笹の葉の少女は幸せを願う   作:日々草

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笹の葉の少女は答え合わせをする 前編

 

 

 

獪岳が次の稽古に行ってから、私は岩を一町先まで押して運ぶという最後の修行を始めた。

この修行は反復動作を使わないといけない。反復動作のことは原作で既に知っているし、悲鳴嶼さんが教えるのが苦手なのも分かっているため(あと、私の立ち位置的なものから色々気まずい)、私は原作を思い出しながら反復動作の習得に挑戦してみることにした。

でも、反復動作に挑戦する前に考えることがあり、そこから始めた。

 

 

何を考えたのかというと、自分の集中力を高めるためには何をするべきかについてだ。

 

 

反復動作とは、集中力を極限に高めるために予め決めておいた動作を行うことである。

 

原作ではこの修行で炭治郎達が反復動作を習得していた。その具体的な方法はというと......玄弥の場合は念仏を唱えることで高い集中状態にする。炭治郎の場合は大切な人の顔を思い浮かべ、煉獄さんの「心を燃やせ」という言葉を思い出すことで、頑張ろうという気持ちを奮い立たせ、その気持ちが集中力に変わらせる。伊之助の場合は単純明快に大好物の天ぷらのことをイメージして集中力を高めるという精神面に寄った行動である。以上が三人の反復動作だ。

 

 

私はこの三人の例を思い出して、どの方法が集中力を高めやすいのか考えることにした。

 

玄弥の念仏を唱えるのは効果がありそうだが、念仏を唱えるよりも良い方法があるかもしれないから、一度保留にしておこう。

食べ物を思い浮かべるという伊之助の方法も集中力を高められるのは間違いない。勉強する時とかでこの問題を解いたらご褒美が待っていると思い、やる気と集中力を上げるというのに近いものだろう。

炭治郎の方法も伊之助と似たようなものだ。どっちも頑張ろうとする気持ちによって集中力を高める。玄弥も念仏がその気持ちを引き出すのだろう。

ただ、その気持ちを引き出せる対象が人や言葉、好物だという違いだ。

 

 

私は......念仏で集中できてもやる気を引き出せるかどうか微妙だし、伊之助のように好物を想像するとお腹が空きそうだな。

....笹団子...鬼殺隊に来てから全然食べていないな....。ほとんど屋敷に缶詰め状態だったし......。

だけど、もし好物を教えると、それを使われて何かを頼まれたらちょっと辛い(駄目だと思ったものの場合は断るけど、それでは生殺しになるので、個人的にそれが辛い)ので、言わないことにした。

普通にお八つとして食べられる可能性もあったが、念には念を入れた。

 

どうして笹団子のことでそうなっているのかって?

疲れていると、甘いものが欲しくなるでしょう。そういうことです。特に、その食べ物が大好物となると、効果はさらに倍増します。なので、念のためにやっておく必要があるのです。

 

 

お陰様で、遊郭での戦いの後から笹団子を全く口にしない状況になったけどね....。

...こんな状態で笹団子のことを考えると.....。....駄目だ。集中力を高めるどころではなくなる。逆に食欲の方が刺激されて、笹団子を食べたいとしか思えなくなりそう。

.......これは一度滝に打たれて、この煩悩を打ち消した方が良いかな...?

 

 

て、そんなことを考えている場合ではない。今は何を想像したら集中力を高められるのかを考えないと。

 

....他の食べ物は......同じような結果になりそうだから、無しにしよう。

でも...笹団子などの好物が駄目だとすると....炭治郎のように人や言葉を思い出す方が私に合っていると思う。その方が私もお腹が空くことはなく、集中力を高めることができるから。

よし。この方法で行こう。次は.....誰をイメージするのか....今までどんな言葉でやる気や元気が湧いてきたのか.......。

 

 

そんなことを考え続けながら岩を押すだけで、結局岩をその場から動かせずにその日は終了した。

 

改めて考えると難しかった。単純に食欲を我慢して好物をイメージすることでやる気を引き出した方が良かったのではないかと思ったが、もう少し考えることにした。こういうのは意欲が大切だからね。

あと、このことから課題も分かったから、そっちを解決しておかないと反復動作は習得できなさそう....。

 

 

 

 

それから数日後、何を想像するのか考えながら、筋トレとかをしているうちに反復動作で岩を押せるようになった。

今回のことで分かったことがある。それはイメージするものも大切だが、これは筋肉が大事だということである。

不死川さんの時から言っていたが、私は前世から筋肉がつきにくい体質だ。これまではある程度鍛えていたおかげで鬼の頸を斬れるくらいの筋力はあるのだが、柱や炭治郎達と比べると、私の筋肉の量は少ないだろう。

 

私は何をイメージするのかに夢中で、筋肉の方を意識していなかった。

悲鳴嶼さんの稽古は強靭な足腰を作るのが目的なのに、どうしてこんな大事なことを忘れていたのだろう...。

 

 

ただ、それだけではない。足腰を鍛えるのがこの稽古の主旨であるが、腕の力もしっかり鍛えておかないと駄目だ。

最初に足腰の力で岩を押していた時に岩を押す腕がプルプル震え出し、私の方が押し負けて腕を曲げてしまったからね。

でも、足腰にどれほどの力があるか確認したかったので、そのまま岩を押し続けたら体を岩にくっつくみたいになり、なんだか体当たりしているような体勢になった。

でも、その状態で岩を動かすことができた。だから、足腰にそれができる力があるということは判明した。

 

ただ、岩が動いたことに喜ぶべきか、こんな体勢じゃないと岩を動かせないことを悲しむべきかで悩んだよ。

 

 

まあ。一町先まで岩を押して運べなかったから、この修行は続くのだけど。岩を押せるようになってから今日まで二日くらい時間がかかったけどね....。あの体勢だと通常よりかなり体力を使うから。

 

それに、一町先って令和だと約百十メートルくらいはあるんだよね。百十メートルって、前世では百メートルなら体力測定や運動会で十秒内であっという間に感じたけど、走るだけならともかく、大きな岩を押して運ばないといけないとなると、想像以上に距離があるのだなと感じたよ。当たり前なんだけどね。

 

