「はあ。なんとかなったわ。ホントにどうなっているのかしらね」
「私も分からないよ。でも、はっきりしたことがある。.....それは鍛練をして強くならないと危ない」
「......どの戦いでもそうだと思うけど....一番有効なのはそれかもしれないわね。彩花が前の時と同じくらいになると決めて、原作の炭治郎達よりも何段階も上の鍛練をしていたから、今回は助かったわ」
隣にいる七海が大きく息を吐き、頭を押さえながらそう言ってくるので、私は苦笑いを浮かべながら頷いた。それと、悟った目で確信したことを伝えると、七海は呆れたような顔をした。
うん。その反応になることは知っていた。
今までに何があったのかと思われるので、起きたことを順に説明する。私は上半身が女性の顔で下半身は蜘蛛の姿をした鬼と遭遇し、戦うことになった。相手は十二鬼月ではないが、かなり強い鬼であったため、私も華ノ舞いを使用した。
その鬼は倒せたよ。上半身の女性の頸を斬れたらね。連続で使える型で下半身の蜘蛛の顔を一緒に斬っておいたけど、弱点は上半身の方だけだったみたい。頸を斬った時の感触では上半身の方が硬かった。
鬼の頸を斬った後は吊るされた人も縫いつけられた人達も全員が解放され、私はその人達の怪我を診ようとしたが、他の鬼がいるからそちらを頼むと言われた。重傷者がいないか確認だけでもしたいと言っても、後は自分達でやるからとその人達が言うので、渋々引き下がった。
ちなみに、大丈夫だと言った筆頭の人はあの裸になってしまった隊士であるため、私も後ろめたい気持ちがあり、その隊士には何も言えずにいた。現在、他の人の(かなり大きい)羽織を着物のようにして着ているので、少しマシにはなっている。
隊士達の勢いに負け、私は炭治郎達の方へ向かうことにした。一部の隊士達に村田さんのことも聞いた。村田さんの姿がここになく、鬼の頸を斬った後に再確認してみたが、やはり見当たらなかったので。
話によると、村田さんは罠に引っかからなかったそうだが、この隊士達を助けようとして、逆に吹き飛ばされてしまい、そのまま戻って来ないようだ。鬼も最初は村田さんを追いかけようとしたけど、すぐに止めたらしい。どうやら別の鬼の活動しているところに入ってしまったようで、手出しできなくなったみたい。
隊士達が心配で、何度か振り返った。全員が声をかけ合い、怪我人には手を貸している。
とても良い人達だよね。どうか、隠の人が来るまで無事でいてください。
私はあの隊士達と分かれてすぐに鬼と遭遇した。その鬼は二人で、そのうちの一人は前の時に何故かいた鬼だった。もう一人は知らない鬼である。原作の中にもいないし、前の時にもいなかった鬼だ。また鬼が増えている。
私は頭を抱えたかったが、一気に二人を相手しないといけないので、その余裕はなかった。七海も協力してくれたので、無事に二人の頸を斬ることができた。
そして、今はその戦いを終え、鬼の血の回収も終えた後だ。私も七海も流石に疲れたのだ。原作にいなかった鬼が増え続け、それと何度も接触してしまい、体力はともかく精神的に疲れている。あれこれ考えすぎて。
そのため、鍛え続けるしかないという脳筋の答えになった。一応その自覚はあるけど、これが一番最適な解決策なのだとも思っている。原作と違い、鬼の数が増え続け、その鬼もどれくらいの強さなのか分からない。それなら、どんな鬼と戦っても勝てるようにしかないだろう。というか、原作の知識を持っていない人達は全員が常にその思いなのだ。原作の知識があるという私達の方が普通じゃない。
それも七海は分かっているため、私の言っていることを否定しない。これが重要なことであり、継続していかなければならないことでもあることを七海は知っているからね.....。...当たり前のことを言えばその反応になるよ。
でも、ごめん。私の頭の中に浮かんだ解決策はそれしかなかったの。
私と七海はその後も少し会話した。こんな暗くて不気味な場所であろうとも、気分転換はしたかったのだ。しばらくして、互いに満足ができ、七海が背負い箱の中に戻ろうとした時、殺気を感じたうえにカサカサっという葉の揺れる音が聞こえた。
何かが来るという答えが頭に浮かぶ前に私と七海はその場を離れた。その瞬間、先程までいた場所の砂埃が舞った。それはすぐに晴れたのだが、できればもう少し見えない方が良かったと思った。そうすればまだここから離れられたかもしれない。
いや、すぐに追いかけられるのは分かっているし、追いつかれるだろう。だけど、少しでも距離を取れるし、考える時間も延びたと思う。
そんなに厄介な鬼なのかとか、勝てそうにないのとか思われるかもしれない。
