笹の葉の少女は幸せを願う   作:日々草

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今回も新年になったばかりということで、長くなっております。楽しんで読んでもらえるとありがたいです。
それではどうぞ。





苦労人の少女は後を任される

 

 

 

柱合会議で炭華の存在が認められてからしばらくして、私達はある列車の前に立っていた。この列車という言葉で分かる人はいますよね?

そうです。無限列車です。現在、無限列車編に入ったのですよ。

なんだか進むのが早くないかと言われそうだが、蝶屋敷で特に何か起きたというわけではないからね。

 

 

炭華は普通にきよちゃん達と室内で遊んでいたし、私は七海と禰豆雄と一緒に任務へ出ることが多い。だが、この蝶屋敷に戻ってきて、仕事手伝いをしたり、鍛練したりしている。ここは一時的な休憩所のようなところだからね。善逸も伊之助もいるし、炭華の状態を診てもらうためにもここに滞在しているわけである。

 

それと、機能回復訓練に参加することはあった。善逸と伊之助が嫌がっていて、私が二人を連れ戻すついでにその訓練に参加していたからね。最初は見学みたいな感じだったけど、善逸と伊之助が途中で抜け出そうとするために二人を捕まえるようになった。

その後、そのまま無理に戻しても反感を抱くだけなので、それなら私も参加した方が二人もやる気を出すのではないかと言われ、途中から参加することもになったのだ。

 

 

しのぶさんとアオイさんの思いつきで始まり、それは一応効果があった。確かに私が参加すると言うと、それを善逸と伊之助が嬉しそうにしていたので、成功と言ったら成功だった。だが、私はもう既に全集中の呼吸・常中を修得している。

この時の善逸と伊之助は全集中の呼吸・常中をしていない。そのことで、どれくらいの実力差があるのかお察しの方がいるでしょう。

 

 

結果は瞬殺で私が勝ちます。それが原因で、善逸と伊之助の心が折れそうになったので、ここで私が全集中の呼吸・常中について教えた。

それでも、二人とも常中を一度やったみたら辛くて、止めようとしていたけど、そこは二人の大好物を使って頑張ってもらえた。全集中の呼吸・常中ができるようになったら、それらを食べ放題で作るからと言ったので、二人とも張り切ってくれた。そうしたら、かなりの速さで全集中の呼吸・常中を習得してくれた。

 

 

そのため、私も頑張った。

善逸の好物は鰻だけど、それでも頑張ってくれるならと思い、あちこちの村や町で買ってきた。伊之助の方も頑張るなら豪華なものをと思って、山の幸と海の幸を使った天ぷらを作った。

どちらも奮発するつもりでいたが、あまりに早く習得していたため、時間がそんなに無くて材料を揃えられず、足りないものもあったが、そこは自力で調達してきた。

本当に運が良かった。二人が常中を習得し終えた時、たまたま私の任務先が海の近くで、鬼に襲われていたところを助けた人がそこの漁師だったので、私はその人に頼み込んで一緒に海へ出た。おかげで、釣ったばかりの魚や海老を手に入れることができたし、鰻の方も協力してもらっ。私はた。素潜りもさせてくれたから貝類もあって、その日は豪華な食事になった。

 

二人とも美味しそうに食べてくれたので、私も採ってきた甲斐があったよ。

.....唯一心残りがあるとしたら、炭華に食べさせてあげることができなかったことかな。炭華が人間に戻ったら今度はあれ以上に豪華な食事を作りたい。

 

 

 

善逸と伊之助が常中を習得した後は七海と禰豆雄も参加した。

と言っても、善逸と伊之助は全集中の呼吸・常中を習得したばかりなので、まだ使い慣れていない。

それに対して、私は村にいた時には既に常中を習得していたし、七海も私が教えた呼吸法で、全集中の呼吸は一応できていた(完全という形ではないが)ので、狭霧山では仕上げるような感じであり、すぐに全集中の呼吸・常中の方に移った。七海は原作を読んでいて知っているからね。七海は海の呼吸が完成した後、常中を習得しようとしているのを見て、禰豆雄もやり始めたため、二人は鬼殺隊になる前にできるようになっている。

 

善逸と伊之助が常中を習得したと知ると、一緒に混ざって稽古をするようになり、善逸が悲鳴を上げていた。だが、ただの鍛練であるためにそこまで酷いことはしないので、全然大丈夫である。

まあ、炭華のことで何かあった時は八つ当たりをしてくるという問題はあるけど、それは些細なことである。

 

 

でも、今ではそれが普通になっていき、みんなで一緒に鍛練するようになり、その流れでカナヲとも一緒に鍛練するようになった。カナヲは那田蜘蛛山の任務から、感情が表に出るようになったと思ったけど、ここまで積極的になったのは予想外だった。

私もカナヲがあの件でトラウマになっていないかと思って気にしていたのだが、そんな様子は見えず、逆に明るくなってきたので、凄く驚いた。

 

鍛練の後も色々話してくれるし、だんだん仲良くなってきている。

炭華のおかげかな。

 

 

まあ、そんな感じで蝶屋敷でゆっくり時間を過ごしているうちに、善逸と伊之助は完全に回復し、あの任務がやって来た......。

 

 

 

 

 

 

「....無限列車、か」

 

 

私は列車を見ながら呟いた。その列車の前に書かれている「無限」という文字を見て、この列車はやっぱり無限列車なのだなと思った。

 

 

「おお!山の主!」

「山の主というより、鉄の塊だと思うよ。ほら、凄い硬いし」

「なんだ!攻撃か!それなら、俺様も「おい。何をしているんだ!」アアッ!!」

「善逸。七海と一緒に二人を連れて、ここから離れた方がいいよ。切符の方は私が買っておくから」

 

 

初めて見る列車に興奮している伊之助と禰豆雄の反応を少し微笑ましく思って眺めていたけど、禰豆雄が列車をコンコンと叩き、伊之助が列車に向けて突進しようとした時に、駅員の人達がやって来た。

 

 

私はすぐに落ち着いている様子の七海の肩を叩いて、人混みのある方向を指差し、その次に善逸には簡潔に説明して、分からないことがあったら七海に聞くようにと言って分かれた。

 

 

七海は頷いてくれたので、何をしてほしいのか分かっているし、行動してくれると思うが、善逸はやってほしいことを説明したら無理だという顔をしていたが、その時には駅員の人達が近づいていて、私は善逸の返事を聞かずにその場から離れた。

 

たぶん大丈夫だと思うから、私は切符を買う方を優先しよう。顔を見られていたら切符を買うのが難しくなるからね。善逸の髪は黄色だし、七海の髪は水色だから滅多にない色で目立つだろうし、禰豆雄と伊之助は切符の買い方を知らないだろうから、消去法で私がやった方がいいと思う。

 

 

