最終決戦から、数ヶ月が経った。鬼舞辻無惨を倒し、鬼は全員消滅した。だが流石は最終決戦というわけで、鬼殺隊の方にも死亡者がいる。
柱はほとんど生き残ったが、悲鳴嶼さんのみが痣の寿命で亡くなった。
前回では七海が血鬼術でどうにかしていたが、今回はそれがないので、悲鳴嶼さんの死は避けられなかった。
みんなはそのことに暗い顔をしていたが、唯一の救いは悲鳴嶼さんが穏やかな表情で亡くなったことだろう。
本来二十五歳までしか生きられなくなる痣を使ったことで、悲鳴嶼さんは戦いが終われば亡くなるのだというのは覚悟していた。だが、こうして亡くなられると、やっぱり悲しいと感じる。
炭治郎も悲鳴嶼さんが亡くなったことにショックを受けているようだ。あの面会で悲鳴嶼さんとは和解した様子だったので、もっと話せば良かったと言っていた。
でも、和解ができたことは少なくとも両方にとって良かったのだと私は思っている。それはそれで未練が残りそうだから.....。
獪岳は一見普通そうに見えていた。だが、たまにふらっといなくなることがある。鎹鴉達に聞いてみると、どうやら一人で悲鳴嶼さんの墓参りに出かけているらしい。
普段のように振る舞っているけど、悲鳴嶼さんの死に思うところがあるのだろう。
結局、獪岳と悲鳴嶼さんがどうなったのかは分からないが、収まるところに収まったのだと信じたい。お前もかというように見られたから、話し合いは成功したのだろう。とりあえず、こういう風な関係になれたことは良かったかなと思っている。
あの時に私がお節介をかけたことが良い方に進んだことを願おう。....それにしても、彼女の...七海の血鬼術は本当に凄かったんだと実感するよ。.....私では悲鳴嶼さんが亡くなるという運命を覆すことはできなかった。
炭治郎の話に戻そう。最終決戦を終え、前回で炭治郎が亡くなった時を過ぎたことで、炭治郎に少し余裕ができたのだろう。
炭治郎は善逸達と話しても平気そうで、最近では善逸達の前でも笑えるようになっている。この様子だと発作はもう起きないと思う。
問題は禰豆子の怒りがまだ鎮まっていないことかな。炭治郎が良いならと近づかせているが、不満に思っているのは明確だ。でも、それがだんだんと兄を取られることへの嫉妬に変化しているし、このまま放置で大丈夫だろう。
ちなみに、私はというと......今も蝶屋敷に入院中である。
他の人達はもう退院しているのだが、私はまだしのぶさん達から許可をもらっていない。
何せ、重傷で生きているだけで奇跡だと言われた。私はそれに驚いたけど、思い返せば当たり前だと気づいた。腹を貫かれていたわけだし、その後も普通に戦っていたからね。
七海の頸を斬った後の記憶がなく、あの後でどうやら気絶したようだ。
まあ、あの出血の量だ。アドレナリンが出ていて、痛みを感じない状態で動き回り、体がもう限界だったのだろう。
それに、華ノ舞いの新しい型を一気に三つも使ったのも原因だろう。
いつもは一つずつで、それでもかなり体に負担がかかっている。それなのに、三つも使ったことでいつもより三倍以上の負担になっているのだと思う。
それで、そういったことが積み重なった結果、入院期間が一番長くなってしまった。目が覚めるのも最後だったみたいだからね。
ちなみに、その間に禰豆子や珠世さんも人間に戻っていて、検査とかもすっかり終えていたので、本当に残ったのは私だけだった。
目が覚めた時に蝶屋敷の子達には大騒ぎされたし、炭治郎達には泣かれたし、獪岳には遅いと言っているような顔をされるし、兪史郎さんやしのぶさんには『よく生きていたな(ましたね)』と言われた。
前半は大怪我した状態で戦い続けた私の自業自得なので、仕方がないと思っているし、罪悪感も感じている。だけど、後半は少し酷いと思う。
実際に起きるのが遅かったから、獪岳の言っていることは良いとしても、兪史郎さんとしのぶさんの言葉には困惑しながらも私の体がどうなっているのかと尋ねた。
兪史郎さんとしのぶさんが言うには本当に生きているのが奇跡というくらい重傷だったらしい。しかし、止血ができたことと何故か傷口が塞がりかけていたことによって、一命を取りとめたそうだ。
ただ、あと一歩発見するのが遅かったら危なかったようだ。
それと、傷口が塞がろうとしていたことから、鬼になったのではないかと思われたが、太陽の光を浴びても灰にならないことや血液検査をして人間だという結果が出たことから、私が鬼ではないと証明できた。
炭治郎の件から慎重になっていたのだろう。おかげで、私は死なずに済んだ。
だけど、それなら何故あの傷口が塞がっていったのかという疑問が残るのだ。私が入院しているのはその調査があるというのも理由の一つだろう。
と言っても、私も何が起きたのか気になるので、検査をしたいと自分から頼んだからね。御館様や珠世さんも元から調べさせてほしいと言うつもりだったらしく、私の頼みを快く引き受けてくれた。
それから経過を見ていたが、私の体に何も変化はなかった。
この件で何度も会議を開かれたが、それでも気味が悪がられなかったのはやはり炭治郎達の件が大きい。あの件から、全員が感情のままに動いてはいけないとかそう思っていたので、私は疑いの目が向けられても処罰なんてされず、危険人物なのか調査し、結論が出るまでは放置された。ちゃんとした結果と全員での話し合い、御館様の判決により、私は今のところ危険がないということになった。
私はそれに安堵した。判断が下されたということもあり、私の周りは落ち着いた。
本当に害する人間がいなかったことは良かったよ。
その害する人間がいなかったことから、前回の炭治郎の件が原因で全員が反省していることが証明されて、禰豆子がこの件を出すことはたまにあっても、恨み言は言わなくなった。当時のことを考えると、すぐに殺そうとせず冷静に判断できれば結果は変わったのではないかと思っていたのは確かだからね。
ある意味で怪我の功名というものかな?
