笹の葉の少女は幸せを願う   作:日々草

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三度目の少女は信じている 後編

 

 

 

御館様が現れ、私は頭を下げた。炭治郎にも教えるべきなのだが、炭治郎とはあまりに距離が離れすぎていて、声が届かずに炭治郎は不死川さんの手によって地面に押さえつけられた。凄く痛そうな音が聞こえたが、炭治郎の頭は石頭であるため、頭は守られるだろう。私は先に頭を下げていたので、特に何もされなかった。その後は原作のように御館様は禰豆子と七海のことを容認していたことと柱もこれを認めてほしいことを話し、柱はこれに反対し、鱗滝さんの手紙が読まれた。炭治郎は義勇さんを見て涙目になり、私も義勇さんに向けて頭を深く下げた。

 

 

それ以外の話の最中に私は誰にもバレないように手を上手く使い、縄を緩めていた。いざという時に動けた方がいいと思い、表面上は縛られた状態でもいつでも解けるようにしておいた。ちなみに、縄を解く技術は前に宇髄さんから悪ふざけで教わった。それを見て知った義勇さんには上手な縛り方を教わり、それがしのぶさんにも伝わって、二人とも怒られていたな。

 

 

「御館様!証明してみますよ、俺が!鬼という物の醜さを!!」

 

 

不死川さんがそう言うと同時に血の臭いがした。私は試しが始まったと思い、禰豆子と七海の方を見た。その瞬間、風が吹いたと感じた時には既に不死川さんは二人の入っている背負い箱に足を乗せ、血を垂らす。

私はそれを見ても何もしなかった。

この後に不死川さんが何をするかも知っているため、できることなら止めたいのだが、それはしなかった。

それに、不死川さんの血は稀血で、その稀血の中でもかなり特別なものだ。その血に耐えられたのなら、禰豆子と七海が人を食べないという説得力はかなりあるし、どんな血でも二人が人を食べないと諦めがつく。

 

 

不死川さんが背負い箱を御館様の屋敷の中に持っていき、禰豆子と七海ごと刺している。炭治郎はそれを見て止めようとして、伊黒さんに押さえつけられている。私は紐を解いて駆け寄りたいのを我慢し、この試しが早く終わることを祈った。

これさえ我慢できれば柱も一応認めることができる。証拠を見せるのだと思って、今は耐えるしかない。この怪我も証拠としてより強くするためだと思って、見ていかないと。

 

最初のあれだけはこの時にどちらにしろ刺すのだから、止めてもいいだろうと判断して、私が勝手にやったことだ。覚悟をしていた七海は怒ってバンッという音を立てていたけどね。

 

 

今回は七海と話し合って、既にそうするのだと決めていた。禰豆子にも我慢してほしいと事前に頼んだ。だから、私がするのは信じて待つのみだ。

 

その時、バキッという音が聞こえた。背負い箱が壊れたのだとすぐに分かった。現実逃避したいのか知らないが、私の頭の中では背負い箱の修理代を不死川さんに請求してもいいかなということが浮かんだ。

原作ではどうなったか知らないけど、壊したのは不死川さんだから、これくらいはしてもいいよね?

 

 

頭の中でそんな馬鹿なことが浮かんでいたが、七海の様子を見ていたらそれは吹き飛んだ。七海が唸り声を上げていたからだ。瞳孔は大きく開いている。

 

 

私は七海の様子を見て息を呑んだ。それと同時に、私の頭の中には柱合会議のことで七海と話し合った時のことが浮かんだ。

 

 

 

『....やっぱり柱合会議で不死川さんの稀血に耐えるあれは必要なことよね』

『うん。不死川さんの稀血は凄い強力だし、何度も傷つけられるけど、それに耐えられさえすれば誰も反論できなくなるし、否定するのも難しくなると思う。その後の利点はかなりあるよ』

『そうよね.....。...禰豆子は耐えられるとしても、アタシは不安だわ』

 

 

柱合会議のことを話し合う時、七海がそう呟いていた。私は七海の様子がおかしいことに気づいていたが、とりあえず思ったことをそのまま伝えた。ここで嘘をつくのは駄目だからね。

七海はそれを聞いて、溜息を吐いた。表情からして不安だというのが分かる。それを見て、私は七海にしては珍しいと思ったが、同時に仕方がないのかもしれないとも感じた。

 

 

七海が人間に戻った当初は大変だった。鬼だった頃の名残があり、全然食べようとしなかったのだ。私は焦った。七海の様子を少し診たら、七海が拒食症になっているのはすぐに分かった。

