笹の葉の少女は幸せを願う   作:日々草

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笹の葉の少女は柱稽古に参加する 後編

 

 

 

それから、私は気絶している隊士達の手当てをした。目を覚ました隊士達からお礼を言われたし、私の作った薬、名づけて湿布薬もどきが大評判だった。

 

 

この湿布薬もどきは私の手作りである。この時代ではまだ令和にあるような湿布はない。一応患部に直接塗ったり貼ったりする薬や治療法はあったけど、それらの薬は植物を細かくしたものを患部につけ、割った竹蘭で覆い縛ったり、薬を和紙に塗って患部に当てたりするという治療法だった。さらに、薬も独特の匂いがした。

令和の記憶がある私は自分が使うなら湿布薬の方が良いと思い、試行錯誤してどうにか湿布薬に近いものを作った。

私の知っている、爽快感や爽やかな香りがあり、ひんやりして気持ちが良いという心地良さもある湿布薬が生まれたのは確か...昭和時代くらいだったと思うから、作るのに苦労したよ。

 

 

前世でハーブについて調べた時に偶然見つけたハーブ湿布やアロマ湿布のことが書かれていたブログを見ていなかったら、糸口すら見つけられなかったんだよね。

 

 

ハーブ湿布はハーブティーを飲む時よりも三〜五倍濃いめに入れる要領でポットなどにハーブを入れて熱湯を注ぎ、十〜十五分程度置いて、できた抽出液を冷ました後(冷湿布を作る場合は冷蔵庫で冷やすこと)、タオルを浸して軽く絞ったものであり、アロマ湿布は熱めのお湯の中にアロマの精油を一、二滴落としてよくかき混ぜ、すぐにタオルを浸して軽く絞ったものである。

 

精油は原料となるハーブを蒸留釜に入れて水蒸気を当て、ハーブの精油を蒸発させた後にその水蒸気を冷却管に通して冷やし、水面に浮いた精油だけを集める水蒸気蒸留法(水溶性の芳香成分が含まれていて良い香りがする残った水の芳香蒸留水も色々なことに使用)や果皮などを圧搾した後に遠心法[粒子のサイズ、形状、密度に基づいて分離する技術]で分離させ、それをスポンジで吸収して精油を得る圧搾法がある。その方法を使って精油を作ることが可能だった。

ちなみに、他にも油脂吸着法や有機溶剤抽出法、超臨界流体抽出法という方法があったが、これらは難しくて分からなかったり、この時代ではそれが可能の機械がないということもあって使わなかった。

 

 

これらが湿布薬作りのヒントになった。

 

でも、ハーブを用意するのは難しいので他の薬草や花、根などで代用したり、ハーブ湿布やアロマ湿布はタオルで浸して絞るというものを塗り薬にできるように色々変えたりと、本当に作るのに苦労したんだよね....。

まだ問題はあるから、今もこれは日々改良しているのだけど。

 

 

 

大量に作っていたから塗り薬はまだまだ残っているけど、少し使う量を減らしておかないとすぐに無くなりそうだ。村で薬を売っていた時もこの湿布薬もどきが大活躍していたからね。効果覿面だと村の人達は言っていたし、何度も使いたいという人は多かった。

まあ、私も自身の知る湿布薬の方が良いというのを知っていて、だからこそ作ろうと思ったのだけどね。

 

.....ただ、想像以上に人気だったんだよね。私、原作ではなくて歴史を変えていないかと考えたことがあったけど、まさかこんなに使われることになるなんてね。それくらい、私は色々な人に頼まれてこの湿布薬を作っていた。

 

 

あっ、そうそう。柱稽古中での原作との違いは煉獄さんの稽古の他にもあった。それは不死川さんの稽古で気絶していた隊士達の中には善逸の姿がなかったというところだ。

原作では善逸は炭治郎とここで再会していたのだが、流石に二度目となると次に進むのが速くなるみたいだ。

あと、玄弥も原作では兄である不死川実弥さんと話をしようとここに来ていたが、今回は既に和解が済んでいるので、ここにはいないようだ。

...それなら、何処にいるのかな。

 

 

 

 

その後、隊員の治療が終わった時に不死川さんが戻ってきたので、私の稽古の方も始まった。

 

 

「オイ、どうしたァ! 逃げてばかりじゃァ、いつまで経っても俺の稽古を突破できねぇぞォ!」

「....分かってますよ。分かっていますけどね」

 

 

それは私も気づいていたのですよね...。

 

 

私は不死川さんの振る木刀を避け続けていた。木刀を振らずに受け止めようという素振りも見せず、ただ不死川さんの木刀を躱していた。たまに避けきれないと思ったものは木刀で受け流したけど。

 

 

何故、不死川さんの言うように一回も攻撃しないのかって?

