笹の葉の少女は幸せを願う   作:日々草

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苦労人の少女は変装しながらサポートする

 

 

 

無限列車で猗窩座の頸を斬ってから、数ヶ月が経った。

上弦の参を倒せたということで、鬼殺隊の人達は大喜びであった。猗窩座をこの時期に倒してしまったことで、今後がどうなるか分からない。だが、先のことをずっと悩み続けるわけにはいかないし、時間はいつも通りに流れるわけでもあるので、私は前と変わらずに鍛練したり任務に行ったりという生活をしていた。だが.........。

 

 

「こ、こんにちは!」

「やあ、こんにちは。夏燕花魁。相変わらず可愛らしい人だ。その簪も凄く似合っている。君にその花はぴったりだ」

(そう)さん、今夜は私を買いませんか」

「翠玲花魁か。申し訳ない。せっかくのお誘いだが、僕はそのために来たわけじゃないんだ。あまり時間もないが、少し君達のような女性と話したくてね。君と二人になるのはまたの機会にするよ」

「「こんにちは!」」

「こんにちは。君達は秋鶴花魁の子達だね。ちょうど良かった。今日は飴をたくさん持ってきているんだ。食べきれないから、良かったら手伝ってくれないか」

「本当ですか!」

「ありがとうございます、(そう)さん」

「君達も良かったら食べてみないか」

 

 

現在、私は奏と名乗り、女の子達に囲まれ、一緒に会話をしている。善逸が血の涙を流しそうだと思いながら周りにいる子達に持っている飴を配り、噂などを聞いていく。しばらく会話した後、私は屋敷を出て、人が来ないところまで歩き、そこから屋根の上に跳んだ。

 

 

「報告しに来ました」

「おう。また派手に情報を持ってきたのか」

「派手かどうかは分かりませんが、少し気になることがいくつかありますよ。おそらく関係があると思います」

 

 

私はそこで待っていた相手、宇髄さんに声をかけた。宇髄さんの言葉に私は苦笑いしながらも女の子との会話で気になったことを報告した。

 

....分かる方には遊廓編だと分かると思いますが、これまでの経緯を説明しましょう。

 

 

 

 

 

最初に言うとしたら、上弦の参である猗窩座を撃破してからの数ヶ月間は大変だったのだよ。あの時は七海と禰豆雄に頼まれたし、二人の相手をして消耗した今なら頸を斬れると思い、あそこで倒してしまったけど、その影響を深く考えていなかった。

 

 

私は猗窩座を無限列車で撃破する気がなかったし、その直前までは煉獄さんが死なずにどう追い払うかを考えていた。だけど、七海と禰豆雄によって動揺した様子の猗窩座を見て、絶好の機会ではないかと思ったのだ。

 

勿論、ここで頸を斬ってしまうことで原作と違う展開になるのは分かっていたが、同時にここで倒すことへの利点もあった。だが、現在の私はこの時期に猗窩座の頸を斬って、何か違う展開になったらどうしようと思っている。

まあ、今ではその時はその時と考え直すことにした。影響がどう出るかはその時にならないと分からないからね。

 

 

なので、今は開き直っているので特に問題ないが、大変だったのはそれではない。

何せ、この時期に私が上弦の参である猗窩座の頸を斬ったことで、百余りも変わらなかった状況を変えたので、私の見方が色々変わった。

特に、柱の人達に『お前、強かったの?』という目で見られたことが少しショックだった。

 

 

だが、それも仕方がないことだとは思っている。私の印象って、おそらく七海と禰豆雄の暴走を止められる子というのが強く根づいていて、私のことをそこまで強くないと思う人はいるのだ。

村にいた時も七海と禰豆雄にやられて、その報復して私を狙うという人がいた。あの二人が怖くて、正面に向かっても勝てないと思って、近くにいる私を狙ったのだろうけど、私はそれを受け流して反撃し、信頼できる大人に突き出すという形を取っていくうちに、そういう人もいなくなったけどね。

 

 

最初は話し合いで解決しようとしたけど、全く聞く耳を持たないから、仕方なく私も強いという印象がないと駄目なのかなと考えたのだ。七海と禰豆雄はそういった意味で有名であり、手を出そうという人はいなかったし、炭華に関しても何かあったら七海と禰豆雄を飛んでくるという印象が強いわけで、七海と禰豆雄、炭華には手出ししたら酷い目に合うというのが常識のようになっていた。

それに対して、私は腕力が七海と禰豆雄よりないことを知っている人が多いため、おそらくそれも原因だろう。

ちなみに、私が想像以上に強くて、どうしてこんなに強いのかと聞かれた。村の人達も柱達もあの二人を止めていればそうなると伝えたら納得して、それ以上は聞かれなかったけど。

前の時の話はできないし、強くなった原因の半分はそれもあるのではないかと思っているからね。嘘ではない。

 

 

言っておくけど、前の時に私は上弦の壱から陸まで遭遇している人間だからね。今は違うだろうと思われるかもしれないけど、その経験を糧に鍛練してきたのだ。

中でも、何回も華ノ舞いを練習しているうちに透き通る世界を完全に習得できたのは大きかった。前の時は低い確率で入れるという段階だったが、透き通る世界がどういうものかというのを記憶の中で知っているため、その上に重ねるような感じだった上に、その期間が七年もあったし、透き通る世界に入れる炭治郎(今は炭華)のお父さんの炭十郎さんの教えもあり、私は透き通る世界に自由に入れるようになった。

 

 

えっ?赫刀の方はって?

