コツコツと靴音が反響する。夜の暗がりを歩く影があった。深夜であるにも関わらず、とある発電施設で、一人歩く影があった。
肩まで切り揃えたダークブロンドの髪に、右手に持った大型のトランクケース、そしてそばに控える
「……中々良い霊地だな。召喚には適している」
声は凛とした女のものであるが、それは聞くだけで全身の毛が逆立つような何かを含んでいた。
そして胸元のポケットから小さな小瓶を出すと、中に入っていた赤い液体を地面にこぼした。
「
液体はドロドロと蠢き出し、魔法陣を形成していく。
完成した魔法陣の前に、トランクケースを置く。そしてトランクケースを開けると、中には少し大きめの骨が入っていた。
それを確認すると、女は詠唱を開始する。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
はち切れんばかりの魔力に反応して魔法陣が輝き始める。
それと同時に右手に赤い紋様が現れる。
「
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
膨大な魔力に周囲の空間が軋む。
現れたのは、青い髪の毛は逆立ち、目は単眼で頬にあった。
「召喚は成功だな。さて、主催者に挨拶でもしてくるか」
「■■■■■■■■■■■■ッッ!!!」
咆哮、同時に右手の槍を音速に迫る速度で放つ。空気すら焼き焦がす速度の槍は、正確に女の顔を捉える……
女はいつの間にか獣の背に乗っており、感心した様子で笑っていた。
「成程、中々いいサーヴァントだな。まぁあの聖遺物を使ったんだ。当然か……貴様はどう思う?」
振り返ると背後の暗闇に向かって話しかける。
「気づいていたのか?」
「当然だ。私を誰だと思っている?」
暗闇から現れたのは実態を持たない影。暗い靄に包まれた影は、そこに
「知らない」
影は
「そうか、無知は罪だぞ? 学ぶがいい。しかし、私も貴様が何者かは知らん。しかし貴様も招待状に釣られたクチか? であれば即座に諦める事だ。私が参加した以上、貴様に勝ちはない」
「……随分と言い切る」
「■■■■■■■■ッッ!!!」
地面を抉るかのようななぎ払い。
それを華麗にかわす。
「はぁ……
赤い光が輝く。右手の赤い紋様。令呪、サーヴァントに対する絶対命令権。たった三画しかないそれを、召喚直後に使う。
無駄遣いとしか思えないその使い方だが、行使した本人は、何とも思っていない様子だった。
バーサーカーは命令に従い、大人しくなる。内容が長期的なものであるにも関わらず、たった一画で効果を成したのは、魔術師としての才能だろうか、それとも他者を支配するフラン家としての性質か。
「……こんな序盤に使ってもいいのか?」
「令呪か? こんなモノ飾りに過ぎんよ。例え
傲慢な台詞ではあるが、絶対的な自信を感じた。
それに呆れを感じたのか、影が嘆息する。
「……今思い出した。そのダークブロンドの髪、そしてその性格、貴様ドイツのフラン家の才女だな?」
「おや、ようやく気づいたのか」
「フラン家の才女、ゴア・フラン。貴様がこの戦争に参加しているとは思いもしなかった」
それを聞くと、ゴアは満足そうに微笑んだ。
「であれば改めて名乗ろう。フラン家七代目当主、ゴア・フランだ。では鼠、立ち去るといい。今なら見逃してやる」
あくまで傲慢な態度に、影は
「アイハール・シルヴリン、覚えておけ。貴様を殺す者の名だ」
「やれやれ、貴様話を聞いていたか?」
「そのうえで言っている。こちらもそう簡単に引けない理由がある」
無言の睨み合いの末、影がどこかへ消えた。
「逃げたか……まぁいい。見かけたら殺してやろう」
腰のホルダーに刺さっていた実験用ガラス管を一本取り出すと、地面に叩きつける。中の赤い液体が溢れ出し、鳥に変わる。
「アイハール・シルヴリンという者を探せ」
命令を出すと、鳥が飛び去っていく。
「精々足掻け」
笑うゴアは、誰がどう見ても、悪どい笑い方をしていた。