来週から大型連休ということで、今回は長めにしました。
楽しんで読んでいただけるとありがたいです。
最終選別を終え、私と七海は狭霧山で修行していた。私は力をつけるため、七海は血鬼術を完全に修得するためである。ずっと寝ていた後なので、体力を元に戻すという意味もあるけどね。
それと、七海は自分の体質がどう変化したのかを試す意味もある。二年も眠ったのは体質を変えるためであろうが、その変化がどういうものなのかは分からないのだ。何せ、七海は一応人を食べなくても良かったし、眠ることもなかった。それなのに、急に眠ったのは絶対に何かあるということだ。それで、七海はすぐに確かめたいとなり、私はそれに付き合っている。
七海は夜しか動けないので、昼間は血鬼術の操作の練習をして、夜は私と実戦形式での勝負だ。私も七海も互いにとってメリットのある稽古になるので、異論はない。
そういう日々を過ごし、私と炭治郎の日輪刀が届いた。私は前と全く変わらない色だったが、原作のように鋼鐡塚さんは炭治郎の刀が赤色に変わることを期待し、それが裏切られたことでとても不機嫌になり、その流れ弾が私にも飛んできて大変だったが、それは置いておこう。
まあ、三回あったうちに今回は一番鋼鐡塚さんが暴れたが、あまり疲れていなかったので、任務が来てすぐに着替え、任務へと向かった。任務へ向かう前に鱗滝さんから背負い箱と箱型の腰袋をもらった。
背負い箱は七海を入れるためのものであり、箱型の腰袋は薬やそれを作るための道具を入れるためのものだ。どちらも軽いようになっていて、特にこの箱型の腰袋は動きやすくするためにかなり小さい大きさで、収納できる場所がいくつも付いている。ただし、入れ方を間違えてしまえば全て入らないため、そこは気をつけないといけない。
七海を背負い、腰袋を外れないようにしっかり固定し、私と七海は任務へと向かった。ちなみに、炭治郎と禰豆子は別の場所で任務となっている。
私と七海の任務先はあの沼の鬼がいるところであり、知っている場所でもあるなので、私と七海はどう動くかすぐに決められた。
私と七海が原作通りの任務で、炭治郎と禰豆子が別の任務地であるのは疑問に思ったが、とりあえず早く任務先の町に行き、鬼の頸を斬った。着いた時には夜になっていて、ちょうど襲われたタイミングだったので、ぎりぎりその人を助けることができた。沼の鬼は三人に分身するため、そのうちの一人は七海が戦いたいらしくて譲り、私は残りの二人を相手にし、攫われそうになっていた人の安否確認をしていた。
それらが終わった後、七海に話しかけてその鬼の頸を斬り、任務はそれで終わった。だって、七海は日輪刀を持っておらず、身体能力と血鬼術で鬼と戦っているのだ。七海は鬼に対抗する手段があっても殺すことはできない。
そもそも七海が血鬼術を使えるのはどうしてなのかというと、これが二年間眠ったことで七海が得たものだからだ。沼に潜る鬼に対して水を操る力で抵抗できるのかと疑問に思うかもしれないけど、そこは全然大丈夫だった。七海の血鬼術はそれを上回っていた。
....まあ後で考えてみたら、七海は前で上弦の伍になるほどの実力があったのだ。何の階級もない鬼が相手でも余裕があるのは納得できる。
七海は目に見えない水も使ったので、完全に有利である。
でも、鬼は回復でき、腕や脚などを斬り落としてもすぐに治せる。なので、私の時よりも遠慮なく試せるというわけだ。相手の鬼には不幸であろう。試しに使われることになったのだから。だけど、あの鬼のやったことを思うと、それくらいしても大丈夫かなと考えてしまう。
ある程度七海が納得できるまでしたため、私が頸を斬ることはした。鬼殺隊に入った後は怒涛の展開で進んでいくので、こういうのは最初の方でしておかないと。
沼の鬼を倒したので、私はこの町を出た。襲われた人も無事だったし、死者もこれ以上出ないだろう。あの恋人同士の二人もそのまま平和に暮らせるはずだ。
町を出てすぐに鎹鴉の遠藤に任務を言い渡された。その任務先は前に私が受けたものであり、内容は知っていたので、私と七海ですぐに終わらせた。その後でまた任務となった。
そろそろかなと予想していたが、やはり今度の任務は浅草に向かうものであった。あの人混みで炭治郎と禰豆子と合流できるか不安だけど、前の時は合流できたので、大丈夫だろうと思った。
浅草に着いた後、私と七海はあのうどん屋さんに向かった。うどん屋さんは必ず炭治郎と禰豆子が訪れるので、最悪そこで会えると思ったからだ。場所も既に私は二度も訪れた場所なので、迷うことなく行ける。
そう思いながら着いた時には禰豆子がうどん屋さんの屋台に座っていた。炭治郎がいないし、うどん屋さんの店主は何故か怒っているようなので、それらを見れば現状が把握できた。どうやら炭治郎達の方が先に浅草に着いて、ここでうどんを食べようとした時に無惨の匂いを察知し、無惨を追いかけていったところだろう。
私は炭治郎を探しに行くべきか悩んだが、ここで待つことにした。私は匂いで場所が分かるわけではないので、姿が見えないのに追いかけることはできない。探してもその間に炭治郎がここへ戻ってきて、そのまま会えないということになりそうなので、止めておいた方がいい。炭治郎が落としたうどんが既に片付けられていることからも時間はかなり経っていると思うし。
それに、怪我人は出るけど、死人はいないし、治療してくれる珠世さんがいるので、大丈夫だと思う。見て見ぬフリをすることには申し訳ないと思っている。だが、今から私が向かっても意味はないだろう。