それは不死川さんの振る木刀があまりに速くて威力も凄いからです!

不死川さんの柱稽古の厳しさは原作を読んでいて大変そうだなと思っていたけど、本当に大変で辛い!

 

初日に何発か当たったし....湿布薬もどきがなかったら打ち身がいくつかできていたと思う。本当に湿布薬もどきを作っていて良かったと思ったよ。湿布薬もどきがなかったら、今頃は体のあちこちが痛くなったと思うし、湿布を作っていて良かった。

まあ、それでも不死川さんのあの木刀に当たれば痛いことには変わらないので、まずは不死川さんの木刀を全て避けるところから始まった。

というより、獪岳や炭治郎達と鍛練をする時に最初にやったことも攻撃を全て避けるところからだったので、いつものような感じかな。

まずは不死川さんの動きに慣れるところから。

 

 

しばらくして、私は不死川さんの木刀を避けられるようになった。だが、私から攻撃することはなかった。

理由は簡単だ。例え避けられるようになっても木刀同士をぶつけ合ったら確実に私が押し負けるというのは分かっているからだ。

 

 

そんなのやってみないと分からないと言われると思うが、私と不死川さんでは純粋な力の勝負でどちらが負けるのかは歴然だ。

そもそも私は岩を斬る時ですら力が足りていないので、勢いや回転を合わせて戦っている。

さらに、色々なことを試したり調べたりしてみた結果、私は筋肉がつきにくい体質だということが分かった。虚弱とかそういうのではない。

私は健康だ。それなりに鍛えているから脂肪とかそういうのは少なく、筋肉も少しはついている。

ただ、そんなムキムキになるというくらいにはつかないのだ。主に上半身が。

 

 

それと、私の戦い方は防御しながら状況を見て隙を突こうとしたり、錯乱させようとしたりというものであり、真っ先に飛びかかって斬りに行くような戦い方ではないのだ。

 

まあ、これは私の考え方が原因かな。私が隙を突こうとしたり錯乱させようとしたりする戦い方なのは、力で勝てるわけがないという考えだからだと思う。

私は普通に刀を振れば、岩を斬る時でさえ苦戦するほどに力がない。刀を回転させたり、円を描くようにして勢いをつけたりすることで、鬼と戦うことができている。たまに華ノ舞いのあの現象に頼ることもあるが、できるだけ直接対決をしないようにと考えてきた。

 

 

けど、それがいつでも通じるとは限らない。『鬼滅の刃』での戦いって力技でゴリ押して勝つという展開があるんだよね。

 

力でゴリ押すのって私に一番難しいことだから、そういう戦い方になったら不利になる。炭治郎や獪岳との打ち合いでも力の押し合いをしたら弾かれていたから、鬼と力比べなんてした瞬間に負ける。そのため、私はできるだけそうならないようにしていた。

でも、それがいつまでも続くとは思ってなかった。

今までは運が良く、最終決戦ともなるとそれを避けるのが難しくなる。そんなのは分かっている。.....だから.........。

 

 

「ン?なんだァ?そんな壁を使ったって、さっきから言ってるがァ、刀を振らねえと次に進めねえぞォ。....いや、テメェ!」

 

 

私が近くの壁を蹴った様子を見て、不死川さんはそれを怪訝な顔をしたが、すぐに何をする気なのか悟り、距離を詰めてきた。

だが、私はそれを回転やバランスを使って上手く避け、そこからすぐに離れた後にまた壁を蹴り...というのを繰り返し、不死川さんの木刀に自身の木刀を当てて、その後に来る攻撃を避け続けた。

 

 

