこともあり、それについて何か聞きたいことがあるのかと身構えていたが、炭治郎達が元気だったかと聞かれて、一瞬呆気に取られた。だが、おそらくこれは....と思ってすぐに切り替え、話を聞く体勢にした。
やっぱり柱合会議の時の前世の話を少し誤魔化しながら話していたことで、それの後ろめたさから真っ先に警戒してしまうな...。でも、そっちの方が警戒されるし、動揺しないように気をつけないと.....。
「僕は炭治郎達と今回まだ会ってないから、炭治郎達の様子が分からない。炭治郎達が僕達と会いたくないのは分かっているけど、元気なのかどうかは気になるから知りたい」
「........元気ですよ。風邪とかはひいていませんから、健康だと思いますよ」
「そうなんだ...」
「..........」
時透さんの話を聞き、確かに時透さんはまだ炭治郎達に会っていないし、人伝てにしか聞いたことがないものね....。それは気になるかもしれない。私は炭治郎が一応健康ではあることを話したが、時透さんの返答からまだ何かあるのだなと思い、話をしてくれるまで待った。
「......君は僕達のことをどう思っているの?」
「どう、思っているとは?」
「僕達が炭治郎達にしたことを知っているんだよね。いくら御館様が信頼できる人だと思っても、周りが敵だらけのようなものなんだよ。その中に飛び込んできたうえに、その相手には相談にのるとか言い出す。.....正直に言うと、君が何を考えているのか分からない」
しばらく待つと、時透さんがやはり質問してきた。質問の意図が一瞬掴めていなかったが、すぐにどういうことなのか気がついた。
この質問を聞く度に、私のしていることがどれだけ時透さん達にとって理解不能なことなのかというのが分かって、なんだか少し悲しい気持ちになるんだよね。でも私はそう決断したし、この決断に後悔はしていない。
「色々な人に言いましたが....私が何を考えているのかと言うと、間違ったことをしたくない、後悔をしたくないというのが大体の行動の理由みたいなものです。炭治郎達の話を聞いた限り、とても複雑な状況であることはすぐに分かりました。そして、今は何が起こるのか分からないことも.....。でも、私はそれなら尚更行動していかないといけないと、分からないからこそ自分の足で動かなければならないと思ったのです。それで、行動を起こしました」
「だけど、危険かもしれない僕達の中に一人で入っていくのは自殺行為だと思うよ。死にたいの?」
「それについては私も同じことを思いますよ。どんな状況であっても、流石にあの行動は危険だということは分かっていましたし......。
ですが、それ以上に何が起きたのか分からないままにする方が後悔するような気がしたのです。危険承知で行動して怪我をしたり後悔したりするよりも、何も分からないまま間違った行動をして後悔する方が私は辛かったのです。それで私の身に何かが起きても自業自得であろうと思っています。
まあ、私に何かあったら炭治郎と獪岳達に色々言われると思い、危険だった場合はどうするのか考えてはいましたので、死にたいとは思っていませんよ.....」
私は何度も聞かれて答えた質問なので、苦笑いしながら答えた。色々な人に聞かれているので、答え慣れてしまったな...。まあ、何度も話したことにせよ、私は自分の思っていることを正直に伝えないといけないのだけど....。
「何も行動しない方が良いということもあるでしょう。それでも未来は不特定だから、行動次第で変わっていく。未来が良い方向に進んでいるのか、悪い方向に進んでいるのかなんて分からないけど、何か行動すれば未来は変わる。その何気ない行動が今は分からなくても、きっとその先で何かを変えるきっかけになれると、その行動が自分にも他の人達にも良い未来へと変わることができるのならと勝手に期待をしているだけです。
まあ期待なので、絶対にそうなるという確証はありません。ですが、それで後悔するのは私がどう決めるかですから、まずは一歩進まないと何も起きないと思っているのです」
「............」
「それと、私が相談にのるとか言ったのは.....本当に私のただの我儘とかお節介とかであって、他意はないのです。私の世界とこの世界の価値観や考え方に違いがあるのか、私が変わり者なのかどうかは分かりませんが、目の前で自殺すると言われると、どんな人でも流石にその人の心のことが心配ですし、炭治郎達のことも鬼殺隊の皆さんのことも知っていますから、見て見ぬフリをすることもできません。相談の件は第三者に思っていたことを口に出せば少しでも心が軽くなるならと考え、そう言っただけです。馬鹿だと言われても仕方がありませんが、単に私が気がかりに思って、お節介で手を出しているのです」
