七海と禰豆雄の訓練も悲鳴嶼さんの相談も終わり、次の義勇さんの稽古へと移った。今回も前の時のように義勇さんの柱ではない発言がないため、あの四日間もない。しかも、柱稽古に遅れたのが一日だけであるため、時間にはかなり余裕がある。
だが、それで油断する気はない。残りの上弦の鬼の中で上弦の参の猗窩座がいなくなり、他の方に戦力を集中できるようになったとはいえ、何が起こるかは分からない。
特に、なんだか私はまた黒死牟と戦うことになりそうな気がするのだよね。.....まあ、ただの勘なんだけどね。
でも、黒死牟と戦う可能性は全員があるため、鍛練を重ねておいた方がいいと思うし、黒死牟の方は私を見つけたら再戦を申し込むかもしれない。あと、黒死牟が興味を持つとしたら子孫である時透君だろうけど....あまり時透君を巻き込みたくないかな。原作のこともあって、遭遇する可能性が私以上に高いけど...。
私はそんなことを考えながら義勇さんのところで鍛練をしている。義勇さんのことは七海も禰豆雄も敵意なんてないし、むしろ恩を感じているくらいなので、二人とも他の柱稽古と比べて落ち着いている。そのため、私は自分の鍛練に集中することができた。たまに炭華に会えないストレスで暴走しかけたり、不死川さんが稽古で義勇さんの屋敷に訪れ、そこで七海と禰豆雄が怒りを再発したりした時ぐらいしかないので、久しぶりに自分の時間を過ごせる。義勇さんが手伝ってくれるから、鍛練も凄く忠実している。
義勇さん、狭霧山に行ってから前を向くようになっていて、柱稽古も協力的なうえに私達の鍛練でも積極的に相手をしてくれる。私には非常にありがたいことである。
それと、私が義勇さんのところで鍛練している最中に原作で上弦の肆だった鳴女がここでは上弦の参となっているのだということが判明したのだ。
義勇さんのところで修行を始めてから良い方向に進んでいるなとか思うと、その事実は非常に嬉しいことであるが、どうやってその情報を得たのかというと...ね.....。
七海と禰豆雄がこの状況とはいえ、炭華に会えないことを不満そうにしていた。日にちが経つ事によってストレスが溜まっていき、かなりイライラしているので、私は夜中に思いっきり動いてきたらどうかと提案したのだ。ストレスを溜めるのは体に良くないことだし、この状態の七海と禰豆雄が不死川さんに会うと不死川さんの身が危ないので、私はなんとかしようと思った。一番効果があるのは炭華と会わせることであるが、今の状況で私達がそこに会いに行って、炭華の居場所がバレてしまう可能性があるので、それはできないことだ。
なので、他の方法でストレスを解消させることにした。ストレスの解消となると、一般的に思いつくのは読書をしたり、音楽を聴いたり、睡眠をとったりすることだろう。その中で七海と禰豆雄に合うとするなら運動することだと思った。だが、ただの運動だとすぐに飽きられてしまう。それに、効果もそれほどないだろうと私は考えた。
何故なら既に昼間で七海と禰豆雄は鍛練で体を動かしているからである。
今までも一応効果はあったのだ。七海と禰豆雄が刀や斧を振る度にだんだん威力が増してきているしが、逆に怒りの方も落ち着いてはきているのだ。たとえ僅かであっても、下がる分に効果があることは間違いない。
そのため、私は体を動かすにしても怒りを鎮火させるくらいに思いっきり暴れようが、平気な場所で喧嘩でも何でもやってほしいと思い、七海と禰豆雄を別の山へ連れて行った。七海と禰豆雄も暴れ足りないところがあったらしく、かなりノリノリだった。義勇さんも自分の稽古や不死川さんが来た時に暴走されるのは(例え毎年鎮火できたとしても)困るし、ある意味で稽古になるだろうということで許可が出た。二人が暴れる場所は私がちゃんと調べて誰も被害が来ないかどうかも確認したから、御館様からの許可ももらえた。
それで、七海と禰豆雄が一日好き勝手にさせた日は夕暮れになっても帰って来ないので、私が二人を迎えに行った。二人とも広い場所であれこれできると思って喜んでいるのだろうなと思いながら二人のところへ来たら、七海と禰豆雄が鳴女の目の使い魔を捕まえていた。私は驚きながらもその目に近づいて観察した。
その目が何かは分かっている。原作では柱稽古の時に鳴女が無惨の指示で鬼殺隊士達の動向の調査と禰豆子の居場所を捜索するため、その目の使い魔を放ち、探知探索の血鬼術を使っていた。その最中に七海と禰豆雄に捕まったのだろう。七海も禰豆雄も鬼殺隊士であるので、何故かこの二人だけ別行動をしたら調査するはずだ。