うん、厄介な相手であることは間違いないよ。勝てそうかという言葉にも何と答えたらいいのか分からない。.......それに、襲って来られても戦う気がないんだよね...。だから、厄介な相手なんだよ。私も流石にこれは想定外だ。炭治郎の方にいるだろうと思い込んでいたので、この対応は考えていなかった。伊之助と戦うのとは全然違うし、気絶させるという手段がないため、時間を稼ぐという手しかなくなった。
いや、そもそも私ができないと思うから。
.......ここで疑問に思う人が何人もいるでしょう。
厄介な相手とか、勝てるかどうかに答えられないということはそれほど強いのか。そんな強い相手なのに、戦う気がないのは何故かとか、どうして伊之助の名前が出てくるのかとか、色々思うところがあるだろう。私が伊之助のことを挙げたのは対人戦として一番思いついたのがそうだからだ。それはたぶんつい最近だからなのだろうけど。
対人戦を思い浮かべた理由も簡単だ。私と七海の目の前に現れたのはしのぶさんだったからである。
しのぶさんは鬼殺隊であるため、味方なのではある。だが、今はそうだと言えない。私は鬼殺隊の隊士であり、人間なのであるが、七海は鬼だ。まだ柱合会議も始まってなくて、禰豆子と七海は柱(義勇さん以外の)に認められていないし、しのぶさんは七海の存在をここで初めて知った。
なので、初対面であるしのぶさんが七海を殺さない理由はないのだ。説得したいが、しのぶさんが私の話に耳を傾けてくれるか分からない。私はしのぶさんの目線からすると、まだ今年の最終試練を乗り越え、鬼殺隊に入ったばかりの人である。そんな人の言うことを信じられるかどうか。いや、信じてもらえずに問答無用で襲いかかってくるでしょう。しのぶさん、鬼嫌いだし。
しのぶさんの姿を見て、私は説得方法より逃走のことを考えた。七海も視線で訴えてきたので、同じことを思ったのだろう。
「こんばんは。隣にいるのは鬼ですよ。危ないですから離れてください」
しのぶさんは七海を見ながら私に言ってきた。
...この言葉......なんとなく流れが分かった。
「知っています。けど、友達なのですよ。ずっと昔、人間の時からの」
私は七海のことをそう言った。ずっと昔というのはまあ間違いではないし、人間の時からでもあるが、厳密に言うと友達になったのは鬼だった時である。ただ、それを言うとややこしいことになりそうなので、言うつもりはない。
「まあ、そうなのですか。それは可哀想に。では、苦しまないよう優しい毒で殺してあげましょうね」
私の言葉を聞いて、しのぶさんは刀を構えながら原作と同じ言葉を七海に言う。私も七海も察していたので、それに動揺しない。私は七海から少し離れ、七海は私の前に出る。
その瞬間、しのぶさんが七海に向かって襲いかかり、七海は血鬼術の水でその攻撃を防いだ。だが、それだけでは終わらなかった。しのぶさんの追撃は止まらず、七海は後ろに下がる。七海は構えた状態で自身を守るようにある水の羽衣を撫でる。
あの水の羽衣は七海を守るものであり、誰かを攻撃するためのものではない。
人を襲えばこの後の柱合会議で不利になる。だから、どんなに攻撃を受けようとも反撃しては駄目だ。できることなら、これで少しはしのぶさんが七海の様子に疑問を持ってくれるといいが、しのぶさんはかなり疑うと思うから、それはあまり期待しない方がいい。
七海がやれることは水の羽衣を使って、相手の攻撃を防ぐしかできなかった。連撃の場合は血鬼術で波も出しているから防げるし、力もそこまで消費していない。七海が使っている水の羽衣もその水を操作し続けていれば消費を最低限に抑えられる。
このまま鎹鴉に呼ばれるまで時間を稼げればいいが、いつまでこれが続くか分からない。水の血鬼術は結構使っているね。それなら、やはり.......そろそろか....。
私は考えながらも二人の様子を見て、懐を探り、あれを握った。
「蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ」
「右、左、右上、右上、左下(音ゲーか!それもハードモード!!)」
しのぶさんの攻撃を防いでいる七海を見て、私は心の声みたいなものが聞こえた気がした。それは七海の呟く声を聞こえたからか、私がそう見えているからなのかは分からないが、七海がそんなことでを言っているように感じたのだ。
だが、今はそんな場合ではないので、その真意は後で聞くとしよう。
て、七海が現在大変な状況であるため、早く行動しなければ。
でも、これは七海をもろに巻き込むわけにはいかないし.........次のタイミングで......よし、今だ!