購入方法は知っているし、私の髪は緑色と黒色が混ざっているので、私は善逸と七海より不審者扱いされないと考えたのだ。まあ、私の髪も目立つと言ったら目立つ方ではあるが。

 

 

 

七海が禰豆雄を引っ張り、善逸が伊之助を押しながら人が多い方へ行き、駅員から逃げている。私も人混みを上手く利用して撒いた。

駅員の人達が私達のことを見失っている間に、私は五人分の切符を買って、七海達と合流した。合流できた時には汽笛が聞こえたので、私達は列車に飛び乗った。

 

 

まあ、ここまでは原作と同じような流れだね。いや、原作と同じ流れにした方がいいかなと思って変えないように動いているから、変わられたら困るけど。

 

もう原作云々は関係なくていいだろう、既に色々違うだろうと思われるかもしれない。それに関しては私も同じことを思っているので同意する。だが、今回は私達の知っている原作に近づけなければならないのだ。

何せ、今回はあまりにも厄介すぎて、ボタンの掛け違いが起きそうだからである。今回は列車という密封した空間に二百人くらいの乗客がいるし、その後で上弦の参も来るので、慎重にならないといけない。何かを間違えてしまえば多くの人達の命を危険にさらしてしまう。それは避けなければならない。

 

 

なので、血鬼術もかかることにした。全員が血鬼術にかからなければ鬼が何をしてくるのか分からないから、禰豆雄達に切符をそのまま渡した。このことは七海ともよく相談して決めたので、七海も切符を受け取り、私の顔を見てゆっくり頷いた。

 

 

この切符のインクに鬼の血が混ざられていて、その切符を車掌が切ったら発動する血鬼術なのだとは知っている。だが、この切符をどうにかすることはできない。

それに、切符に関しても完全に不信感を与えてしまうからね。切符を無くすとなると、それでは無賃乗車のようになってしまうし、それはそれであちら側を混乱させてしまうことにもなりそうだ。

特に、あの列車の車掌さんはかなり追い詰められている雰囲気だったし、さらに追い詰めてしまうと、何をしてくるか分からないんだよね。

 

それなら、切符にある血鬼術を解いた方がいいのではないかと思うが、切符の方も難しい。というより、今回はそもそもその血鬼術を解除できるかというところが問題なのだ。

 

 

どういうことかというと、炭華の血鬼術が爆血ではないことはその不安を助長させているのだ。原作では禰豆子の血鬼術である爆血によって切符が燃やされ、それがきっかけで炭治郎達は血鬼術から目が覚めることができたのだ。だけど、今回はその血鬼術が違うものであり、炭華の血鬼術が鬼の血鬼術をどうにかできるものかは分からないのだ。

炭華の血鬼術が使えないとなると、最早自力で目覚めるしかない。幸い、この血鬼術を解く方法は他にある。けど、他の人にそれを事前に話しても信じてもらえるかという問題がある。

 

 

禰豆雄は信じてくれると思うし、善逸と伊之助もその耳と勘で信じてくれるだろうが、煉獄さんは信用してくれないだろう。それに、理由を聞かれても答えられない。

なので、今回の戦いは私と七海だけで解決しなければならないだろう。七海は大丈夫だと思うけど、今回でも色々なことが起こりそうで、それが凄く不安である。

 

私がそんなことを考えながら列車内を歩いていくと、「うまい!うまい!」という声が聞こえてきた。今にも窓を破りそうなその声に善逸は驚いているし、禰豆雄と伊之助は呆気に取られている。

動揺していないのは知っていた私と七海だけかな?

 

 

私と七海は顔を見合わせた後、その声の聞こえる方へ行き、次の列車への扉を開く。中から聞こえる声で扉が壊れるかと思うくらいに振動していたが、そこは全く気にならなかった。

私達が扉を開くと、その列車に乗っている人達は全員その人の方を見ていた。

 

その人というのは煉獄さんだと知っているので、私はその大きな声を止めるように言おうと思った。原作の世界だとこの出会い方はかなり印象に残るし、面白いと思うのだけど、流石に周りの人には迷惑である。

 

 

「あの、煉獄さん。「うまい!」お久しぶりです。その。失礼ですが、「うまい!」周りの人達は迷惑だと思いますので、「うまい!」声の音量は下げてもらえるとありがたいのですが....」

「うまい!」

 

 

私が声をかけている間も煉獄さんは弁当を食べ続けながら「うまい!」を連呼していた。私はそのことをあまり気に止めずに言いたいことを話し終えた。すると、私の話に返事したのかどうか分からないが、煉獄さんが振り向きながらまた「うまい!」と言った。

 

 

「そのお弁当が美味しいのは分かりましたし、もう充分です。それと、『うまい』と返事をされても困りますので、できればちゃんとした言葉で話してほしいです」

「うむ!承知した!」

「...もう一度言いますが、その声の音量は下げてください。本当に乗客の人達が驚いていますから.....」

 

 

私は苦笑いしながら再び注意すると、弁当を食べ終えたらしい煉獄さんがしっかり言葉で返事をした。ただし、大きな声のままであったため、私は顔を引き攣らせた。

 

なんだか今回は今まで以上に疲れそうだ。

 

 

 

 

先程の弁当のやり取りを終えた後、私達は自己紹介した。私は前の時のように水町少女で、善逸は黄色い少年、伊之助は猪頭少年と煉獄さんに呼ばれた。

まあ、これらは原作や前の時と同じだから、あまり気にしていなかったし、そこまでは良かったかな...。

 

 

「竈門禰豆雄です」

「うむ!.....うむ?」

「生野七海です」

「.....うむ....?」

 

 

その名前を聞いた時、煉獄さんが首を傾げながら二人のことを見た。私はそれを見て、煉獄さんが禰豆雄と七海だと気づいていないことを察した。

 

 

「うむ。その名前を名乗るのは止めた方がいい。俺の知っている二人は色々破壊してくる人?であり、異界から雲取山に出た妖怪か亡霊のような存在だ。君達がその名前を名乗る必要はない」

「雲取山はそんな場所ではありません」

 

 

煉獄さんの話を聞いて、私はもう七海や禰豆雄のことを指摘する気がなかったが、雲取山への認識が酷いため、せめてそちらの認識は正そうとした。

七海と禰豆雄の認識に関してはもう諦めた。

 

 

頭を抱えたいが、私はこの状況をどうしようかと考えていた。七海と禰豆雄ではないと思ってしまうのは柱合会議で暴れている様子が原因だろう。あれは特殊な方の例で、炭華を殺そうとしているからの態度であったため、それを見た後だと印象に違いがあるというのは分かる。だけど、本人であるために修正しなければならない。

 

善逸が悟った目をしていたので、私は頷くことで答えた。そんな私を見て、善逸は天を仰いでいた。私も善逸のように現実逃避したかったが、今はこの二人が七海と禰豆雄だということを説明しようとした。