拒食症は別名で神経性やせ症と呼び、体重や体型の感じ方に障害が起きるそうだ。だが、七海はそれと違った。体重や体型の感じ方というより、胃に何かを入れることを気にしていた。それも何かが入ってくると、恐怖を感じていた。もう食事制限という段階ではないし、胃から吐き出そうとする傾向が何度もあった。

 

 

普通は拒食症になるきっかけが学業などの成績の低下や人間関係の破綻、肥満と判断された体型への揶揄いなどの挫折経験であるが、七海の場合は人を食べてしまうことへの恐れで、胃に何かが入るのを避けているのだと思った。

だって、一度目の七海は人間どころか何も食べていなかった。水を飲むくらいはしていたかもしれないけど、それでも胃の中には特に何も入っていなかった。一方で、二度目の七海は人間をいっぱい食べるようになった。当時の話を聞いてみたら前の時と比べると、拒食症と反対の過食症になったのではないかと感じた。それくらいに違いかあり過ぎた。

 

 

私は七海が拒食症で痩せていく姿を見ていられなかった。このままだと精神的に不安定になっていくと分かっているからだ。いや、七海は炭華のことで暴走したり、炭華に何かしようとした相手にイライラして、その怒りをぶつけたりしていたが、それが七海の単純な暴走なのか、精神が不安定だったからなのか分からなかった。当時は拒食症の影響だと思っていたが、治った後でも同じことをしていたので、今では七海が単純に暴走していたのではとも考えている。

 

 

 

......さっきも言っていたが、七海の拒食症を治すのは苦労した。普通の拒食症と違うため、あれでは過食症も起きないと思った。神経性やせ症は拒食症の症状も過食症の症状も出るが、七海の様子だとずっと食べれないという状態になると感じた。

七海がこうなった決定的なのはおそらく人間を食べたことが原因だろう。鬼になってから何も食べず、食べるにしてもその対象が人間であるため、ずっと食べるという意識を持たないようにしていたのだと考えている。そんな状態だったのに、七海は食べないようにしていた人間を無理矢理に食べてしまい、それが現在に繋がったのだと話を聞くうちに分かった。

 

症状の原因が分かり、私は七海の精神を安定させて、食べることへの心的外傷(トラウマ)を克服させようとした。七海に肉料理は出さず、基本的に野菜類が主な食事にさせ、竈門家の人達にも協力してもらい、時間はかなりかかったが、すっかり回復したと思っている。

 

 

だが、たまに肉料理が出てくる時に一瞬固まっているので、完全に克服できていないのだと思う。それほどまでに七海は人間を食べることへの恐怖が根強いようだ。そういうことに敏感な七海は柱合会議を乗り越えられるかどうか心配なようだ。

禰豆子と七海の頸に私達四人の命がかかる。それは柱合会議で認めさせるために必要なことだが、同時に禰豆子と七海が四人の命を背負っているようなものだ。特に、今回はおそらく片方が耐えられても、もう片方が耐えられなければ駄目だ。

そういうわけで、七海は自分が不死川さんの血に耐えられなければ五人の命が失われるということで緊張しているのだ。まあ、凄いプレッシャーなのだと分かる。

 

 

その時の七海の表情が、笑っていても笑えてなく、不安そうで何処か自暴自棄になっているような七海の顔が今の七海と重なり、私は考えるよりも先に声を出していた。

 

 

「七海!」

 

 

私は七海を呼んだ。七海の体がピクッと反応し、こちらを見た。私も七海をじっと見る。

 

 

「信じているからね、七海」

 

 

私は七海の目を真っ直ぐ見つめながらそう言った。七海の瞳に私の姿が映る。

七海の頭には柱合会議のことで話し合ったあの時が再生されていた。

 

 

 

 

 

 

『七海。.....私は七海なら大丈夫だと思っているよ』

『はあ!?アタシは人間を食べたのよ。他人事だと思って。稀血がどういうものかも分かってないのに...しかも、それを上回るものに耐えなくちゃいけないのよ』

『でも、やりたくてやったわけじゃないでしょう。それに、七海は割と負けず嫌いなところがあるから、もう二度と同じ失敗はしないとか、禰豆子に負けないとか思っていけばなんとかなるという可能性があるよ』

『いや、楽観視過ぎよ!』

 

 

彩花は七海を見ながらそう伝える。先程まで不安そうな表情だった七海は目を見開き、彩花に凄むようにしてそう言った。だが、彩花は七海が凄もうが気にしなかった。その彩花の言葉に七海はツッコミを入れた。