私はそう思い、禰豆子の隣に座って店主に山かけうどんを二つ頼んだ。一つは私の分で、もう一つは七海の分だ。本来鬼は人間や動物以外のものを不味いと感じるらしいが、七海は他の食べ物を食べることができる。道中でも日が当たらないように背負い箱から焼き鳥や団子を渡したら普通に美味しいと言って食べていたので、特に問題がないだろう。
なので、私と七海は普通にうどんを食べながら炭治郎が来るのを待っていた。
「そういえば、禰豆子達はこの近くにいたの?」
「ムッ」
私達が食べている間に禰豆子も人混みの酔いが覚めたらしく、私達に挨拶してきたので、私も禰豆子に声をかけた。その時に疑問に思ったことを禰豆子に質問すると、禰豆子は頷いてくれたので、やはりそうだったのかと思った。
任務に行く時に炭治郎達の任務先を聞かずに急いで出てきたしまったので知らなかったが、どうやら当たっていたみたいだ。前の時は七海が最初の任務と同じであったが、私と禰豆雄(禰豆子)は違う場所であり、その中でも禰豆雄(禰豆子)の任務先はここの近くで、私達の中でも早くここへ着いたそうだ。なので、炭治郎と禰豆子の任務は前の禰豆雄(禰豆子)のものだったようだ。
ちなみに、禰豆子は竹製の口枷をしているが、七海はしていない。何故かというと、七海は禰豆子と違って話せるため、竹製の口枷は邪魔なのだ。
しばらくして炭治郎が戻ってきて、店主が炭治郎に怒り、炭治郎はうどんを二人前頼み、それを食べ始めた。私と七海はうどんの方を既に食べ終え、残るはうどんの汁のみであったため、炭治郎が二人前のうどんを一気に食べる姿を見ながらゆっくり飲んでいた。炭治郎が食べ終え、私と七海もお金を払い、そのうどん屋さんから去った。店主は爽快な気分で私達を見送っていた。
私と七海が炭治郎の後をついていくと、兪史郎さんの姿が見えてきた。兪史郎さんは不機嫌そうな顔をしていて、私はそれに一度疑問に思っていたが、それが何かはすぐに察した。炭治郎一人を連れていくはずがいきなり増えていて、しかもそのうちの二人は鬼である。そんな人達が炭治郎を連れてきたら兪史郎さんもあんな顔になるだろう。
兪史郎さんが禰豆子や七海のことを醜女と言ったので、炭治郎が怒っていたが、兪史郎さんはそれを無視する。
......禰豆子を醜女と言うのは原作で知っていたし、その後でしっかり美人だと言い直していたので、そこは別に大丈夫だ。ただ、七海を醜女と言ったのは少し物申したい。いや、七海も美人だと訂正してもらいたい。
私に言うのはいいし、気にしない。でも、二人に関しては別だ。禰豆子は可愛いと思っているし、七海も水色の髪という特徴的な髪色の印象が強いが、綺麗な顔立ちをしていると感じている。その二人が醜女と言われると、こうイラッとなるんだよね。あと、あの二人が醜女だったら大抵の女性が醜女でしょうと思う。
「......七海も綺麗だと思うのに。....あっ。勿論、好みの問題とかあると思いますよ。ですが、私はこう思うのです。七海は水色という特徴的な髪が目立ちますが、顔は整っています。目が垂れ目で少し横長っぽく見え、それが柔らかい感じを出していて、水晶ような瞳をより綺麗にしていて.....「彩花。そこまでにして!」.....えっ?」
「これ以上はもう....それより、早く行きましょう!」
私が七海の良いところを語っていこうとしたが、七海が止めてきた。七海は少し慌てた様子だったけど、恥ずかしかったのだろうか。先程まで七海は兪史郎さんにキレかけていたから、顔や耳が少し赤くなっていたからという理由で判断できないけど、それ以上は刺激するとマズいと思い、私は首を傾げながらもとりあえず七海の言う通りに止めた。
私が無言になると、七海は兪史郎さんを睨み、珠世さんのところに急かした。確かに時間をかけ過ぎているからね...。
兪史郎さんは原作の通りにあの壁の中を通っていき、炭治郎と禰豆子はそれに戸惑っていたが、私と七海は既に原作と前の経験で知っていたので、先に壁に顔を突っ込み、珠世さんの家があるのを確認した後、炭治郎と禰豆子にそのことを伝えて、壁の中へ入っていった。すると、炭治郎も禰豆子も私達の後をついてきた。
珠世さんとも出会い、原作と同じ話をした。例外の鬼の中に七海が入っているが、特に変わっていることはなく、私も既に珠世さんの頼みを受けると決めたので、鬼の血を集める手伝いをすることにした。ちなみに、七海の血を調べることは七海本人に答えさせてもらった。自分のことであり、ちゃんと自分で判断できる意思があり、答えることもできるので、私が判断して答えるのは違いと思い、そこは七海に答えさせた。
まあ、七海も私同様に決めていたし、それを私は知っていたが、本人が言った方が良いと思ったのだ。
その後の鬼の襲撃も原作通りであった。だが、戦う鬼が二人に対して、こちらは六人いる。それで、二手に分かることにした。炭治郎と禰豆子が矢印の鬼である矢琶羽と、私と七海が鞠を使う鬼である朱紗丸と戦うことになった。戦力が多いため、原作よりも苦戦しなかったと思う。
ただ、日が昇るまでに私と七海は朱紗丸の頸を斬ったため、無惨の呪いで死ぬことはなかった。今回の変わったところはおそらく朱紗丸の死因だけだろう。
ここから出発する前に珠世さんから禰豆子と七海を預かろうかという話があったが、炭治郎は禰豆子の手を握りしめ、それを断った。七海も自分の口で断っていた。
