笹の葉の少女は幸せを願う   作:日々草

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笹の葉の少女は責任をとる 後編

 

 

 

アタシの前世はただの平凡なアニメオタクだった。漫画を読んで、アニメを見て、映画化したらそれも必ず観ていたし、グッズだって購入していた。それくらい、アタシはアニメが癒やしだった。

 

 

そんなアタシはある日事故に巻き込まれて亡くなった。正直、心残りしかなかった。あの時のアタシはまだ高校生だったし、最近ハマっていた漫画がもうすぐで完結だったし、その漫画の映画だって楽しみにしていたのに観ることができなくなってしまった。

死ぬまでそういう後悔ばかり思い浮かんでいて、この世に未練しかなかった.....。

 

 

だけど、次に目を覚ましたらそこはあの世ではなく、何故だか妙に草木が生い茂ったところにいた。

あの時は本当に焦ったわよ。そこにいる理由も分からなくて、森の中を彷徨い歩くことにしたわ。だって、何も分からなかったんだもの。

そうしていたら池か湖なのかは知らないけど、水が溜まっている場所を見つけたわ。あまり喉が渇いていなかったけど、水は飲める機会に飲んだ方が良いと思って、その湖に近づいて...アタシは初めて気がついたのよ。

 

 

鬼になっていることに。

 

 

アタシは湖の映った姿を見て驚いたわ。目が縦長になっていたし、口からは牙が生えているのも見えたのだから。あと、何故か髪や瞳の色も違っていて、まるで別人みたいだった。

アタシは映ったのが自分だと気づき、変わってしまった部分からまさかと思って両手を見た。案の定、その手の爪はとても長くなっているうえに先が鋭かった。

 

 

アタシはそれらを見て、すぐにこれが何か...該当するものが思い浮かんだわ。服装は制服のままだったけど、この自然が豊かな環境や鬼の特徴が自身にあることから、アタシはここが転生する前までハマっていた漫画の『鬼滅の刃』の世界であり、その世界に転生しているのだということに気づいた。

 

 

この世界が『鬼滅の刃』なのかもしれないと悟ってすぐに、アタシはその漫画のキャラクター達がいるかどうかを調べた。と言っても、アタシは鬼だから、鬼殺隊には見つからないように動かないといけなくて大変だったわ。

幸い、アタシは飢餓が全くなかったから、人間を食べなくても行動できた。おかげで、アタシはその調査の方に集中することができた。また、人間を食べないうえに目立たないようにしていたから、鬼殺隊にアタシの情報が出ることはなく、隊士がアタシを殺しに来ることもなかった。そもそも鬼の気配があまりなかったらしく、アタシの存在に気づかれることは少なかったわね(ヤバいと思ったら即逃げるようにしていた)。

 

 

そうやって少しずつ鬼殺隊の情報を集めていき、アタシが転生した時がちょうど『鬼滅の刃』の最初の時期だということに気がついた。今でいうところの二年前ね....。

 

二年前といっても、アタシが転生した時は既に炭治郎達の家族が殺されていた時期を過ぎていたようだし、この二年間は現状を把握するために時間を費やしていた。

何せ、アタシは鬼だから鬼殺隊に近づけない。一般人も食べてしまう可能性があって、アタシから近づこうとは思えなかった。そのため、現状を知るのに時間がかかってしまった。もしかしたらその期間に救えた人がいたかもしれない。そう思うと、後悔が残るわ。

 

 

だけど、本格的に原作へ入る前に分かって良かったと思った。原作の流れは知っていたため、この後の展開は分かるし、救済は可能だもの。鬼になっているから、鬼との戦闘でも大丈夫だ。鬼舞辻無惨の支配を受けている感じではないので、太陽の光や日輪刀、藤の花以外で死ぬことはない。

 

太陽が出ている時に移動できないのは不便だけど、それでも鬼になったことで得る利点も大きかった。

だって、鬼だと普通の人間より力が強い状態だもの。戦闘時は少し有利になるわ。

 

 

なんで救済するのかって?それはこの『鬼滅の刃』という世界では登場人物が多く死ぬからよ。アタシがこの漫画を読んで、何度好きなキャラが亡くなって泣いたことか......。

 

...だからこそ、この世界はその推しキャラ達が亡くならない世界にしようと思ったわ。この世界で推しが幸せになるところを見たいと。

ちなみに、アタシの推しは主に鬼殺隊よ。鬼側も好きだけど、アタシは主人公側の方が好きなのよね。

 

 

 

アタシは炭治郎が最終選別を受けるところを見て、それを合図に計画を決行した。

 

具体的に何をやったのかは貴女の思っている通りよ。アタシは鬼だから、鬼殺隊に入ることはできないし、協力をすることもできない。珠世さん達は浅草にいるとはいえ、兪史郎の紙眼をなんとかしないといけなかった。アタシの血鬼術は操ることができても、他人のものを操ったり、察知したりすることはできなかったのよ。粘っていたのだけど、全然会える気配はなかったのよね。救済しながらも浅草をうろうろしてみたんだけど、最終決戦の時まで会えなかった。

 

....運が悪い?知っているわよ、そんなことは!

 

 

鬼殺隊も論外よ。運が良ければ話を聞いてくれる人がいるかもしれないが、鬼の話なんて聞かずに問答無用で斬りに来る人だっている。これは運ゲーであるため、アタシは鬼殺隊とはなるべく接触しない方向で進めることにしたわ。

 

 

無限列車の時はそもそも猗窩座が現れなければ煉獄さんは死なないのだから、猗窩座が無限列車へ来れないようにすればいいと思った。

猗窩座の頸を斬るのは無限城よ。それなら、無限列車で会うようにしなくてもいいと考えた。

何せ、黒死牟と童磨の使う血鬼術は初見殺しだが、猗窩座の使う血鬼術は違う。羅針は厄介だけど、戦っていれば気づけるものだと思った。

 

煉獄さんが亡くならないと、炭治郎達に何か影響がないのかということも考えたが、あの煉獄さんの亡くなるシーンを思い出すと、今でも胸が苦しくなる。多分あのシーンをもし映画で見たらアタシは泣くわ。

 

 