暴れている間に七海と禰豆雄が見つけてしまったのだろう。具体的に何をしていたのかは分からないが、ストレス発散のために山の中を動き回っていたら発見されたんだと思う。七海と禰豆雄に捕まった目の使い魔達は必死に逃れようとしている。だが、私はそれ以上に気になることがあった。...七海と禰豆雄が予想外なことをするのは慣れてしまったために。
私が七海に頼んで目の使い魔を見せてもらい、その使い魔の目に描かれていたのが参という文字だったということを知った。私はそのことで動揺したが、すぐに冷静になって考えてみれば分かることだった。
無限列車の時に上弦の参を倒したのに、その後の遊廓の戦いで私は妓夫太郎と堕姫の目が上弦の陸のままだった。刀鍛冶の里の時もそうであり、半天狗は上弦の肆のままだった。上弦の伍は確認していないが、おそらく上弦の伍もそのままの状態なのだろうと思う。だが、違和感はあったはずだ。変化を嫌う無惨が欠けたものをそのままにしておくとは思えないのだ。
でも、それがどうしてなのかはここで確定した。鳴女は原作で上弦の肆になっていた。鳴女はかなり古株のようであるうえに、その珍しい血鬼術であるため、鳴女が上弦の参になっても特に疑問はなかった。
ただ、鳴女はそのような人間らしいところがあるのだなと思ったと同時に、ここで予想外な出来事は起き始めるのは困るとも思った。
今までに危ないことが何回か起きていたが、今回は最終決戦であるために前と違う結果にならないようにしないといけない。
何せ、あの最終決戦は人間も鬼も多くいて、特に鬼殺隊の方は誰か一人でも欠けてしまえば大変なことになる。最悪だと鬼舞辻無惨に負ける可能性がある。
それに、原作と違って猗窩座が既にいない状態であり、獪岳も鬼になっていない。その穴を埋めるような形で無限列車の後に鳴女が上弦の参になった。それなら、獪岳が埋まるはずだった上弦の陸も誰かが加わる可能性がある。
あと、不安要素がある。鳴女は上弦の参となったため、刀鍛冶の里の後に上弦の肆になることはない。その時が繰り上がったというなら問題ないのだが、上弦の肆が代わりに別の鬼が入る可能性だってあるのだ。上弦の陸に新たな鬼が入る可能性があるのに、さらにまた新たな鬼が加わると、本当に何が起きるか分からない。猗窩座達よりも弱いと思うのだが、原作にいない存在だと何をしてくるか分からないからね。.....原作にいない上弦の伍がいる可能性もありそうだ。いや、もうこれ以上悪い方へ考えるのは止めておこう。今回の件でこれを知ることができたのは大きいし、そういった可能性に気づけたのも良いと思っている。だが、悪い方だけを見ると気が滅入ってしまうので、程々にしておこう。
新たに上弦の鬼(それも私達が知らない)が増えてしまうのをどうにかしたいと思っているのだが、私に鬼の動きを止めることなんてできない。既に終わった後だと思うし、そもそもこの時期は鬼が全員無限城に集まっている。その無限城は鳴女でないと出入りできないので、最終決戦ではないと会うのは難しいよね。これは私の手に負えないよ。
私はそういうことを考えながら七海と視線を合わせた。七海も鳴女が上弦の参になっていることと原作と違って別の鬼が入る可能性に気づいたようだ。原作を知らず、ここにはいない上弦の参を探している禰豆雄は分からないが、私と七海は鳴女がいるのは無限城だと知っているので、落ち着いて説明したり会話したりしていた。
それと、七海が言うにはこの目の使い魔は複数いたらしいが、その使い魔達はどうやら気づいた禰豆雄が目の使い魔を一人掴み、それを日の光のある場所へ出したことで焼けてしまったそうだ。
それにより、禰豆雄も鬼だと確信したようで、禰豆雄はその目の使い魔を全部捕まえて尋問しようとして、それを察知した使い魔達が禰豆雄に入れないような場所へ逃げたみたいで、禰豆雄がそれを破壊しながら追いかけ、私の見せてもらっている一人が捕まえられたものだそうだ。それ以外は禰豆雄が破壊しながら追いかけたために、影が無くなって日光を浴び、燃えてしまったらしい。
その一方で、七海は禰豆雄のように追いかけず、その様子を見ていた。七海は原作の展開で色々察したようなので、特に追いかける必要はなかったそうだ。
でも、私は暴走しないようにしてほしかったよ...。....えっ?止め方が分からなかったからできなかったって.....。...それを私は毎回止めているのですよ!