こうして私達は浅草を出て、次の任務へと向かった。ただ、少し不安がある。それは炭治郎の肋骨が一本折れていることだ。原作と違って怪我が少し軽いものに変わっているが、そこは変わらなかった。
今も思うけど、怪我をしている状態でそのまま任務に行かせるのって、相当厳しいと思うのだけどね。でも、それくらい人手不足なのだろう。
できることなら炭治郎には休んでほしいけど、その任務が善逸と伊之助と出会うところであるため、あまり無理をさせないようにしよう。
鼓屋敷も前の時とあまり変わらなかった。最初に善逸と出会った時は善逸が女の子に結婚してと迫っていて、その後で私にも求婚してきた。それで、炭治郎が必死に私から善逸を引き剥がそうとしていたし、その騒動で私の体が揺れ、背負い箱も一緒に揺れていたため、七海がバンッと凄く不機嫌そうに箱を叩いた。
起こしてしまったかもしれない。ずっと静かだったから、眠っていた可能性がある。だって、朝まで起きていたし、戦ってもいたから、疲れているのだと思うのだよね。
炭治郎と善逸は互いの声で七海の様子に全然気づいていないみたいで、その後も炭治郎と善逸は原作と同じやり取りをして、おにぎりを食べていた。ちなみに、おにぎりはいっぱい作っていたので、一人一つ食べられた。原作で知っていたので、おにぎりは善逸の分も作っておこうと考えたのだ。
おにぎりを食べている間に鼓屋敷に着き、鼓屋敷の前に二人の子ども、正一とてる子がいた。この二人のことは原作通りに炭治郎が話していた。二人がここにいる理由は原作や前の時と変わっていないらしい。
らしいと言っている時点で察しているかもしれないが、私はこの時に正一とてる子から離れていた。
理由はこの後に人が降ってくると分かっているので、その人を受け止める準備をしていたのだ。流石に今回はこのタイミングだと屋敷に入って探す時間がない。そのため、ここで落ちてくる男性を受け止めた方がいいと考えたのだ。
あの男性は原作で姿を現した時点で既に血だらけで傷ついていたが、致命傷はおそらく高いところから頭を打ったことだろう。実際に見ていないから分からないけど、頭を強打した時にまだ話せていたのだから、その可能性に賭けてみようと思った。
ただ一つ、問題があるとするなら私が男性を受け止められるかどうかなのだが、これは難しいと思っている。あの男性は大人だし、かなりの速さで落ちてきたから、上手くいかなければ私が下敷きになる。しっかり受け止めきれないと、あの男性も死んでしまう。
これは一発勝負だ。なので、きちんと心の準備をしておかないと。
そのため、私は正一とてる子のことを炭治郎に任せた。原作で炭治郎が二人を上手く宥めていたのを知っているが、前の時に二度私がそれをしていたため、なんだか懐かしい気持ちを感じると同時に、少し寂しい気持ちにもなるのだよね。
そんなの言っている場合じゃないのは分かっているのにね。
ポンッ!
それから少し経って、鼓を叩く音が聞こえた。私はその音で構えた。隣に立っていた善逸もその音に反応する。
「炭治郎。この音、何だと思う?なんか太鼓の音が聞こえる」
「音?音なんて.......彩花?どうした?」
「ごめんね。詳しく話せないけど....嫌な予感がする」
「嫌な...予感?」
ポンッ!!
ドクンッ!ドクンッ!
善逸が炭治郎に音のことを話すと、炭治郎は首を傾げていた。この時に炭治郎が私の様子に気づいたようで、私に聞いてくるが、私はそれに答えられる余裕がなく、嫌な予感がするからという曖昧なことしか言えなかった。
炭治郎達とそういうやり取りをしていると、鼓の音が大きくなった。このくらいの音量だと炭治郎にも聞こえるだろう。鼓の音がそれを皮切りにだんだん大きくなっていき、それと同時に私の心臓の音も大きくなっていく。
もう少しだ。だけど、落ち着かないと。一発勝負だから、こんなに緊張しているのは分かっているけど、それは事実である。これが成功しないと、これから落ちてくる人は原作のように亡くなるのが確定だ。命がかかっているからこそ、こんなに
ポンッ!ポンッ!!ポンポンッ!!ポンポンポンポンッ!!
ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!!
私は激しくなる鼓の音と一緒に大きくなっていく心臓を抑えるために深呼吸をした。今気持ちを落ち着かせるのに、最も適したのはきっと深呼吸することだと思ったからね。
私は心臓の音が少し平常に戻ろうとしていることに気づき、大きく息を吸った。大きく息を吸ったのは簡単だ。呼吸を使うためだ。
『深呼吸する』と『呼吸を使う』と違う言い方をしているので、察している方がいると思いますが、『深呼吸する』の方は普通に大きく吸って吐く作業のことであり、この『呼吸を使う』は全集中の呼吸の方だ。
ポンッ!!!
鼓の音が一際大きく聞こえた瞬間、私は地面を強く蹴り、前へ飛び出した。その時に私が見えたのは二階の障子が開いて、そこから男性が落ちていくところだった。だが、その前に私が二階の障子辺りまで跳ぶのが早かった。男性が外に出たのを見て、私はすぐにその男性の着物を引っ張り、自分の方に寄せた。それと同時に私は空中で一回転して着地する体勢に整え、男性をあまりその衝撃を受けないように抱え直した。
そうしている間に重力が地面へとかかり、落下を始まる。だが、すぐに体勢を整えられたので、問題なく着地できた。
私はなんとか男性を受け止められたことに安堵しながらも男性の容態を確認した。
頭を打っていないが、血を流し過ぎていた。怪我も酷い。早く病院に連れていかなければ危ない!