だが、それを行う前に予想外の人物が行動してしまった。

 

 

「なあ。さっきからギョロ目が否定してるけど、何やったんだ?」

「何って、あいつと出会ったのが...確か......」

「柱合会議よ」

 

 

伊之助の質問に禰豆雄がその時のことを思い出そうとする。禰豆雄は覚えていないみたいだ。いや、忘れていた方が良かったかもしれない。だが、禰豆雄と違って七海は覚えているため、出会った場所を言った。

 

 

その言葉だけで禰豆雄も思い出すし、七海もそうするために言ったのだ。私もこの後のことを察し、すぐに禰豆雄を落ち着かせようと動き始めたが、それは遅かった。禰豆雄の周りの空気が変わり、先程煉獄さんの声で軋んでいた窓が今度は禰豆雄の威圧でガタッと音を立てる。近くにいた乗客も逃げた。

 

私は遂にやってしまったと思いながらも禰豆雄を落ち着かせようとする。既に乗客を怖がらせているが、その時間を長くするわけにはいかなかった。

 

 

「禰豆雄。あの件での怒りが収まっていないのは分かるけど、それに他の人を巻き込んだら駄目だよ」

「フッフフッ。心配しなくても大丈夫だよ。ここにいないんだから、誰にも手を出さない」

「それに、アタシ達は思い出しただけよ。.....ただ、絶対に忘れないようにしないといけないって思っているのはいいじゃない」

「七海。確かに忘れないようにしようと思うのは勝手だけど、それを実行するのは止めてね」

 

 

私が説得しても、禰豆雄は笑ってその威圧を強くするだけであった。しかも七海も禰豆雄ほどではないが、怒りがあるらしい。

七海は原作のことを知っているため、原作が始まってからはあまり怒りを表に出さなくなった。

知っているからというのもあるが、七海は鬼殺隊全体が推しというくらいなので、七海は鬼殺隊にあまり手を出さない。

まあ、柱合会議の不死川さんは殴っても構わないと思っているらしく、禰豆雄の手伝いをする気だったし、伊之助の時もやっては駄目だと教えるのに、インパクトが必要だと言っていた。

だから、鬼殺隊に関してはこの二つで暴走するのはなんとなく予想がついていた。

 

.....あと、鬼殺隊関連で大暴れするのが一つ残っているのは不安なんだけど、それはその時になるまでどうなるか分からないかな。柱合会議も騒動が起きないようにしていたのに、結局起こってしまったのだから...。....一応備えてはおくけどね......。

 

 

一方、煉獄さんは私の方を見た後に禰豆雄を見て、その後で七海の方を見た。それを二度見、三度見くらいはしたと思った瞬間、煉獄さんはポンと手を掌に打ち付けた。

 

 

「ああ!この前の破壊神の二人組か!」

 

 

煉獄さんは元気そうに言っているが、視線は七海と禰豆雄から離している。

どうやら信じてもらえたようだ。ただ、その代わりに七海と禰豆雄と目を合わさなくなった。いや、合わせないのだろうね。分かってしまったのだから、普通に接するのは難しい。何せ、最初の出会いがあれだからね。

 

 

 

その後、七海と禰豆雄が落ち着き、私が周囲の乗客の人達に謝罪している間に、煉獄さんと何か話をしていたみたいで、善逸と伊之助が継子にならないかと誘われていた。どんな話をしていてそのような内容になったのか気になるが、話が急に変わった可能性があるので、聞くのは止めた。

だって、煉獄さんは『この話はここまでだ』というように、突然話を終わらせたり、いきなり『俺の継子になるといい』と言ってきたりと、話の展開が変わることはあると思う。

原作のヒノカミ神楽での質問がそんな感じでしたからね。

 

 

ちなみに、私も継子にと誘われたが、七海と禰豆雄のことがあるので断った。

煉獄さんは七海と禰豆雄のことを聞くと、仕方がないと言ってくれたが、義勇さんが私達担当になっていることも同時に教えられて驚いた。

柱合会議の後に私達(と言っても、主に七海と禰豆雄)の話題になり、その流れで義勇さんが私達の保護者的な立ち位置になったそうだ。

まあ、保護者というよりも何か問題を起こしたら、その責任は義勇さんの方へ全部行くみたい。義勇さんが責任を取ることになったのは私達を鬼殺隊に入れた張本人であり、兄弟子だからだそうだ。それで、義勇さんも断れなかったらしい。

 

 

なので、私達が蝶屋敷に通っている間、預かるのはしのぶさん、問題が起きたら義勇さんにという感じだったらしい。

 

良かった。患者には迷惑をかけるし、薬やら毒やらあって危険だから、蝶屋敷にいる間は止めた方がいいと思って、蝶屋敷では絶対暴れないでと言っていたからね。ついでに、壊したら弁償するのは私達だよ、せっかく炭華に何かを買おうとしても壊したらお金が無くなるよとも言っておいたので、七海と禰豆雄も大人しくしていた。

そのために全然暴走することはなかったよ。炭華のために早く鬼の頸を斬るので、任務がすぐに終わるからそこは特に何も言わないけどね。

 

 

そのため、煉獄さんは七海と禰豆雄を継子に誘わなかったらしい。義勇さんが面倒を見ることになったからと言っているけど、煉獄さんは二人と目を合わせない様子から、七海と禰豆雄を継子にするのは無理だと思う。

それに、私達の保護者になった義勇さんは最近食欲がないみたい。私は胃潰瘍の影響だと分かっているけど、煉獄さんは知らないらしく心配している。逆に私は納得できた。

義勇さんが柱合会議から私達のことで気を揉んでいたから、胃薬の処方をしていると知っているし、そもそも私が渡している。けど、胃薬が必要となったのはおそらくこれも原因なのだろう。

 

義勇さん。原作の時は禰豆子のために自分の命をかけてくれたけど、今回は私達のために自分の胃をかけてくれている。

.....今度、消化しやすいものを胃薬と一緒に渡そう。お世話になっていますので、それくらいはやっておかないと...。煉獄さんが七海と禰豆雄の継子に誘わないのも義勇さんが担当だからということだそうだが、単に二人の担当になりたくないだけだと私は思う。二人と全く目を合わさないから。

 

 

 

私達がそういう会話をしているうちに、車掌さんが切符を切りに来た。煉獄さん達が切符を渡していき、私も七海と顔を合わせて頷き、車掌さんに切符を渡した。

今回は原作や前と違い、血鬼術で目覚められるか分からない。けど、この血鬼術にかからないといけない。

....それに、個人的に確かめたいことがあるからね。何せ、私は前の時にここで.......。

 

 

 

パチンッ!