.....そちらは駄目でした。私の握力では条件に満たないようで、一度も赫刀にすることはできなかった。あの時に赫刀へと変化した時の状況の再現が難しいのだ。

透き通る世界はそれ以前にできてはいたが、赫刀は最終決戦で七海と戦った時に初めてできたことだ。あの時は私の記憶が曖昧で、ただ体の奥が熱いということぐらいしかはっきり覚えていない。

というわけで、赫刀の再現は無理であったため、原作での情報と炭治郎の説明(擬音語ばかりのものを自力で解読したもの)から習得しようとするしかできないのである。

 

 

それと、赫刀ができていないのが原因なのかは分からないが、あの時に使った三つの型もできないのだ。いや、正確に言うと動きは再現できた。だが、威力というか炎の勢いが違うみたいで、あの時と同じものではないのだ。

あの時に起きたことはよく分からないし、戦っていた七海も何故か立ち上がっていて、本当に驚いたと言っていたくらいだから、何かをきっかけに起きたのかは知らない。

なので、この話はあまりに情報がないためにこれ以上は考えても駄目だろうと思うことにした。なんだかモヤモヤしたものが残るけどね。

 

 

話を戻すけど、七海と禰豆雄が目立っていて、その二人のお目付け役に見られていた私が上弦の参を倒せるほどに強いということが分かり、それからは柱と稽古をしたり、任務を受けることになったりした。

だが、七海と禰豆雄の暴走を止めることができないからと呼ばれ、それをきっかけに少なくなった。

 

 

 

 

 

そして、数ヶ月が経ち、いつもの滞在場所として蝶屋敷に戻ろうと歩いている時、玄関の辺りで争う声が聞こえた。私はその声がカナヲやアオイさん、なほちゃん達の声だということに気づいた。

それらの声を聞き、私は遊廓編の始まりなのだと察した。それと同時に、炭華と禰豆雄の声も聞こえ、私はそこから全速力で走り出した。

 

 

私が蝶屋敷に着くと、そこでは禰豆雄が宇髄さんに向けて斧を振り回し、宇髄さんは顔を引き攣らせながら屋根の上を動き回って避けていた。蝶屋敷の中の方では炭華が室内でなほちゃん達を背に庇い、七海はアオイさんを蝶屋敷にまで抱えて運び、禰豆雄の加勢に入ろうとしているところだった。

あー、宇髄さんが危ない。

 

 

「そこまで!七海!禰豆雄!一度その辺で止めておいて!そして、私に事の経緯を教えて!」

 

 

そのことを認識した瞬間、私は呼吸を使って間に入り、この事態はなんとかなった。七海の方を見て、声に出さずとも『原作』と口を動かしたので、七海はすぐに落ち着いた。その後で、七海と禰豆雄、カナヲやアオイさんなどの蝶屋敷の人達、宇髄さんに事情を聞いた。

ちなみに、この順番で話を聞いていて、宇髄さんが最後になったのは禰豆雄との追いかけっこを全力で逃げ回ったことで、息を整える時間が必要であったからだ。

 

 

それにより、宇髄さんは原作や前の時と同様に遊廓へ潜入した三人の妻が行方不明になり、代わりに潜入する人間として蝶屋敷の女の子達を狙ったらしい。

三人の妻のことが心配だとはいえ、蝶屋敷の人達を....特になはちゃん達まだ私達よりも幼い子達を巻き込もうとするのは駄目なので、それについては少し説教をした。

どんな理由があれど、あれは駄目だと思う。

 

 

私が宇髄さんに説教をしていると、帰ってから宇髄さんの話を一緒に聞いていた伊之助が『俺様が代わりに行こうか』と言い、善逸も女の子を危険な目に合わせたくないと同意したことで、私達も遊廓に行くことになった。

説明は既に蝶屋敷で済んでいたわけなので、藤の花の家紋の家に着いてすぐに着替えを渡され、遊廓内に潜入するためにその着物を着るようにと言われた。

渡された着物はほとんど女物であったが、禰豆雄の分だけは男物であった。それについて聞くと、行き先が三ヶ所あるのに対して五人いるから、一人は宇髄さんの補佐をやってもらうことにしたらしい。

 

 

一人はお客をして、宇髄さんと共に情報集めをしてほしいそうだ。私達は女同士ということで同じ場所に行き、その他の場所には善逸と伊之助がそれぞれ行き、お客を禰豆雄がするということらしい。

だが、この配置はおそらく七海と禰豆雄を離れさせるものだろう。だって、七海と禰豆雄という組み合わせで色々な問題を起こしているから、遊廓が大変なことにならないようにと思われるのは当然だろう。私はそう納得していたが、七海は納得していなかったようで、宇髄さんに反対した。

 

 

「お客としての情報集めは彩花の方が適任よ。禰豆雄と交代した方がいいわ。禰豆雄は女装もできるから、それで構わないわね」

「ああ」

 

 

七海が私と禰豆雄を交換するように言い、宇髄さんや善逸達は驚いていた。私は頭を抱えていたが、禰豆雄は七海の言葉に当然という感じで頷くと、そこからは怒涛の流れだった。禰豆雄は宇髄さんを無視し、藤の花の家紋の家の人達に他の着物をいくつか用意してほしいと頼み、七海は私の腕を引っ張り、別の部屋へと連れて行った。宇髄さん達はすっかり唖然としていたし、私はため息を吐きたかった。

......あれをやるのか...。....まあ、特に反論する理由はないからね。

それと、七海と禰豆雄は近くにいた方がいいかもね。何故なら、二人でいる時は相談というものができるので、一人で暴走するよりは少しマシだと感じているのだ。

 

 

 

 

 

宇髄さん達が止める前に二人が動いていたし、藤の花の家紋の家の人達の行動も早かったため、特に問題なく私達の着替えは終わった。

私達が着替えを終え、部屋に戻ってきた時には善逸と伊之助の着替えと化粧も終えていた。二人の格好も化粧も原作通りの酷いものであり、宇髄さんは二人を見て、爆笑していた。善逸はそんな宇髄さんの姿を見て、拳を震わせていた。

だが、襖を開ける音が聞こえると、そちらを見た。その瞬間、最初に声を上げたのは善逸だった。

 

 

「えっ!?炭華ちゃ.....いや、違う!しかも、二人いる!!」

 

 

善逸が声を上げるのも無理はない。部屋に入ってきたのは炭華そっくりの女性である。その女性がなんと二人もいるのだ。それは驚くだろう。だが、炭華ではないと気づけただけでも凄い。おそらく音で分かったのだろうけど。