戦闘になっても平気だった。アタシはこの二年間で調査しかしていないと思ったら大間違いよ!調査をしている最中に、鬼殺隊と戦うことになった場合を考えて、アタシは血鬼術を修得しようと思った。でも、人間は食べたくなかった。それで、アタシは自分を鍛えることにして、あれこれしているうちにあの力に目覚めた。

いえ、おそらく元から使えていて、アタシがコントロールできるようになっただけだと思うわ。だって、目覚めた瞬間に自分の体の一部かと思うほどに意のままに操れたのだもの。

 

 

当時のアタシは驚いた。人間を食べていなかったのに、本当に血鬼術が使えたのよ。これはもしや転生特典かと思うくらいに使いやすかった。おそらく転生特典でしょうけどね。

 

 

アタシはその血鬼術を使って鬼殺隊の人達に見つからないようにしてきた。見つかったら殺されるのは間違いなかった。でも、アタシは推し達と戦いたくなかった。

 

 

アタシは煉獄さん達が生き残る結末を見たくて、原作にもかなり介入してきた。遊廓編だって誰も死なないけど、宇髄さんの左腕と左目が無くなるし、最終決戦に向けての準備という意味でもこの戦いに参加した。

 

 

アタシは推し達が生存したラストを見たかった。特に終盤は主要キャラがどんどん亡くなっていって、とても悲しかったし、凄い泣いた。最終話は見ていないけど、次々と亡くなるシーンを転生する前にずっと見ていたことから、その思いは強くなっていったのだろう。

アタシが望んだのは主要キャラ全員が生き残った最後を見ること、それだけの筈だった。

 

 

だけど、アタシは最後に欲が出てしまった。

最終決戦でも全員が生き残った状態で鬼舞辻無惨まで辿り着き、朝日が昇るまで戦い続け、無惨を倒した。主要キャラ全員が大怪我をしていたけど、誰も死ななかったわ。悲鳴嶼さんが少し危なかったけど、そこはアタシの血鬼術でなんとかした。

 

 

えっ?無惨と呼んでも大丈夫なのって?最初に話した時に無惨の名前を呼ばないから、無惨の呪いにかかるようにしたから?

ふふふっ、もう平気よ。アタシは貴女に負けたのだから、もう無惨の部下である必要はないと思って、無惨の呪いは解いたわよ。

それに、分かってるじゃない。アタシが今回で無惨の呪いにわざとかかってるって。

まあ、あの鬼舞辻無惨が呪いを解いて、いつ反逆するか分からないのを十二鬼月に加えるわけないわね。

 

ああ、そうそう。無惨にはアタシの目的を別のものに認識させたから、本当の目的は貴女しか知らないわよ。

 

 

もう、話を戻すわよ。とにかく、無事にラスボスの鬼舞辻無惨を倒せた。アタシはその様子を見て、安堵すると同時に寂しさもあった。アタシは鬼であるため、無惨を倒せば消滅することになる。それは覚悟していたけど、全ては推しのためだった。

 

 

アタシはそう思っていたけど、やっぱり何かご褒美が欲しくて...血鬼術を使った。

今思うと、無惨を倒したことでテンションが上がっていたのね。アタシは消滅するまででいいから、最期に炭治郎と話をしたいと思った。何せ、『鬼滅の刃』の世界に転生したといっても、その主要キャラ達とは話していなかった。遠目で見たり、血鬼術をかけたり、手助けしたりしていたけど、アタシは直接会ったり話したりすることはなかった。

 

特に、アタシは炭治郎が『鬼滅の刃』の中でも最推しだったから、ほんの少しの間だけその最推しと話したい。死ぬ前にそのくらいの贅沢をしたいと思い、炭治郎に血鬼術をかけた。

 

 

だけど、それは間違いだった。血鬼術を使った瞬間、何かまずいことになるのではないかと思った。それに気づけたのに、アタシは止めることができなかった。あの時のアタシはきっと何かボタンを押してしまったのだと思ったわ。何重に重ねていたもののバランスが崩れたと、全てを崩壊させてしまうスイッチを入れたと、今でもアタシはそう感じたのを覚えている。本当に一瞬で、ドミノ倒しのように崩れていったわ。

 

 

上手くいっていたのに、アタシが自分の手で壊してしまった。アタシはその惨状を見て、血鬼術で止めようとしたが、それもできなかった。アタシが何度血鬼術を使っても、コントロールは無理だった。今まで上手く操れた力が突然牙を向いたことで、アタシは動揺していて何もできなかった。ただ炭治郎が殺され、禰豆子も亡くなっていくところを見ているだけだった。

 

 

これはアタシへの罰なのだと思ったわ。アタシが調子に乗っていて、その力を過信してしまったことで、この悲劇を生み出してしまった。そして、悲劇を起こしておきながらアタシはそれを止められなかった。

それに、気づくべきだった。原作をあれこれ変えたことで、その後への影響を軽く考えていた。死亡するはずの原作キャラが生存したことで、その後でこんなことになるなんて思ってもいなかった。

 

 

だけど、これだけは確かだった。アタシが炭治郎達の人生を変え、その絆も壊してしまったのだと。

後悔しかない。善逸達が自身を責めている。遺された善逸達にアタシがやったと教えたい。それなのに、アタシはもう消えかけていて、話すこともできなさそうだ。

 

アタシのしたことが原因でこんなことになるなんて....アタシが望んだのはこんなんじゃなかったのに.....。...だけど、この悲劇を起こしたのはアタシ。それが紛れもない事実なのは分かった。望んでいたことと真逆なことが起こったのはアタシが色々行動したから。

 

 

そんなことを思っているうちに、アタシの目の前は真っ暗になった。

おそらく限界だったのね。....このことで絶望する資格なんてないのに...。

 

 

その後、アタシは気がついたら転生した時にいた森の中へ戻っていた。そのことに驚きながらも、アタシはいつまでも自分が消えないことに気づき、もしやと思って調べてみた。すると、鬼がまだ存在していて、無惨や十二鬼月だっていることを知り、年代も聞いてみた。それによって、二年前に戻っていることが分かった。

 

 