「ごめん、炭治郎。この男性、早く手当てしないと危ない!この近くの病院に行ってくる!終わったらすぐに戻ってくるから!」
「分かった!」
私は炭治郎と善逸にそう言った後、男性を抱えて病院へ向かった。病院の場所は前の時に調べていたので大丈夫だ。でも、これから容態が悪くなる可能性がある。
そう思い、私は山道を走る。木や茂みが多く、道も整理していない。だが、この山道を突っ切った方が早く着く。それと、この道を選んだのは他にも理由がある。
「七海。この人を早く病院へ連れて行きたいの。ここは日影で、日の光には当たらないと思う。手伝ってくれる?」
私の言葉を聞き、七海が背負い箱から出てきた。背負い箱から出てすぐに七海は私の前に出て、私は男性を七海に渡した。七海が男性を抱えたのを確認した後、私は七海の前を走り、道を阻む木の枝や茂みを押さえて道を作り、七海がその道を通っていく。
七海は鬼なので、私よりも力がある。まあ、元から七海は私より力持ちだけどね。私ではどうしてもあの男性を抱えていたら遅くなってしまう。だが、七海なら男性を抱えた状態でも速く動くことができる。
鬼になってからは分からないが、私は七海より速く動けるし、小柄な体型であるため、狭い隙間でも難なく通れる。そのため、私が道を作り、七海が男性を運ぶ方が早いと思ったのだ。
しかし、鬼である七海は日の光を浴びれない。太陽が空に昇っている、昼である今は七海を出せない。でも、逆に日の光が当たらなければ昼であっても七海は外に出られるということだ。そして、病院へ向かう最短での道筋は山道を通るものであり、その山道は林で日の光が見えず、当たることがない場所だ。
枝をあまり折りたくないと思っているので、強引に引っ張らずに気をつけながら怪我人の男性に当たらないように枝を別方向に逸らしている。その間に七海が通り、それを確認した後に次の道を塞ぐところへ先に着き、また枝を別の方向に向けて道を作る。
「七海。ありがとう。ここからは木陰がないから、七海は休んでいて。後は私だけで大丈夫だよ。本当にありがとう」
私が七海に声をかけると、七海は私に男性を渡し、後ろへと回り、背負い箱に入って自ら閉めた。
七海もこの背負い箱に慣れてきて、自分で開けたり閉めたりすることができるようになってきたんだよね。
私は七海にもう一度お礼を言った後、男性を抱え直し、病院へと真っ直ぐに走り出した。先に遠藤を向かわせたので、事前に知っていた(だが、喋る鴉に困惑していた)医師達に男性を渡し、私は鼓屋敷に戻った。
着いた時には禰豆子の入った背負い箱だけがぽつんと置かれているだけだった。まだ炭治郎も善逸も戻っていない。正一とてる子の姿もないから、二人を追いかけた後なのだろう。
炭治郎達が鼓屋敷の中に行ってからどれくらいの時間が経ったか分からないけど、私もすぐに鼓屋敷へ入ることにした。炭治郎達の姿は見えないし、伊之助の気配も感じられない。おそらくまだ時間はそんなに経っていないだろう。
私は襖を開け、中の様子を伺った。勘だけど、まだ血鬼術は残っている。となると、鼓の鬼の響凱はまだ炭治郎に倒されていないと思う。まだ戦っている最中なのかもしれない。清以外の生存者がいる可能性は低いけど、探しに行かない理由はない。
ただ響凱の血鬼術が残っているので、見つけてもここに戻れるか分からなくて少し迷ったが、それでも行くことを決めた。
炭治郎が響凱の頸を斬るまでは私が応急処置をして時間稼ぎしよう。
「ねえ、七海。ここって、鬼の大量発生の場所だったかな?前はそうだった?あの時は私も原作にいなかった鬼を何人も倒したけど」
「いや、アタシは原作にいた鬼しか会ったいないわ」
「じゃあ、どうなっているの」
「......アタシも分からないわよ」
日が当たらないからと外に出た七海は私の質問に首を横に振った。私は七海の言葉に頭を悩ませていた。七海も私と同じように頭を抱えている。私と七海がこうなっているのは周りにいる鬼達が原因だ。この鼓屋敷にいる鬼は響凱を含めて三人だ。
この時点で分かっているかもしれないけど、炭治郎が響凱を相手にし、他の鬼もそれぞれ善逸と伊之助が相手をしている。それなら、この周りにいっぱいいる鬼達は何なのかという話になる。
前の時にも一人増えていたけど、今回はその比ではない。鬼が複数現れた時にそのおかしさに気づき、七海も再び呼んだが、それは間違いなく正解だったと思っている。
だって、その時から一気に鬼が現れてきたので、手助けしてくれて凄く助かった。
だけど、これが問題であるというのには変わらない。今回は偶然にも私と七海に当たったから良かったけど、他の人だった場合は無事ではないし、最悪死んでしまう可能性もある。私と七海の影響で原作にいなかった鬼達が出てくるのからまだ良いけど、そうじゃなかったら鬼殺隊の隊士達全員が危ない。
何たって、鬼の数が増えるのだからね。一つの任務に複数の鬼が存在していて、数の暴力で負けるという場合もあるだろうし、過労死ということも起きそうだ。
なので、こういったことが続かないことを祈ろう。
私はそう思いながら頸を斬られて灰になっていく鬼達の採血をした。一応研究が捗りそうで助かるけどね。
でも、足りるかな?