私が我儘なことを言っているのは分かっている。相手には相手でその人の事情やらプライドやら思うところがあるだろう。それでも、私は自分の意見を貫き通そうと心に決めた。だから、私はここにいる。
「私は炭治郎達も鬼殺隊の皆さんも前回のことで互いに人間不信やら負い目やら色々拗らせているところがあると思います。ですが今はまだそれができなくても、互いに過去のことを受け止め、鬼殺隊の皆さんはそのことを償い、炭治郎達はこれからをどうするのかを決める。...あの時のことは互いに避けてはいけない、いずれ決着を着けないといけないことだと私は考えています。
この件に関して全く関わりのない私が決めることはできませんが、炭治郎達が過去に囚われ過ぎずに前を向いてほしいのです。過去をあまりに気にし過ぎているのは、炭治郎の心身に良くありませんから。今、大事なのはこれからですから」
私は今自分のできることを考え、どう行動するか決めた。みんなには悪いけど、我儘を通してもらったからにはそれを貫いて、堂々としていないと。そして、はっきり言わないと。
「先程も言いましたが、私は何も行動しないよりも後であの時にこうすれば良かった、ああすれば何か分かったのではないかと後悔する方が嫌なのです。それに、私はどっちに転ぶか分からないこの状況だからこそ後悔する選択はしたくない、考えるだけではなくて自ら行動しようと思っています。ですから、私は私自身が決めたことを貫くつもりです」
どう思われても、私の考えはこれなのは間違いない。ここは私の知っている原作の世界ではない。何が起きるか分からないから、だからこそ私は後悔しない道を選びたいと思っている。この意志は曲げない。
「....ふふふっ...」
「えっ.....?」
私が話し終えると、いきなり時透さんが笑い始めた。私はそれに困惑した。
...どうして?笑える要素が何処かにあったのかな?それとも.....。
「.......おい」
「....何?」
「伊黒さん、どうしたのです......あっ!」
伊黒さんに呼びかけられ、時透さんと私は伊黒さんの方を見た。その時、私はこの部屋が伊黒さんの部屋だったことを思い出した。時透さんも私と同じ結論に至ったらしく、あっと声を上げた。そんな私達の様子を見て、伊黒さんはため息を吐いた。
「オマエらは.....」
「すみません!すぐに出て行きます!」
伊黒さんが何か言う前に私は謝り、急いで部屋を出ようと立ち上がり、襖を開けた。
「本当にごめんなさい!伊黒さんの部屋だということを忘れてしまって....」
「それは別に構わん。貴様がただの馬鹿だということが分かっただけだ」
部屋を出る前に私はもう一度伊黒さんに頭を下げると、伊黒さんは呆れたような顔をしてそう言った。
すみません。本当にすっかり忘れていました。伊黒さんも私と時透さんが話し込んでいて、話しかけづらかったですよね。本当に申し訳ありません。
「その代わり、明日の稽古は前よりも厳しいものにする。さっさと戻れ」
「はい。分かりました」
伊黒さんの言葉を聞き、私は素直に頷いて襖を閉めた。
明日の鍛練が厳しくなったが、伊黒さんに迷惑をかけてしまったのだし、仕方がない。
.........鍛練が厳しくなるのは確定らしいし、今日は早めに寝よう。
「......少し変わっているけど、普通の子だったよね....」
「あいつはただの馬鹿だ。それもお人好しの大馬鹿だ」
「そう言っているってことは、伊黒さんもあの子は敵じゃないって思っているんだね」
「あのお人好しには俺達を騙そうという考えを持たないだろう。あれはあまりにお人好しで...甘すぎる考えをしている」
彩花が離れたことを確認し、時透と伊黒は互いに彩花について話していた。
前世の記憶を持っていると本人は言っていたが、怪しい人物であることには変わりなかった(彩花もそう思っているが故に、割と親しそうに話しかけてくる人達が多くて、最初は凄く戸惑っていた)。
「.....ねえ、伊黒さん。明日の稽古、僕がつけてもいい?」
「お前がか?珍しいな」
「うん。ちょうど良い物があるからね」
時透が伊黒にそう聞くと、伊黒は驚いた。時透がこう積極的に稽古をつけたがるのはそれくらい珍しいことだからだ。...ただ、何か企んでいるようだが.....。
「別に構わないが、何をする気なんだ?」
「それはね......」
伊黒の質問に時透はニンマリと笑って話し始めた。話を聞き終わり、伊黒はそっと彩花に同情した。
「....何だろう。何故か、明日になってほしくない.....」
その日の夜、私は嫌な予感がしてなかなか眠ることができなかった。
ここで大正コソコソ話
彩花が義勇さん呼びになったのは、あまりに頻繁に水屋敷に行き過ぎて、いつの間にか冨岡さんから義勇さん呼びをしていた。彩花本人は無意識にそう呼んでいて気づいていないし、義勇も気にしていない様子なので、周りは誰も指摘していないらしい。ちなみに、何時からそうなったのかも誰も知らない。