 

 

 

カナエさんに出会ったのだから。それで、きっと聞くことができるはずだ。華ノ舞いのことを。

 

 

 

 

 

 

「....あれ?」

 

 

私が目を開けると、目の前に現れたのは広い草原で、その草原のあちこちに花が咲いていた。

 

 

「ここは夢の中?それとも、現実の世界で何処かに飛ばされたの?」

 

 

私は困惑しながら周りを見渡した。誰もいない。私は自分の姿を見たが、特に変わった様子はなかった。

隊服と笹の葉の羽織を着ているし.....あっ、刀がない。変化はあった。

 

 

でも、刀がないと戦えないし、もし夢の中なら自身の頸を斬って脱出することもできない。

 

 

「...痛....くない.....」

 

 

私はそう思いながら自分の頬をつねった。だが、痛みなんて感じなかった。ただ頬を摘んでいる感覚だけがあった。

 

 

ということは夢の中なの?でも、誰もいないのはおかしいと思う。だって、魘夢は血鬼術で目覚めたくないくらい幸せな夢を見せてくるので、このような夢を見せてくるとは思えないのだ。

私はもう目覚めたいのだけど、刀がないためにできないだけである。

 

 

私はいつまでもそうしているわけにはいかないので、とりあえずその場から動くことにした。

そして、歩いていくうちに花畑が見えてきた。私はその花畑に見覚えのある気がして、その花畑の方に向かった。夢の中とはいえ、花を踏まないように意識して進んでいき、そこで何故見覚えがあるのか分かった。

 

 

ここ.....あの時はいきなりここにいたから分からなかったけど、この場所はカナエさんと出会った場所、私の無意識領域だ。

 

 

私はそのことに気づけたが、すぐに疑問が湧いてきた。

 

 

どうして私はまたこの場所に来ているのだろう。魘夢の血鬼術は夢を見せるものである。その血鬼術にかかった人を中心に夢の世界が展開されるのだが、無意識領域はその世界の外にあるものであり、無意識領域への入り方もその夢の端のようなところからである。

なので、無意識領域に急に入っているこの状況は明らかにおかしいのだ。

...まあ、前の時も何故かこの無意識領域に入っていたからね。いや、カナエさんが連れて来たのかな?見せたいものがあるとか言っていたし。

 

 

私はもう一度辺りを見渡してみたが、カナエさんの姿はなかった。無意識領域ならカナエさんがいるかもしれないと思ったが、いないみたいだ。周りに広がっているのは花畑と草原だけで、私は別の場所に行けばカナエと会えるのではと期待し、一歩前に出た時...。

 

 

「おい。止まれ」

 

 

後ろから突然声が聞こえた。私はそれに驚いた。さっき周りを見渡した時には誰もいなかった。それなのに、いつの間にか後ろにいた。しかも、気配すら全く感じなかった。

私は警戒したが、それ以上に背後にいるのが誰なのか分からず、後ろを振り返った。何せ、ここは無意識領域であり、誰かがいるのはおかしい。自分の化身ならいる人はいるが、この人は違うと直感的に察した。それに、声の低さから男の子の声だと思うので、カナエさんではない。口調も全然違う。

 

 

私は意を決してその声の主を見て、さらに驚いた。そこにいたのはやはり男の子であり、しかも腰に届く程の髪を伸ばし、髪色は黒から毛先にかけて青色となっている。私はその男の子に見覚えがあった。

 

 

「時透、君....だけど、時透君じゃないよね」

 

 

私は目の前の人物に直接聞いてみた。私の質問を聞き、その人は頷いた。その姿は霞柱の時透無一郎にそっくりだが、明らかに違う。気配も違うし、表情だって凄く違う。

時透君は記憶喪失となっていて、さらに頭に霞がかかったように物事をすぐに忘れてしまうという後遺症を負っている。そのために原作の時透君は無表情でボンヤリとして雰囲気をしている。

前の時は記憶が戻っているから笑っていたが、そのどちらとも違う。

目の前にいる人は私を睨むように見ていたから。

 

 

....だが、心当たりは一つある。時透君には双子の兄がいる。しかし、その兄はもう既に.......。

 

 

「....ああ、そうだ。俺は無一郎じゃなく、有一郎だ」

「やっぱり有一郎君でしたか。でも、どうしてここに?」

 

 

有一郎君が名乗ってくれたおかげで、誰なのかはっきりすることはできたが、それでも疑問があり、それを尋ねた。

どうして私の夢の中、それも無意識領域の中にいるのかは分からない。それに...これは私も悩んだが、カナエさんと有一郎君のことを考えると、この二人は死人故にここへ入ることができるのだと思う。ただ、どうして私の無意識領域の中にいるのかは分からない。私ではなく、もっと違う人...二人の家族(しのぶさんや時透君)の方に行くべきだよね。

私、二人とは全く会っていないんだよ。

 

 

「お前がそれを気にする必要はない。言っておくが、カナエさんならここにはいない。もういいだろう。さっさと帰れ」

「いや、気になるって。それより、カナエさんはやっぱりここにいるのですか?それに、帰ると言われたってどうやって......」

 

 

有一郎君は私に冷たくそう言ってくるが、私もどうすればいいのか分からず、困り果てた。

何せ、刀がないから目を覚ますことはできない。他にも何かないのかと聞くと、あるのは花だけだ。

それに、このまま帰るわけにはいかないので、幾つか質問はした。

 

 

「....お前ならそのうち帰れる。カナエさんは今別の場所にいる。だが、その前にお前が帰るだろうな」

「待って。そのうち帰れるって、どうしてそう言えるの。有一郎君は何か知っているの?華ノ舞いのついても、何か......」

 

 

有一郎君は私の質問にカナエさんのことと刀がなくても帰れるとしか答えてくれなかった。私はこの二つを答えてくれただけでなく、他のことも聞こうとした。

私は有一郎君が色々知っていると思い、聞いてみた。確証はなかったけど、カナエさんが華ノ舞いのことを知っているのなら、同じように無意識領域にいる有一郎君も知っているのではないかと思ったのだ。

 

有一郎君は真剣な顔で私の目をしっかり見て、口を開いた。

 

 

「俺はお前より知らない」

 

 

この言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

「えっ?」

「あっ」

 

 

次に視界へ映ったのは見知らぬ女の子だった。その女の子は私が目を覚ましたことに驚き、後ろに下がった。それにより、女の子の手に縄があるのを見た。私はそれを認識した瞬間、反射的にその女の子を気絶させた。

気絶させた女の子を椅子に座らせた後、私は周りを見渡したら他にも縄を持つ人達がいることに気づいた。

 

 

それを見て、私は現状がどうなっているのかを確信した。

私はまたかなり早い段階で目を覚ましたのだと。前の時も早かったけど、今回も原作より早すぎるのだと分かった。

 

 