まあそんな風に色々あったけど、とりあえず使い魔には口がないから何も聞けないからと言って、日の下に出して燃やし(そのまま逃がしたら鬼殺隊の動きを探るので)、黙祷した後に遠藤を呼んで報告した。
新たな鬼が上弦の参となっていることも、欠けた他の上弦も別の鬼が加わっている可能性も、鬼が鬼殺隊の動きを探っていることも現状で分かることを全て話した。
その後、私達は警戒しながらも鍛練を続けていた。そして、御館様のいる屋敷を襲撃したという報告が来た。だが、それは前の時よりも早過ぎた。私はその報告を聞いた時には本当に驚いた。前の時を基準に何が起こるのかを予測していたので、それより一週間も早い時期に起きてしまい、頭の中が真っ白になった。
だが、立ち止まるわけにはいかないので、私はなんとか走り出し、義勇さんを追いかけた。場所を知っているのは義勇さんだけなので、その方法でしか御館様のところに着かない。
御館様が何処にいるのかは特定できていなかった。この柱稽古の最中に隙ができたら少しずつ絞っていたのだが、完全に特定することは難しく、苦戦していた。しかし、まだ少し時間があると思い、焦らず慎重にと言い聞かせながら進めていた。だが、まさかこんなことになるなんて......。
私は義勇さんの後を追いかけながら見上げると、御館様の屋敷らしい建物が見えた。私は普通の道では間に合うのが難しいと思い、近くにある木に飛び乗りながらあそこまで行こうかと考えていると、目の前で爆発が起きた。
私はそれを直視した眩しさで目を閉じた。それにより、目の前が真っ暗になり、冷静に考えることができた。
原作で御館様は鬼舞辻無惨を巻き込んで自爆した。自爆の目的は二つ。一つは人間に戻す薬を鬼舞辻無惨に打つ隙を作るためで、もう一つは自分が亡くなることで鬼舞辻無惨に強い殺意を向けさせ、士気を上げるためだ。鬼舞辻無惨の隙を作るのは原作と同じ行動をすれば騙せるだろう。
ただ、もう一つの目的を達成するためには柱が誰も屋敷に着かず、爆発にも巻き込まれないようにするという条件がある。でも、想像以上にここへ早く着いてしまう可能性だってある。自分を心酔しているという自覚のある御館様がそれに気づかないわけがない。思いの強さを知っている御館様なら、それを予感してもおかしくない。
例え離れていても、こんなに派手な爆発が起きれば場所を知っている柱にはここが襲撃されたのだと一瞬で理解する。それなら、柱を爆発前にここへ辿り着かないようにすればいいだけだ。
それなら伝令の時間を遅らせて、確実に間に合わないようにする方がいい。
どうやら私はかなり焦っていたようだ。既に事が終わってからこのことに気づくなんてね。でも、それなら私のやるべきことはもう決まっている。これを予想できなかったのは私のミスであり、後悔しても御館様は生き返らない。そうなると、やることは御館様が命を賭けてまで行ったこの作戦を成功させることだろう。
私は頭の中が整理できたため、目を開けた。爆発により、屋敷の周りの木に炎が燃え移っている。目の前は真っ赤で、熱がこちらまで感じられ、パキパキという音が耳に残るし、原作で炭治郎の言っていた肉の焦げるような臭いというのも感じた気がした。私はそれでも足を動かし、前に進んだ。義勇さん達も御館様の屋敷に向かっている。
着いた時には鬼舞辻無惨が拘束され、珠世さんの薬を持った手を吸収していた。
私はそれを見た瞬間、珠世さんと吸収されている腕を斬り離し、珠世さんに謝罪をしながら離れた場所まで連れて行く。ちょうど悲鳴嶼さんによって無惨の頭が無くなっているため、特に邪魔されることはなかった。
色々申し訳ないことをしたと思うけど、今の私はまだ少し動揺が残っているし、これ以上犠牲者を出したくないので、そちらを最優先にしている。前の時に私は御館様の屋敷に行っていないことがこの動揺に繋がっているだろう。