アタシはそれを知って歓喜した。今度は原作に関わらないと、あの悲劇を起こさないようにできると思った。死亡するはずの原作キャラに生きてほしいと思っていたけど、そのために他のキャラ(主人公)を死なせるのは駄目なのよ。

原作以上の悲劇を起こしてはいけないのよ。そんな悲しい終わり方は嫌よ。原作の最終話を見てないけど、あの話はきっと大団円で終わるはずなのだから.....。

 

 

でも、アタシが前回であの悲劇を起こしたのは紛れもない事実よ。やり直すことになっても、それは変わらない。

アタシがあの時の事件を起こした元凶なのよ。例え誰も知らなくても、アタシはその罪をずっと抱え続ける。罰も受ける気よ。だけど、誰もアタシがその悲劇を起こした罪人だと気づいてないし、知らないのよね。炭治郎は鬼に慈悲を与えてくれるけど、アタシにはそんなことをする必要はない。むしろ前回で貴方を殺した張本人なのだから、恨んでほしい。....そう言っても、アタシを慈悲なく恨んでくれるわけがなさそうよね。

 

炭治郎の鼻なら嘘をついてないと思ってくれるだろうけど、そもそも炭治郎に会える可能性は低い。それに、炭治郎を殺すこととなってしまった柱や善逸達にもアタシを罰する資格がある人よ。なんとかその全員がアタシを罰するようにしたいけど、それは流石に難しいというのも分かっていたわ。各地にバラついている鬼殺隊がたった一体の鬼のために集まると考えられない。その場ですぐに殺されるだけ。

 

 

それなら、上弦の鬼として出会えばどうかしら。敵側にいて、それも上弦の鬼という幹部にまでいけば殺意を抱くのは間違いないわ。何せ上弦の鬼となったら、たくさんの人を殺したと認識される。強い鬼なら複数人が集まる。それなら、その人達はアタシを確実に殺意や怒りを抱きながら殺してくれる。

そう考え、アタシは人を食べるようになった。人を食べないとなると、無惨や十二鬼月がアタシを仲間と思わない。最終決戦までに上弦の鬼にならないといけないので、あまり時間がなかった。早く信頼を得て、強くならないといけないと思い、見つけた死体とか、たまに人間を殺して食べてきた。

 

 

その結果、別の血鬼術を使えるようになったわ。出世のために鬼を斬るような人間に殺されたくなかったから、その対抗手段の一つとして丁度良いと思った。

アタシが殺されたいのは柱や炭治郎達だし、隊士を殺したら憎悪が強くなるとも考えていたし、どうしようもない悪人になろうと必死だった。

やっていることがおかしいというのは分かっていた。だけど、アタシは止めることができなかった。

もうアタシにはこれしかない。こうすることでアタシは正しく裁いてもらえる。

どうせアタシは人を殺して、人生をめちゃくちゃにしたんだから、なかったことにされるのはおかしい。そうなってしまうよりも、ちゃんと人を殺した鬼になった方がいい。その方がいいんだって。

...そう思っていたわ。

 

 

 

 

 

「それなのに......結局、それもできなかった...。....しかも、鬼殺隊の方はまさか全員が前回の記憶を持ってたなんて...思ってもいなかった.....。それに、もっと早く気づけば別の方法を考えてたわ。アタシは無意識に前回の記憶を持ってるのはアタシだけだと思ってたのよ....」

「.............」

「アタシが貴女を殺そうとした理由のうちの一つは、原作を知る貴女がアタシのことに気づきそうで、前回のことも知られたらアタシの考えていることもバレて邪魔されると困るからよ。貴女の行動は予測できないもの。貴女が何をするか分からなかったけど、原作に関わってくるなら見逃せない。

それに、あの時のことがあったからよ。貴女がアタシのように救済していけばまた前回と同じことになる。そう思って、アタシは貴女と早く殺しておこうと考えたわ。

 

その後は....貴女の言う通り、もう終わりの近い時だったから、アタシには時間がなかった。上弦の陸になれても強くなり続けないと下ろされる可能性があったから、アタシはそっちに力を入れないといけなかった。

あと、アタシは柱や炭治郎達と戦うんだから、他の隊士達に負けないためにも強くならないとと思ったのよ。

そういうわけで、アタシに貴女を殺しに行く時間はなかったから、他の上弦の鬼が殺しに行くように誘導したわ」

 

 

アタシの話をあの子は静かに聞いていた。それから、アタシは戦う前のあの子の予想通りに動いたことを教え、あの子を睨みつけた。

 

前回のようなことが二度と起こさないためにも、アタシは何でもしようと思ったわ。あの悲劇を絶対に起こしてはいけないと。

 

 

...いえ、アタシがやったことはきっと逆恨みね。あの子はアタシと違っている。あの子は人間に転生して、アタシは鬼に転生した。そんなあの子が光に見えて、アタシは真っ暗な闇にいる。そのことにアタシは嫉妬した。

 

 

アタシは転生してすぐに鬼だったから、鬼にならないという選択肢がなかった。そのため、鬼殺隊とは敵対する関係だった。だけど、アタシは鬼殺隊と戦いたくなかった。そんなアタシに味方なんていなかった。

二次創作では味方になったり協力者としての関係を築いたりしていたが、それが現実でできるなんて思えなかった。

アタシは鬼殺隊に見つからないように動き、鬼殺隊の様子を陰ながら見守ることしかできなかった。

だけど、あの子は違う。鬼殺隊の人達と一緒に行動できて、太陽の下で光を浴びながら炭治郎達と行動するあの子が眩しかった。

 

一方でアタシは誰一人も味方がいない。鬼は一緒になることなんてなく、それどころか共食いをする習性を持っているため、命を狙われることもあり得て、一緒に行動できない。

例外な鬼は累や妓夫太郎と堕姫の兄妹ぐらいだ。他の鬼はみんなどんな状況でも争い合うため、協力するなんていう選択肢がない。

信頼できる仲間はいなかった。裏切られる可能性があって、そんなことはできなかった。

だからこそ、あの子のことが羨ましかったのかもしれないわね。あの子がどんな人間か確かめずに殺そうとするくらいに。

 

 