私はそれを理解したと同時に、周りにいた人達を気絶させた。勿論、ちゃんと縄が繋がっているかどうかを確認してからだ。

幸い、まだ縄をつけていなかったり、片方にしか結ばれてなかったりしていたから、気絶させても大丈夫だろう。

あの縄は血鬼術を用いた特殊なものであり、対象と自身の腕をその縄で繋ぐことで相手の夢の中に入れるのだ。この縄の厄介なところは日輪刀を斬ることができるが、そうすると相手が二度と目を覚めなくなってしまうのだ。

相手を死なせずに縄を断つ方法というと、禰豆子の爆血くらいしか思いつかない。だが、今回いるのは炭華であり、炭華の血鬼術が爆血でないこともあり、そうすることは難しいと考えている。

 

繋がっていた状態で気絶させればこの人達は禰豆雄達の夢の中に入ってしまうので、少し面倒なことになっていたが、繋がっていない状態であったためにその心配はなく、遠慮なく気絶してもらった。

 

 

私は椅子に気絶させた人達を全員座らせた後、背負い箱から出てきた炭華と少し会話してから、列車の上へ行った。そこで、前の時のように魘夢と戦った。

まあ、前の時と変わっていないのなら、前の時と同じような結果になると思った。でも、最終決戦まで戦った経験から、前の時のように私は血鬼術の催眠が今回もあったことで、列車の上での勝負はすぐに終わった。

 

 

だけど、既に無限列車と融合はしていたらしく、頸を斬っただけでは終わらなかった。私はすぐに列車の中に戻ると、七海と禰豆雄が起きていた。

私は少し驚いた。七海は起きているだろうとは思ったけど、禰豆雄も起きていたのは予想外だった。だけど、それもすぐに分かった。ちょうど炭華の血鬼術の光が伊之助を包み込んでいたからだ。

どうやらあの血鬼術は爆血と似たような性質みたいだ。二人で戦わないといけないと覚悟していたけど、この調子で全員が目覚めそうだ。

 

 

「禰豆雄、目が覚めたんだね。良かった。七海、鬼はもう既に列車と融合している。早く目覚めたと思ったのだけど、その段階には来ていたみたい」

「......そうか」

 

 

私はすぐに七海と禰豆雄に鬼のことを伝えた。特に七海は知っているので、私が何を言いたいのか察すると思うし、七海が頷いたことから分かっていると思う。

だけど、返事をしたのは禰豆雄だった。その声を聞き、私は禰豆雄の様子がおかしいことに気づいた。なんだか下を向いていて、表情もよく見えないために私も嫌な予感がした。それに、七海も不機嫌そうな顔をしていたし、何かあったのだろう。

 

 

「七海。禰豆雄。夢の中で何があったの?」

 

 

私は二人におそるおそる聞いてみた。これは絶対に何かあったのだと思う。大方、予想はできる。だけど、一応聞いておかないとね。後が怖いから。

 

 

「夢の中で姉さんがいっぱい出てきたんだよ。小さい頃から大人まで.....だけど、よく分かっていないんだよね....」

(ああ...やっぱり)

 

 

禰豆雄のその言葉を聞いてすぐに私は確信した。もう禰豆雄の不機嫌な原因はあれしかない。

 

 

「あの鬼、姉さんの全然再現してないんだ!小さい頃の姉さんはもっと可愛いし、大人になった姉さんはもっと綺麗だし、今の姉さんは大天使なんだ!なのに、この鬼はそれをちっとも理解していないんだよ!姉さんの偽者に囲まれて、何の嫌がらせだと思う!本当に今回の鬼は性格悪いと思わない!」

「アタシもそれに同意よ!」

「....七海。随分雑だと感じたの?怒っている様子だけど、どうしたの?禰豆雄みたいに七海も見た夢が偽物と感じたの?」

「ええ...。......せっかく一年前にあの事件が起きなかったらという感じで、竈門家のみんなは生きていて、アタシ達も刀を握っていないわ。だけど、全然違うのよ!笑ったり、怒ったりしていたけど、あれは明らかに偽者だって分かるわ!いくらアタシ達の記憶の通りに似せようとしても、違和感はあるもの!」

「ははは....」

 

 

禰豆雄の言葉に七海は何度も頷いている。私はその様子を苦笑いしながら見ていた。

七海が禰豆雄の意見に同意するのは仕方がない。それくらい七海が炭華のことを大切に思っているということである。それは私もよく分かっているから、今回の件は炭華のことだけではないと分かる。

 

 

どういうことかというと、禰豆雄はともかく、七海は炭華のことで怒っているわけではないのだ。

私も禰豆雄の言葉を否定できないし、七海が同意するのだって分かる。魘夢は他人の不幸や絶望に歪む顔が好きだそうで、私もその言葉を聞いた時はうわぁと思ったよ。

なので、禰豆雄の性格が悪いという言葉も間違いではないと思っている。それに、七海が納得していることも共感できる。

なので、私は苦笑いをすることしかできない。

 

 

「.....それで、今はあの鬼が列車と融合したから、彩花はそのことを伝えに来たと....」

 

 

私は禰豆雄と七海に鬼が列車と融合したことを話した。

ここから、私達は全部の車両を行き来しながら鬼の頸を斬らないといけない。既に何処にあるのか知っているため、探す必要がないが、それでもこの列車にいる人達を全員守れるかどうかは断言できない。

まあ、当初の予定と違って禰豆雄もいるし、少しは良い方へ進んでいると思いたいけど。

 

 

「とにかく、私達がやらないといけないことはこの列車に乗っている乗客全員を守り、鬼の頸を斬ること。なので、私達はバラバラになって、前後の列車で...「各々列車を刻み込まないといけないんだね」....はあ?」

 

 

私は七海と禰豆雄に予定として立てていた作戦を話そうとしたが、禰豆雄がその前に呟いた言葉に呆気に取られた。

 

いや、そっちに行くの!列車と融合したのなら、その列車ごと壊してしまおうという思考に!まあ、七海と禰豆雄ならできるかもしれないけど.....。

 

 

「なるほど。それは簡単ね。一石二鳥なうえに、その方がアタシもスッキリするわ」

「ちょっと待って!流石に強引すぎるから!それに、七海に話したよね!『乗客全員を守るためにはその場で襲ってくる鬼の攻撃を防ぐ必要がある。けど、それでは手を離せなくなって、鬼の頸を斬れなくなる。

だけど、細かく斬ってしまえば再生までに時間がかかるから、最初にそれを二人でした後に一人が鬼の頸を斬り、もう一人がここに残って乗客を守る。細かく斬っていれば一人でもなんとかなるだろうから。少なくとも鬼の頸が斬られるまでの時間は稼げるだろう』ていう話だったよね!」

「でも、こっちの方がいいわ」

 

 