私が珠世さんを安全な場所で離した後、無惨のところにもう一度向かった。その時、足元に障子が現れた。私は咄嗟にそこから離れようとしたが、落ちた方が都合が良かったので、そのまま落ちることにした。あと、ちゃんと着地の準備までしてね。
無限城に着き、私は向かってくる鬼達の頸を斬っていた。柱や七海達と離れていたために、私は一人で行動することになった。そんな私を好機だと思ったのかたくさんの鬼が襲ってきて、私はその度にその鬼の頸を全て斬っては黙祷を捧げ、終わった後に一歩進めばまた大量の鬼が襲ってきて、同じことを繰り返すというような感じである。流石にこれは多すぎると思う。
仲間か上弦の鬼に会えないかな。上弦の鬼とは確実に戦いになるだろうけど、それでも上弦以下の鬼は近づかないと思う。まあ、一番会いたいのは仲間の方。特に七海と禰豆雄がどうしているのかが気になる。柱を含めた周りの全員がどう分かれているのかははっきり見えていないので、分からないんだよね。
七海と禰豆雄が一緒ならそのうちに閉じ込められたイライラで、襖とかを吹き飛ばしそうだけど.....。....いや、その方がかえって目立つから良いかもしれない。上手くいけば全員と合流できそう。
私がそんなことを考えながらも向かってくる鬼の頸を斬っていると、ある豪華そうな扉の前まで来た。私はその扉に見覚えがあった。原作で見た上弦の弐の童磨のいる部屋にある扉である。私は周りの気配を探ってみて、この辺りには鬼がいないと直観的に思った。その後で部屋の中の気配を伺ってみると、二つの気配を感じた。一つは強力な鬼のもので、もう一つは見知った人のものである。
私はそれですぐに原作の場面を思い出し、その扉を開けた。
「わあ〜。女の子が増えた」
「彩花さん!?」
すると、ちょうど戦闘中であった童磨としのぶさんがこちらを見た。やっぱりしのぶさんと童磨の因縁の対決の最中だった。しのぶさんの邪魔をするのは申し訳ないと思うけど、もう既に扉を開けてしまったわけだから、部屋に入らないのはおかしいよね。それに、このままだとしのぶさんが亡くなってしまうので、それを知っていて放置したくない。
死ぬ覚悟をしているしのぶさんの作戦の邪魔をするのは悪いと思うけど、これは仕方がないよね。あと、個人的な我儘で私はしのぶさんに亡くなってほしいと思っていない。
「しのぶさん。大丈夫ですか。加勢しますか」
「大丈夫...です。が、加勢はありがたいです」
私はしのぶさんに大丈夫かどうかの確認をした。この確認はしのぶさんの状態を知るためなのと原作のどの展開まで進んでいるのかを知るためでもある。見る限り、しのぶさんに目立った外傷はない。だが、呼吸しづらそうにしているところを見ると、童磨の血鬼術をかなり吸ってしまっているようだ。
上弦の弐の童磨の血鬼術は氷であり、その中には粉凍りという自身の血を凍らせて微細な霧を発生させ、これを吸った者は肺胞が凍りついて壊死するものがある。これは呼吸を扱う剣士にとって、天敵のような能力である。
なので、私は童磨を警戒しながら一定の距離を保っている。その血鬼術を吸わないようにするためであるが、遠くに行き過ぎると童磨の頸を斬ることができないので、程々の距離にしている。童磨の血鬼術は遠距離にも特化しているので、
「ねえ、君。なんで扉を開けているの?何か細工をしたみたいで、少し開いているんだけど」
「そうですね。この空間は妙に嫌な予感しか感じなかったので、助けが来れるようにしておいているだけですよ。それど、私達がここへ閉じ込められるなんてこともありそうですからね。私達全員をここへ連れて来ることができるのならそれも警戒しない方がおかしいですよね」
童磨は気づいたようで私にそのことを聞いてきた。流石に鬼だから、人間よりも視力などの五感が鋭いみたいだね。カナヲ達には劣るけど。