「.....貴女が前回で起こしてしまったことは、確かにやり直しになってもその事実があったのを消すことにはならない」

「そうでしょ!それなら.......」

「だけど、貴女は悪い人ではないでしょう?」

「....はっ?」

 

 

睨みつけるアタシを見ながら、あの子は落ち着いた様子で話し出した。あの子の言葉にアタシは同意していたが、次の言葉は予想外過ぎて、アタシは口を半開きにし、目を見開いた。

 

 

何を言ってるのかしら、この子は。

アタシは前回で炭治郎を殺すきっかけになったわ。それに、アタシは貴女も殺そうとしたのよ。どうして殺そうとした鬼を悪い人ではないなんて言うの。

 

 

「前世でアニメオタクだからといっても、アニメオタクでも色々な人がいますよね。趣味や好きなものが同じであろうと、性格が違うのですから。これは前世で読んだラノベ小説からの情報(読んだ小説の設定)ですけど、その小説の中の転生者は必ず同じ行動をするわけではありません。大きく分けると、二つですかね。一つは亡くなるはずのキャラを助け、物語とは違う道を進むことです。もう一つは物語を変えないまま、その人生の中で自分なりに生きることです。

ですので、アニメオタクの転生者がみんな好きなキャラを救うわけではありません。

その人にはその人の個性があります。貴女と同じことをするとは限らないではありませんか」

「.......何が言いたいのよ...」

「誰もが救済を考えるわけではないし、それに向けて行動することも全員ができることではありません。貴女がその行動ができたことを私は否定する気なんてありません」

 

 

あの子の言葉にアタシは眉を顰めた。そんなアタシを見ても、あの子は微笑んだまま話を続けた。

あの子はアタシを否定する気なんてないと言うけど、一体どういうつもりなのかしら?

 

 

そんなアタシの心情を気づいてるかどうかは分からないけど、あの子は苦笑いしていた。

ホントにどうする気なのかしら?

 

 

「先程言っていた通り、私と貴女は違いますよ。私は原作通りに進むことを望み、貴女は救済をして物語を変えることを望みました」

「あら、貴女は原作通りに進めようとしてたの?」

「そうです。ただ、私は何もしようとも思いませんでした。正直に言いますと、私は恥ずかしいです。私は普通の町娘でいることを選び、何もしないことで原作通りに進む方を望みました」

 

 

あの子の突然の自分語りにアタシは話が見えなかったけど、とりあえず聞くことにした。あの子はアタシの言葉に頷き、悲しそうな顔をしながら言った。

 

アタシはあの子の表情を見ながら思った。

あの子は原作に関わらない方を選ぼうとして、結局はそれを選ぶのを止めたのだと。

なんで変えちゃったの。それで良かったのよ。そのままでいれば......。

 

 

「それでいいじゃない。原作を変えようとしたら、アタシと同じことが起きてたわ」

「....そうですね。私もそれが怖かった。だけど、それ以上に怖かったのは別にありました。死ぬかもしれない戦いをすることや誰かが死んでいくところを直近で見ることに恐怖心を抱いていました。

そのため、私は関わりたくないと思い、この世界から目を背けました。『鬼滅の刃』という世界から逃げました。ですが、貴女は例え好きなもののためという理由でも、この世界に立ち向かいました」

「立ち向かうだなんて.....。....それなら、貴女も立ち向かったんじゃないの。今回で貴女は煉獄さんの救済をしたんでしょ。煉獄さんの件は関係あると貴女が言ってたわよね」

「あれは流されたというのが正しいと思っています。

この世界の未来を知り、もしそれが嫌な未来なら変えようとする。少なくとも私はそうします。自分から嫌な未来に行く人はいるにはいると思うけど、そこまで多くないと思いますから。

知っていて、その未来になることへの抵抗を覚えたり、その未来に進めていき、その結果で誰かが死ぬことになることに罪悪感を抱いたりする人達だっています。

 

私がしたことを正当にするような言い方ですが、貴女の影響で変わった展開に流されていた状態の私は目の前に助けられそうな命に出会ったうえに、さらに変わり過ぎた現状が後押ししてくれて、それがきっかけで未来を変えることにしたと思っています。

だけど、貴女は違います。貴女は原作通りだった流れに逆らい、未来を変えました。貴女と私で違うのはそういうところですよ」

 

 

アタシが思ったことを言うと、あの子は一度頷いていたが、すぐにそれも否定した。さらに、アタシを褒めるようなことを言い、アタシは違うと言った後にあの子が煉獄さんを助けた時のことを指摘した。すると、あの子は流されているだけだと言い、アタシと自分自身の違いのことも話した。

 

あの子はアタシの思っていることに気がついている。アタシがあの子にどんな思いを抱いてるのかを察しているのだと思うわ。その上であの子はこの話をしている。

 

 

何故、あの子はアタシを責めないのかしら?

 

 

「原作通りの状況の中、貴女は鬼でありながらも煉獄さん達の救済を選びました。私がもし貴女の立場なら泣き寝入りしていると思います。貴女の立場になって、誰もがその行動ができるかのというと、答えは否だと思います。

口にしたり書いたりすることはできても、それを実行できるのは全員ではないのです。その行動をしたことを貴女は反省や後悔をしているかもしれませんが、反省はしても後悔はしないでください」

「はっ...!?」

 

 

あの子の話を聞いて、アタシは驚愕して声が出た。

 

あの子の存在は厄介だと感じていたし、想像できないことをしそうだと思っていたが、やはり予想外な行動をする子ね。

一体何も思って、こんなことを言っているのよ。

 

 

「確かに色々あったかもしれませんが、私は貴女が誰かを助けようとしたことを、助けたことを否定したくないのです。それに、私は貴女のことを凄いと思っています。貴女は鬼になって敵側についても、煉獄さん達を助けるのを諦めませんでした。

鬼殺隊は鬼殺隊での苦労がありますが、鬼になって味方がいなかった状態での苦労だって大きかったと思います。そんな状況でも、貴女は挫けずに努力をしていた。それは貴女が人を食べないで地道に鍛練やコントロールをしていたことからも分かります」

「....アタシが人間を食べてないなんてよく言えるわね。だけど、アタシは人間を多く殺して食べていたわ。貴女はそれに気づけないのかしら?アタシが人食いの鬼だと見抜けないなんて、今まで鬼と戦ってきたとは思えないわ」