七海が頷いているのを見て、私は七海を止めるが、七海は禰豆雄の案にノリノリだった。

そして、私が七海を説得しようとしている間に、禰豆雄が列車の壁や床、天井等々と列車全体を刀や斧で切り刻み出した。

七海もそれを見て、後ろの車両へと向かった。私は追いかけようとしたが、止めようと思った。

あの様子だと七海は止められなさそうだ。既に禰豆雄がやっているわけだし、触発されていて駄目だと思う。

それに、禰豆雄は一度やってしまうと、もう止まらない。

 

 

私は二人を止めるのを諦め、鬼の頸を斬りに行くことにした。

七海と禰豆雄が暴れているのを止めるのが難しいなら、七海と禰豆雄が暴れる理由そのものを無くした方が早い。もう二人を止めるよりもこっちの方が早いと思ったのだ。

 

 

その時、横から何かが光り、私はその方角を見ると、伊之助が体を起こした。

どうやら炭華の血鬼術によって、魘夢の血鬼術が解けたようだ。ちょうど良いタイミングだ。

 

 

「何じゃこりゃあ!?」

「伊之助、ちょうど良かった。これから鬼の頸を斬りに行くよ」

「ああ!?どういうことだ?」

「詳しい説明は移動しながらするから。炭華、煉獄さん達を起こしておいて。私もなんとか禰豆雄達が列車を全部破壊する前に終わらせておく気だけど、何があっても大丈夫なように保険としてね。....ありがとう」

「おい!壊すって何だ!あいつら、何してんだ!」

「簡潔に言うなら、あの二人がまた暴走しているということなの。そして、私達はこれ以上の被害を出さないために鬼の頸を斬って、七海と禰豆雄が暴れる理由を無くさないといけないの」

 

 

私は伊之助の腕を引っ張り、鬼の頸を斬りに行くことにした。伊之助は困惑している様子だが、早く鬼の頸を斬りに行かないといけないので、私は後で説明するからと言って、炭華に声をかけて煉獄さんと善逸を起こしてもらうように頼んだ。

炭華が頷いたのを確認し、私は炭華にお礼を言ってから向かうが、伊之助が頼んだ時の会話で気になったらしく、質問してきたので、簡単にだが話した。

 

 

そうして鬼の頸がある場所に着き、私はその近くにいた人を気絶させてすぐに前の車両へ運んだ。

既に刺してくるのだと分かっている人を放置するわけにはいかないからね。戻ってくると、伊之助が二つの刀で床を斬りつけ、鬼の頸の骨を露わにしていた。伊之助がそのまま骨を斬ろうとしたが、魘夢が骨を守るように肉体で覆い、攻撃してきたので、私は伊之助を後ろに引っ張り、その攻撃を回避した。

その後、伊之助と連携して鬼の頸を斬った。

 

 

えっ?その説明だけは簡潔すぎないかって?

うん。それくらいで大丈夫だと思う。だって、そんなに苦戦していないからね。伊之助は猪の被り物で血鬼術を上手くかけられないし、私はやはり血鬼術が効かないので、大丈夫なのだ。

それに、攻略方法は既に知っているため、伊之助にそれを話し、多少の抵抗を受けながらも無事に鬼の頸を斬ることができた。

 

 

「みんな、大丈夫?」

「平気よ。むしろスッキリしたわ。久しぶりに思う存分やれたからね。気持ち良く汗をかいたわ」

「そうだな。いやー、いい仕事をしたよ」

「そのようだね......」

 

 

鬼の頸を斬った後、私と伊之助は禰豆雄達のところへ戻った。鬼の頸を斬ったことで、鬼が絶叫して列車は横転してしまった。前の時に私は体を動かすことができず、上手く着地もできなかったが、今回は特に何もないので、怪我をせずに着地できた。伊之助も鬼の肉がクッションになって大丈夫だった。ただ、炭華や七海達がどうなっているのか分からないので、無事を確認するために合流することにした。

幸い、私と伊之助を除く全員が同じ場所にいたので、すぐに見つかることができた。

 

 

私達が着いた時に見たのはスッキリした顔で汗を拭っている七海と禰豆雄にそれをにこにこ笑って見ている炭華、いつもとは違って眉が下がり、疲れているのだと分かる表情をしている煉獄さんとその足元で息切れして寝転がる善逸の姿だった。

 

 

なんとなく察したので、まず最初に怪我はないかと確認すると、七海と禰豆雄は上機嫌で私にそう言った。私はその表情で色々察し、深くは聞かずに苦笑いした。その後、煉獄さんと善逸の方に視線を向けると、煉獄さんは私と伊之助を見て、『無事で何よりだ』と言って安堵していた。ただ、その声がいつもよりも小さいことから、相当疲れているのは分かった。

 

 

「煉獄さんは大丈夫ですか?」

「うむ...。.....大丈夫だと言いたいが、流石に疲れたな!」

「....驚かれましたか」

「目を覚ましたらあの破壊少年が列車を壊そうとしていてな!何が起きているのかは分からなかったが、そのまま放置することなんてできなくてな!それで、止めようとしたのだが、駄目だった!」

 

 

私が煉獄さんに聞くと、煉獄さんは少し悩んだ様子を見せたが、正直にそう言ったので、私は苦笑いした。だが、流石は柱というべきか、すぐに体力が回復したようで、いつものような大声に戻っていた。

 

 

まあ、煉獄さんと善逸は疲れているみたいだけど、怪我はしていない様子だし、たぶん大丈夫だと思う。それなら、乗客の人達の怪我を診ておきたいな。今回は魘夢の頸を斬るのが前の時よりも早かったわけだし。

 

そう思って、私は煉獄さんに乗客の人達の怪我を診に行くと伝えると、快く背中を押してくれた。なので、私が襲撃までは乗客の人達の怪我を診ていた。

 

 

 

 

 

 

 

ズドーーン!!

 

 

 

乗客の人達の応急処置に一通り終えた後、何かが墜落してきたような音がした。その音が聞こえた場所は七海達がいるところの近くだった。

 

 

「.....炭華!善逸!伊之助!えっ!?煉獄さん!?」

 

 

私は襲撃があった場所に向かい、現状の確認をするために戦いを見ている炭華達に声をかけようとして、その中に煉獄さんがいることに驚いた。

猗窩座が現れたのだから、相手は煉獄さんなのだと思っていたが、どうやら違う様子だった。

私が凄く驚いていることに煉獄さんが不審そうな顔をしていた。あまりに予想外だったために、私はかなり動揺していた。

以上に反応しすぎた。なんとか誤魔化さないと...。

 

 

「こ、この鬼の気配って、かなり強いですよね。それなら、煉獄さんが真っ先に相手をするものだと思っていましたので、凄く予想外でしたよ」

「うむ、そうだ!今回の相手は上弦の鬼だ!普通なら、俺が真っ先に前に出て戦うべきであろう!だが、その前に先を越されてしまってな!俺も手を出さないのだ!」

 

 