 

 

七海は深く考えずにそんなことを言う彩花に不満そうな顔を向けた。だが、すぐにそれは収まった。彩花がこう言ったのは元気づけようとしているからなのは分かっている。

 

七海は息を大きく吸った。

 

 

『......はあ。彩花は知ってるでしょ、あの時のアタシを。アタシが多くの人間を食べてきてたのを彩花は感じ取ってたでしょ。アタシは人間の味を知っているわ。特に、稀血の人間なんて珍しいし、普通の人間よりも食べれば強くなるのは分かってたから、積極的に食べてたのよ。だから、きっとその時のことが原因で、それが本能に反応して..........』

『うん。確かに私は人知っているよ、人を食べて上弦の鬼になった七海も、炭華を傷つける人以外に甘い七海も。だけど、私が付き合いとして長いのは炭華を傷つける人以外に甘くて優しい七海の方だよ。だから、どちらを思い浮かべて信じているかと言われたら後者の優しい七海の方かな。あっ。どちらも七海なのは確かだよ』

『....幾ら彩花がアタシを信じると言っても、もう片方の鬼のアタシのことは含まれてないでしょ』

 

 

七海の溜息と共吐き出された言葉に対して、彩花は頷きながら語っていく。最後の言葉は彩花なりの慰めなのか知らないが、そんな彩花の言葉に七海はまた溜息を吐きそうになった。だが、文句も言いたいらしく、七海は不貞腐れた顔をした。

 

 

『ううん。私が信じると言っているのは私と過ごした人間の七海と、亡くなると分かっている人を助け、私の声にも反応してくれた鬼の七海だよ。でも、炭治郎達の関係を壊してしまい、自分を罰したいと願って上弦の鬼になった七海も信じていないというわけではないよ』

『.........確かにどれもアタシだけど、流石に恥ずかしいから、もっと別の呼び方はないのかしら』

『うーん。それなら、人間の七海と上弦の鬼の七海と今の七海の三つでいい?』

『もういいわよ、それで。.....できればもう少し絞ってほしかったけど』

 

 

彩花が首を横に張って答えた。それを聞いていた七海は彩花から顔を背け、彩花は首を傾げながら七海に近づき、七海と視線を合わせようとして、七海の頬が少し赤くなっていることに気がついた。彩花が気づいたと察した七海は顔を先程よりも真っ赤にしてそう言い、彩花もそれを見たら流石に止めようと思ったらしい。少し考えた後、七海に提案すると、七海は仕方がないと呟きながら頷いた。七海の最後の方の言葉は彩花の耳に入ったらしく、彩花はまた首を傾げていたが、今度は続きを話すことにしたようで、口を開いた。

 

 

『...私が言いたいのは全部というわけではないけど、七海のことはいっぱい知っていっていると思っている。どんな七海も優しいし、一生懸命で最後までやり遂げようとする』

『最初に大失敗したし、彩花に初めて会った時もできなかったし』

『あの時はごめんね』

『アタシの方が悪いからいいわ。アタシは彩花を殺そうとした』

『別に気にしてないよ。あの時に私は七海の頸を斬った。その時点であの時のことは私の中で終わったことになっているから』

 

 

彩花の言葉に七海はまた反論した。今度はこの世界に来てから上弦の鬼になっていた時までのことを持ち出し、彩花はそのことに思うところがあるらしく、話題に出されたら謝った。そうすると、七海からも謝罪があり、彩花はもう気にしていないと言って笑った。

 

 

『彩花。自分を殺そうとした相手をそんな簡単に許したら駄目よ』

そういう七海も頸を斬ったのは私だよ。そっちは気にしなくていいの』

『アタシの場合は仕方がないわよ。敵同士だったもの。それに、色々やってたし、完全に暴走してたわけだから、それを止めるためだと思えばね』

『敵同士だったからだと七海が私を殺そうとしたのも仕方がないっていうことにならない?ブーメランだよ』

『うっ』

 

 

それを見て、七海が呆れた顔で彩花に言うが、彩花は全く気にしていない様子で、逆に聞いてきた。七海は彩花の言葉に顔を背けながら言うが、彩花は七海の答えに不満らしくて反論した。その反論で七海は図星を突かれ、一度言葉が詰まった。それでも気を取り直して反論しようとしたが、その前に彩花の話し出す方が早かった。

 

 

『だから、もし柱合会議で七海が不死川さんの稀血に耐えられなくて、それで処刑されても私は仕方がないことだと思うよ』

『.......はあ』

 

 