この一連の動きを詳しく説明すると.....壁を強く蹴ることで勢いもつき、その勢いを使いながら不死川さんに向けて木刀を振った。

それは不死川さんの木刀で受け止められたが、受け止められた瞬間に勢いを落とさずに振った木刀と前に出た脚を軸に一回転し、押されるような形で後ろに大きく跳んで壁を蹴り、先程よりも勢いが出たら間合いに入り、木刀を振った。

この流れを私は繰り返しているのだ。

 

 

「こんな勢いで俺に一発当てられると思ってるのかァ?軽い攻撃じゃねェかァ」

「.........」

 

 

不死川さんの言葉に返事をせず、私は壁を何度も蹴り、錯乱させようと動いていた。初めての試みなので、これを一発本番で成功できるのかが分からなくて、返事をする余裕がないのだ。

 

これまでの打ち合いは全て受け流すか、受け止めてから受け流すかして、単純な力での押し合いにならないようにしていた。それは避けなければならないと思っていた。鬼との戦いもそうだ。

私が力に力で対抗するのは難しい。

 

 

基本的に私は毒などを使って、相手を不意打ちするようにして戦っていた。

私は主に相手を不利な状態にして、こちらが有利な状況にするというのが得意だ。力に力で対抗するのが難しかったり無理だと判断したりした場合、その力を少しでも削ぐことにしていた。

でも、それだけでは負けてしまう。

 

 

私はこういう力と力での戦いになった時に、そのような戦い方をしても気合いとかでごり押しされたら確実に負けそうだと思い、圧倒的な力に対抗できる他の方法を考えることにした。

 

そこで考えてみた結果、他の隊士達との戦いや木刀の動きを見て、力のはたらきや作用反作用の法則を上手く利用して計算し、弾性力を使う方法を考えた。

 

 

 

私の言っていることが何なのか分かりませんよね?

知っています。私もこれはどうかと思っていますよ。でも、そっくりそのままなんだよね。

あっ。勿論、しっかり説明しますよ。

だが、そのためにどういった方法なのかを説明するためにも力のはたらきや弾性と塑性のことから見直した方が良さそう。

 

 

まあ、どれも理科の授業で習ったことだけどね。

力を加えることで物体の形を変えたり、動いている物体の様子(速さや向き)を変えたり、物体を支えたりすることができる。力には三要素があり、それが「大きさ」と「向き」と「作用点」である。

物を押した時にその向きの方向に力が加わる力を作用といい、また物を押した時に反対に押される力を反作用という。

力のつり合いは私達が壁とかを押した時に反対向きに同じくらいの力で壁から受けることである。つまり、私達が壁を押すと同時に壁も私達を押しているということだ。

 

分かりやすく説明するとしたらローラースケートに乗った時かな。

ローラースケートに乗って壁を押した時、私達は押し返されて後ろ向きに下がる(自分が押した方向から正反対の方向の力に押される)。この時に作用反作用の法則が働いているのだ。

 

 

次に弾性と塑性のことを話そうか。

弾性とは、ばねや物質に荷重をかけたのちにひずみが少しずつ発生し、その荷重があまり大きくない時に荷重から解放すると、ひずみが無くなる現象のことである。

塑性とは、ばねや物質に荷重をかけて解放した時に、元に戻らずひずみが残ることである。

そして、塑性によって元の形に戻ろうとする力が弾性力なのである。

 

 

.....それぞれのことを整理できたと思うので、ここから本題に入ろうと思う。

 

木刀はその名前の通りに木でできているものである。なので、ゴムのように柔らかいものではない。だけど、弾力のないものでも弾性と塑性は起きる。木刀が同じ木刀に当たろうと人に当たろうと、木刀は少し曲がったり折れたりする。

 

まあ、この稽古では塑性の方が起こる可能性は低いだろう。柱同士の戦いならともかく、隊士の中でそれができる人間は限られていると考えている。

だけど、弾性の方は柱稽古でも起きる。というか、何か物に当たれば起こると思う。

さらに、力の働きでは力の釣り合いに作用と反作用の力が同じくらいの力だからこそできることであり、どっちかの力が上ならその方向へ力が働く。なので、私は木刀を受け止められた瞬間に気づかないように力を少し緩め、不死川さんの木刀を振る力の方が強くなるようにしている。

 

 

