笹の葉の少女は幸せを願う   作:日々草

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笹の葉の少女は鬼と出会う

 

 

数日後、炭治郎の体調が安定し、すっかり熱が下がった。炭治郎の体調が良くなって、禰豆子は炭治郎に泣きながら抱きつき、私は高熱が出たのは無理に体を動かしたことが原因なので、炭治郎に注意した。

 

まあ、炭治郎も反省していたし、禰豆子とも一緒に看病した時にさらに仲良くなれたから良しと思うことにしたよ...。本当に休まず看病していたからね。あまりに緊急だったから、炭治郎も禰豆子も私が炭治郎に触っていいと許可してくれた。始めは私が触れると少し震えていたが、今では普通に額を合わせて熱を測ることができるようになった。ちなみに、禰豆子も触っても大丈夫になった。

 

 

余談だが、炭治郎と禰豆子が来てから初めの山を降りる日に、大急ぎで山を降りて、薬を配りながら倒れていた人を看病していること、その人が人嫌いだということ、今はその人の妹が看病しているけど、すぐに帰らないといけないことを話すと、村の人達は事情を知って早く帰るように言ってくれたうえに、何日か分の食料などをお金はいらないと言いながら色々くれた。

 

本当にこの村の人達は良い人達だ。後でお礼を言いたいな。あれから山を降りていないから。

 

 

 

「熱も下がったし、良いと思うんだが.......。」

「駄目よ。病み上がりが一番重要なんだから。また禰豆子を泣かせるの?」

「い、いや...。」

 

 

炭治郎は動いても大丈夫だと言い張るが、私はそれを止める。私が禰豆子の名前を言うと、炭治郎は言葉を濁しながら黙った。禰豆子にも布団を叩かれ、寝ているようにと言われ、大人しく布団の上に寝転んだ。

 

さすがに禰豆子に泣かれたことはうしろめたく思っているみたいね。

 

 

「まあ、熱も下がっているし、明日には完全に良くなっているよ。」

「本当にありがとうな。俺のために薬とかおかゆとか作らせて....。」

「いえ。私がやりたくてやったんだから。」

「そうか......。」

 

 

いよいよ明日でお別れになるということで、熱が下がったことは嬉しいが、少ししんみりした空気になっていた。

 

 

「これからどうするの?」

「そうだな....。ちょっと知り合いのところに行こうと思っている。」

「知り合いっていうことは.....炭治郎達にとって、とても信頼できる人っていうことね。」

「ああ。俺達にとって師であると同時に父のような人だと思っているんだ。天狗のお面をつけているんだが...。」

 

 

絶対鱗滝さんのことね....。

 

私は炭治郎達のこれからが心配で聞いた。炭治郎は少し考えて行き先を決めて教えてくれた。炭治郎の教えてくれた特徴から鱗滝さんじゃないかと確信した。

 

良かった......。これで少しは原作に戻っているのかな.....。

 

 

「そうなんだね。...炭治郎。また倒れないでね。一応、いくつか薬を渡しておくよ。」

「いや、そこまでしなくていいよ。」

「いいじゃない。薬はまた作ればいいんだし。それに、また炭治郎に何かあって、禰豆子を泣かすの?」

「うっ.....。」

「禰豆子を泣かしたら駄目よ。炭治郎が倒れるのも駄目だからね。」

 

 

私は念のために炭治郎に薬を渡しておこうと薬の準備をし始め、それを見て炭治郎が遠慮して止めるが、また私が禰豆子のことを口にすると黙った。

 

 

「禰豆子。炭治郎のことをよく見てね。」

「うん....。」

 

 

近くにいた禰豆子に笑いかけると、禰豆子はそれに頷いた後、下を向いてしまった。そんな禰豆子の様子を見て、私は禰豆子の頭を撫でることにした。

 

看病の時に禰豆子と仲良くなれて、今では撫でても唸り声を上げなくなったのに.....。あーあー。せっかく仲良くなれたのにな...。

 

 

「彩花。そんなに寂しがらないでくれ。」

「もう!なんで言うかなー!」

 

 

炭治郎が匂いで相手の感情が分かるのは知っているが、できれば言わないでほしかったよー!