「えい」
私はしのぶさんと七海が離れた瞬間に腕を大きく振り上げ、カプセルを二人の前に投げ入れた。すると、カプセルが地面に当たって開き、中から煙が出てきた。その煙はあっという間に辺りを包み込み、周りが何も見えなくなった。
さて、逃げないとね。
辺りは煙で何も見えない。だが、時間が経てばその煙も薄くなって消えた。七海は水の羽衣や波で自身の周りを囲みながら辺りを見渡していた。その時、七海の上から誰かが降りてきた。七海はすぐに応戦しようとして腕を上げた。だが、それよりもしのぶが早かった。七海の血鬼術をすり抜け、しのぶは七海の体を何度も突き刺す。突き刺された七海の体はその場に倒れた。
しのぶは振り返って七海を見て、目を細めた。何故かというと、その場には七海の姿はなく、大きな水溜まりができているだけだったからだ。
「......どうやら逃げられてしまったようですね」
しのぶはそう言いながら周りを見渡し、何かを見つけたかと思うと、その方向に走り出した。
「.....というわけで、分身がやられたわ。相手もあの煙を利用して跳んで、上から攻撃してきたみたい」
「煙は目潰しができて、こちらに利点があるけど、相手側も自分の姿を見せなくできるという利点があるからね。やっぱりその様子だと、しのぶさんは煙を吸っていなさそうだね。それで、この状況をなんとかできるとは思っていなかったけど、少しでも好転しないかという期待があったのだけどね」
私はしのぶさんから少しでも離れようと走る。戦っている最中に七海が血鬼術で水を使い続けたから、あの辺りは水溜まりだらけだった。私と七海が相まみれた時、身代わりとして自身の偽物を作った。あの時のことを詳しく聞いてみたら、あれは血鬼術の水に自分の姿を映した後、その姿に力を注ぎ、その状態で上に持ち上げるように操作したそうだ。そうして、あの偽物は実体となったそうだ。
それと、入れ替わりの方法はあの偽物を出した瞬間に自身の体を水に換えて、足元の水の血鬼術に混ざり、それで移動していたらしい。
その言葉で私は納得した。偽物か本物かは透き通る世界で分かったけど、その方法は知らなかった。私の見えたものは突然七海と似た姿が現れたことと、本体の七海が下がっていったと思ったら消えたところだったので。
人が高速に溶けていくところはホラーだと思ったよ。そんな場合じゃなかったから、あの時は深く考えなかったけど。
あれは内心驚いたと七海に言うと、七海も透き通る世界ではそういう風に見えていたことに驚愕していた。
上弦の陸の堕姫が自身を帯に変えていたから、それを自分でもできるのではないかと思って試したらできたものらしいなので、客観的に見てどうなっているのかは初めて知ったようだ。
......このことを知ったのは前の時、つまり私からすると二週目、七海からすると三周目の時になって、ある程度慣れた時だった。
私と七海が戦った時のことを笑って済ませるくらいになり、その話をした。それが今回で役に立つのは予想外だった。
私と七海がしたことは最終決戦での私と七海の戦いでやったことと同じだ。まず、七海がしのぶさんと戦い、水の血鬼術を使う。水の血鬼術は攻撃を防げるが、それは七海に当たらないようにするだけで、水の方にはその攻撃が当たっている。なので、その度に水の血鬼術は地面に落ち、それが何度もやれば水溜まりになるということだ。
地面に落ちて、その水で七海の分身を作ることが可能となるのだ。七海が分身を作った後、分身の七海を外に出すと同時に、自身の体を溶かし、地面にある水へ混ざり合い、私の方へと行った。私が背負い箱を下ろすと、七海は液体のままその中に入っていき、全身が入ったら手だけを元に戻した七海に合図を出され、私はその背負い箱を背負って、しのぶさんから離れた。
地面が水浸しになったらその過程を見られないようにとあのカプセルに入った煙を使った。わざわざ声を出して投げ、視点をこちらへ向けたので、七海が水に姿を変えたところは見えていないはずだ。カプセルを投げてから私が逃げるまでにかかった時間はそんなにない。今のうちに遠くに行かないと。
しのぶさんはすぐに気づくはずだ。なので、あまり期待していなかったが、睡眠薬の成分の入った気体の薬もあの煙の中に混ぜていたのだ。持ち物を少なくしているため、狭霧山でたくさんの種類を作れなかった。だが、使いそうなものは用意していた。