「足りたけど、全部持っていける?」
「ニャア」
私は採った血を茶々丸に渡そうと思ったが、その次の問題に気づいた。
ぎりぎりで足りたのだけど、今度は茶々丸の背にある箱に全部入るかというのが問題だった。
茶々丸の背にある箱は既に一つ入っている。これは響凱の血だ。炭治郎が頸を斬れたということだ。色々あったが、そこは原作通りに進んでいるようだ。鬼達と戦っている間に血鬼術が消えたのを感じていたので、炭治郎が勝ったのは分かっていたが、実際に見た方が安心する。
炭治郎のことは安堵できたが、問題が解決したわけではない。
まずはこの採血した鬼の血をどうするか。
茶々丸に聞いてみると、首を傾げていたので、おそらく分からないのだと思う。とりあえず割れないように気をつけながら鬼の血を詰めた。かなり収納ペースがあったため、なんとか全部入った。茶々丸がいなくなったのを確認した後、七海を背負い箱に再び入れて、鼓屋敷から出た。
出入り口はすぐに見つけられた。どうやらすぐ近くにいたようだ。何回か鼓を叩く音が聞こえて、あちこち移動させられたのは分かっていたけど、こんな出入り口の近くにいたのは予想外だったし、驚いた。
私は幸運だったなとか思いながら扉を開けた。その瞬間に見えたのは善逸が禰豆子の背負い箱を庇い、伊之助が善逸に暴力を振るう直前だった。
えっ?今、このタイミングだったの!?というか、炭治郎は!?いなさそうだけど.......もしかして、清とてる子の迎えに行っているから遅れているのかな....。
「えっ!?彩花ちゃん!」
「なんだぁ?お前」
「善逸、怪我はない?」
内心めちゃくちゃ驚いていたし、叫んでいたが、体は条件反射で動いてくれたので、私は伊之助に足払いをかけて転ばせ、伊之助と善逸の間に立った。善逸は驚いていたし、伊之助には立ち上がりながら睨まれた。だが、私は善逸が怪我をしていないかの方が気になった。
遠くからだったし、結構衝撃を受けて動揺したので、あまりよく見ていなかったのだ。ただ、顔にタンコブなどの殴られた跡のようなものがなかったのは分かっている。
私は伊之助を警戒しながらも善逸に視線を向けた。目立った外傷は頭から血が出ているぐらいなので、どうやら本当に直前だったみたいで大丈夫そうだ。
いや、頭から血を流しているのは重傷だと思うが、この世界だと軽傷の方に感じてしまうのは私が毒されてきたからだろうか。それに、たぶん骨が幾つか折れていると思う。
うん、これはしばらく療養だね。
私がそう思っていると、全く返事がされないことに苛ついたのか伊之助が話しかけてきた。
「無視かよ!おい!女!」
「あっ。ごめんね。別のことを考えていたよ。えっと、私は彩花。生野彩花という名前なのだけど....貴方は?」
「俺に一発当てたな!おい!女!次は負けねぇ!勝負しろ!」
「......私にこの勝負を受ける理由なんてないのだけどね。それと、私の名前は彩花だとさっき言ったよ」
「彩芽!勝負だ!」
「....もう、いいよ」
伊之助の声で私は伊之助に視線を向けた。伊之助のことを後回しにしてしまったので、伊之助に謝罪した。それと、自己紹介もして名前を聞こうとした。原作や前で名前だけでなく、色々知っているのだが、それがうっかり出てしまったらマズイので、先に自己紹介をしておこうと思った。
しかし、伊之助はそれよりも戦いたいらしく、私に勝負を挑む。だが、私は戦う気がないので、なんとか断りたいと思った。あと呼び方も変えてほしいので、もう一度言ってみたら彩芽となった。これは前からの私への呼び方であったし、前の時に何度もさりげなく呼び方を変えようとしてもこれから変わらなかったため、だんだん諦めてきたのだ。.....まあ、たまに訂正しようとするけど。
なので、前と同じ彩芽になっただけでもいいと思い、その後の修正は止めた。
そういった意味で了承したのだが、伊之助は戦う方だと受け取ったらしく、私の方へ向かってきたので、私も対応することにした。
...戦う気はないので、伊之助の攻撃を受け流したり善逸達が巻き込まれそうになった時には距離を取らす意味で投げ飛ばして転がせたりしたけどね。
うん?投げ飛ばさせたって、どういうことなのか?
伊之助が投げ飛ばされたのは確かだけど、私がやったというのとは少し違うのだ。私の行動で結果的にそうなったのだが、直接やったわけではないのだ。詳しく説明すると、私がしたことは攻撃を受け流す時のを応用したものだ。相手の力を別の方向に向ける。それをした上で重心を傾かせる。その状態をさらに利用して、相手は自分の力で体を一回転させて、その時に足払いもかければ伊之助は飛んでいくし、その後でバランスを崩して転がることになるのだ。
ほら、私は投げ飛ばすようなことをせず、伊之助が自分の力で転がっていくので、結果的に伊之助が投げ飛ばされて転がるという状況になる。
それを何回も繰り返したのだが、伊之助は懲りずに私へと向かっていった。私はそれに呆れを通り越して感心していた。だが、その勢いが止まらない様子に私は困った。
伊之助の勢いを止めるには一番早いのは伊之助を眠らせることだ。だが、伊之助は薬が効きにくい体質であるため、麻酔が使えない。そうなると、他の方法を考えないといけないのだけど.....今の伊之助には説得とか無理だから...そうなると、物理が一番手っ取り早く解決できるのだよね。
....あまり気乗りしないけど。
私がそのようなことを思っていた時、
「何してるんだ!」
そう言いながら炭治郎が伊之助に頭突きをして、辺りに物凄い音が響き渡った。それを聞いた善逸が叫んでいて、私は原作に近い形になっていると別の感想を抱いていた。
炭治郎が来たと知り、私は鼓屋敷の方を見たらてる子と柿色の羽織を着た少年がいた。その少年が正一とてる子の兄の清だと気づき、安堵した。
どうやら炭治郎は清を救出できたようだ。あんなに鬼がいっぱいいて、稀血の清がその中で無事だったことは奇跡だろう。例え鬼の鼓を持っていたとしても生き残れたのは幸運だ。
少し不安だったけど、そこは原作通りのようだ。炭治郎の頭突きが早かったことから、たぶん炭治郎もこの状況についてある程度は分かっているはずだ。このまま放置していても、炭治郎と伊之助は原作と同じ行動をするだろうし、同じことも起きるだろう。