 

 

「なんだ。七雄と禰豆海じゃねぇか」

「お前ら、妙に慣れてるな。その格好に何度もなってるだろ」

「えっ!?」

 

 

気配に敏感である伊之助と忍びであった宇髄さんは正確に誰なのか分かったようだ。

それにしても、宇髄さんは流石だと思う。そこまで見抜くとは。

 

 

「伊之助、混ざっているわよ。私達は七海と禰豆雄よ」

「宇髄さんも正解ですよ。私達は前から姉さんに手を出そうとする人達がいるから、その人達とお話をするためにやっているのですよ」

「そ、そうか.....」

 

 

七海と禰豆雄の言葉に宇髄さんは目を逸らすしかなかった。なんとなく事情を察したのだろう。

見た目は炭華の格好でも、中身は七海と禰豆雄である。言葉遣いに気をつけて取り繕うとしても、雰囲気は完全に怒っている状態の七海と禰豆雄であるためにどうしても怖いのだ。善逸は引いているし、伊之助もなんとなく嫌な予感がするのか近寄らないようだ。

 

 

「.....ねえ。そういえば、七海ちゃんと禰豆雄を案内してきた君は誰なの?さっきからそこにいるけど」

「こいつらのことが気になったから、無視をしてたが、いつまでいるんだ。もしかして、この二人に惚れてんのか。なら、こいつらは止めた方がいいと分かっただろ。お前、なかなか良い顔してるから、他に良い女がやって来ると思うぜ。まあ、俺様と比べたら地味な顔をしてるがな」

 

 

善逸が話を深掘りしない方がいいと思い、話を変えてきた。宇髄さんも七海と禰豆雄を案内した男に視線を向けた。宇髄さんは男を見ながら七海と禰豆雄に惚れて、失恋したのだろうと思い、慰めの言葉を贈った。最後の方のドヤ顔が少し気になるけど、そこは気にしていない。

 

男は肩につかないくらいの長さのさらさらな髪が風に靡き、黒に近い灰色の着物を紺青色の帯で締め、上に藍色の羽織を身につけていた。男は切れ長目でこちらを見つめた後、口角を少し上げて微笑んだ。

 

 

「ああ。私ですよ。私、彩花です」

「「「....はっ?」」」

 

 

私が声に出すと、善逸達は声を揃えて驚き、こちらを見た。どうやら気づいていない様子だったので、声をかけてみたら今度は困惑していた。

男だと思っていた相手から私だと言っているのだから、当然といえばそうであろう。

 

 

「はあ?お前、生野か!?」

「気配だって、全然違うぜ...」

「えっ?いや、その声!どうしたの!」

 

 

宇髄さんと伊之助は唖然とした様子で呟き、善逸は困惑しながら私に話しかけてくる。

しかも、その人物の声が普段よりも低くなっているのだから、ますます混乱するだろう。

 

 

「声のことも含めて、色々あるから順番に説明していきますよ」

「ホントに何があったか気にはなる。お前ら三人ともその格好に慣れてるようだからな」

 

 

私が説明しようと座布団の上に座ると、宇髄さんも座り直し、聞く体勢になった。

 

 

 

七海と禰豆雄が炭華に変装できる時点で察しているかもしれませんけど、あの二人は炭華に告白しようとする人達を自ら追い払っていました。炭華の評判は良く、かなり有名でしたので、炭華への求婚者が多かったのですよ。

 

 

まあ、それくらい七海の化粧技術が凄かったのですけどね。本人曰く、禰豆雄は姉弟であるために顔立ちが似ていて、とてもやりやすいらしい。

だが、七海は化粧がとても上手くて、それは本物の炭華と比べて見抜くのが難しい(見慣れている私と竈門家の人達は勘で気づける)ので、炭華も七海と禰豆雄のように暴走することがあるのではないかと一時期噂になったこともあったのです。

その噂を村の人達の中には信じない人が大半ですが(というか、七海と禰豆雄の仕業だと分かる)、村の外の人達はそうではない。鵜呑みにしてしまい、それが村の外にも伝わろうとしたところにまで発展した。なんとか村の人達が誤解を解いてくれたのだが、このままだと炭華の風評被害が酷くなると思い、七海と禰豆雄にもそのような噂があると伝えたが......。

 

 

『はっ?そんな噂を広めたのは誰?何も分かってないよね?姉さんがそんなことをするわけないに決まってるのに、そんな罰当たりな人がいるなんてね。だって、姉さんは天使だよ。比べることすらとんでもないのに、天罰を受けたいそうだな』

『なんでそんなのも分からないのかしら?少し考えれば分かることなのに、炭華に何ていう誤解をしてるのよ!』

『いや、これは二人が原因だから』

 

 

それで、私は炭華に対する誤解が無くなるようにしようと思い、必死に考えてみた。私は炭華への風評被害をなんとかしたい、七海と禰豆雄はそれを踏まえた上で炭華への求婚を阻止したいと思っている。求婚の件は邪魔しなくていいと思うが、あの二人にとってはこれも重要なことらしい。本当に譲らないので、私はそちらも考えないといけなかった。だが、答えはすぐに見つけられた。

 

 

求婚を止めてもらう手っ取り早い方法として、恋人がいるということにしておいた方がいいと思った。その方がすぐに諦めると思うし、仮に諦めきれないという人がいても、その時は付け入る隙がないという感じを見せればいいと思った。大抵の人はそれで諦めると考えたために、私はそのような提案をした。

私の言葉に二人は効果がありそうだと認めたが、その偽彼氏役を誰がやるかで悩んだ。

その結果、私が男装を始めることになった。

 

 

なんで?と思う方がいると思うし、私もなんでだろうと思うよ。七海と禰豆雄はどうやら交代で炭華に変装しているので、残った私がその役をするのだと言われた。

私は男装する気がなく、やってもバレるのではないかと不安に思っている。でも、発案者であるため、責任をとらないといけないとも思い、ここまでやってきた。

毎回ヒヤヒヤしたけど、私だとバレていないようだった。

 