彩花の言葉に七海は一瞬固まった。だが、すぐに正気を取り戻し、彩花の胸ぐらを掴んだ。

 

 

『どういうことよ!』

『私だって、七海と一緒に鬼殺隊へ入ると決めた時に何も考えてなかったわけじゃない。今は正気でも何かがきっかけで襲ってくるかもしれない。もしかしたらまた人を食べてしまう可能性だってある。そう考えたよ。だけど、それでも七海は耐えられるから大丈夫だと信じて、期待した』

 

 

七海が怒鳴るのを彩花は素直に受け止めた。そうなっても仕方がないと思っているのだろう。そして、正直に話した。

彩花は胸ぐらを掴まれているが、気にした様子を見せずに七海の手を握った。

 

 

『ごめんね。勝手に信じて、期待して。鬼殺隊に鬼が入ったらどんな扱いをされるか分かっていた。隊士に頸を斬られる可能性があるのにも気づいていた。原作で禰豆子が大丈夫だったように、七海にも同じことが起きるとは思っていなかった。だけど、隊律違反であり、危険なのも承知で私は七海も一緒に入れた。だから、処刑されたとしても悪いのは私も。仕方がないことだよ』

 

 

彩花の謝罪に七海は黙って手を離し、彩花を下ろした。彩花は少し乱れてしまった服を整えながら七海が話し出すのを待った。

 

 

『......彩花がアタシと一緒に鬼殺隊へ入ったのはアタシが人間に戻りたいと思っているのを分かってたからでもあるでしょ』

『うん。私も七海を人間に戻したかったし』

『信じてるからとか、期待してるからとかもあるのでしょうけど、アタシを思って、一番の近道を選んだわよね』

『七海も相手のことを思っているよね。だから、こうも気にしているでしょう。それ故に暴走することがあるけど』

『...うるさい......』

 

 

七海は確認するかのように出る言葉を、彩花は素直に肯定した。彩花は隠しているつもりなんてなかったから。

最後の方の言葉には自覚のある七海は下を向いていたが。

 

 

『.....さっき言ってたけど、人間のアタシなら耐えられると思ってるの?』

『前はよく禰豆雄と張り合っていたじゃない。それに、どんな状況でも大体は炭華への思いや気合いでなんとかしていたし』

『....まあ、否定しないわ。あの時のアタシは何が来てもそれを吹き飛ばすような感じだったわ。常にそんな気分だったもの。......でも...』

『前がずっとそうだからか知らないけど、私は七海なら大丈夫だっていう信頼が凄くあるんだよね。凄く期待し過ぎて、七海には重いかもしれないけど』

『ええ。さっきからその期待はとても重いわよ!!』

『だけどね、七海はめちゃくちゃ周りに被害を出していても、何があろうとも解決している。私がそれで頭を悩ますことになっても無事に帰ってくる。そうした実績があるから、私は七海を信用できるし、信頼もできるんだよ』

 

 

七海の質問に彩花は前の時のことを持ち出した。それを聞き、七海は苦笑いしながら言う。だけど、七海は暗い表情をしたままで、彩花はそれを知っていながらも七海に話を振る。七海はそれに対して自分の心情を思いっきり叫んだ。彩花は七海の反応を微笑ましく思いながらも、先程とは違って真剣な目でそう言った。七海は彩花の様子が変わったことで一瞬動揺したが、すぐに落ち着いていた。

これは慣れているからなのか......。

 

 

『アタシというより、あれは禰豆雄の勢いに乗ったのよ!』

『なら、今回も乗ればいいじゃない。今は禰豆雄じゃなくて禰豆子だけど、禰豆子の勢いに七海も一緒に乗ろうよ。病は気からと言うでしょう。病気が気持ち次第で良くもなれば悪くもなるように、柱合会議での試しも良い方に捉えていればなんとかなるかもしれないよ』

『それはただのことわざよ』

『いや、ポジティブになっていたら病気になりにくいというのは科学的にも正しいみたい。確かプラセボ効果って言うはずだよ』

『えっ。それはマジなやつなの』

『うん。本当らしいよ』

 

 

七海がまた不貞腐れたようにそう言うと、彩花は当たり前のように今回も乗ればいいと言ってくる。七海はそんな簡単に言うなという意味で睨みながら言ったが、彩花がそれは本当の話だと言い、知らなかった七海は目を大きく開けていた。そんな表情の七海を見て、彩花は態度を崩して少し笑った。

 

 