私がなんとか誤魔化そうとして口に出した。だが、煉獄さんはその言葉で納得した様子で答えた。私はその答えを聞いた時、なんだか嫌な予感がしてきた。何せ、ここで見ている人達の中に七海と禰豆雄がいないし、二人の気配が感じるのはあちらだった。

 

 

「........七海と禰豆雄はどうしました?」

「......上弦の参が現れた時、真っ先に狙われたのが竈門少女だったのだ」

「よりにもよって、どうして正確にそこへ行くかな!それはああなるよ!」

 

 

私が七海と禰豆雄のことを尋ねると、煉獄さんが遠い目をしながらそう告げ、私は天を仰いだ。そして、頭を抱えて大声で叫んでしまった。

嫌な予感は当たった。まったく、どうして炭華のところに行くかな。猗窩座は女性には手を出さないはずでしょう!鬼だから別なの!それとも、鬼舞辻無惨の命令なのかな!どちらにしろ、炭華に手を出した時点でもう弁解の余地がない。

 

あと、やっぱり相手は上弦の参である猗窩座か。

原作では猗窩座と煉獄さんがここで戦い、煉獄さんはその死闘の末に亡くなった。今回も七海と禰豆雄が動かなければ原作と同じ流れになっていただろう。七海と禰豆雄が先に動かなければ。

 

 

私は深呼吸をして落ち着いた後、戦いの方に視線を向けた。ズドンとかそういう音が聞こえる方に。

禰豆雄が刀を振り下げ、猗窩座がそれを避けると、その瞬間に斧を投げ飛ばす。その斧を避けきれないと思ったのか拳で受け止める。その時に衝撃波が生じたが、七海は猗窩座の後ろから近づき、掛け声を上げながら刀を振る。猗窩座は咄嗟に脚で受け止めるが、それによって脚が真っ二つに斬られる。その隙に禰豆雄が斧をまた取り出して投げ、七海は細かく斬り刻もうとして水明霧雨を使ってくる(細かく刻んで)

猗窩座はなんとか脚を再生させ、上へと逃げるが、禰豆雄が刀を投げる。猗窩座の表情は引き攣っているが、それでも応戦する。

 

 

.....七海と禰豆雄は凄いね。鬼を一方的に追い詰めているのだから。

まあ、地面が思いっきり大変なことになっているけどね。禰豆雄の振り下げた刀は地面を裂くように斬っているから、地面には崖のような場所が幾つもできているし、七海は猗窩座を斬ろうと思いっきり踏み込んでいるので、地面を割っている。衝撃波ですらあれこれ吹き飛んでいるのに、これでは被害が大きくなる一方である。

 

 

「それで、煉獄さん達は七海と禰豆雄の被害に遭わないようにここで待機していたということですか」

「うむ、その通りだ!上弦の鬼は絶対に斬らないといけないが、あの中に入っていくのは荷が重くてな!しばらくの間は様子を見ていようと思ってたんだ!」

「なるほど....」

 

 

私は聞いた話と現状を認識した後、煉獄さんに確認してみると、煉獄さんは頷きながら正直にそう言った。

つまり、七海と禰豆雄をどうすればいいのか分からず、無理だと考えて収まるまで待とうということである。

 

私にはその方が良かったので、その考えには賛成である。中途半端に手を出して、状況を悪化させられるよりマシなので、私は特に不満なんてない。

だが、この対応について考えないといけないため、私は腕を組み、少しの間悩んだ。

 

 

「炭華は怪我とかしていない?あの二人の暴走を止めるにはそこが重要だから」

「むー!.....むー....」

「...そう。怪我はないということね。でも、眠いんだね。まあ、仕方がないよ。禰豆雄達を助けようといっぱい血鬼術を使ったからね。ゆっくり休んでいいよ」

 

 

私が炭華に尋ねると、炭華は怪我がないことを伝えようと元気に声を出すが、血鬼術の使い過ぎで体力がなくなった様子で頭が何回か揺れ、目も今にも閉じそうになっていた。

私は炭華の様子を見てすぐにそのことを察し、炭華を寝かしつけようとした。それを見て、善逸が驚いた。

 

 

「ちょっと待って!その前にあの二人を宥めなくていいの!?上弦の参を追い詰めてくれているのはいいけど、俺達まで被害を受けそうだし、このままだと何もできないから!」

「大丈夫だよ。それに、もう止める方法は決まったから」

「えっ!?止める?いや、そうじゃなくて.....」

 

 

善逸の言葉に私は笑顔で答えた。だが、それでは安心できなかったらしく、むしろ顔を真っ青にしていた。

まあ、そうだよね。今は七海と禰豆雄が暴走しているから、このようにのんびりできるけど、それを止めてしまったらどうなるか予想がつかないものね。

けど、私は善逸を無視して七海と禰豆雄に大声でそう言った。

 

 

「七海!禰豆雄!炭華が眠いみたいだから、早く上弦の参の頸を斬って、背負い箱を渡してくれない?」

 

 

私の言葉に二人が反応した。それは確かに私の目で見た。

これで、あの二人も早く終わらせてくれるだろう。炭華が眠たいというと、すぐに終わらせてくれるのではないかという期待がある。あの二人は炭華のことになると、すぐに色々片付けてくれるという信頼があるんだよね。

 

だけど、二人は私の声を聞いて、猗窩座を攻撃するのを止めて私のところに戻って来た。

 

 

「あれ?どうしたの?」

「いや、あいつに全然当たらなくて、斧を当てるとかならできると思うけど、頸を斬るのは時間がかかると思ったんだ」

「なるほどね....。それで、頸を斬るよりも炭華に背負い箱を渡す方を優先したというわけだね。.......そう簡単にいくわけないか...」

 

 

私が二人に声をかけると、禰豆雄が眉間を皺を寄せながらそう言った。

どうやらさっさと終わらせられないと思って、後退してきたみたいだ。

 

まあ、仕方がない。先程も言ったけど、二人の最優先事項は炭華であるため、目の前のことがすぐに終わらせられないと察すると、必ず炭華の方を優先するのだ。

 

 

「というわけで、後は頼んだわよ。彩花」

「あー。それで、私にということなの」

「そうだ。俺と七海は姉さんの近くにいるから」

「うん、分かった。二人は休んでいて。さっきまで休まず戦っていたのだから」

 

 

七海に肩を叩かれ、私は七海と禰豆雄がこちらに来た目的を察した。禰豆雄は少し悔しそうな顔をしながらそう言うので、私は素直に向かうことにした。

この感じの禰豆雄にはあまり刺激しない方がいい。それを知っているから。

 

 

「あの人間?達の次はお前か。見たところ、普通の女のようだが.....」

「選手交代ということですよ」

 

 

近くまで来てすぐに猗窩座は私を見ながらそう言ってきた。猗窩座の言葉に私は苦笑いしながら答えた。

猗窩座にも人間扱いされてないよ、あの二人。

 