しかし、それは失敗に終わった。しのぶさんにはすぐにバレるとは思っていたが、それでも少し吸うとも思っていた。
けど、それは甘い考えだった。しのぶさんがあの煙を利用しようとしたのは想定外だった。
追いつかれる可能性は高い。今の私は柱と戦えるほどの力がない。ぎりぎり反応ができるから、それで攻撃を受け流すことはできるが、逃げ切れない。足も柱と比べたらまだまだだ。特に、しのぶさんは速い。あの突き技の速さからしても、柱の中でも速いのは間違いない。
その速さを私に使われるとなると.......一所懸命に広げた距離もすぐに縮められてしまうだろう。
しのぶさんの速さは何度か手合わせしたので、それがどれくらいなのか知っている。だから、私は少しでもしのぶさんが追いつきかけた時に抵抗できるように、私は木の枝を道として使った。
木の枝の上は安定感がないし、通れる道は限られてくる。だが、地面よりも障害物が無くなる。それに、しのぶさんが真上から来るという手段もなくなる。
原作でしのぶさんは炭治郎と禰豆子を追いかける時に枝の上を通っていた。しのぶさんがそういった道を通れるのは間違いなく、それは非常に厄介だということだ。下手したら回り込まれる可能性だってある。私も地面を走っていたら前方に誰かいないかと見ているので、上にまで視線を向けるのは難しくなる。
でも、私も同じように木の枝の上を通っているなら話が変わる。私がその道を通る時にどの道なら行けるのかというのを見て知っているので、しのぶさんの通る道も分かるし、それを予測しながら進めるはずだ。下から来ることもあるだろうが、一応足元も見ているので、こちらの方がまだ分かりやすいと考えている。
「蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き」
その声と気配を感じ、私は背中を狙う攻撃を弾いた。それと同時に、私は高く跳び、枝の間を足場にして飛び越えた。何本もの木と枝を通り過ぎているのを見ながら、私は着地場所を探したが、見つからなかった。なので、私の体重がかかっても大丈夫そうな枝を掴み、その枝を軸にして体を上げ、再び跳び上がった私は次の木の枝に着地した。
私が足場にしている枝よりも高い位置にだって枝はある。だが、その枝は下の枝よりも細く、私が足場に使ったら折れそうなものだ。だが、木の間はまだ太さがあるため、足場にすることは可能だと考えたのだ。ただ、枝の間であるために他の枝と比べたら太い。少し狭いのだが、そこは私が通れそうな場所を見つけて、そこを上手く使った。上手く行って距離を広げたが、それもすぐに縮められてしまうだろう。
そう考えているうちに後ろから殺気が来て........。
「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」
私はしのぶさんの鋭い突きに対抗して、華ノ舞いを使った。柱の攻撃に耐えられるのは華ノ舞いくらいだ。誤魔化せるように水の呼吸に似た型を使ったので、華ノ舞いのことを深く言及されないだろう。前回はこのことを知られて、柱の皆さんにいっぱい華ノ舞いについて聞かれたのだよね。
まあ、私は自分もよく分からないとしか答えられなかったけど。
しのぶさんが追いつき、私はしのぶさんの攻撃を華ノ舞いで防ぎ続けるしかない状況へとなった。
七海は出さない。木の上だから、人数が多いと足場が少なくなるし、二人で同じところにいたら枝が折れてしまう可能性がある。それに、ここでの戦いはかなり難しくなっている。木の枝の上はバランス感覚が必要だ。その上、しのぶさんの速さからして、足が速くないと駄目だろう。私も鬼の七海もしのぶさんに速さで勝てない。だから、少しの可能性を賭けてここを選んだのだ。空間を上手く使えばしのぶさんと真っ向勝負にはならないはずだ。
しのぶさんに勝てる自信はないので、上手く受け流していくしかない。鍛練をしていたから、その訓練の成果が出ているけど........。.....そもそも私は鬼と戦って勝つために鍛えていたけど、しのぶさん達とも戦うためにやっていたわけではないのですけどね!