 

ちなみに、炭華はこの騒動について何も知らない。七海と禰豆雄は表に出ないようにしていたし、私も噂は知らせない方がいいと思っていたので、炭華は今回のことを全く知らない。

なので、申し訳ないと思っている。勝手に恋人がいるということにしているのは炭華に土下座したいくらいに謝りたい。

勝手に恋人がいるようにしているだけでも申し訳ないのに、あんな人を恋人にするなんて変な趣味をしていると言われたら駄目だと思い、かなり徹底した。

悪評に流されず、好青年に見えるようにしようと思い、言動を意識していたので、良い人を恋人にしたのだなと言われている。私はそれに安堵すると同時に、それによって求婚者が減ったことを喜ぶべきか悲しむべきか頭を悩ませた。

 

 

「それで、今の僕の格好はほとんど七海が選んでくれているんだ。村にいた時、この格好をしていたが、誰も彩花だとはバレなかった。七海は凄いな。眉毛を直線的にしたり、目を細長く見えるようにしたりして、化粧だけでみんなの目を騙せるから」

「いや、お前もその擬態が凄えから。口調も変わってるし、声まで低くなってねえか」

「まあな。僕が彩花だとバレたらいけないから、なるべく彩花としての特徴を減らしておこうと思ってな。声は薬(害のない)で低くしているから、これで女だとはバレないはずだ。それとだ。こっちでの僕は奏と名乗ってるんだ。あまり間違えないよう、気をつけてほしい」

「凄え徹底してるな。まさかその髪も...」

「ああ、これか。この鬘は僕の髪の毛から作ったものだ。保管もきちんとしていた。だから、誰にも気づかれないようにはしている」

 

 

私が宇髄さん達の驚いた表情を見ながら七海の化粧技術に関心していると、宇髄さんが顔を引き攣らせながら私に聞いた。私はそれを自慢げに答え、自分が色々してきたことを話した。

 

 

薬は偶然の産物で近いものができていたため、それを改良して完成させた。

鬘は私の頭の形に紙で型を作り、その型にのりを塗り、私の抜けた髪の毛を貼り付けた。

のりは現代のものがまだできていないので、この時代にある「でんぷんのり」というのを使うことにした。「でんぷんのり」は米や花などをお湯で煮てできる粘り気のあるもののことである。

まあ、当時の私達は裕福でないし、米などの食べ物は大切なものであるため、自らの手で花を使って作っていた。

 

一番苦労したのはどんな髪型の鬘にするかで、それは七海と相談しながら作り、鬘の髪の長さを短く整えたり、前髪を目にかかりそうなくらい長くしながらもその髪が目に当たらないようにしたり、鬘の髪で耳が見えなくならないように髪の毛の量を調整したりした。

おかげで、この鬘に凄い愛着があり、鬼殺隊に入ってからも背負い箱の中に入れ、持ち歩いている。

 

 

 

「まあ、彩花だからな。やるなら、徹底的にやるよな」

「彩花って、そういうところを意識するし、妙に頑張ったりこだわったりしてしまうところがあるからね」

「.....?ああ、この姿の時は『(そう)』と名乗っているから、見かけたら奏と呼んでほしい」

 

 

禰豆雄と七海の言葉に私は頸を傾げたが、周りは全員頷いていた。私はそれを疑問に思ったが、それよりも伝えておこうと思ったことがあり、そちらを言うことにした。

 

 

ちなみに、『(そう)』という名前ができた経緯は『彩花』の『花』を分解すると、草かんむりと化になり、化けた後に残るのは『草』で、それを音読みして『ソウ』と読み、『ソウ』と読む別の漢字を宛てたことで、『(そう)』となったのだ。

 

 

 

ということがあったが、私達は吉原遊廓に潜入できた。七海と禰豆雄は姉妹という設定で最初に売られ、善逸と伊之助も原作通りに売られていった。私はお客としてあちこちの遊廓を回って情報を集めながらも本命の三ヶ所に赴き、お菓子を渡す時とかに情報交換する。

まあ、その場に長くいたら怪しまれるので、二、三言だけ話すくらいにしている。なるべく、聞かれても大丈夫そうな言い回しをしている(伊之助の時は紙を使った字で確認するという形である)ので、問題ないと思っている。

 

ただ、毎回訪れる場所がときと屋となっているのには宇髄さんの意図を感じる。何せ、ときと屋は七海と禰豆雄がいる場所だから。何か問題を起こす前に私に止めてもらおうとしているのは分かるけど、その必要はないと思っている。二人が暴走するのは炭華が関わることであり、その炭華は別の安全な場所にいるのだから、大丈夫であろう。

 

 

まあ、炭華に会えないとストレスを溜めることもあると思うので、こっそり二人のいるところに私が炭華の入った背負い箱を持って忍び込み、炭華と会える時間を設けている。鬼に見られる可能性があるので、そこは警戒しているけど、今のところは問題ない。

予想外だったのは奏が毎回花魁に話しかけられたり、誘われたりするようになったことだ。おかげで色々な噂を聞くことができたが、目立っているよね。

 

 

私はそろそろ鬼が動くだろうと思いながら原作の流れを思い出し、少し不安になった。

私達の人数の多さから一ヶ所に集まることは無くなった。まあ、昼間にやっているとはいえ、バレてしまう危険性があると感じていたので、そこは良かったと言ったら良かったが、これでは異変に気づくのに時間がかかってしまうのではないかとも思う。

 

 

私はどうしようかと思い悩みながら京極屋に行き、そこにいる善逸の報告を聞こうと周りを見渡していると、ある声が聞こえた。その声は善逸の声だ。しかも、切羽詰まっているような感じがするし、なんだか嫌な予感もしてくる。

私は近くにいる女性へ何か物音がすると言い、その部屋の近くまで行った。すると、そこで見えたのは泣いている女の子を庇い、蕨姫花魁...上弦の陸である堕姫と対峙する善逸の姿が見えた。

それを見て、私は原作のような状況になっているのだと察した。

 

 