でも、時間はかかったけど、その間に何度も滝に打たれたり丸太を担いたりしていくうちに腕の筋力が上がったらしく、一町先まで運べた時には漸く体当たりのような体勢でなくても岩を押せるようになった...。

 

 

「.......よし!....うっ。汗をいっぱいかいたから、脱水症状が...。水、水」

 

 

私は一町先まで岩を運べたことを喜びたかったが、その前に眩暈がして座り込んでしまった。私はあの眩暈から脱水症状が起きていることに気づき、すぐに竹筒を取り出してその中の水を飲んだ。

 

 

原作では炭治郎が岩を運べ終えた後に脱水症状を起こしていたことから、脱水症状を警戒し、そのための対策を予めしていた。その対策というのは、岩を運ぶ修行の最中は水を入れた竹筒を持っておくという至ってシンプルなものだが....。

まあ、予想した通りに脱水症状が起きたので、水を用意しておいて良かった。

 

 

そんなことを思いながら、私は念のためにもう少し水を飲もうと竹筒に口をつけ、もう一度中にある水を飲んだ。

 

どうやら想像以上に喉が渇いていたのだろう。気がつけば竹筒の中は空になった。

竹筒の中の水をあっという間に飲み干してしまったようだ。

 

 

「悲鳴嶼さん、一町先まで岩を運び終えました」

「......そうか。よくこの修行を終えた。では、冨岡のところへ向かっても大丈夫だ」

「ありがとうございます」

 

 

水分補給が済み、私は悲鳴嶼さんに修行を全て終えたことを報告しに行った。報告した後、悲鳴嶼さんはそう言い、次のところに向かってもいいという許可をくれた。

私は悲鳴嶼さんに頭を下げ、義勇さんのところへ行く準備をしようと背を向けた時、悲鳴嶼さんが声をかけてきた。

 

 

「....生野彩花。一つ、聞いてもいいか。未来には鬼がいないのだな。それなのに、何故鬼と戦った?鬼と無縁の生活を送り、作り物だと思っていた存在に何故立ち向かえたのだ?」

 

 

私は悲鳴嶼さんの質問を聞き、私はこの質問に驚いた。だが、私にこれを聞くきっかけはなんとなく理解しているので、動揺していることをあまり顔に出さないようにしながら何と答えるかと考えた。

 

 

「.....まあ、怖いものは怖いですよ。先程言われた通り、私のいた世界には鬼なんていませんでしたから。鬼がいないので、夜道を普通に歩いていても命の危機は感じません。と言っても不審な人が襲ってくることはあるので、完全な平和とは言えませんでしたが。ですが、それは相手が人間であることを知り、そういったことが起こらないようにして、なおかつ防犯グッズという対抗策があり、警察という守ってくれる人がいるために対処することはできました。

私達は自分が知っていて、自身を守ることができるのなら、余裕を持てるでしょう。ただ、未知のものに対しては誰もが立ち向かえるというわけではありません。

貴方が鬼に立ち向かったことはとても凄いことだと思います。その行動をできる人が必ずしもいるとは限りませんから」

 

 

そして、悩みながらも私は額面通りに受け取った方の答えから言うことにした。

おそらくこの言葉は悲鳴嶼さんが求める答えではないかもしれないが、私はそれでも続けた。

 

 

「緊急時の対応は人によってそれぞれあり、思うこともまたそれぞれです。十人十色ということですよ。その時に誰が何を思い、どう行動するのかは必ず同じというわけではありません。人によってはその行動を理解し合えないものがあると思います。

ですが、その全ての行動に共通するのは自分の身のためにしたことなのです」

 

 

こう言った時、悲鳴嶼さんが大きく反応した。私はそれに気づかないふりをして、次の言葉を言った。

 

 

「危機的な状況に陥れば本性が出るという話がありますが、それが本性だとしても、それを責める必要があるかどうかは受け取る人によって違うと思います。貴方は複雑に思うかもしれませんが、未来では立ち向かうことと見捨てて逃げることに賛否両論があります。立ち向かうことに私は凄いことだと思っていますが、ある人によってはそれを無謀な行動だと非難する人だっています。また、見捨てて逃げた人は非難し、ある人はそれに共感する人だっています。

これは状況によって意見が色々分かれると思いますけど....それでも、一番大切なのは自分自身がどうありたいと思っているのかです。

賞賛も非難もそれは他人の感情です。その賞賛や非難でどうするのか決める人はいますが、それはただ自分の決めた理由の一つになるだけです。背中を押すきっかけになりますが、一歩を踏み出すことを決断するのは自分自身なのですよ。

誰かに言われてもこうしようと思ったというのも、周りに流されようと自分が決めたということですから、大事なのは自分がどう決めたのかということなのは間違いないと私は思っています」

 

 

私は悲鳴嶼さんと獪岳の過去を思い出しながら、それについて思ったことを話した。

本当に私は最近思ったことしか話さないな...。

.....だけど、自分が撒いた種みたいなものだし、獪岳の時と同じように自分の考えを話そう。もしかしたら何か答えを見つかるかもしれないから......。

 

 

悲鳴嶼さんのあの質問に関しては心当たりがある。きっと獪岳のことだろう。悲鳴嶼さんと獪岳が何を話したのかは分からないが、その話で悲鳴嶼さんに何か思うところがあったのだろう。それで、私に声をかけてきたのかな。

というか、何でそれを私で試そうとするのかな?私は確かに獪岳の背中を思いっきり押したけど、それが原因で悲鳴嶼さんに何か別の思惑があって聞き終えたのかな....。

私はいつの間にか誰でも聞くお悩み相談室みたいなのを始めていたのかな?でも、流石に悲鳴嶼さんの相談相手になるのは緊張する。

まあ、私は悲鳴嶼さんに答えを提示するつもりがないけどね。あくまで手伝いくらいかな。

 

 

「それに、先程の話と似たようなことを言っていますが.....人間は必ずしも、いつも善良であるとは言えません。魔が差すことだってあります。それはきっと些細なものから大きなものというように色々あります。些細なことで魔が差したものが大きくなってしまい、取り返しがつかなくなってしまう、そんなこともあると思います。

どんな人間でも時に魔が差すことはありますし、その後に踏み止まれず、それから時間が経ってそのことで後悔するということになる人もいるかもしれません。そういった人達の中には後戻りができないという人もいます。...それは当然ですけど、本来過去に戻るなんてことはできる筈がないのですから。そのことで理解できないものもあるでしょう。