 

「だって、せっかく仲良くなれたのに....。それに、久しぶりに家に誰かがいるのが本当に嬉しくて......。」

 

 

炭治郎の言葉に私は我慢できずにそう呟いた。

 

炭治郎と禰豆子と一緒にいて.....そして別れが近くなってきて.......分かったよ。私は強がっていて、本当は凄く寂しかったこと...家の中に誰かがいることがこんなにも嬉しいこと....別れることが嫌だということ...また一人になることへの不安......それら全てに気づいて、泣きそうになった。もう精神年齢は大人なのに.....いや、大人は関係ないね。大人でも泣きたい時はあるし....これは私が言い聞かしている言葉だ。そう言い聞かして、私は我慢していた.....。

 

 

「あやか。」

「彩花......。」

 

 

禰豆子は私を心配し、炭治郎も私に何か言おうとしたその時....

 

 

 

「「!?」」

「な、何!?」

 

 

炭治郎と禰豆子が何かに反応し、私も嫌な予感がして辺りを見渡した。

 

昔から鋭いと言われた勘を信じ、嫌な予感が感じる方向を見た。炭治郎と禰豆子の方を少し見ると、炭治郎も禰豆子も私と同じ方向に視線を向けていた。私が耳を澄ましてみると、遠くからこちらに向かってくる足音が聞こえた。聞こえてくる足音は一人のようだが、今は夜中だ。こんな夜中に一人で山に登ってくるなんておかしい。

 

 

炭治郎達のように人の感情が分かるほどではないが、私の五感は普通の人よりは優れている。

 

 

「炭治郎。おかしいよ。こんな夜中に一人で山に登ってくるのはおかしいし、なんか嫌な予感がしてくる。」

「ああ。血の匂いが....鬼の匂いがする。」

 

 

私が感じたことを全て話して臭覚が優れている炭治郎に確認として聞くと、炭治郎は静かに答えた。

 

藤の花があるし、大丈夫よね?

 

 

「彩花。血の匂いが濃い。多分あの藤の花でも耐えて、こっちに来れる。」

「そんな.....。」

 

 

それって、今までそんなに強い鬼が来なかったっていうことよね?今まで運が良かったんだな......って、現実逃避している場合じゃない!

 

 

「炭治郎。何か武器とか持ってない?」

「すまない。何もないんだ。」

 

 

だよねー。今の炭治郎はどう見ても鬼殺隊じゃないから日輪刀を持ってないし、倒れていた場所にも炭治郎自身にも斧などの武器なんて何もなかったもんねー。一様聞いたけど......仕方がない。炭治郎も寝てないといけないけど、緊急事態だからね。

 

 

「炭治郎!これを!」

 

 

私はすぐに斧を取り出して炭治郎に渡した。こんなこともあろうかと、緊急事態に身を守れるように刃物を纏めて保管していたのだ。私も草取り用の鎌を持った。禰豆子にもハサミとかを渡そうと思ったが、禰豆子は静かに首を横に振り、戦闘態勢に入っていた。

 

 

こうしている間にも足音が近づき、扉の前で止まった。何回か扉を叩き、こちらが扉を開けるつもりはないことに気づき、扉を乱暴に叩いた。乱暴に叩かれた扉は傾き始め、ついにこちら側に倒れてしまった。ちょっと、私の家を壊さないでよと場違いにも思ってしまったが、すぐに切り替えることができた。扉が倒されて、扉を壊した何者かがゆっくりと家に入ってきた。鋭い爪と猫のような縦長な目、頭から生える角に口から出る長い舌、間違いなく鬼だった。

 

 

「はあああ!」

 

 

鬼の姿を確認してすぐに炭治郎が動き出した。炭治郎が斬りかかり、鬼はそれを防いだと同時に、禰豆子が鬼を蹴り飛ばした。鬼を外に追い出し、炭治郎と禰豆子も鬼を追って外に出た。

 

 

おー!鬼を外に追い出してくれた!確かに家の中より外の方が戦いやすいし....それに、私の家を壊さないようにと配慮してくれたのだろう...。炭治郎と禰豆子の連携は凄いな.....。さすが兄妹....って、感心している場合じゃない!