私も童磨がこのことに気づくと思っていたので、特に動揺せずに話している。
それに、私がやった細工って、現代でいうドアストッパーをつけただけだからね。木材で作った葉っぱ型の。
なので、それを指摘されても大したことではない。まあ、それが一種の命綱であることは間違いない。童磨の粉凍りが部屋に充満してしまえば私達に逃げ道は無くなる。だから、そうならないように換気が必要である。空気の流れができればそこから粉凍りという汚れた空気が外に出て、部屋の中には新しい綺麗な空気が入ってくる。そうすれば私達が肺を壊死させる可能性は少しでも低くなるはずだ。
私はそのようなことを考えながらも嘘を交えた本当のことを話した。だって、私が言った可能性も強ちあり得そうなことだからね。
私がそのようなことを思っていると、童磨が扇を振り、その場に氷の人形が出現した。私はすぐに刀を抜き、その人形が攻撃してくるよりも先に間合いに入り、刀を縦に振った。相手が氷なので、私は炎の呼吸を使ったし、横だとまだ何か血鬼術を放ってきそうであるため、縦に真っ二つにした方が安全だと思ったのだ。
効果があったのかは分からないが、童磨の血鬼術をどうにかすることはできた。
「なかなか速いね。それに、全然動揺しないけど、君もその子のように俺のことを知ってるのかい?それなら、俺もモテモテだね」
「そういうわけではないですよ。よく見てみたら、貴方の周りに雪みたいなものがあったわけですので、氷系なのではないかとは思いましたけど」
「へぇー。目が良いんだね。俺と同じほどではないだろうけど」
その様子を見た童磨の言葉に私は苦笑いで答えた。この言葉は嘘であるため、笑って誤魔化すしかないのである。私は原作と前の時の襲撃で大体の攻撃について知っている。ただ、童磨の周りに粉凍りが漂っているのが見えたのは間違いではない。
だから、一応誤魔化せていると思うのだけど......。
「ねえ、君。見覚えがあるけど、俺と何処かで会った?」
「いえ、貴方とは会っていませんよ」
「うーん。そうか....猗窩座殿と戦ったのは君か。いやー、猗窩座殿がこんな女の子にやられるなんて。俺、猗窩座殿と仲が良かったから悲しいよ。でも、猗窩座殿もおかしいんだよね。何故か知らないけど、女の子を食べないんだから」
「それでは貴方よりまともな方だったのでしょうか」
童磨が私のことをじろじろ見ているので、それが何かと思っていたが、どうやら猗窩座との戦いで見た私のことを思い出していたようだ。
と言っても、あれは七海と禰豆雄で弱らせた状態に私が透き通る世界を使って頸を斬ったという感じなので、大体は七海と禰豆雄の手柄だと思えるのだけど。
見覚えがあると聞いた時、私は少しドキリとした。今回は会っていないが、前の時は会っていたからね。前の時に鬼がその前回の記憶を持っていないのは知っているが、見覚えがあると言われて動揺しないわけがない。とりあえず何事もないように振る舞ってみたが、どうやら気づかれていないようだ。
だが、猗窩座の頸を斬ったということで、私の情報が一つバレた。私が猗窩座の破壊殺・羅針に反応させずに攻撃できることが分かったので、童磨が氷の人形を増やし、守りを堅めている。私はどう対処すべきかと考えていて、童磨が猗窩座のことで色々言っていたことを無視していた。だが、しのぶさんはそれに反応して煽ろうとしていた。
猗窩座の話に思うところは私にもあったが、今はこの戦いを終わらせることが最優先であるため、気にしてないふりをすることにした。
まあ、しのぶさんの場合はただ童磨を煽りたいだけなので、猗窩座に関しては特に思い入れがあるわけではないのだろうけど。