ですが、例えそれを理解し合うことはできなくても、分かち合うことはできる....ですから、勝手に決めつけて視野を狭めるのではなく、どんなに辛いものであっても、それを鵜呑みにせずに自分で判断しないといけません。それだけが真実だとは限りませんから」

 

 

私はもう遠慮なく鬼殺隊最強の人に堂々と自分の思ったことを言った。

というより、最早無礼なのかと考えるのを止めた。色々やっているから全部言ってしまおうという思いがあった。なので、思いっきり吐露することにした。

 

 

「それが事実であってもそうでなくても、人は見聞きして感じたことを信じます。でも、それらの情報の中から何を信じるのかを決めるのは自分自身であり、その上で自分が何を思い、どうしたいのかは人それぞれです。

....だから、私は最初に知るところから始めています。何があるのかを知らないと、この情報は信じるかどうかを決められません。そして、色々調べて知り、そこから何が正しいのかを考え、自分でその答えを見つけていくのです。

信じるものもまた人それぞれであり、一つの出来事に対してバラバラの意見があります。それは見方や考え方に違いがあり、それらの意味や理由などを知った上で、自分はそれらから結論を見つけた方が良いと思いますよ」

 

 

私はこの際にと思い、この作品を読んでから直してほしいと思っていたことを指摘した。

 

 

原作の柱合会議の時からもう少し視野を広くして、冷静になって考えた方が良いのではないかと思っていた。

柱は炭治郎達と比べて、様々な鬼と戦っていたから、人を食わない鬼と聞くと今までの認識から否定した。これは仕方がないことだと思うけど、もう少し冷静になってほしかったなとも思う。今までの自分達の常識からあり得ないこととはいえ、実際に義勇さんがその存在を見ている。

それに、鱗滝さんも元柱であり、長い間鬼と戦ってきた人だ。その人達がこの鬼は違うのだと言っているのだから、何かがあると考える。

だからこそ、御館様もその存在を認めている。今までの認識から頭ごなしに否定するのではなく、理由をしっかり聞いてその真意を汲み取り、どうする方が良いのかと決断する。

まあ、その決断には自分の経験が関わるのは間違いないが、それでもその意味を考えた上で判断しないといけない。意味が分からない、あり得ないで終わらせるのではなくてね。

 

 

柱のほとんどが鬼に恨みがあるため、感情的になってしまうのは仕方がない。だけど、感情に身を任せずに行動した方が良い。特に不死川さんは突っ走り過ぎだ。

 

 

人の数だけ色々な意見が溢れている。意見や情報もそれぞれだ。その中には誤ったものはある。でも、その中で知らなかったことや新たな発見だってあり、私達はそれを信じるのかと考え、信じる人と信じない人に分かれるだろう。

 

一応二択に分けたが、二択で済むわけではないと思っている。この意見のここが正しくてあの部分は違うと言う人がいたり、こっちの意見が正しそうだが、そこは少し違うのではないかと考える人がいたり、両方とも正しい、正しくないと思う人がいたりする。

一つのことで意見が幾つも分かれ、事実だと思うものも人それぞれ違いがある。

全員が同じ意見を持っているわけではなく、違う考え方をしていて、それには必ず意味がある。それらに気づき、知ることで自分の感じていたものを見直すきっかけになり、一度整理してどれを信じるのか判断し、考えを纏めるきっかけにもなる。自分の考えは何度も変わっていくことになるが、それでもその時に納得できる答えを見つけられれば良いと思っている。

 

 

まあ、これは本当に私の個人的な考えなんだけどね。

 

 

「しかし、分かち合うことは理解し合うことよりも簡単ではありますが、人によっては自身の自尊心でそのことを言えない、素直になれない人もいるのです。これはその人の性格が原因なので仕方がない部分もあると思いますが、そういう人達にこれは難しいことです。ですが、あまり難しいように考えない方がいいと思います。複雑に考えず、自分の心から思い浮かんだ答えを見つける。それが一番納得できる答えではありませんか」

 

 

私は悲鳴嶼さんにこの言葉を送った。本当は目を合わせたかったけど、悲鳴嶼さんは目が見えてないから、目を合わせられても気づかれないよね。

 

これは私なりの助言である。獪岳の性格からして、これに当てはまると思うし、そういう人が少なくないのは確かだ。獪岳と本当に和解したいのなら、獪岳の性格を考える必要があるからね。

 

 

「まあ、これは私の考えというだけですから。参考にしておくくらいで良いと思います。あまり盲目的に信じ過ぎず、自分の意思でこうしたいと思ったことをした方が悲鳴嶼さんのためになると、私は思いますよ。結局、その決断ができるのは悲鳴嶼さん自身なのですから。答えを持っているのは私ではなく、悲鳴嶼さんですよ」

 

 

私は最後にそう締め括って会話を終わらせ、悲鳴嶼さんから離れて準備をすることにした。あまりここで長時間も話をしていると、稽古をしている他の隊士達に迷惑をかけることになるかもしれないからね。

 

 

それに、後は悲鳴嶼さんが自力で答えを見つけた方がいい。悲鳴嶼さんは信じたものをとことん信じ込んでしまう性格なので、答えは自分で見つけて、それを信じるかどうかを決めてほしい。

...できることなら、これで少しは宗教のように、盲目的に信じるのが直るといいけど.....。...悲鳴嶼さんは寺に住んでいたことから仏教を信仰していたし、目が見えないことからも盲目なのだけどね......。

 

 

その盲目的な信頼は良いところになることがあるけど、悪いところもあるからね。まあ、それはどんな性格でも共通するのだけど、そういったところを少し改善した方が良さそうなので、お節介だが意見させてもらった。

 

これからは頑固なのも程々にしておいてください。

 

 

「それではまた」

 

 

 

 

 

私は悲鳴嶼さんにもう一度頭を下げ、準備をし終えた後に義勇さんの屋敷に向かった。義勇さんの屋敷には何度か行ったことがあるので、特に迷うこともなく着いた。

 

 

「こんにちは。義勇さん、いらっしゃいますか?」

「...ああ」

 

 