 

 

あの子はアタシのことを人食い鬼ではないと言い、アタシはその言葉に怪訝な顔をした。

 

鬼殺隊に所属してないとはいえ、あの子は何度も鬼と対峙した筈なのに!それなのに、あの子はアタシを.....それも上弦の鬼に対して人食い鬼じゃないなんて、そんなおかしなことを言っているのよ。

何を考えているのよ。意味が分からないわ。

 

 

「確かに今回で私が貴女と接触した時、貴女から人食い鬼の気配がしました。

.....ですが、前回は違いますよね。鬼を食えばその気配に変化がある。貴女が一人でも人間を食べていたら、確実に人食い鬼の気配がするでしょう。特に、炭治郎達は血の匂いや鬼独特の音、気配などを敏感に感じる。貴女は血鬼術で隠すかもしれませんが、それにだって僅かな匂いがあります。

原作通りに動くとなると、そこにほとんど主人公の炭治郎がいる。貴女の特典の方の血鬼術が脳に影響を与えるものだとしても、何かしらの違和感を感じるはずです。と言っても、気のせいと思われるかもしれませんが....。

 

貴女の使う血鬼術がそういうのが一斎なかった場合でも、炭治郎の鼻に引っかからずに、それを長時間も一緒にいれば貴女の力にも限界が来るはずです。鬼は疲れることはありませんが、血鬼術を使えば力は消費します。そのために鬼は人を食べることで、禰豆子は眠ることで力を回復させていました。ですので、貴女もそれらの行動をすることになりますよね」

 

 

あの子はアタシの言葉に肯定していた。だが、あの子は前回のアタシのことを指摘し、前回の状況やアタシの血鬼術、鬼の特性などを挙げていき、アタシが前回で人間を食べた可能性を否定していった。

 

....前回でいなかったのに、なんでバレちゃうのよ。原作の知識があっても、これには気づかないと思っていたわ。

前回のアタシは人間を食べなくても平気だったし、たまに少し眠くなることがあるけど、その時に眠れば良かったから、力を使い果たすことなんてなかったわね。

 

 

「その点から貴女が人間を食べていないのだと考えました。何せ、貴女の血鬼術は複雑だからこそバレにくいものになっていますが、その代わりに力を多く使っています。ただでさえ自分の姿を隠すのでも多く使っているのに、自身が人食い鬼だとバレないようにするため、さらに力を使わないといけなくなる。

しかも、人間を食べれば食べるほどにその力が増すが、隠す方でもかなり複雑になるので、これでは自身の存在を隠すのに精一杯で、その状態で戦いの時に血鬼術を使うのは負担が大きすぎると思いました。特に、貴女が血鬼術をかける鬼は全員が上弦の鬼です。かけるのなら、強力な血鬼術を使わないといけませんよね。人間を食べて力を回復する場合は。

 

......それで、貴女はどうなのですか。貴女は前回で見つかることがなかったのですよね。それなら、貴女は前回で人を食べていないのではないかと思いました。

それに、貴女のことだから食べた人の数はそこまで多くないと思います。もしかなりの人数を食べているのなら、鬼殺隊で大騒ぎになっているでしょう。ですが、そんな大騒ぎなんてなく、今まで私しか気づかなかったのだから、そうなのではないかと私は考えました」

 

 

あの子は自身の推測の続きを話し出した。だけど、アタシからしたらほぼ正解よ。推測を話し終わった後、あの子がアタシに問いかけるように聞いてきたが、アタシは答えることができなかった。

 

だって、あの子の推測が合っているのだもの。話せなかった。

 

 

「....今回で人間を食べてしまったことは消すことができません。ですが、それでも貴女が前回で人間を食べずにいたことも煉獄さん達を助けてくれたことも消えません」

 

 

そんなアタシの様子に気づいたのか、あの子はアタシの答えを聞かずにそう言った。あの子は他の人達にその記憶がなくても、アタシのしたことは消えないと言った。良いことも悪いことも残ると。

 

 

その言葉にアタシは喜んでいいのかという複雑な思いと絶望のような感情を抱いた。

あの子、甘いことを言っているのか厳しいことを言っているのか分からないわね。まあ、あの子は甘やかす気なんてないかもね。

ホントに自身の感じていることをそのまま話しているみたいだけど、アタシには........。

 

...なかったことにしていた筈の感情が出てくることに気づき、アタシはそれを押し戻そうとする。

 

 

だが、その間にもあの子は話し続ける。

 

 

「貴女からしたら私を逆恨みしたくなるのも分かりますよ。転生した時から鬼として頑張っていたが、誰にも頼れない状況でした。その状況でも貴女は自分の目標を変えなかった。

本当にやりたいことをしている時、辛いことがあろうともそれを真っ直ぐに目指している。だからこそ、諦めたくないと思って前に進める。.....貴女は本当に煉獄さん達の救済するのを諦めなかったし、先程で言った柱や炭治郎達全員が生存している世界を見たいという願いは本気だというのがよく伝わります。そんな貴女がお菓子を食べるような感覚で、人間を食べようとするとは思えなかったのです。

 

例え人間を食べる決断をしても、それは軽い気持ちで決めたわけではなく、深く考えてからの行動だと思っています」

 

 

あの子はアタシを擁護するようなことを言ってきた。

 

それを聞いて、アタシはますますあの子のことが分からなくなってきた。だって、何故かアタシのことを信用しているように見えるのよ。だけど、あの子が何故アタシにそこまでしようとしているのかがどうしても分からないのよ。心当たりもない。

 

 

「こんな信頼を寄せていることを不思議に思うかもしれませんが、私は貴女がそう思っていようと、貴女の行動を私なりに評価しています。

私を殺そうとしたことだって、それは貴女があの時のことを忘れず、それを起こさないようにしていたのがよく伝わりました。

もしかしたら、私も原作のようにするために何かしていた可能性がありますから。殺すという方法でなくても、そのための行動をしていたかもしれませんね。

だから、貴女が自分のしてきたことを思い悩んでいるのは知っています。ですが、自分の行動に悔やむのではなく、何がいけなかったのかと自分の気持ちや行動を分析して、自分の前に道を開いてくれる方がいいのではないかと私は思います」