『だから、七海は自信を持って挑戦してね。でも、まあ結局私の言っていることは他人事だよね。耐えるのは七海の方で、私はそれを見ていることしかできない。でも、私は精いっぱい応援しているからね。今の七海は私の声に一度応えているから、もし余裕があったらまた応えてほしいな...』

『はあ。あのね.......』

 

 

そして、彩花がその笑顔のままそう言って肩に手を乗せた。元の調子に戻り、冗談半分で話している彩花を見て、七海は大きく息を吐いた。

だが、そこに不安そうだった表情をしていた七海はもういなかった。七海は呆れた様子で彩花に何か言おうとして、口角の上がっている口を開いた。

 

 

 

 

 

「.......はあ」

 

 

血塗れの腕を突き出す不死川が目の前にいて、七海はそれが特に気にならなくなっていた。稀血の匂いはするが、それに耐えられないわけではないとは思った。

 

 

(あの時のことを思い出したらなんだか頭の中がすっきりしたわね。彩花がわざわざああいう風に言ったのはアタシの緊張を解すのと慰めてポジティブに考えられるようにしようとしたんだと思うけど、結果的にめちゃくちゃ効果があったわ)

 

 

七海が心の中でそう言っていると、それが伝わったのか、あるいは七海が正気に戻ったことを察したのか分からないが、彩花は安堵した様子を見せた。そんな彩花を見て、七海は気が早いと思いながら不死川の方に向き直る。不死川は襲うのだと思ったのか血塗れの腕を目の前に出す。

だが、七海にはその気がない。

むしろ呆れたような目で不死川を見ていて、溜息を吐いた。その後、七海はゆっくり吐き......

 

 

「それ、いらない」

「ムッ!」

 

 

笑みを浮かべてそう言った。隣で禰豆子が七海の言葉に頷き、不死川の腕から顔を背けた。

禰豆子も不死川の血の誘惑に勝ったようだ。それを見て、炭治郎はほっとして息を吐く。

 

 

七海は炭治郎を見て、原作と同じことが起きていたのだと気がついた。それは彩花もだったらしく、七海と同じように炭治郎の方へ視線を向けていた。

どうやら七海は稀血に耐えることに、彩花は七海が稀血に耐えられるようにと祈るのに集中し過ぎていて、炭治郎の様子に気づけなかったようだ。

七海と禰豆子が不死川の血に耐え切ったことに信じられないという様子を見せた。だが、その中でも最も信じられなかった人物がいて、その人の額から血管が出てきたうえに刀も強く握っている。

どうやら激情を抑えきれないようで、七海も彩花もその様子を見てまずいと思った。

 

 

「巫山戯んなァ!」

 

 

不死川が禰豆子と七海に向けて刀を振り、七海は困惑してその場に立ち尽くしていた。

せっかく稀血に耐えられたのに、それを無視して殺そうとしてきた。予想外のことが起きて、反応が遅れてしまっていた。さらに、何度も刀を体に貫かれ、その傷は回復したが、それで体力を削ってしまったらしく、体が重くて思うように動けない様子だ。

 

 

(まずい.....)

「七海。私の後ろにいて」

 

 

自身の頸を狙って振られる刃を見て、七海が目を瞑りそうになった。だが、その声を聞いた時、七海は禰豆子の腕を掴み、後ろへと下がった。

それとすれ違うように誰かの影が不死川の前に立ち、その両腕を差し出した。不死川の刀とその腕がぶつかったと思ったら不死川の刀は畳に刺さり、腕の方は無傷だった。傷も縛っていた縄もない彩花の腕が見え、不死川だけでなく、周りの柱も驚いていた。

そんな中は七海は自分達の前に立つ彩花に言った。

 

 

「今のは助かったわよ、彩花。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

動けない七海を見た瞬間、私は飛び出した。

禰豆子も七海も辛いのに、必死に耐えたのに、その頑張りを無にするわけにはいかない。

 

 

「アァ!」

 

 

私は縛られていた腕を前に出し、その結び目が刀に当たるようにし、その結び目によって刀の振る向きを変えた。不死川さんの一撃では紐や縄なんて確実に斬れる。だが、本来の斬ろうとする対象と別の物を斬ったのなら、どんな物でも動きがズレると思ったのだ。念のために結び目のところを斬るように誘導したのは紐や縄の一番堅い部分が結び目のところだ。

なので、私は緩めていた拘束を戻したうえに、さらにそれを固くしてその結び目を不死川さんの振る刀に当て、横に動かした。想像以上に上手くいき、私の手は斬られることがなかったし、擦り傷もなかった。