 

私も気持ちを切り替えて、家の前まで来た。

 

 

鬼と戦ったことのない私は足手まといだ。私は遠くの方にいた方がいい.......。けど、まあ....これはきっと言い訳だね。私は鬼と戦うのがめちゃくちゃ怖いんだ.....。原作の善逸の気持ちが今なら分かる。本当に怖い!でも、何が起こるか分からないんだから、私も冷静に考えて......。

 

 

「ヒノカミ神楽 火車」

「.......綺麗。」

 

 

私は炭治郎のヒノカミ神楽を見て、無意識に感嘆の声を上げていた。

 

 

炭治郎のヒノカミ神楽はアニメで見るのと違って、まるで太陽のような激しい炎に、力強く舞うような動き.....それはとても綺麗だった......。

 

....って、本当に綺麗だけど見惚れている場合じゃない!もう!今はそれどころじゃないのに........。

 

 

私が炭治郎のヒノカミ神楽に見惚れている間に、炭治郎が鬼を斬り、その鬼を斧でうまく動かせないように固定した時.......森の中で何かの音が聞こえた。何の音か分からなかったが、嫌な予感がしてきた。炭治郎の息が上がって、苦しそうにしていることを気にしながらも音が聞こえた方に視線を向けた。その方向には別の鬼がいて、その鬼は炭治郎に一直線に向かっていた。炭治郎は気づいてない様子だった。炭治郎は体調がさっきまで悪かったことと、呼吸を使ったのが原因かな....?なんか苦しそう.....。禰豆子も炭治郎のことを気にして、あの鬼の存在に気づいていない。...まずい!

 

 

「炭治郎!禰豆子!」

 

 

私は走り出して炭治郎と禰豆子の後ろにいる鬼に向けて、持っていた鎌を握り締めて構えた。鬼も炭治郎と禰豆子に向けて、腕を振り上げた。

 

 

間に合え!

 

 

そう思いながら私が鎌を振ったのと、鬼が腕を振り下ろしたのは同時だった。

 

 

 

パキンッ!ヒュン!カシャンッ!

 

 

 

結論から言うと....ぎりぎり間に合った。炭治郎と禰豆子と鬼の間に滑り込み、鬼の腕を振る方向を変えることができた。

 

 

何故方向を変えたのかって?それは鬼の攻撃を私は受け止めきれないと思ったからだ。鬼の力は強いから、私と力比べをしたら確実に私が負けることは分かっているからだ。鬼の腕を斬るという選択肢もあるが、鬼の腕を斬れるくらい私の力は強くない。だから、私は鬼の攻撃の方向を変えることならできるかもしれないと思ったのだ。方向を変えるくらいの力もあるかどうか微妙だったけど、なんとか方向を変えることができた。

 

 

だが、先程何かの音が聞こえたと思います。何かが折れた音と....何かが飛ぶ音と...何か金属系の物が落ちた音が......。実は、鬼の腕を振る方向を変えた時に鎌が折れました.......。たぶん使い方がおかしかったし....明らかに力技だったから.....。それと、その反動で私が吹き飛ばされました......。折れた鎌は吹き飛ばされたと同時に手を放してしまった。

 

 

「.......うっ!...がっ!?」

「彩花!?」

 

 

吹き飛ばされた先には藤の花の木があった。私は藤の花の木の幹に思いっきり頭をぶつけ、そのまま地面に倒れ込んだ。頭を打った衝撃で視界が揺れるが、必死で意識を保った。

 

 

「餓鬼が3人か.....。おい!こんな餓鬼達に負けてんじゃねえよ!」

「うるせえ!ちっと油断しただけだあ!」

 

 

鬼同士で喧嘩を始めている...。鬼は群れないはずだけど、利害が一致したから一緒に行動しているのかな?

 

 

「他にも人間がいねえか?餓鬼だけじや、腹の足しにもならねえ!」

 

 

先程来たばかりの鬼が腕を振った。炭治郎と禰豆子は頭を下げて避け、私はもとから倒れていたから無事だったが、その攻撃で家が真っ二つに斬られた。

 

 

......えっ?