「うっ!」
しのぶさんの攻撃を受け止めていたが、あまりの鋭さや衝撃で私はバランスを崩しそうになった。体勢はすぐに整えられたが、油断も隙も見せられない。
私はしのぶさんの突きを華ノ舞いでいなしながら逃げ回っている。だが、ぎりぎりの勝負だ。この状況が少しでも崩れれば押し切られる。これが呼び出されるまで続けばいいが、そうじゃなかった場合は........。
私は内心で解決策を一生懸命に考えながら華ノ舞いを使い続け、しのぶさんの追撃を弾いていた。
その時、
「華ノ舞い 水ノ花 水仙龍舞」
私はいつもの通りに華ノ舞いを使おうとしたが、何かが違った。いつもの言葉を言ったはずなのに、それとは違った感覚がした。そして、型も違った。
動きは似ている。だけど、いつものとは違う動きが少しあるのは分かる。それに、先程から私の頭の中に二人の型が浮かんできた。一つは水の呼吸の拾ノ型の生生流転、もう一つはヒノカミ神楽(日の呼吸)の日暈の龍・頭舞いだ。
どうしてこの二つの型が出てくるのか分からないが、龍のような動きというところが共通点だった。やがてそれが止まると、日輪刀にある水仙の模様だけが黄色く光った。私はそれに驚いたが、何故か力が湧いてくるため、立ち止まらずに刀を握った。
私は回転しつつうねる龍のように刀を回転させ、その状態で流れるような動きをする。その動きの軌跡が龍形状になっている。だが、そのおかげでしのぶさんの突きを回避できた。連続で攻撃されていたけど、それらも全部弾けるほどであった。
私は木の枝を跳び回り、先回りして追いつくしのぶさんの突きを弾いては逃げ回っていた。しのぶさんは容赦なく攻撃してくるので、背中を見せないようにしている。背中には七海が入っている背負い箱があるので、七海を狙っているしのぶさんは遠慮なくそこを攻撃してくる。私は後ろのしのぶさんを警戒しながら足を止めなかった。気配だけでなんとか行けている。
踏み外した時や道が途切れてしまった場合はどうするのかと思われるだろうが、そこは大丈夫だ。七海がその補助をしてくれる。
私がしのぶさんの攻撃を避けながら進んでいると、何か空白があるような感覚がした。それでも、私はそのまま跳んだ。足はなかなか枝に着かず、浮遊感を感じた。
だが、私は動揺しなかった。こうなっても大丈夫だからである。私の体が下がり続けているのに反応したのか、背負い箱から水が出てきた(まあ、出てこないと困るのは私だけどね)。
水は私の足元まで流れ、私はその水を足場にして進んだ。
水だから通り抜けないかとか、ちゃんとした足場になるのかという疑問を持つが、それは七海の血鬼術であるために大丈夫だ。七海は血鬼術で水を操れるが、それだけではない。水だけでなく、氷も操ることができるのだ。
それを使い、七海は私が足につく前に血鬼術で一部を凍らせ、その凍らせた部分を私が思いっきり蹴り、木の枝の上に戻った。凍った部分は私の蹴る衝撃で割れて無くなるので、何も残っていない。
そうやって私は七海がしのぶさんに攻撃されないように突きを弾き、七海は私が木の上から落下しないように血鬼術で補助するというように、互いに互いを守っていた。
そうやって私と七海は互いの危機を回避していた。だが、それもいつまでも続くわけがないと知っている。七海はともかく、私の体力には限界がある。だから、現状を維持しておくのも少し難しいと考え、次の方法を考えていた。
そうしていくうちに、私は鬼の気配が消え、その気配が消えた方向から微かに声が聞こえてきた。私はしのぶさんを気にしながらもその方向に視線を向け、七海に相談した。
「気配が消えたし、この声は.........行けば巻き込むけど、私と七海ではこれが限界」
「むしろ原作に近い形に戻ることになって、それはそれで良いじゃない」
私の言葉に七海は賛成してくれた。それが背中を押すきっかけとなり、私はちょうど良さそうな木の間を見つけ、そこを強く蹴って高く跳び上がった。木を何本も飛び越え、私はある一点を見つめ続けた。
そして......。
「ごめんなさい!見つかって、厄介なことになりました!」
「彩花!?」
私は地面に着地すると同時に謝った。炭治郎と禰豆子と義勇さんに。
逃げている最中にこの山に入ってから感じていた鬼(おそらく下弦の伍の累)の気配が消え、炭治郎と禰豆子と義勇さんの声が耳に入ったのだ。具体的に何を言っているかは分からなかったけど、私はどんな状況でも三人がいるならと思い、義勇さん達のところへ向かった。ただ、これはこれでさらに厄介なことになるのは分かっていた。だが、この状況を変えるにはこれが最善なんだよね....。...義勇さんに負担が凄くかかるけど。
炭治郎は凄く驚いた様子だった。私がいきなり上から来たことにびっくりしているのだろう。説明した方がいいだろうが、私が止まらないのでそれは難しい。
えっ?着地できたのではなかったかって?