私は義勇さんの屋敷に着き、門の前で一声かけてから返事が来るのを待ち、返事が聞こえてから屋敷に入った。

屋敷に入ると、義勇さんが玄関で立って待っていた。気配なんて全く感じていなかったが、私は特に動揺しなかった。蝶屋敷で慣れてしまったからだ。

 

だって、あんなに何度も経験したのだから慣れない方がおかしい。

 

 

「......あれから炭治郎達とどうですか?」

「何故かタラの芽を買ったことを怒られた」

「...それはそうですよ。ですので、他の方法を考えた方がいいと思いますよ」

「....最初は喜んでくれた」

「限度というものを考えましょうね」

 

 

私が義勇さんに炭治郎のことを聞くと、義勇さんはなんだか納得していない様子でそう言った。私は義勇さんの言葉に苦笑いしながら助言すると、義勇さんは不満そうな顔をした。私はその様子を見て、またやりそうだなと思い、義勇さんの行動を別方向に誘導することにした。

 

 

あの会話だけでは分からない方がいると思いますが、私には理解できるので、問題はありません。

 

義勇さんの口下手に関しては義勇さんにもっと口数を増やしてもらうよりも、こちらが義勇さんの言葉やその意味を理解するようになった方が早いと思う。現に私がそうだ。義勇さんと大分意思疎通できるようになった。

あと、義勇さんの行動を知っているのも何の話をしているのか分かる理由の一つだ。

 

 

原作で義勇さんがおはぎを懐に入れて持ち歩くことがあった。義勇さんがおはぎをいつも持ち歩いていたのは、仲の悪い不死川さんと仲良くなるために不死川さんの好物のおはぎを渡そうとしているのだ。

不死川さんの性格を知っている人からすると、そんなことをしたら不死川さんが怒って喧嘩になると分かるんだけどね。でも義勇さんは天然で、好物を渡してくれる人は良い人だと思っているところがあるから、どうして怒っているのか分からずにそれを何度も繰り返す。

 

 

......原作の知識があるとはいえ、まるで見てきたかのように言うなあと思う人はいますか?

いますよね。当たり前ですよ。蝶屋敷で何度もその様子を見ていたのですから。

 

 

義勇さんが懐からおはぎを出して不死川さんに渡そうとし、不死川さんはそれに激怒して喧嘩になる。義勇さんは何故怒るのか分かっていないし、口を開けば口数が少なくて別の意味で捉えられ、さらに激化するという流れを。

 

この流れをどうにかするには誰かが二人の間に入るか、不死川さんが義勇さんの言いたいことを理解するかだ。

義勇さんがちゃんと説明できるようになるというのは.....既に諦めているよ。というより、不死川さんが頑張った方がすぐに解決すると思う。

 

 

まあ、不死川さんはそんなことに力を入れるはずがなく、それに時間を割くよりも鬼の頸を斬る方が優先度が高いし、不死川さんの義勇さんへの認識が自分は貴方達と違いますという感じで鼻につくだそうなので、理解しようともしない。

そういうわけで、この二人の原作の柱稽古の時のままなのだ。いや、私が参加したあの柱合会議のことで少し印象が変わったそうだが、どうしてもこの喧嘩は起こってしまうようだ。

 

 

で、その喧嘩を何故か私が止めに行くことになるんだよね。どうしてか私は義勇さんと不死川さんがばったり出会ったり、不死川さんが義勇さんに怒鳴ったり掴みかかったりした瞬間に遭遇するんだよね....。

 

 

無視すればいいのにと思うかもしれませんが、その喧嘩が起こる場所が蝶屋敷なのは駄目だ。いや、自分達の屋敷以外は何処でも駄目であるが(だって、義勇さんと不死川さんの屋敷なら、周りの人が巻き込まれることなんてないし、迷惑をかけることもなく、何か壊れてもそれは自分達の物であり、自己責任という形で済む)......。

 

蝶屋敷は患者がいて、そこで言い争いや喧嘩が起きたら大変迷惑である。休まないといけない人が全然休めなくなるのだから、流石に無視できずに止めるしかないのだよ。

できればそれですぐに止まってほしいのだけど、この二人の喧嘩はなかなか止まらない。義勇さんは喧嘩をしたくないのだろうけど、その言葉が足りなくて煽ってしまうことで、喧嘩が長引いてしまうのだ。

 

 

それでも、周りの人に迷惑だから静かにするようにと言うと、二人とも黙って外に出るので、そういう常識があるのだよね。それなら、やらないでほしいと思うのだけど.....。

あまりにその喧嘩が過激になってくると、獪岳やアオイさんも止めにくるし、最終的にしのぶさんが出てくるので、周囲に被害はそこまでない。

 

 

 

まあ話が大分ズレていたので、一度話を戻そう。義勇さんは仲良くなるためには好物をあげようと考えている。そして、義勇さんが炭治郎と仲良くしたいと思っている。

 

そのために義勇さんがやることといえば.........もうお分かりですよね。

義勇さんは炭治郎と仲直りしたいと思い、炭治郎の好物のタラの芽を毎回持ってくるようになりました。これを見て、私は義勇さんらしいと思っていた。炭治郎も同じことを思ったらしく、そんな義勇さんの様子を見て少し笑っていた。

義勇さんはタラの芽を喜んでくれていると思っているそうだが、本当は前と変わらない義勇さんの様子になんだか安心感やらを感じるのだよね。柱稽古の時のことを思い出して、懐かしさのようなものも感じているのもあるだろうけど...。

 

 

....ただ正直に言うと、少し控えてほしい。

いや、義勇さんが炭治郎のためにタラの芽を買うのはいい。それが義勇さんなりの誠意と親切なのだということは分かっている。だけど、タラの芽を見つけたら全て買い占めるのは止めてほしい。

 

それは義勇さんの後にタラの芽を買おうとした人達にもお店の人達にも迷惑ですし、あれだけの量のタラの芽を渡されたらこちらも困ってしまいます。

それに、そろそろアオイさんの雷が落ちると思いますよ。幾ら何でも多すぎだと。

 

 

「まったく。何かをするにしても、やり過ぎるのは駄目ですよ。今のところは大丈夫だとしても、後で何かが起こることもあり得るので、相手を気遣うことを忘れず、本当にその行動が相手に迷惑をかけないかというのも考えてください。そういうことを繰り返していると、色々大変なことになると思いますよ」