「おや、確か貴女は蕨姫花魁でしたね」

 

 

このままだと原作のように善逸が堕姫の腕を掴み、堕姫がそれを怒って吹き飛ばすだろう。その時に善逸が受け身を取ってしまい、堕姫に鬼殺隊だとバレて捕まるのである。今はまさにその時なのだろうから、なんとかして防ぎたい。

そう思い、私は奏として話しかけた。客として、まだ会ったことのない美しい女性に会い、静かにそのことを喜ぶ男性として対応する。緊張するが、私は心の中で何度も言い聞かした。

 

 

「初めまして。こんなところまで来てしまい、申し訳ありません。何やら声が聞こえてきたので、問題でも起きたのかと思い、ここまで来てしまいました。御気分を害してしまったようで」

「あら、ここで働いている人間ではないのね。悪いけど、アタシは気分が悪いの。今は相手をする気もないわ」

「そうですね。貴女のような美しい方とも話せるだけで幸運ですので。それ以上は求めません。.....君達、すぐにそこから出た方がいいよ。この方がゆっくり休めないから。君達もいつまでもそこに立ち続けているわけにはいかないだろう」

 

 

私は堕姫に頭を下げて挨拶すると、堕姫は一応客が目の前にいるということでその対応をしてくる。私は堕姫に客として対応してくれることに少し安堵したが、気を抜かずに話しかける。堕姫はどうやら客である私と話す気がないらしいので、程良いタイミングで話を終わらせ、さりげなく善逸と女の子を部屋から出すことに成功した。

私という客が出てきたから

 

 

「随分と丁寧に接するのね」

「僕は全ての女性には手を上げず、優しく接するというのをモットーにしています。そのため、どんな人であろうとも女性なら紳士的に対応すると決めているのですよ。...貴女様とも、またお会いしたいと思っています。いえ、一目でも見ることができたらと願っていますよ」

「まあ、気が向いたらね」

「それでは」

 

 

堕姫に対して私は頭を下げながら正直に答えた。これは間違いではない。少なくとも『奏』である私の設定上ではこの対応が正しいのだ。奏は誰にも優しく、丁寧な対応をし、特に女の子には紳士的な態度で接している。

遊廓であるため、『仕事はきちんとしていて、あまり長居しない。仕事が空いた時間にここへ来て、花魁達と話すことで疲れを癒している。短い時間であちこちに行くが、頻繁に来てくれるし、お菓子なども』

 

どうやら私が女性だとバレてないようだ。

もし堕姫と遭遇してしまったらと考え、毎日香水をつけていたことが幸いした。ちなみに、この香水は私の手作りであり、何処かで目をつけられた時のことも考え、毎回違う香水をつけてきた。その結果、花魁などの女性達に大人気である。

 

 

「大丈夫かい?ここなら落ち着けると思う。怪我は....頬、か...。とりあえず手拭いで顔を拭いた方がいいな。その頬もすぐに冷やした方がいい。この氷で冷やそうな。金平糖はその後でゆっくり食べていいからな。量が多かったり、他の子達にも渡したかったりしたら配っていい。とりあえずこれで少しは時間ができると思うよ」

「あ...ありがとうございます....」

 

 

私は外に出た後、すぐに女の子が怪我をしていないかの確認をした。怪我は赤くなった頬くらいだと分かり、その手当てをしてくるようにと言い、氷の入った透明な袋を渡した。それと、金平糖も渡した。これで少しは元気になってほしいし、また堕姫に目をつけられる前に誰かが保護してほしいと思って渡してみると、女の子は金平糖をぎゅっと握り、何度も頭を下げながらお礼を言い、宿に戻っていた。私は手を振り、女の子が見えなくなるまで腕を下ろさなかった。

 

 

 

「善子。流石にあれは危険だよ」

「ごめん、分かってるよ。だけど.....」

「女の子が泣いているからであっても、さらに刺激してしまうのは駄目だ。善子も力の差は分かっているだろう。あの女性は善子を一瞬で吹き飛ばすことのできる。もしかしたら善子だけでなく、あの女の子も一緒に巻き込まれていたからしれないんだよ」

 

 

腕を下ろした後、私は振り返り、善逸に声をかけた。善子と呼ぶのは念のためである。いくら外にいるからと言っても、周りには普通の人達がいる。その人達が噂でも流し、その噂が鬼の耳にでも届いてしまったのなら、せっかく誤魔化した意味がない。なので、私も口調を奏の時のままにしている。

 

私の考えを知らないのか、善逸は私の言葉に少し不満そうだった。だから、私は指摘することにした。善逸の気持ちは分かるが、原作でやったあの行動は危険すぎる。原作では生き残れたが、下手したら善逸自身も近くにいたあの女の子も亡くなっていた可能性もある。

善逸は私の指摘を聞き、顔を青ざめた。女の子に危険が及ぶ可能性があったと知り、後悔しているようだ。

 

 

「.....ごめん」

「反省したならそれでいいよ。だけど、次からはあの女性に反論するとかではなく、あの女の子を部屋から連れ出すの方がいいと思うよ」

 

 

善逸の謝罪に私はそう伝えた。私はそれを見て、もう二度と同じことはしないだろうと思った。ただ、女の子を助けようとしたのは責めることではないと思うので、別の解決策を話しておいた。

あの様子だと、他の子にも同じことをしそうだからね。善逸はそれを無視するなんてできないと思うし。

あと、警戒をするようにも言った方がいいかな。

 

 

「それと、今回のことであの女性に目をつけられると思うから、気をつけた方がいい。僕は一応今回の件を話しに行っておくけど、それまでは気をつけていきなさい」

「.....助けてくださらないの」

「それまでは我慢しようか」

 

 

私の言葉に善逸は顔を真っ青に...いや、それを通り越して真っ白になっていた。だが、ここで善逸を逃がしたら大騒ぎになるので、心を鬼にして善逸に我慢するようにと言った。その瞬間、善逸が叫ぼうとしたので、その前に私は善逸の口を塞いだ。

 

 

 

 