その後、やはり炭治郎の頭突きの衝撃で伊之助の猪の被り物が外れ、原作通りのやり取りを炭治郎達がしていた。その間に私は善逸の頭の怪我の手当てをしていた。流石にその怪我を放置しておくわけにはいかないので、怪我の状態を診た後に消毒してガーゼを貼り、包帯を巻いておいた。
ちょうど善逸の手当てが終わった時に伊之助が限界になり、動きが止まった。炭治郎達が伊之助の様子に首を傾げている間に私は伊之助に近づく。そして、後ろから倒れそうになっていた伊之助を受け止めた。
原作で知っていたので、私はその前に動けたし、あの炭治郎の頭突きの音や原作で既に症状も何か判明しているので、すぐに治療を始めた。
怪我の治療のため、私が伊之助を膝枕したら善逸が凄く叫んでいたが、炭治郎に引き摺られて、鼓屋敷の中へ入っていった。
おそらく亡くなっている人達を埋めて、供養しようと思っているのだろう。
私も鬼達との戦いの最中に血の跡や死体らしきものを見つけていた。生存者は入る前に救出した男性と清以外いないと考えてもいい。
まあ、もし生存者がいてもあの時の私達には余裕がなかったから、助けられたかどうかは分からない。
......できれば前の時に助けられたあの人も一緒に助けることができたら良かったな....。
炭治郎達全員が鼓屋敷に入った時に伊之助の治療を終えた。なので、私も炭治郎達の後を追おうと思い、バスタオルくらいの大きさの手拭いを折って枕にし、伊之助をそこに寝かせて立ち上がった。だが、その前に後ろから声が聞こえたので、私は鼓屋敷の方へ動かそうとした足を止めた。
後ろから声が聞こえたのは確かだが、振り向くことはなかった。何せ、振り返ったところで顔を合わせることはない。声だけで誰なのかは分かるので、後ろにいないことは理解しているし、背負い箱に聞こえるくらいの声で話せばいいからね。
「七海。どうしたの?何か気になることがあるの?」
私は背負い箱に軽く指で触れると、内側からトントンッというノックするような叩く音が聞こえてきた。これを聞き、私は日陰を探した。
この合図は七海がゆっくり話したいということを示しているものだ。
私は七海が背負い箱の中に入っても互いに普通に会話できる。だが、炭治郎と禰豆子以外の誰かがいた場合はこうやって決まった合図を出すことで、私達は相手の意図に気づけるようにしている。
七海を出すために日陰に行こうと思ったが、辺りに日陰はなかった。あれから時間が経ち、太陽の位置も変わってしまったからね。
「ごめん。日陰はなさそうだから、このままでいい?」
「別に構わないわよ。......それで、さっき何か気になることでもあると聞いてきたけど、アタシこそ聞きたいわ。何を思ってるのよ?」
「.......ただ、助けたかったなあとか、そういうことを考えていただけだよ」
「それって、前の時で助けられた人を今回では助けられなかったからよね?だから、そう思ってるのよね」
「..........」
七海の言葉に私は一瞬固まったが、すぐに平常心でその質問に答えた。だが、七海は彩花の思っていることに気づいているらしく、的確に言ってくる。もう最後の方は確信すら持っていた。私は黙るしかなかった。
そんな私の様子を察し、七海はため息を吐いた。辺りが静かな所為か息を吐く音がはっきり聞こえた。
「一度できたからといって、次も必ず成功するなんてないわよ。そんな保証なんてないんだから、助けられなかったことがショックでもそこまで重く考えない方がいいわ。彩花は考えすぎるところがあるからわよね。彩花のその考えって....例えば学校のテストみたいね。
テストでもあるじゃない。前はこの問題が当たってたのに、今回のテストでは間違ってたなんてこと。それで、次は正解しようと思う。彩花は反省するし、それを活かそうとするのは良いけど、一々落ち込んでいたらキリがないわ。
それに、あれは運が良かったということも含めないと駄目よ。早く着いた状況だからこそ、あの人達は助けられた。今回は善逸が道中ずっと騒いでいたし、そんな炭治郎達に合わせていたのだから、前と状況が全然違うわよ」
「でも、私が先に行くという選択肢もあった」
「善逸がくっついていたから、それはそもそも難しかったでしょ。離れた後も一人だけ先に行けそうな隙はなかったし、それを強行したら不審に思われると分かってたから、それをしなかった。....確かに間に合わなかったところもあるけど、それでも彩花はちゃんと行動していたわ。亡くなる人達全員を救えなくても、助けられた人はいるでしょ。前と状況が違う中で十分頑張ったわよ」
七海が私を慰めようとしてくれているのは分かっているが、私はそれを受け入れて許すことができず、七海の言葉に精いっぱいの反論の意味を込めて言った。だが、七海はそれでも話を続けた。
私は七海を落ち着かせる意味も込めて背負い箱を撫でた。すると、七海も静かになった。
「......ありがとう。でも、犠牲者を増やしたくないし、むしろ減らしたいと思っているくらいだから、これからも同じことをしていくよ」
「それは止めないわ。そうだと分かってるから、アタシは気に病まないでほしいと言ってるのよ。その行動自体を止めさせる気なんてないから、それだけは言っておきたかったの。分かった?」
「.....なるべく努力するね」
「...全く.......」
七海の話を聞いて、私はとりあえずお礼を言った。
私のことを心配して、慰めようともしてくれたので、そのことは嬉しかったし、感謝もしている。だけど、私には譲れないものがあるため、そこは突き通すことを伝える。七海はそれを分かっていた様子で言ってきた。七海の言葉に私は努力するとしか言えないため、七海は呆れた様子でため息を吐いた。
あの後、私も鼓屋敷から遺体を運ぶのを手伝った。炭治郎達は土を掘り、私は遺体をなるべく綺麗な状態にしようとした。....すぐに埋めるからと言っても綺麗にしない理由はないからね。
そうしている間に伊之助が目を覚ました。その時の私は鼓屋敷の中に行っていたので詳細は知らないが、伊之助が鼓屋敷で遺体を運ぼうとした時で原作と同じようなことが起きたのだろうとは思った。だが、遺体を乱暴に扱うのは別だ。
『伊之助。その持ち方は駄目だよ』
『なんだよ!こっちの方が運びやすいじゃねぇか』
『こちらが見ていられないし、そんな風にしたら傷ついちゃう。ああっ!言ったそばから....』
