第六次聖杯戦争〜偽善者の聖杯〜   作:黒猫街夜

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できあがったので供養
第一章までは連投します


一章
道化師と緑


 「……おい」

 

 「うん? 何かな?」

 

 場所は日本の某所、ここ三十年で観光地として確立した都市である。名前は諏訪州(すわす)市。人口は五十万人程度のそこそこといったレベルの都市。そんな都市の、さらに目の届かない下水道、そんな場所の中でも、人目に入らなさそうな暗がりに、隠されているかのように扉があった。その中に居るのは二人。一人は眼鏡をかけた女で、苛立ちを隠す様子もなく、緑の挑発を指に絡めながらもう一人を睨みつけていた。そのもう一人は、淡い青の浴衣を着、何の模様もない仮面をつけていた。仮面には視界を確保するための穴が存在していないにも関わらず、見えているかのように振る舞っていた。

 

 「群青、儀式の準備はまだかと聞いているんだ」

 

 「八割方終わったよ。後は役者を配置するだけだね」

 

 カラカラと笑うかのような声は、透き通っているにも関わらず、年齢も性別も特定できなかった。

 

 「ふん……まぁ遂行できるならばそれでいい。英霊共を出し抜いて、景品だけかっさらおうではないか」

 

 「あはははっ! 儀式に参加すらしない()()()()()()!」

 

 「漁夫の利ができるならばそれに越したことはない。そもそもがこの儀式には私の力が不可欠。ならばそれは私の功績と言える」

 

 「まぁ色々な魔術を併用(へいよう)してるからね。大量の魔術データの提供と、()()()()()には感謝してるよ」

 

 「当然だ」

 

 あくまで傲慢な態度をやめない女に群青と呼ばれた人物は何が面白いのか笑い続ける。それに眉をしかめるが、何を言っても無駄だと諦めた。

 

 「開催は大体三週間後、既に数人には招待状を送ったよ。気の早い者達はもうこの街に居るみたいだね」

 

 「ほぅ……そういえばこのところ街で謎の殺人事件が起きていたか、だがしかし役者たり得るのか?」

 

 すうっと瞳を薄めると、眼鏡越しの視線が、物理的に圧力を帯びているかのように錯覚する。仮面の人物の仮面が割れていく。

 魔圧(まあつ)の魔眼、視界をキーとして、魔力を使用して圧力に変換する魔眼。しかし仮面の人物は女の眼前に手をかざすと、仮面が立てていた軋む音が止まり、即座に仮面のヒビが修復されていく。

 

 「もちろんだよ、ミスグリーン。全員顔見知りでね。中々の傑物(けつぶつ)ぞろいさ」

 

 「ならいい、では空いた枠はどうするつもりだ?」

 

 「それは聖杯が選ぶだろうさ、模造品の劣化品とはいえ、聖杯だからね……おっと! 何するのさ?」

 

 仮面の男の背後の扉が轟音を立てて吹き飛ぶ。横に飛んでいなければ、仮面の男の手が扉の代わりになっていただろう。

 女は殺意を漲らせ、その瞳はハッキリと青黒く輝いていた。

 

 「貴様……私の聖杯を模造品と抜かすか……劣化品と抜かすか!」

 

 「あぁそこに怒ってるのか、そうは言うけどね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 劣化品かはともかく、模倣品は事実じゃないか」

 

 その言葉に、女は歯軋りする。怒りからか、目の前のテーブルを蹴り上げると、喚き散らした。

 

 「黙れ! あれは私の最高傑作! 第三魔法に迫らんと生み出された至高の杯だ! もはや再現不可能に近い技術を未だに残る魔術で補い、正常に作動させた! 貴様如きが、道化(ピエロ)に侮辱される覚えはない!」

 

 「いやいや、結局完成しきらなくて、結局私が手伝ったんじゃないか。まるで自分一人の手柄みたいに言わない方がいい」

 

 「黙れぇぇぇ!!! あれは私の物だ! 貴様には渡さんぞ!」

 

 「……やれやれ、じゃあ仕方ないか」

 

 仮面の男は肩を(すく)めると、右手を跳ね上げた。その速度は音速に迫るほど速く、女は目で追う事すらできなかった。しかし咄嗟に首を捻り、直撃を躱す。しかし右耳は仮面の男の手の中に収まっていた。

 反撃に魔圧の魔眼を発動するが、そこに既に男の姿はなかった。追撃に備えるが、しばらく待ってもそれはなかった。

 

 「……逃げた? クソッ! 忌々しい奴だ。私の物を掠め取ろう等と!」

 

 地団駄を踏み、仕留め損なった事に怒りを抱く。

 

 「まぁいいだろう……既に儀式の準備は終わっている。であればもはや奴に用はない」

 

 それは先程仮面の男から聞いただけの情報であるにも関わらず、信用している上に、まるで自分が用意したかのような言い草だが、本人にそれを自覚している様子はない。

 これからの自分の栄光を妄想し、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

 「さて、では聖杯の最終調整でもするか、万が一でも不備があってはならんからな」

 

 自分で言いながらそれは無いだろうと根拠も無く確信していた。

 

 「では行こうではないか、これこそが栄光の始ま……」

 

 閃光、同時に熱と轟音。部屋は跡形もなく消し飛び、中に誰かが居たのかすら分からない。骨の欠片も残さず、痕跡は皆無だった。

 

 

 

 

 

 「やれやれ……もう少し遊びたかったのになぁ。まぁこうなっては仕方がない。部屋に仕掛けられた起爆魔術に気付かない程度の実力しかなかったし、もうあれの役目は終わったからね」

 

 この男、本名不明、年齢不明、性別不明、人種不明。分かっているのは世界各地で出没し、一度現れたのなら、必ず災いを招くと言われていた。

 人呼んで極東の群青、笑う道化(ピエロ)、快楽的破滅主義者、様々な呼び名があるが、話題に事欠かない人物である。

 

 「あぁでも聖杯の場所を聞き忘れたな。やれやれ、探し物から始めなきゃならないなんて……幸先(さいさき)が悪いね」

 

 数年前には()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「さぁ今宵の祭りを始めよう」

 

 

 

 

 

 

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