 

 

あの子の話を聞き、アタシはあの子が何を言いたいのかに気づいた。

 

 

アタシが鬼でありながら鬼殺隊を救おうとしたことは間違いなんかじゃない。あんなことが起きたけど、それを反省して次へ向かった方がいいのだと。自分を殺そうとしたことも気にしていないと。

あの子はそう言いたいのね。

 

だけど........。

 

 

「..........」

「....もし貴女が私に悪いことをしたと思ったのなら、大変厚かましいことを言っているのは充分承知ですが、お願いをしてもよろしいですか?」

 

 

無言でいるアタシに近づき、あの子は頼み事をしてきた。アタシはそれに困惑したが、話は聞いてあげることにした。

 

何を言ってくるのかは分からないけど......。

 

 

「な、何よ...」

「勝手ですが、私もその償いに協力させてほしいのです」

 

 

アタシが戸惑っていると、あの子はアタシにそう言ってきた。アタシは絶句してあの子を見た。

 

この子はアタシに協力したい。つまり、アタシの罪を背負いたいとでも言うの!何を考えているのよ!

 

 

「なっ!?」

「貴女は前回であの時のことへの責任を取ろうとしていた。貴女は罰することを望んでいて、それを自分の中で終わらせようとしていた。それは貴女が知られなくて良かったと思っていたのでしょう。....私が余計なことをした所為で、貴女の理想とは程遠いものになってしまったでしょう。その件はごめんなさい。....でも.......」

 

 

アタシがあの子の言葉に驚き、腹筋の力で起き上がっている間に、あの子はアタシを見ながら謝っていた。だが、あの子の目には強い意志が宿っていた。

 

このことから、あの子が生半可な気持ちで言っているわけではないと分かる。でも、それをすることであの子に何の意味があるのかは分からなかった。

 

 

「私は貴女を一人で責任を取らせたくないと思いました。信用していないとかそういうのではなく、個人的に心配だと思ったからです」

「同じじゃないの...」

「心配とは気がかりや気にかけて世話をするとかの意味です。貴女の身に何か起きているのかどうかと思うのであって、貴女のすることを信じていないわけではないのです。

貴女は前回のことも今回のことも含めて、償おうとしていた。貴女が貴女なりの誠意であったと思っています。それを私が横槍を入れて、台無しにしてしまいました。

.....私はそれらを予測しておきながらめちゃくちゃにしてしまい、それでも貴女を一人でそのまま放置というわけにはいかない。そう思って行動しました。

勝手に邪魔をしてごめんなさい。その謝罪として半分ください」

 

 

あの子の言葉にアタシは不満な顔をしてそう言うが、あの子はそれを否定しながら心配の言葉の意味を言い、先程の言葉を訂正した。

あの子はアタシを信じているけど、アタシの身を案じているようね。さらに、謝罪もしていることから、アタシと鬼殺隊が戦うのを妨害したことに罪悪感を感じているのかしら?

だけど、それとアタシの罪を背負うのは違うわよ!

 

 

「貴女はまだ気にするかもしれませんが、炭治郎は貴女のことを許すそうですよ」

「....嘘よ!」

 

 

あの子のその言葉を聞いた途端、アタシはすぐにその言葉を否定した。だって、信じられないからよ!

 

あの子はそんなことを言っているけど、絶対に嘘よ!だって、アタシは炭治郎達の関係を引き裂いたのよ!本当なら壊れなかったものをアタシは壊した!それを許すと言うの!

 

 

「本当ですよ。私は炭治郎に質問しました。前回のことで分かったことがあると言ったらどう思うのかって。そうしたら、炭治郎はこう言っていました。『前世のことを、あの時のことを忘れたことなんてない。されたことも、悲しかったことも、辛かったことも何一つ忘れたりしてない。全部覚えてる。だけど、いつまでもそのままにするのは止めておくことにするよ』と。炭治郎は前回のことを何も忘れていないけど、それに囚われずに前を向こうとしている。

炭治郎は何が原因でも、誰が元凶であろうとも、それよりも大事なことがある。そっちの方が本当に大切なのだと。『だから、もう何が原因だとか言わなくていい』って、そう言ったのだと思います。あの時の件の元凶を聞くより、優先するものがあると」

「.....!」

 

 

あの子から聞いた炭治郎の言葉にアタシはカッとなり、すぐにその言葉を否定しようとした。

だけど、その前にあの子が質問する方が早かった。

 

 

「この世界は原作と違うのだと、現実の世界だというのは分かっていますよね」

「それは勿論よ!」

「それなら分かりますよね。

ここは『鬼滅の刃』という世界であり、現実の世界でもある。原作でキャラクターだと思っていた人達は生きている人間であり、周辺で目立たなかった人達も生きている。どんな人達でもそれぞれの人生がある。原作だと特別なように描かれていても、ここでは全員が自分の人生の主人公なのですから。

原作では主人公を中心にして、その主人公の人生と関わるものが描かれている。でも、その視点が別の人に変われば同じ世界でも違うように描かれるでしょう。

原作ではその話の中のキャラクター達のものであったけど、この現実の世界は私達のものでもあります。私の世界だと私は主人公ですけど、別の人からはただの脇役になります。

ここは私達の世界であり、人生でもある。例えここが原作の世界なのだとしても、この先がどうなるのかを知っていても、それをどうするのかは私達が決める。原作にいない存在だから自由に動くのではなく、この世界で生きているのだから、自分の意志で動いている。

 

それが私達の人生なのだから....私達は生きているのだから.....。...何を知っていても、私達には選択する自由がある。原作の世界であろうと、私達はこの世界で生活しているのは間違いない。だからこそ、私はこの世界で精一杯生きようと思っています。

貴女も自分のできることを精一杯していて、前回も今回も自分の人生を歩んできたのです。

なので、自分の行動を自分で否定しないでください。貴女は本当に頑張りました」

 

 

あの子の質問にアタシは当然というように答えた。すると、あの子はアタシに語り出した。

 