 

「い、家が...。」

「そこに隠れてたりとかしてねえよな?」

 

 

鬼は他にも誰かが隠れているんじゃないかと家をドンドンと叩きつけ、壊していく。私の目から涙が溢れてきた。

 

 

家が.......私の...お父さんとお母さんと過ごした......大切な思い出の家が.....。

 

 

私は頭を打った衝撃と家を壊されたショックで目の前が真っ暗になってきた。

 

 

お父さん.....。お母さん.....。ごめんなさい。家を....守れなかった......。

 

 

私は心の中で両親に謝罪し、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

『.......か!....や.....!あ.......!......やか!』

 

 

 

誰かの....声が聞こえる.......。

 

 

 

『あ.....か!あや......!』

 

 

 

あれ?この声........聞き覚えが..........。

 

 

 

『...彩花!彩花!』

 

 

えっ.....!?この声って.......

 

 

「お父さん.....?お母さん......?」

 

 

私が亡くなった両親を呼んだ瞬間、真っ黒だった私の目の前に亡くなった両親の姿が現れた。

 

 

『彩花。』

「お父さん...。お母さん....。」

 

 

五年ぶりに見た両親の姿に、私は目に涙が浮かべていた。

 

 

『あらあら。』

『どうしたんだ?』

「....ご、ごめんなさい!...い、家、壊れちゃった!」

 

 

そこからは私の目が限界だった.....。私の目から涙が溢れてくる。

 

 

「ごめんなさい!お父さんとお母さんと暮らしていた家、壊れちゃった!大事だって言ってた家が壊れちゃったよ!ごめんなさい!私...家を守れなかった!ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 

 

私は大声で泣き出しながら両親に何度も謝った。両親の顔を見ると、壊れた家のことも思い出してしまい、自然と涙が出てくる。涙が止まらない。

 

本当に....ごめんなさい.......。

 

 

『まったく。彩花は.....。』

『まだ覚えていたのね...。』

 

 

両親は泣いている私を優しく抱きしめた。両親の腕の中で私は目を見開いた。

 

 

『彩花がここに一人でいるのは、あの家をずっと守ってくれているからだもんな。』

『私達が彩花にこの家を守ってね、ここは私達にとって大切な場所だからって言ってたね....。彩花はそれをちゃんと守ってくれていたわね......。』

 

 

優しく私の頭を撫でる両親に、私はまた涙を流した。

 

 

『でも.....もう大丈夫よ。』

『彩花はここに縛られなくていい。あの家をずっと守ってくれていたこと.......それだけで私は嬉しいから。』

『私達はもう充分だと思っている。だから...彩花は自由に生きなさい!....ここから離れたところに行ってもいいし、誰かと一緒に過ごすのでもいい。ただ彩花がやりたい道を選んでね!』

 

 

もう大丈夫、守ってくれて嬉しい、充分だと言ってくれる....。お父さんもお母さんも私のことを責めない........!

 

 

『彩花。お友達が危ないわよ。早く行ってあげなさい。.....忘れないでね。草笛やあれを吹く時に教えた呼吸を......息を整えて....自然を感じて.....思いのままに...自由に.......。』

『彩花。何故藤の花を欲しがっていたのか....実はお父さん達は分かっていたんだ。...今、使いなさい。何のために藤の花を育てていたのか、分かっているだろう?大丈夫だ。きっとできる.......。』

 

 

両親のその言葉を聞いた瞬間、私は白い光に包まれた。目の前が眩しくて何も見えなくなった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩花の匂いが途切れた。俺は彩花に近づき、息を確認した。

 

 

......大丈夫だ。息はしてる...。どうやら気絶してしまったようだ。

 

 

「あやか、は?」

「大丈夫だ。気を失っているだけだから。」

 

 

禰豆子は彩花のことを心配していた。短い間だったが、禰豆子は彩花に懐いてきていた。俺も彩花には感謝している.....。

 

 

俺は彩花をもう一度見た。彩花の頰には涙の痕があった。それに、気を失う前の彩花から深い悲しみの匂いがしていた。家が壊されたことを悲しんでいた...守れなかったと後悔していた......。もう壊れてしまっているが....これ以上彩花を悲しまないように...この鬼を止めなければ.....。

 

 

「来い!俺が相手だ!」

 

 

俺は彩花の涙を拭いた後、彩花の持っていた折れた鎌を拾って構えた。

 

斧はもう一匹の鬼の動きを止めるために使っているから、落ちていた彩花の鎌を使うしかなかった。鎌の刃の部分が半分に折られているが、戦うのにまだ使える。だが、難しい....。とにかく、鬼の注意をこちらに向けさせなければ....。これ以上、彩花の家を壊させはしない!