うん。着地はできたよ。でも、流石にずっと走ったり跳んだりしていたわけであり、その勢いのままここへ来ているので、地面に足が着こうが止まらないのである。今の私は加速がついたまま地面に滑り込んでいるスライディングをしているようなものだ。
なので、私は目的地に着いたとしても止まれないのだ。
それに、これ以上に色々起きているので、それどころではないのだ。義勇さんは一早くそれに気づき、スライディングして横を通り過ぎる私とすれ違いで刀を出し、しのぶさんの攻撃を防いだ。しのぶさんは義勇さんに弾かれ、すぐに体勢を整え、義勇さんの原作と同じ言葉を投げかける。すると、義勇さんも原作と同じようなことを言った。
義勇さんに攻撃を弾かれた時のしのぶさんの表情は原作とかでは普通に笑っていると思っていたけど、よく見たら僅かに目を大きくさせていた。.....これは私がしのぶさんの表情の違いを分かってきたからなのか、それとも私の行動で色々変わっているからのかは分からないけどね。
そんな関係ないことを考えている間に色々進んでいたらしく、しのぶさんが炭治郎にも呼びかけて禰豆子のことを聞いていた。考え事をしていて流していたが、おそらく原作と同じやり取りをしていたと思う。
炭治郎が妹だと伝えたが、しのぶさんは原作と同じであり、私の時と同じことを言い、私と炭治郎は義勇さんによってその場から逃がしてもらった。
私は知っていて連れてきた罪悪感が凄く、義勇さんに頭を下げて礼を言ってからその場から離れた。走り出してから少し時間が経ち、カナヲが上から降りてきて、炭治郎の背中に乗った。それにより、炭治郎はバランスを崩し、禰豆子が宙に舞うのを私が受け止め、地面にゆっくり下ろした。
立ち上がった後、禰豆子に向けて攻撃しようとするのに気づき、二人の間に入り、刀を弾いた。
気になって炭治郎の方を見ると、炭治郎は気絶していた。カナヲの手(いや、この場合は足か?)によってだろう。そうなると、禰豆子をどうするか。原作ではカナヲが禰豆子を追いかけていたけど、今回は禰豆子と七海を追うだろうから、その場合はどうなるか分からない。禰豆子の方へ行くか、それとも七海が背負い箱の中にいる私の方へ行くのかも知らない。
まあ、どちろにしても私達がバラバラに動くことになるのは確実だから、どっちになろうとも困る。なので、私は考えた。
どちらかにカナヲが行くかというそんな賭けみたいなことになるより、別の方法にした方がいいだろう。
それはどんな方法なのかというと、私がカナヲと戦うということだ。
どうしてそんな発想なるのかと聞かれるだろうがね.......。
....禰豆子か七海のどちらかをカナヲが狙った時に私がその攻撃を止めたら、必然的に私をなんとかしないと任務は達成できないとカナヲが判断するよね。そうなれば私がここでカナヲを足止めすることになる。その時に禰豆子は気絶している炭治郎のところにいてもらう。禰豆子を一人にするのも不安だからね。禰豆子が人を襲うわけはないが、それを知らない人と出会えば禰豆子は確実に襲われるだろう。それに、私達が呼び出されてすぐに夜明けだったはずだ。今の禰豆子は日光を克服していない。もし呼び出された時に日光を浴び、それで克服できなかったら禰豆子は私や炭治郎の知らないところで亡くなる可能性がある。それは嫌だ。