ちなみに、これは宇髄さん(悪ふざけで教えた)と.....義勇さん(真面目に考えて教えた)もかな?簡単に縛る方法を教えてくれたのはこの二人で、私がそれらから自分のやりやすい方法を編み出して、それを使っているからね。

 

 

「.....失礼します。事後承諾ですみません。上がらせてもらいます」

 

 

不死川さんから禰豆子と七海を庇いながら私は挨拶した。遅いだろうが、先に挨拶する余裕なんてなく、後回しにしたのだ。

 

事後承諾は駄目だと思うが、御館様に一声かけられただけでも良かったとも思う。今の私は不死川さんに説教する気満々だからだ。いや、説得する気である。何せ、禰豆子と七海が痛みにも食欲にも耐え、証明をしたのに、それを無駄にするのは許せない。

 

 

少し頭に血が上っていたが、七海の礼を聞き、落ち着くことができた。そのため、私は話すことにした。

 

 

 

「貴女からしてみたら禰豆子と七海の存在は認められないのでしょう。ですが、これは流石にやり過ぎだと思いますよ。隊律違反をした私が言うのは変かもしれませんが、貴方とやっていることはめちゃくちゃですからね。事情は知りませんが(本当は知っているけど)、貴方のしていることは間違っていますよ」

「アァ!何を言ってやがるんだァ!鬼殺隊は鬼を殺すところで.....「いえ、そちらではありませんよ」」

「貴方は禰豆子と七海が人を食べる存在であり、殺すべきだということを証明しようと思って、この行動をしたのですよね。実際に証明すると言っていましたし。その結果、禰豆子と七海は不死川さんから顔を背け、人を食べないということを逆に証明しました。ですが、不死川さんはそれを見ても禰豆子と七海を殺そうとしました。.....少し考えれば分かると思いますが、矛盾していますよね。貴方が言ったこととやっていることは色々違うのではないでしょうか」

 

 

私が不死川さんに声をかけてみたが、不死川さんは私の言っていることを意味不明だと思っているようだ。だが、私からしてみたら不死川さんがしていることに抗議したいくらいである。せっかくの七海と禰豆子が証明したのに、それを無かったことにしようとするのは駄目だ。そう思い、私は遠慮なく言った。

 

周りの人にも不死川さんが証明すると言ったのは七海と禰豆子が人を食べるかどうかだったかと尋ねたら何も言わなかった。唯一御館様が頷いてくださった。これが答えだ。

 

 

「私は禰豆子と七海が人を食べないと証明してくれることを信じ、いざという時は私も死ぬことを覚悟したうえで貴方の行動を見ていました。そして、二人ともそれに応えてくれました。....なので、これには抗議します。禰豆子と七海はきちんと証明していますよ。巫山戯てなくて真面目にです。そして、貴方もしっかり証明しましたよ、七海と禰豆子が人を食べないという証明を。貴方がしたかったものと違うにしても、これは貴方が証明したことです」

 

 

私は不死川さんに現実を言う。

原作で不死川さんの過去は知っている。母親が鬼にされ、鬼になった母親は弟達を襲い、最期に太陽に焼かれて亡くなった。そんなことがあるから、七海と禰豆子の存在を意地でも認めたくないというのが不死川さんの本音だろう。

原作ではよく耐えたものだ。今回は斬りかかろうとしたけど、それはきっと二人だったからだろう。一人ならまだ禰豆子が特殊だろうとなんとか我慢できたのだろうが、二人は無理だったのだと思う。何で自分の母親は駄目だったのだろうという思いが強くて、この行動を取ったのだと考えている。

 

でも、そう思っていても七海と禰豆子に八つ当たりするのは駄目だと思う。

 

 

「証明しようとする時にはどちらかの結果になるのは分かっていましたよね。それなら人を食べないという証明にも逆になるのだと気づいているはずです。それを覚悟して、この行動をしたのではないですか。....もし絶対的な自信があったのならそれは申し訳ありませんが、不死川さんが証明したのは人を食べない方でした。これが結果ですよ。どんなに認められなくても、禰豆子と七海は人を食べないと証明をしました。貴方の目の前できちんとですよ!ですので、ここで禰豆子と七海を殺す理由は無くなりました。......それを受け入れてください」

 

 

私は不死川さんの目を見ながら近づいた。私の話を聞いて、不死川さんは少したじろいだ様子を見せたが、逆に怒りの方へ火をつけてしまったらしい。不死川さんは刀を握る力を強めた。それを見た私は嫌な予感がした。

 