 

 

「おお!威勢の良い餓鬼じゃねえか!」

「禰豆子!気絶した彩花を頼んだ!もう一匹の鬼と周りの様子も見て、何かあったら知らせてくれ!」

 

 

俺は鬼の注意がこっちに向いたことを確信し、禰豆子に彩花のことと、もう一匹の鬼や周囲のことを頼んだ。

 

折れた鎌でこの鬼と戦わないといけないのに、他の鬼まで来たら大変だ。気絶した彩花のこともあるからな.....。

 

 

「ヒノカミ神楽 円舞」

 

 

俺は鬼の動きを封じる方法を探しながら鬼と戦った。鬼の攻撃を防ぎ、攻め込んでいるが、動きを止める方法を見つけられずに戦い続けることしかできなかった。だが、記憶が戻ったのはつい最近のことだったから、全然呼吸を使っていなかった。そのせいか、肺が凄く苦しい。肺を鍛えてなかったから、昔と同じくらいに戻っている。....それに、熱でずっと寝込んでいたせいもあって、体が鈍っている...。

 

 

「なんだぁ?威勢の良さの割に大したことねえじゃねえかぁ!」

「くっ!」

 

 

まずい!戦いが長引けば長引くほどこっちが不利だ!禰豆子も俺の様子に気づいて、加勢しようとしている....!

 

 

「禰豆子!来ちゃだめだ!俺のことは気にしなくて大丈夫だ!」

 

 

俺はこっちに来ようとしている禰豆子を手で制し、首を横に振った。加勢しようとした禰豆子は俺を見て何か言いたげだったが、渋々頷いた。

 

 

「禰豆子。大丈夫だから.....「お、おにい、ちゃん!う、しろ!」...えっ?うわっ!?」

 

 

俺が禰豆子がなんとか納得してくれたことにほっとした時、禰豆子が俺の後ろの方を見て慌てだした。俺は禰豆子に言われて振り向くと、鬼が目の前まで迫っていた。俺が禰豆子の方を見ている間に近づいてきたようだ。

 

 

「他のことを気にするとは......随分と余裕があるんだな?」

「うっ!....くっ!」

 

 

俺は鬼の攻撃を避けながら何か突破口がないかと考えた。相手の鬼は随分と余裕そうだ。このまま続いたら.....そう考えていると、いつの間にか壊された家の近くまで行き、逃げ場を失った。

 

 

「さて、もう逃げられねえぜ?」

「くっ!!」

 

 

余裕そうな笑みを浮かべる鬼が俺に向けて腕を振り下げ、俺は咄嗟に持っていた鎌で受け止めた。しかし、怪我はなかったが、その衝撃で鎌は完全に使えなくなり、俺は少し後ろに吹き飛び,尻もちをついた。

 

 

「はっはっはっ!どうやらここまでのようだなぁ!」

 

 

鬼は俺を怖がらすようにそう言ってゆっくり近づいてきた。

 

...鎌が折れた。今の俺は丸腰だ。それに、俺は尻もちをついてしまい、鬼を見上げる態勢になってしまった。

 

本当にまずい...!この態勢は俺にとって圧倒的に不利だ!

 

 

「!?おにいちゃ.....」

「駄目だ、禰豆子!....!?禰豆子!後ろだ!」

 

 

禰豆子は俺のところに駆けつけようとするが、俺はそれを止め、禰豆子のを見て驚愕した。俺が見たのは、斧で動きを封じていたはずの鬼がその斧を外そうとした姿だった。俺はすぐに禰豆子に知らせ、禰豆子は俺の声でその鬼のことに気づき、すぐに蹴りを入れて動けなくした。

 

 

「......余所見しているところ悪いがぁ.....お前はここまでだぁ。」

 

 

俺が禰豆子の方を見ている間に、俺の目の前まで来たようだ...。禰豆子も俺の状況に気づき、蹴りを入れられてふらふらな鬼をほっといて、俺の方に駆けつけてきた。だが、間に合いそうもない。鬼は笑みを浮かべて腕を振り上げ、無慈悲にも俺に向けて腕を振り下ろした。

 

負ける....!