こうすることで、木刀が元に戻ろうとする力と不死川さん自身の力により、私は勢いよく後ろに下がることができるのだ。

それを何度か繰り返すことで壁まで戻るくらいの力で不死川さんが木刀を振るようになり、そのくらいになっても不死川さんに木刀を振って受け止められたら力を緩めて弾かれ、壁まで戻されては蹴って、不死川さんにまた木刀を振るというようになった。

 

 

でも、これを不死川さんに気づかれて止められるわけにはいかないから、私はこれらに働く力を上手く使い、木刀を振る力をわざと緩ませていることに気づかないくらいの強さを調整し、力の働く向きを変えてあちこちの壁に行くようにして、錯乱を狙いながら攻撃しているように見せた。

と言っても、これは時間稼ぎくらいにしかならないので、あまり長くは続けられないし、不死川さんも何か別の目的があるのではないかと勘づいていそうだ。ただ、きっかけができるまではなんとか気づかれないようにしないと....。

 

 

...何か言い回しが回りくどいと感じるかもしれないので、簡潔に言うと周りのものを色々使ったごり押しですね。要はごり押しにはこちらなりのごり押しで対抗した方がいいという結論になったというわけです。

 

うん、分かりやすい。

 

 

 

私は壁を何度も蹴り、不死川さんに向かって木刀を振った。壁を蹴ってから木刀を振る度にその勢いが増しているが、不死川さんはまだ余裕そうだった。だが、私は焦らずに不死川さんの様子を見ながらタイミングを計っていた。

 

 

このくらいで不死川さんに一発を当てるのは難しいことに気づいていた。なので、私はある作戦を考えていた。そのため、私はある機会を見逃さないようにして、その時に備えているのだけど.......その機会が早く来てほしい...。

いつバレるのではないかと思って、こっちは内心ハラハラしているのだ。顔には出さないようにしているけど、気づかれそうなんだよね。何を言われても動揺しないようにしているけど。

 

 

そんなことを考えながら壁を蹴って木刀を振った時、不死川さんの体勢が少し崩れた気がした。

 

やっと、かな。ほんの少しだけど、バランスが崩れたということはそれくらいの勢いがあるということね。コントロールは....大体できている。少なくとも木刀を振る方向や場所を定めて振ることはできているから、狙い通りに木刀を振るのは問題ない。不死川さんに何度か木刀を振ったのは絶好の機会を作るためであったが、これを確認するためでもあった。

 

 

私は戻ってから壁を強く蹴り、今までよりも勢いをつけて不死川さんの間合いに入り、木刀を振った。いきなり威力が上がったことで押し切りそうだったが.......流石は柱だ。

すぐに両手に力を入れてそれを受け止め、私は少し力を緩めて勢いよく壁まで戻された。だが、私は一回転して脚に力を入れ、また思いっきり壁を蹴って不死川さんに向かい、また木刀を振った。振る勢いが上がった所為で前より押している感じがするが、不死川さんは私の攻撃に対応できている。同じ手はもう効かないらしい。

 

まあ、私もその適応力を知っているから、この方法が不死川さんに通じるのは一度だけであり、失敗すれば使えない戦法であるということも分かっている。

なので、そろそろ次の段階に移行しようと思う。

 

 

 

そう思いながら私は壁を蹴り、不死川さんが木刀を振った。

 

あれ?さっきと同じ流れではないかと思われるだろう。

そうですね。ここまでは先程までと同じ流れで、この後で木刀を振ることになるはずですよね。

 

 

だが、私は木刀を振らずに不死川さんの木刀を空中で一回転して避け、不死川さんの横を通り過ぎ、逆の面の壁に足をつけ、その壁を強く蹴って木刀を振った。だが、不死川さんはすぐに対応し、その攻撃を受け止めてきた。不死川さんが木刀を横に振った所為で、私は力を抜いた瞬間に勢いよく隣の壁まで戻された。

 

 

これも不死川さんに対応されたけど、こうなることは想定内だ。勢いが結構ついているけど、まだ不死川さんが反応できるくらいの速度と威力みたいだ。このまま続けても不死川さんを追い詰めるのは難しく、まだまだ時間がかかりそうだ。だけど、それは力だけの勝負になったらという話だ。

 

....えっ?さっきごり押しで行くって言ってなかったかって?