宇髄さんに京極屋でのことを話すと、本当に鬼が京極屋にいるかどうか調べてくると言って去っていた。私はその背中を眺めながら次の行動に出た。

というか、京極屋の件がなかったらやるはずだったのだけどね。そのために、私はときと屋に向かった。そこで、七海と禰豆雄を呼び、京極屋での出来事を話し、その鬼が鯉夏花魁を狙う可能性があるから、護衛するようにと頼んだ。

 

 

情報を集める人間が増えたことで、多くの情報がすぐに手に入った。そのおかげで、いなくなった女性の共通点を見つけることができたのだ。

見た目の美しい女性であり、尚且つそういった女性は身請けされる前に行方不明になることが多いのだと知り、身請けが近い鯉夏花魁は狙われる可能性が高いと考え、二人に警護してもらうことになったのである。

 

 

運が良く、あの二人は双子の姉妹という設定の所為か、鯉夏花魁に凄く気にかけてもらっているし、あの二人は強いため、二人に任せれば安全だというのが宇髄さんの判断である。私も鯉夏花魁を護れるどころか倒せそうな気がするんだよね。宇髄さんがあの二人のやる気を出すためにと炭華の入った背負い箱をしばらく預けることになり、二人は凄く機嫌が良い。だけど、私は嫌な予感がしていた。勝てるとは思っているけど、なんだか別の問題が起きそうな気がしていた。

それでも私は別のことを頼まれていて、これから元の姿に戻らないといけないので、不安を感じたままときと屋を去った。

そう。不安に感じてはいたけど.....。

 

 

「やっぱり大当たり」

「お兄ちゃぁぁぁん!」

「オイ!なんだぁぁ、この化け物はぁ!」

「七海。あのカマキリをやれ」

「嫌よ。禰豆雄がやりなよ。アタシは禰豆雄があの鬼を斬るまでの間、ちょっとあの子とお話をしたいわ」

「うわあああぁぁぁぁん!」

「妹に手を出すなぁ!」

 

 

上弦の陸は堕姫と妓夫太郎の二人で一つの鬼であり、原作では堕姫の頸が斬られたことにより、妓夫太郎が堕姫の中から出てきたのだ。それで、目の前で妓夫太郎が泣き叫ぶ堕姫を背に庇いながら七海と禰豆雄と戦っていることを考えると、堕姫の頸は一度斬られたのは確かだろう。

ただ、一番気になるのは七海と禰豆雄がどうして暴走状態になっているのかということだ。

もうこれまでの件から分かると思うが、現在あの二人は完全に暴走している。妓夫太郎もあの二人を相手にするのは厳しいようで、余裕はなさそうだ。禰豆雄と七海は妓夫太郎というより、堕姫の方を狙っているようで、堕姫はそれに怯えて大泣きし、妓夫太郎はそんな堕姫を守ろうとしている。

 

 

私は男装から隊服に着替えた後、人質の解放や周りにいる人達の避難の方に行っていて、詳しい状況は知らない。だけど、堕姫が七海と禰豆雄に(炭華関連の)何かをしたというのは分かる。

具体的に何をしたのかというのは本当に分からないけど...知りたいような、知りたくないような......。

 

 

「あれ?敵って....どっち?」

 

 

私と同様にこの状況を見た宇髄さんはそう呟いた。宇髄さんの言葉に私は何も言えなかった。だって、事情を知らない人が見れば七海と禰豆雄が妓夫太郎と堕姫を襲っているようにしか見えないからね。

堕姫と妓夫太郎との戦いが予想されるからとすぐに避難させていたので、この状況を私達以外に誰も見ていなかったのは良かったと思った。

 

 

「おい。なんとかできないか、生野」

「......そのためにも詳細を知る必要があります」

 

 

宇髄さんが私に困って声をかけてくるため、私は動くことにした。こんな状態でも上弦の陸を追い詰めているので、どうしようかと思っていたが、建物への被害が凄いし、止めた方がいい。

 

 

「七海。禰豆雄。一度落ち着いて。そのまま戦っていていいから、一体何があったのかを説明して」

「....ああ、彩花。あの女の鬼が姉さんにあれと言って......ああ!今思い出しても...」

「分かったから。それだけ言えば十分だから、もう話さなくても大丈夫」

「いや、分かんねぇよ!俺にも分かるように話せ」

「おそらくあの女性の鬼が炭華に『醜い』とか『醜女』とかそういう風なことを言い、七海と禰豆雄がそのことに怒っているのだと思います」

「.....悪口も駄目なのかよ....」

「駄目ですね」

 

 

私が二人に事情を聞くと、禰豆雄が答えてくれた。

暴走したら止めるのは大変なんだけど、暴走したままでもいいから説明してほしいと頼むと、何故かそれだけは答えてくれるのだよね。邪魔はしないみたいだから、それでいいという感じなのかな。

ただその時のことを思い出してもらうために、話している最中にさらに暴走し出すことになる。なので、普段は一度落ち着かせてから話を聞いている。

 

 

今回は周りの被害が建物ぐらいで、相手が上弦の陸であるため、大丈夫かなと思った。だが、その建物の被害がますます酷くなっているため、これ以上は聞くのを止めた。大方の状況はなんとなく察したこともあるし、宇髄さんは分からないかもしれないので、そこは私が説明して納得してもらった。

 

宇髄さんに悪口を言っても暴走するのかと呟いていたので、私は肯定した。事実、あの二人は炭華に悪口を言えばその人を叩きのめしに行くからね。

よりにもよって、炭華にその言葉を使うかな!炭華を二人のそばにいてもらうのは止めておいた方が良かったかも......うん?