原作では主人公は炭治郎一人だったけど、この現実の世界では全員が主人公であり、脇役でもある。意志があって動いていて、その世界の人達は精一杯できることをして、頑張って生きている。それはアタシも同じだとあの子は言いたいようだ。

 

 

その言葉にアタシは戸惑いを感じた。この世界はアタシにとって漫画の世界なんだけど、今は現実に起きていることと思っていた。だけど、アタシはそんな風に考えていなかった。

それに、アタシのことを褒めるなんて予想外にも程があるわ。

 

 

「貴女がしてきたことは、頑張り続けたことは決して無駄ではありません。貴女が頑張ってきたことで、私達はここまで来れました。

炭治郎達の話からも色々なことが前回であったそうですよ。煉獄さんのところはよく家族と話すようになったそうですし、不死川さん兄弟は今ではたまに喧嘩することがありますけど、和解はできているようです。甘露寺さんと伊黒さんも色々なことがありましたが、原作よりも仲が縮まっているように見えました。最後にあの件がありましたが、貴女のその行動によって良い方向に進んだこともあります。

 

生きている限り、その人の人生は続いていきます。生きていくことで、その人が変わったり悪くなってしまったりすることが起きる可能性がありますけど、それをより良いものにできる可能性があるのです。例え傷つくことがあっても、それを糧に成長することができたと私は思っています。

世の中に絶対の正義がないように、人がすることには必ず良い面も悪い面も両方を持っています。.....あまり気に病まないでください」

 

 

あの子が言う煉獄さん達の話はきっとホントのことだと聞いていて分かった。

 

 

原作で煉獄さんの家は煉獄さんのお父さんが妻の死で酒に溺れ、指導と育児を放棄した。それによって、家庭はかなり荒れることになった。幸いにも、煉獄さんがなんとか切り盛りしていて兄弟仲も良かったため、父親との関係以外は特に問題がなかった。煉獄さんの死後に父親が更生されたけど、煉獄さんと和解することはもうできないのだった。

不死川兄弟も最終決戦中まで仲違いした状態で、玄弥は亡くなってしまった。甘露寺さんと伊黒さんは両想いだったけど、互いに思いを告げた後に二人とも亡くなってしまった。

 

そうなるはずだったことが変わり、その人達の仲が良くなったり深まったりという結果になった。

アタシのした行動で悪い結果になったことがあったけど、良い方向に進んだこともあった。それは確かなことなのね....。

 

 

あの子の言葉を聞いた瞬間、アタシの中で何かが崩れたような感覚がした。ずっと蓋をしていた壁が音を立てて崩壊していった。

そう感じた時、アタシの目から涙が溢れた。アタシの口からも勝手に言葉が出てくる。

 

 

「...アタシは.....ホントはこんなつもりなんてなかった!」

「うん」

「人を食べる気なんてなかった!食べたくもなかった!悪役にならないとと思いながらアタシは人を殺したくなくて、死体を見つけたらそれを食べて、生きている人間を食べないといけなくなったら、盗みや詐欺、暴力、虐待、殺人などの犯罪を犯した人達を殺して食べていた!中途半端だった!」

「うん」

「悪役になろうとして成りきれなかった!どうしようもない、一方的に罵られてもいい鬼になって、鬼殺隊の前に出ようとして失敗した!アタシは結局どれもこれも中途半端だ!何一つ完遂できず、中途半端にしかできず、ただ場を掻き乱して最悪の展開にしてしまった!アタシは一体何をしたかったのよ!」

 

 

アタシはこの世界に来てからの不満や悲しみ、苦しみなどの感情を目の前にいるあの子にぶつけた。もう途中で止まることなんてできなかった。あの子は相槌を打ってくれて、アタシの話を最後まで聞いてくれた。

 

 

「誰もが完璧にできるわけがない。周りに完璧だって言われている人だって何処か欠けているところがあるかもしれないでしょう。何もかも自分の思う通りに動くわけではありません。

なので、貴女が一人で全ての責任を背負う必要はないのですよ。きっかけが貴女なのだとしても、私はそれをたった一人が背負う理由にはならないと思っています。あの件は貴女だけではなく、周りにも何か原因があったと思います。

なので、その罪の意識に囚われ過ぎるのは良くありませんよ。限度というものがあります。

まあ、殺してしまったことは貴女の罪なので、その責任を負わないといけませんけど、前回と今回で起きたことの責任を全て背負うのは違うと思っています」

 

 

もう泣き叫んでぐちゃぐちゃなアタシの頭をあの子は優しく撫でながらそう言った。

あの子の言葉はアタシに都合が良すぎて、これが夢ではないかと思えてしまうわ。

 

 

アタシは再び涙が溢れ出してきて、手でそれを拭った。その時に初めて気がついた。切断されたままだった腕が再生したことに。

さっきまで斬り口が炎で焼かれていて、その炎がアタシの再生を止めていた。それが何故このタイミングで.....。

 

そう考えていたが、溢れ出してくる感情にだんだん流されていき、思考がまとまらなくなってきた。

そんなアタシに気づいたのかは知らないけど、あの子がアタシを抱きしめてきた。

 

 

「人間には楽な方に行きたいと思う人が多いです。自分から苦しくて辛い方に進む人だっていますが、それは何か目的があっての行動です。自分に利点があるからです。

貴女はどんな形でも炭治郎達のことを思っているのは確かです。どんなに強く思っていても、願っていても辛いことは嫌だと、少しでも楽な道に行きたいと思いたくなります。人間の心ではそうなりますよ。辛いことばかりの人生が良いという人はいると思いますが、それが当たり前の常識というわけではありませんから。少なくとも、前世と今世を含めて私の周りにはそういう人がいないと思っています」

 

 

あの子はアタシの背中を摩りながらそう言った。

 

アタシのような人食い鬼を人間と呼ぶあの子に、アタシは縋り付いた。あの子が肯定してきたことで、アタシの心のタガが外れたようだ。涙も泣き叫ぶ声もアタシの意思ではもう止められない。

 

 

「私は貴女を否定しませんよ。誰が何と言おうと、貴女のしたことを正しいと言えなくても、貴女がしてきたことに頑張ったねと私は言いたいのです。

そして、貴女の頑張ってきたことを肯定したい。そう思っているから、私は貴女にできる限りのことをしよう。貴女が自分を肯定できるようになるための手伝いをしようと思いました。