うん、ごり押しではあるよ。でも、ごり押しはごり押しでもそれは最終的なと付くものであり、少し違うのだよね。

 

 

私は勢いをそのまま保った状態で、壁に足をつけてから一回転して方向を定めて蹴り、不死川さんに木刀を振った。不死川さんは真横から向かって来る私を見て、こちらも木刀を振り下ろしてきた。

私は不死川さんの木刀に自分の木刀を当てると同時に、その接触で木刀を振る向きを変えさせた。畳み掛けようというこの場面で方向転換するのは流石にあちらも予想外だろう。

私が木刀を振った時には既にこれを狙っていた。不死川さんの木刀を振る方向が変わるようにするため、私はあえてそうなる場所に当てたので、不死川さんの木刀は私の飛ばしてほしかった方向に動き、その方向に私の体が飛ばされていく。

 

 

飛ばされる先は天井だ。私が勢いをつけていたのは速さを上げるためではなく、天井に辿り着けるくらいの勢いになるのを待っていた。

 

私は一回転して天井に足の裏がついた瞬間、すぐに木刀を構え、今まで以上に脚に力を込めてから思いっきり蹴飛ばした。不死川さんは天井に向けて木刀を振ったが、蹴った時に少し回転をかけていたことと木刀を振った動作から、その攻撃を避けることができた。

そして、重力に従いながら、木刀をある一箇所に当たるように意識して振った。ある一点、刀でいう鍔の辺りに当たるように狙いを定め、全力で木刀を振った。それは刀でいう背の近くに当たり、それが予想外の場所であったことから押し返せなかったため、不死川さんの体勢が少し崩れた。私はその隙を見逃さず、木刀を強く握りながら体の向きを変え、木刀を振った。

 

 

不死川さんは私が何をしようとしているのかに気づき、すぐに体勢を整え直し、振り向いて木刀を振ろうとしたが、その前に不死川さんの動きを止まった。何故止まったのかというと、私が不死川さんの背中に乗り、そこから木刀を首元に突きつけたからだ。

 

不死川さんも背中に乗られたのは予想外だったらしく、一瞬動きが止まった。その一瞬がこの打ち合いの明暗を分け、私は不死川さんに木刀を向けることができた。

 

 

「不死川さんの言う通り、私の力では純粋な力勝負になってしまえば勝つことなんてできません。

ですが、例えどんなに力の差があっても、私は精いっぱいできることをやり尽くして、自身の使う戦法が通用しないなら別の方法で勝ち筋を見つけますよ。何度も何度も挑戦して、失敗を繰り返そうとも私は耐え続けてその機会を掴もうとしますし、諦めずに抗い続けていきますから。

....ところで、これは勝ちでよろしいですか?」

「.....テメェ、生意気な性格だと言われねェか?負けん気が強ェようだしなァ」

「知りませんでしたか。私、割と諦めが悪いのですよ」

「........あァ。次に行っていいぜェ」

 

 

私は不死川さんにそう言って木刀を離し、背中から降りた。

 

危ない、危ない。まさか不死川さんの背中に乗ることになるとは。

実は本来なら不死川さんの背後かその近くに着地するはずが背中に着地してしまい、一着地してしまった時は頭の中が疑問符でいっぱいになった。

だが、それと同時に隙のできた瞬間であることも理解していたので、振り上げていた木刀を咄嗟に突きつけることができた。

 

 

....あっ。突きつけたと言っても、ちょんっと軽く触れたような感じだからね。首元に叩きつけるのは流石に駄目だと思ったから.....。

...一応。一発当てるだけでいいならこれで良いのかなと思ったけど、不死川さんがどう思うのか分からないので、とりあえず聞いてみたら大丈夫だった。

良かった....。ここまでしても駄目だったら、どうしようかとも思っていたからね...。

 

 

あと、不死川さんの背中に乗った時は本当に生きた心地がしなかったよ。ちょうど「殺」という文字が書かれたところに着地したことに気づいた時はヒヤヒヤしたけど.....。

....まあ、終わり良ければ全て良し、かな...。でも、今回はたまたまだったから、次はもっとしっかりしないと.....。

 

 

 

それにしても、今までの鍛練がこうも身を結ぶと嬉しくなる。

私は力勝負があまり期待できないと気づいた時、別のものをもっと鍛えてそれで補おうと思い、行動することにした。

そこで、私が最初に鍛えたのは反射神経とバランス感覚だ。反射神経は既に蝶屋敷の機能回復訓練で鍛えているでしょうと言われそうだが、そのくらいでは駄目だ。もっと素早く動けるように鍛えておく必要があると考えた。

 

 

どうしてこの二つを最初に鍛えることにしたのか?