引き摺ったり逆さまにして運んだりする伊之助に流石に指摘すると、伊之助は少し不満そうにした。そうしている間に伊之助の持つ遺体の一つの傷口が開き、内臓が溢れ落ちそうになり、私は伊之助にその遺体を下ろさせ、裁縫セットで縫い始めた。勿論、針は消毒をしておいたし、その針も一応こういった時用の針だし、使い終わった後もしっかり拭いて消毒した。
一応綺麗に縫えたと思っている。この裁縫は前の...炭華が人間だった時に教わったものだ。炭華の手芸は当初ほとんど売れていて、炭華はもっと作ろうとして針仕事の時間が多くなった。それが気になり、薬の調合が終わったから手伝うなどと言って、私も針仕事をするようにした。その時は七海も一緒にいたが、七海は縫い物が駄目だったようで、最後に泣きそうになっていたのを私と炭華で慰めた。
伊之助には何度も気をつけて持つように言い、伊之助は渋々従ってくれた。全員で協力したこともあり、日が暮れる前に終えることができた。私達が手を合わした後、山を下り、清達と別れた。その時も原作通りの展開が起き、炭治郎が気絶した(させた)善逸を背負い、私は禰豆子の入った背負い箱を抱えながら藤の花の家紋の家に向かった。
途中で炭治郎と伊之助の言い合いはあったが、私が注意して静かにしてくれたので、善逸は藤の花の家紋の家に着くまで眠っていた。
まあ、それでも藤の花の家紋の家の人(お婆さん)を見て叫んでいたので、そのまま朝まで寝かせておいた方が良かったかなと思ったのは内緒である。
温泉に入り、藤の花の家紋の家でご飯を食べた後、先に医者に診てもらって健康だと診断された私は七海と一緒にこっそりもう一度温泉に入っていた。その間に炭治郎達は医者に診て重傷だと判断され、布団で横になっていて、原作と同じやり取りをしていたみたいだ。それで、たまたま箱の中から出てきたタイミングで、私と七海はそのことを知らずに炭治郎達の部屋へ入った。
それにより、七海のことを知ることになる。.......善逸が。
あの夜は騒がしかったよ。善逸が炭治郎に対して『女の子三人と一緒なんて、いいご身分だなああぁぁぁ!』と叫んでいた。炭治郎が説得しようとするが、善逸は聞く耳を持たず、面倒そうな表情をした七海が気絶させていた。
真夜中にこんな大声で叫ばれても迷惑になるだけだから、私は止めなかった。だが、放置するのは可哀想だと思い、崩れ落ちる善逸の体を受け止め、布団に寝かせておいた。そして、炭治郎と少し会話して禰豆子の頭を撫でて、一緒に部屋へ戻った。
どうしてかというと、炭治郎には療養に専念してほしいし、傍にいたらいたで目を覚ました善逸が騒がしそうなので、夜中だけは私達が預かる方がいいのではと説得したのだ。
次の日から私達は普通に任務があるため、休養している炭治郎達と禰豆子はほとんど一緒であり、私と七海は任務を終えた後、夜中に禰豆子と一緒に寝るようになった。元々炭治郎達が元気になるまではここを拠点として活動する気だったし、特に問題はなかった。鍛練も怠らずにやっている。
ここからが本番だからね。前とは違って、私は炭治郎達とほとんど同じだ。三周目とはいえ、体はそうなっていない。原作での次の任務が十二鬼月だ。何処まで通用するか分からない。
それから月日が経ち、炭治郎達も医者から大丈夫だと言われ、遂に那田蜘蛛山の任務に行くことへなった。原作通りのやり取りをしながら私達は那田蜘蛛山に着いた。
私達は着いてすぐに隊士を見つけた。その隊士が私達に事情を説明し、糸によって山の方へ戻されそうになったが、事前に知っていた私がその糸を刀で斬り、隊士は崩れ落ちた。心配になり、駆け寄って怪我を診てみた。命に別状がなく気絶しているだけであり、応急処置をした後に誰かを呼んでほしいと遠藤に頼み、先へ進むことにした。
申し訳ないけど、これから死人が多く出かねない戦いがある。この場所は山から離れているし、糸がないから何もされないはずだ。ここに放置しても生きていると思うけど、怪我している状態であるために誰かを呼んだ方がいい。もしかしたら容態が急変するかもしれないし。
私達は那田蜘蛛山に入った。その前に善逸がごねていたが、無理強いするつもりはないので、あの人のところで待っているように言った。炭治郎も同じ考えだったみたいだし、伊之助も特に反対はなかった。
まあ、私と七海は原作で善逸の行動を知っているから、それに沿うことにしたのだけどね。
私達(私と炭治郎と伊之助)は村田さんと出会い、村田さんに事情を聞いた(その前に原作通りのことが起きたが、それは省略する)。そうしていると、糸によって操られた隊士達に襲われ、下弦の伍の累とも遭遇する。その後すぐに累が姿を消すのは知っているし、ここで戦ったらこの隊士達も巻き込みかねないので、私は累の母鬼を探すことにした。
嫌な気配はあちらからするし、勘でもその方向へ行けと言っているので、進行方向を誘導しよう。
「炭治郎。伊之助。私達が糸をつける蜘蛛に気をつけながら操る糸を斬っても、この人達が体勢を整える前にまたつけられる。蜘蛛も小さいし、それなら本体の鬼を狙うしかないよ。本体の鬼はきっとここから離れたところにいるだろうから、この場所にずっといても体力が保たない。とにかくこの場から動いた方がいいと思う」
私は小さな蜘蛛を避けながら炭治郎と伊之助にそう言った。その私に隊士達が一斉に襲いかかり、私はその隊士達の糸を斬り、距離を取った。糸を斬ってもまたすぐにつけられる。でも、その間に時間がかかる。それを上手く利用すれば距離を取れるはずだ。
私が隊士達の攻撃を避けている間に、伊之助が母鬼の居場所を突き止めたようで、炭治郎と伊之助は私が行こうとしていた方向へ向かった。
私も距離を取りながらそちらへ向かっていたので、炭治郎と伊之助の後を追った。先導は伊之助だ。私は正確な場所まで分からないので、そこは知っているであろう伊之助に任せようと思う。
村田さんが任せて先に行くようにと言ってくれたけど、流石にこの人数を村田さん一人に任せるのは例え原作でやったとしても心配であるため、任せる前に隊士達の糸を全て斬っておいた。
その後、私達は母鬼のところへ向かい、母鬼は原作通りに炭治郎が頸を斬った。途中であった隊士達は私が木に二重に引っかけておいたので無事だ。炭治郎達に聞かれたが、念のためにと言っておいた。私がいざという時のために色々準備しているのを知っているので、二人は納得した。