それが心配だから、禰豆子にはここに残ってもらわないと。
私はカナヲと向き合い、禰豆子にそう言いながら前に出た。
「禰豆子はそこにいて」
私はカナヲが禰豆子に向ける攻撃を弾いて防ぎ、禰豆子は私の言う通りに炭治郎の横で大人しくしていた。カナヲが何度か禰豆子の方へ向かおうとしてくるが、私はそれを全部受け流したり弾いたりして、禰豆子から遠ざけた。
しばらくして、カナヲは禰豆子が何もしないことを不思議に思ったらしい。禰豆子を見ながら少し首を傾げていた。こういう小さな動作が原作でもあったのか分からないが、私の目にはそれがはっきりと見えた。
しのぶさんの時と同じなのかは知らないし、私の見間違いという可能性もあるが、カナヲが禰豆子の行動に疑問があるのだということは直感的に間違いないと思った。
これも三度目の影響なのかどうか......。
「禰豆子も七海も他の鬼とは違うよ。人間は家族で、守る存在だって二人は認識しているから。逆に鬼は倒さないといけない存在と思っているんだよ」
「...........」
カナヲがせっかく禰豆子は他の鬼と違うという印象を受けているのに、それをこのまま無視するのは勿体ないので、それで説得してみようと考えた。だが、カナヲは返事をせずに刀を振り続け、私もカナヲの攻撃を弾いていた。
「伝令!竈門炭治郎、竈門禰豆子、生野彩花、生野七海ヲ本部ニ連レテイケ!炭治郎、市松模様ノ.......」
そうしているうちに、鎹鴉の声が聞こえてきた。私もカナヲもその声で動きを止める。
「貴女が生野彩花で、背中にいる鬼が七海で、あっちにいるのが竈門禰豆子?」
「はい、それで合っています」
カナヲの質問に私は頷いた。七海が刀を仕舞い、私が安堵して空を見上げると、少し空が明るくなり出していた。夜明けが近いと分かり、私は慌てて背負い箱を探し、禰豆子に入ってもらった。禰豆子はすぐに入ってくれたので、日光に全く当たることはなかった。
禰豆子が背負い箱の中に戻ると、隠の人達が近づいてきて、気絶している炭治郎を運び、七海と禰豆子の入っている背負い箱も預かってもらったし、私も御館様の屋敷まで運ばれた。
柱合会議に参加するので、私の持ち物は全て預けないといけないし、何もできないように手も縛っておかなければならない。そのため、私の薬やその道具は別の隠に預け、私は大人しく腕を縛られた。
まあ多少不自由になるけど、問題はない。今回の鍛練で前の時の感覚を取り戻そうとあれこれしていて、その中で体幹を鍛えるために腕を縄で縛った状態で攻撃を避けるという訓練をしたので、この状態でもある程度は動ける。
それに、隠の人達がやってくれたこの縛り方だと僅かに指が使えるため、いざという時は解くことが可能だろう。......前々回で私が蝶屋敷に半分軟禁状態だった時に宇髄さんが悪ふざけで教えてくれたのがここで役立つとは.....。
...というか、宇髄さんもその時の私に拘束された状態からの脱出方法を教えないでよ!凄く助かるけど!