まず反射神経を鍛えれば咄嗟の回避ができるからだ。すぐに受け身を取れるようにした方があまり時間をかけずに行動できる。その方が有利に動けると思ったのだ。

 

 

次にバランス感覚を鍛えたのはそれが鬼殺隊との戦いで地味に重要なことだからだ。鬼との戦いで列車の上で戦ったり、遊廓の瓦の屋根の上で戦ったりするし、鬼の血鬼術で位置を変えられたり宙に浮いてしまったりすることもあるのを原作で知っている。

原作を見ていた当時の私はバランスを崩さないかとか、よく着地できるなとか他人事としてそう思っていた。

だが、それを実践しないといけなくなったので、受け身を取れずに変な体勢で着地することになったり、バランスを崩して落ちてしまったりすることがないようにと思い、平衡感覚を高めることに力を入れた。

鬼との戦いで足場がしっかりしていない場所なんてあまりに多いから、戦いが終わった後に思い返して、もしあそこで落ちていたら危なかったと顔が真っ青になったことだって幾つもある。

 

 

......本当に鍛えておいて良かったと何度も思うよ。

どんな場所でも平気でいられるようにするためにも、何が起きてもバランス感覚を保っていられるようにするためにも、それらを華ノ舞い同様にかなり重視して鍛えていたからね。

その結果、このような動きができるようになったのだから、色々鍛えておいて損はなかったと思っているよ。

 

 

「....宇髄の言う通り、テメェはただの餓鬼じゃねェなァ。結構鼻っ柱が強ェし、鉄砲玉みてェな行動力はあるし、度胸もあるようだァ」

「それは一体どういうことですか!私は宇髄さんに何と言われているのですか?」

 

 

私が安堵していると、不死川さんが急にそんなことを言ってきた。不死川さんの言葉を聞き、私は不死川さんの方を向いて反論した。何故そんな風に言われているのか分からない。

 

宇髄さんは一体何と言ったの?それとも、そのような子どもだと報告したの?是が非でも問い詰めたい。

一応この世界に転生しているけど、私は普通なのだと思っている。

それと...見た目は子どもだけど、精神年齢は貴方達より年上だよ。餓鬼とか呼んでいるみたいですけどね。

 

 

「....にしても、テメェが現れてから妙なことが起こるなァ。前は鬼の目撃情報がいくつかあったが、今回は何一つ情報がねぇもんなァ」

「......えっ?」

 

 

私が心の中で文句を言いながら片付けと準備をしていると、不死川さんがそう呟いた。不死川さんの一人言を聞き、私は一度思考が止まったが、すぐにその話がどういうことなのかに気づき、頭の中が疑問符でいっぱいになった。

 

 

それは可笑しい。

 

だって、柱稽古をしているこの時期は鬼が全く出ない筈なのだ。原作ではこれから先の大きな戦いのため、鬼がいない今に備えようとして、柱稽古を始めた。原作ではそうなっていたのだ。

.....それなのに、前回はどうして鬼がいたの?

 

 

「不死川さん。それについて、もう少し詳しく聞かせてもらっても....」

「あァ?別に構わねェがァ.......」

 

 

私は不死川さんの言ったことが気になり、詳しく聞くことにした。不死川さんは私の様子に少し疑問に思っているようだが、今の私はそれを気にすることができなかった。

もうそれどころではなかったのだ。

 

 

私の気のせいであってほしいと願った。だが、不死川さんの話は私の想像を遥かに超えたものであった。そしてその話を聞いて、私の頭の中にある仮説が浮かんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

不死川さんの稽古を終えた後、私は悲鳴嶼さんの稽古に行った。だけど、私はそのことに喜びを感じていなかった。悲鳴嶼さんの稽古が一番辛いものであるからというわけではなく、別の理由があった。

それが原因で、私は悲鳴嶼さんの稽古の説明すら頭に入らなくなっていた。

 