周りは今までにないことだったので大騒ぎしていたが、その発端である私は人間に戻った禰豆子やなほちゃん達と会話したり、炭治郎や善逸達と双六したりなどとかなり快適な時間を過ごしていた。
その代わりに他の人達がドタバタしていたけど、これで良かったと思っている。
鱗滝さんや鋼鐡塚さん、小鉄君達もお見舞いに来てくれて、楽しかったからね。
そういう感じでのんびり過ごしていたのだけど.......。
...私、何かを忘れている気がするんだよね.....。
私は何かしらの違和感を感じながら廊下を歩いていた。
何を忘れているのかは知らないけど、それでも何かをしないといけないと思っている。
だけど、それが何なのかは分からない。
しばらくの間は首を傾げていたが、きよちゃんが前から来たので、挨拶することにした。
「おはよう」
「おはようございます、彩花さん。これから、検査の時間ですか?」
「そうだよ。きよちゃんは洗濯物を干しに行くのかな。いってらっしゃい」
「はい。彩花さんもそろそろ退院できると思いますので、頑張ってください」
私ときよちゃんは少し雑談した後、すぐに別れた。私は検査しに行かないといけないし、きよちゃんも籠の中にある洗濯物を干さないといけないようなので、あまり長く話す気にはならなかった。
それにしても......。
「なんだか平和だな....」
私は窓から見える空を見上げながらそう呟き、微笑んだ。口角が自然と上がる。
炭治郎達と出会ってからバタバタしていた所為か、ここ最近時間がのんびり過ぎているように感じる。でも、それは鬼がいなくなって、戦う必要がなくなったから言えることである。
それが嬉しいんだよね。
七海。私の言った通り、炭治郎達は鬼殺隊の人達と仲良くしているよ。見ている?
もし七海がいたら喜んでくれたかな。七海がここにいたら何て言うのかな?
ねえ、七海。
私は心の中でそう呟きながら青い空を見て、またクスッと笑った。だって、綺麗な青空だったから、なんだか心が晴れ渡るみたいでね。
この時の私は浮かれていたのだろう。最終決戦が終わり、原作の展開はもう現代の方が少し出てきて終わりのはずだから、安心しきっていたんだと思う。前回の因縁も断ち切れたようにも感じていた。
だからこそ、私は油断していた。
気づくことができなかった。
まだ謎が残っているということを...そして、自分自身の不思議な力と体質が関係していくことも.....それらを解決しなければ本当に終われないことも.......。
この時の私は何も知らなかったのだ。
私は窓から視線を外し、そろそろ向かった方がいいと思って一歩前に出た。その時、周りの空間が歪んだ気がした。
「えっ?」
私はその場で立ち止まり、辺りを見渡した。一瞬だったけど、私は確かに見えたし、感じた。
床や壁が渦を巻くように捻じ曲がっていた。私はそれが見えてからすぐに警戒したが、何も起こらなかった。
しばらくの間は警戒していたが、その後も特に何も起きなかったので気のせいかと思い直し、私はしのぶさんの待つ診察室に向かおうとした。
そうして、また一歩前に出た瞬間、カチッと時の針が動いたような音が聞こえ、続けてジジジッという螺子を巻くような音も聞こえてきた。その瞬間、目の前が真っ暗になった。
「......えっ?」
目が覚めたら雲一つない青色の空が見え、何故か仰向けになっていた。
その青空の下で、子どもの声が辺りに響いた。
今回は話が短いので、明日にもう一話を投稿する予定です。それで、この時間に第三章にいきます。