私はそれに気づいて、しのぶさんにそれ以上は言わないようにしてほしいと思ったが、相手が因縁の童磨だから止まらない可能性が高いと考え、なんとか話題を変えようと口を開けた。
その時、凄く嫌な予感がした。私がその予感が何処から来るのかと思い、周りを警戒した。凄く知っている人達の気配を感じ、私は後ろに一歩下がった。その瞬間、横から物凄い音が聞こえてきた。その上、何故か襖が飛んできて、童磨の氷の人形に突き刺さった。
私はその光景を見て、ため息を吐いてしまった。なんだか安心感があるのだけど、派手にやり過ぎだと思う。私は頭を抱えたくなったが、それをやったであろう人達の様子を見た。まず最初に目を引いたのは大きな穴の空いた壁であった。その穴から歩いて部屋に入ってきたのは見覚えあり過ぎる二人、七海と禰豆雄だった。
「うーん。こっちからあのワカメの濃い臭いが感じたから来たが、上弦の鬼だったんだね。なら、あのワカメが何処にいるのか知っているのか?」
「それと、彩花の気配もしたと思ったのだけど......。....ああ、やっぱり彩花もここにいたんだ」
禰豆雄は血走った目で辺りを見渡しながらそう呟いていた。あの様子からして、七海と禰豆雄が無惨を探して大暴れしているのは間違いない。ただ、七海が私のことも探している様子なのは嬉しい。
私に気づき、七海が私に話しかけてくる。
.....この様子だと七海は冷静なのかと思われるが、私が見つける前までは七海も黒い何かを背負っていた。
「七海。禰豆雄。二人とも無事みたいだね。ところで、その様子からして無惨を探しているのかな?」
「そうよ。せっかく、鬼舞辻無惨が目の前にまでいたのに、何もすることができないままここに連れて来られたのだから、アタシ達は凄くイライラしてるの」
「早くあのワカメをこの世から消し去る必要があるんだ。それで、ワカメを探してたんだけど....外れだったか...」
「仕方がないから、代わりに殴りましょう」
「えっ?」
私は七海と禰豆雄に話しかけてみると、予想通りの反応であった。
七海と禰豆雄が炭華を狙っている件で無惨への殺意を限界まで上げられているからね。その上で何もしていないとなると、さらに高まる結果になるよね。
私に話している間にも七海と禰豆雄はますます苛立っているようで、ついに近くにいた童磨に八つ当たりをすることになった。その言葉を聞いた時、誰か声を上げたが、それは誰かも分からない。把握する前に童磨が吹っ飛んだ。七海と禰豆雄の手によって。
七海と禰豆雄が吹き飛ばした童磨の後を追っていったが、私はそれを追いかけようか悩んだ。なんだか七海と禰豆雄に任せておけば解決しそうな気がしてきたからだ。
それと、こちらに来る二人の気配があるため、それを待つという意味でもある。
「ムッ。胡蝶と彩花か」
「義勇さんと煉獄さん....。もしかして、この場所に来た時に七海と禰豆雄と一緒にいたのって、義勇さんと煉獄さんだったのですか」
「うむ!俺達四人は同じ障子に落ちたから、四人で行動していた。だが、破壊神たちが鬼だけでは飽き足らず、襖や障子を鬼諸共斬ったり、吹き飛ばしたりしてしまってな!俺達の話も聞かなくなって、どうしようもなくなってしまったのだ」
「俺達だともう止まらない。ここまで来てしまった」
「......それはつまり、義勇さんの話も煉獄さんの話も聞かずに障子や襖を壊して勝手に進んで行くので、義勇さんと煉獄さんの手ではもう止まらない事態になっている。義勇さんと煉獄さんは二人を追いかけるのに手いっぱいで、二人の暴走を止められずにここまで来てしまったと。そういうことを伝えたいのですか」
「ああ....」
「冨岡さん。もっと言葉を増やしてください。彩花さんの苦労が増えるだけなので」
私は七海と禰豆雄のことを気にしながらもその人達が待っていると、義勇さんと煉獄さんが七海と禰豆雄が空けた穴から入って来た。私は七海と禰豆雄と一緒に行動していたのではないかと思い、そのことを聞いてみたら予想通りの言葉が返ってきた。