 

まあ、悲鳴嶼さんの稽古は原作と同じものだったし、その稽古の内容は最初に滝に打たれ、次に丸太を三つ担ぎ、最後に岩を一町先まで運ぶというシンプルな修行だったため、あまり詳しい説明がなくても大丈夫だった。

 

 

ただ人の話を全然聞いていないというのは失礼だから、そこは反省しないと。

 

そう思っていたが、どうしても気がかりなことがあり、何度も言い聞かせてもどこか上の空になってしまう。

 

 

それでもずっとそうしている訳にはいかなかったので、最初の滝に打たれる修行を始めることにした。

それに、滝に打たれたら、少しはこの頭を覚ますことができるのではないかとも考えていた。

一応、滝に打たれて頭がすっきりした。ただ、かなり長い時間滝に打たれていたため、周りの隊士達に心配された。定められた時間を過ぎても全く滝から出て来なかったので、何かあったのかと思われていたが、頭の中のモヤモヤがなくなった後、色々考えがまとまり、隊士達の心配に気づかずにそのまま集中してしまっただけである。

 

 

なので、私は滝から出てきた後、周りの隊士達の様子を疑問に思っていた。

私がなかなか滝から出てこないことで、心肺停止になっていないかと不安になっていたからと聞いた時にはとても申し訳ない気持ちになった。

 

...皆さん、お騒がせいたしました。

 

 

 

 

それにしても、ここの隊士達は優し過ぎませんか。

 

不死川さんのところでは隊士達の怪我の治療をしていたということで仲良くなっていたが、ここでも初日でこんなに良くしてくれるなんて...。

 

 

そんな感動を抱きながら私は昼ご飯をさっさと食べ終えた。休憩時間ということで、少し周りを見てみたら玄弥がいた。どうやらここで個別に鍛練をしているようだ。

ちなみに、善逸達も自主練をしているそうだ。

 

そこで少し話して玄弥が修行に戻った後、まだ休憩中だということもあり、ある人を探して話しかけた。

 

 

 

「.....獪岳。少し聞きたいことがあるけど、いいかな?」

 

 

私が声をかけたのは獪岳だ。滝修行をする前に獪岳がまだここにいるかは確認していた。それを知って、獪岳は岩を押していたが、私が声をかけたらこっちを向いてくれた。

獪岳は稽古の途中に声をかけられたことで不満そうにしていたが、私の質問には答えてくれる気ではあるようだ。

 

ごめんね、獪岳。でも、どうしても聞きたいことがあるの。

 

 

私が前回関係のことを聞きたいのだと察したらしく、獪岳は溜息を吐いた。

 

 

「...何か聞きたいことがあるのか。だが、俺は前回鬼になっていたから、この時期の鬼殺隊のことなんて知らねぇよ」

「いえ、私が聞きたいのは鬼殺隊のことではないよ。今、私が知りたいのは鬼側の情報なの」

「はっ?」

 

 

獪岳は鬼殺隊のことで何か聞きたいのかと思っていたようだが、私が鬼側のことを聞いてきたことは予想外だったらしく、驚いた様子でこちらを見てきた。

 

 

うん、そういう反応になるよね。今までの私は鬼殺隊の様子とかをよく聞いていたけど、鬼のことはあまり聞くことはなかったからね。前回の炭治郎達のことで鬼殺隊の動きに変わったところがないのかと思って、私はその時の鬼殺隊がどんな動きをしていたのかとか何か不自然なことがなかったかとか、そういうことばかり聞いていた。

鬼に関しては戦いの前に前回と原作で何か違いがないのかを確認するくらいだったから、今更鬼の動きを詳しく知ろうとしたら驚くし、不審に思うよね。

 

 

鬼のことを聞かないといけない状況になり、私は急いでそれを聞いているが、今更ながらこんなことを聞く私に何か質問してくるのは間違いない。

だが、私はその質問に答える気がないのに、こうも率直に聞いた。答える気なんてないのに、自分の聞きたいことを知ろうとしているのだ。

厚かましいことをしているのは理解しているけど、そうも言っていられないのだ。

 

 

「獪岳は覚えているのでしょ。鬼だった時の記憶を」

「....ああ、まあな」

「それなら、教えてほしいの。前回のあの時、............」

 