「.....考えておく」

 

 

私は義勇さんに何か問題を起こす前に注意しておいた。義勇さんは少し不満そうな顔をしていたが、納得してくれているようだ。頷くだけでなく、ちゃんと返事をしているので、理解はしていると思う。とりあえず信じよう。

 

 

「最近炭治郎と顔を合わせて話ができる。少し警戒されるが、それでも俺は炭治郎と話せて嬉しい」

 

 

義勇さんのその言葉を聞いて、私は少し安堵した。

 

炭治郎は鬼殺隊の人達と交流していって、少しずつあの時の恐怖が薄れてきているようだし、義勇さん達と一定の距離を保って接しているが、心の方の距離は少しずつ縮まってきているようだ。

 

 

なるべく、自分の思いを言葉にして伝えるようにと言っていて良かったよ。

 

 

炭治郎も義勇さん達鬼殺隊もなんだかんだ全員が前を向き始めているようだ。こんな感じで少しずつ良い方に向かってくれることを祈りたいのだけどね...。少なくとも切腹をするという考えが消えて良かった....。

 

 

「それと、禰豆子のために金平糖を買ったんだが、禰豆子は受け取ってくれない。何故だか知らないが怒る。代わりに炭治郎が貰ってくれるが...」

「....そういうところですよ、義勇さん」

 

 

安堵していた私だが、義勇さんのこの言葉にはそう言うことしかできなかった。

 

義勇さんは禰豆子とも仲直りしたいと思っている。それで、禰豆子の好物の金平糖を渡そうとしているのだ。だが、禰豆子はそれを受け取ってくれないので、どう仲直りをすればいいのか分からず、困っているようだ。

できれば好物以外での方法を思いついてほしいのですけどね...。

 

 

金平糖に関しては禰豆子の分だけでなく、なほちゃん達のでもあるので、金平糖のことは問題ない。割と日持ちするし、いざという時は他の患者にも渡せるので、すぐに消費できる。なので、金平糖の件は大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

義勇さんに個別の稽古をつけられてから数日後、私はしのぶさんと珠世さんに呼ばれて蝶屋敷に行った。どうやら前回での最終決戦の日が近いから、薬の最終調整として呼ばれたらしい。一応私も手伝っていたので.....。

もうそんな日かと驚きながらも原作の話を思い出して納得した。

 

原作の炭治郎と比べてみると、私は遠からずも近からずというな感じで柱稽古を進んでいったため、原作の炭治郎の位置に私がいるのだと思えば納得できる。

 

 

だが、それならどうして義勇さんの稽古を受ける時間が数日もあったのかと思う人がいるでしょう。原作では義勇さんが稽古をつけるというような描写はなかった。

だから、これは私の勝手な予想だが....義勇さんが炭治郎に稽古をつける時間はほんの僅かで、数日もなかったと私は考えている。

だが、私には数日もあった。それは原作改変のことも関係していると思うが、原作の出来事が一つ無くなっているのが原因だと思う。

 

 

原作では炭治郎が柱稽古に参加する前にある事が起きていた。それは御館様に頼まれて、炭治郎が義勇さんと話をするために四日間話しかけ続けるという追いかけっこである。これは義勇さんが柱稽古に参加しないということが起きたのだが、今回は義勇さんが最初から参加しているため、それは無くなっているようだ。

というより、私が既に似たようなことをしていたので、その必要がなかったのかな...。

 

とにかく、その追いかけっこの四日間が無くなり、それが義勇さんの稽古を受ける時間になったのではないかと思っている。

まあ、おかげで華ノ舞いの方に集中することができたけど....。

 

 

 

 

 

まだ戦いは終わっていないけど、本番に向けて少し休憩するという意味でもしのぶさんのところに行ってみたら、目に飛び込んできたのは禍々しい色の液体だった。

どうやら戦いがもう近いということもあり、仕上げにかかっているそうだ。

 

扉を開けた瞬間、私もその手伝いをした。部屋には禍々しい液体以外にも色々あったが、私は何も考えずに動いたので覚えていない。

ただ、完成した時にめちゃくちゃ疲れていたのは確かだ。

 

 

「炭治郎。禰豆子。いる?」

 

 

しのぶさんと珠世さんの手伝いを終えた後、私は炭治郎達の使っている部屋を尋ねてみた。だが、部屋の中には誰もいなかった。

 

蝶屋敷に来たのは用事があったからというのもあるが、とりあえず一周したことだし、その間に炭治郎達に何もなかったのかどうかの確認のためにも一度戻ることにしたのだ。

それで外に出て探してみると、炭治郎達の声が聞こえてきた。どうやら蝶屋敷の子達と一緒にいるようだ。

 

 

庭を覗くと、禰豆子がなほちゃん達三人と花の冠を作っていて、炭治郎はそれを温かい眼差しで見ていた。炭治郎達を中心に周りでは穏やかな空気が流れていて、微笑ましい気持ちになる。

 

 

それを遠くから眺めているカナヲが見えなければ...ね....。

......あっ。カナヲの後ろから猪の被り物が出てきた。伊之助もいるのね。それと、一瞬だけ黄色い髪が見えたけど.....善逸もいるのかな...。

.....カナヲ、伊之助、善逸がいるのなら玄弥もいたりして.....。

 

 

やっぱり今でも炭治郎と禰豆子はしのぶさんとカナヲを少し避けていて、アオイさんやなほちゃん達とは話しているという状況が続いているようだ。大分改善されているようだが、そう簡単に元通りになるものではないからね。たまに会話することはできるみたいだけど。

 

 

まあ炭治郎達の話を聞く限り、炭治郎はみんなと直接顔を合わせることにまだ怖いと思っているところがあるから、カナヲ達も面会の時以外に炭治郎と顔を合わせないようにしている。

 

 

だけど、気になるんだろうね。一応炭治郎に気づかれないように遠目で見ている。バレないようにと細心の注意を払いながら。

 

炭治郎はカナヲ達に恐怖を感じているけど、少し話したいという気持ちもある。そのため、話せる機会と心構えがある時ぐらいにしか、カナヲ達も姿を見せないようにしているが、あまり顔を合わせない方がいいと思いながらも炭治郎達の様子を見に来てしまうようだ。