 

 

 

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

 

その声が聞こえ、目の前で俺に振り下ろされるはずだった鬼の腕が斬られた。......さっきまで気絶していたはずの彩花によって.....。鬼の腕を斬った彩花の顔を見て、俺は驚いた。彩花の左目が黒色から緋色に変わり、その左目の近くから左耳の近くにかけて葉と蔦の.......まるで都会で見た刺繍に近い形の痣があった。彩花の手には包丁が握られ、その包丁は炎を纏っていた。しかも、彩花がさっき出した型は...前方宙返りで円を描くように斬る型.....俺のヒノカミ神楽の火車にそっくりだった....。

 

 

彩花に何があったんだ?

 

 

彩花の目は両目とも黒目だった。だが、いきなり左目だけ色が変わるのはおかしい。それに、彩花に急に出てきたあの痣.....彩花の顔には痣なんてなかった。急に現れた痣....そして、彩花から聞こえるこの独特の呼吸音.....間違いなく彩花は呼吸を使っている。彩花は剣士だったのか....彩花は剣士だということを黙っていたのか.......?

 

 

いや、彩花から困惑の匂いがする。つまり、彩花もこれがどういうことか分からないんだ.....。彩花の家にも俺のヒノカミ神楽のような呼吸法や型が伝わっているのか?

 

 

俺がそんなことを考えている間に、彩花が宙に浮いた状態で着物から何かを取り出した。それを持って口につけると、彩花が腕を斬った鬼に何かが刺さり、プスっという音が聞こえた。すると、その鬼の様子が急におかしくなった。腕がなかなか再生せず...いや、再生してきているが、どう考えても再生の速さが遅い。それに、鬼は体が震えているだけで一歩も動かなかった。

 

 

「何をぉ......何をしたぁ!」

 

 

鬼は動かさないのではなく、動かせないようだ。その時、彩花の持っていた物と鬼に刺さった小さな矢で、彩花が何をしたかが分かった。

 

 

彩花が吹き矢をしたのだ。

 

彩花が昔からやっていた遊びは草笛ともう一つ...吹き矢だったそうだ。俺が熱で寝込んでいた時に、その吹き矢を見せてもらった。吹き筒は母親から木で作ってもらった手作りで、矢は普通の物もあるようだが、薬とかを注入できるように改造した、注射に近い形をした小さな矢もあるそうだ。それは彩花が自分で作ったらしい。始めは遊び感覚だったが、だんだん上達していき、ついに人食い熊を遠くから狙撃できるほどの腕前になったそうだ。しかも、眉間を打ち抜けるほどの...。彩花は最初は偶然だと思っていたそうだが、何回も成功して実感したらしい。俺達も見せてもらったが、見事に的を打ち抜いていたから、その腕前は本物だ。事実、今、彩花は鬼の眉間に見事に命中した。彩花の注射型の吹き矢は熊でも効くくらいの物で、鬼が動けないのも彩花の薬が原因だろう......。

 

 

「何をしやがったぁ!!」

 

 

鬼がそう怒鳴るが、彩花は鬼の眉間に吹き矢が命中したのを見た後、静かに目を閉じ、茂みの中に突っ込んだ。茂みに突っ込む前に手を放したらしい包丁がその近くの地面に突き刺さった。

 

 

「彩花!」

 

 

俺と禰豆子が彩花に近づいて様子を見ると、彩花は穏やかに寝息を立てていた。どうやら眠っているだけのようだ。

 

 

「よ、よかっ、た。」

「ぐっ....!しまったぁ!夜明けだぁ!!」

「チクショー!」

 

 

俺と禰豆子が彩花の無事に胸を撫で下ろしていると、鬼達が騒がしくしていた。鬼達の方を見ると、鬼達の体が焼け始めていた。朝日が登ってきたようだ。斧が刺さって動けない鬼は手で顔を覆うことができたが、彩花の薬で動けない鬼は何も抵抗できずに太陽を直視することしかできなかった。鬼達はすぐに日光で焼け死に、灰になってしまった。

 

 

「とりあえず......なんとかなったな。」

 

 

鬼をなんとかできて、俺はほっとして地面に座ってしまった。禰豆子が俺を心配し、俺は禰豆子の頭を撫でながらその間にあることを決めた。後で禰豆子にも話しておこう....。彩花が起きたら聞きたいことが色々あるが、今は寝かしておこう.....。

 

 

 

 

 

 

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