 

私が獪岳に確認するとやはり覚えていたそうなので、私は獪岳にあることを聞いた。それは仮定の話であり、確証を得るために鬼側の動きをよく知っている獪岳から話を聞くことにした。

そして、その内容は私の予想通りのもので、私はそれを聞いて無言で拳を強く握り締めた。

 

 

「......そうなんだね。分かった。ありがとう」

「おい、どうした。.....お前、何かに気づいたか」

 

 

私は獪岳に話を聞き終えてから何事もなかったように振る舞い、お礼を言ってその場から去ろうとした。

だが、獪岳は私を引き止めた。顔に出しやすいのは知っているから、さっさとここから離れようと思ったけど、やはりすぐにバレてしまった。

不死川さんにはバレなかったけど、鬼殺隊より付き合いの長い獪岳の目は誤魔化せなかったみたいだ。

 

 

獪岳は私が何かを隠していることに気づき、それを問い詰める気なのは察している。その視線からも逃がす気はないと言っているのが分かる。

...さて、どうしようか。とりあえず惚けておこう。

 

 

「....どうしてそんなことを聞くの?」

「俺にそれを聞く前から少し変だと思ったが、話を聞いてから明らかにおかしくなった。...嘘つけばバレバレな癖に何を隠していやがる」

「......誤魔化せなかったみたいね。やっぱりバレバレなんだ...。

....でも、言えない。これは私が解決したいの。私が...絶対に......」

 

 

私は動揺を顔に出さないようにしながら聞くと、獪岳はまた溜息を吐いてそう言った。私はその言葉にドキリとした。

気づいているようなので私は隠すのを止めたが、それを答えることはできないと言い、獪岳の質問には何も答えなかった。

そのことを申し訳なく思いながらも、私は丸太を担ぎに行くことにした。獪岳に内心何度も謝りながら。

 

 

ごめんね、獪岳。これについては言えないの。

いや、言いたくない。炭治郎達のことも鬼殺隊のことも、獪岳のことだって話を聞きたいと思って尋ねたり、口を出したりしてきたけど、これは私が解決しようと思っている。たぶん気づいているのは私だけなのだから。

自分勝手な行動であることは分かっているけど、私はこの問題を自分の力でなんとかしたいの。

 

 

 

 

 

「ったく、バレバレなんだよ。お前は動揺することはあったが、そんな険しい顔はしたことねぇんだ。しかも、余裕はねぇようだな。....なら、俺の知らねぇところで何かあったんだろうな。

......何を黙ってるか知らねぇが、お前が一人でやりたいならこっちも黙ってやる」

 

 

獪岳は丸太を担ぎに行く彩花の姿を見ながらそう呟いていたが、彩花の耳には届いていなかった。

 

 

「しかし、あのバカは確か...百年後の未来から転生したとか言っていたが、百年後の未来の奴等は結構図太い性格の奴が多いのか?あいつ、戦いとか無縁の世界の人間だと言っていたが、妙に逞しいんだよな」

 

 

だが、獪岳のその言葉だけは丸太を持ち上げようとしている彩花に聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

図太い....のかな?どうやらそう見えるみたいね。でも、私は内心かなり動揺していましたし、ただ自身のやりたいことをしているだけですし、ここまで強い意志を持てたのは炭治郎達と関わってきたからでもあるかな。

 

それに、逞しいとも言われたけど、前世の私はそんな逞しいと言われる人ではなかったはずだし、むしろ大人しいとかそう言われていたよ。

転生してからも慎ましく暮らしていこうと思っていたけど.....炭治郎達と出会ってからは色々あり過ぎて、もう慎ましい生活を遅れなくなったからね。

......思い返してみると....私、どうしてこんなに巻き込まれているのだろう...。

 

 

そう考え込んでいる間に、三つの丸太が私の身長より上に上がった。どうやら丸太を持ち上げられたようだ。これで丸太の試練も終わりだ。

だが、私は考え事をしていたため、丸太を担げたことに全く気づかなかった。数分後、丸太を担いでいることに気づき、それに驚いて丸太を投げてしまい、その丸太が村田さんに当たりそうになった。

 

 

 

 

勿論、村田さんにはきちんと謝りました。

 

 

ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした、と。

 

 

 

 

 

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