でも、直接会わないように気をつけてはいるらしい。今のところ、それで問題は起きていないみたいだし、もっと近くに行きたいのを我慢しているみたい....。伊之助もよく我慢できているよね...。

 

 

何というか鬼殺隊は炭治郎に対して全体的に過保護?のような感じであるから、心配があるけど物理的な怪我をさせることはないと思っている。ただ、禰豆子はあの時のことをまだ怒っている感じで、そういった面でも何も起こらないといいなと思いながら、念のために警戒している。

 

 

善逸達も炭治郎と禰豆子がどう思っているのかを知っていて、しかもそれを現在もその鋭い器官で感じ取っている(玄弥以外)ので、ますます落ち込んでいるのだけどよね。

 

 

カナヲ達は炭治郎達の中に入りたいと思っていても、入る資格も顔を合わす資格もないと思っているため、炭治郎達を遠目に見るだけである。と言っても、見える範囲にいたら炭治郎が匂いで分かってしまうために、様子を見ていてもバレないように匂いを隠そうと色々工夫していた。その努力を知った時はなんだか泣きそうになった。

 

それは今もだ。あの四人の様子を見て、私は悲しい気持ちになるんだよね....。...今もカナヲ達が寂しそうな顔をして炭治郎達の様子を見ていて.......でも、前回の件を考えると安易に手を出せないというか.......。

 

 

 

「炭治郎はもう平気なの?」

「あっ。おかえり、彩花。...平気かどうかは分からないが....今は大丈夫だ。それより、良かったら食べるか。好きなんだけど、食べ切れなくてな....」

「いや、何この大量のタラの芽の天ぷらは!これは流石に多すぎるから、食べ切れなくて当然だよ!それにしてもよくこの量を揚げたね。大変じゃなかった?」

 

 

私がカナヲ達のことを心苦しながらも見ないふりをして、炭治郎に声をかけた。すると、炭治郎は私におかえりと言った後、何やら困ったような表情をしていた。何かあったのかと思って炭治郎達に近づき、見せられたのは山盛りのタラの芽の天ぷらが大きな皿に乗せられている光景だった。これを見て、私が口を開けて固まってしまった。

義勇さんから聞いた話で、義勇さんがタラの芽をいっぱい買っていることは知っていたが、この量は流石に予想外だった。しかも、まだあるみたいだし、私が柱稽古に行く前よりもタラの芽が増えている。

 

 

私はさらにアオイさんが持ってきた皿にもタラの芽の天ぷらがあるのを見て、思いっきりツッコミを入れながらなんだか別の関心が湧いてきた。あまりの量によくこれを天ぷらにできたと思い、炭治郎達の方を見ると、全員が苦笑いしていた。どうやらタラの芽を全部天ぷらにする作業は大変だったみたいだ。

 

 

 

もうすぐ昼ご飯の時間だったこともあり、私は食べるのを手伝うことをした。天ぷらを食べるために、なほちゃん達に天つゆと塩を用意してくれるように頼んだ。多くて腹八分目くらいの量は食べようと思っている。この後は鍛練をしたいので、ほどほどの量で済ませておきたいのだ。

ちなみに、私は天ぷらを食べる時に天つゆや塩で食べるのが好みだ(前世から)。シンプルで良いでしょう。

 

 

いくら伊之助が天ぷらを好物だと言っても、天ぷらがタラの芽だけでは飽きる。というか、伊之助が好きな天ぷらは多分海老の天ぷらとかそういうのだと思う。

 

原作で海老の天ぷらがよく出ていたし......いや、海老の天ぷらが一番天ぷらだと見て分かるので、海老の天ぷらを描いていたのかな...?

....どっちか分からないけど、伊之助だけに任せるのも可哀想なので、タラの芽の天ぷらを食べるのは手伝おうと思う。

 

 

なほちゃん達が準備をしている間、私は縁側に腰掛けて待つことにした。炭治郎は私の隣に座り、禰豆子はなほちゃん達の手伝いに行った。

 

 

こうやって、いつも炭治郎から離れない禰豆子が、私が炭治郎の近くにいるのを許容しているのを見ると、私は禰豆子に信頼されているのだなと感じる。本当に信頼をしてくれているのかどうかはともかく、私は炭治郎を傷つけないとは思っているのだろう。少なくとも禰豆子はそう感じているだろうし。

 

禰豆子は私にそういう信頼をしているようで、私と禰豆子の間には特に問題がない。炭治郎を傷つける気がないのは確かだけど、こう信頼されるとなんだか気恥ずかしいな......。

 

 

 

「.....彩花。大丈夫か?」

「...えっ?」

 

 

禰豆子の背中を見ながらそんなことを思っていると、炭治郎がいきなりそう声をかけてきた。私は炭治郎の言葉に驚いた。

 

何か不安にさせるようなことをしたかな?もしくはあった?

それとも....疲れているように見えているとか.....?

 

 

「急にどうしたの?私は元気だよ。それとも、何か心配なことがあったの?」

「それはこっちの質問だ。獪岳から彩花のことを聞いたんだ。様子がおかしいって。彩花の方こそ、何かあったのか?」

 

 

私の質問に炭治郎は逆に質問で返した。私はその言葉を聞き、頭を抱えたくなった。

 

獪岳、炭治郎に話したんだ....。そういえば獪岳に口止めしていなかったね...。

 

 

あの質問をした時は私も動揺していたから、そこまで頭が回らなかった。

あの後、獪岳はその時の私の様子を炭治郎達に話した。おそらく炭治郎達には何か話すかもしれないと考えたのだろう。

....心的外傷や前世で色々あったことなどで、炭治郎に甘い自覚はありますけど。

 

炭治郎もその時の獪岳の態度や匂いから、私の様子がおかしいのは本当なのかもしれないと思っていたのだろう。

さらに、私が獪岳のことを言って動揺したことで、やはり何かあるのだと確信させてしまったようだ。

 

 

「......ねえ。炭治郎」

「うん?」

「炭治郎は.....私が...前回のことで何か分かったことがあると言ったら......どうする?」

「....えっ?」

 

 

私は炭治郎に話すかどうか悩んでいた。獪岳には話さなかったけど、当事者である炭治郎には話した方がいいと考えたからだ。

と言っても、私は自分の頭に浮かんだことを全て話す気にはならなかった。まだ分からないところは色々あるし、私の考えが何処まで合っているかも分からない。全部違う可能性だってある。