 

 

「そういえば炭華は何処にいるの?」

「炭華は鯉夏花魁を連れて避難しているわ」

「それは良かった。鯉夏花魁も炭華もここから離れているのね」

 

 

私は炭華の姿が見当たらないことに気づき、七海に聞いてみると、七海は刀で妓夫太郎の鎌と堕姫の帯を斬ったり弾いたりしながら教えてくれた。

やっぱり七海と禰豆雄が炭華をここから離したみたいだ。まあ、あの二人が炭華を危険な場所に置いておくわけないので、当然と言えば当然である。

 

 

「...よし。毒を喰らったなぁぁ!これで.....」

 

 

妓夫太郎の声を聞き、私は七海と禰豆雄を見た。七海と禰豆雄の腕に薄ら傷ができている。私と話していたことが原因ね。

妓夫太郎は七海と禰豆雄に傷をつけたことで安堵しているようだ。妓夫太郎の鎌には猛毒があるのだ。そのため、傷をつければ猛毒が体中に回るようになっている。

 

 

私は七海と禰豆雄と話したことで二人に傷ができてしまったことに罪悪感を覚えた。だが....。

 

 

「それで、これからどうするの?」

「七海、辛いなら休んでいなよ。まだまだやれるから」

「嫌よ。アタシがやるから、禰豆雄こそ休んでなさい」

 

 

七海と禰豆雄は妓夫太郎と堕姫を挑発したり、互いに喧嘩したりと元気そうな様子だった。毒を喰らっていないというような感じで、妓夫太郎は困惑しているようだ。堕姫も混乱していて、宇髄さんも詳細が分からないが、何かあったのだということは察したらしく、私に視線を向けてくる。

一方で、私は頭を抱え、大声で叫びたくて仕方がなかった。あの二人に何が起き、どうしてそれが起きたのかを知っているので。

 

 

「オメェら、毒を喰らったよなァ!なんでそんなピンピンしてるんだァ!」

「こんな毒、全然平気よ」

「そうだ。彩花の殺虫剤よりもマシだ」

「はあ?殺虫剤?」

「おい、生野?」

 

 

妓夫太郎があり得ないという顔で二人に聞くと、七海も禰豆雄も普通に答えてくるので、堕姫も妓夫太郎もさらに混乱していた。特に、殺虫剤よりもマシと言われたことには理解が追いつけず、唖然としているように見えた。

宇髄さんは私のことを心配しているように見えるが、目では説明を求めているのだと分かる。私は観念して話すことにした。

 

 

「三、四年前くらいに村の人達に頼まれた殺虫剤を作り、殺虫剤が完成した後は瓶に詰めていたのですけど、それを七海と禰豆雄が気になって舐めてしまったのですよね。

いや、これは私の所為でもあります。瓶に詰めていた殺虫剤はできたばかりの時は粘り気があり、水飴にも見えていたのですよ。

放置していくうちに常温で温められ、殺虫剤の粘り気は消えていくのですが、その前に七海と禰豆雄が水飴だと食べてしまったというわけなのです」

 

 

私は簡潔に七海と禰豆雄が言う殺虫剤の経緯を説明した。より詳しくその時のことを私達以外の人を加えて順番に説明すると.....。

 

 

まず、私が殺虫剤を完成させて瓶の中に入れ、粘り気が無くなるまでは放置していた。殺虫剤でも毒が使われているものなので、誰かが触らないように(特に竈門家の幼い子達が触らないように)箪笥の上に置いていた。

その後、私は食事の手伝いとして炭華と一緒に山菜を採りに出かけていた。その間に炭華や禰豆雄よりも年下の子達(竹雄、花子、茂)が箪笥の上に置いてある殺虫剤の入った瓶を見つけた。

しかも、運が悪いことに箪笥の上に光が差し出され、その光を浴びた瓶に入った液体(殺虫剤)が光り出したことで、その殺虫剤を欲しいと言い出したみたい。私も殺虫剤に興味を示されるのは予想外だった。後で聞いたところ、どうやら偶然が重なり、瓶の中が万華鏡のような感じになっていたらしく、とても綺麗だったそうだ。

 

 

危険物であったために、瓶に危険と書いた(振り仮名もつけていた)紙を貼っていたが、竹雄達がその瓶の中を見ようと動かした時に外れてしまったらしい。七海と禰豆雄が近くに来た時に竹雄達は瓶を取ってほしいと頼み、二人はこの瓶が何か分からず、渡す前に調べることにしたそうで、中に液体で入っていることに気づき、特に匂いもなく、粘り気はある液体を舐めてみたようだ。

 

 

私と炭華が帰って来たのがその直後で、帰って来たら凄い音が聞こえたと驚き、その音が聞こえる方に向かったら七海と禰豆雄が倒れていた。その上で、二人の近くに私の作った殺虫剤が落ちていたのだから、何が起きたのかはすぐに察することができた。対処が早くできたため、二人とも命に別状はなかったけど、何故か二人の体は前よりも丈夫になった。何でかは私も知らないし、むしろ教えてほしい。

 

 

ちなみに、この事件が起きてから、私は薬を常温で置く必要がある時にはみんなに声をかけるようになり、竹雄達も勝手に瓶に触らないようになった。

......懐かしい話ね。

 

 

 

と懐かしんでいる場合じゃないね。確かに、こういう経緯で七海と禰豆雄が何故か頑丈になったけど、ここまでとは思わなかった。妓夫太郎の毒を喰らっても平然としているなんて、どれほど丈夫になったのかと私も聞きたい。

 

 

「....つまり、俺はもう理解するのを諦めた方がいいってことか」

「それはご自身の判断にお任せしますよ。それより、早くこの戦いを終わらせた方がいいと思います」

「いや、アイツらだけで解決しそうだが...。.....まあ、その代わりに吉原遊廓が崩壊するがな」

 

 

こうして、私達も参戦することになった。妓夫太郎の相手を七海と禰豆雄と宇髄さんが、堕姫の相手を私と善逸と伊之助がすることになった。

このように分かれた理由は堕姫の相手を七海と禰豆雄がやれば別の意味で時間がかかるし、被害も拡大することになると思ったからだ。

...どういうことなのかは察してください....。

 

 