どうしよう。私、今は刀を持っていない。普通に避けたいけど、私が横に逸れたらそのまま七海と禰豆子にも攻撃していきそうだから、私がこの位置から動きたくない。だけど、刀を持っていない私ではこの攻撃を受け止められない。先程軌道を変えられたあれも拘束する縄があったからで、縄が切れた今はそれができない。他に何か変わるものを探したいけど、全部預けているから何も持っていない。

 

 

 

私が必死に考えていると、突然目の前に波の壁ができ、私は後ろに引っ張られた。私はそれが誰なのか分かり、振り向いた。そこにはやはり七海がいて、あれはやはり血鬼術だったのだなと思った。

 

 

「テメェ!」

「彩花。そこまでにしないと。もう逆ギレの一歩手前じゃないの」

「確かに。私もちょっと失敗したかなと思っていたよ。助けてくれてありがとう、七海。でも、いきなり血鬼術を使ったのは驚いたよ。もし血鬼術を使った瞬間に攻撃だと認識されたら大変だったからね」

「彩花には言われてたくないわ。先に危なかったのは彩花だったよね?」

「それは....そうだね」

 

 

不死川さんは血鬼術を使った七海に刀を向けるが、七海は気にしていない様子で、私に文句を言った。私は七海の言葉に同意したが、七海の行動が危なかったこともあり、文句は言った。だが、七海に痛いところを突かれ、今度こそ何も言えずに同意した。

七海が血鬼術を使ったことで柱が警戒していたが、私と七海が普通に会話している様子を見て、次第にその警戒も薄れていく。だが、目の前にいる不死川さんは全く警戒を緩める様子がなく、流石に困ってしまった。どうしようかと思い、七海と視線を合わせると、七海は少し考えた後に何か思いついたらしく、悪戯っぽい笑みを浮かべ、アイコンタクトも送ってきた。

私は七海に考えがあるのだと察し、七海の作戦に乗ることにした。

 

 

「ねえ、彩花。あの人の腕をそろそろ何とかしてよ」

「うん?ああ。あの腕の怪我ね。でも、治療道具がないから、少し難しいかな。いや、たぶんできるかもしれない」

「そう。なら、さっさとあの人の血を止めてよ。それと、頭も検査しておいて」

「....はい?」

「はあ?」

 

 

その後に続いた七海の言葉を聞き、私は疑問に思った。気にはしていたけど、それどころではないし、治療道具も手元になくて無視していた。でも、七海に改めて指摘され、血を止めるくらいならできるだろうと思い、それを言ってみた。と言っても、止血は既に不死川さんが止血をしているので、その必要はないと考えている。だが、その次の七海の言葉に私は混乱したし、周りの人達も意味が分からないという表情をしていた。そんな周りを知っておきながら、当の七海は笑っていた。

 

 

「だって、流石に心配にならない?自分から傷をつけてて、その傷から血が出て、それを見て喜んでいる人がいたら、なんか心配にならない?」

「あー....」

「テメェ、人を変態みたいに言うんじゃねェ!」

「えっ!?違うのか!」

「あァ!!」

「炭治郎!?」

「「ブフッ...!」」

 

 

笑いながら言う七海の話に揶揄いの意味もあるようだが、同意している私もいた。だけど、自分を三度も刺し、頸まで斬られそうになったことに怒っているね。ずっと我慢していたけど、堪忍袋の緒が切れたようだ。

 

一方で、七海の言葉に不死川さんは青筋を立てていた。七海に斬りかかりそうで、私はヒヤヒヤしたが、炭治郎が反応を見せたことで、怒りの矛先が炭治郎に変わった。それはそれでまずいような気がする。まさか炭治郎がここで反応するとは思わなかった。

伊黒さんと時透君以外の柱は笑っているし、先程の七海が血鬼術を使ったことは頭の片隅に置いているみたいだ。だが、これでは収拾がつかなくなりそうだ。

 

 

「あの。頭の検査とかはしなくても大丈夫なのは分かっていますが、せめて自分から傷をつける頻度を減らした方がいいと思います。その、体中に傷跡がありますけど、腕にある傷は自分からですよね。刀を使った切り傷みたいですし。つまり、それは今回のようなことを何度も繰り返しているということですよね。....できればそれを減らした方が良いかもしれません。おそらく事情や理由があると思いますが、事情を知らない人が見たらそう見えてしまいますので。...余計なお世話だと思いますが」

「.............」

 

 

私のおそるおそる言った言葉で不死川さんは黙ってしまった。これ以上不死川さんを怒らせては駄目だと思い、言葉を選んだのだが、駄目だったのかな。

不死川さんはずっと無言だし、何故か周り(伊黒さんと時透君以外の柱)は笑っているし、私はどうすればいいの.....。

 