まあ、私の考えが合っていても、間違っていても問題だからね...。

 

なので、私は最初に前回のことを出し、炭治郎の反応を見ることにした。炭治郎の反応次第で話そうと思っている。でも、私はこの判断で本当に良かったのか分からないため、申し訳ない気持ちで炭治郎の言葉を待った。

 

 

炭治郎は私の話を聞いて、下を向いて無言になってしまったが、しばらく経った後、顔を上げた。

 

 

「......俺は前世のことを、あの時のことを忘れたことなんてない。されたことも、悲しかったことも、辛かったことも何一つ忘れたりしてない。全部覚えてる。

だけど、いつまでもそのことを意識するのはもう止めておく。

あの時は裏切られたことが辛くて、また同じことを繰り返すのが怖くて、何を信じればいいのか分からなかった。

だけど、あの時が起きる前のまま変わってない良い人で、それでもあんなことが起こったけど.........俺は前のように話したり、教わったりしたいと思ったんだ。

 

それに、前に彩花が言ってただろう。その先を考えてみようって。

俺は終わった後、善逸達とどうするかを考えたことがなかったから、彩花に言われてから少し考えてみたんだ。

その時、前に善逸達と話したことを思い出したんだ。

前世で戦いが終わった後、善逸達と何をしたいか話し合ったことがあった。今世でそれができるか分からないけど、俺は終わった時に善逸達もいてほしいと思ったんだ。今度は叶えたいと。

それがきっと俺の答えなんだと思った。だから、もう何が原因だとかは関係ない。前世で起きたことは気になるけど、それより大切なことに気づけたから。

前回の何かを知っても、それは揺るがないと思う」

 

 

炭治郎はぽつりぽつりとそう話してくれた。炭治郎の話を聞いて、私はなんだかやっと一息ついたように感じた。

 

これまでに何度か炭治郎達の様子を見て、ハラハラしていたけど、今回の言葉で肩の荷が下りたようにも感じた。

 

 

私は炭治郎と鬼殺隊が仲直りするかどうか確信もなかったが、炭治郎達の様子を見て賭けに出ることにした。私が見たところ、炭治郎達は互いに複雑な思いを抱いている。禰豆子に関しては嫌悪感を抱いているけど、それでも関係修復は無理だというわけではない。

 

 

どうしてかというと、好きの反対は嫌いではなく、無関心だからだ。

関心も持たれなかったら、その人のことは無視になる。でも、何か関心があれば...例え負の感情であろうとも、気にされていることになる。

 

炭治郎は彼らに恐怖を感じていたが、無関心というわけではなく、嫌悪感も抱いていなかった。それに、炭治郎の感じている恐怖は裏切られることへの恐怖である。

つまり、炭治郎は善逸達を、鬼殺隊をまだ信じたいと思っていることでもある。だけど、本当に信じていいのかとか、相手の何を信じたらいいのかとかそういう疑念があった。

 

 

誰かを信じたいと望んでいても、前回であんなことが起きたら疑念を抱いてしまうだろう。信じられないことは苦しみにもなるし、ますます視野が狭まり、疑心暗鬼になっていく。それもまた炭治郎の対人恐怖症と心的外傷の根幹の一つでもあると思っている。

 

だから、私は面会で炭治郎と鬼殺隊が話し合うきっかけを作り、自分の気持ちを確認できるようにした。そうすればその後の関係をどうしたいのかもはっきりして、裏切られることへの恐怖や苦しみを解消し、前向きに考えられるのではと。

 

 

実際に面会を始めてから、炭治郎の体調が悪くなることは今のところ一度もない。むしろ少しずつ良くなっていき、前世のあの時の悪夢を見ることがなく、発作も治ってきているようだ。これは良い傾向だ。

 

これを知った時、私は最大の賭けに成功したことに安堵した。

本当に原作で知っている情報から、もうこれ以上のことはしないだろうというその人の善意に賭けたようなものだからね。

 

 

禰豆子の方も怒りや嫌いという感情を抱いているが、無関心ではないのでなんとか間に合うのではないかと思っている。まあ、これは本人同士の問題なので、ゆっくり時間をかけて解決してほしいと思っている。

 

 

それに、炭治郎が言わなくいいと言ったことに私は正直安堵している。

でも、もし私の考えが正しければ前回の件は........。

 

 

.....このことを話せなくてごめんね...。....これからどうなるか分からないけど、私は行きたいと思っている.....。多分このことに気づけているのは私だけなんじゃないかと思うから...。....そして、その話ができるのも私だけなんだと........。.....自惚れているかもしれないけど、どうしてもこれは....ね......。

 

 

そんなことを考えている間に昼ご飯の準備ができたらしく、なほちゃん達が私達を呼んだので、そちらに向かった。

どう転ぶことになろうと、私は自分で確認したい。あの時、何が起きたのか知りたい。

 

さて、食べ終わったらここから出ようかな。準備も終えているし、聞きたかったことは既に聞いたと思うし、もうそろそろだと思うからね。

あちらも私に用があるだろうし.....。

 

 

 

 

 

「....やはりここに来るようになっていたのですね」

 

 

突然私の足元から地面が無くなった。私はそれを見て、最終決戦に突入したのだと確信した。さっきまで私の近くに後藤さんがいたけど、引き離されたみたいだ。

 

後藤さん、大丈夫かな...。

 

 

「私を待っていたということでよろしいでしょうか。.....正直に言うと、私も半信半疑でしたので、こうなるのは予想できても驚きましたよ。まさかとは思っていましたけど...」

 

 

私は襖を開け、部屋の中に入った。部屋の中は教科書で見たような日本のお城の広間くらい広さがあり、床は畳一面に広がっているが、部屋の一番奥に台があり、その上にある座布団に誰かが座っている。

 

なんか大名のような感じの部屋だけど、あれがそうなのかな。

 

 

「....まあ、貴女がここに連れて来なくても、私は会いに行くつもりでしたよ。聞きたいことが色々ありましたし、貴女にどんな対応をすればいいのか分からないため、とにかく会いたいと思っていました」

 

 