 

「言っておくが、俺は弱い奴が嫌いだし、女や子どもは好かん。それより、あの男がいい。あの男、柱だろ」

「そうですね。貴方がやはり煉獄さんと戦いたいと思うのは当然ですし...貴方の事情は知っているので、それをとやかく言うつもりはありません。ですが、これだけは言っておきます。あまり女性を見くびるのは止めた方がいいですよ」

 

 

明らかに私に興味を持たず、煉獄さんと戦いたいと言い出す。その言葉に私は原作のことを思い出し、頷いて納得してしまった。原作通りというわけでないけど、猗窩座は煉獄さんに興味を持ってしまうようだ。

 

 

さらに、猗窩座は女性には手を出さないことも原因だろうけど、私は鬼殺隊の一員として貴方の頸を斬らないといけないからね。女性だからとそういう風に考えないでほしいとかそういう気持ちがあり、私はそのことも口に出し、刀を握った。

 

相手は上弦の参だから、あれを使った方がいい。あれは一番効果がある。

 

 

 

 

「ちょっと!二人とも、彩花ちゃんに任せていいの!」

「なんだ、善逸。今は姉さんを優先した方がいいだろう?」

「しかし、相手は上弦の参だ!生野少女を一人で戦わせるわけにはいかない!止めないでくれないか、怨霊少女!」

「何よ!怨霊って!もうちょっと捻ってよ!」

 

 

善逸がわあわあ喚いているが、禰豆雄は炭華を背負い箱に入れてるし、アタシは煉獄さんを止めるのに忙しくて相手するのは無理よ。煉獄さんがアタシを怨霊少女と呼ぶのも納得いかないわ。もうちょっと別の呼び方があるわよね。

 

アタシはそう不満を漏らした。だが、煉獄さんはあちらに行こうとしてるから、アタシは煉獄さんを押さえる。

今、煉獄さんをあちらに行かせるわけにはいかないわ。何かの拍子で原作通りになる可能性が高いから、ここで大人しくしてほしいのよ。

それに、煉獄さんが助太刀にしなくても、ね.....。

 

 

アタシはため息を吐きながら口を開いた。

 

 

「そもそも、あの鬼は彩花一人で大丈夫よ」

「でも、七海ちゃんと禰豆雄じゃ駄目だったんでしょ!」

「駄目というわけではないのよ」

「そうだ。あの鬼に勝てるが、時間がかかるし、逃げられる可能性が高いから、彩花と交代したわけだ」

 

 

アタシの言葉に善逸はまだ不安そうな表情をしている。ただ、アタシは駄目だったという言葉の方を否定したかった。禰豆雄も同じらしく、不満そうな顔をしてアタシの言葉に同意した。

猗窩座は羅針を使えるから、アタシ達の攻撃が分かるのよ。そのため、それ以上に速く動いたり逃げ場のないくらい多い攻撃をしてきたりしてくるのよね。そのため、厄介な相手であり、決め手を見つけられるのは難しく、いづれ膠着状態になると、原作知識のない禰豆雄ですら分かるくらいだわ。それは引くわよ。

 

 

それで、彩花と交代してきてもらったの。だけど、アタシ達と違って善逸や煉獄さん達は心配しているのは彩花が猗窩座と戦うことにだそうね。アタシ達は別に心配していないわ。

 

だって、彩花はアタシ達より強いわよ。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃 瞬花」

 

 

彩花がそう呟いた瞬間、上弦の参の頸は後ろへ飛び、彩花の手元に来た。

 

 

『はっ?』

 

 

それを見て、猗窩座は呆気にとられたような声を上げた。それはアタシの周り(炭華と禰豆雄以外)も同様だった。

 

猗窩座も煉獄さんも何が起きているのか分からないわね。だけど、アタシはあの型を知っているから、彩花が何をしたのか分かるわ。

と言っても、彩花がしたことは単純に猗窩座に見えないくらい速く動いて間合いに入り、頸を斬っただけよ。

 

 

彩花はアタシより腕力が弱いけど、総合的な強さだと彩花の方が上手なのよね。前の時とはいえ、彩花は色々変わっていたけど、原作通りの順番で最終決戦まで戦っていたのよ。それに、相手はアタシだけど、上弦の伍を一人で討ち取れる実力があったのは間違いないわ。

それに加えて、今の彩花は透き通る世界を自由に入ることができるようになっていて、あのような感じで普通の型でも使えるようになっているもの。

猗窩座の羅針にも反応されず、猗窩座の頸を斬ることができる。そう確信していたわ。

 

 

「ねえ、聞いてもいいかな。貴方は誰に向けて拳を握っているの?」

「はっ....」

 

 

彩花の質問に猗窩座は目を見開いていた。アタシも少し驚いたけど、彩花がしたいことを察した。

 

彩花、完全に猗窩座に狛治の記憶を取り戻させようとしてるわね。猗窩座の体がいつまでも崩れないところを見ると、原作のように頸の弱点を克服しようとしているのは間違いない。彩花はそれを防ぐためにも記憶を取り戻してもらおうとしているわ。

 

 

まあ彩花のことだから、そういう考えがあるだけではなくて、単純に思い出してもらいたいという思いもあるのでしょうね。

特に猗窩座の過去って、かなり悲しいものなのよ。

病気になった父親のためにスリをしていたが、その父親は自殺してしまうし、慶蔵と恋雪という人物と出会い、恋雪と結婚の約束をするが、慶蔵と恋雪が毒殺され、仇を討って自暴自棄になっていたところを無惨に鬼にされる。

アタシ、これを読んだ時は泣いちゃったわよ。なので、アタシも猗窩座に人間だった頃の記憶を戻してもらうのは賛成よ。

 

こちらの方は任せて。彩花が猗窩座に何か話しかけているのを見て、不審に思って話しかけようとしているのが何人もいるから、そこはアタシがフォローしておかないと。

 

 

「思い出せないかもしれませんけど、待たせているのだけは忘れないでください。きっと待ってくれていると思いますよ」

 

 

彩花はそう言った後、握った拳を猗窩座の頭に当てる。いや、当てると言ってもそっと触れたような感じである。その瞬間、猗窩座の体が崩れた。アタシも彩花もそれに安堵した。

もう戦う必要はないということなのね。

 

 

猗窩座が完全に消滅するまで、彩花はその様子をじっと眺めていた。

まあ、おそらくは見送りね。なんとなく猗窩座が狛治に戻り、婚約者のもとへ、家族のもとへと逝ったとアタシは感じたわ。離れたところから見たアタシがそう感じたのだから、彩花も同じように感じているわね。

 

 

 

空を見上げれば朝日が昇ってきた。アタシは戻ってくる彩花に向けてこう言った。

 

 

お疲れ様、と。

 

 

 

 

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