義勇さんも説明してくれているので、私は状況と煉獄さんの説明から言葉を当てはめて、それを私なりに解釈して聞いてみると、義勇さんは頷いた。私が当たっていたことに安堵していると、隣からしのぶさんが義勇さんにそう言っていた。
どうやらしのぶさんもいつもの調子が戻ってきたようだ。それが仇の童磨が吹き飛んだ所為なのか、義勇さんの言葉の足りなさに呆れているからなのかは分からないが、これはこれで良かったと思っている。
ただそうしている間にも何か壊れたり、吹き飛んで何かに当たったりというような音が聞こえてきて、私はそろそろ止めようと思い、追いかけた。
だが.........。
「あっ」
「貴様は....」
「あれ、彩花。そういえばさっき祟り神が通ったけど、追いかけているの?」
「そうなんだよね。だから、私はそちらを追いかけたいのだけど......」
七海と禰豆雄を追いかけていると、ある部屋の中で上弦の壱の黒死牟と時透君が対峙していた。私の姿を見て、時透君はすぐに七海と禰豆雄を追いかけてだと察し、二人の行ったであろうその方向を指差していたが、黒死牟の方は刀を抜き、完全に戦闘態勢に入っている。
「...時透君。どうやらあちらは私を逃がしてくれないみたいだから、七海と禰豆雄のことを見てくれないかな。しのぶさん達もこちらに向かっているから、おそらくなんとかなると思う」
「えー。でも、そうだね。すっかり僕よりも彩花と戦いたいみたいだね。......仕方がないから、あの祟り神のことは任せて。たぶん無理だと思うから、早く戻ってきてね」
私はあの二人を追いかける方を優先したかったが、そうするわけにはいかないようだと察した。そして、時透君に七海と禰豆雄のことを任せた。時透君はあまり乗り気ではなかったが、黒死牟が時透君よりも私と戦う気であることに気づき、ため息を吐きながら了承してくれた。ただし、無理だということをはっきり言っていて、私はこれに苦笑いを浮かべた。
時透君は七海と禰豆雄の方へ行こうとしたが、何か言い忘れがあったようで顔をこちらに向けた。
「それと、そいつはどうやら僕の先祖だって言っているけど、ボコボコにしていいよ」
「あー、うん。分かったよ」
「あっ。玄弥。彩花が戦っている間に祟り神の様子を見ないといけないから、玄弥も手伝って」
「えっ?えっ!?」
時透君は良い笑顔で言うので、私は反応に困りながらも頷いた。それを見ると、時透君は七海と禰豆雄が空けたであろう穴を通る前に玄弥を見つけ、玄弥を連れて追いかけた。玄弥は困惑した状態で連れて行かれた。
そうしていると、しのぶさん達もこの部屋に来た。それで、黒死牟に気づくと刀を向けたが、私が激しく何かが壊れる音が聞こえてくる穴を指差すと、躊躇しながらその穴を通って七海と禰豆雄を追いかけた。その時にカナヲと伊之助の姿もあることに気づき、私はいつの間に合流したのかと思ったが、それは指摘せずに無言でその背中を見つめた。
時透君達と一緒に戦った方が勝率の高くなるのは分かっているが、黒死牟はどうやら私と一対一で戦いたいみたいだ。他の人と一緒に邪魔だというようにめちゃくちゃな攻撃をしてきそうなため、私が一人で戦った方がいい。
日の呼吸、いや弟の継国縁壱のことに関しては子孫以上に強い執着があるみたいだからね。なので、真剣に戦いたいという気持ちが強い。やはり初手で日の呼吸を使ったのは間違いだった。というより、耳飾りを髪飾りにつけた時点でだね。
黒死牟を相手に勝てるかどうかは分からないけど、ここで因縁を断たないと。
そして、
「あー!上弦の弐の頸が斬れてる!」
「うむ!胡蝶が良い笑顔で拳を握ってるな!」
なんだかあちらも早く収拾をつけないといけない状況みたい。
急ごう。