私はそう話しかけながら相手に近づいた。相手は無言のまま私を見ているだけだった。

 

これは様子見のようだね。まあ、こちらとしても好都合だけど。

 

 

「前回起きたこと、前回と原作の違い、今回と前回の違い.....それらを全部聞いて、やっと分かりましたよ」

 

 

『炭治郎を庇った禰豆子にもどうして庇っているのって聞くだけだった。終わった時、私は後悔した。あの時、どうしてあんなことをしたのか私も分からない』

 

 

カナヲ達、鬼殺隊側はあの時のことを今でも疑問に思っているようだった。

 

その時の様子を詳しく聞いてみると、御伽話の時間が過ぎて魔法が解けたようで、まるで血鬼術みたいだなと感じた。前世で読んだ二次創作みたいな、ご都合主義の血鬼術だと。

 

 

『鬼狩りじゃないのに、どうして戦うの?あっ、分かった。何か嫌なことか辛いことがあったのかな。

大丈夫。俺が救ってあげるよ。頼まれたからというのもあるけど、俺は優しいからね』

 

 

童磨は頼まれたと言っていた。あの時は上弦の弐の童磨という強敵と戦っていたから、あの言葉に疑問があっても深くは考えていなかった。だけど、分かることは童磨が誰かに頼まれたということだ。それもあの話からして、私を始末するようにと誰かが言っていた。

 

 

一瞬、鬼舞辻無惨が私を始末するようにと言ったのかと思ったが、それなら真っ先に炭治郎を狙う筈だ。無惨が最も恐れている相手は日の呼吸の使い手であり、無惨を後一歩のところまで追い詰めた継国縁壱だ。なので、その継国縁壱と同じ日の呼吸の使い手であり、耳飾りを身につけている炭治郎に対して、原作では刺客を送り込むほどだ。

 

 

だが、私に対してはそれをする理由がない。日の呼吸は使えるには使えるが、私はそこまで使いこなせていないため、あまり実戦で使わないのだ。そのため、無惨は私が日の呼吸を使えることを知らないし、知っていても、炭治郎よりも弱いためにそこまで意識はされていない筈だ。

それに、例え意識されていても、童磨の始末する相手に炭治郎や禰豆子も入れていないとおかしい。あの言葉からして、あれは私だけを狙ったものだった。誰なのか知らないけど、私を優先的に殺したいという存在がいるのはこのことから確かだ。

 

 

鬼殺隊から私の存在が怪しまれたことはあったけど、それは前回のことを知っているからだ。鬼舞辻無惨などの鬼側は前回のことを知らない。なので、鬼側が私を狙う理由は本当にないのだ。

 

 

でも、可能性が増すきっかけとなったのは...........

 

 

『この時期、俺達のことを誰かが見てたんだァ。その視線に俺達が気づくと、奴はすぐに姿を消したァ。だが、俺は一瞬だが奴の姿を見たんだァ。そいつの口に牙が生えていたから、鬼だと思って報告したし、他からも似たような報告が相次いで届いたからなァ。そいつは間違いなく鬼だろうという結論になったが、そいつは俺達の前に現れず襲っても来ないから、結局そいつの頸は斬れなかった。今回はそいつを見かけた瞬間、すぐに捕まえてその頸を斬ろうと思ってたんだがァ、前回と違って全く情報がねェんだァ』

 

 

『それなら、教えてほしいの。前回のあの時、単独で行動する鬼とかいなかった?...例えば、禰豆子と珠世さん達以外の逃れ鬼とか....』

『...ああ。ちょうど柱稽古をしてた時、無惨様が探すように命じていた。それで、俺は産屋敷家と禰豆子とある逃れ鬼を探していた。その逃れ鬼の特徴なんだが、それはあの珠世さんや兪史郎さんとも一致しなかったんだ。あの二人に聞いたが、他に逃れ鬼がいるかも知らなかったし、その鬼に心当たりもなかったみたいだ。.....気になるなら、そいつの特徴を話すぞ』

 

 

原作にはなかった二つの情報。これらから察するに、原作にはいない人物がいるのだと分かる。鬼殺隊側にも、鬼側にも属していない存在がいる。その存在はどちらからも探されていた。でも、その存在は前回でどちらからも捕まることがなかった。そのため、その存在は鬼殺隊側からも鬼側からも捕まるわけにはいかない存在であり、逃げ続けたことから、逃れ鬼の可能性が高い。

 

 

そして、その逃れ鬼の情報が今回はない。それなら、今回はその逃れ鬼の存在が消えてしまったのだと考えられるが....。刀鍛冶の里に童磨が現れた件を思うと、誰かが童磨に頼んだ存在がいるとして、それは鬼舞辻無惨や他の上弦達とは違う。無惨にも他の上弦達にも私を狙う理由がない。つまり、その存在は明らかに周りとは違い、柱や炭治郎達という主要人物よりも目立たない私を怪しみ、危険視している。

 

 

このことからも前回のことを知っているのだと分かる。それは前回で確実に関わっている。さらに、前回が原作とあまりに違うことを考え、張本人がそうなのかは知らないが、おそらくその違いを起こすために干渉していたことから、私同様に異質な存在であることも分かる。

 

まあ、本人に出会うまでは断言ができなかったけどね。

 

 

 

「.......前回と今回、貴女が何を考えてこんなことをしているのか分かりません。ですので、教えてくれませんか。

 

 

 

転生者さん」

 

 

そう言って、私は目の前の鬼と向き合った。

その鬼は私と同じくらいの背丈で、年齢も同い年くらいだったであろう少女の姿をしていた。水色の髪は腰に届くくらい長く、紫陽花の模様がある紺色の着物を着ていて、顔には黒百合の痣が額や目の近くまで広がっていた。その目は大きく、目尻の位置が目頭よりも少し下にある。抜け目がなさそうで、その目でこちらを探るように見ている。

さらに、明るい青めの緑色の瞳をしていて、その鬼の目には上弦の伍と書かれていた。

 

 

間違いなく、その鬼は獪岳に聞かされた特徴通りの鬼だった。上弦の伍であること以外は。

でも、上弦の鬼であることは予想していたので、そこまで動揺していない。

 

そんな私を見て、上弦の伍は笑った。

 

 

 

さて、答え合わせをしましょうか。

 

 

 

 

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