戦いは私達の勝利です。あれこれ起きていたが、戦いの内容は要約すると、七海達の方では妓夫太郎の鎌を使った猛攻を七海と禰豆雄とサポートする宇髄さんによって持っていた鎌を止めたり、腕ごと斬ったりとして動けない状況にしたそうだ。堕姫は泣きながら血鬼術を使ってくるので、こちらはとても申し訳ない気持ちになりながら刀を振り、そうして両方の頸が斬れた。

 

 

戦いが終わった後、七海と禰豆雄が堕姫と話し合いをしたいと言い、堕姫を探しに行ったので、私はそれを追いかけた。

あの二人は平気そうでも妓夫太郎の毒を喰らっているので、私は二人を休めようとしていたのに、何故か私も探索を手伝わされることになり、個別行動になってしまった。

 

 

私はため息を吐きながら七海と禰豆雄と妓夫太郎と堕姫を探していると、言い争う声が聞こえた。私はこの声を聞き、すぐに妓夫太郎と堕姫だと気づいた。

私は七海と禰豆雄を探すか、ここで二人の鬼の様子を見るかで悩んだが、ここにいた方が七海と禰豆雄にも会えそうだからと思い、二人の様子を見ようと近づいた時、女性の声が私の耳に入った。

 

 

「アンタみたいに醜い奴がアタシの兄妹なわけないわ!!」

 

 

この堕姫の言葉を聞き、もうそこまで進んでいるのかと驚くと同時に、急いで止めないとと思い、覗くつもりでゆっくり近づくのを止めて走り出した。

 

 

「お前さえいなけりゃ俺の人生はもっと違ってた。お前なんか「そこまで」」

 

 

私は声を上げ、強制的に妓夫太郎の言葉を遮った。私はそのことに安堵し、乱れ出していた心臓を落ち着かす。

展開が早くて、本当にぎりぎりだった。

 

 

「本当はそんなことを思っていないって分かるよ。貴方達はお互いのことを大切に思っている。そうじゃないと、背に庇いながら守ろうとしないし、泣きながらも戦おうとしないよ。敵である私が言うのもおかしいけど、貴方達は凄いよ」

 

 

私は正直に思ったことを伝えた。戦っている最中、私は妓夫太郎と堕姫が七海と禰豆雄に怯えながらも必死に戦っている姿を見て、本当にお互いを大切に思っているのだなと感じた。逃げずに立ち向かうのは自分が逃げれば相手がそちらに行くのを分かっているからだ。

 

 

妓夫太郎はここで七海と禰豆雄を止めないと堕姫が危ないと知っていたし、堕姫も自分のために七海と禰豆雄と戦っているのだと分かっているから、これ以上兄さん負担にならないように泣きながらも私達と戦っていた。

時々妓夫太郎に助けを求めていたけど、それでも妓夫太郎が危ない時は血鬼術の帯で助けようとしていたし。

 

 

死にたくないし、認めたくないと思って出した二人の言葉は本音なんかじゃない。それは(原作の知識と前の時のことも踏まえているが)この戦いの時しか知らない私にも分かった。

それなら二人も分かるのではないかとも思うが、一度出してしまった言葉は取り消せない。そのことで仲直りしないと、いつまでも付き纏うことになる。だから、ここで仲直りしてほしい。

 

 

「あっ!彩花、ここにいた!」

「禰豆雄。七海。ちょっと待って」

「見て!炭華がアタシ達の怪我を治してくれたのよ!」

「.....良かった...」

「でしょう」

 

 

私がそう考えていた時、禰豆雄の声が聞こえ、堕姫達がここにいるのだとバレると思って二人を止めようとしたが、七海の上機嫌な様子を見て転びそうになった。

七海の言葉と禰豆雄が嬉しそうに炭華の手を引いているのを見て、炭華が七海と禰豆雄の毒を治してくれたことで、堕姫への怒りが完全に収まったようだ。私はそれに安堵したが、少し呆れてしまった。

まあ、それがあの二人らしいのだけどね。

 

 

その後は七海と禰豆雄による炭華の自慢話が始まった。私はいつものことだったので、相槌を打ちながらも話を聞きながら妓夫太郎と堕姫の様子を見ていた。

消滅しようとしている時に騒がしくしてしまい、それを申し訳なく思っていたが、ここで予想外のことが起きてしまった。それは堕姫が参戦してしまい、禰豆雄との兄姉自慢大会が始まってしまったのだ。

 

 

「お兄ちゃんはすっごく強くて、優しいんだから!昔からアタシのことを可愛がってくれて、食べ物も渡してくれるんだもん!アタシが困ってる時だって必ず駆けつけてくれるのよ!」

「姉さんはな! 滅茶苦茶綺麗だし、どんな表情をしても可愛くて天使だし、知らない人にも優しいし、料理も上手い!」

「そうよそうよ!村の男達はみんな炭華を見て、顔を真っ赤にしているのよ!既に婚約していたり、結婚したりしている人も炭華にデレデレしているわ!」

「あんな奴らの言葉より、お兄ちゃんがいっぱい褒めてくれるのよ!お兄ちゃんの方が勝ってるもん!」

「凄く思われているね」

「........」

 

 

堕姫と禰豆雄がそれぞれの兄と姉の良いところを言い合い、七海は炭華側につき、禰豆雄の言葉に同意する。私達は遠くから言い争う堕姫と禰豆雄達を見て、妓夫太郎に声をかける。妓夫太郎は堕姫に褒められ、顔を真っ赤にして照れている。

この様子だと、仲直りできたということになるね。

 

ちなみに、炭華は隣で微笑みながら禰豆雄達を見ている。私もみんなの様子を微笑ましく思っていた。

それは良かったのだが.....。

 

 

「彩花!姉さんの方がいいよな!」

「アンタ、お兄ちゃんをさっき褒めてたよね!お兄ちゃんの方が凄いでしょ!」

「いや、彩花は炭華の方を支持するわ!」

 

 

お願いだから、私を巻き込まないでほしい....。

 

 

 

その後も完全に消滅するまで三人の言い合いは終わることがなかった。七海と禰豆雄は言い足りない様子だったが、私は絡まれ出して困っていたので、不満そうな二人を見ながら安堵した。

 

 

 

 

 

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