私の座右の銘は「備えあれば憂いなし」だからね。何も準備をしないのは怖いんだよ。
その次は姉鬼を見つけ、父鬼が炭治郎達の前に立ち塞がるのだが、私はその場にいなかった。姉鬼の姿を見つける前に村田さんのところへ戻ったのだ。
負傷者の手当てや村田さんの安否確認とか色々あるが、一番の理由は戻らないといけないと思ったからである。
どういうことかと聞かれるだろうが、私もよく分かっていない。ただ、本当になんとなく行った方がいいと感じたのだ。なんだか嫌な予感がしていたし、炭治郎達には前の二つを言って先へ行ってもらった。
確認しに行って、何もなかったら炭治郎達のところへ戻ればいいからね。早かったら二人が父鬼と戦っているところを加勢できるかもしれない。
私は村田さんと分かれた場所まで戻った。しかし、そこには誰もいなかった。村田さんがこの場所から離れた可能性はあるが、それにしては不自然だ。だが、操られていた隊士達もいないのはおかしい。この辺りはおそらくあの母鬼が支配していたのだろう。ここにいた私達や村田さんを除いて全員が操られていたから、それは間違いない。でも、それならこの状況は明らかにおかしい。
私達を殺そうとしていても戦力を全部使うはずがない。確かに色々と奥の手も使ってきたが、それは私達が本体の方へ近づいてきたからだ。操った隊士達を村田さんに全員ぶつける理由はない。それに、もし戦力を割くなら私達の方に送るはずだ。
だけど、私がここに戻るまでの道のりで、隊士達の姿は見当たらなかった。さらに、一番不自然なのは私達が木に引っかけた隊士達もいなくなっていることだ。母鬼が消滅したことで糸が消え、隊士達は隠に保護されたとも考えたかったが、その可能性は低いと思う。
私は五感を鋭くさせ、辺りを警戒した。その時、何かを引っ張ったみたいな気配を感じ、微かに人の悲鳴ような音が聞こえた。私は慌ててその方向へ向かった。
林の中を走っていくと、開けた場所が見えた。私はその場所に真っ直ぐ走っていたが、先で何か嫌な予感を感じ、回り込むことにした。少し距離を取った位置で様子を見た。その時、何かを引くようなヒュッという空気の音が聞こえ、私は咄嗟に姿勢を低くして、前を見た。
それによって、原因が分かった。
人が宙に吊られていた。首にはついていない。だが、手足を拘束されていて、動けないようだ。数人いて、どの人も見覚えがある。全員が母鬼に操られていた隊士達だ。解放された後、あの隊士達は他の鬼によってここへ連れてこられたのだろう。
だが、それにしては人数が少ない。食べられたとしてもまだそんなに時間が経っていないから.....。
私が考えながら辺りを見渡していると、あるものを見つけた。それは木に縫いつけられた隊士達だった。腕や脚ごと縫っているわけではなく、隊服のみにらしく、血の臭いはしなかった。その隊士達も見覚えがあり、おそらくこの人達もそうだろう。
(.......どうして縫いつけられている人と吊るされている人と分かれているの。何か違いが.....まさか........)
吊るされている隊士達を視線で追った。すると、隊士達に隠れて誰かがいた。私は足音を立てないように気をつけながら近づき、漸く見ることができた。
下半身が蜘蛛だが、上半身が女性の姿をした鬼がいた。その鬼の目の前には上半身裸の隊士の姿が........。.....上半身裸?どうして?
「母さんが死んで、残ったのは君達なんだよねー。もう、持ち主がいないから、君達を貰ってもいいよねー。それにしても、服ってまずいよねー。しかも、鬼殺隊の隊服って無駄に糸がぎっちり縫い合わされてて、解くの大変なんだよねー」
「ヒッ」
「あっ。ごめんごめん。ぴったりの着てるから、こっちはたまに傷つけちゃうんだよねー。できれば傷つけずにそのまま丸呑みしたいんだけど、それはちょっと難しいんだよー。手先が器用じゃないと....よし。完成」
その鬼は隊士の服を糸に解いていた。どうして脱がすのではなく、解いているのかと思ったが、隊服の黒い糸が白に変わり、それが動いているのを見たら分かった。
どうやらこの鬼は糸全般を操るようで、隊服だった糸はこの鬼の力として使うことができるようだ。
「いただきますー」
「やっ、やめ........」
私があの鬼について分析している間に隊服を全部糸に変えたらしく、下半身の蜘蛛の口が大きく開き、素っ裸の隊士を丸呑みしようとした。
「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃」
その前に私が動いた。隊士を拘束していた手足の糸を斬り、その下半身の蜘蛛の顔を真っ二つに斬った。地面に降りる前に男性の腕を掴み、茂みの方へ投げた。
ずっと観察していて、放置しすぎてしまった。ごめんなさい。あの鬼は三周目で初めて見た鬼だったので、その動向を知る方に集中しすぎてしまった。さらに申し訳ないことに裸のまま投げてしまった。
本当にごめんなさい。あの隊士の方が私より体格が大きくて...持てるかどうか分からないし、戦うのも難しい....。......とりあえず怪我をしない、安全そうな場所であり、クッションになると思ったところだったから.....たぶん大丈夫...だと思う....。
「何?君、罠にも引っかからなかったの?」
その鬼の言葉で、私はあの嫌な予感がした原因を知った。おそらくここの隊士達のように糸が体中に絡まり、その糸で人間を引っ張ってここまで連れていき、木に縫いつけるという風な仕掛けを施していたのだろう。
どうやら遠回りしたのは正解だったらしい。
「まあ、いいわ。すぐに捕まえればいいだけだし。大人しく私の栄養になってねー」
この鬼は余裕そうにしていた。でも、分かる。この鬼は母鬼よりも強い。鬼の攻撃を防ぐという隊服に血鬼術の糸を通せていたし、その隊服を糸にして解けるほどの力(物理)も有している。
この鬼は強い。だが、こちらは華ノ舞いがある。
私が刀を構えると、背負い箱からトンッと押すような音が聞こえた。
........分かっている。七海もいるからね。
それにしても、どうしてこんな強い鬼が現れたのかな....。
思えばこの時に気づくことができたら良かったのかもしれない。だが、私は目の前のことや次の柱合会議、無限列車などを気にしていて、それが分からなかった。
そして、それを知った時にはもう後戻りもできなくなっていることにも。