貴女と私は転生者同士であり、同じ世界にいたことがあり、それらを共有し合える仲間なのですから、何か手助けしたいのです」

「...仲間....?.....アタシのような鬼を仲間と呼ぶなんて...やっぱり貴女は変わっているのね」

「あはは......。...それと....できれば友達にもなってほしいです。前回とか色々ありましたが、同じ過去(前世)を話し合える人がいるなら、その人と仲良くしたいと思っていましたので。こんなことになってしまっても、私は貴女と早く出会いたかったと、もう少し話したかったと思うのです」

 

 

あの子はアタシの手助けをしたいと、アタシのことを仲間だと、アタシと友達になりたいと言った。

アタシのことを仲間と呼ぶあの子をに対して口では憎まれ口を叩いていながらも、アタシの口角は自然と上がっていた。

 

 

今まで気づかなかったけど、アタシは相当参っていたみたいね。ずっと一人で誰にも頼ることができなかったから。

アタシはきっと仲間が欲しかったのね。頼り合い、励まし合い、信じ合うことができ、自分の思ったことを言い合える友達が傍にいてほしいと思っていた。それを最期に手に入れたかもしれないと思うと、なんだか嬉しいわ。

 

漸くこの世界で生きていると思えた。二度もこの世界で生きていたのに、心の何処かで漫画の世界という認識があって、現実と思えなくなっていたわね。

それに、誰とも話すことなんてなくて、話すことになってもその相手を信頼できないから、俯瞰して画面の向こうにいると感じるようになっていたのね。

...こうなっていることに全く気づけなかったわ.....。

 

 

もしかして、あの子も......。...あの子からしたら、話せないこともそれが難しいこともあるかもしれないから......。

 

 

「あら、別にいいわよ。敬語なんて使わなくたって。貴女とアタシは仲間であり、友達なのでしょ。なら、敬語はいらないわ」

「....それなら.......うん、分かったよ」

「アタシのことを手伝いたいと言うなら、貴女の手で終わらせて。貴女が代わりに解決して」

 

 

アタシの言葉を聞き、あの子は敬語を使うのを止めた。想像より素直に聞いてくれる子なのね.....。...あの様子から、もっと頑固な子かと思っていたわ。

もしアタシも人間だったら、あの子と良い関係を築くことができたかしら?

まあ、それを考えても仕方がないわね。もうこの際、あの子に全力で甘えることにするわ。

 

 

アタシの言葉を聞いて、あの子は驚かずに頷いた。きっとあの子もこれは予想していたのね。

 

 

「....ねえ。一つ聞いていい?」

「何よ」

「貴女の名前は何というの?貴女、転生者とは言っていたけど、名乗ってはくれなかったから」

 

 

あの子は刀をアタシに向けながら聞いてきた。アタシが何なのと思いながら聞くと、あの子はアタシの名前が知りたいらしくそう聞いてきた。

 

そういえばあの子の名前を知っていたけど、アタシは一度も名乗っていなかったから、知るわけがないわね。

前回で誰にも名乗ることはなく、今回も無惨に名前をつけられたけど、その名前を名乗ることなんてなかった。というか、アタシの名前だっていう実感がなくて、いまいちピンと来なかったのよね。

アタシにはやっぱり人間の時の名前の方がしっくりくるわ。....あの子に教えるのはこっちの名前がいいわね...。

 

 

「......いいわ。一度しか言わないから、よく耳を澄まして覚えなさい。

アタシの名前は七海よ」

「七海...七海。.....うん。それなら、改めて......私の名前は生野彩花。よろしくね、七海」

「ええ。....もうそろそろやりなさい、彩花」

「うん...」

 

 

アタシが名前を教えると、あの子はアタシの名前を言い聞かすように繰り返し呟き、その後であの子も、彩花も改めて自己紹介をした。

 

 

彩花がアタシを止めないのは、これがきっと彩花なりの誠意のようなものなのだからなのね。アタシが今までの行動への手向けとその過程での罪の清算をするためにやってくれている。

特に、罪の清算はアタシが最もしたかったことだもの。ここでアタシの頸を斬ることで、アタシにけじめを着けさせ、人食い鬼としてのアタシが死んだということを示したいんだろうね。

転生者が起こしたことを転生者が解決する。そういうことね。

 

 

.....余計なお世話と言いたいけど...ありがとうね。

 

 

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

彩花が黒色の日輪刀を振り、アタシの目には真っ暗な夜空が映った。

 

あっ。夜空ではあるけど、夜明けが近いのか少し明るくなっているわね。最終決戦ももうすぐ終わるのね.....。もう無惨の支配を切ったアタシには現象の様子が分からない。

 

アタシの頸が斬られたのだというのは分かる。だけど、全く痛みがなく、何故か暖かいと感じている。まるで、日光浴をしているかのような暖かさを。

 

 

......そういえば、この世界に来てからは太陽の光を浴びていなかったわね...。鬼になってしまったから、できないのは仕方がないのだけど....。

.......まあ、最期に擬似とはいえ、日光を浴びれて良かったわ。きっとこれは彩花の呼吸の型の効果なのだろうけど、今のアタシにはこれで満足よ。

 

 

「後は頼んだわよ」

「うん。でも、大丈夫だと思うよ。炭治郎達なら、もう自分達でどうにかできるし、お互いに歩み寄れるから......」

 

 

アタシの願いに彩花は笑って引き受けてくれた。

最後の方の言葉は上手く聞き取れなかったけど、きっと前向きなことを言っているのだろう。

...でも、今はその言葉に救われてあげる。

 

 

アタシは二度もこの世界で過ごし、上手くいったと喜ぶことはあっても、こんな安心感を抱くことはなかったわ....。

 

 

アタシの目の前が真っ白な光に包まれ、その光に溶け込むように意識を手放した。

 

 

苦しみがなく光に包まれ、暖かさを感じながら逝くなんて贅沢だわ。

 

そう思うくらいに夢の中に行ってくるようで心地良くて、アタシはその心地良さを最期まで感じていた。

 

 

 

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