「起きろ。起きるんだ。起き........オイ。オイコラ。やい、てめぇ。やい!!」
「炭治郎、起きないと。たぶん揃ってきているから、そろそろ始まると思うよ」
「......うっ....」
炭治郎は隠と私の声に反応しているが、まだ目が覚めない様子だった。それを見て、後藤さんは怒ったような表情をした。なかなか起きないし、後藤さんは早くここから離れたいだろうからね。柱の圧が怖くて、すぐにでも逃げ出したいのに、炭治郎が起きなければできないのだろう。
「いつまで寝てんださっさと起きねぇか!!柱の前だぞ!!」
「はっ」
我慢の限界だった後藤さんがとうとう叫び、それによって炭治郎は目を覚まし、起き上がった。炭治郎は目の前にいるしのぶさん達に困惑しながら辺りを見渡し、私がいることに安堵していた。
炭治郎。安心するのは早いよ。これから会議が始まって、本番になるのだから。
「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ、竈門炭治郎君」
炭治郎はしのぶさんの言葉を聞き、再び周りを警戒した。炭治郎からしたらいきなりここへ連れてこられて、こうして人に囲まれているのだから、この反応が当然だろう。
それに......。
「裁判の必要などないだろう!鬼を庇うなど明らかな隊律違反!我らのみで対処可能!鬼もろとも斬首する!」
「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」
周りが斬首に賛成している人達ならなおさらそうなるだろう。炭治郎は困惑している。私は原作通りなので、当然の反応として受け止められるけど、炭治郎はそうではない。
その後も原作通りに進み、伊黒さんによって義勇さんが攻められることになりかけたが、そこはなんとかなった。義勇さんの当たりは原作よりも凄いだろう。何せ、私達が増えているからね。おまけに誰も擁護してくれない。
炭治郎が必死に禰豆子は人を食べないし、一緒に戦えるということを主張しても誰も信じてもらえなかった。私は特に何も言わなかった。言っても今は証明できないため、意味がないだろうと考えたからだ。
私と炭治郎は人を襲わず一緒に戦える七海と禰豆子を知っているが、他の人は知らない。だから、信じてくれない。だけど、しのぶさんだけは私の方を見てくる。
それは那田蜘蛛山の時の私と七海を見ていて、何か思うところがあるからなのか....。
それでも、私は何も話さなかった。その代わりに準備をしていた。この後はおそらくあれが起きるだろうから......。....むしろそちらの方が重要だ。
「オイオイ、何だか面白いことになってるなァ」
その声が聞こえ、全員の視線がそちらに向いた。その間に私は起き上がり、いつでも動けるようにしておく。
「困ります、不死川様!どうか箱を手放してくださいませ!」
「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかィ。一体全体どういうつもりだァ?鬼が人間も守るゥ?そんなの、無理なんだっ....て........なんだよ?」
隠の人達が不死川さんに向けて怯えながらそう言った。だが、不死川さんはそれを無視して、私と炭治郎に話しかける。その手には禰豆子と七海の入っている背負い箱がある。
原作と違って二つになっているけど、しっかり片手で持てている。そこは凄いと思うが、不死川さんのもう片方の手に持っている日輪刀は駄目だからね。
私は不死川さんが背負い箱に刀を向けた瞬間、地面を強く蹴り、縛られた状態のまま不死川さんから禰豆子と七海の入った背負い箱を取り返した。どうやったのかというと、指で背負い箱の紐の部分を摘み、腕を大きく動かして、不死川さんから遠ざけ、私は後から不死川さんと距離を取った。
例え腕を縛られたとしても、指は自由に動かすことができる。だが、指だけで二人分の体重を支えきれるかと考えると、それはとても難しいだろう。そもそも力があまりないので、指で摘んで持ち上げられるかどうかも微妙だった。思いの外簡単に持ち上げられたのだけど、それはおそらく火事場の馬鹿力だと思っている。
私は二人の近くまで来てすぐに禰豆子と七海の無事を確認すると、背負い箱から音が聞こえてきたので、二人とも大丈夫なのだろう。私はそのことに安堵すると同時に不死川さんの攻撃を警戒して前に出た。だが、振り向いた時にその心配をしなくても大丈夫だというのは分かった。
炭治郎が不死川さんに頭突きしているのなら、あちらに視線を向けると。
「善良な鬼の区別がつかないのなら、柱なんて止めてしまえ!」
「テメェ!」
原作通りのその展開を見て、私は大きく息を吐いた。こういうところは変わらないのかというのが今の感想である。
....えっ?あの二人を止めないのかって?
私がそれを知る必要はないからね。私が止めなくてもこのすぐ後に止まるし、それは私が止めるよりも効果があるし。
「お館様のお成りです!」
その声を聞き、私はいよいよ本番だと覚悟を決めた。
先週は投稿できず、申し訳ありません。インターネットのトラブルでこのサイトを開けなくなってしまったうえに描き途中だった話も何処かへ行ってしまい、今週になってしまいました。
なので、今週は二話投稿したいと思ったのですが、今週もまたインターネットのトラブルでサイトに何回か入れないことがあり、次話の投稿は早くて明日、遅くて明々後日って辺りになります。
本当に申し訳ありません。