 

 

 

その後、御館様の鶴の一声でその場は収まった。そこから原作通りの流れになり、炭治郎は大声で『鬼舞辻無惨の頸を斬って、悲しみの連鎖を断ち切る』と言った。

......これは指摘しておいた方がいいかな。

 

 

「炭治郎。その話は飛躍し過ぎだよ。私達はその前に十二鬼月を倒していかないと」

「そうだね。炭治郎、まずは十二鬼月からだよ」

 

 

炭治郎の言葉を聞き、私は苦笑いを浮かべながら注意し、御館様が私の言葉に同意すると、炭治郎は顔を真っ赤にして俯いた。

そこから原作通りの流れで私達は蝶屋敷に行くことになった。禰豆子も七海も背負い箱に戻り、壊れたところは私がすぐに応急処置をしたので、一応使えると思う。

背負い箱を修理してすぐに隠によって蝶屋敷に運ばれたが、一緒にいた炭治郎が何かを思い出した様子で隠の背中から降りて戻ってしまった。私は原作から炭治郎が何をするのか知っているので、困惑する隠の人達に炭治郎を連れ戻してくると伝え、炭治郎を追いかけた。

 

 

「すみま「炭治郎。幾ら何でも人が話しているところを遮ったら駄目だよ」」

 

 

私は炭治郎に追いつき、口を塞いで止めた後、引っ張って後藤さん達のところへ戻そうとした。私達の裁判が終わり、漸く柱同士で情報共有するのだと思うし、これは重要なことであるために炭治郎を止めた。あと、人の話を遮るのも駄目。

それとこれとは話が別だからね。

 

 

「それと、邪魔も駄目だよ。それはあの不死川さんだけでなく、義勇さんにも迷惑がかかるから」

「うっ、確かに。だけど、あの人に頭突きしないと気が済まない」

「その気持ちは分かるけど、今は止めた方がいいよ」

 

 

私は炭治郎にそう言うと、私の話に一理あると思ったらしい。だが、それでも不死川さんに頭突きをしたいらしく、諦められない様子だ。私は不死川さんに頭突きをするのを止める気ではないので、そこは触れずにこの場でやるのは止めてほしいと説得した。

 

 

「彩花はあの人に怒ってないのか」

「怒ってはいるけど、炭治郎のように頭突きはしないかな。私、物理はあまり強くないし。やるなら薬を盛るくらいだと思う」

「いや、毒は駄目だよ」

「毒は使わないよ。いくら何でも人殺しなんてしないから。薬を盛るにしても、一時的に腹痛か頭痛という症状が出るものだよ」

「あっ。それなら大丈夫?か?」

「ほら、あっちで待ってくれているみたいだから、早く行こう」

 

 

炭治郎の質問に私は正直に答えた。炭治郎に毒は駄目だと言われたが、私は毒を人に使う気なんてない。だけど、このままだと不安にさせてしまうと思い、使うとしたらどんな薬を使うのかも話した。

それを聞き、炭治郎は疑問符を浮かべていたが、納得はしてくれたようだ。私は炭治郎と一緒に隠のところへ戻った。

 

 

だから、私達がいなくなった後、柱が私のことで何を言っていたか知らなかった。

 

 

「オイ。なんだァ、あのガキはァ」

「不死川から箱を奪えていたし、刀の太刀筋まで完全に見切ってた」

「うむ!なかなかの身のこなしだったな!」

「なあ。あいつ、薬を盛るとか言ってたが、何か技術があるのか?」

「.....薬屋だった...」

「それなら納得ですね。あの彩花さん、煙幕に薬が混ざられていましたよ。それもしっかり薄められていて、万が一のことのないように調整されていましたよ」

「ええ〜!?彩花ちゃん、しのぶちゃんが褒めるほど凄いの!」

「不死川。食事の時は気をつけた方がいい。本気ではなかったが、念のためにも用心しておくべきだ」

「...ねえ。何で薬屋が煙幕なんて使えるの。薬屋って、煙幕も作るの」

 

 

「大丈夫。彩花はそんな子じゃない。ただ、ちょっと実弥に怒っているみたいだね」

 

 

 

 

 

 

 

(流石に不死川さんへ盛る気はないけど、こうした冗談でも少しは一矢報いられたかな)

(こいつ、怖え!)

(めちゃくちゃ怒ってる!)

 

 

実は彩花もかなり怒っていた。

 

 

 

 

 

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